説明

タンパク質類内包リポソーム、タンパク質類内包リポソームの製造方法、製造装置、リポソーム製剤

【課題】よりタンパク質保持効率や分散安定性などが向上するなどの利点を有するタンパク質類内包リポソームおよびタンパク質類内包リポソームの製造方法、製造装置、リポソーム製剤を提供する。
【解決手段】タンパク質類内包リポソームの製造方法は、膜脂質とタンパク質とが混入された混合溶液界面に超臨界状態の二酸化炭素を接触させる超臨界二酸化炭素界面接触工程と、接触後所定の時間経過後に前記界面に接触する二酸化炭素の圧力を減少させる減圧工程とを含む。これによりタンパク質類内包リポソームおよびこのリポソームを用いたリポソーム製剤を提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質類内包リポソーム、タンパク質類内包リポソームの製造方法、製造装置、リポソーム製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
リポソーム(Liposome)は、主に生体由来のリン脂質などにより形成される二分子膜構造を有し、内部に水相を有する閉鎖小胞体であり、1965年にBanghamらによって発見された。その構造的特徴から発見以来、近似度の高い生体膜モデルとして広く利用されてきた。近年ではリポソームは医薬品・香粧品の基材として応用が盛んに試みられているが、特に注目されている研究の1つとして遺伝子運搬体として応用する研究に注目が集まっている。すなわち、リポソームの内水相は、外界と隔離された小胞であるため、内包した物質を特定の部位に運搬することができ、かつ血清中に含まれる核酸分解酵素に代表される遺伝子分解成分からも保護できるため、遺伝子運搬体として注目されている。さらに近年では例えば薬物送達システム(Drug Delivery System;DDS)のキャリアーとしての応用研究などが盛んに試みられている。
【0003】
リポソームが遺伝子運搬体や薬物送達システムなどとして用いられる理由として、生体膜の主要構成成分であるリン脂質を用いるので、生体適合性に優れることや、膜組成やサイズの選択が容易であること、内水相に水溶性薬物、二分子膜内部に油溶性薬物の両方を保持することができること、膜上に抗原、抗体、糖などの特異的リガンドを結合できること、体内の分解酵素などによる薬物の失活を防ぐことができるとなど、様々な利点を有することを挙げることができるが、リポソームの実用化において、製造方法、安定性、保存法などについての更なる研究を必要としているのが現状である。
【0004】
リポソームの製造方法としては様々な方法が知られている。例えば(1)リン脂質または糖脂質のサスペンションを超音波で処理する超音波処理法、(2)リン脂質または糖脂質と界面活性剤の混合ミセルを形成し界面活性剤を除去する界面活性剤除去法、(3)有機溶媒に溶かしたリン脂質または糖脂質溶液を水槽に注入して、水と有機溶媒の界面でリポソームを形成させる有機溶媒注入法、(4)リン脂質または糖脂質を懸濁した水溶液を凍結した後、溶融して脂質二重膜を形成し、これをさらに凍結溶融してリポソームを形成させる凍結融解法、(5)水に溶解しない有機溶媒に、少量の水系溶媒を加え、超音波をあててW/Oエマルジョン(逆ミセル)を形成し、有機溶媒を減圧下で除去する逆相蒸発法、(6)超臨界二酸化炭素流体にリン脂質または糖脂質を溶解し、減圧過程で保持対象水溶液を攪拌注入する超臨界二酸化炭素逆相蒸発法、などを挙げることができる。
【0005】
ここで超臨界二酸化炭素逆相蒸発法(以下、超臨界逆相蒸発法ともいう)を利用したリポソームの製造方法としては、下記特許文献1〜3の報告がある。
【0006】
下記特許文献1では超臨界流体として超臨界二酸化炭素(以下scCO2ともいう)を利用し、リポソームを製造する方法が開示されている。特許文献1では、超臨界状態または臨界点以上の温度もしくは圧力条件下の二酸化炭素とリン脂質または糖脂質の均一混合流体中に、封入物質を含む水相を加えることを特徴とする封入物質を内包したリポソームの製造方法を提供することにより、有害な有機溶媒を用いずに、より少ない工程で、保持効率の高いリポソームを形成することができることが報告されている。
【0007】
下記特許文献2には、リポソームの表面を正に帯電させたカチオン性リポソームを製造する方法に超臨界二酸化炭素逆相蒸発法を用いたリポソームの製造方法が報告されている。具体的には、主な構成成分がリン脂質であるリポソームの表面を、キトサンで修飾してなるポリカチオン修飾リポソーム並びに主な構成成分がリン脂質であるリポソームの溶液を、キトサンの酸性液中に滴下することを特徴とするポリカチオン修飾リポソームの製造法および二酸化炭素の臨界点より高い温度および/または圧力下で、リン脂質、キトサンおよび二酸化炭素を含む混合流体中に、リポソーム中に封入すべき物質を含む水相を加えることを特徴とするポリカチオン修飾リポソームの製造方法が開示されている。
【0008】
下記特許文献3には、超臨界二酸化炭素逆相蒸発法を改良し、エタノールなどの有機溶媒を使用しないで、効率よくリポソームを得る方法、およびこの方法を用いた安定なキトサンで修飾してなるポリカチオン修飾リポソームを得る方法が開示されている。具体的には、リン脂質および/または糖脂質を膜脂質として用い、親水性薬効成分および/または親油性薬効成分の1種以上を内包物とし、その調製に際し、水、内包物、リポソームを修飾する低分子ないし高分子の修飾物質、および/またはそれらに1種類以上の溶解助剤を溶解ないし分散した水溶液と、炭酸ガスとを圧力容器に封入して、温度0〜100℃、圧力30〜500気圧、0.5〜5時間保持しながら撹拌し、水中に二酸化炭素のエマルションが分散したCO2/H2Oのエマルションを得、次いで、圧力容器中から炭酸ガスを抜くことにより残留ないし同伴して流出する水相中にリポソームが分散した懸濁液を得ることを特徴とするリポソームの製造方法が開示されている。
【0009】
リポソームの医薬品・香粧品分野への展開を考えた場合、有機溶媒を使用せず、なおかつ高い保持効率が得られる調製法が求められる。特許文献3には、このように改良した超臨界二酸化炭素逆相蒸発法を用いると、有機溶媒を使用することなく、簡易な工程で、高濃度のリポソーム懸濁液、修飾リポソーム懸濁液を効率よく大量に得ることができると報告されている。また、この方法を用いて安定なキトサン修飾リポソームを得ることができることも報告されている。有機溶媒を多量に使用し、保持効率が小さくなる、調製が多段階プロセスで大量生産ができないという不具合が解消されたことが報告されている。
【0010】
【特許文献1】特願2002−535796号公報
【特許文献2】特開2005−298407号公報
【特許文献3】特開2006−131567号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献3では、この改良した超臨界二酸化炭素逆相蒸発法によるタンパク質類を内包させたタンパク質類内包リポソームについては詳細には検討されていない。該文献では、グルコースなどの低分子量に係る水溶性薬物の保持に有用な方法ということが見出せてはいるが、タンパク質類などの高分子量物質に対しては詳細には検討されてはおらず、特許文献3に係る方法であってもタンパク質類などの高分子量物質の保持に有用な方法であるかどうかは実証される必要がある。
【0012】
ところで高分子量物質の保持に有用な方法、すなわち、タンパク質類内包リポソームのタンパク質保持効率や分散安定性などの向上は遺伝子運搬体や薬物送達システム、医療目的などではリポソームに求められる課題であり、よりタンパク質保持効率や分散安定性などが向上したリポソームが求められているのが現状である。
【0013】
本発明は、上記課題を解決することに鑑みてなされたものであり、よりタンパク質保持効率や分散安定性などが向上するなどの利点を有するタンパク質類内包リポソームおよびタンパク質類内包リポソームの製造方法、製造装置、リポソーム製剤を提供することをその主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、タンパク質類内包リポソームの製造方法であって、膜脂質とタンパク質とが混入された混合溶液界面に超臨界状態の二酸化炭素を接触させる超臨界二酸化炭素界面接触工程と、接触後所定の時間経過後に前記界面に接触する二酸化炭素の圧力を減少させる減圧工程とを含むことを特徴とする。
【0015】
前記タンパク質類内包リポソームの製造方法であって、前記超臨界二酸化炭素界面接触工程は、密閉可能な容器内に膜脂質とタンパク質とが混入された混合溶液を保持し、その後二酸化炭素を前記容器内に注入し、その後前記容器を密閉状態として超臨界状態の二酸化炭素を前記混合溶液界面に接触させる工程であって、前記減圧工程は、前記容器から二酸化炭素を容器外へ排出することで前記接触界面に接触する二酸化炭素の圧力を減少させる工程であると好適である。
【0016】
前記タンパク質類内包リポソームの製造方法であって、前記タンパク質は、タンパク質類としては、アミノ酸類、加水分解エラスチン、水溶性エラスチン、加水分解コラーゲン、小麦ペプチド、大豆ペプチド、カチオン化ペプチド、アシルペプチド等のタンパク質変性物、カゼイン、グルタチオン等のうち少なくとも1種を含むものであると好適である。
【0017】
前記タンパク質類内包リポソームの製造方法であって、前記タンパク質類は単純タンパク質、複合タンパク質、酵素、抗体のうち少なくとも一種を含むと好適である。
【0018】
前記タンパク質類内包リポソームの製造方法であって、前記混合溶液にリポソームを修飾する修飾物質を含むと好適である。
【0019】
また、本発明はタンパク質類内包リポソームの製造装置であって、膜脂質とタンパク質とが混入された混合溶液界面に超臨界状態の二酸化炭素を接触させる超臨界二酸化炭素界面接触装置と、接触後所定の時間経過後に前記接触界面に接触する二酸化炭素の圧力を減少させる減圧装置とを含むことを特徴とする。
【0020】
前記タンパク質類内包リポソームの製造装置であって、前記超臨界二酸化炭素界面接触装置は、密閉可能な容器内に膜脂質とタンパク質とが混入された混合溶液を保持し、その後二酸化炭素を前記容器内に注入し、その後前記容器を密閉状態として超臨界状態の二酸化炭素を前記混合溶液界面に接触させる装置であり、前記減圧装置は、前記容器から二酸化炭素を容器外へ排出することで前記接触界面に接触する二酸化炭素の圧力を減少させる装置であると好適である。
【0021】
また本発明は、タンパク質類として単純タンパク質、複合タンパク質、酵素からなる群から一種以上選択され、この選択されたタンパク質類の保持量が500μg/ml以上であるタンパク質類内包リポソームを特徴とする。
【0022】
また本発明は、タンパク質類として抗体を含むものが選択され、この選択されたタンパク質類の保持量が50μg/ml以上であるタンパク質類内包リポソームを特徴とする。
【0023】
また本発明は、リポソーム溶液の分散状態が1ヶ月以上保持されるタンパク質類内包リポソームであることを特徴とする。
【0024】
また本発明は、タンパク質類内包リポソームまたは上記タンパク質類内包リポソームの製造方法により得られるリポソームを含むリポソーム製剤を特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、よりタンパク質保持効率や分散安定性などが向上するなどの利点を有するタンパク質類内包リポソームおよびタンパク質類内包リポソームの製造方法、製造装置、リポソーム製剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明者はタンパク質類内包リポソームについて鋭意検討した。その結果、驚くべきことにタンパク質類の保持量が従来法(Bangham法)で製造されたリポソームのよりもかなり多く(時に5倍以上)や、分散安定性にも優れるタンパク質類内包リポソームを提供することができ、この製造方法を見出すに至った。
【0027】
タンパク質の保持効率が増大した理由については、一例として考察するに以下の二要因を挙げることができる。まず一つには、内水相の保持量の増大である。この理由は、得られるリポソームの安定性、膜枚数が大きく起因していると考えられる。リポソームの安定性が良好であるとリポソームが分散した状態を保つため内水相の保持量が増大し、また、膜枚数が一枚であると形成するリポソームの数が増えるため内水相の保持量が増大するためとも考えられる。
【0028】
二つにはリポソームへの表面吸着量の増大であるとも考えられる。本法では特許文献3などから一枚膜のリポソームが形成できることが知られている。一枚膜のリポソームが形成できるとリポソームの数が増えるため、バルク中と接するリポソームの面積が広くなり、多くのタンパク質をリポソーム表面、および二分子膜中に保持できたものではないかと考えられる。
【0029】
以下本実施形態に係るタンパク質類内包リポソーム、タンパク質類内包リポソームの製造方法について説明する。なお、本実施形態は、本発明を実施するための一形態に過ぎず、本発明は本実施形態によって限定されるものではない。
【0030】
「タンパク質類内包リポソーム」
本実施形態に係るタンパク質類内包リポソームはタンパク質類として単純タンパク質、複合タンパク質、酵素からなる群から一種以上選択された場合、この選択されたタンパク質類の保持量が500μg/ml以上であるタンパク質類内包リポソームである(仕込量の大きさに応じて1000μg/ml以上、1500μg/ml以上にもなる)。
【0031】
また、本実施形態に係るタンパク質類内包リポソームはタンパク質類として抗体を含むものが選択された場合、この選択されたタンパク質類の保持量が50μg/ml以上であるタンパク質類内包リポソームである(仕込量の大きさに応じて100μg/ml以上、150μg/ml以上、200μg/ml以上、250μg/ml以上、300μg/ml以上にもなる)。
【0032】
本実施形態に係るリポソームは、タンパク質類の保持量について時にBangham法で製造されたタンパク質類内包リポソームの5倍以上にもなる。
【0033】
また、本実施形態に係るタンパク質類内包リポソームは分散状態が1ヶ月以上保持されるタンパク質類内包リポソームである。
【0034】
より好適には本実施形態に係るタンパク質類内包リポソームはタンパク質保持量がタンパク質類の保持量が500μg/ml以上(タンパク質類として単純タンパク質、複合タンパク質、酵素からなる群から一種以上選択された場合)であるか、タンパク質類の保持量が50μg/ml以上(タンパク質類として抗体を含むものが選択された場合)であるかのいいずれかであって、かつ、分散状態が1ケ月以上保持されるという保持量および分散安定性ともに優位な性質を有するリポソームである。
【0035】
本実施形態に係るタンパク質類内包リポソームの製造方法は、膜脂質とタンパク質とが混入された混合溶液界面に超臨界状態の二酸化炭素を接触させる超臨界二酸化炭素界面接触工程と、接触後所定の時間経過後に前記界面に接触する二酸化炭素の圧力を減少させる減圧工程とを含む方法である。
【0036】
膜脂質の成分としては、天然あるいは人工のリン脂質、およびまたは糖脂質の任意の1種以上が好適に使用できる。
【0037】
リン脂質としては、大豆、卵黄等から得られるレシチン、リゾレシチンおよびまたはこれらの水素添加物、水酸化物等の誘導体が挙げられる。更には、ホスファチジルコリン、ホスファチジン酸、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルグリセロール、スフィンゴミエリン等が挙げられる。その際に、構成リン脂質は、特に限定されず、また、構成脂肪酸は、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸のどちらでもよく特に限定されない。
【0038】
糖脂質としては、ジガラクトシルジグリセリド、ガラクトシルジグリセリド硫酸エステル等のグリセロ脂質、ガラクトシルセラミド、ガラクトシルセラミド硫酸エステル、ラクトシルセラミド、ガングリオシドG7、ガングリオシドG6、ガングリオシドG4等のスフィンゴ糖脂質等が好適に使用できる。
【0039】
タンパク質類としては、ポリペプチドからなる高分子化合物であれば特に限られることがないが、例えば、アミノ酸類、加水分解エラスチン、水溶性エラスチン、加水分解コラーゲン、小麦ペプチド、大豆ペプチド、カチオン化ペプチド、アシルペプチド等のタンパク質変性物、また、カゼイン、グルタチオン等を挙げることができる。
【0040】
また、タンパク質類の好適例としては、単純タンパク質(卵アルブミン、血清アルブミン、乳アルブミンなどに例示されるアルブミンなど)、複合タンパク質(核タンパク質、糖タンパク質など)、酵素(例えばリゾチーム(LySoZyme)、トリプシン、エラスターゼなど)、抗体(例えばIgA、IgE、IgG、IgMなど)を挙げることができる。
【0041】
膜脂質とタンパク質とが混入された混合溶液としては水溶液が好ましいが、タンパク質類内包リポソームが形成できればよく、他の極性溶媒、有機溶媒などを用いてもよい場合もある。また、混合溶液中に膜脂質とタンパク質の成分が混入されていてもよい。
【0042】
混合溶液中にリポソームを修飾する修飾物質を混入させてもよい。修飾物質としてはキトサン、コラーゲン、生体ポリアミン、ポリ−L−リシン、プルラン、コレステロール等があげられる。好適にはキトサンを挙げることができる。リポソームの表面を正に帯電させたカチオン性リポソームを得ることができるものであると好適である。
【0043】
混合溶液中にグリコール、グリコールエーテル、グリコールエステル、炭酸アルキルの1種以上を併用してもよい。この場合、リポソームの形成がさらに促され好適である場合がある。具体例としては、例えばグリコール、グリコールエーテル、グリコールエステルとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1.3−ブタンジオール、エチルカービトール、ブチルカービトール、ジエチレングリコールジエチルエーテル、これらグリコール類のアルキルエステル等が挙げられる。好ましい炭酸アルキルとしては、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート等の炭酸アルキルなどが挙げられる。
【0044】
「タンパク質類内包リポソームの製造装置」
図1には、本実施形態に係るタンパク質類内包リポソームを製造するタンパク質類内包リポソームの製造装置100が示される。
【0045】
タンパク質類内包リポソームの製造装置100は、密閉可能な容器10と、容器10内に二酸化炭素を注入し、容器10内へ二酸化炭素を供給する二酸化炭素注入装置20と、容器10内の二酸化炭素を排気する排気装置30、容器内を攪拌する攪拌装置40と、容器10の温度を制御する電子温度調節機50から主に構成されている。超臨界二酸化炭素注入装置20、排気装置30、電子温度調節機50、攪拌装置40は図示しないコンピュータと接続され、コンピュータ制御されている。
【0046】
容器10(耐圧型可視化セル)は、液体が保持され、二酸化炭素が注入される空間部12と、空間部10を取り囲む耐圧型のケーシング14と、空間部10を外部から目視等で確認できる透明な可視窓16とを備えている。
【0047】
ケーシング14は、蓋部14aを開閉することで容器10の密閉状態と開放状態を所望に応じて選択可能とする構造である。ケーシング14は、超臨界状態の二酸化炭素を封入するのに十分な耐圧性を有している。
【0048】
二酸化炭素注入装置20は、空間部12とその一端が接続され、もう一端が図示しない二酸化炭素供給源と接続され、二酸化炭素供給源から空間部12へ二酸化炭素を注入する注入管22と、注入管22を通じて二酸化炭素供給源から二酸化炭素を空間部12へ所定の圧力で供給するハンドスクリューポンプ24と、空間部12の二酸化炭素の圧力を測定する圧力計26と、空間部12の二酸化炭素圧を加圧しすぎた場合などに排気するバキューム28と、主に注入管22を通じる二酸化炭素の流量を制御する複数個のバルブを備えている。
【0049】
排気装置30は、空間部12とその一端が接続され、空間部12から外部へ二酸化炭素を排気する排気管32と、排気管32を通じる二酸化炭素の流量を制御するバルブ34とを備えている。
【0050】
攪拌装置40は、空間部12の底部であってケーシング14と接触する位置に設置された攪拌子42と、攪拌子42と磁力で引き合い、その回転力により攪拌子42を回転させる攪拌子回転装置44とを備えている。
【0051】
電子温度調節機50は、ケーシング14を加熱することで空間部12の温度を加熱するヒータ52と、空間部12の温度を測定する図示しない温度計とを備えている。
【0052】
「タンパク質類内包リポソームの製造方法」
本実施形態に係るタンパク質類内包リポソームを製造方法は、上記本実施形態に係るタンパク質類内包リポソームの製造装置100によって一例として以下に示される。
【0053】
電子温度調節機50で二酸化炭素が超臨界状態となるのに十分な温度(例えば60℃)に容器10を加熱した。この温度を保ったまま蓋部14aを開けて所定量の膜脂質とタンパク質とが混入された混合溶液を空間部12に満量と成らないように保持させる。
【0054】
次に蓋部14aを閉め、容器10を密閉状態とする。密閉状態とした後、バルブ34を閉め、二酸化炭素注入装置20で空間部12へ二酸化炭素を超臨界状態となるのに十分な所定圧力(例えば200bar)まで注入し、この圧力を保ち、温度と共に超臨界状態となる状態に維持する。混合溶液と超臨界二酸化炭素が界面で接触することになる。
【0055】
この超臨界状態とされた後、攪拌装置40で混合溶液を攪拌し、混合溶液と超臨界二酸化炭素を混合させる(接触界面積を多くする)。攪拌は所定の時間行う(例えば40分間)。可視窓16からCO2/H2Oのエマルションが形成されているかどうかを確認すると好適であり、この状態に応じて攪拌時間を決めてもよい。
【0056】
所定の時間攪拌後、攪拌装置40による攪拌をやめ、二酸化炭素注入装置20の注入管22のバルブを閉める。次に、排気装置30のバルブ34を開けて空間部12の二酸化炭素を外部へ放出することで空間部12中の二酸化炭素圧を減圧し、界面に接触する二酸化炭素の圧力を減少させる。空間部12にはタンパク質類内包リポソームが分散したリポソーム懸濁液が得られる。本法では溶液中に脂質を界面活性剤としたCO2/H2Oのエマルションが得られ、容器10中から炭酸ガスCO2を抜くと、リポソーム懸濁液が得られることによる。
【0057】
本実施形態において好適な超臨界状態の条件例として、容器10の空間部12のタンパク質類、膜脂質の混合水溶液の温度を0〜100℃、好ましくは、31℃〜100℃、より好ましくは、35℃〜80℃の範囲にすることが挙げられる。同様に超臨界状態の圧力として50〜500気圧、好ましくは、75〜500気圧、より好ましくは、100〜400Kg/cm2になるまで二酸化炭素を圧入することを挙げることができる。また攪拌時間として0.5〜5時間攪拌することを挙げることができる。二酸化炭素が水中に分散したCO2/H2Oエマルションができる。所定時間後、二酸化炭素を空間部12から減圧してゆくと、圧力容器内に残った水相、または二酸化炭素に同伴して圧力容器外に流出した水相がある場合には、その中にもリポソームが懸濁液した溶液を得ることができる。
【0058】
本実施形態に係るリポソームは特に用途に限られることなく適用できるが、リポソーム製剤として用いると好適である。リポソーム製剤としては例えば、医薬品、化粧料や皮膚外用剤は、遺伝子治療薬、抗ガン剤、抗炎症剤、乳液、ローション、クリーム、サンスクリーン等の基礎化粧料、洗顔料、ボディーソープ等の洗浄料、シャンプー、ヘアリンス、ヘアコンディショナー、育毛料、整髪料、ヘアトニック、パーマネント・ウェーブ剤、ヘアカラー・ヘアブリーチ等の頭髪用化粧料、リキッドファンデーション、口紅等のメークアップ化粧料、軟膏等の皮膚外用剤等を挙げることができる。
【実施例】
【0059】
以下、本実施形態を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されることはない。
【0060】
「実施例」
(タンパク質類内包リポソームの調製)
リン脂質として、2本のアルキル鎖とも飽和結合であり、下記化学式(1)で示されるそれぞれの鎖長が16の飽和リン脂質L−α−dipalmitoylphosphatidylcholine(DPPC:純度99.6% 日本油脂〔株〕製)を用いた。
【0061】
【化1】

【0062】
リポソームに内包するタンパク質類としては、単純タンパク質として牛血清アルブミン(以下BSAともいう:Bovine Serum Albumin)、酵素としてニワトリ卵白リゾチーム(以下単にLSZともいう)、抗体としてIgGを本実施例については使用した。
【0063】
タンパク質類内包リポソームの製造方法は図1に記載のタンパク質類内包リポソーム製造装置100を用いて、上記実施形態に記載したタンパク質類内包リポソームの製造方法で製造した。60℃に温めた容器に所定量のリン脂質、保持対象溶液(タンパク質水溶液)を封入し二酸化炭素を加えることで200barまで加圧し、超臨界状態とした。この超臨界状態で40分間撹拌を行った。40分撹拌後、二酸化炭素を抜き減圧することによりリポソームを調製した。
【0064】
「比較例」
リン脂質、内包されるタンパク質類としは実施例1と同じものを用いた。
【0065】
比較例1では、図2に示されるように、Bangham法により試験管中にて所定量のリン脂質をクロロホルムに溶解させ、窒素ガスを吹き付けて溶媒を除去することにより、試験管壁にリン脂質の薄膜を形成させた。これに所定濃度のタンパク質水溶液を加え、リン脂質の相転移温度以上(60℃)で水和・膨潤させ、Voltex mixerで撹拌することにより多重膜リポソーム(Multilamella vesicle ; MLV)を形成させた。
【0066】
「定量方法・評価方法」
<リポソーム溶液におけるタンパク質類の定量方法>
リポソーム溶液におけるタンパク質類の定量方法について説明する。タンパク質類は得られたリポソーム溶液を分子量100000以上の物質を透過しない半透膜であるセルロース透析チューブ(Viskase Co. Inc.製)中にリポソーム溶液1000μLを封入し、氷水下0℃まで冷却したものを溶出液として用いた。溶出液は6時間毎に交換し120時間かけて行った。透析終了後、透析チューブより500μLのサンプルを採取し、同量のエタノールを添加することによりリポソームを破壊し,ビシンコニン酸法で行った。ビシンコニン酸法(BCA法)は、タンパク質溶液存在下で、試薬中の2価のどうイオンが一価のどうイオンに還元され、一価の銅イオンはBCA2分子とキレート化され、試薬は黄緑色から紫色に変化する。それを紫外可視分光光度計(562nmの波長)で定量した。
【0067】
<リポソーム溶液におけるグルコース類の定量方法>
リポソーム溶液におけるグルコースの定量方法について説明する。グルコースは得られたリポソーム溶液を分子量100000以上の物質を透過しない半透膜であるセルロース透析チューブ(Viskase Co. Inc.製)中にリポソーム溶液1000μLを封入し、氷水下0℃まで冷却したものを溶出液として用いた。溶出液は6時間毎に交換し120時間かけて行った。透析終了後、リポソーム溶液にエタノールを添加してリポソームを崩壊させ、内水相に保持されていたグルコースを定量した。グルコースの定量はグルコース−CIIテストワコー(和光純薬〔株〕)を用いたムタローゼGOD法に準じて行った。試料中のグルコースは発色試薬中に含まれるムタローゼの作用により、速やかにα型からβ型へと転移する。転移したβ−グルコースは発色成分であるグルコースオキシタ―ゼ(GOD)の作用を受けて過酸化水素を発生させる。発生した過酸化水素は、共存する発色成分であるペルオキシダーゼ(POD)の作用により発色試薬中のフェノールと4−アミノアンチピリンとを定量的に酸化縮合させて赤色の色素を生成させる。この吸光度を測定することにより、試料中のグルコース濃度を求める定量方法である。紫外可視分光光度計UV−260(島津製作所製)を用い、吸収波長505nmにおける吸光度を測定することにより定量した。
【0068】
<分散安定性の評価方法>
分散安定性は、分散状態でなくなったと判断されるまでの時間が長い程分散安定性が良好であるとした。分散状態についての評価はリポソーム溶液に対する目視観察で行った。リポソーム溶液が目視により試験官中に均一に白濁した溶液であると分散状態を保っていると判断し、リポソーム溶液が目視により試験管の底に白い沈殿物が集まり、上澄みが透明な状態であると沈殿し、分散状態でなくなったと判断した。
【0069】
「結果および考察」
<BSA,LSZ>
図3に、実施例と比較例のリポソームの製造方法についてBSAとLSZをリポソームに導入した結果を示す。なお、図3については参考例としてグルコースについても実施例と比較例、それぞれの方法により保持したものも示す。
【0070】
その結果、実施例の方法でBSA,LSZの保持量が比較例よりかなり多く、500μg/ml以上、(仕込量の大きさに応じて1000μg/ml以上、1500μg/ml以上となる場合もある)という結果となるリポソームが得られた。比較例の方法でBSA,LSZの保持量が500μg/ml未満で仕込量に応じて殆ど一定の保持量であるのに対し、実施例の方法では仕込量に応じて保持量が増大する傾向があるリポソームを得ることができ、実施例の方法の有用性がわかった。
【0071】
また、比較例で調製したものは調製後一日で沈殿を生じたが、実施例では1ヶ月以上分散状態を保っていた。このことから実施例による方法で得られたタンパク質内包リポソームは優れた分散安定性を有することがわかった。
【0072】
なお、参考例として示されたグルコースの保持量より飛躍的に向上したという結果から、実施例と比較例いずれの方法であってもタンパク質はリポソームの二分子膜中やリポソーム表面に吸着しているため、保持量が増大したものと考察できる。以上の結果より、実施例比較例よりもリポソームの内水相、二分子膜中同時にタンパク質を効率よくかつ、多くの量を保持できることを見出すことができたものと考えられる。
【0073】
<IgG>
図4に、実施例と比較例のリポソームの製造方法についてIgGをリポソームに導入した結果を示す。
【0074】
その結果、その結果、IgGの保持量が比較例よりかなり多く、50μg/ml以上、(仕込量の大きさに応じて100μg/ml以上、150μg/ml以上、200μg/ml以上、250μg/ml以上、300μg/ml以上)となる場合もある)という結果となるリポソームが得られた。比較例の方法でIgGの保持量が50μg/ml未満で仕込量に応じて殆ど一定の保持量であるのに対し、実施例の方法では、仕込量に応じて保持量が増大する傾向があるリポソームを得ることができ、実施例の方法の有用性がわかった。
【0075】
また、比較例で調製したものは調製後一日で沈殿を生じたが、実施例を用いたものは1ヶ月以上分散状態を保っていた。このことから実施例による方法で得られたタンパク質内包リポソームは優れた分散安定性を有することがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本実施形態に係るタンパク質類内包リポソーム製造装置である。
【図2】Bangham法によるタンパク質類内包リポソーム製造方法を説明する説明図である。
【図3】本実施例に係るタンパク質類内包リポソームの保持濃度測定図である。
【図4】本実施例に係るタンパク質類内包リポソームの保持濃度測定図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質類内包リポソームの製造方法であって、
膜脂質とタンパク質とが混入された混合溶液界面に超臨界状態の二酸化炭素を接触させる超臨界二酸化炭素界面接触工程と、
接触後所定の時間経過後に前記界面に接触する二酸化炭素の圧力を減少させる減圧工程とを含むタンパク質類内包リポソームの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のタンパク質類内包リポソームの製造方法であって、
前記超臨界二酸化炭素界面接触工程は、密閉可能な容器内に膜脂質とタンパク質とが混入された混合溶液を保持し、その後二酸化炭素を前記容器内に注入し、その後前記容器を密閉状態として超臨界状態の二酸化炭素を前記混合溶液界面に接触させる工程であり、
前記減圧工程は、前記容器から二酸化炭素を容器外へ排出することで前記接触界面に接触する二酸化炭素の圧力を減少させる工程であるタンパク質類内包リポソームの製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のタンパク質類内包リポソームの製造方法であって、
前記タンパク質は、タンパク質類としては、アミノ酸類、加水分解エラスチン、水溶性エラスチン、加水分解コラーゲン、小麦ペプチド、大豆ペプチド、カチオン化ペプチド、アシルペプチド等のタンパク質変性物、カゼイン、グルタチオン等のうち少なくとも1種を含むものであるタンパク質類内包リポソームの製造方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1つに記載のタンパク質類内包リポソームの製造方法であって、
前記タンパク質類は単純タンパク質、複合タンパク質、酵素、抗体のうち少なくとも一種を含むタンパク質類内包リポソームの製造方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1つに記載のタンパク質類内包リポソームの製造方法であって、
前記混合溶液にリポソームを修飾する修飾物質を含むタンパク質類内包リポソームの製造方法。
【請求項6】
タンパク質類内包リポソームの製造装置であって、
膜脂質とタンパク質とが混入された混合溶液界面に超臨界状態の二酸化炭素を接触させる超臨界二酸化炭素界面接触装置と、
接触後所定の時間経過後に前記接触界面に接触する二酸化炭素の圧力を減少させる減圧装置とを含むタンパク質類内包リポソームの製造装置。
【請求項7】
請求項6に記載のタンパク質類内包リポソームの製造装置であって、
前記超臨界二酸化炭素界面接触装置は、密閉可能な容器内に膜脂質とタンパク質とが混入された混合溶液を保持し、その後二酸化炭素を前記容器内に注入し、その後前記容器を密閉状態として超臨界状態の二酸化炭素を前記混合溶液界面に接触させる装置であり、
前記減圧装置は、前記容器から二酸化炭素を容器外へ排出することで前記接触界面に接触する二酸化炭素の圧力を減少させる装置であるタンパク質類内包リポソームの製造装置。
【請求項8】
タンパク質類として単純タンパク質、複合タンパク質、酵素からなる群から一種以上選択され、この選択されたタンパク質類の保持量が500μg/ml以上であるタンパク質類内包リポソーム。
【請求項9】
タンパク質類として抗体を含むものが選択され、この選択されたタンパク質類の保持量が50μg/ml以上であるタンパク質類内包リポソーム。
【請求項10】
リポソーム溶液における分散状態が1ケ月以上保持されるタンパク質類内包リポソーム。
【請求項11】
請求項8〜10のいずれか1つに記載のタンパク質類内包リポソームまたは請求項1から5のいずれか1つに記載した製造方法により得られるリポソームを含むリポソーム製剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−63284(P2008−63284A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−243768(P2006−243768)
【出願日】平成18年9月8日(2006.9.8)
【出願人】(598069939)
【出願人】(501403014)
【出願人】(501370945)株式会社日本ボロン (33)
【Fターム(参考)】