説明

タービン翼、それを用いたタービンロータ及び蒸気タービン

【課題】本発明の目的は、防食板接合部の信頼性に優れるタービン翼と、それを用いたタービンロータ、蒸気タービンを提供することにある。
【解決手段】本発明のタービン翼は、鉄系合金からなるタービン長翼の先端前縁部に、Co基合金からなるエロージョンシールド板を、Ni−Fe合金からなるシム材を介して1パスの電子ビーム溶接で固着したことを特徴とする。電子ビーム溶接で固着する際、溶接開先部にタービン翼、シールド部それぞれの厚さより大きな厚みを有する凸部を設け、凸部とほぼ同等の厚みを有するシム材を用いることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なタービン翼、それを用いたタービンロータ及び蒸気タービンに関する。
【背景技術】
【0002】
原子力あるいは火力発電用タービン等の湿り蒸気中で使用されるタービン動翼の前縁部には、浸食防止の目的で防食片(エロージョンシールド)が取り付けられている。この防食片の取り付けに関しては、例えば、特許文献1には12Cr鋼にステライトをインコネル系の溶接棒を用いてTIG溶接で取り付ける方法が開示されている。また、特許文献2には段違いにステライトを加工し、翼の背側、腹側の両面からインコネル系のシム材を挟み込み、翼とステライト間の延靭性を高めるために各1パスで電子ビーム溶接する方法が開示されている。
【0003】
しかしながら、TIG溶接は入熱量が大きく、翼部の変形が生じ易くなるため、翼部の曲り修正が必要になる。また、段違いに加工したステライトで背腹両面からの電子ビーム溶接は、真空チャンバー内の段取り作業に多大な労力を要する。電子ビーム溶接は溶融幅を確保するためにビーム振幅を利用し、入射側の溶け込み幅が広くなる。このとき、翼母材およびステライトの希釈率が上がり、希釈部の延靭性が低下するため、破壊に対する信頼性も低下する。これらの提案された防食板の取り付け方法は、製造工数の増加により欠陥発生頻度が高まり、翼の信頼性が低下するため、さらに製造工数を低減し、翼の信頼性を高める開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−98349号公報
【特許文献2】特開平5−23920号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、防食板取り付け部の信頼性に優れるタービン翼、それを用いたタービンロータ、蒸気タービンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のタービン翼は、鉄系合金からなるタービン長翼の先端前縁部に、Co基合金からなるエロージョンシールド板を、Ni−Fe合金からなるシム材を介して電子ビーム溶接で固着したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、防食板溶接部の信頼性の高い蒸気タービン翼の製造が可能になり、より翼負荷の大きい構造が実現できるため、蒸気タービン発電プラント高出力化、高効率化に顕著な効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】蒸気タービン長翼の正面図。
【図2】溶接開先部の断面図。
【図3】低圧蒸気タービンの断面図。
【図4】低圧蒸気タービンの断面図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0010】
本発明のタービン翼は、1パスの電子ビーム溶接で固着することが好ましく、固着する際に、溶接開先部にタービン翼、シールド部それぞれの厚さより大きな厚みを有する凸部を設け、凸部とほぼ同等の厚みを有するシム材を用いることが好ましい。
【0011】
電子ビーム溶接で固着する際、電子線の入射側のシム材の幅が広い開先形状を有することが好ましい。また、シム材質はNiを70%以上を含むNi−Fe合金とすることで、鉄系翼材およびCo基合金シールド材の希釈部の有害相組成を抑制することができる。
【0012】
低圧蒸気タービンの最終段翼材質はタービン翼として多数使用されている鉄系材料の12%Crステンレス鋼、または析出硬化型ステンレス鋼の使用が望ましい。特に、12%Cr系マルテンサイト鋼として、C0.14〜0.40%、好ましくは0.19〜0.40%、Si0.5%以下、Mn1.5%以下、Ni2〜3.5%、Cr8〜13%、Mo1.5〜4%、Nb及びTaの1種以上を合計で0.02〜0.3%、V0.05〜0.35%及びN0.04〜0.15%を含むものが好ましい。より、C0.20〜0.40%及びMo1.5〜3.5%又はC0.14〜0.19%及びMo2.0〜3.5%を含む組み合わせが好ましい。防食板は耐摩耗性に優れるCo基合金のステライトで、重量でCr25〜30%、W1.5〜7.0%、C0.5〜1.5%を有する。シム材質は延性の高いNi−Fe合金が望ましく、ステライトに亀裂が発生した時に、母材への亀裂伝播を抑える機能が必要である。シム材は母材、およびステライトと希釈するため、母材およびステライトの希釈率が高い場合は、共晶炭化物を凝固界面に形成し、延靭性を低下させるため、Niを70%以上含有することが望ましい。
【0013】
ビームの入射側では母材およびステライトの希釈率が高くなるため、入射側のシム幅を大きくし、厚さ方向の希釈率をほぼ等しくすることが望ましい。
【0014】
本発明に係る低圧蒸気タービンは、回転数が3000rpm又は3600rpmであり、前記動翼は左右対称に各5段以上、好ましくは6段以上、より好ましくは8〜10段有し、前記ロータシャフト中心部に初段が植設された複流構造であり、前記ロータシャフトは軸受中心間距離(L)が、6500mm以上(好ましくは6600〜7500mm)であることが好ましい。翼部長さは、初段が90mm以上が好ましく、最終段が前述の長さを有するものである。前記ロータシャフトは、該ロータシャフト内中心部の室温の0.02%耐力が80kg/mm2以上、0.2%耐力が87.5kg/mm2以上又は引張強さが92kg/mm2以上及びFATTが−5℃以下又は20℃Vノッチ衝撃値が10kg・m/cm2以上であるベイナイト鋼よりなることが好ましい。
【0015】
低圧蒸気タービンの最終段翼は、高速回転による高い遠心力と振動応力に耐えるため引張強さが高いことと同時に、高サイクル疲労強度が高くなければならない。12%Cr系マルテンサイト鋼は、有害なδフェライトが存在すると、疲労強度を著しく低下させるので、全焼戻しマルテンサイト組織として、δフェライト相を実質的に含まないようにすること、調質熱処理として、溶解・鍛造後に、1000〜1100℃(好ましくは1000〜1055℃)で好ましくは0.5〜3時間加熱保持後室温まで急冷する(特に油焼入れが好ましい)焼入れを行い、次に、540〜620℃で焼戻し、特に540〜570℃で好ましくは1〜6時間加熱保持後室温まで冷却する1次焼戻しと、560〜590℃で好ましくは1〜6時間加熱保持後室温まで冷却する2次焼戻しの2回以上の焼戻し熱処理が施されるのが好ましい。2次焼戻し温度は1次焼戻し温度より高くするのが好ましく、特に10〜30℃高くするのが好ましく、より15〜20℃高くするのが好ましい。また、残留オーステナイトをより完全に分解するためにドライアイス又は液体窒素温度まで冷却する深冷処理を施すことが好ましい。
【0016】
低圧タービンの最終段翼部長さは、3600rpmに対しては882mm(35.8″)、952.5mm(37.5″)、1016mm(40″)、1067mm(42″)及び3000rpmに対しては1092mm(43″)、1168.4mm(46″)、1219.2mm(48″)、1270mm(50″)のものが適用される。
【0017】
低圧蒸気タービンの最終段翼は翼部の幅方向の傾きが植込み部近傍が回転軸の軸方向に対してほぼ平行であり、翼部先端が前記軸方向に対して好ましくは65〜85度傾いており、より70〜80度が好ましい。その翼部長さが3000rpmに対し43インチ以上又は3600rpmに対し37.5インチ以上であり、植込み部が43インチ以上に対し9本以上及び37.5インチ以上に対し7本以上であるフォーク型又は4段以上の突起を有する逆クリスマスツリー型であることが好ましい。前記翼部先端の幅に対する植込み部幅が2.1〜2.5倍であることが好ましい。その植込み部がフォーク型で、ロータシャフトへの固定用ピン挿入孔が複数段に設けられ、該挿入孔の直径は前記翼部側がその反対側より大きいことが好ましい。
【0018】
低圧蒸気タービンロータシャフトは重量で、C0.2〜0.3%、Si0.15%以下、Mn0.25%以下、Ni3.25〜4.5%、Cr1.6〜2.5%、Mo0.25〜0.6%、V0.05〜0.25%を有し、Fe92.5%以上の全焼戻しベイナイト組織を有する低合金鋼が好ましく、前述の高圧、中圧ロータシャフトと同様の製法によって製造されるのが好ましい。特に、Si量は0.05%以下、Mn0.1%以下の他P、S、As、Sb、Sn等の不純物を極力低めた原料を用い、総量0.025%以下、好ましくは0.015%以下とするように用いられる原材料の不純物の少ないものを使用するスーパークリーン化した製造とするのが好ましい。P、S各0.010%以下、Sn、As0.005%以下、Sb0.001%以下が好ましい。本ロータシャフトは、その中心部の室温の0.02%耐力が80kg/mm2以上、0.2%耐力が87.5kg/mm2以上又は引張強さが92kg/mm2以上及びFATTが−5℃以下又は20℃Vノッチ衝撃値が10kg・m/cm2以上であるベイナイト鋼が好ましい。本発明に係るロータシャフトには中心孔を有するものに対しては最終段動翼としてフォーク型のもの、中心孔を設けないものに対しては逆クリスマスツリー型のものを設けるのが好ましい。
【0019】
低圧タービン用ブレードの最終段以外及びノズルは、C0.05〜0.2%、Si0.1〜0.5%、Mn0.2〜1.0%、Cr10〜13%、Mo0.04〜0.2%を有する全焼戻しマルテンサイト鋼が好ましい。
【0020】
低圧タービン用内部及び外部ケーシングともにC0.2〜0.3%、Si0.3〜0.7%、Mn1%以下を有する炭素鋳鋼が好ましい。
【0021】
以下、本発明の実施例を説明する。
【0022】
〔実施例1〕
図1に電子ビーム溶接で防食板を取り付けた43インチの翼長さを有するタービン翼を示す。
【0023】
43インチ長翼は、エレクトロスラグ再溶解法により溶製し、鍛造・熱処理を行ったものである。鍛造は850〜1150℃の温度範囲内で、熱処理は1050℃で1時間加熱保持後、油焼入れを行い、550℃で2時間加熱保持後室温まで冷却する1次焼戻しと、560℃で2時間加熱保持後室温まで冷却する2次焼戻しの2回の焼戻し熱処理を施した。この長翼の金属組織は全焼戻しマルテンサイト組織であった。翼部51は植込み部の厚さが最も大きく、先端部になるに従って徐々に薄肉となっている。翼植込み部52は9本の植込み部を有するフォーク型になっている。図1の側面にはフォーク型にピンを挿入するピン挿入孔53が3段に設けられ、それに対応して凹部が設けられている。ピン挿入孔53は翼部側が最も直径が大きく、徐々に小さくなっている。翼部51はその幅方向の傾きが車軸の軸方向に対して翼植込み部52がほぼ平行であり、翼先端部で約75度に徐々に傾いている。本実施例における翼植込み部52の最大幅は翼部先端の幅に対して約2.4倍であり、2.2〜2.6が好ましい。58は翼部51の翼植込み部52近傍に対する接線の延長上の幅を示し、翼部51の有効幅となるもので、翼部先端の幅に対して約1.79倍有するものであり、1.60〜1.85倍が好ましい。
【0024】
図2に開先部の構成を示す。翼面、および防食板よりも厚い凸部を形成し、凸部厚さとほぼ同等のシム材を用いることで、アンダーカットは生じなかった。また、電子ビームの入射側のシム幅を広くすることで希釈率がほぼ均一化し、ビームの入射側、背面側を用いて表曲げ試験を行った結果、入射側および背面側の特性はほぼ同等であった。
【0025】
表1は電子ビーム溶接に用いたシム材質を示す。Niを70%以上含むシム材Aと、Niが約60%のシム材Bで防食板を12Cr鋼翼に電子ビーム溶接し取り付け、溶接部の表曲げ試験を行った結果、シム材Aでは割れ発生の曲げ角度が大きく十分な延性を示すが、シム材Bでは割れ発生の曲げ角度が小さく延性は不十分であった。ミクロ組織観察を行った結果、シム材Bではデンドライト界面にNbCに代表される共晶炭化物が網目状に析出し、延性を低下させていることが分かった。
【0026】
【表1】

【0027】
〔実施例2〕
(低圧蒸気タービン)
図3は低圧タービンの断面図である。動翼41は左右に8段あり、左右ほぼ対称になっており、また動翼に対応して静翼42が設けられる。ノズルボックス45は複流型である。
【0028】
ロータシャフト44には、重量で、C0.2〜0.3%、Si0.03〜0.1%、Mn0.1〜0.2%、P0.01%以下、S0.01%以下、Ni3.5〜4.5%、Cr1.8〜2.5%、Mo0.3〜0.5%、V0.1〜0.2%、Al0.01%以下、Sn0.005%以下、As0.005%以下、Sb0.001%以下を含むスーパークリーンされた全焼戻しベイナイト鋼の鍛鋼が用いられる。これらの鋼は熱間鍛造後840℃×3h加熱後、100℃/hで冷却する焼入れ後、575℃×32h加熱する焼戻しが施され、全焼戻しベイナイト組織を有する。0.02%耐力80kg/mm2以上、0.2%耐力87.5kg/mm2以上、引張強さ100kg/mm2以上、Vノッチ衝撃値10kg−m以上、FATTは−20℃以下と高強度及び高靭性を有し、本実施例の最終段動翼として翼部長さ43〜50インチの植設ができるものであった。
【0029】
本実施例の43インチ翼には、C0.14%、Si0.04%、Mn0.15%、Cr11.5%、Ni2.60%、Mo2.30%、V0.27%、Nb0.10%、N0.07%を含むマルテンサイト鋼を用い、焼入れ及び焼戻しを行った。このものの引張強さが134kg/mm2、Vノッチ衝撃値が5.0kg−m/cm2であった。蒸気中の水滴によるエロージョンを防止するためのエロージョンシールド54には重量で、C1.0%、Cr28.0%及びW4.0%を含むCo基合金のステライト板を電子ビーム溶接で接合した。コンティニュアスカバー57は本実施例においては全体一体の鍛造後に切削加工によって形成されたものである。尚、コンティニュアスカバー57は機械的に一体に形成することもできる。
【0030】
最終段以外の動翼及び静翼にはいずれもMoを0.1%含有する12%Cr鋼が用いられる。内外部ケーシング材にはC0.25%の鋳鋼が用いられる。本実施例における軸受43での中心間距離は7500mmで、静翼部に対応するロータシャフトの直径は約1280mm、動翼植込み部での直径は2275mmである。
【0031】
本実施例の低圧タービンは動翼植込み部の軸方向の幅が初段〜3段、4段、5段、6〜7段及び8段の4段階で徐々に大きくなっており、最終段の幅は初段の幅に比べ約2.5倍と大きくなっている。
【0032】
また、静翼部に対応する部分の直径は小さくなっており、その部分の軸方向の幅は初段動翼側から5段目、6段目及び7段目の3段階で徐々に大きくなっており、最終段側の幅は初段と2段の間に対して約1.9倍大きくなっている。
【0033】
動翼の植込み部は静翼に対応する部分に比較して直径が大きくなっており、その幅は動翼の翼部長さの大きい程その植込み幅は大きくなっている。その幅の動翼の翼部長さに対する比率は初段から最終段で0.15〜0.19であり、初段から最終段になるに従って段階的に小さくなっている。
【0034】
また、各静翼に対応する部分のロータシャフトの幅は初段と2段目との間から最終段とその手前との間までの各段で段階的に大きくなっている。その幅の動翼の翼部長さに対する比率は0.25〜1.25で上流側から下流側になるに従って小さくなっている。
【0035】
(発電プラント)
本実施例における発電プラントは主として石炭専焼ボイラ、高圧タービン、中圧タービン、低圧タービン2台、復水器、復水ポンプ、低圧給水加熱器系統、脱気器、昇圧ポンプ、給水ポンプ、高圧給水加熱器系統などより構成されている。ボイラで発生した超高温高圧蒸気は高圧タービンに入り動力を発生させたのち再びボイラにて再熱されて中圧タービンへ入り動力を発生させる。この中圧タービン排気蒸気は、低圧タービンに入り動力を発生させた後、復水器にて凝縮する。この凝縮液は復水ポンプにて低圧給水加熱器系統、脱気器へ送られる。この脱気器にて脱気された給水は昇圧ポンプ、給水ポンプにて高圧給水加熱器へ送られ昇温された後、ボイラへ戻る。
【0036】
ここで、ボイラにおいて給水は節炭器、蒸発器、過熱器を通って高温高圧の蒸気となる。また一方、蒸気を加熱したボイラ燃焼ガスは節炭器を出た後、空気加熱器に入り空気を加熱する。ここで、給水ポンプの駆動には中圧タービンからの抽気蒸気にて作動する給水ポンプ駆動用タービンが用いられている。
【0037】
このように構成された高温高圧蒸気タービンプラントにおいては、高圧給水加熱器系統を出た給水の温度が従来の火力プラントにおける給水温度よりもはるかに高くなっているため、必然的にボイラ内の節炭器を出た燃焼ガスの温度も従来のボイラに比べてはるかに高くなってくる。このため、このボイラ排ガスからの熱回収をはかりガス温度を低下させないようにする。
【0038】
1050MW級発電機用ロータシャフトとしては、より高強度のものが用いられる。特に、C0.15〜0.30%、Si0.1〜0.3%、Mn0.5%以下、Ni3.25〜4.5%、Cr2.05〜3.0%、Mo0.25〜0.60%、V0.05〜0.20%を含有する全焼戻しベイナイト組織を有し、室温引張強さ93kgf/mm2以上、特に100kgf/mm2以上、50%FATTが0℃以下、特に−20℃以下とするものが好ましく、21.2KGにおける磁化力が985AT/cm以下とするもの、不純物としてのP、S、Sn、Sb、Asの総量を0.025%以下、Ni/Cr比を2.0以下とするものが好ましい。
【0039】
高圧、中圧、低圧タービンのいずれのロータシャフトにおいても中心孔が設けられ、この中心孔を通して超音波検査、目視検査及びけい光探傷によって欠陥の有無が検査される。また、外表面から超音波検査により行うことができ、中心孔が無でもよい。
【0040】
〔実施例3〕
表2は蒸気温度600℃、定格出力700MW蒸気タービン発電プラントの主な仕様である。本実施例は、タンデムコンパウンドダブルフロー型、低圧タービンにおける最終段翼長が46インチであり、HP(高圧)・IP(中圧)一体型及びLP1台(C)又は2台(D)で3000rpmの回転数を有し、高圧部及び低圧部においては表2に示す主な材料によって構成される。高圧部(HP)の蒸気温度は600℃、250kgf/cm2の圧力であり、中圧部(IP)の蒸気温度は600℃に再熱器によって加熱され、45〜65kgf/cm2の圧力で運転される。低圧部(LP)は蒸気温度は400℃で入り、100℃以下、722mmHgの真空で復水器に送られる。
【0041】
本実施例における高中圧一体タービン及び2台の低圧タービンをタンデムに備えた蒸気タービン発電プラント(D)は、軸受間距離が約22.7mであり、その低圧タービンの最終段動翼の翼部長さ(1168mm)に対して19.4倍であり、また発電プラントの定格出力700MWの1MW当たりの軸受間距離の合計距離が32.4mmである。更に、本実施例における高中圧一体タービン及び1台の低圧タービンを備えた蒸気タービン発電プラント(C)は、軸受間距離が約14.7mであり、低圧タービンの最終段動翼の翼部長さ(1168mm)に対して12.6倍であり、定格出力1MW当たり21.0mmである。
【0042】
【表2】

【0043】
図4は低圧タービンの断面図である。低圧タービンは1基又はタンデムに2基あり、いずれも高中圧タービンにタンデムに結合される。動翼41は左右に6段あり、左右ほぼ対称になっており、また動翼に対応して静翼42が設けられる。最終段の動翼には長さが46インチであり、実施例2と同様にTi基合金又は高強度12%Cr鋼が用いられる。ロータシャフト44は、実施例2と同様に、スーパークリーン材の全焼戻しベーナイト組織を有する鍛鋼が用いられる。最終段とその前段以外の動翼及び静翼にはいずれもMoを0.1%含有する12%Cr鋼が用いられる。内外部ケーシング材にはC0.25%の前述の組成の鋳鋼が用いられる。本実施例における軸受43での中心間距離は8mで、静翼部に対応するロータシャフトの直径は約800mm、動翼植込み部での直径は各段同じである。静翼部に対応するロータシャフト直径に対する軸受中心間の距離は10倍である。
【0044】
本実施例の46インチ翼には、C0.23%、Si0.06%、Mn0.15%、Cr11.4%、Ni2.65%、Mo3.10%、V0.25%、Nb0.11%、N0.06%を含むマルテンサイト鋼を用い、焼入れ及び焼戻しを行った。このものの引張強さが145kg/mm2、Vノッチ衝撃値が6.2kg−m/cm2であった。蒸気中の水滴によるエロージョンを防止するためのエロージョンシールド54には重量で、C1.0%、Cr28.0%及びW4.0%を含むCo基合金のステライト板を電子ビーム溶接で接合した。コンティニュアスカバー57は本実施例においては全体一体の鍛造後に切削加工によって形成されたものである。尚、コンティニュアスカバー57は機械的に一体に形成することもできる。
【0045】
ロータシャフトには動翼の植込み部が設けられ、最終段のダブティルにはフォーク型の他に逆クリスマスツリー型も同様に用いられる。
【0046】
低圧タービンは、動翼植込み付根部の軸方向の幅が、初段が最も小さく、下流側に従って2、3段が同等、4段、5段が同等で4段階で徐々に大きくなっており、最終段の幅は初段の幅に比べ6.2〜7.0倍と大きくなっている。2、3段は初段の1.15〜1.40倍、4、5段が2、3段の2.2〜2.6倍、最終段が4、5段の2.8〜3.2倍となっている。付根部の幅は末広がりの延長線とロータシャフトの直径とを結ぶ点で示す。
【0047】
本実施例における動翼の翼部長さは初段の4″から46″の最終段になるに従って各段で長くなっており、最大で8段で、各段の翼部長さは下流側が上流側に対して隣り合う長さで1.2〜1.9倍の範囲内で徐々に長くなっている。
【0048】
動翼の植込み付根部は静翼に対応する部分に比較して直径が大きく末広がりになっており、その幅は動翼の翼部長さの大きい程その植込み幅は大きくなっている。その幅の動翼の翼部長さに対する比率は初段から最終段の前までが0.30〜1.5であり、その比率は初段から最終段の前になるに従って徐々に小さくなっており、後段の比率はその1つ手前のものより0.15〜0.40の範囲内で徐々に小さくなっている。最終段は0.50〜0.65の比率である。
【0049】
本実施例における最終段動翼における平均直径は、3000rpm、43″翼で2590mm、3600rpm、36″翼で2160mm、3000rpm、46″翼で2665mm、3600rpm、38″翼で2220mmとした。
【0050】
本実施例における高温高圧蒸気タービン発電プラントは主としてボイラ、高中圧タービン、低圧タービン、復水器、復水ポンプ、低圧給水加熱器系統、脱気器、昇圧ポンプ、給水ポンプ、高圧給水加熱器系統などより構成される。すなわち、ボイラで発生した超高温高圧蒸気は高圧側タービンに入り動力を発生させたのち再びボイラにて再熱されて中圧側タービンへ入り動力を発生させる。この高中圧タービン排気蒸気は、低圧タービンに入り動力を発生させた後、復水器にて凝縮する。この凝縮液は復水ポンプにて低圧給水加熱器系統、脱気器へ送られる。この脱気器にて脱気された給水は昇圧ポンプ、給水ポンプにて高圧給水加熱器へ送られ昇温された後、ボイラへ戻る。
【0051】
ここで、ボイラにおいて給水は節炭器、蒸発器、過熱器を通って高温高圧の蒸気となる。また一方、蒸気を加熱したボイラ燃焼ガスは節炭器を出た後、空気加熱器に入り空気を加熱する。ここで、給水ポンプの駆動には中圧タービンからの抽気蒸気にて作動する給水ポンプ駆動用タービンが用いられている。
【0052】
このように構成された高温高圧蒸気タービンプラントにおいては、高圧給水加熱器系統を出た給水の温度が従来の火力プラントにおける給水温度よりもはるかに高くなっているため、必然的にボイラ内の節炭器を出た燃焼ガスの温度も従来のボイラに比べてはるかに高くなってくる。このため、このボイラ排ガスからの熱回収をはかりガス温度を低下させないようにする。
【0053】
本実施例の他、高中圧蒸気タービンの蒸気入口温度610℃以上、低圧蒸気タービンへの蒸気入口温度約400℃及び出口温度が約60℃とする1000MW級大容量発電プラントに対しても同様の構成とすることができる。尚、蒸気温度として、593℃又は630℃においても本実施例の材料構成及び構造をそのまま使用できる。
【符号の説明】
【0054】
1 第1軸受
2 第2軸受
3 第3軸受
4 第4軸受
5 推力軸受
10 第1シャフトパッキン
11 第2シャフトパッキン
12 第3シャフトパッキン
13 第4シャフトパッキン
14 高圧隔板
15 中圧隔板
16 高圧動翼
17 中圧動翼
18 高圧内部車室
19 高圧外部車室
20 中圧内部第1車室
21 中圧内部第2車室
22 中圧外部車室
23 高圧車軸
24 中圧車軸
25 フランジ、エルボ
26 前側軸受箱
28 主蒸気入口
29 再熱蒸気入口
30 高圧蒸気排気口
31 気筒連絡管
33 高中圧車軸
38 ノズルボックス(高圧第1段)
39 推力軸受摩耗遮断装置
40 暖機蒸気入口
41 動翼
42 静翼
43 軸受
44 ロータシャフト
51、63 翼部
52 翼植込み部
53 ピン挿入孔
54 エロージョンシールド
55 タイボス
57 コンティニュアスカバー
61 ステライトシールド
62 シム材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄系合金からなるタービン長翼の先端前縁部に、Co基合金からなるエロージョンシールド板を、Ni−Fe合金からなるシム材を介して電子ビーム溶接で固着したことを特徴とするタービン翼。
【請求項2】
請求項1において、1パスの電子ビーム溶接で固着することを特徴とするタービン翼。
【請求項3】
請求項1または2において、前記電子ビーム溶接で固着する際に、溶接開先部にタービン翼、シールド部それぞれの厚さより大きな厚みを有する凸部を設け、凸部と同等の厚みを有するシム材を用いることを特徴とするタービン翼。
【請求項4】
請求項1または2において、前記電子ビーム溶接で固着する際に、電子線の入射側のシム材の幅が広い開先形状を有することを特徴とするタービン翼。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかにおいて、前記シム材質はNiを70%以上を含むNi−Fe合金であることを特徴とするタービン翼。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載のタービン翼を備えることを特徴とする低圧タービンロータ。
【請求項7】
請求項6に記載の低圧タービンロータを備えたことを特徴とする低圧蒸気タービン。
【請求項8】
請求項7に記載の低圧蒸気タービンを備えたことを特徴とする蒸気タービン発電プラント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−87712(P2013−87712A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−230259(P2011−230259)
【出願日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】