説明

タービン高温部品の補修方法、ガスタービン動翼、およびガスタービン

【課題】タービン高温部品の補修方法を提供する。
【解決手段】金属からなり、上面、第1、第2の側面を有する板状部材を含むタービン高温部品の補修方法であって、板状部材の上面と第1の側面の間を面取りして、第1の側面、上面それぞれに対して第1、第2の境界線を有する面取り面を形成する工程と、第1、第2の境界線の中間より、第1の側面側を、第1の狙い位置として、面取り面上に、肉盛り溶接して、第1の肉盛り部を形成する工程と、第2の境界線と、上面と第2の側面の第3の境界線との間を第2の狙い位置として、上面上に、肉盛り溶接して、第2の肉盛り部を形成する工程と、第1の境界線と、第1の狙い位置と、の間を第3の狙い位置として、第1の肉盛り部上に、肉盛り溶接して、第3の肉盛り部を形成する工程と、第2、第3の境界線の間を第4の狙い位置として、第2の肉盛り部上に、肉盛り溶接して、第4の肉盛り部を形成する工程と、を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タービン高温部品の補修方法、ガスタービン動翼、およびガスタービンに関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービンにおいて、燃焼温度の高温化により、その燃焼効率向上を図ることができる。そのため、1990年代は静翼入口ガス温度が1100℃のものが主流であったが、2000年代に入り1300℃、1500℃の機種が開発され、運用されるようになってきている。ガスタービン動翼の先端にチップスキーラが配置される。チップスキーラは、高温の燃焼ガスにさらされるほか、反対側の面にあるシュラウドセグメントと摺れることによって、高温酸化やエロージョンなどによって損耗を受けやすい。チップスキーラに損耗が生じると、チップスキーラは補修され、再使用される(例えば、特許文献1参照)。例えば、TIG(Tungusten Inert Gas)溶接、レーザ溶接等による肉盛溶接によって、チップスキーラを補修できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−233965号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
補修後のチップスキーラの形状は、使用前のチップスキーラの形状と略同一とする必要がある。このため、チップスキーラの補修において、チップスキーラの幅以上に肉盛し、その後に、余肉部を研削することによって、補修後のチップスキーラの幅を使用前のチップスキーラの幅と同一としている。
航空機用ガスタービン動翼のチップスキーラでは、その幅が比較的狭いため、1回の肉盛でチップスキーラ幅以上の肉盛が可能である。しかしながら、産業用ガスタービンではチップスキーラの幅が広く、1回の肉盛でチップスキーラ幅以上に肉盛することが困難である。また、金属のぬれ性の関係で、チップスキーラのエッジを狙って肉盛しても、チップスキーラの幅を超える肉盛は困難である。
上記に鑑み、本発明は、比較的幅広な部品への対応を図った、タービン高温部品の補修方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様に係るタービン高温部品の補修方法は、金属からなり、上面、第1、第2の側面を有する板状部材を含むタービン高温部品の補修方法であって、前記板状部材の上面と第1の側面の間を面取りして、前記第1の側面、前記上面それぞれに対して第1、第2の境界線を有する面取り面を形成する工程と、前記第1、第2の境界線の中間より、前記第1の側面側を、第1の狙い位置として、前記面取り面上に、肉盛り溶接して、第1の肉盛り部を形成する工程と、前記第2の境界線と、前記上面と前記第2の側面の第3の境界線と、の間を第2の狙い位置として、前記上面上に、肉盛り溶接して、第2の肉盛り部を形成する工程と、前記第1の境界線と、前記第1の狙い位置と、の間を第3の狙い位置として、前記第1の肉盛り部上に、肉盛り溶接して、第3の肉盛り部を形成する工程と、前記第2、第3の境界線の間を第4の狙い位置として、前記第2の肉盛り部上に、肉盛り溶接して、第4の肉盛り部を形成する工程と、を具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、比較的幅広な部品への対応を図った、タービン高温部品の補修方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】ガスタービン翼10を表す斜視図である。
【図2】チップスキーラ12の断面形状を表す断面図である。
【図3】ガスタービン翼10(チップスキーラ12)の構成材料の一例を表す図である。
【図4】第1の実施形態に係るチップスキーラ12の補修手順の一例を表すフロー図である。
【図5A】図4に示す手順で補修されるチップスキーラ12の断面状態を表す断面図である。
【図5B】図4に示す手順で補修されるチップスキーラ12の断面状態を表す断面図である。
【図5C】図4に示す手順で補修されるチップスキーラ12の断面状態を表す断面図である。
【図5D】図4に示す手順で補修されるチップスキーラ12の断面状態を表す断面図である。
【図5E】図4に示す手順で補修されるチップスキーラ12の断面状態を表す断面図である。
【図5F】図4に示す手順で補修されるチップスキーラ12の断面状態を表す断面図である。
【図6】本発明の比較例に係る補修手順で肉盛り溶接されたチップスキーラ12の断面状態を表す断面図である。
【図7】第2の実施形態に係るチップスキーラ12の補修手順の一例を表すフロー図である。
【図8】図7に示す手順で補修されるチップスキーラ12の断面状態を表す断面図である。
【図9】実施例1に係る肉盛り溶接後の溶接部の断面組織の拡大写真である。
【図10】比較例に係る肉盛り溶接後の溶接部の断面組織の拡大写真である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
(第1の実施の形態)
図1は、産業用ガスタービン用のガスタービン翼(動翼)10を表す斜視図である。図2は、図1の線A−Aに沿う、チップスキーラ12の断面形状を表す断面図である。ガスタービン翼10は、ガスタービン翼本体11、チップスキーラ12を有する。チップスキーラ12は、ガスタービン翼本体11の先端に配置され、上面13、外周面14、内周面15を有する。
なお、見易さのために、断面図(図2,および以降の図5A〜5F,図6,図8)において、ハッチングを省略している。
【0009】
ガスタービン翼10(チップスキーラ12)の構成材料として、Ni基超合金が用いられる。Ni基超合金は、γ’相(NiAl相)を析出し強化した合金であり、高温時の耐久性を有する。図3に示すように、ガスタービン翼10(チップスキーラ12)の構成材料(Ni基超合金)として、GTD−111、IN738LC等を用いることができる。
【0010】
既述のように、産業用ガスタービンを使用することで、チップスキーラ12が損耗し、補修の必要性が生じる。
【0011】
以下、チップスキーラ12の補修方法を説明する。図4は、第1の実施形態に係るチップスキーラ12の補修手順の一例を表すフロー図である。図5A〜図5Fは、図4に示す手順で補修されるチップスキーラ12の断面状態を表す断面図である。この補修方法は、産業用ガスタービンのような比較的幅広のチップスキーラ12の補修に適する。
【0012】
(1)面取り(ステップS11、図5A)
チップスキーラ12の上面13と外周面14の間を面取りする。この結果、外周面14と上面13それぞれに対して第1、第2の境界線L1、L2を有する面取り面16が形成される。
【0013】
その後、次のステップS12以降に示すように、1層2パスで肉盛り溶接が行われる。溶接の熱源としてレーザ、溶接の溶加材として金属粉末を用いる、レーザ溶接を用いることができる。なお、レーザ溶接では、レーザの照射方向が上面13の垂直方向であるのが通例である(チップスキーラ12を垂直に立てる)。
【0014】
ここで、面取り面16と外周面14のなす角度θが45°以上(90°未満)とするのが好ましい。レーザ溶接時において、金属粉末の効率的な使用が可能となる。角度θが45°より小さいと、金属粉末が面取り面16からこぼれ落ち易くなり、溶接に用いられない金属粉末の量が増加する。
【0015】
また、面取り面16の上面13に沿った幅W1が、チップスキーラ12の幅Wの1/4以上1/2以下であることが好ましい。このようにすることで、チップスキーラ12本来の幅Wよりも幅広の肉盛りが容易となる。
【0016】
(2)面取り面16への肉盛り溶接(ステップS12、図5B)
面取り面16上に、肉盛り溶接する。即ち、外周面14に沿って一周するように、面取り面16上への溶接がなされ(1パス目の溶接)、第1の肉盛り部N1が形成される。このとき、第1、第2の境界線L1、L2の中間より、外周面14側を、第1の狙い位置T1として、溶接がなされる。第1の肉盛り部N1の外周面14側の外形がチップスキーラ12本来の幅Wより内側とならないようにするためである。
【0017】
(3)上面13への肉盛り溶接(ステップS13、図5C)
上面13上に、肉盛り溶接する。即ち、内周面15に沿って一周するように、上面13上への溶接がなされ(2パス目の溶接)、第2の肉盛り部N2が形成される。このとき、第2の境界線L2と、上面13と内周面15間の第3の境界線L3と、の間を第2の狙い位置T2として、溶接がなされる。
【0018】
ここで、第2の肉盛り部N2を形成するときの、単位長さ当たりでの溶加材の供給量が、第1の肉盛り部N1を形成するとき(ステップS12)の単位長さ当たりでの溶加材の供給量より、多いことが好ましい。面取り面16の上面13に沿った幅W1が、チップスキーラ12の幅Wの1/4以上1/2以下であることと対応させて、溶加材の供給量が調整される。即ち、本実施形態では、偶数番目の肉盛り部を形成するときの、単位長さ当たりでの溶加材の供給量が、奇数番目の肉盛り部を形成するときの単位長さ当たりでの溶加材の供給量より、多いことが好ましい。
【0019】
(4)第1の肉盛り部N1への肉盛り溶接(ステップS14、図5D)
第1の肉盛り部N1上に、肉盛り溶接する。即ち、外周面14に沿って一周するように、第1の肉盛り部N1上への溶接がなされ(3パス目の溶接)、第3の肉盛り部N3が形成される。このとき、第1の境界線L1と、第1の狙い位置T1と、の間を第3の狙い位置T3として、溶接がなされる。これは、第3の狙い位置T3が第1の狙い位置T1より外周面14側であることを意味する。第3の肉盛り部N3の外周面14側の外形がチップスキーラ12本来の幅Wより内側とならないようにするためである。
【0020】
(5)第2の肉盛り部N2への肉盛り溶接(ステップS15、図5E)
第2の肉盛り部N2上に、肉盛り溶接する。即ち、内周面15に沿って一周するように、第2の肉盛り部N2上への溶接がなされ(4パス目の溶接)、第4の肉盛り部N4が形成される。このとき、第2、第3の境界線L2、L3の間を第4の狙い位置T4として、溶接がなされる。
【0021】
ここで、第4の狙い位置T4が第2の狙い位置T2より内周面15側であることが好ましい。第4の肉盛り部N3の内周面15側の外形がチップスキーラ12本来の幅Wより内側とならないようにするためである。
【0022】
また、第4の肉盛り部N4を形成するときの、単位長さ当たりでの溶加材の供給量が、第1、第3の肉盛り部N1、N3を形成するとき(ステップS12、S14))の単位長さ当たりでの溶加材の供給量より、多いことが好ましい。面取り面16の上面13に沿った幅W1が、チップスキーラ12の幅Wの1/4以上1/2以下であることと対応させて、溶加材の供給量が調整される。
【0023】
その後、ステップS14、S15が適宜に繰り返され、1層2パスの肉盛り溶接が行われる(図5F)。
即ち、第3の肉盛り部N3上に、肉盛り溶接して、第5の肉盛り部N5が形成される。同様に、第4の肉盛り部N4上、第5の肉盛り部N5上、第6の肉盛り部N6上にそれぞれに肉盛り溶接して、第6の肉盛り部N6、第7の肉盛り部N7、第8の肉盛り部N8が形成される。
【0024】
このとき、第5、第7の肉盛り部N5、N7形成時の第5、第7の狙い位置T5、T7は、第3の狙い位置T3と同様に、第1の境界線L1と、第1の狙い位置T1と、の間である。即ち、3番目以降の奇数番のパスでの狙い位置(第3、第5、第7の狙い位置T3、T5、T7)が、第1の狙い位置T1よりも、外周面14側とする。第3、第5、第7の肉盛り部N3、N5、N7の外周面14側の外形がチップスキーラ12本来の幅Wより内側とならないようにするためである。
なお、3番目以降の奇数番のパスでの狙い位置(第3、第5、第7の狙い位置T3、T5、T7)を同一としても差し支えない。
【0025】
また、第6、第8の肉盛り部N6、N8形成時の第6、第8の狙い位置T6、T8は、第4の狙い位置T4と同様に、第2の狙い位置T2より内周面15側である。即ち、4番目以降の偶数番のパスでの狙い位置(第4、第6、第8の狙い位置T4、T6、T8)が、第2の狙い位置T2より内周面15側とする。第4、第6、第8の肉盛り部N4、N6、N8の内周面15側の外形がチップスキーラ12本来の幅Wより内側とならないようにするためである。
なお、4番目以降の偶数番のパスでの狙い位置(第4、第6、第8の狙い位置T4、T6、T8)を同一としても差し支えない。
【0026】
以上のように、チップスキーラ12に肉盛り溶接した後、チップスキーラ12本来の幅Wからはみ出た部分(余肉部)を研削することで、チップスキーラ12が補修される。
【0027】
このように、チップスキーラ12の面取り後に溶接することで、航空機用ガスタービンに対して幅広な産業用ガスタービンのタービン翼のチップスキーラをその本来の幅(チップスキーラ幅)以上に肉盛、補修できる。
【0028】
以上では、チップスキーラ12の外周面14を面取りしているが、チップスキーラ12の内周面15を面取りしても、同様の効果を得ることができる。
【0029】
(比較例)
図6は、本発明の比較例に係る補修手順で肉盛り溶接されたチップスキーラ12の断面状態を表す断面図である。
この比較例では、チップスキーラ12を面取りせず、1層2パスで肉盛り溶接して、チップスキーラ12の上面13上に第1〜第8の肉盛り部N1〜N8を形成している。
【0030】
図6に示すように、第1〜第8の肉盛り部N1〜N8は先細りの傾向となり、第1〜第8の肉盛り部N1〜N8の外形の幅は、チップスキーラ12の本来の幅Wよりも狭くなっている。このため、この補修方法では、チップスキーラ12の使用前の形状を再現することは困難である。
【0031】
(第2の実施の形態)
本発明の第2の実施形態を説明する。
図7は、第2の実施形態に係るチップスキーラ12の補修手順の一例を表すフロー図である。図8は、図7に示す手順で補修されるチップスキーラ12の断面状態を表す断面図である。
【0032】
(1)面取り(ステップS21)
チップスキーラ12の上面13と外周面14および内周面15の間を面取りする。この結果、外周面14と上面13それぞれに対して第1、第2の境界線L1、L2を有する面取り面16aが形成される。また、内周面15と上面13それぞれに対して第3、第4の境界線L3、L4を有する面取り面16bが形成される。その後、次のステップS22以降に示すように、1層3パスで肉盛り溶接が行われる。
【0033】
(2)面取り面16a、16bへの肉盛り溶接(ステップS22)
面取り面16a、16b上に、肉盛り溶接する。即ち、外周面14に沿って一周するように、面取り面16a上への溶接がなされ(1パス目の溶接)、第1の肉盛り部N1が形成される。また、内周面15に沿って一周するように、面取り面16b上への溶接がなされ(2パス目の溶接)、第2の肉盛り部N2が形成される。
【0034】
このとき、第1、第2の境界線L1、L2の中間より、外周面14側を、第1の狙い位置T1として、1パス目の溶接がなされる。また、第3、第4の境界線L3、L4の中間より、内周面15側を、第2の狙い位置T2として、2パス目の溶接がなされる。第1の肉盛り部N1の外周面14側の外形および第2の肉盛り部N2の内周面15側の外形がチップスキーラ12本来の幅Wより内側とならないようにするためである。
【0035】
(3)上面13および第1、第2の肉盛り部N1、N2への肉盛り溶接(ステップS23)
上面13上および第1、第2の肉盛り部N1、N2上に、肉盛り溶接し(3パス目の溶接)、第3の肉盛り部N3が形成される。このとき、第2、第4の境界線L2、L4の中間を第3の狙い位置T3として、溶接がなされる。
【0036】
(4)第1、第2の肉盛り部N1、N2への肉盛り溶接(ステップS24)
第1、第2の肉盛り部N1、N2上に、肉盛り溶接し(4、5パス目の溶接)、第4、第5の肉盛り部N4、N5が形成される。このとき、第1の境界線L1と、第1の狙い位置T1と、の間を第4の狙い位置T4として、4パス目の溶接がなされる。また、第3の境界線L3と、第2の狙い位置T2と、の間を第5の狙い位置T5として、5パス目の溶接がなされる。これは、第4の狙い位置T4が第1の狙い位置T1より外周面14側であること、および第5の狙い位置T5が第2の狙い位置T2より内周面15側であることを意味する。第4、第5の肉盛り部N4、N5それぞれの外周面14側および内周面15側の外形がチップスキーラ12本来の幅Wより内側とならないようにするためである。
【0037】
(5)第3の肉盛り部N3への肉盛り溶接(ステップS25)
第3の肉盛り部N3上に、肉盛り溶接し(6パス目の溶接)、第6の肉盛り部N6が形成される。このとき、第2、第4の境界線L2、L4の中間を第6の狙い位置T6として、溶接がなされる。第6の狙い位置T6を第3の狙い位置T3と同一としても差し支えない。
【0038】
その後、ステップS24、S25が適宜に繰り返され、1層3パスの肉盛り溶接が行われる(図8)。
即ち、第4、第5の肉盛り部N4、N5それぞれの上に、肉盛り溶接して、第7、第8の肉盛り部N7、N8が形成される。第6の肉盛り部N6上に、肉盛り溶接して、第9の肉盛り部N9が形成される。同様に、第7、第8、第9の肉盛り部N7、N8、N9それぞれの上に、肉盛り溶接して、第10、第11、第12の肉盛り部N10、N11、N12が形成される。
【0039】
このとき、第7、第10の肉盛り部N7、N10形成時の第7、第10の狙い位置T7、T10は、第4の狙い位置T4と同様に、第1の境界線L1と、第1の狙い位置T1と、の間である。第4、第7、第10の肉盛り部N4、N7、N10の外周面14側の外形がチップスキーラ12本来の幅Wより内側とならないようにするためである。
但し、第7、第10の狙い位置T7、T10を第4の狙い位置T4と同一としても差し支えない。
【0040】
また、第8、第11の肉盛り部N8、N11形成時の第8、第11の狙い位置T8、T11は、第5の狙い位置T5と同様に、第2の狙い位置T2より内周面15側である。第5、第8、第11の肉盛り部N5、N8、N10の内周面15側の外形がチップスキーラ12本来の幅Wより内側とならないようにするためである。
但し、第8、第11の狙い位置T8、T11を第5の狙い位置T5と同一としても差し支えない。
【0041】
以上のように、チップスキーラ12に肉盛り溶接した後、チップスキーラ12本来の幅Wからはみ出た部分(余肉部)を研削することで、チップスキーラ12が補修される。
【0042】
このように、チップスキーラ12の面取り後に溶接することで、航空機用ガスタービンに対して幅広な産業用ガスタービンのタービン翼のチップスキーラをその本来の幅(チップスキーラ幅)以上に肉盛、補修できる。
【実施例】
【0043】
(実施例1)
被溶接材には、実使用翼材、溶加材にはGTD−111相当粉末を用い、最大肉盛厚さ4mmとしてYAGレーザを用いて、第1実施形態の図5Fに示すように、1層2パスで4層の肉盛溶接を行った。溶接条件としてレーザ出力を400W、溶接速度を150mm/minとし、溶接雰囲気はアルゴン雰囲気、スポット径はφ4mmとした。
【0044】
図9に肉盛り溶接後(仕上げ前)の溶接部断面組織の写真を示す。チップスキーラ12上に、肉盛り部N1〜N8が形成されている。肉盛り部N1〜N8の幅がチップスキーラ幅W以上であることが判る。
【0045】
なお、上面13を示す破線は、溶接前の状態を表す。肉盛り部N1、N2の形成時(第1、第2パス)において、チップスキーラ12の上面13の一部が熔解し、上面13の境界が溶接の前後で異なっている。この事情は、次の比較例1での図10でも同様である。
【0046】
(比較例1)
被溶接材には、実使用翼材、溶加材にはGTD−111相当粉末を用い、最大肉盛厚さ4mmとしてYAGレーザを用いて、比較例の図6に示すように、肉盛溶接を行った。溶接条件としてレーザ出力を400W、溶接速度を150mm/minとし、溶接雰囲気はアルゴン雰囲気、スポット径はφ4mmとした。
【0047】
図10に肉盛後、仕上げ前の溶接部断面組織を示す。チップスキーラ12上に、肉盛り部N1〜N8が形成されている。肉盛り部N1〜N8の幅がチップスキーラ幅Wより狭いことが判る。即ち、肉盛を行うたびに肉盛幅は狭くなり、所定のチップスキーラ幅Wを得ることができていない。
【0048】
(その他の実施形態)
本発明の実施形態は上記の実施形態に限られず拡張、変更可能であり、拡張、変更した実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)チップスキーラ12の外周面14側,内周面15側のいずれか一方、および双方の面取りをした場合に適用できる。
【0049】
(2)上記実施形態では、補修対象をチップスキーラ12としている。これに対して、補修対象を金属からなり、上面、第1、第2の側面を有する板状部材とすることもできる。この板状部材を基準とすると、チップスキーラ12は第1、第2の側面の一方を内周面、他方を外周面とする筒形状を有することになる。
【0050】
(3)上記実施形態では、面取り面16、上面13への一層2パスの肉盛り溶接、面取り面16a、16b、上面13への一層3パスの肉盛り溶接が行われている。これに対して、面取り面16、上面13への一層3パス以上の肉盛り溶接、面取り面16a、16b、上面13への一層4パス以上の肉盛り溶接も可能である。例えば、面取り面16で1パス、上面13で2パスの一層3パスの肉盛り溶接、面取り面16a、16bそれぞれで1パス、上面13で2パスの一層4パスの肉盛り溶接が可能である。
【符号の説明】
【0051】
L1-L3 境界線
N1-N8 肉盛り部
10 ガスタービン翼
11 ガスタービン翼本体
12 チップスキーラ
13 上面
14 外周面
15 内周面
16 面取り面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属からなり、上面、第1、第2の側面を有する板状部材を含むタービン高温部品の補修方法であって、
前記板状部材の上面と第1の側面の間を面取りして、前記第1の側面、前記上面それぞれに対して第1、第2の境界線を有する面取り面を形成する工程と、
前記第1、第2の境界線の中間より、前記第1の側面側を、第1の狙い位置として、前記面取り面上に、肉盛り溶接して、第1の肉盛り部を形成する工程と、
前記第2の境界線と、前記上面と前記第2の側面の第3の境界線と、の間を第2の狙い位置として、前記上面上に、肉盛り溶接して、第2の肉盛り部を形成する工程と、
前記第1の境界線と、前記第1の狙い位置と、の間を第3の狙い位置として、前記第1の肉盛り部上に、肉盛り溶接して、第3の肉盛り部を形成する工程と、
前記第2、第3の境界線の間を第4の狙い位置として、前記第2の肉盛り部上に、肉盛り溶接して、第4の肉盛り部を形成する工程と、
を具備することを特徴とするタービン高温部品の補修方法。
【請求項2】
前記第4の狙い位置が、前記第2の狙い位置より、前記第2の側面側に配置される
ことを特徴とする請求項1記載のタービン高温部品の補修方法。
【請求項3】
前記第1の境界線と、前記第1の狙い位置と、の間を第5の狙い位置として、前記第3の肉盛り部上に、肉盛り溶接して、第5の肉盛り部を形成する工程と、
前記第2、第3の境界線の間を第6の狙い位置として、前記第4の肉盛り部上に、肉盛り溶接して、第6の肉盛り部を形成する工程と、
をさらに具備することを特徴とする請求項1または2に記載のタービン高温部品の補修方法。
【請求項4】
前記面取り面と前記第1の側面のなす角度が45°以上90°未満である
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のタービン高温部品の補修方法。
【請求項5】
前記面取り面の前記上面に沿った幅が、前記板状部材の幅の1/4以上1/2以下である
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のタービン高温部品の補修方法。
【請求項6】
前記第2、第4の肉盛り部を形成する工程での単位長さ当たりでの溶加材の供給量が、前記第1、第3の肉盛り部を形成する工程での単位長さ当たりでの溶加材の供給量より、多い
ことを特徴とする請求項5記載のタービン高温部品の補修方法。
【請求項7】
金属からなり、上面、第1、第2の側面を有する板状部材を含むタービン高温部品の補修方法であって、
前記板状部材の上面と第1の側面の間を面取りして、前記第1の側面、前記上面それぞれに対して第1、第2の境界線を有する第1の面取り面を形成する工程と、
前記板状部材の上面と第2の側面の間を面取りして、前記第2の側面、前記上面それぞれに対して第3、第4の境界線を有する第2の面取り面を形成する工程と、
前記第1、第2の境界線の中間より、前記第1の側面側を、第1の狙い位置として、前記第1の面取り面上に、肉盛り溶接して、第1の肉盛り部を形成する工程と、
前記第3、第4の境界線の中間より、前記第2の側面側を、第2の狙い位置として、前記第2の面取り面上に、肉盛り溶接して、第2の肉盛り部を形成する工程と、
前記第2、第4の境界線の間を第3の狙い位置として、前記上面上に、肉盛り溶接して、第3の肉盛り部を形成する工程と、
前記第1の境界線と、前記第1の狙い位置と、の間を第4の狙い位置として、前記第1の肉盛り部上に、肉盛り溶接して、第4の肉盛り部を形成する工程と、
前記第3の境界線と、前記第2の狙い位置と、の間を第5の狙い位置として、前記第2の肉盛り部上に、肉盛り溶接して、第5の肉盛り部を形成する工程と、
前記第2、第3の境界線の間を第6の狙い位置として、前記第3の肉盛り部上に、肉盛り溶接して、第6の肉盛り部を形成する工程と、
を具備することを特徴とするタービン高温部品の補修方法。
【請求項8】
前記溶接の熱源としてレーザを使用する
ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載のタービン高温部品の補修方法。
【請求項9】
前記レーザの照射方向が前記上面の垂直方向である
ことを特徴とする請求項8記載のタービン高温部品の補修方法。
【請求項10】
前記溶接の溶加材として粉末を使用する
ことを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載のタービン高温部品の補修方法。
【請求項11】
前記板状部材が、前記第1、第2の側面の一方を内周面、他方を外周面とする筒形状を有する
ことを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載のタービン高温部品の補修方法。
【請求項12】
請求項1乃至10のいずれか1項に記載のタービン高温部品の補修方法を用いて補修されたガスタービン動翼。
【請求項13】
請求項12に記載のガスタービン動翼を備えるガスタービン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図5E】
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【図5F】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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