説明

ターボ機械の部品の超音波ショットブラスト方法

本発明は、ソノトロードに接触して始動される雲状の球群により、接近しにくい領域を含む金属表面を超音波ショットブラストする方法に関する。この方法は、表面はフック(20)とブレードの基部との間に設けられた溝(5)を含むターボ機械のブレードを軸方向に保持するフックの表面であり、雲状の球群は前記溝と前記溝の外側の前記表面部(7)とを取り囲むチャンバ(25)内に収容されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接近しにくい領域を有する表面、より具体的には、フックとブレードの脚部との間の溝を含むターボ機械のブレードの軸方向保持フックを処理および圧縮する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービンの航空エンジンでは、タービンディスクの前記ブレードのハウジング内のブレードの軸方向保持フックおよびブレードを軸方向に保持する半径方向溝を含むタービンディスクのリムは強い応力を受ける。ブレードフックは、ディスクの溝に対して高いレベルの静的応力を受け、そのために、ディスクとディスクの面に付けられるフランジとの間が接触および摩耗問題が生じる。
【0003】
現在では、機械的性能を向上させるために、これらの部品の表面は、耐疲労性および耐腐食性を高めるように従来のショットブラストによって処理される。
【0004】
プレストレス付与のショットブラスト工程は、表面硬化によって金属部品の特性を向上させるための機械的処理である。これは、材料の構造変化に基づくものである。従来の方法は、小さな鋼鉄、ガラス、またはセラミック製の球を射出することによって、機械部品を表面圧縮するステップからなる。このショットピーニング工程は、内部圧縮応力の中心(seat)となる圧縮領域を生成するもので、それにより耐性が高められる。
【0005】
従来のショットブラストの例によれば、表面が強度F15A(Almen強度による)で鋼球BA315(直径0.315mmの鋼球)を射出することによって打ち付けられる。処理される表面をカバーするために、ノズルを通って膨張して生成されたガス流束が使用され、このとき、ノズルは部品の表面に平行に移動される、または部品がノズルに対して平行に移動される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】仏国特許第2816538号明細書
【特許文献2】仏国特許第2873609号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特定の領域に接近しにくい場合、このタイプのショットブラストは最適な状態で行うことができない。このような場合、ショットブラストの噴流が表面に直接向けられず、ほとんどの場合、ショットブラストはバウンスによって行われる。
【0008】
バウンスによるショットブラストは、球が表面に当たる運動エネルギーがより弱くなるので、その効果はかなり低くなる。また、場合によっては、圧縮レベルは部品の表面を処理するのに十分ではない。
【0009】
さらに、従来のショットブラストは、ブレードの溝さらにディスクの溝のような接近しにくい領域を十分にカバーできるものではない。
【0010】
また、レーザ衝撃圧縮の使用もこれらの領域には適さない。この場合、これらの領域は引っ込んでいるので、レーザビームが届くことができない。
【0011】
レーザ衝撃処理は、材料内に可塑化衝撃波を生成して材料の表面特性をさらに改善するための方法である。衝撃波は、非常に短時間(数ナノ秒)で、封じ込め媒質の存在下で、材料の表面に非常に強いレーザインパルス(GW/cm2)を収束させることで生成される。処理は、数百マイクロメートルの厚みなどに対して残留圧縮応力を誘発する可能性があり、特に、鋼鉄、アルミニウム合金またはチタンの分野の対象となる用途のさまざまな材料において残留圧縮応力を誘発する可能性がある。処理は、耐疲労性、耐摩耗性、さらに耐腐食性などの表面特性を改善するのに使用される。この技術の利点の1つは、部品の表面状態がほとんど変化しないということである。
【0012】
本出願者は、超音波ショットブラスト方法によって、ガスタービンエンジンの部品の接近しにくい領域を有する、ターボ機械のブレードを軸方向に保持するフックの表面を処理することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0013】
超音波ショットブラスト方法は、金属材料の表面層を圧縮して硬化させることができ、この技術は部品の寿命を改善することになる。方法は、発電機に接続された音響要素によって超音波の周波数に近い周波数でソノトロードを振動させるステップからなる。ソノトロードを介して、さまざまな種類の球がショットブラストされなければならない材料に向かって射出される。
【0014】
接近しにくい領域の従来の表面処理方法の欠点を克服するために、本発明は、従来のショットブラストまたはレーザ衝撃のような方法では表面を完全にカバーすることができないようなブレードの溝のような前記領域に超音波ショットブラスト方法を適用するものである。
【0015】
本発明によれば、ソノトロードに接触して始動される雲状の球群により、接近しにくい領域を含む金属表面を超音波ショットブラストする方法は、表面はフックとブレードの脚部との間の溝を含むターボ機械のブレードを軸方向に保持するフックの表面および前記溝外側の表面部であり、雲状の球群は前記表面を取り囲むチャンバ内に収容されることを特徴とする。
【0016】
有利には、方法を適用することで、接近しにくい領域をより深く圧縮することができ、ひいては、損傷(疲労、フレッチングなど)に対する耐性を向上させることができる。
【0017】
ショットブラスト方法は、鋼鉄、チタン合金、ニッケル系超合金またはアルミニウムを含む群から選択された材料で作られた部品を対象とする。
【0018】
方法を適用する利点は、材料が隅で折れ曲がることなく、完全にカバーし、より良好な表面状態を得ることができる点である。別の利点は、この方法は反復性が高いという点である。
【0019】
本発明は、フックの前記溝が幅1.5mmから10mm、深さ1.5mmから20mmである場合を対象とする。
【0020】
特に、直径が2.5mm以下、重量が0.5g以上、直径が300μmから2.5mmの特徴を有する球を使用する。
【0021】
これらは、炭素含有量の少ない鋼製軸受球であり、ソノトロードの振動振幅は、20μm以上である。
【0022】
処理時間は、5から200秒であるのが好ましい。
【0023】
ソノトロードは、チャンバの壁の一部を形成する。
【0024】
溝とブレード脚部との超音波ショットブラストを行うことでタービンロータのブレードのアタッチメントの寿命を延ばす方法を記載した、仏国特許第2816538号明細書が知られている。ショットブラストは、粗度を増大させずに接触面の圧縮プレストレスを増大させるために、少なくともF8AのAlmen強度で行われる。球は、振動するように設定されたソノトロードの震動によって射出され、環状または軸方向の溝によって形成されたチャンバに収容され、ソノトロードは溝口に挿入されて、2つの耳部が横方向開口部をカバーする。この仏国特許の教示では、ブレードを収容する溝が壁のあるチャンバを形成することができるので、処理される領域の接近し易さは問題ではない。
【0025】
仏国特許第2873609号明細書は、超音波ショットブラストおよびに射出物の使用に関するものである。射出物を使用することによって、射出物よりも小さい曲率半径を有する凹面の適切な処理強度を得ることができる。射出物は、その寸法は小さいが硬度および密度はともに高く、このような射出物を使用することで、従来の小さな曲率半径を有する射出物では接近しにくい領域を処理することができる。これらの射出物は、部品内に所望のレベルの応力を生成するのに十分な大きさの運動エネルギーを得ることができる。この仏国特許は、処理される表面の構造に適したチャンバの多数の実施形態を示している。しかしながら、その教示は、小さい開口部を有する溝のある一部を有する部品の処理を含まない。
【0026】
本発明の目的、態様、利点は、種々の実施形態の以下の説明を読めば、より十分に理解される。これらは、非限定的な例として説明されている。添付の図面は、以下の通りである。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】ターボ機械のブレードのフックを示す図である。
【図2】X線回析による応力解析の領域の概略図である。
【図3】図2の解析領域Aにおける従来のショットブラストによって得られた応力のプロフィールであり、x軸が深さミクロン、y軸が残留応力値Mpaで示された図である。
【図4】ブレードフックの超音波ショットブラストを可能にする手段を示す図である。
【図5】図2の解析領域Aにおける、超音波ショットブラストによって得られた応力のプロフィールを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
ジェットエンジンでは、ロータディスクはリムを有し、その周囲に複数の取り外し可能なブレードが取り付けられる。ブレードは、リムに機械的処理された軸方向溝内に取り付けられ(例えば、ダブテール状に)、ブレードの基部で機械的処理された脚部(これもダブテール形状で)を備え、脚部を溝に嵌合させることで組み立てられる。ブレード脚部は、わずかな遊びを持たせて摺動させることで溝に嵌合される。脚部は、ブレードの脚部に取り付けられた軸方向保持フックによって、軸方向に固定される。フックは、ブレードの脚部とフックとの間に位置決めされた横方向保持リングと協働する。したがって、溝は、ブレード脚部の軸方向運動を有する。ブレードの脚部の上にあるプラットフォームは、ガスの墳流の範囲を画定する。材料は、鋼鉄、チタン合金、ニッケル系超合金、またはアルミニウムを含む群から選択される。
【0029】
図1は、本発明の方法の適用に関係する形状を示す図である。処理される表面は、フック20とブレードの脚部13との間に形成される溝5の内側と、隣接する外側表面部7とを含む。処理される表面は、逆U字型の領域5からなる。この領域の幅は1.5mmから10mmであり、深さは1.5mmから20mmである。処理される表面はさらに、溝5の外側のフックの表面部7も含む。
【0030】
フックは、大きな応力を受ける、つまり、前記フックにかかる高いレベルの静的応力は破損や摩耗の問題を招く恐れがある。
【0031】
図4は、フックを超音波ショットブラストされることができるように作成された手段を示す図である。ブレード10は、概略的には、ベーン11と、例えば、ダブテール形状断面、場合によっては、支柱を有する脚部13とを備える。プラットフォームは、脚部13とベーン11との間に置かれる。
【0032】
手段30は、振動面32を有する支持プレートと、超音波周波数の振動を生成する手段によって励起されるソノトロード(図示せず)とを備える。前記振動面は、チャンバ25の作用壁となる。壁31によって画定されるこの体積の中で、チャンバの振動面32の片側に、開口部26が設けられ、そこを通ってブレード10のフック20が導入される。開口部26は、フックを有するブレードの脚部の面によって塞がれる。
【0033】
このようにして、フック20はチャンバ内に収容される。溝5と、溝に近接し溝の外側にあるフックの表面部7とは、チャンバ内に収容される。この場合の溝は、幅3.2mm、深さ7.26mmである。
【0034】
振動面32は、フック20から近距離に位置する。振動面32は、溝5よりも幅が広く、溝5の外側のフックの表面部の少なくとも一部の方を向いている。
【0035】
直径1.5mmの球2が、開口部26を通ってチャンバ25内に導入される。振動面32がソノトロードによって超音波振動を受けると、雲状の球群がチャンバ25内で作られる。球はフック20に向かって射出され、前記溝5の壁および近接する表面部7にぶつかる。
【0036】
超音波振動の周波数、振動面32の寸法および直径、球の材料および重量は、フックの溝の領域さらに溝の外側の表面部が非常に短時間で均一にショットブラストされるように選択される。
【0037】
上述の例で、手段を使用して超音波ショットブラストを調整した後、保たれるパラメータは、以下の表の通りである。
【表1】

【0038】
超音波ショットブラストの1つの大きな利点は、少量の球を使用して実施できることである。したがって、このケースでは、鋼製軸受球のような高品質の球を使用することができる。これらの球は、炭化タングステン球よりも硬度が高い。鋼製軸受球は破損しない上に完全な球形であり、そのために、ショットブラストされた部品の表面の粗度を上げる可能性のある鋭い縁部を形成しない。
【0039】
ショットブラスト時間はカバレッジレートに応じて決定される。カバレッジレートは衝突される表面とショットブラストにさらされる全表面積との比率である。
【0040】
125%に相当するカバレッジレートでは、ショットブラスト時間は75秒であることを示している。
【0041】
超音波ショットブラストの調整は、幅3.2mm、深さ7.26mmの領域にわたってフック20上で行われる。方法に使用されるパラメータは、球の直径300μmから2.5mm、重量0.5から5g、振幅20から500μm、処理時間5から200秒とした。
【0042】
図2に見られるように、応力は、溝を含むブレードの脚部の領域AおよびBで測定される。領域Aは、溝5の横方向表面によって画定される脚部13の体積によって形成され、領域Bは溝5の底部によって画定される脚部13の体積によって形成される。これらの領域は、X線回析によって深さに対する残留応力を決定するために測定される。図3には、BA315(直径0.315mmの鋼球)および強度F15A(Almen強度による)の従来のショットブラストによって得られた応力プロフィールの結果が示されている。
【0043】
図5は、図2に示されたフック20の領域2において、本発明の対象の超音波ショットブラストによって得られた応力のプロフィールを示す図である。
【0044】
従来のショットブラストによって得られた結果(図3)を超音波ショットブラストによって得られた結果(図5)と比べると、処理された表面の領域Aでは、同じ応力レベルが観察できる。しかしながら、超音波ショットブラストによって、ずっと深くまで(顕著に従来のショットブラストに対して100%の割合で)応力を得ることができる。
【0045】
図2の領域AおよびBでは、超音波ショットブラストによって得られたカバレッジレートをチェックするために、SEM(走査電子顕微鏡法)分析が行われた。
【0046】
SEM分析は、サンプルの反射像(100,000倍以上に拡大された)を生成し、別の方法では検出できないような細部を明らかにする。
【0047】
この分析の結果は、フック20の領域AおよびBを完全にカバーできること、キズが残らないこと、衝突により折れ曲がらないことを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソノトロードに接触して始動される雲状の球群により、接近しにくい領域を含む金属表面を超音波ショットブラストする方法であって、表面がフック(20)とブレードの脚部との間に設けられた溝(5)を含むターボ機械のブレードを軸方向に保持するフックの表面および前記溝外側の表面部(7)であり、雲状の球群が前記溝と前記溝の外側の表面部(7)とを取り囲むチャンバ(25)内に収容されることを特徴とする、ショットブラスト方法。
【請求項2】
前記溝(5)が、幅が1.5mmから10mmで、深さが1.5mmから20mmである、請求項1に記載のショットブラスト方法。
【請求項3】
(a)2.5mm以下の直径
(b)0.5g以上の重量を有する球が使用される、請求項1または2に記載のショットブラスト方法。
【請求項4】
球の運動の振幅が、20μm以上である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
処理時間が、5から200秒である、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
球は、直径が300μmから2.5mmである、請求項1に記載のショットブラスト方法。
【請求項7】
球が、鋼製軸受球または炭化タングステンもしくはアルミニウム製の球である、請求項1に記載のショットブラスト方法。
【請求項8】
ソノトロードが、チャンバ(25)の壁の一部を形成する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
フックが、鋼鉄、チタン合金、ニッケル系超合金またはアルミニウムを含む群から選択された材料で作られる、請求項1から8のいずれか一項に記載のショットブラスト方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2011−516291(P2011−516291A)
【公表日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−504478(P2011−504478)
【出願日】平成21年4月17日(2009.4.17)
【国際出願番号】PCT/EP2009/054595
【国際公開番号】WO2009/127725
【国際公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【出願人】(505277691)スネクマ (567)