説明

ターボ機械ナセル及び氷結防止システム並びにその方法

【課題】航空機エンジンナセル用の氷結防止システム及び方法を提供する。
【解決手段】航空機エンジンナセル用の氷結防止システム60は、入口リップ56の断面形状に共形の断面形状を有する少なくとも1つの加熱素子62を含み、ここにはカーボンナノチューブが加熱素子62に電流を導通させるように配向及び配列される。加熱素子62に電流を通すことによって、加熱素子62のジュール発熱及び熱伝導による入口リップ56の加熱が生じるようになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターボ機械に関し、より詳細には、複合材料から少なくとも部分的に製造された航空機エンジンナセル用の氷結防止及び除氷システムに関する。
【背景技術】
【0002】
高バイパスターボファンエンジンは、亜音速で動作する高性能航空機に広く利用されている。図1に概略的に示すように、高バイパスターボファンエンジン10は、より大きな推力を発生し、燃料消費率を低減するために、エンジン10の正面に配置された大型ファン12を含む。ファン12は、流入空気14を加圧する役割を果たし、その一部がコアエンジン(ガスタービン)16に流入し、該コアエンジンは、更に空気を加圧するための低圧及び高圧圧縮機段18A及び18Bを収容する圧縮機セクション18と、燃料が加圧空気と混合されて燃焼する燃焼室20と、タービンセクション22とを含み、該タービンセクションでは、高圧タービン22Aが燃焼ガスからエネルギーを抽出して、圧縮機セクション18の高圧段18Bを駆動し、低圧タービン22Bが燃焼ガスからエネルギーを抽出して、ファン12及び圧縮機セクション18の低圧段18Aを駆動する。ファン12に流入する空気の大部分はエンジン10の後部にバイパスされ、追加のエンジン推力を発生する。バイパス空気は、ステータベーンの1つ又はそれ以上の列を収容する環形バイパスダクト24を通過し、該環形バイパスダクト24はまた出口ガイドベーン28(OGV)とも呼ばれ、ファン12及びそのファンブレード26の直ぐ後方に位置付けられている。ファンブレード26は、ファンカウリング又はナセル30により囲まれ、該ナセルは、バイパスダクト24から流出するバイパス空気のためターボファンエンジン10並びにファンノズル34への入口ダクト32を定める。
【0003】
ナセル30は、重要な構造構成要素であり、その設計考慮事項は、空力基準並びに異物損傷(FOD)に耐える能力を含む。これらの理由から、ナセル30の製造時に適切な構造、材料、及び組み立て方法を選択することが重要である。種々の材料及び構成が考慮されており、金属材料及び特にアルミニウム合金が広く使用されている。グラファイト強化エポキシ積層体などの複合材料もまた、これらがエンジン効率を促進し且つ燃料消費率(SFC)を改善するような空力基準、輪郭制御、及び重量軽減に適合するのに十分なサイズの一体部品として製造できる能力を含む利点を提供するので考慮されている。
【0004】
航空機エンジンナセルは、航空機エンジンナセル、特に入口リップ(図1の36)におけるナセル前縁は、エンジンが着陸状態及び特に飛行条件下にある間、氷結条件に曝される。ナセル入口リップ上の着氷の除去(除氷)及び着氷防止(氷結防止)のための1つの公知の手法は、高温空気ブリードシステムを使用することによるものであった。1つの実施例が図1に概略的に示されており、ここでエンジン供給ブリード空気流が燃焼室20から配管38を通じて入口リップ36に引き込まれ、高温のブリード空気は、入口リップ36の内表面と接触し、リップ36を加熱して氷生成を排除/阻止する。配管38は、ピッコロ管40と一般的に呼ばれる管構成を含み、Dダクト42と呼ばれる場合もあるナセル30の環形キャビティ内にある。管40は、Dダクト42を高温ブリード空気で完全に満たし、入口リップ42の十分な加熱を確保する。このタイプのシステムは有効であるが、Dダクト42を充填し且つ氷結防止機能を実施するのに必要な熱エネルギーを提供するのに大量のブリード空気が必要となる。エンジン10からブリードされた高温の空気は、対応してエンジン性能に悪影響をもたらし、エンジン効率(SFC)を損なう。加えて、図示のタイプの高温ブリードシステムは、顕著な重量上の欠点を生じる場合がある。
【0005】
代替として、一部の小型のターボファン及びターボプロップ航空機エンジンは、電気エネルギーをジュール加熱による熱に変換する電気氷結防止システムを利用していた。抵抗型ヒータワイヤを加熱素子として使用することができるが、最新の実施例では、GrafTech International Holdings Incによる商品名GRAFOIL(登録)で商業的に入手可能な可撓性グラファイト材料を用いている。加熱素子は、シリコンゴムのようなブーツで具現化され、ナセル入口リップの内部前縁に取り付けされる。このようなシステムの欠点は、図1に示すタイプの高バイパスターボファンエンジンのような、大型の航空機エンジンに除氷及び連続氷結防止動作を行うために通常は過剰なエネルギーを必要とすることである。更に、氷結防止システムは、比較的重量があり、エンジン効率/性能を損なう。
【0006】
更に別の選択肢は、化学除氷剤を放出する「浸出」システム、及び着氷に亀裂を生じさせる膨張ブラダーを備えた除氷ブーツを含む。浸出システムの注目すべき欠点は、化学的除氷剤が高コストであること、航空機が常に除氷剤を保持する必要があること、及び飛行中に化学的除氷剤の供給源が使い果たされた場合にシステムが利用不能になることが含まれる。除氷ブーツの欠点は、ブラダーを膨張させるポンプが必要であること、及び耐用年数が比較的短いことが含まれる。
【0007】
上記の観点から、特に全体のエンジン性能を向上させるため複合材料から製造されるナセル及び他の翼形部表面の使用に関して、重量及び出力要件に対するあらゆる悪影響を最小限にしながら、除氷及び氷結防止機能を提供できる新規の技術を開発するための継続的な取り組みがなされている。しかしながら、従来のアルミニウム合金製のナセル及びウィング構造の代わりにこのようなグラファイト強化エポキシ積層体などの複合材料を使用することは、積層複合材が厚み方向の(従って、隣接積層間の)熱伝導率が比較的不十分であり、従来の氷結防止システムがナセルの外表面を加熱して着氷を排除及び阻止することができる効率を低下させるので、氷結防止システムに対して追加の問題が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第7,629,558号公報
【発明の概要】
【0009】
本発明は、航空機エンジンナセル上の着氷の除去(除氷)及び着氷防止(氷結防止)のためのシステム及び方法を提供し、その非限定的な実施例は、複合材料から部分的又は完全に製作されたナセルである。
【0010】
本発明の第1の態様によれば、ナセルは、該ナセルの前縁を定め、且つ断面形状と、逆向きに配置される外表面及び内表面とを有する入口リップを含む。氷結防止システムは少なくともナセルの入口リップに接触する。氷結防止システムは、入口リップの断面形状に共形の断面形状を有する(入口リップの形状に沿う形状を有する)少なくとも1つの加熱素子を含み、該加熱素子には、カーボンナノチューブが加熱素子に電流を導加熱素子通させるように配向及び配列されている。ナセルは更に、加熱素子に電流を通して加熱素子のジュール発熱及び熱伝導による入口リップの加熱を引き起こす手段を含む。
【0011】
本発明の第2の態様によれば、上述の構成は、ナセルの入口リップ上の着氷を排除及び阻止することができる方法を提供する。このような方法は、断面形状と逆向きに配置される外表面及び内表面とを有するように入口リップを製作する段階と、入口リップの断面形状と共形の断面形状を有する少なくとも1つの加熱素子を含む氷結防止システムとナセルの少なくとも入口リップとを接触させる段階と、を含み、氷結防止システムではカーボンナノチューブが加熱素子に電流を導通させるように配向及び配列される。本方法は更に、加熱素子に電流を通して加熱素子のジュール発熱及び熱伝導による入口リップの加熱を引き起こすようにする段階を含む。
【0012】
本発明の技術的効果は、運転に必要なエネルギーを最小限にしながら、エンジンに最少重量を提供する航空機エンジンナセル用の氷結防止システムを提供できることである。本発明の実施形態はまた、ナセルの外表面うぃ加熱して着氷を排除及び阻止することができる効率を向上させることができる。
【0013】
本発明の他の態様及び利点は、以下の詳細な説明からより良く理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】高バイパスエンジンの概略断面図。
【図2】本発明の実施形態による、ターボファンエンジンのナセル入口リップの断面を示す詳細図。
【図3】図2のナセル入口リップの詳細断面図。
【図4】図3のナセル入口リップの詳細平面図。
【図5】本発明の実施形態による、ターボファンエンジンのナセル入口リップの断面を示す詳細図。
【図6】図5のナセル入口リップの詳細断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図2から6は、航空機エンジンナセル50又は70と組み合わせて氷結防止及び除氷機能(以下、単に氷結防止と呼ぶ)が設けられた本発明の2つの実施形態を提示しており、これらは、入口リップにおいて少なくともそのセクションが複合材料から作られるように製造することができる。本発明は、高バイパスターボファンエンジンでの使用に特に好適であり、その実施例は、図1に示すターボファンエンジン10であるが、他の用途も予期される点を理解されたい。便宜上、本発明は、図1のエンジン10に関して説明するが、図2から図6の実施形態に関して説明する本発明の詳細事項によりある程度は修正される。
【0016】
図2から6のナセル50及び70は、金属合金及び特にアルミニウム合金などを含む、様々な材料から形成することができる。しかしながら、本発明の好ましい態様は、ナセル50及び70、或いは複合材料により、入口リップ56及び767にてそれらの後縁を形成するナセル50及び70の少なくとも一部を提供する機能である。好ましい複合材料は、織地又は連続繊維強化材料を含有する複合積層体、並びに十分な温度及び衝撃耐性を示す最新のマトリクス材料を含むと考えられる。複合材料の繊維強化構成要素は、所望の繊維構成を有する公知の繊維材料で生産することができる。例えば、炭素(グラファイト)繊維から形成される織地は、特に好適な強化材料と考えられるが、炭素繊維に加えて、又はその代わりに他の繊維材料を用いることができることが予期される。繊維構成は、ナセル50及び70の厚みを通る貫通面熱伝達を促進することができる3次元編み又は編み組技術を含む、公知の繊維編み及び編み組技術を用いて作ることができる。複合材におけるマトリクス材料の基本的役割は、繊維強化材料並びに複合構造体全体の構造強度及び他の物理的特性をもたらすことである。マトリクス材料はまた、熱的に劣化又は他の方法で繊維強化材料に悪影響を与えない温度及び条件下で硬化可能にする必要がある。これに基づいて、特に好適な樹脂材料は、ポリ(アリール)エーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリ(アリール)エーテルケトンケトン(PEKK)、ポリフェニレン・サルファイド(PPS)、及びエポキシなどの熱可塑性プラスチックであると考えられるが、他のマトリクス材料の使用も予期される。
【0017】
本発明の別の好ましい態様によれば、ナセル入口リップ56及び76の少なくとも外側セクションは、表面にわたる層流を妨げるあらゆるステップ又はギャップを排除するため一体成形品として作られる。より詳細には、ナセル50及び70の各々は、好ましくは、その入口リップ56及び76で始まり、ナセルの最大直径を定める部分(図1の44で識別される)に向かって後方に続く連続一体成形複合構造を有するように形成される。ナセル50及び70(又は少なくとも複合材料から形成される部分)を製作する好適な方法は、樹脂トランスファー成形(RTM)、圧縮成形、高圧蒸気硬化、及び真空支援樹脂トランスファー成形(VaRTM)を含み、これらは、樹脂含浸処理された積層複合構造を製作するのによく知られている。最終的に、軽量発泡体又はハニカムポリマー材料などのコア材料(図示せず)をナセル50及び70の積層構造内に導入することは本発明の範囲内にあり、同様に、エンジン入口、逆推力装置、コアカウル、及びトランスカウル、並びに音響パネルを含む他の航空構造体などの航空機エンジンナセル構成部品において一般的である。
【0018】
上記の材料の観点において、ナセル50及び70は、従来技術においてこれまで使用されているアルミニウム又は他の金属合金から形成されたナセルよりもかなり軽量にすることができる。ナセル50及び70の厚みは、不必要に重量に寄与することなく、構造的一体性を提供するのに十分でなければならない。幅広い範囲の厚みが可能であるが、約1.5から約2.5ミリメートルが好適な範囲と考えられる。
【0019】
上述のように、本発明の特定の態様は、上述のタイプの複合材ナセルと組み合わせて氷結防止機能を提供することである。図2を参照すると、ナセル50の断面は、本発明の第1の実施形態を示している。図1に示される従来技術のナセル30と同様に、ナセル50は、ターボファンエンジンの入口ダクト52、外側バレル54及び入口リップ56、並びにバイパス空気が流れるバイパスダクト及びファンノズル(図2には示していない)を定める。上記で検討したように、ナセル50及びより具体的にはその外表面58は、エンジンが着陸及び飛行条件下にある状態の間氷結条件に曝される。図2の実施形態は、氷結に最も曝されるナセル50の当該部分、すなわち入口リップ56における外表面58、及び入口リップ56の直ぐ後方の入口ダクト52及び外側バレル54の部分の局所的加熱を提供するよう構成されたヒータストリップを含む氷結防止システム60を利用する。氷結防止システム60は、(図1から明らかなように)ナセル50の形状に対応する環状形状を有するように構成することができる。図2に示すように、システム60は、入口リップ56の近傍においてナセル50の内表面59に密接に一致するU字断面と、入口ダクト52及び外側バレル54の隣接部分とを有する。
【0020】
本発明の好ましい態様によれば、ヒータストリップ62は、カーボンナノチューブ(CNT)、及びより好ましくはカーボンナノチューブの不織布地(NWT)又は織布(WT)を含み、各ストリップ62が、ナセル50の内表面59に処理され、埋め込まれ、又は浸透されて接合することができる単体構造のマットである。重要なことに、ナノチューブは、ヒータストリップ62内で不規則には分散されておらず、互いの接触を確保してナノチューブが、例えば各ストリップ62の長さ方向及び/又は幅方向で電流を導通できるように、各ストリップ62内で意図して配向及び配列される。カーボンナノチューブの特に好適な不織布地は、New Hampshire州Concord所在のNanocomp Technologies, Inc.,により開発されており、Lashmore他に付与された米国特許公開出願2009/0277897号に記載されている。カーボンナノチューブ並びにその形成された布地の組成、構造、及び製造に関する公開出願の内容は、引用により本明細書に組み込まれる。Lashmore他が報告しているように、カーボンナノチューブは、単層(SWNT)、二層(DWNT)、又は多層(MWNT)とすることができ、個々のカーボンナノチューブは、例えば、1ナノメートルから約10ナノメートルよりも小さい直径範囲、並びに例えば、最大で約1ミリメートル又はそれ以上の長さの範囲で製作及び使用することができる。Lashmore他はまた、不織カーボンナノチューブ(並びに恐らくは織成カーボンナノチューブ)のシートは、ナノチューブを接合し任意選択的にナノチューブ間の空隙を充填するために種々の公知の技術を用いて、樹脂材料でコート及び浸透させることができ、その非限定的実施例は、フルフリルアルコール(COCHOH)である。本発明によれば、別の実施可能なコーティング/浸透材は、積層ナセル50のマトリクスを形成するのに使用される樹脂である。上述のタイプのカーボンナノチューブベースの材料は、銅線などの従来の抵抗加熱材料よりも効率的に熱を発生することができると考えられており、実質的に等しい質量又は断面積を有する銅線よりも高い出力及び電圧レベルで利用することができ、ヒータストリップ62の効率を高め、熱出力を更に大きくすることができる。
【0021】
図3及び4は、平行縦列66で配列された複数のヒータストリップ62を備えるような氷結防止システム60を示している。ヒータストリップ62の縦列66は、縦列66に平行な面で氷結防止システム60の可撓性を有利に促進するよう構成することができる。図2に示すように、縦列66は、図2のナセル50の放射形状に沿って配列され、入口リップ56の内表面59の外形に密接に一致させる氷結防止システム60の機能を促進することができる。各縦列66内のストリップ62は、互いに近接して離間し、任意選択的には接触した状態で示されているが、隣接ストリップ62間にギャップを設けることもできる。ヒータストリップ62の端部は、コンタクト68により接続されて図示され、例えば、ストリップ62の横列間のコンタクト68に供給される電流が外側コンタクト68の対応する1つに向かって各ストリップ62を流れるように配列される。コンタクト68は、限定ではないが、1つ又はそれ以上の導電性材料又は金属合金の電気めっきなどの堆積プロセスを含む、あらゆる好適な方法で形成することができる。図4に示すように、コンタクト68は、好ましくは、各ヒータストリップ62の幅全体に接触し、これらの間の電気的接触を最大にして電気的界面抵抗を低下させるようにする。コンタクト68とヒータストリップ62との間の電気的接触を向上させるためには、Lashmore他は、ガラス状炭素材料などのカップリング機構を利用して、コンタクト68とヒータストリップ62との間の接触を向上させることができると示唆している。何れにしても、ジュール熱により熱を発生させるために好適な電力源(図示せず)によりヒータストリップ62に十分な出力を供給することができ、これによって熱伝導による入口リップ56の加熱を生じさせる。
【0022】
図2及び3に示すように、氷結防止システム60は、ヒータストリップ62を流れる電流からナセル50を電気的に絶縁するために、ヒータストリップ62とナセル50の内表面59との間に電気絶縁層64を含む。ナセル50への熱伝達が熱伝導によるものであるので、絶縁層64は、ナセル50への熱伝達(伝導)に対して最少の影響にするよう選択する必要がある。非限定的な実施例として、ポリイミドは、電気絶縁特性と適切な熱伝導率の両方を示すポリマー材料の一種であるが、当業者であれば、絶縁層64用に種々の他の可能性のある材料があることを認識するであろう。絶縁層64は、好ましくは0.15ミリメートル厚よりも大きくなく、より好ましくは約0.05から約0.01ミリメートル厚で、ヒータストリップ62はナセル50に近接近しているようになる。ヒータストリップ62が絶縁層64に直接接触し、且つ該絶縁層64がナセル50の内表面59に直接接触している結果として、氷結防止システム60は、ナセル50の内表面59に直接接触して示されている。
【0023】
種々の技術を利用して、氷結防止システム60をナセル50の内表面59に取り付け又は他の方法で装着することができる。好ましい方法は、熱伝導性接着剤の積層を施工することであるが、他の方法も本発明の範囲内にある。氷結防止システム60全体は、比較的薄い断面を有することができ、最大でナセル50に典型的な厚み(例えば約3ミリメートル以下)であるのが好ましく、従って、ナセル50に対し最少重量を提供することができる。本発明に至る調査において、約1インチ×約8.5インチ×約0.06インチ(約2.5×22×0.15cm)の寸法を有する不織布材料のストリップをカーボンナノチューブから形成した。導電性接着剤、圧着、又はその両方を用いてこの銅製シートを取り付けることにより、ストリップの長手方向端部にて電気的接触が形成された。次いで、ストリップは、EPON862エポキシ接着剤(Shell Chemical Company)を用いてグラファイト強化エポキシ積層体に接合され、短絡を阻止するために、0.001インチ(約25マイクロメートル)のポリイミド絶縁層でストリップを積層体から隔離した。次に、DC電源を用いてコンタクトの両端にある範囲の電圧を加えた。熱探知カメラを用いてストリップ積層組立体の温度分布を測定し、ストリップの長さに沿ってほぼ均一(約97.4℃)で、積層体の幅にわたってほぼ放物線状であり、ストリップからのその幅のおよそ半分の距離で積層体に有意な発熱が生じていることが分かった。これらの結果から、カーボンナノチューブストリップは、グラファイト強化エポキシ積層体用の氷結防止ヒータ素子として極めて有効であり、従来技術の既存の加熱素子よりも有意に効率的であると結論づけられた。
【0024】
図5及び6は、複合材ナセル70と組み合わせて氷結防止機能を提供する別の実施形態を示している。図2の別個の氷結防止システム60とは対照的に、図5及び6の実施形態は、ナセル70の積層複合構造に組み込まれた氷結防止システム80を示している。図5及び6の氷結防止システム80の種々の態様は、図2から4の氷結防止システム60について記載したものと同じ又は同様とすることができ、従って、以下の説明では、図2から4及び図5及び6の実施形態の間の主要な相違点についてのみ焦点を合わせることにする。
【0025】
図2とは対照的に、ナセル70の積層構造は、異なる組成の個々の積層体82、84、及び86から構成されるように示されている。ナセル70の積層構造の不可欠な要素として、積層体82、84、及び86の全ては、入口リップ76の領域においてナセル70の断面形状に共形の断面形状を有する。ナセル70の外表面78に位置する積層体86は、グラファイト強化エポキシ積層体などの樹脂含浸処理された織地から形成されるのが好ましい。ナセル70は、外表面78に位置する積層体86と同様又は同一の追加積層体86を含む。これらの積層体86は、ナセル70内の主要な構造上の役割を示すために構造積層体86と呼ぶことにする。ナセル70の積層構造内の他の積層体82は、図5及び6の氷結防止システム80に関連する主要な役割を示す、加熱積層体82と呼ぶことにする。図6は、ナセル70の内表面79に定められ又は他の方法で位置付けられた加熱積層体82の1つと、ナセル70内全体として他に2つの加熱積層体82を示しており、3つの加熱積層体82全ては、第3のタイプの積層体によって構造積層体86から分離され、該第3のタイプの積層体は、絶縁積層体84と呼ばれ、隣接する構造積層体86から加熱積層体82を電気的に絶縁する。図2から4の実施形態における絶縁層64と同様に、絶縁積層体84は、ナセル70の重量にあまり大きな影響を及ぼさないように、最少の厚み(例えば、0.15ミリメートルよりも大きくなく、より好ましくは約0.05から約0.1ミリメートル)で好適に高い電気絶縁特性及び十分に高い熱伝導率を示す材料から形成することができる。
【0026】
図5及び6の実施形態は、図6に示す積層体82、84、及び86の特定の数及び配列に限定されない点は理解されたい。更に、第1の実施形態と同様に、ナセル70の積層構造は更に、上述のように軽量発泡体又はハニカムポリマー材料などのコア材料(図示せず)を含有することができる。氷結防止システム80が組み込まれた積層ナセル70全体は、加熱積層体82が存在しない場合に必要となるよりも僅かに大きい断面厚みを有することができる。
【0027】
図2から4の実施形態で使用されるヒータストリップ62と同様に、加熱積層体82は、好ましくはカーボンナノチューブを含有し、ナセル70、又は加熱積層体82を収容し且つ氷結に最も曝されるナセル70の少なくとも一部分、すなわち入口リップ76と、入口リップ76の直ぐ後方の入口ダクト72及び外側バレル74の部分を加熱するのに好適な電源(図示せず)に電気的に接続される。同様に前述の実施形態と一致して、積層体82は、Lashmore他に付与された米国特許公開出願2009/0277897号に記載されるような、カーボンナノチューブの不織布地(NWT)又は織布(WT)を含むことができる。積層体82は、構造積層体86に使用されるのと同じエポキシ樹脂マトリクス材料で浸透され、積層体82及び86をナセル70の積層構造の硬化中に共に硬化することができる。電気的コンタクト88は、ナセル70の内表面79に位置する少なくとも加熱積層体82と電気的に接触し、より好ましくはナセル70の積層構造内で加熱積層体82の各々と接触するよう積層ナセル70の層を突き出るピン又はプローブとして概略的に示されている。コンタクト88に十分な出力が印加され、加熱積層体82内のカーボンナノチューブ材料のジュール加熱を引き起こし、熱伝導による入口リップ76の加熱を生じる。
【0028】
図5及び6の実施形態は、ナセル70の積層構造内に加熱積層体82を配置し、加熱積層体82をナセル70に取り付けるために積層構造のマトリクス材料に依存する利点を有する。結果として、加熱積層体82は、ナセル70の外表面78をより効率的に加熱し、着氷を排除及び阻止することができる。更に、ナセル70は、メッシュ及び可撓性グラファイト材料(例えば、GRAFOIL(登録))が組み込まれた積層構造と比較して、層間剥離及び疲労破壊に良好に耐えることができる必要がある。また、積層構造のマトリクス材料を用いて、加熱積層体82と構造体の残りの層との間の電気的絶縁を提供し、更にナセル70に対して氷結防止システム80により提供される追加の重量を最小限にすることができる。積層構造においてカーボンナノチューブ層を使用することにより生じると考えられる他の利点は、ワイヤメッシュ及び可撓性グラファイト材料などの従来の加熱素子と比べて、面内及び面外強度をより強くし、熱分解温度がより高くなることを含む。
【0029】
特定の実施形態について本発明を説明してきたが、当業者によれば他の形態を導入することができる。例えば、ターボファンエンジン10及びナセル30、50、及び70の物理的構成は、図に示すものとは異なることができ、記載されたもの以外の材料及びプロセスを使用してもよい。従って、本発明の範囲は、添付の請求項によってのみ限定されるものとする。
【符号の説明】
【0030】
10 エンジン
12 ファン
14 空気
16 ガスタービン
18 セクション
18A 段
18B 段
20 燃焼室
22 セクション
22A タービン
22B タービン
24 ダクト
26 ブレード
28 ベーン
30 ナセル
32 ダクト
34 ノズル
36 リップ
38 配管
40 管体
42 D−ダクト
44 ナセル
50 ナセル
52 ダクト
54 バレル
56 リップ
58 表面
59 表面
60 システム
62 ストリップ
64 層
66 横列
68 コンタクト
70 ナセル
72 ダクト
74 バレル
76 リップ
78 外表面
79 表面
80 システム
82 積層体
84 積層体
86 積層体
88 コンタクト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
航空機エンジン(10)への入口に設置され、前縁を定め且つ断面形状と逆向きに配置される外表面及び内表面(58/78、59/79)とを有する入口リップ(56、76)を含むナセル(50、70)であって、
前記ナセル(50、70)の少なくとも前記入口リップ(56、76)に接触し、該入口リップ(56、76)の断面形状に共形の断面形状を有する少なくとも1つの加熱素子(62、82)を備えており、前記加熱素子(62、82)に電流を導通させるように配向及び配列されたカーボンナノチューブを含む氷結防止システム(60、80)と、
前記加熱素子(62、82)に電流を通して前記加熱素子(62、82)のジュール発熱及び熱伝導による前記入口リップ(56、76)の加熱を引き起こす手段(68、88)と、
を備える、
ことを特徴とするナセル(50、70)。
【請求項2】
前記ナセル(50、70)の少なくとも前記入口リップ(56、76)が積層構造を有する、
ことを特徴とする請求項1に記載のナセル(50、70)。
【請求項3】
前記加熱素子(62)が、熱伝導により前記内表面(59)の加熱を引き起こすよう前記入口リップ(56)の内表面(59)に隣接している、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のナセル(50)。
【請求項4】
前記入口リップ(56)の内表面(59)から前記加熱素子(62)を分離する絶縁層(64)を更に備える、
ことを特徴とする請求項3に記載のナセル(50)。
【請求項5】
前記ナセル(50)が複数の加熱素子(62)を含み、該加熱素子(62)が平行縦列(66)で配列される、
ことを特徴とする請求項3又は4に記載のナセル(50)。
【請求項6】
前記加熱素子(62)の平行縦列(66)が、該縦列(66)に平行な面で前記氷結防止システム(60)の可撓性を促進するような向きにされる、
ことを特徴とする請求項5に記載のナセル(50)。
【請求項7】
前記加熱素子(82)が、前記入口リップ(56、76)の積層構造内に組み込まれる、
ことを特徴とする請求項2に記載のナセル(70)。
【請求項8】
前記入口リップ(76)のの積層構造の他の部分から前記加熱素子(82)を分離する絶縁層(84)を更に備える、
ことを特徴とする請求項7に記載のナセル(70)。
【請求項9】
前記ナセル(50、70)が、前記航空機エンジン(10)に設置されて該航空機エンジン(10)のファン(26)を囲む、
請求項1から8の何れか1項に記載のナセル(50、70)。
【請求項10】
断面形状と逆向きに配置される外表面及び内表面(58/78、59/79)とを有し、且つ航空機エンジン(10)のナセル(50、70)の前縁を定める入口リップ(56、76)上への着氷を排除し阻止する方法であって、
前記入口リップ(56、76)の断面形状と共形の断面形状を有する少なくとも1つの加熱素子(62、82)を備え且つ該加熱素子(62、82)に電流を導通させるように配向及び配列されたカーボンナノチューブを含む氷結防止システム(60、80)と、前記ナセル(50、70)の少なくとも前記入口リップ(56、76)とを接触させる段階と、
前記加熱素子(62、82)に電流を通して前記加熱素子(62、82)のジュール発熱及び熱伝導による前記入口リップ(56、76)の加熱を引き起こす段階と、
を含むことを特徴とする方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−137465(P2011−137465A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−285392(P2010−285392)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【出願人】(310022132)エムアールエイ・システムズ・インコーポレイテッド (11)