説明

タール分解触媒及びガス化ガス中タール分の分解除去方法

【課題】バイオマスをガス化したガス中のタール分の分解、除去用として優れた触媒活性を有し且つ優れた耐炭素析出性を備えたタール分解触媒を得る。
【解決手段】硫黄化合物を含むバイオマスの熱分解によるガス化ガス中のタール分を分解するための触媒であって、当該タール分解触媒がBaTiO3にFe成分及びSr成分を担持してなるタール分解触媒であることを特徴とするタール分解触媒、並びに、硫黄化合物を含むバイオマスの熱分解によるガス化ガス中のタール分を分解除去する方法であって、前記硫黄化合物を含むバイオマスの熱分解によるガス化ガスをBaTiO3にFe成分及びSr成分を担持してなるタール分解触媒に通すことを特徴とするガス化ガス中のタール分を分解除去する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タール分解触媒及びガス化ガス中タール分の分解除去方法に関し、より具体的には下水汚泥等の硫黄分を含むバイオマスを熱分解してガス化する際に発生し、そのガス化ガス中に含まれるタール分を分解、除去するためのタール分解触媒及び、硫黄化合物を含むバイオマスの熱分解によるガス化ガス中のタール分を分解除去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化対策の面から、再生可能資源であるバイオマス資源の活用が注目されている。バイオマス資源の利用は、従来廃棄していたものの有効活用である。2002年に日本のバイオマス利用の総合政策として「バイオマス・ニッポン総合戦略」が閣議決定されたほか、2010年におけるバイオマスエネルギー導入目標を示した「地球温暖化対策推進大綱」が決定されるなど、バイオマス資源の有効利用は国を挙げての大きな政策となりつつある。
【0003】
バイオマスの有効利用の技術としていくつかのシステムが考案されているが、その中の一つに熱分解ガス化システムがある。このシステムでは、バイオマス燃料を部分酸化することによりCO、H2、CH4等の炭化水素類といった可燃性ガスを生成するもので、生成ガスはプロセス中の燃料として利用される。また、その部分酸化に伴い発生する熱についても熱交換により有効に利用することが可能である。
【0004】
このシステムの課題の一つとして、部分酸化時に発生する炭化水素の中で、常温で液体であるタール分の生成が挙げられる。長期の商業運転を考えた場合、タール分の生成による配管系の閉塞等のトラブルは大きな問題となることが知られており、これを分解する有効な触媒の開発が望まれている。また、タールを分解する触媒として、RhやNiを担持物として用いたものが一般的であるが、前者Rhは非常に高額であること、後者Niはガス化ガス中に含まれる硫化水素(H2S)に非常に弱いことが欠点として知られている。
【0005】
下水汚泥などの汚泥を熱分解(通常、無触媒熱分解)する際の熱分解炉出口のガス化ガス温度は800℃〜900℃程度である。このガス化ガス中のタール分を分解するには、図1に示すように、そのガス化ガスをパイプにより導出し、タール分解装置すなわちタール分解触媒充填装置に通して処理することになる。図1中、1はガス化炉(バイオマスの無触媒熱分解炉)、2、4はガス化ガス導出用パイプ、3は集塵機、5はタール分解装置、6はタール分解装置5に充填したタール分解触媒である。集塵機3は必要に応じて配置される。
【0006】
バイオマスのガス化は、そのように通常無触媒で、ガス化温度を800℃〜900℃程度の高温にすることで行われる。ガス化条件は含水率の如何により異なるが、低含水率のバイオマスのガス化の場合には、基本的には比較的低圧(常圧〜1.5気圧)、高温(800℃〜900℃程度)で行われる。また、バイオマスのガス化に際してドロマイト〔CaMg(CO32〕、アルミナあるいはゼオライト(ZSM−5)などの触媒を使用する場合もあるが、この場合の触媒機能はガス化で発生したタールの除去が中心である。
【0007】
このほか、特開2007−283209号公報においては、タールを分解、除去するための触媒としてNi/ドロマイト〔苦石灰:CaMg(CO32〕が開示され、特開2003−246990号公報においては、バイオマスのガス化にRh/CeO2/M(Mは、SiO2、Al23またはZrO2である)で表される触媒を使用し、当該Rh/CeO2/M触媒表面でバイオマス粒子を空気および水蒸気と反応させることにより、水素および合成ガスを製造するとされている。
【0008】
また、ペロブスカイト型複合酸化物は、特開2006−035153号公報に開示されているように、排ガス浄化用触媒のような酸化雰囲気で使用されることが一般的であり、ガス化ガス中のような還元雰囲気ではほとんど使用されていない。また、一般に、触媒は硫化水素(H2S)の存在下ではその硫黄分により被毒するため、触媒としての性能が著しく劣化してしまうことが知られている。
【0009】
特にNi、例えば前記Ni/ドロマイトなどで使用されるNiは、硫黄により劣化しやすい触媒であり、大量のNiを使用することが余儀なくされる。また、大量のNiを使用しても触媒表面が硫黄被毒して、時間の経過とともに劣化することになる。
【0010】
前記Rh/CeO2/Mについては、活性金属として、高い硫黄耐性を有するRhを使用しているため、比較的長時間の耐久性を有する。しかし、それでも時間の経過に伴い劣化して行くことに変りはない。特に、高濃度のH2Sの存在下では使用困難となる。したがって、従来の技術では、下水汚泥等の硫黄分を含むバイオマスを熱分解する際に発生するタールを分解する触媒として、実用に供するに足る充分な耐久性能を有するものは得られていないのが現状である。
【0011】
【特許文献1】特開2007−283209号公報
【特許文献2】特開2003−246990号公報
【特許文献3】特開2006−035153号公報
【特許文献4】特願2009−077761(出願日:平成21年3月26日)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明者らは、上記現状、すなわちバイオマスのガス化ガス中のような還元雰囲気で、タール分解性能を満たす触媒について各種実験、検討したところ、ある特定の条件下の“チタン酸バリウム(BaTiO3)”が硫黄分を含んだバイオマスを熱分解して得られるガス化ガス中のタールを分解する触媒として、劣化どころか、従来の触媒よりも優れた性能を示すことを見出した。この触媒は特に、高い濃度のH2S雰囲気下においては、その性能が著しく上昇する。
【0013】
本発明者らは、数多くのスクリーニングの結果により、ガス化ガスにH2Sを含むことによって優れたタール分解性能を有するFe成分を担持したBaTiO3触媒(Fe/BaTiO3)を先に開発している〔特願2009−077761(出願日:平成21年3月26日)〕。この触媒は、Rh等の貴金属を含まないため安価であり、高いタール分解除去率、またH2Sに対して高い耐久性を持つことが大きな特徴である。
【0014】
そしてさらに、本発明者らは、上記Fe/BaTiO3触媒にSr成分を添加したところ、その活性が大幅に向上することを見出した。このように、比較的安価なFe元素、Sr元素を担持することでさらにタール分解性能が向上することがわかった。
【0015】
すなわち、本発明は、硫黄化合物つまり硫黄分を含んだバイオマスをガス化したガス化ガス中のタール分の分解、除去用として優れた触媒活性を有し且つ優れた耐久性を備えたタール分解触媒を提供することを目的とし、また、そのタール分解触媒を用いてガス化ガス中のタール分を分解除去する方法を提供することを目的とするものである。また、その触媒の製造方法として、通常の含浸法(湿式法)に比べて簡易な固相法によって製造できることも特徴の一つである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明(1)は、硫黄化合物を含むバイオマスの熱分解によるガス化ガス中のタール分を分解するための触媒であって、当該タール分解触媒がチタン酸バリウムにFe成分及びSr成分を担持してなるタール分解触媒であることを特徴とするタール分解触媒である。
【0017】
このタール分解触媒は、好ましくはチタン酸バリウム100に対して、Fe23として0.1〜10wt%のFe成分及びSrCO3として0.1〜10wt%のSr成分を添加して構成される。また、このタール分解触媒で対象とするバイオマスのガス化ガスは硫黄化合物を含むバイオマスのガス化ガスであり、その例としては下水汚泥のガス化ガスが挙げられる。
【0018】
本発明(2)は、硫黄化合物を含むバイオマスの熱分解によるガス化ガス中のタール分を分解する方法であって、前記硫黄化合物を含むバイオマスの熱分解によるガス化ガスをチタン酸バリウムにFe成分及びSr成分を担持してなるタール分解触媒に通すことを特徴とするガス化ガス中のタール分を分解する方法である。
【0019】
このタール分を分解する方法で使用するタール分解触媒は、好ましくはチタン酸バリウム100に対して、Fe23として0.1〜10wt%のFe成分及びSrCO3として0.1〜10wt%のSr成分を添加して構成される。また、このガス化ガス中のタール分を分解する方法で対象とするバイオマスのガス化ガスは硫黄化合物を含むバイオマスのガス化ガスであり、その例としては下水汚泥のガス化ガスが挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は下水汚泥などのバイオマスの熱分解(無触媒熱分解)によるガス化ガスの生成装置例を説明する図である。
【図2】図2はタール分解性能評価試験装置の概略を示す図である。
【図3】図3は硫化水素(H2S)濃度の如何によるBaTiO3触媒の性能評価試験の結果を示す図である。
【図4】図4は実験2:Fe−Sr/BaTiO3のタール分解性能試験の結果を示す図である。
【図5】図5は実験3:Fe−Sr/BaTiO3の耐久性評価試験の結果を示す図である。
【図6】図6は実験4:炭素析出性試験の結果を示す図である。
【図7】図7は実験5:Fe/BaTiO3触媒とFe−Sr/BaTiO3触媒のシンタリング性試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明(1)は、硫黄化合物を含むバイオマスの熱分解によるガス化ガス中のタール分を分解するための触媒である。そして、当該タール分解触媒がBaTiO3にFe成分及びSr成分を担持してなるタール分解触媒であることを特徴とする。
【0022】
本発明(2)は、硫黄化合物を含むバイオマスの熱分解によるガス化ガス中のタール分を分解する方法である。そして、前記硫黄化合物を含むバイオマスの熱分解によるガス化ガスをBaTiO3にFe成分及びSr成分を担持してなるタール分解触媒に通すことを特徴とする。
【0023】
この分解方法で使用するタール分解触媒は、好ましくはBaTiO3(100)に対して、Fe23として0.1〜10wt%(特に0.5wt%〜2wt%程度であるのが有効である)のFe成分及びSrCO3として0.1〜10wt%(特に0.5wt%〜2wt%程度であるのが有効である)とのSr成分を担持して構成される。
【0024】
バイオマスのガス化ガス中にはタール分が含まれている。その主成分はトルエン、ナフタレン、フェナントレン、その他の芳香族化合物である。本発明のタール分解触媒によりガス化ガス中のそれらタール成分を炭素の析出無しに、ないし、炭素の析出をより少なくして分解することができる。また、本発明のタール分解触媒は、バイオマスのガス化ガスという還元雰囲気中で当該ガス中のタール分を分解することができる。
【0025】
本発明に係るタール分解触媒を構成する式:BaTiO3で表される複合酸化物は、素原料として、例えば酸化チタン(TiO2)と炭酸バリウム(BaCO3)とから製造することができる。本発明のタール分解触媒において、主成分のチタン酸バリウムは、組成式(BaO)x・TiO2で表される。xはチタン酸バリウムのAサイトとBサイトの比率を表し、xの範囲は0.90≦x≦1.10が好ましい。以下、その製造工程例を説明する。
【0026】
〈タール分解触媒の製造工程例〉
1.原料混合:素原料粉末を秤量し混合する。目的粒子径のBaTiO3ができるように素原料を選択する。素原料が酸化チタン(TiO2)と炭酸バリウム(BaCO3)の場合、ここでは、両者をBa/Ti=0.99〜1.01になるように秤量し混合する。
2.湿式分散:秤量し混合した素原料を湿式分散する。両素原料の分散度合いによっては、分散剤を適量添加し、原料がより均一に混ざるように媒体攪拌ミルで攪拌する。
3.次いで脱水、乾燥を行う。
4.BaTiO3を仮焼により合成する。比表面積10〜30m2/g程度となるように、仮焼温度は500〜1000℃の範囲が好ましい。
5.湿式粉砕する。仮焼粉を湿式粉砕し、平均粒径、粒度分布を調整する。湿式粉砕中に2次凝集が発生しないように、媒体攪拌ミルの条件を調整し、粉砕と分散を行う。
6.脱水し乾燥する。脱水、乾燥により粉末状態ないし塊状状態にする。その乾燥時に凝集が起こらないように乾燥条件に注意する。
【0027】
式:BaTiO3で表される複合酸化物からなるタール分解触媒は、それ自体タール分解触媒として有効であるが、本発明においては、当該式:BaTiO3で表される複合酸化物にFe及びSrを担持することにより、その性能をさらに向上させることができる。Fe、Srの担持は本発明に係る重要な工程であり、前記1〜6の工程に続き、下記7の工程によりFe、Srを担持する。
7.Fe、Srの担持:均一にベースのBaTiO3と混ざるように、前記5.の湿式粉砕の時に規定量を添加し、一緒に混合し、一緒に湿式粉砕する。
【0028】
〈触媒の調製1:BaTiO3の調製〉
原料として酸化チタン(TiO2)と炭酸バリウム(BaCO3)を使用し、ここでは、両者をBa/Ti=0.99〜1.01になるように秤量し、混合した。引き続き、原料がより均一に混ざるように媒体攪拌ミルで攪拌した後、脱水し乾燥した。
【0029】
得られた乾燥物を仮焼した。仮焼温度は500〜1000℃の範囲で行うが、ここでは約800℃で行い、比表面積20m2/g程度となるようにした。次いで、得られた仮焼粉を湿式粉砕し、平均粒径、粒度分布を調整した。湿式粉砕中に2次凝集が発生しないように、媒体攪拌ミルの条件を調整し、粉砕と分散を行った。こうしてBaTiO3を合成した。次いで、脱水乾燥により粉末状態にした。その乾燥時に凝集が起こらないように乾燥条件に注意した。
【0030】
〈触媒の調製2:Fe成分、Sr成分を担持したBaTiO3の調製〉
前記〈触媒の調製1:BaTiO3の調製〉で得たBaTiO3を分取し、Fe成分、Sr成分を担持したBaTiO3を調製、製造した。下記のように固相法を使って製造した。固相法は含浸法に比べ簡便な方法である。
【0031】
(1)Ba/Ti=0.99〜1.01、比表面積≒20m2/gのBaTiO3を担体として使用した。
(2)上記BaTiO3(100g)に対して、Fe成分をα−Fe23として0.1〜10wt%、Sr成分をSrCO3として0.1〜10wt%の範囲で、それぞれ所定割合で添加し、乳鉢により約20時間混合した。粉砕時間は、処理量等の条件によって異なり、BaTiO3が100g程度であれば約20時間である。こうして、Fe成分、Sr成分をそれぞれ0.1〜10wt%の範囲で担持したBaTiO3を製造した。
【0032】
ここで、Fe成分の含有量は、上記のとおりα−Fe23(=Fe23)としては0.1〜10wt%であるが、Fe元素としての含有量で言えば0.07wt%〜7.0wt%となる(Fe23の分子量≒160,Feの原子量≒56)。また、Sr成分の含有量は、上記のとおりSrCO3としては0.1〜10wt%であるが、Sr元素としての含有量で言えば0.06wt%〜6.0wt%となる(SrCO3の分子量≒148,Srの原子量≒88)。
【0033】
〈触媒性能試験〉
以上のとおり製造したタール分解触媒について性能試験を実施した。試験ガスとして、模擬熱分解ガスに模擬タール成分としてトルエン(C78)を添加したガスを使用した。この試験ガスについて通常の固定床流通型反応装置を用いて試験を行った。図2に流量調節、温度制御、配管系、計測系等を含む固定床流通型反応装置の配置関係についてその概略を示している。試験条件は以下の通りである。
【0034】
反応温度:750℃、空間速度(SV):7500h-1(全流量250cm3/min)、触媒体積2.0cm3、試験ガス:H2=8%(%=vol%、以下同じ)、CO=8%、CO2=14%、CH4=2.5%、H2O=20%、H2S=500ppm(ppm=vol ppm、以下同じ)、模擬タールC78=6400ppm、N2バランス。
なお、後述実験1では、H2S=0ppm、H2S=2000ppmの試験ガスについても試験した。
【0035】
〈タール分解性能評価:タール分解除去率(%)について〉
以下において、タール分解除去率(%)は下記式により求めた。式中“排出ガス中のタール濃度”は、試験装置である固定床流通型反応装置(管型流通式)出口のガスをGC分析つまりガスクロマトグラフィー(TCD,FID:ヤナコ分析工業社製)により測定したタール濃度である。
【0036】
【数1】

【0037】
〈実験1:BaTiO3触媒の硫化水素濃度依存性試験〉
前述のとおり、従来の触媒では硫化水素(H2S)濃度が高くなるにつれて、硫黄被毒による劣化が生じるのに対して、BaTiO3触媒はH2S濃度が高くなるにつれてタール分解性能が向上する。図3にその試験結果を示している。
【0038】
図3のとおり、H2S=0ppmすなわちH2Sを含まないとBaTiO3触媒に劣化が生じ、タール分解能は試験開始時以降、徐々に低下している。これに対して、H2S=500ppm、H2S=2000ppmの何れの場合もBaTiO3触媒は100%ないしこれに近いタール分解能を示している。この性能は、試験開始時以降10時間経過時にも変わっていない。
【0039】
〈実験2:Fe−Sr/BaTiO3のタール分解性能試験〉
Fe(1.0wt%)/BaTiO3にSrCO3を0.01wt%〜1.0wt%添加したFe−Sr/BaTiO3を作製し、そのタール分解性能を評価した。図4にその試験結果を示している。図4のとおり、Sr成分0.01〜1.0wt%の範囲のいずれにおいても良好なタール分解性能を示し、Fe/BaTiO3よりも耐久性が大幅に向上することを示している。
【0040】
〈実験3:Fe−Sr/BaTiO3の耐久性評価試験〉
実験2において、最も活性が高かったFe(1.0wt%)−Sr(1.0wt%)/BaTiO3触媒について、約100時間の耐久性評価試験を実施した。図5にその試験結果を示している。図5には、比較のため、同様に試験した、BaTiO3及びFe/BaTiO3の結果についても示している。図5のとおり、Fe−Sr/BaTiO3は100時間近く経過時にもほとんど劣化せず、耐久性を有していることが確認された。
【0041】
〈実験4:炭素析出性試験〉
BaTiO3やFe/BaTiO3の劣化の最大の原因としては炭素析出が考えられる。そこで、この観点からの触媒性能試験を行った。この試験の試験条件及び装置概要(図2参照)は前記〈触媒性能試験〉での実験のとおりである。試験開始から30時間経過後の炭素析出量について測定し、触媒1g当りの炭素析出量を評価した。図6にその試験結果を示している。図6のとおり、Fe/BaTiO3にSr成分を添加することにより、炭素析出量が大幅に低下していることがわかる。
【0042】
〈実験5:シンタリング性試験〉
次に、Fe/BaTiO3触媒とFe−Sr/BaTiO3触媒のシンタリング性能について評価した。図7にその試験結果を示している。図7のとおり、Fe/BaTiO3触媒とFe−Sr/BaTiO3触媒のどちらの触媒についても30h後の比表面積は安定している。当該30hの時点及びそれ以降での両者の比表面積については、Fe−Sr/BaTiO3触媒では14m2/gであるのに対して、Fe/BaTiO3触媒では6m2/gであり、Fe−Sr/BaTiO3触媒の方が、より高い比表面積を維持できることが分かる。
【0043】
本発明のタール分解触媒の使用形態としては粉末状、粒状、顆粒状(含:球状)、ペレット状、タブレット状(=錠剤状)、或いはハニカム体(=モノリス体)等適宜の形状として使用することができる。なお、このタール分解触媒には、バイオマスのガス化ガスを通す必要があるため、粉末状の場合には、これを充填した触媒層から逸散しないように所定粒度範囲に整粒するか又は造粒し、或いは加圧成形や押出成形により成形して用いるのが望ましい。このうち押出成形の場合には適宜所定長さに切断してペレット化して使用される。
【0044】
ハニカム体の場合には、ハニカム構造の基材にタール分解触媒を担持する。その担持は、粉末状等のタール分解触媒をスラリーとし、例えばウォッシュコート法によりハニカム基材に担持し、常法により乾燥し、焼成することで行うことができる。ハニカム構造の基材としてはセラミック製又はメタル製のものを使用することができる。セラミックの好ましい例としてはコージェライトが挙げられ、メタルの好ましい例としてはステンレス鋼や鉄−アルミニウム−クロム系合金などが挙げられる。
【0045】
本発明のタール分解触媒は、バイオマスのガス化ガス、すなわち動植物や動植物を起源とする廃棄物の熱分解によるガス化により得られるガス化ガス中に含まれるタール分を分解する触媒として使用される。この場合、そのガス化ガス自体、1種の合成ガスであり、またタール分の主成分は、芳香族化合物つまり炭化水素であるので、その分解によりガス化することで合成ガスの成分として除去される。
【0046】
また、本発明のタール分解触媒は、バイオマスのガス化ガス中に硫化水素などの硫黄化合物が含まれていても耐性を有している。このため、例えば下水汚泥その他、各種水処理設備で生成する汚泥のガス化ガスのように、硫化水素などの硫黄化合物を含むガス化ガス中のタール分解用としても有効である。触媒は硫黄化合物により被毒する場合が多いが、本発明のタール分解触媒は、硫黄化合物による被毒が無いので、特異な特性と言える。
【0047】
下水汚泥などの汚泥を熱分解(通常、無触媒熱分解)する際の熱分解炉出口のガス化ガス温度は800℃〜900℃程度である。そのガス化ガス中のタール分を分解するには、前述図1に示すように、そのガス化ガスをパイプ2により導出し、タール分解装置5すなわちタール分解触媒充填装置に通して処理することになる。このため、タール分解装置5での処理温度は、熱分解炉出口温度:900℃より低下しているので、タール分解触媒はそのように低下した温度で有効である必要があるが、本発明のタール分解触媒は900〜700℃、特に850〜750℃という温度で高いタール分解性能、耐炭素析出性能を有する。
【符号の説明】
【0048】
1 ガス化炉(バイオマスの無触媒熱分解炉)
2、4 ガス化ガス導出用パイプ
3 集塵機
5 タール分解装置(タール分解触媒充填装置)
6 タール分解装置5に充填したタール分解触媒


【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫黄化合物を含むバイオマスの熱分解によるガス化ガス中のタール分を分解するための触媒であって、当該タール分解触媒が主成分のチタン酸バリウムに副成分のFe及び副成分のSrを担持してなるタール分解触媒であることを特徴とするタール分解触媒。
【請求項2】
請求項1に記載のタール分解触媒がチタン酸バリウムに対して、Feとして0.07wt%〜7.0wt%のFe元素、Srとして0.06wt%〜6.0wt%のSr元素を担持してなることを特徴とするタール分解触媒。
【請求項3】
前記硫黄化合物を含むバイオマスの熱分解によるガス化ガスが下水汚泥の熱分解によるガス化ガスであることを特徴とする請求項1または2に記載のタール分解触媒。
【請求項4】
硫黄化合物を含むバイオマスの熱分解によるガス化ガス中のタール分を分解除去する方法であって、前記硫黄化合物を含むバイオマスの熱分解によるガス化ガスをチタン酸バリムにFe元素及びSr元素を担持してなるタール分解触媒に通すことを特徴とするガス化ガス中のタール分を分解除去する方法。
【請求項5】
請求項4に記載のガス化ガス中のタール分を分解除去する方法において、前記タール分解触媒がチタン酸バリウムに対して、Feとして0.07wt%〜7.0wt%のFe元素、Srとして0.06wt%〜6.0wt%のSr元素を担持してなるタール分解触媒であることを特徴とするガス化ガス中のタール分を分解除去する方法。
【請求項6】
請求項4または5に記載のガス化ガス中のタール分を分解除去する方法において、前記硫黄化合物を含むバイオマスの熱分解によるガス化ガスが下水汚泥の熱分解によるガス化ガスであることを特徴とするガス化ガス中のタール分を分解除去する方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−245426(P2011−245426A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−121448(P2010−121448)
【出願日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(000220262)東京瓦斯株式会社 (1,166)
【出願人】(000162205)共立マテリアル株式会社 (3)
【Fターム(参考)】