説明

タール滓の処理方法およびタール滓のコークス炉装入方法

【課題】コークス炉から発生するコールタールのタール滓を回収して、コークス炉に装入する原料として再利用するとともに、タール滓を抽出する過程で揮発する低沸点成分が大気中に飛散するのを防止でき、有効成分として回収する方法を提供する。
【解決手段】コークス炉の操業によって発生するコークス炉ガスからコールタールを回収し、コールタールからタール滓スラリーを分離した後、タール滓スラリーに含有されるタール滓が50質量%以上となるようにタール滓スラリーを濃縮して濃縮スラリーとし、濃縮スラリーを加熱しながら攪拌することによって濃縮スラリーに含有される低沸点成分を除去するとともに濃縮スラリーを乾燥して乾燥タール滓とし、乾燥タール滓を原料炭とともにコークス炉へ装入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コークス炉から発生するコールタールのタール滓の処理方法、および回収したタール滓をコークス炉に装入する原料として再利用するとともに、タール滓を抽出する過程で揮発する低沸点成分が大気中に飛散するのを防止し、有効成分(たとえば軽油,ナフタレン等)として回収する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コークス炉からコークス炉ガスとともに排出されるコールタールには、コークス炉内で浮遊する石炭分が含まれている。コールタールに含まれる石炭分は、タール滓と呼ばれており、固形の石炭の他に金属酸化物からなる微粒子である。そのため、タール滓が含まれるコールタールをそのまま各種のタール製品(たとえばタールピッチ等)に加工しても、要求される品質規格を満足するタール製品を得ることは困難である。したがって、コークス炉から回収されたコールタールを加工する際には、あらかじめタール滓を分離して除去する必要がある。
【0003】
コールタールからタール滓を分離するにあたって、タールデカンターを用いた沈降分離、あるいは遠心分離機を用いた遠心分離が広く採用されている。いずれの方法を採用しても、分離したタール滓(すなわち固形分)は、コールタールを付随してスラリー状態になっている。タール滓は、スラリー状態で回収される故に、種々の用途にそのまま再利用することは困難である。
【0004】
そこで、固形のタール滓と液状のコールタールとの混合物であるスラリー(以下、タール滓スラリーという)に含まれるタール滓を、分離する技術が種々検討されている。たとえば特許文献1,2には、タール滓スラリーをさらに濃縮して、固形のタール滓の比率を高めたスラリー(以下、濃縮スラリーという)とし、その濃縮スラリーをコークス炉に装入する原料として再利用する技術が開示されている。この技術で得られる濃縮スラリー中に占めるタール滓の割合は、80〜90質量%まで高められているが、沸点の低い揮発性の成分(以下、低沸点成分という)が濃縮スラリーに含まれる。したがって、濃縮スラリーを搬送する間に、低沸点成分(たとえば水,軽油,ナフタレン等)が揮発して大気中に飛散し、環境へ負荷を与える可能性がある。
【0005】
また特許文献3には、2本の主軸を有する連続回転式の加熱装置を用いて、タール滓スラリー(コールタール:70質量%,タール滓:30質量%)を350〜500℃に加熱して乾燥する技術が開示されている。この技術は加熱温度が高いので、乾燥されたタール滓(以下、乾燥タール滓という)が加熱装置の内部に付着し易い。乾燥タール滓が加熱装置の内部に付着して堆積すると、加熱装置の稼動に支障を来たす。
【特許文献1】特開平7-188671号公報
【特許文献2】特開平10-60451号公報
【特許文献3】特開昭63-152693号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、コークス炉から発生するコールタールのタール滓の処理方法、および回収したタール滓をコークス炉に装入する原料として再利用するとともに、タール滓を抽出する過程で揮発する低沸点成分が大気中に飛散するのを防止し、有効成分として回収する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、コークス炉の操業によって発生するコークス炉ガスからコールタールを回収し、コールタールからタール滓スラリーを分離した後、タール滓スラリーに含有されるタール滓が50質量%以上となるようにタール滓スラリーを濃縮して濃縮スラリーとし、濃縮スラリーを加熱しながら攪拌することによって濃縮スラリーに含有される低沸点成分を除去するとともに濃縮スラリーを乾燥して乾燥タール滓とし、乾燥タール滓を得るタール滓の処理方法である。
【0008】
本発明のタール滓の処理方法においては、濃縮スラリーを100〜200℃に加熱して低沸点成分を除去することが好ましい。また、濃縮スラリーを加熱しながら軸なしスクリューフィーダーを用いて攪拌することが好ましい。タール滓を加工する過程で揮発する低沸点成分は、コークス炉から発生するコークス炉ガスとともに排ガス処理設備へ供給して処理することが好ましい。
【0009】
また本発明は、上記したタール滓の処理方法で得られた乾燥タール滓を、原料炭とともにコークス炉へ装入するタール滓のコークス炉装入方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、コークス炉から発生するコールタールのタール滓を回収して、コークス炉に装入する原料として再利用するとともに、タール滓を加工する過程で揮発する低沸点成分が大気中に飛散するのを防止でき、有効成分(たとえば軽油,ナフタレン等)として回収できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1は、本発明の手順を示すフロー図である。コークス炉1を操業することによって発生するコークス炉ガスaには、コールタールbが含まれており、コールタール分離機7を用いてコークス炉ガスaからコールタールbを分離して回収する。コールタール分離機7は特定の構成を有する機器に限定せず、従来から知られている装置(たとえば冷却塔等)を使用する。
【0012】
得られたコールタールbはタール滓分離装置2へ送給され、コールタールbからタール滓が分離される。ただし、分離されるタール滓は、コールタールを付随してスラリー状態になっている。この固形のタール滓と液状のコールタールとの混合物であるスラリーをタール滓スラリーdと記す。タール滓分離装置2は特定の構成を有する機器に限定せず、従来から知られている装置(たとえば、タールデカンター,遠心分離機等)を使用する。
【0013】
タール滓スラリーdは、固形のタール滓と液状のコールタールとの混合物であり、遠心分離機4へ送給される。一方、タール滓スラリーdを分離した残余のコールタールc(以下、分離タールという)は、タール滓スラリー用の遠心分離機4とは別の遠心分離機3へ送給される。
分離タールcには少量のタール滓が残留しているので、遠心分離機3(分離タール用)を用いてタール滓を濃縮し、タール滓スラリーdに混合する。分離タールc中に残留するタール滓の濃縮は、タールデカンター等を用いた沈降分離では困難であるから、遠心分離機で行なう。
【0014】
なお、分離タールc中に残留するタール滓を濃縮してタール滓スラリーdに混合して遠心分離機4(タール滓スラリー用)に供給する工程は、必ずしも必須の工程ではなく、省略しても良い。その場合、分離スラリーcはタール滓分離装置2からコールタールの加工設備(図示せず)へ供給される。
タール滓分離装置2にてコールタールbから分離されたタール滓スラリーdは、遠心分離機4(タール滓スラリー用)に供給される。遠心分離機4はタール滓スラリーdからタール滓を分離するものである。この遠心分離機4で分離されるタール滓もコールタールを付随してスラリー状態になっているが、タール滓スラリーdに比べてタール滓の割合が高くなっている。したがって、このスラリーを濃縮スラリーfと記す。
【0015】
遠心分離機4にタール滓スラリーdを装入する際には、装入量を一定に維持することが好ましい。一定量のタール滓スラリーdを装入することによって、タール滓とコールタールの分離状況を安定させることができる。タール滓スラリーdの装入量を制御する調節弁は特定の種類に限定しないが、硬化処理を施したアングル弁を使用することが好ましい。アングル弁は、流路が単純であるから、固形物(すなわちタール滓)を含むタール滓スラリーdを円滑に流通させることができる。さらに、弁箱や弁体に硬化処理を施すことによって、固形物(すなわちタール滓)に起因する摩耗を抑制することができる。
【0016】
タール滓スラリーdを調節弁に流入させる圧力が0.1MPa未満では、十分な流量を確保できない。一方、0.3MPaを超えると、タール滓が調節弁内で圧密され、閉塞を生じる惧れがある。したがって、タール滓スラリーdを調節弁に流入させる圧力は0.1〜0.3MPaの範囲内が好ましい。
濃縮スラリーfを分離した残余のコールタールe(以下、回収タールという)は、少量ではあるが残留するタール滓を分離するために、タール滓分離装置2へ供給される。
【0017】
一方、遠心分離機4で分離された濃縮スラリーfは、加熱搬送機5へ送給される。濃縮スラリーfに占めるタール滓の割合は50質量%以上とする。タール滓が占める割合が50質量%未満では、後述する乾燥の効率が低下して熱エネルギー消費量の増加等の問題が生じる。このような高濃度なタール滓の濃縮は、タールデカンター等を用いた沈降分離では困難であるから、遠心分離機で行なう。
【0018】
加熱搬送機5は、濃縮スラリーfを加熱しながら攪拌することによって、濃縮スラリーfに含まれる低沸点成分を揮発させ、かつ濃縮スラリーfを乾燥するものである。加熱に用いる熱源は特に限定せず、燃料の燃焼熱や蒸気,電気等の従来から知られている熱源の中から、加熱搬送機5の仕様や処理量,立地条件等に応じて適宜選択する。
濃縮スラリーfの加熱と攪拌を行なう加熱搬送機5は特定の構成のものに限定しないが、加熱については、外面から加熱できる構造を有する密閉型の装置を用いることが好ましい。濃縮スラリーfは、加熱によって粘度が増加し、著しい固着性を呈してくる。そのため、回転翼(いわゆるプロペラ)を用いると攪拌が困難になるので、攪拌については、図2に示すようなスクリューフィーダーを用いることが好ましい。ただし、図2(a)に示すような中心軸を有するスクリューフィーダーでは、加熱された濃縮スラリーfが軸部に固着して攪拌に支障を来たす惧れがあるので、図2(b)に示すような軸なしスクリューフィーダーが一層好ましい。
【0019】
さらにスクリューフィーダーは、攪拌に加えて搬送の機能を付与することができる。プロペラを用いて攪拌する場合は、搬送装置を個別に設ける必要が生じるので、経済的に不利である。
濃縮スラリーfの加熱温度が100℃未満では、濃縮スラリーfが十分に乾燥せず油分が残留して粘度状になるので、加熱搬送機5の稼動に支障を来たす。しかも低沸点成分が揮発せずに残留する。一方、200℃を超えると、濃縮スラリー5が過剰に乾燥されて過熱乾燥機5内に付着して堆積するので、加熱搬送機5の稼動に支障を来たす。したがって、加熱温度は100〜200℃の範囲内が好ましい。より好ましくは150〜190℃である。
【0020】
このようにして加熱搬送機5にて濃縮スラリーfを加熱攪拌することによって、低沸点成分が揮発し、乾燥したタール滓h(以下、乾燥タール滓という)が得られる。乾燥タール滓hは、原料炭iとともにコークス炉1に装入される。コークス炉1への装入は、原料炭iをコークス炉1へ送給するコンベア上に乾燥タールhを一定量ずつ落下させることによって、効率良く行なうことができる。したがって、加熱搬送機5を原料炭iのコンベアの上方に配設して、乾燥タール滓hをコンベア上に自然落下させることが好ましい。乾燥タール滓hは低沸点成分を含有しないので、大気に開放されたコンベア上の原料炭iに混合しても、環境汚染は発生しない。
【0021】
一方、揮発する低沸点成分gは、環境汚染を防止する観点から、排ガス処理設備6へ供給して無害化した後、大気中へ放散する。排ガス処理設備6は、低沸点成分g専用の装置を用いても良いし、あるいはコークス炉ガスaを無害化する排ガス処理設備6を用いても良い。ただし、コークス炉ガスa用の排ガス処理設備6を用いれば、ブロワー等の各種機器を新設する必要がなく、かつ低沸点成分(たとえば水,軽油,ナフタレン等)を分離して回収できるという経済的な効果が得られる。
【0022】
コークス炉ガスa用の排ガス処理設備6を用いる場合は、低沸点成分gをコークス炉ガスaに添加して排ガス処理設備6へ供給する。コークス炉ガスaの流量に比べて、低沸点成分gの発生量は著しく少量であるから、排ガス処理設備6の改造を必要とせず対応できる。なお、低沸点成分gの流路は、ナフタレン等の凝固付着による閉塞を防止するために、常時加熱することが好ましい。また、コークス炉ガスaへ空気が混入するのを防止するために、排ガス処理設備6は大気を遮断して操作することが好ましい。
【実施例】
【0023】
コークス炉ガスaから回収したコールタールbをタール滓分離装置2(タールデカンター)に貯留して、タール滓スラリーdを分離し、さらに遠心分離機4を用いて濃縮スラリーf(タール滓:55質量%)とした。この濃縮スラリーf(1kg)を実験室で加熱搬送機5(すなわち電気ヒーター)を用いて加熱しながら、プロペラを回転させて攪拌して乾燥タール滓hを得た。濃縮スラリーfの加熱攪拌は、金属製の密閉容器を使用し、常温から180℃まで10分間で昇温した後、180℃で20分間保持した。これを発明例1とする。
【0024】
なお発明例1は実験室で行なった実験であるから、加熱搬送機5に搬送機能を付与する必要はなく、電気ヒーターとプロペラを用いて加熱攪拌を行なった。
また、発明例1と同じ濃縮スラリーfを、加熱搬送機5(すなわち蒸気ジャケット付き軸なしスクリューフィーダー)に0.2ton/時間の割合で供給して加熱しながら攪拌して乾燥タール滓hを得た。蒸気ジャケットの蒸気圧は1.0MPa(180℃)とし、濃縮スラリーfの加熱攪拌を30分間行なった後で乾燥タール滓hが排出されるようにスクリューフィーダーの回転速度を設定して、搬送機能を付与した。これを発明例2とする。
【0025】
発明例1,2で得た乾燥タール滓hを容器に収容して80℃に保持して、揮発する成分をo−キシレンに捕集させ、さらにガスクロマトグラフにてC6以下の低沸点成分を測定した。なお80℃は、コークス炉に装入される原料炭を想定した温度である。
一方、比較例1として、発明例1と同じ濃縮スラリーfを、そのままo−キシレンに捕集させ、さらにガスクロマトグラフにてC6以下の低沸点成分を測定した。
【0026】
また、比較例2として、発明例1と同じ濃縮スラリーfを、そのまま容器に収容して80℃に保持して、揮発する成分をo−キシレンに捕集させ、さらにガスクロマトグラフにてC6以下の低沸点成分を測定した。
その結果、発明例1,2では、低沸点成分は検出されなかった。比較例1では、低沸点成分が0.045質量%検出され、比較例2では、1kgの濃縮スラリーfから低沸点成分が5mgの割合で検出された。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の手順を示すフロー図である。
【図2】スクリューフィーダーの例を示す図である。
【符号の説明】
【0028】
1 コークス炉
2 タール滓分離装置
3 遠心分離機(分離タール用)
4 遠心分離機(タール滓スラリー用)
5 加熱搬送機
6 排ガス処理設備
7 コールタール分離機
a コークス炉ガス
b コールタール
c 分離タール
d タール滓スラリー
e 回収タール
f 濃縮スラリー
g 低沸点成分
h 乾燥タール滓
i 原料炭

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コークス炉の操業によって発生するコークス炉ガスからコールタールを回収し、前記コールタールからタール滓スラリーを分離した後、前記タール滓スラリーに含有されるタール滓が50質量%以上となるように前記タール滓スラリーを濃縮して濃縮スラリーとし、前記濃縮スラリーを加熱しながら攪拌することによって前記濃縮スラリーに含有される低沸点成分を除去するとともに前記濃縮スラリーを乾燥して乾燥タール滓を得ることを特徴とするタール滓の処理方法。
【請求項2】
前記濃縮スラリーを100〜200℃に加熱して前記低沸点成分を除去することを特徴とする請求項1に記載のタール滓の処理方法。
【請求項3】
前記濃縮スラリーを加熱しながら軸なしスクリューフィーダーを用いて攪拌することを特徴とする請求項1または2に記載のタール滓の処理方法。
【請求項4】
前記コークス炉から発生するコークス炉ガスとともに前記低沸点成分を排ガス処理設備へ供給することを特徴とする請求項1、2または3に記載のタール滓の処理方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のタール滓の処理方法で得られた乾燥タール滓を、原料炭とともにコークス炉へ装入することを特徴とするタール滓のコークス炉装入方法。

【図1】
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【図2】
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