説明

ダイアモンド電極でリグニンを電気化学的に分解するための方法

本発明は、ダイアモンド電極を用いたリグニンの電気化学的開裂のための方法、並びに、pH値<11を有する溶液中でのリグニンの電気化学的開裂によるバニリン及びその誘導体の製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の詳細な説明
本発明は、ダイアモンド電極を用いたリグニンの電気化学的開裂のための方法、並びに、pH値≦11を有する溶液中でのリグニンの電気化学的開裂によるバニリン及びその誘導体の製造方法に関する。
【0002】
リグニンは高分子量の芳香族物質であり、これは木化した植物中で細胞膜間の室を満たし、かつ、木材へと変換される。乾燥した植物材料のリグニン含有量は針葉樹中で約27〜33質量%であり、広葉樹中で22質量%である。
【0003】
リグニンはフェニルプロパンのより高分子量の誘導体として理解されるべきである。木材種類に応じて、このフェニル環は1〜2個のメトキシ基で、このプロパン単位はヒドロキシル基で置換されている。針葉樹では主としてグアイアシル種が見出され、広葉樹ではその他にシリンジル種及びクマリル種(Cumar-Typ)が見出される。様々な連結手段により特にリグナン−及びクマリン構造、環式エーテル及びラクトンも生じる。
【0004】
アルカリリグニンは北アメリカでは、木材−及びセルロースベースのプレスプレートのための結合剤として、分散剤として、糖溶液の清澄化に、アスファルトエマルションの安定化並びに泡安定化に使用される。しかしながら極めて大部分のアルカリリグニンは、黒液の燃焼によりパルププロセスのためのエネルギー供与体として使用される。
【0005】
バニリンは高価な天然バニラの代わりに、チョコレート、スイーツ製品、リキュール、ベイクド製品及び他の甘い食品のための芳香物質として並びにバニリン糖(Vanillinzucker)の製造のために大規模で使用される。ワイン樽へと加工された木材のバニリン含有量はワインの芳香付けに寄与する。より少量でデオドラント製品、パフュームにおいて、そして薬学的製品及びビタミン調製物の風味改善のために使用される。バニリンは様々な医薬品、例えばL−ドーパ、メチルドーパ及びパパベリンの合成の際の中間生成物でもある。
【0006】
EP−B0245418には、バニリン及びその誘導体、例えばグアイアコール及びアセトバニロン(3−メトキシ−4−ヒドロキシアセトフェノン)の獲得のためのリグニンの電気化学的開裂について記載されている。ここでは、水性−アルカリ性溶液中で作業され、その際重金属電極が使用される。この後処理は毒性のオルガノハロゲン溶媒、例えばクロロホルムの使用下で行われる。(環境)毒物学的観点からこれは、重金属電極の使用と同様に非常に欠点がある。例えばEP0245418 B1に記載されている高い水酸化ナトリウム濃度の使用は、バニリン又はその誘導体がフェノラート又はヒドロキシベンズアルデヒド誘導体として存在することを導く。しかしながらバニリン及びバニリン誘導体のフェノラート又はヒドロキシベンズアルデヒド誘導体は、アルカリ性媒体中で進行すべき酸化的プロセスに対して極めて敏感である。したがってこの後処理のために前もって中和が行われなくてはならず、このためバニリンの獲得のためには高められた後処理の手間が必要である。
【0007】
したがって、得られる前生成物の後処理がより少ない手間だけ必要とし、これにより、これまで知られている方法に比較して価格的により有利であるようにリグニンを酸化的分解できることについて多大な需要がある。
【0008】
この課題は、ヒドロキシベンズアルデヒド誘導体及び/又はフェノール誘導体に関して5質量%よりも高い収率でリグニンを分解するための方法であって、その際リグニンの水性の溶液又は懸濁液をダイアモンド電極で電解する方法により解決される。
【0009】
有利には、pH値≦11を有する水溶液中で作業する本発明による方法である。
【0010】
有利には、水性の酸性溶液中で作業する本発明による方法である。
【0011】
有利には、使用されるダイアモンド電極がホウ素ドープされたダイアモンド電極である本発明による方法である。
【0012】
有利には、リグニン分解生成物が電気化学的セルから連続的に取り除かれる本発明による方法である。
【0013】
有利には、リグニン分解生成物が水蒸気蒸留により取り除かれる本発明による方法である。
【0014】
有利には、リグニン分解生成物が有機溶媒を用いた連続的抽出により取り除かれる本発明による方法である。
【0015】
有利には、リグニン分解生成物が、グアイアコール、バニリン及びアセトバニロンの群から選択されている本発明による方法である。
【0016】
分解のために使用されるリグニンは当業者に知られている全てのリグニンである。有利には、わら、バガス、黒液、クラフトリグニン、リグニンスルホナート、オルガノソルブ−リグニン及び製紙工業又は繊維製造からの相応する残留物の群から選択されている生成物中に含有されるリグニンである。特に有利には、クラフトリグニン及びリグニンスルホナート中に含有されるリグニンである。
【0017】
リグニンの分解の際に生じるヒドロキシベンズアルデヒド誘導体及び/又はフェノール誘導体は本発明による方法により5質量%より多く得ることができる。
【0018】
リグニンの分解の際に生じるヒドロキシベンズアルデヒド誘導体及び/又はフェノール誘導体は、グアイアコール、バニリン及びアセトバニロンの群から選択されている。特に有利にはバニリン又はグアイアコールである。
【0019】
本発明による方法により得られるヒドロキシベンズアルデヒド誘導体及び/又はフェノール誘導体はこの反応生成物から連続的に取り出されることができる。有利にはこのヒドロキシベンズアルデヒド誘導体及び/又はフェノール誘導体はこの反応混合物から蒸留又は抽出により連続的に取り出されることができる。特に有利には水蒸気蒸留である。
【0020】
電解のためにリグニンは水溶液中に存在し、その際この水溶液はpH値≦11、有利には≦9、特に好ましくは酸性である。特にとりわけ有利にはこのpH値は≦3である。有利にはこのpH値は水中で良好に溶解性の無機酸、例えば塩酸、硫酸、硝酸又は有機酸、例えばパラトルエンスルホン酸又は様々な酸の混合物によりpH≦3に調整されている。特に有利には硫酸である。
【0021】
電解のために当業者に知られている全ての電解セルを使用でき、これは例えば分割したか又は分割していない貫流セル、細管ギャップセル又は積板セル(Plattenstapelzelle)である。特に有利には分割していない貫流セルである。最適な空時収率を達成するためには、複数の電極のバイポーラー配置が有利である。
【0022】
本発明による方法のためにはアノードはダイアモンド電極である。このダイアモンド電極は、支持体材料に設けられたダイアモンド層を含み、その際、この支持体材料は、ニオブ、ケイ素、タングステン、チタン、炭化ケイ素、タンタル、グラファイト又はセラミック製支持体、例えばチタン亜酸化物の群から選択されている。特に有利には支持体材料としてニオブ又はケイ素である。支持体上のダイアモンド層は更なる元素でさらにドーピングされていることができる。有利にはホウ素又は窒素ドープされたダイアモンド電極である。特に有利にはホウ素ドープされたダイアモンド電極である。
【0023】
カソード材料としては、RuOxTiOx−混合酸化物−電極(DSA)、白金化チタン、白金、ニッケル、モリブデン又はステンレス鋼の群から選択された少ない酸素過電圧を有する全ての従来のカソード材料が使用できる。有利にはホウ素ドープされたダイアモンド電極とカソードとしてのステンレス鋼との組み合わせである。特に有利にはホウ素又は窒素−ドープされたダイアモンド電極の使用である。特にとりわけ有利にはホウ素ドープされたダイアモンド電極である。
【0024】
CVD法(chemical vapour deposition)により製造されているダイアモンド電極が使用できる。そのような電極は市販されており、例えば製造者:Condias、Itzehoe;Diaccon, Fuerth(ドイツ国)又はAdamant Technologies、La−Chaux−de−Fonds(スイス国)で市販されている。HTHP法(high temperature high pressure:工業的ダイアモンド粉末が支持体片の表面中に機械的に導入される)により製造されたより安価なダイアモンド電極は、同様に使用できる。HTHP−BDD−電極はpro aqua、Niklasdorf(オーストリア国)で市販されており、その特性はA Cieciwa、R.Wuethrich及びCh.ComninellisによりElectrochem.Commun.8(2006)375−382に記載されている。
【0025】
本発明による方法のための温度は20〜150℃、有利には90〜120℃の範囲内にある。
【0026】
本発明による方法のためには、この電流密度は有利には5〜3000mA/cm2の範囲内、特に有利には10〜200mA/cm2の範囲内にある。電極に対する付着物を避けるために、アノード−及び/又はカソード材料としてのダイアモンド電極の使用の際にはこの極性は短期間の間隔で交換されることができる。この極性反転は30秒間〜10分間の間隔の間に行われることができ、有利には30秒〜2分間の間隔である。
【0027】
水溶液中でのホウ素ドープしたダイアモンド電極でのリグニンの電解の効率は、助剤、例えばTiO2の添加により高められることができる。TiO2は有利には触媒量で使用される。
【0028】
リグニンの電解のためには金属含有又は金属不含のレドックス媒介剤が添加されることができ、有利には遷移金属不含媒介剤、例えばニトロソジスルホナート、例えばフレミー塩(ジカリウムニトロソジスルホナート)である。
【0029】
セル内容物の混合のために、当業者に知られている全ての機械的撹拌機を使用でき、もっとも、他の混合法、例えばウルトラチュラックス又は超音波の使用も可能である。
【0030】
実施例
実施例1
希硫酸(0.1M)570gからなる電解液中のクラフトリグニン30gの懸濁液を、ホウ素ドープされたダイアモンドカソード(エキスパンデッドメタル、5×10cm)及び0.5cmの間隔でのホウ素ドープされたダイアモンドアノード(エキスパンデッドメタル、5×10cm)からの電極スタックを備えている分割されていないセル中で、電流密度80mA/cm2及び温度30℃で1時間9500rpmでの撹拌下で電解する。この調整されたセル電圧は2〜6Vの範囲内にある。この水相をメチル−tert−ブチルエーテル(MTBE)で抽出し、この固形物を吸引して、MTBEで洗浄する。この水相を複数回MTBEで抽出し、この有機相を一緒にし、乾燥し、溶媒を除去する。この有機性の粗生成物のガスクロマトグラフィによる分析は以下の典型的な組成を明らかにする(GC面積パーセント):27%グアイアコール、24%バニリン、24%アセトバニロン及び25%他の化合物。このGC分析のためには固定相として30m長さ及び0.25mm直径及び1μm層厚を有するJ&W ScientificのdB1カラムを使用した。このカラムを温度プログラムを用いて80℃から開始して5分間のうちに8℃の段階で250℃に加熱する。キャリアガスとして流速20〜30ml/分を有するヘリウムを使用する。
【0031】
実施例2
以下の通り変更して実施例1と同様に実施:クラフトリグニン6g、希硫酸(0.1M)594g、フレミー塩3g、25℃で30分間の電解。この有機抽出物の典型的組成(GC面積パーセント):37%グアイアコール、23%バニリン、40%アセトバニロン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドロキシベンズアルデヒド誘導体及び/又はフェノール誘導体に関して5質量%よりも高い収率でリグニンを分解するための方法であって、リグニンの水性の溶液又は懸濁液をダイアモンド電極で電解する方法。
【請求項2】
pH値≦11を有する水溶液中で作業する請求項2記載の方法。
【請求項3】
酸性の水溶液中で作業する請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
使用されるダイアモンド電極がホウ素ドープされたダイアモンド電極である請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
リグニン分解生成物をこの電気化学的セルから連続的に取り除く請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
リグニン分解生成物を水蒸気蒸留により取り除く請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
リグニン分解生成物を有機溶媒を使用した連続的抽出により取り除く請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
リグニン分解生成物が、グアイアコール、バニリン及びアセトバニロンの群から選択されている請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。

【公表番号】特表2011−521102(P2011−521102A)
【公表日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−508877(P2011−508877)
【出願日】平成21年5月11日(2009.5.11)
【国際出願番号】PCT/EP2009/055638
【国際公開番号】WO2009/138368
【国際公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】