説明

ダイオキシン類汚染土壌の浄化方法

【課題】ダイオキシン類汚染土壌からダイオキシン類をさらに効率よく除去し、又は分解することが可能な方法を提供する。
【解決手段】ダイオキシン類汚染土壌からシルトを分離し、必要に応じてシルトを酸処理してシルトの表面のガラス成分を除去し、シルトの水スラリーにフミン質を添加すると共に水スラリーをアルカリ性に調整し、シルト中に含まれるダイオキシン類を水相に抽出し、必要に応じて水スラリーにダイオキシン類分解菌又はその菌体破砕物を添加して水相中のダイオキシン類を分解し、水スラリーからシルトを分離して、ダイオキシン類の濃度が規制値を下回るシルトを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイオキシン類で汚染された土壌を浄化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイオキシン類で汚染された土壌(ダイオキシン類汚染土壌)は、例えば焼却炉の使用、焼却施設の解体や焼却灰の埋め立てによって発生する。このようなダイオキシン類汚染土壌を浄化する方法としては、種々の方法が知られている。
【0003】
ダイオキシン類汚染土壌を浄化する方法としては、例えば、ダイオキシン類汚染土壌を水中で攪拌して平均粒径100μm以下の微細土壌粒子と粗大土壌粒子とに分級によって分離し、得られた微細土壌粒子にダイオキシン類分解反応触媒を含有する塩酸酸性水溶液と接触させて無害化し、粗大土壌粒子をダイオキシン類汚染土壌を、採取した個所に埋め戻す方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
またダイオキシン類汚染土壌を浄化する方法としては、例えば、ダイオキシン類汚染土壌を間接的に加熱してダイオキシン類を揮発させ、揮発したダイオキシン類を水蒸気又は空気と反応させてダイオキシン類を分解する方法が知られている(例えば、特許文献2〜4参照。)。
【0005】
またダイオキシン類汚染土壌を浄化する方法としては、例えば、白色腐朽菌の粗酵素を抽出して固定化してなる顆粒状ダイオキシン類分解剤を、ダイオキシン類汚染土壌中に散布及び混入し、1ヶ月以上の自然放置をもって、前記土壌中に残留物を残さないようにダイオキシン類を分解する方法が知られている(例えば、特許文献5参照。)。
【0006】
またダイオキシン類汚染土壌を浄化する方法としては、例えば、ダイオキシン類汚染土壌を試料として好気性及び嫌気性のハロゲン化ダイオキシン類分解微生物の検出を行い、前記分解微生物が検出された土壌又はそれを接種した培養液をダイオキシン類汚染土壌に導入する方法が知られている(例えば、特許文献6参照。)。
【0007】
またダイオキシン類汚染土壌を浄化する方法としては、例えば、ダイオキシン類汚染土壌をこの土壌同士の擦れ合い又は移動流体との接触を伴う方法で分級し、設定粒径以下の粉粒体を化学的に処理してダイオキシン類の無害化を図る一方で、設定粒径を超える粉粒体には化学的処理を行わない方法が知られている(例えば、特許文献7参照。)。
【0008】
またダイオキシン類汚染土壌を浄化する方法としては、例えば、芳香族環に結合する酸素原子を有する置換基と芳香族環に結合するクロロ基とを有する塩素化芳香族化合物の存在下で培養されたバチルス・ミドウスジの菌体膜を含む菌体破砕物又はその分画物とダイオキシン類汚染土壌と水系媒体とを混合する方法が知られている(例えば、特許文献8参照。)。
【0009】
ダイオキシン類汚染土壌中のダイオキシン類は、通常は、ダイオキシン類汚染土壌中に偏在している。またダイオキシン類は化学的に安定な物質である。したがって、ダイオキシン類汚染土壌から、実質的にダイオキシン類を含有する部分のみを取り出して処理することによって、ダイオキシン類汚染土壌の浄化効率のさらなる向上や、ダイオキシン類汚染土壌の浄化のさらなる省力化が期待される。ダイオキシン類汚染土壌の浄化方法においては、この点について検討の余地が残されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2001−113261号公報
【特許文献2】特開2004−057911号公報
【特許文献3】特開2006−035218号公報
【特許文献4】特開2005−040674号公報
【特許文献5】特開2004−351263号公報
【特許文献6】特開2005−278433号公報
【特許文献7】特開2008−272539号公報
【特許文献8】特開2004−298868号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、ダイオキシン類汚染土壌からダイオキシン類をさらに効率よく除去し、又は分解することが可能な方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、ダイオキシン類汚染土壌におけるダイオキシン類の分布を調査したところ、ダイオキシン類の90%以上が土壌中のシルトに含まれていることを見出した。また本発明者らは、シルトの酸処理品と酸非処理品との示差熱分析によって、酸非処理品にはガラス転移が観察されることを見出し、シルトの表面にはガラス成分の皮膜が存在し、ダイオキシン類はその皮膜よりも内側に、ダイオキシン類とより親和性の高い有機物に吸着されて存在していることを見出した。そして、本発明者らは、水や無機物とは親和性が非常に低いダイオキシン類を、フミン酸を含有するアルカリ性の水相であれば水相に抽出することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0013】
すなわち、本発明は、ダイオキシン類汚染土壌からシルトを分離する工程と、ダイオキシン類を分解する菌又はその菌体破砕物とフミン質とが添加され、かつアルカリ性に調整された前記シルトの水スラリーを調製し、水スラリー中でシルト中のダイオキシン類を分解する工程と、水スラリーからシルトと水相とを分離する工程と、を含むダイオキシン類汚染土壌の第一の浄化方法を提供する。
【0014】
また本発明は、ダイオキシン類汚染土壌からシルトを分離する工程と、フミン質が添加され、かつアルカリ性に調整された前記シルトの水スラリーを調製する工程と、水スラリー中のシルトからダイオキシン類を水相に抽出する工程と、水スラリーからシルトと水相とを分離する工程と、を含むダイオキシン類汚染土壌の第二の浄化方法を提供する。
【0015】
また本発明は、前記水スラリーから分離されたシルトから、フミン質が添加され、かつアルカリ性に調整された水スラリーを調製する工程と、この水スラリー中のシルトからダイオキシン類を水相に抽出する工程と、水スラリーからシルトと水相とを分離する工程と、をさらに含み、これらの工程を一回以上繰り返す、第二の浄化方法を提供する。
【0016】
また本発明は、水スラリーから分離された水相にダイオキシン類を分解する菌又はその菌体破砕物を添加して、水相に抽出されたダイオキシン類を分解する工程をさらに含む、前記のダイオキシン類汚染土壌の浄化方法を提供する。
【0017】
また本発明は、水スラリーに調製される前のシルトに酸を添加してシルトからガラス成分を除去する工程をさらに含む、前記のダイオキシン類汚染土壌の浄化方法を提供する。
【0018】
また本発明は、ダイオキシン類を分解する菌がダイオキシン類又は塩素化芳香族化合物
で馴致されたバチルス・ミドウスジであり、その菌体破砕物が前記バチルス・ミドウスジの菌体膜を含む菌体破砕物である、前記のダイオキシン類汚染土壌の浄化方法を提供する。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、ダイオキシン類汚染土壌からシルトを分離する工程と、ダイオキシン類を分解する菌又はその菌体破砕物とフミン質とが添加され、かつアルカリ性に調整された前記シルトの水スラリーを調製し、水スラリー中でシルト中のダイオキシン類を分解する工程と、水スラリーからシルトと水相とを分離する工程とを含むことにより、ダイオキシン類汚染土壌からダイオキシン類をさらに効率よく分解することができる。
【0020】
また本発明は、ダイオキシン類汚染土壌からシルトを分離する工程と、フミン質が添加され、かつアルカリ性に調整された前記シルトの水スラリーを調製する工程と、水スラリー中のシルトからダイオキシン類を水相に抽出する工程と、水スラリーからシルトと水相とを分離する工程とを含むことにより、ダイオキシン類汚染土壌からダイオキシン類をさらに効率よく除去することができる。
【0021】
また本発明は、前記水スラリーから分離されたシルトから、フミン質が添加され、かつアルカリ性に調整された水スラリーを調製する工程と、この水スラリー中のシルトからダイオキシン類を水相に抽出する工程と、水スラリーからシルトと水相とを分離する工程と、をさらに含み、これらの工程を一回以上繰り返すことが、シルトからダイオキシン類を効率よく、またより一層除去する観点からより一層効果的である。
【0022】
また本発明は、水スラリーから分離された水相にダイオキシン類を分解する菌又はその菌体破砕物を添加して、水相に抽出されたダイオキシン類を分解する工程をさらに含むことが、抽出されたダイオキシン類を容易に分解する観点からより一層効果的である。
【0023】
また本発明は、水スラリーに調製される前のシルトに酸を添加してシルトからガラス成分を除去する工程をさらに含むことら、シルトからのダイオキシン類の抽出率を高める観点からより一層効果的である。
【0024】
また本発明は、ダイオキシン類を分解する菌がダイオキシン類又は塩素化芳香族化合物で馴致されたバチルス・ミドウスジであり、その菌体破砕物が前記バチルス・ミドウスジの菌体膜を含む菌体破砕物であることが、水相に抽出されたダイオキシン類を効率よく分解する観点からより一層効果的である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第一の実施の形態を示す図である。
【図2】本発明の第二の実施の形態を示す図である。
【図3】本発明の第三の実施の形態を示す図である。
【図4】本発明の第四の実施の形態を示す図である。
【図5】本発明の第五の実施の形態を示す図である。
【図6】本発明の第六の実施の形態を示す図である。
【図7】例1における酸処理シルト、シルト1、及び上澄み1のダイオキシン類の濃度の各化合物の測定結果を示す図である。
【図8】例1における原料シルト、シルト1’、及び上澄み1’のダイオキシン類の各化合物の濃度の測定結果を示す図である。
【図9】例1における酸処理シルト、シルト1、及び上澄み1のダイオキシン類の濃度の種類別の測定結果を示す図である。
【図10】例1における原料シルト、シルト1’、及び上澄み1’のダイオキシン類の種類別の濃度の測定結果を示す図である。
【図11】使用されたフミン酸のダイオキシン類の濃度の測定結果を示す図である。
【図12】例2における酸処理シルト、シルト1、及びシルト2のダイオキシン類の種類別の濃度の測定結果を示す図である。
【図13】例2における原料シルト、シルト1’、及びシルト2’のダイオキシン類の種類別の濃度の測定結果を示す図である。
【図14】例2における上澄みW、上澄み1、及び上澄み2のダイオキシン類の濃度の種類別の測定結果を示す図である。
【図15】例2における上澄みW’、上澄み1’、及び上澄み2’のダイオキシン類の種類別の濃度の測定結果を示す図である。
【図16】例3における上澄み2、上澄み3、及び上澄み3−2のダイオキシン類の各化合物の濃度の測定結果を示す図である。
【図17】例3におけるシルト2、シルト3、及びシルト3−1のダイオキシン類の各化合物の濃度の測定結果を示す図である。
【図18】例3における上澄み2、上澄み3、及び上澄み3−2のダイオキシン類の種類別の濃度の測定結果を示す図である。
【図19】例3におけるシルト2、シルト3、及びシルト3−1のダイオキシン類の種類別の濃度の測定結果を示す図である。
【図20】例4における酸処理シルト、シルトA、及び上澄みAのダイオキシン類の各化合物の濃度の測定結果を示す図である。
【図21】例4における酸処理シルト、シルトB、及び上澄みBのダイオキシン類の各化合物の濃度の測定結果を示す図である。
【図22】例4における酸処理シルト、シルトA、及び上澄みAのダイオキシン類の種類別の濃度の測定結果を示す図である。
【図23】例4における酸処理シルト、シルトB、及び上澄みBのダイオキシン類の種類別の濃度の測定結果を示す図である。
【図24】例5におけるシルトC、シルトD、及びシルトEのダイオキシン類の各化合物の濃度の測定結果を示す図である。
【図25】例5におけるシルトC、シルトD、及びシルトEのダイオキシン類の種類別の濃度の測定結果を示す図である。
【図26】ダイオキシン類汚染土壌の示差熱分析及び熱重量測定の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の浄化方法は、水スラリーの水相にダイオキシン類を抽出すると共に水スラリー中で微生物反応によって分解することにより浄化された土壌を得る第一の浄化方法と、水スラリーの水相にダイオキシン類を抽出して水相を分離することによって浄化された土壌を得る第二の浄化方法を含む。
【0027】
第一の浄化方法は、ダイオキシン類汚染土壌からシルトを分離する工程と、ダイオキシン類を分解する菌又はその菌体破砕物とフミン質とが添加され、かつアルカリ性に調整された前記シルトの水スラリーを調製し、水スラリー中でシルト中のダイオキシン類を分解する工程と、水スラリーからシルトと水相とを分離する工程と、を含む。
【0028】
一方、第二の浄化方法は、ダイオキシン類汚染土壌からシルトを分離する工程と、フミン質が添加され、かつアルカリ性に調整された前記シルトの水スラリーを調製する工程と、水スラリー中のシルトからダイオキシン類を水相に抽出する工程と、水スラリーからシルトと水相とを分離する工程と、を含む。
【0029】
本発明において、ダイオキシン類汚染土壌は、ダイオキシン類で汚染されており、かつシルトを含有する。本発明において、シルトとは、土壌中の成分のうち、砂と粘土の中間
の粒径を有する成分であり、より詳しくは粒径が5μm以上75μm未満の粒子の成分である。シルトは、珪藻の堆積物から生成されたとも言われている。
【0030】
また、本発明において、ダイオキシン類とは、ポリ塩素化ジベンゾ−p−ダイオキシン、ポリ塩素化ジベンゾフラン、及びコプラナーPCB(ポリ塩化ビフェニル)の全ての総称である。本発明では特に断らない限り、これらの化合物の一部又は全部を示す。
【0031】
また、本発明において、フミン質とは、理学、土壌学上で定義された、ある条件下における有機物の総体であり、より詳しくは植物等が微生物によって分解されるときの最終分解生成物で、直鎖炭化水素と多環芳香族化合物(分子量数千から1万程度)の難分解性高分子化合物である。フミン質の主たる由来は植物残渣、特にセルロースやリグニンといった難分解性の有機物である。フミン質の外見は褐色から黒色を呈する。フミン質にはフミン酸やフルボ酸等がある。フミン質は腐植質ともいう。
【0032】
フミン酸とは、石炭化度の低い泥炭や褐炭に含まれていて、フミン質のうち、アルカリに溶けて、酸で沈殿する有機高分子化合物をいう。土壌中に存在するものを土壌フミン酸という。フミン酸は、カルボキシル基、水酸基等を多く含むため、水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリに可溶となり、一種の高分子電解質とみなされる。フミン酸は、複雑な混合物であり、含有されている試料によって元素組成、官能基数等が異なる。
【0033】
本発明において、フミン質には、石炭化度の低い泥炭や褐炭から分離された成分を用いることができ、また、パルプの製造において排出されるパルプ廃液を用いることができる。
【0034】
ダイオキシン類汚染土壌からシルトを分離する工程では、シルトのみが分離されてもよいし、シルトを主成分とし、それ以外の成分を副成分とするようにシルトが分離されてもよい。シルトのみの分離は、ダイオキシン類汚染土壌からのダイオキシン類の抽出率を高める観点から好ましく、シルトを主成分とし泥等の副成分を含むシルトの分離は、シルトの分離作業の簡易化の観点から好ましい。
【0035】
シルトの分離は、土壌の分級における常法によって行うことができ、このような方法としては、例えば、所定量の水を土壌に加えた試料を振動する篩にかけて、篩の目開きに応じた所望の粒径の成分を分離する加水ふるい法が挙げられる。本発明では、分離されたシルトにおけるダイオキシン類の含有量を高める観点から、汚染土壌の一部又は全部を揉み擦り合わせる摩砕処理を行った後にシルトを分離することが好ましい。
【0036】
本発明におけるシルトの水スラリーは、ダイオキシン類汚染土壌から分離されたシルトにフミン質を添加し、必要に応じて水を添加し、さらにアルカリを添加してアルカリ性に調整することによって調製される。
【0037】
水スラリーにおける水の含有量は、流動性の担保、菌体又はその菌体破砕物とダイオキシン類との反応、及び処理量の減容の観点から、シルト100質量部に対して80〜300質量部であることが好ましく、100〜250質量部であることがより好ましく、100〜150質量部であることがさらに好ましい。
【0038】
また、水スラリーにおけるフミン質の含有量は、ガラス質の表面皮膜が形成されているシルトに含まれるタンパク質や脂質類に吸着しているダイオキシン類をフミン質により強く吸着させて、シルトからダイオキシン類を抽出する能力を高める観点から、シルト100質量部に対して20〜100質量部であることが好ましく、50〜100質量部であることがより好ましく、80〜100質量部であることがさらに好ましい。
【0039】
さらに、水スラリーにおけるpHは、フミン質、例えばフミン酸の水への可溶性を維持する観点から、7〜9であることが好ましく、8〜9であることがより好ましく、9であることがさらに好ましい。水スラリーのpH調整には、所望のpHに調整可能な薬剤を使用することができ、例えば水酸化ナトリウム等のアルカリや、アルカリ性を維持するpH緩衝液を使用することができる。
【0040】
第一の浄化方法では、水スラリーには、ダイオキシン類を分解する菌又はその菌体破砕物がさらに添加される。ダイオキシン類を分解する菌又はその菌体破砕物の添加は、水スラリーの調製時であってもよいし、水スラリーの調製後であってもよい。
【0041】
ここで本発明において、ダイオキシン類を分解する菌とは、前記水スラリー中においてダイオキシン類の分解能を示す菌である。また本発明において、その菌体破砕物とは、ダイオキシン類を分解する菌の菌体破砕物であって、ダイオキシン類の分解特性を有する分画物、又はそれを含有する菌体破砕物である。
【0042】
ダイオキシン類を分解する菌は、多塩素化のダイオキシン類に対しても高い分解能力を有する観点から、塩素化芳香族化合物で馴化されたバチルス・ミドウスジであることが好ましい。またその菌体破砕物は、多塩素化のダイオキシン類に対する高い分解能力を有する観点、及び微生物の活動可能温度以下の温度でもダイオキシン類の分解が可能である観点から、塩素化芳香族化合物で馴化されたバチルス・ミドウスジの菌体膜の分画物、又はそれを含む菌体破砕物が好ましい。
【0043】
塩素化芳香族化合物で馴化されたバチルス・ミドウスジには、特許文献8に記載されている、芳香族環に結合する酸素原子を有する置換基と芳香族環に結合するクロロ基とを有する塩素化芳香族化合物の存在下で培養されたバチルス・ミドウスジ(Bacillus midousuji)を用いることができる。また、塩素化芳香族化合物で馴化されたバチルス・ミドウスジの菌体膜を含む菌体破砕物、若しくはその分画物には、特許文献8に記載されているように、塩素化芳香族化合物で馴化されたバチルス・ミドウスジの菌体を、超音波、圧搾、細胞膜分解酵素の添加等によって破砕し、必要に応じて破砕物から菌体膜分画を分離することによって得られる。
【0044】
第一の浄化方法において、水スラリーにおけるダイオキシン類を分解する菌又はその菌体破砕物の含有量は、最少有効量、所望の分解速度の確保、及び費用対効果の観点から、水スラリーに対する重量比で1/1,000〜1/10,000であることが好ましい。
【0045】
第一の浄化方法において、水スラリー中でのダイオキシン類の分解は、水相に溶解しているフミン酸がシルト中のダイオキシン類と十分に接触してダイオキシン類をシルトから抽出する条件と、ダイオキシン類を分解する菌又はその菌体破砕物によるダイオキシン類の分解反応が水相中で行われる分解条件との両方を含む条件によって行うことができる。このような抽出条件としては、温度や撹拌速度によって適宜に決めることができ、例えば65℃で160rpmの撹拌を七日間行う条件が挙げられる。
【0046】
また、分解条件としては、ダイオキシン類を分解する菌を用いる場合では、その菌が増殖可能な環境を形成する条件であり、例えば前記バチルス・ミドウスジを用いる場合では、水スラリーの温度が60〜100℃であり、空気等の酸素含有ガスが水相中へ十分に供給されていること、及び、菌体が水スラリー中で十分に分散するように撹拌されていること、が挙げられる。
【0047】
また前記分解条件としては、菌体破砕物を用いる場合では、その菌体破砕物がダイオキ
シン類を分解することができる条件であり、例えば前記バチルス・ミドウスジの菌体膜の分画物を含むバチルス・ミドウスジの菌体破砕物を用いる場合では、水スラリーの温度が0〜100℃であり、空気等の酸素含有ガスが水相中へ十分に供給されていること、及び、菌体破砕物が水スラリー中で十分に分散するように撹拌されていること、が挙げられる。
【0048】
前記の分解条件によれば、例えば2,3,7,8TCDDを一日間で約8割減少させることができ、七日間で99%を減少させることが可能である。水スラリー中のダイオキシン類の分解の終点は、水スラリー中のシルトにおけるダイオキシン類の濃度によって決めることができる。水スラリー中のシルトにおけるダイオキシン類の濃度は、例えば、水スラリーから採取されたシルトを、水相に抽出されたダイオキシン類を上澄みとして回収し、ダイオキシン類と選択的に結合する工程を用いるELISA法で測定することによって求めることができる。
【0049】
なお、第一の浄化方法において、水スラリー中でのダイオキシン類の分解は、フミン質、及び、菌又は菌体破砕物、の一方或いは両方を必要に応じて水スラリーにさらに添加することによって継続することができ、又は、水スラリーからシルトを分離し、分離したシルトを用いて新たに前述の水スラリーを調製し、前述のように水スラリー中でのダイオキシン類の分解を行うことによって継続することができる。
【0050】
水スラリーからのシルトと水相との分離は、沈殿や遠心分離等の、水スラリーからの土壌の通常の分離技術を利用して行うことができる。
【0051】
本発明における第二の浄化方法は、ダイオキシン類を分解する菌又はその菌体破砕物を用いないことを除いて、水スラリーの調製までは第一の浄化方法と同様に行うことができる。
【0052】
第二の浄化方法における水スラリー中のシルトからのダイオキシン類の抽出は、第一の浄化方法における前記の抽出条件によって行うことができる。この抽出の終点は、水相又はシルトにおけるダイオキシン類の濃度の経時的な測定によって決めることができる。また第二の方法における水スラリーからのシルトと水相の分離は、第一の浄化方法におけるシルトと水相の分離と同様に、水スラリーからの土壌の通常の分離技術を利用して行うことができる。
【0053】
第二の浄化方法では、水スラリー中のシルトからのダイオキシン類の抽出を繰り返し行うことができる。このような抽出の繰り返しは、水スラリーから分離されたシルトから、フミン質が添加され、かつアルカリ性に調整された水スラリーを調製する工程と、得られた水スラリー中のシルトからダイオキシン類を水相に抽出する工程と、水スラリーからシルトと水相とを分離する工程と、によって行うことができる。このような抽出の繰り返しは、シルトのダイオキシン類の濃度が所望の値まで低下するまで行うことができ、シルトのダイオキシン類の濃度の測定によって終点を決めることができる。
【0054】
本発明においては、水スラリーが調製される前のシルトに酸を添加して、シルトからガラス成分を除去する工程(酸処理工程)をさらに含むことが、シルトからのダイオキシン類の抽出を向上させる観点から好ましい。このような酸処理工程に用いられる酸は一種でも二種以上でもよい。このような酸としては、例えば塩酸、硫酸、及び硝酸等の無機酸や、スルホン酸等の有機酸が挙げられる。
【0055】
酸処理工程におけるシルトからのガラス成分の除去は、酸の添加と、シルト及び酸の十分な混合とによって行うことができる。酸処理工程に用いられる酸の濃度は、シルトのガ
ラス成分を除去する観点から、1規定以上であることが好ましく、2規定以上であることがより好ましい。また、酸処理工程における酸の使用量は、シルトと酸との混合性の観点から、シルトに対して体積比で1以上であることが好ましく、2以上であることがより好ましい。
【0056】
酸処理工程におけるシルトと酸との混合は、酸によってゲル化したガラス成分をシルトから分離することができる条件によって行うことができる。このような混合は、例えば、シャープレス連続遠心器(巴工業株式会社製)を用いて分離することによって行うことができる。
【0057】
本発明では、第二の浄化方法に第一の浄化方法を組み合わせてもよい。例えば、第二の浄化方法によってダイオキシン類が一度抽出されたシルトに、微生物反応による水スラリー中でのダイオキシン類の分解を適用してもよい。また、本発明では、本発明の効果が得られる範囲において、前述した以外のさらなる工程を含んでいてもよい。このような他の工程としては、例えば、酸処理されたシルトを水洗して、シルトから分離したガラス成分をさらに除去する工程、が挙げられる。
【0058】
より具体的には、第一の浄化方法は、例えば図1に示すように行うことができる。
図1に示す第一の浄化方法では、まず、摩砕処理機を用いて、ダイオキシン汚染土壌は摩砕処理される。摩砕処理機は、固定ロータと回転ロータによる摩擦と圧縮の繰り返しで、揉み摺り洗いを行う機械処理装置であり、このような摩砕処理機には、例えば新六精機株式会社製、骨材研磨機「ハリケーン」(登録商標)が挙げられる。ダイオキシン類汚染土壌は、適量の水が加えられて摩砕処理される。
【0059】
摩砕処理されたダイオキシン類汚染土壌は、電動ふるい装置(例えば筒井理化学器械株式会社製、ふるい振とう機)に送られ、ダイオキシン類汚染土壌中の砂礫成分とシルト成分とが、電動ふるい装置によってそれぞれふるい分けされ、ふるい上の砂礫成分とふるい下のシルト成分と水とに分離される。分離したそれぞれの成分におけるダイオキシン類の濃度が分析され、ダイオキシン類の濃度が規制値未満の砂礫は土壌として埋め立て等に再利用される。ダイオキシン類は水側には移行しないので、摩砕処理機及び電動ふるい処理で使用した水は回収され、摩砕処理とふるい処理において再利用される。
【0060】
ふるい処理によって分離されたシルトは、撹拌機構と好気性の菌の培養機構とを備えた撹拌培養装置に収用される。また、シルトに対して、例えば同重量かそれ以上の水が攪拌培養装置に投入される。また、シルトの乾燥重量に対して、最小で15%、最大で30%のフミン酸が攪拌培養装置に投入される。また、水酸化ナトリウム水溶液を用いて、培養装置内の環境がpH9に調整される。また、塩素化芳香族化合物で馴化されたバチルス・ミドウスジ(生菌)が0.1〜0.01質量%の濃度で撹拌培養装置に投入される。さらに、バチルス・ミドウスジの良好な生育の観点から、培地が撹拌培養装置に投入される。このような培地としては、例えば、撹拌培養装置に投入された水に対して3%のコンスティープリカー又はトリプチソイブロス等の培地と0.3%濃度のイーストエキストラクトとの溶液が挙げられる。このようにして水スラリーが調製される。各成分の投入順序は特に限定されない。またバチルス・ミドウスジの生菌に代えて、バチルス・ミドウスジの菌体膜分画を含む菌体破砕物を用いてもよい。
【0061】
生菌では65℃以上、その破砕物では例えば28℃以上に、攪拌培養装置内の温度環境を維持し、例えば6日間昼夜連続で攪拌培養が行われる。特に生菌を用いる場合は、水スラリー中の溶存酸素濃度が培養中において適宜に調整される。例えば水スラリーの溶存酸素が1%以上になるように、ODで循環水量が調節されて攪拌が続けられる。このような培養によって、シルトからダイオキシン類がフミン酸によって水相に抽出されると共に、
水相に抽出されたダイオキシン類は、生菌又は破砕物によって分解され、無毒化する。
【0062】
培養後には、ダイオキシン類が除去された浄化シルトと浄化上澄みとを含有する水スラリーが得られる。この水スラリーを、例えば沈殿槽や遠心分離機によって固液分離することによって、浄化シルトと浄化上澄みとが別々に得られる。浄化シルトは、ダイオキシン類の濃度が規制値未満であることが確認された後、土壌として埋め立て等に再利用される。浄化上澄みは、回収されて、水スラリーの水相として再利用される。
【0063】
図1に示す浄化方法によれば、シルトからのダイオキシン類の抽出と分解とが水スラリー中で行われることから、工程数を少なくすることができ、より簡易な設備で実施可能であることから、ダイオキシン類汚染土壌の採取現場で土壌を浄化し、ダイオキシン類を分解するのに効果的である。
【0064】
第一の浄化方法は、例えば図2に示すように行うこともできる。
図2に示す第一の浄化方法は、ふるい処理によって得られたシルトを、前記水スラリーを調製する前に酸で処理する以外は、図1に示す方法と同じである。
【0065】
図2に示す方法では、ふるい処理によって得られたシルトを摩砕処理機に投入し、シルトに、例えば20%の濃度の塩酸を加え、揉み摺り洗いを少なくとも1時間継続して行う。このような処理によって、シルトの乾燥重量の6%に相当するガラス成分がシルトから分離する。得られたシルトを酸処理シルトと言う。
【0066】
酸処理シルトには、例えばシルトと同じ重量の水が加えられて洗浄される。洗浄回数は特に限定されないが、二回又はそれ以上であることが、シルトからの酸の除去と分離したガラス成分のシルトからの除去の観点から好ましい。水洗された酸処理シルトは、撹拌培養装置に収容され、水スラリーが調製される。それ以降の工程は図1に示す第一の浄化方法と同じである。
【0067】
図2に示す浄化方法によれば、図1に示す第一の浄化方法の効果に加えて、シルトの表面を覆うガラス成分が酸処理によって除去されることから、シルトからのダイオキシン類の抽出効率をより一層高めることができる。また、酸処理シルトが水洗することから、水スラリーの調製時のアルカリの添加量をより抑制することができ、また、分離したガラス成分をシルトの表面から除去する観点でより一層効果的である。
【0068】
第二の浄化方法は、例えば図3に示すように行うことができる。
図3に示す第二の浄化方法は、ふるい処理によって、ダイオキシン類を含有するシルトを分離するまでの工程は図1の方法と同じである。
【0069】
ふるい処理で分離されたシルトは、撹拌装置に収容され、このシルトに水及びフミン酸が添加され、さらにアルカリで例えばpH9に調整されて、水スラリーが調製される。得られた水スラリーは、例えば25℃160rpmで24時間、撹拌装置にて撹拌される。この撹拌により、シルト中のダイオキシン類は水相に抽出される。
【0070】
抽出後、水スラリーからシルトと上澄みとが分離される。分離されたシルト中のダイオキシン類の濃度が規制値未満である場合には、シルトは土壌として埋め立て等に再利用される。分離されたシルト中のダイオキシン類の濃度が規制値以上である場合には、シルトは再度撹拌装置に収容され、前述のように水スラリーが調製され、シルト中のダイオキシン類濃度の目標値が達成されるまで(通常は一回又は二回)、前述の抽出が繰り返される。
【0071】
抽出後、上澄みは撹拌培養装置に収容され、生菌又はその破砕物が添加されて、例えば図1に示す方法と同じ条件で上澄み中のダイオキシン類が分解される。上澄み中のダイオキシン類の分解は、ダイオキシン類汚染土壌の採取場所で行ってもよいし、ダイオキシン類汚染土壌の採取場所から離れた専用の設備を用いて行ってもよい。ダイオキシン類が分解された上澄みは、通常の排水として河川等に放流されたり、又は生菌の供給に再利用される。
【0072】
図3に示す浄化方法によれば、ダイオキシン類の水相への抽出と水スラリーからのシルトの分離とによって浄化されたシルトが得られることから、土壌の浄化速度を高める観点からより一層効果的である。また、ダイオキシン類が水相に移行していることから、上澄みを別の場所で処理するために搬送しても、ダイオキシン類の搬送中の飛散を防止する観点から効果的である。
【0073】
第二の浄化方法は、例えば図4に示すように行うこともできる。
図4に示す第二の浄化方法は、ふるい処理によって得られたシルトを、水スラリーの調製の前に酸処理する以外は図3に示す方法と同じである。図4に示す方法におけるシルトの酸処理と水洗は、図2に示す方法と同様に行われる。
【0074】
図4に示す浄化方法によれば、図3に示す方法に比べて、ダイオキシン類の抽出効率を高める観点からより一層効果的であり、また水スラリーのpH調整のためのアルカリの添加量を抑制する観点からも効果的である。
【0075】
第二の浄化方法は、例えば図5に示すように行うこともできる。
図5に示す第二の浄化方法は、水スラリー中におけるシルトからのダイオキシン類の抽出、及び上澄み中のダイオキシン類の分解、無毒化は、図3に示す方法と同じである。図5に示す方法では、抽出工程後に分離されたシルトのダイオキシン類の濃度が規制値以上である場合には、抽出工程に戻す前にシルトを酸処理する。このシルトの酸処理は、図2に示す方法における酸処理及び水洗と同様に行われる。
【0076】
図5に示す浄化方法によれば、図3に示す方法に比べて、二回目以降のシルトからのダイオキシン類の抽出の効率を高めることができ、抽出回数の増加によるシルトからのダイオキシン類の抽出効率の低下を抑制する観点から効果的である。
【0077】
第二の浄化方法は、例えば図6に示すように行うこともできる。
図6に示す第二の浄化方法は、酸処理シルトに、同一水スラリー中におけるダイオキシン類の抽出と生菌又は菌体破砕物によるダイオキシン類の分解とを適用する以外は、図5に示す方法と同じである。酸処理シルトに対する同一水スラリー中でのダイオキシン類の抽出及び分解は、図1に示す方法における分離シルトに対する同一水スラリー中でのダイオキシン類の抽出及び分解と同様に行われる。
【0078】
図6に示す浄化方法によれば、図5に示す方法に比べて、抽出効率が低下したシルトからのダイオキシン類の分解を連続して行うことができ、抽出効率が低下したシルト中のダイオキシン類の濃度を確実に下げる観点から効果的である。
【0079】
本発明の浄化方法によれば、採用する方法によって多少は異なるが、一回の抽出でシルト中のダイオキシン類の約50%を水相に抽出することができる。ダイオキシン類汚染土壌中の実際のダイオキシン類の濃度は、環境基準を若干超える程度であることが多いことから、通常はダイオキシン類の水相への一回の抽出によってダイオキシン類汚染土壌が浄化されることが期待される。また、抽出を繰り返すことによってダイオキシン類汚染土壌をさらに一層浄化することができる。さらに、水スラリーの調製前にシルトを酸処理する
ことによって、ダイオキシン類の抽出効率をより高めることができ、酸処理されたシルトをさらに水洗することによって、ダイオキシン類の抽出効率をより一層高めることができる。
【0080】
また本発明の浄化方法によれば、生菌又は菌体破砕物を用いることによって、水相に抽出したダイオキシン類の約90%かそれ以上を分解することができる。
【実施例】
【0081】
以下に本発明の実施の形態について具体的に説明する。以下の例において、ダイオキシン類汚染土壌には、焼却灰及び飛灰を含有する土壌を用いた。またシルト中のダイオキシン類の定量はガスクロマトグラフ・マススペクロルメトリー法によって行った。また水相中のダイオキシン類の定量もガスクロマトグラフ・マススペクロルメトリー法によって行った。またダイオキシン類を分解する菌には、バチルス・ミドウスジSH2B−J2株(SH2B−J2菌株)を用いた。
【0082】
[例1]
ダイオキシン類汚染土壌を、新六精機株式会社製の骨材研磨機「ハリケーン」(登録商標)を用いて摩砕処理した。摩砕処理は、質量比が土壌:水で4:1となるようにダイオキシン類汚染土壌に水を加え、回転数を300rpとし、常温、常圧の条件で行った。得られた摩砕処理土壌を、筒井理化学機器株式会社製の振とうふるい機、300−MMを用いて加水ふるい処理法にて分級し、150メッシュを通過した、シルトと粘土成分とからなる土壌成分を得た。分級条件は、振動数が1,000rpm、片振幅が1.0mm、処理試料質量が200g、加水量が一回当たり1L、加水回数が3回とした。得られた土壌成分を原料シルトとした。
【0083】
得られた原料シルトに1規定の塩酸を等量加え、160rpmで1時間の振とう混合を行うことにより原料シルトを酸処理し、原料シルトからガラス成分を除去して酸処理シルトを得た。
【0084】
酸処理シルトに、酸処理シルトに対して同量の水を加えて水スラリーとし、さらに酸処理シルトと同量のフミン酸を水スラリーに添加し、水酸化ナトリウムを添加することによって水スラリーをpH9に調整した後に、65℃の環境で160rpmの速度で振とう混合を6日間継続し、シャープレス連続遠心器(巴工業株式会社製)を用いて遠心分離をすることにより、水スラリーからシルトと水相とを分離した。このような振とう混合を一回行って得られたシルトを「シルト1」とし、得られた水相を「上澄み1」とする。
【0085】
また、酸処理シルトの代わりに原料シルトを用いる以外は前記と同様に操作して、振とう混合を一回行って得られたシルト1’及び上澄み1’を得た。そして、酸処理シルト、原料シルト、シルト1、シルト1’上澄み1、及び上澄み1’のダイオキシン類の濃度を測定した。結果を図7〜図10に示す。図中、「PCDDs」はポリクロロジベンゾ−p−ダイオキシン類を表し、「PCDFs」はポリクロロジベンゾフラン類を表し、「Te」は「テトラ」を表し、「Pe」は「ペンタ」を表し、「Hx」は「ヘキサ」を表し、「Hp」は「ヘプタ」を表し、「O」は「オクタ」を表している。
【0086】
また添加したフミン酸について、pH9に調整されたフミン酸の水溶液のダイオキシン類の濃度を測定した。結果を図11に示す。図11から明らかなように、添加したフミン酸には、ごく微量のHpCDD、HpCDF、及び1,000pg級のOCDDが含まれている以外にダイオキシン類は含まれていないことが確認された。
【0087】
図9及び図10から明らかなように、酸処理シルト、シルト1、及び上澄み1と、原料
シルト、シルト1’、及び上澄み1’とのそれぞれにおいて、シルト側と上澄み側のダイオキシン類の濃度に物質収支が成立していることが確認された。また、酸処理シルトは、原料シルトに比べて、ほぼ倍のダイオキシン類の抽出効率を示した。これは、原料シルトのダイオキシン類の濃度を測定する場合、表面のガラス成分が分析時におけるダイオキシン類の検出を阻害するためと思われる。このため、酸処理シルトからのダイオキシン類の抽出率は約25%であり、原料シルトからのダイオキシン類の抽出率は約37%となっているが、原料シルトには酸処理シルトと同量のダイオキシン類が含まれることから、原料シルトからのダイオキシン類の抽出率は見かけの抽出率の約半分程度と思われる。
【0088】
[例2]
例1と同様に、酸処理シルトからシルト1及び上澄み1を得た。また、例1と同様に、原料シルトからシルト1’及び上澄み1’を得た。
【0089】
引き続き、シルト1に、シルト1に対して同量の水を加えて水スラリーとし、さらにシルト1と同量のフミン酸を水スラリーに添加し、水スラリーをpH9に調整した後に、65℃の環境で160rpmの速度で振とう混合をさらに6日間継続し、水スラリーからシルトと水相とを分離し、振とう混合を通算で二回行って得られたシルト2及び上澄み2を得た。
【0090】
なお、比較のため、酸処理シルトの水スラリーに、フミン酸に変えて精製水を添加して前記の振とう混合を一回行い、水スラリーから水相を分離し、上澄みWを得た。
【0091】
また、シルト1の代わりにシルト1’を用いる以外は前記と同様に操作してシルト2’及び上澄み2’を得た。さらに比較のため、原料シルトの水スラリーに、フミン酸に変えて精製水を添加して前記の振とう混合を一回行い、水スラリーから水相を分離し、上澄みW’を得た。
【0092】
そして酸処理シルト、シルト1、シルト2、上澄み1、上澄み2、及び上澄みW中のダイオキシン類の濃度を測定した。結果を図12及び図13に示す。また原料シルト、シルト1’、シルト2’、上澄み1’上澄み2’及び上澄みW’中のダイオキシン類の濃度を測定した。結果を図14及び図15に示す。
【0093】
図13及び図15から明らかなように、酸処理シルトや原料シルトを、フミン酸を添加せずに振とう混合して得られる上澄み(上澄みW、上澄みW’)中のダイオキシン類の濃度はわずかであり、精製水によるダイオキシン類の抽出はごくわずかであることが確認された。
【0094】
図12〜15から明らかなように、フミン酸添加後に分離したシルトと上澄みとダイオキシン類の濃度には物質収支が成立していることが確認された。また、フミン酸の連続添加によるダイオキシン類の抽出力は、酸処理シルト及び原料シルトのいずれも、第1回目の添加時がピークであり、抽出量は、2回目では1回目より指数関数的に漸減している。
【0095】
また図13及び図15から明らかなように、シルトから上澄みへ移行するダイオキシン類の量は、振とう混合一回目及び二回目のいずれにおいても、酸処理シルトの方が原料シルトに比べて多く、フミン酸の連続添加による効果の減衰は、酸処理シルトの方が原料シルトよりも少ない。
【0096】
以上より、フミン酸によるダイオキシン類の抽出能力は、シルトの表面皮膜除去を目的とした酸処理シルトの方が原料シルトに比べて、より持続性があることが明らかになった。
【0097】
[例3]
1gのシルト2に、シルト2に対して100mLの水と1gのフミン酸を添加し、得られた水スラリーに、3%の濃度に調整したTrypticase Soy Brothの水溶液培地100mLと、SH2B−J2菌株を108個/mLとを加えて、水酸化ナトリウムによって水スラリーのpHを9に調整した後、65℃に維持して160rpmの速度で振とう混合を6日間継続し、シルトと水相とを分離して、シルト3と上澄み3とを得た。
【0098】
また、比較のため、フミン酸の代わりに精製水を用いた以外は前述と同様にして、シルト3−1と上澄み3−1とを得た。
【0099】
さらに、比較のため、100mLの上澄み2に3gのTrypticase Soy Brothを添加し、水相のpH9に調整した後、SH2B−J2菌株を108個/mL加えて、65℃の温度に維持して160rpmの速度で振とう混合を6日間継続して上澄み3−2を得た。上澄み2、上澄み3、上澄み3−2、シルト2、シルト3、及びシルト3−1のダイオキシン類の濃度を測定した。結果を図16〜19に示す。
【0100】
図16及び図18から明らかなように、上澄み3と上澄み3−2のダイオキシン類の濃度はほぼ同じであることを確認した。上澄み2のダイオキシン類の濃度と上澄み3又は上澄み3−2のダイオキシン類の濃度とを比較すると、98%〜99%におけるダイオキシン類の濃度の減少が観察され、SH2B−J2菌株の上澄みに対する浄化能力が示された。
【0101】
また図17及び図19から明らかなように、シルト3のダイオキシン類の濃度は、シルト2又はシルト3−1に対して、51%から最大で61%のダイオキシン類の濃度の減少が観察され、酸処理シルトに対する浄化能力も示された。
【0102】
[例4]
15gの酸処理シルトに、この酸処理シルトに対して230mLの水と15gのフミン酸とを添加した水スラリーを用意し、この水スラリーを塩酸によってpH5に調整した水スラリーAと、前記水スラリーを水酸化ナトリウム水溶液の添加によってpH9に調整した水スラリーBとを調製し、それぞれ、65℃で6日間、160rpmの速度で振とう混合した。得られた水スラリーAからシルトAと上澄みAとを分離し、水スラリーBからシルトBと上澄みBとを分離し、酸処理シルト、シルトA、シルトB、上澄みA、及び上澄みBのダイオキシン類の濃度を測定した。結果を図20〜23に示す。
【0103】
図20及び図21から明らかなように、酸処理シルト、シルトA、B、及び上澄みA、Bのダイオキシン類の組成は相似であり、特定の組成が変化していないことから、上澄みへのダイオキシン類の抽出は、化学的な選択抽出ではなく、ダイオキシン類の各成分の一様な移行であることが確認された。また、図21及び図23から明らかなように、水スラリーBについては、酸処理シルトとシルトB及び上澄みBとの間には、ダイオキシン類の濃度に物質収支が成立していることが確認された。なお、図20及び図22から明らかなように、水スラリーAでは、シルトから上澄みへ、ダイオキシン類はほとんど移行せず、シルトから上澄みへダイオキシン類が抽出されないことが確認された。
【0104】
[例5]
原料シルトに1規定の塩酸を等量加え、160rpmで1時間の振とう混合を行い、1規定の水酸化ナトリウム水溶液で中和した後、3%Tripticase Soy Broth(TSB)と0.3%Yeast Extract(YE)を培地として添加し、
水スラリーCを得た。水スラリーCに、初期濃度を1×108個/mLに調整したSH2B−J2生菌を添加して水スラリーDを調製し、また水スラリーCに、培地量の10%に相当するDMSOと、初期濃度を1×108個/mLに調整したSH2B−J2生菌とを添加して水スラリーEとを得た。これらの水スラリーC〜Eを65℃で14日間、160rpmで振とう混合した。水スラリーC〜EのそれぞれのシルトC〜Eを分離し、シルトC〜Eのそれぞれのダイオキシン類の濃度を測定した。結果を図24及び図25に示す。
【0105】
図24及び図25から明らかなように、シルトEのダイオキシン類の濃度は、シルトCやシルトDに比べて約30%減少した。しかしながら、ダイオキシン類の各成分の濃度のパターンは、シルトC〜Eにおいてほぼ相似していることから、SH2B−J2菌株のダイオキシン類の分解は、水スラリーC〜Eにおいてはシルトの表面に止まり、シルト中のダイオキシン類の分解には至らないことが確認された。
【0106】
[ダイオキシン類汚染土壌のDTA解析]
筒井理化学機器株式会社製の振とうふるい機、300−MMを用いて、含水率が45%であるダイオキシン類汚染土壌を加水ふるい処理法にて分級し、150メッシュを通過した、シルトと粘土成分とからなる土壌成分を得た。分級条件は、振動数が1,000rpm、片振幅が1.0mm、処理試料質量が200g、加水量が一回当たり1L、加水回数が3回とした。得られた土壌成分を「原料」とした。
【0107】
またダイオキシン類汚染土壌を、新六精機株式会社製の骨材研磨機「ハリケーン」(登録商標)を用いて摩砕処理し、摩砕処理品を得た。摩砕処理は、質量比が土壌:水で4:1となるようにダイオキシン類汚染土壌に水を加え、回転数を300rpとし、常温、常圧の条件で行った。
【0108】
さらに前記原料を13.4Nの硝酸で常温にて24時間酸処理し、硝酸処理品を得た。さらには、前記原料を1Nの塩酸で常温にて24時間酸処理し、乾燥後に95%のエタノールを供給し、常温にてさらに24時間アルコール処理し、塩酸−アルコール処理品を得た。
【0109】
得られた原料、摩砕処理品、硝酸処理品、及び塩酸−アルコール処理品のそれぞれを示差熱分析(DTA)で分析した。この分析は、島津製作所社製のDTG−60を用い、露点が−80℃の清浄乾燥空気を供給し、10℃/minの昇温速度で行った。分析結果を以下の表1に示す。また原料のDTA及び熱重量測定(TGA)の結果を図26に示す。
【0110】
【表1】

【0111】
表1及び図26から明らかなように、原料及び摩砕処理品には、512℃付近にガラス転移点が見られる。しかしながら表2及び図6から明らかなように、硝酸処理品及び塩酸−アルコール処理品ではこのガラス転移点が見られない。この結果から、シルトの酸による処理によってシルト中のケイ素成分が除去されていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明は、自然物由来のフミン質を抽出剤として使用することにより、ダイオキシン類汚染土壌からダイオキシン類を効率よく水相に抽出することができることから、ダイオキシン類汚染土壌の浄化処理を、環境付加がより低い方法によって容易に行うことができ、ダイオキシン類汚染土壌の浄化の作業性のさらなる向上が期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイオキシン類汚染土壌からシルトを分離する工程と、
ダイオキシン類を分解する菌又はその菌体破砕物とフミン質とが添加され、かつアルカリ性に調整された前記シルトの水スラリーを調製し、水スラリー中でシルト中のダイオキシン類を分解する工程と、
水スラリーからシルトと水相とを分離する工程と、を含むダイオキシン類汚染土壌の浄化方法。
【請求項2】
ダイオキシン類汚染土壌からシルトを分離する工程と、
フミン質が添加され、かつアルカリ性に調整された前記シルトの水スラリーを調製する工程と、
水スラリー中のシルトからダイオキシン類を水相に抽出する工程と、
水スラリーからシルトと水相とを分離する工程と、を含むダイオキシン類汚染土壌の浄化方法。
【請求項3】
前記水スラリーから分離されたシルトから、フミン質が添加され、かつアルカリ性に調整された水スラリーを調製する工程と、
この水スラリー中のシルトからダイオキシン類を水相に抽出する工程と、
水スラリーからシルトと水相とを分離する工程と、をさらに含み、これらの工程を一回以上繰り返すことを特徴とする請求項2にダイオキシン類汚染土壌の浄化方法。
【請求項4】
水スラリーから分離された水相にダイオキシン類を分解する菌又はその菌体破砕物を添加して、水相に抽出されたダイオキシン類を分解する工程をさらに含む、請求項2又は3に記載のダイオキシン類汚染土壌の浄化方法。
【請求項5】
水スラリーに調製される前のシルトに酸を添加してシルトからガラス成分を除去する工程をさらに含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のダイオキシン類汚染土壌の浄化方法。
【請求項6】
ダイオキシン類を分解する菌がダイオキシン類又は塩素化芳香族化合物で馴致されたバチルス・ミドウスジであり、その菌体破砕物が前記バチルス・ミドウスジの菌体膜を含む菌体破砕物であることを特徴とする請求項1又は4に記載のダイオキシン類汚染土壌の浄化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【公開番号】特開2011−200805(P2011−200805A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−71051(P2010−71051)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度環境省環境技術開発等推進事業 ダイオキシン類汚染土壌・底質の分解酵素を用いた浄化システムの開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000169499)高砂熱学工業株式会社 (287)
【出願人】(592178772)
【出願人】(507106180)環テックス株式会社 (3)
【Fターム(参考)】