説明

ダイカストマシンにおける流量制御弁の異常検知方法

【課題】 アルミニウム製品を鋳造するダイカストマシンの射出装置において、金型キャビティ内に溶融状態のアルミニウム溶湯を射出充填する際に、射出速度と溶湯圧力の制御を行なう流量制御弁の異常を、サイクル毎に検知する方法。
【解決手段】 サーボモータと回転直線運動変換機構によりスプールをダイレクトに動作する流量制御弁において、サイクル毎にスプールをメカ的な移動限まで動かし、その時にサーボモータのエンコーダにより検出された位置を、予め設定された原点位置と比較し、そのズレ量が許容範囲を超えた場合に、流量制御弁の異常と判定してオペレータに警告を発する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
アルミニウム製品を鋳造するダイカストマシンの射出装置において、金型キャビティ内に溶融状態のアルミニウム溶湯を射出充填する際に、射出速度と溶湯圧力の制御を行なう流量制御弁の異常検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
まず、横型のダイカストマシンにおける一般的なダイカスト鋳造装置及び方法を、図5を用いて説明する。
ダイカストマシン(鋳造装置)100は、金型装置101と、射出装置102から構成されている。金型装置101には、対向する一対の固定プラテン1と可動プラテン2との間に、固定金型3と可動金型4がそれぞれ取付けられている。固定金型3と可動金型4は、固定プラテン1、可動プラテン2、図示せぬ開閉装置などで構成される型締装置によって閉じられることにより、その間に製品形状のキャビティ(空洞)5を形成する。型締力が負荷された状態において、キャビティ5内にアルミニウム(AL)などの溶湯(高温で溶融状態)が射出充填し、冷却固化後に金型を開いて取り出すことにより、鋳造製品を製造できる。アルミ溶湯をキャビティ5内に射出充填するために、射出装置102が設けられている。また、固定プラテン1には、アルミ溶湯を貯められるスリーブ6が設けられており、固定プラテン1及び固定金型3を貫通して、キャビティ5に流体連絡する。
【0003】
射出装置102には、アルミ溶湯を射出するための油圧駆動の往復動ピストンを備える射出シリンダー10が設けられている。射出シリンダー10は、射出シリンダー本体13と往復運動するピストン12とを具備する。ピストン12は、図5において左端にピストンヘッドを具備し、そのピストンヘッドと一体化しているピストンロッドの先端は、射出カップリング9によってプランジャーロッド8が連結され、その先にプランジャーチップ7が取付けられている。プランジャーチップ7は、スリーブ6内に嵌合し、スリーブ6内で往復運動して、スリーブ6内に注湯されたアルミニウム溶湯を圧送することにより、キャビティ5内に射出充填できる。
図5の実施の形態においては、射出装置102は油圧式であるので、図示せぬ油圧装置により、作動油をシリンダー本体10のヘッド室10Hに供給して、ピストン12を前進駆動する。そして、スリーブ6に貯められたアルミ(AL)溶湯をプランジャーチップ7で押して、固定金型3、可動金型4から形成されるキャビティ(空洞)5に射出充填して鋳造成形する。
【0004】
ここで、溶湯をキャビティ内に射出充填する際の射出速度や射出(溶湯)圧力を、適切に設定し制御することが、良品を鋳造するためには極めて重要である。
一般的な鋳造の射出速度パターン等を、図6を用いて説明する。
射出充填工程が開始される前の注湯工程において、図示せぬ注湯装置により溶湯が、スリーブ6上面の開口部からスリーブ6内に注湯され、射出開始状態となる。この時のプランジャーチップ7の先端位置はAである。(図6の上の図を参照)
【0005】
この状態から、まず低速射出工程が行われる。この工程では、低速でプランジャーチップ7を前進させるが、スリーブ6の内部において溶湯が波立ち空気を巻き込まないようにすることが重要である。そのため、安定した低速(VL)の制御が要求される。プランジャーチップ7が前進し、溶湯がスリーブ6の上壁まで達し更に湯面がゲート近傍まで上昇しB位置に達すると(射出ストロークセンサがSL前進したことを検知すると)、高速射出工程に切換えられる。(図6の上から2番目の図を参照)
高速射出工程では、プランジャーチップ7等を一気に加速し、高速(Vh)でキャビティ5内に溶湯を射出充填する。これは、溶湯が低温であるキャビティ5の表面に接触すると瞬時に凝固するためであり、できるだけ短時間で凝固する前に充填することが、良品の鋳造のためには望ましい。特に、キャビティ5(鋳造品)が大型化、複雑化すると、より高速化が求められる。
【0006】
そして、キャビティ5内に溶湯が完全に充填する直前になると、キャビティ5内の溶湯圧力が上がってくるため、射出速度は下がっていく。プランジャーチップ7がC位置に達しキャビティ5内に溶湯が充満すると、射出圧力(射出シリンダーのヘッド側圧力)がさらに上昇するので、圧力センサーなどの測定値が設定切換え圧力になった時に、次の昇圧(増圧)保持工程に切換える。(図6の上から3番目の図を参照)
昇圧保持工程では、あまり早く圧力を上昇させるとバリが発生し、また遅いと引け巣が発生するので、適切な昇圧速度で上昇させる。そして、設定された保持圧力(P)まで達すると一定の時間溶湯圧力を保持制御し、溶湯が凝固冷却して収縮する分、プランジャーチップ7を前進させる。(図6の下の図を参照)
【0007】
このように射出充填工程においては、設定値どおりで安定した高速射出速度制御、および昇圧保持力制御が必要であるため、射出シリンダーに流入する作動油の流量を高応答高精度に制御(メータイン制御)できる、あるいは射出シリンダーから流出する作動油を高応答高精度に制御(メータアウト制御)できる、流量制御弁が要求される。そのため、これまでに様々な流量制御弁が開発されてきた。
例えば、特許文献1においては、サーボモータによって弁内のスプールを直接軸方向に動作制御し、弁開度の高精度調節が可能な流量制御弁が、開示されている。この流量制御弁では、サーボモータの回転運動を直線運動に変換するためにボールねじが使用されており、サーボモータの回転軸とボールねじ軸がカップリングによって連結されている。また、ボールねじ軸に螺号するボールねじナットとスプールは連結しているので、サーボモータの回転制御によってスプールの軸方向位置を直接調節できる。さらにサーボモータの回転軸と直結したエンコーダにより、サーボモータの回転角度からスプールの位置を直接検知できるので、高精度のフィードバック制御が可能となっている。そして、射出シリンダーに流入あるいは流出する作動油流量を微妙に制御して、高精度のプランジャー前進速度制御、および射出圧力制御を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−58114号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、流量制御弁の中のスプールは、弁内を高速で流れる作動油によって軸方向に強い流体力を受ける。この力はボールねじの作用によってボールねじ軸の強いねじり力に変換され、ボールねじ軸とモータ回転軸を連結するカップリングにも作用する。この時、カップリングの連結力が十分でないとカップリングが緩み、ボールねじ軸とモータ回転軸の間に回転方向にズレが生じることになる。ズレが生じると、エンコーダによるスプール位置の検知が誤ったものになるので、それに基づいてフィードバック制御すると、弁開度に狂いが生じる。そして、射出速度や昇圧保持力制御が不安定になり、良品を鋳造できる設定条件から乖離し、鋳造品の品質を悪化させることになる。また、エンコーダのパルス検知ミスから、スプール位置の検知を誤り制御が不安定になることもある。
よって、本願発明は、これらの問題を解決するため、流量制御弁のカップリングの緩み状態やエンコーダのパルス検知ミスを監視し、異常を検出した場合は直ちに警告を発し、それによってオペレータが鋳造を止めることにより、不良品を作り続けないようにするためのものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以上の課題を解決するために、本願発明の第1の発明は、
製品を鋳造するための金型と、金型のキャビティ内に溶湯を充填するプランジャーと、プランジャーと連結するピストンを備えた射出シリンダーと、スプールの動作により射出シリンダーに流入する作動油の流量あるいは射出シリンダーから流出する作動油の流量を調整しピストンの動作速度あるいは圧力を制御可能な流量制御弁と、流量制御弁に備え付けられており回転運動を直線運動に変換する機構を介してスプールの位置を調節可能なサーボモータと、サーボモータに備え付けられておりサーボモータの回転軸の回転量によりスプールの位置を検出可能なエンコーダと、を備えているダイカストマシンにおいて、
鋳造サイクル毎に、流量制御弁のスプールをメカ的な移動限まで動かし、その時にエンコーダにより検出された位置を、予め設定された原点位置と比較し、そのズレ量が許容範囲を超えた場合に、流量制御弁の異常と判定し警告を発する、流量制御弁の異常検出方法である。
【0011】
また、第2の発明は、第1の発明において
流量制御弁は、射出シリンダーのロッド室と流路接続しており、プランジャー及びピストンの後退時にスプールをメカ的な移動限まで動かし、その時のエンコーダの検出位置から、異常を判定し警告を発する、流量制御弁の異常検出方法である。
【発明の効果】
【0012】
流量制御弁の状態を鋳造サイクル毎にチェックし、異常を判定した場合は警告を発するので、射出充填工程の変動から生じる不良製品の鋳造を、オペレータが即座に止めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本願発明の一実施例であり、射出装置の油圧回路図である。
【図2】本願発明に係る、流量制御弁の構造、サーボモータ、コントローラ等を示す図である。
【図3】本願発明に係る流量制御弁の、スプール、回転直線運動変換装置、カップリング装置等の構造を示す図である。
【図4】本願発明における、射出速度及び射出力等の時間変化及びその際のピストン位置、各バルブ等の状態を示すグラフである。
【図5】一般的なダイカストマシンにおける、油圧駆動方式の射出装置および金型周辺を示す図である。
【図6】一般的なダイカスト鋳造におけるプランジャーチップの位置、溶湯の状態、射出速度、溶湯圧力の関係を示す図およびグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面にもとづき、本発明に係るダイカストマシンの射出装置、油圧回路、流量制御弁及びその異常検出方法について、実施例を詳細に説明する。
【実施例】
【0015】
本実施の形態においても、金型装置、プランジャー、射出シリンダー等は、図5に示す一般的なダイカストマシンと同様であるが、流量制御弁の異常検知方法に特徴を有する。
【0016】
図1は、本願発明に係る射出装置の油圧回路を示している。
射出シリンダー10のヘッド室10Hは、射出切替バルブ18を介して、射出用アキュムレータ14に流路接続している。射出用アキュムレータ14の内部は、ピストンによって油室とガス室に仕切られており、ガス室はガスボトル17と配管接続している。ガスボトル17には圧縮された窒素ガスが充填されており、高圧の窒素ガスが膨張するときのエネルギーを利用することにより、射出用アキュムレータ14の油室内の作動油を、一気に射出シリンダー内に供給することが可能で、高速射出を実現できる。
また、ヘッド室10Hは、途中で配管が分岐しており、絞り弁21と増圧切替バルブ19を介して増圧用アキュムレータ15と回路接続している。増圧アキュムレータ15も、内部はピストンによって油室とガス室に仕切られており、ガス室の窒素ガスの圧力により、射出シリンダー10のヘッド室10Hに高い増圧保持力を供給することができる。
さらに、ヘッド室10Hは、配管により低速前後進切替バルブ20とも回路接続している。低速前後進切替バルブ20は、タンク24およびチェックバルブ23を介して油圧供給装置22とも回路接続している。よって、aソレノイドを励磁すると、ヘッド室10H内の作動油をタンク24に戻すことができ、またbソレノイドを励磁すると、油圧供給装置22からヘッド室に作動油を供給することができる。
【0017】
射出シリンダー10のロッド室10Rは、サーボモータで駆動する流量制御弁(サーボバルブ)16と回路接続している。流量制御弁16はタンク24及びチェック弁23を介して油圧供給装置22と回路接続している。射出シリンダー10のピストン12の前進中は、流量制御弁16はロッド室10Rとタンク24が連通されるように弁が動作され、弁の開度を高精度に制御することにより、メータアウト制御によって、高速射出速度や増圧保持力を制御することができる。また、ロッド室10Rと油圧供給装置22が連通されるように流量制御弁16を動作すると、ピストン12を後退することができる。
油圧供給装置22は、ポンプ、可変圧力制御弁、可変流量制御弁、電気モータなどから構成されており、所望の圧力および流量で作動油を供給可能で、低速射出やピストン12の後退動作が行なえるようになっている。
さらに、ピストン12のピストンロッドには射出位置速度センサー26の可動部が取付けられており、ピストン12の位置及び速度を測定可能で、測定信号をコントローラに送りフィードバック制御に利用される。
射出力(溶湯圧力)の測定は、射出カップリングの中に装着されたロードセルによって行なうこともできるし、あるいは、ヘッド室10Hとロッド室10Rに圧力センサーを取り付け、それぞれの断面積から換算して行なうこともできる。
【0018】
次に、図2を用いて流量制御弁16の構造等について説明する。流量制御弁本体30の中には、段付き円柱形状のスプール35が軸方向(図の左右方向)に摺動可能な状態で装着されている。流量制御弁本体30の右側には、回転直線運動変換機構31とカップリング装置32が取付けられており、さらにサーボモータ33が装着されている。サーボモータ33の回転軸の回転運動は、カップリング装置32によって回転直線運動変換機構31に伝達され、そこで直進運動に変換された後、連結ロッド51を介してスプール35に伝わり、弁の開閉動作(軸方向移動)が行なわれる。サーボモータ33には、回転軸が連結した状態でエンコーダ34が取付けられており、サーボモータ33の回転軸の回転角度を検出できる。サーボモータ33とエンコーダ34は、配線により電気的にコントローラと接続しており、コントローラの指令によってサーボモータ33が動作してスプール35が動き、また、エンコーダ34の検出信号からスプール35の位置を換算し、フィードバック制御に利用される。さらに、コントローラは、表示装置とも電気接続し、流量制御弁16に異常を検知した場合は、表示装置に異常を表示して、オペレータに警告する。また、別の警告方法として、ブザーを鳴らすことも可能である。
【0019】
流量制御弁本体30の内部には、図2のようにスプール35が入るとともに外部と流路連絡する空間部が設けられている。空間部には、シリンダー接続ポート42を介して射出シリンダー10のロッド室と連通するシリンダー側大径部46、油圧供給装置接続ポート43を介して油圧供給装置22と連通する油圧供給側大径部45、およびタンク接続ポート41を介してタンク24と連通するタンク側大径部47が形成されている。シリンダー側大径部46と油圧供給側大径部45との間に形成された油圧供給側小径部30cには、油圧供給側スプール太径部35bが僅かな隙間をもって摺動可能な状態で嵌合されており、シリンダー側大径部46と油圧供給側大径部45との間の作動油の連通を阻止している。また、シリンダー側大径部46とタンク側大径部47との間に形成されたタンク側小径部30bにも同様に、タンク側スプール太径部35aが僅かな隙間をもって摺動可能な状態で嵌合されており、シリンダー側大径部46とタンク側大径部47との間の作動油の連通を阻止している。スプール35の両端には太径部が形成されており、流量制御弁本体30の内径部と僅かな隙間で嵌合することにって、作動油の外部流出を阻止している。僅かにもれた作動油は、小径の配管を経由してタンク24に戻される。スプール35において、両端の太径部、タンク側スプール太径部35a、油圧供給側スプール太径部35cの間は細径になっており、作動油が流れる空間となっている。
【0020】
図2におけるスプール35の位置は、タンク接続ポート41とシリンダー接続ポート42と油圧供給装置接続ポート43が、それぞれタンク側スプール太径部35aと油圧供給側スプール太径部35bにより遮断されている全閉位置であり、スプール35の0点位置である。この状態からサーボモータ33の動作により、スプール35を右側に動かすとタンク側スプール太径部35aがシリンダー側大径部46の内側に位置し、タンク接続ポート41とシリンダー接続ポート42とが連通して、射出シリンダー10のロッド室の作動油をタンク24に戻すことができる。また、スプール35を左側に動かすと油圧供給側スプール太径部35bがシリンダー側大径部46の内側に位置し、油圧供給装置接続ポート43とシリンダー接続ポート42とが連通して、射出シリンダー10のロッド室に作動油を供給することができる。
図2の状態からスプール35を左にXmm動かすと、スプール左側端面35cと後退側端面30aが当接し、メカ的な移動限となる。この位置をスプール35の原点としてエンコーダ34の検出値をコントローラが記憶することにより、コントローラが正確にスプール35の位置を把握でき、流量制御弁16の開度を設定どおりに制御することができる。
【0021】
図3は、流量制御弁16の回転直線運動変換装置31とカップリング装置32の内部構造を示す。
変換装置ケース54は、流量制御弁本体30の右側に固定されており、その内部にはボールねじ軸57が、軸受け58と押さえナット59によって回転自在であるが軸方向には拘束された状態で支持されている。ボールねじ軸57と螺合するボールねじナット56は、連結ロッド51を介してスプール35と連結している。連結ロッド51は、流量制御弁本体30の右側に固定されたガイドロッドブッシュ固定板52に組み込まれているガイドブッシュ53に、摺動可能な状態で嵌合されている。そのため、ボールねじナット56は、軸方向には移動可能であるが回転が拘束された状態にある。
変換装置ケース54の右側には、カップリングケース60が固定されており、さらにその右側にはサーボモータ33が固定されている。サーボモータ33の回転軸は、カップリング62によってボールねじ軸57と連結され、回転運動を伝えることができる。
【0022】
よって、コントローラからサーボモータ33に回転指令信号を送ると、回転軸とカップリング62とボールねじ軸57が回転し、ボールねじの作用によって滑らかに直線運動に変換され、ボールねじナット56と連結ロッド51およびスプール35が左右に動作する。
サーボモータ33に適切に回転信号を与えることにより、流量制御弁16の開閉動作や開度調整を自由に行なうことができる。
【0023】
ここから、このような構成された油圧回路及び油圧装置を用いて行なう、本発明に係る射出装置の流量制御弁の異常検知方法について、図4を用いて説明する。
図4は、本実施の射出充填工程における、ピストン(プランジャー)位置、射出速度及び射出力等時間変化、並びにその際のピストン12の動き、各バルブの状態を表わすグラフである。Pmは設定保持力、Pm’は切換力を示す。低速射出領域は、時間t0〜t1間であり、高速射出領域は、時間t1〜t2間、昇圧領域は、時間t2〜t3間、保持領域は、時間t3〜t4間である。
【0024】
まず、射出充填工程に入る前に、射出用アキュムレータ14と増圧用アキュムレータ15の畜圧、及び型締め動作を完了しておく。そして、高温の溶解炉で溶融状態となったアルミニウムの溶湯を、ラドル等で汲み取り、スリーブ内へ注湯する。その後、溶湯の温度が下がらないよう、速やかに射出充填工程を開始する。
射出充填工程の開始時において、全てのバルブがOFFした状態(消磁状態)から、低速前後進切替バルブ20のbソレノイドをON(励磁)するとともに、流量制御弁16をロッド室10Rとタンク24が連通する方向に一定量開く。最初の低速射出領域では、所望の射出速度(0.2〜0.5m/sec程度)になるように油圧供給装置22からの吐出量を調整する。
低速射出領域は、油圧供給装置22からの吐出量によって制御することができるが、油圧供給装置22からの作動油の供給を停止し、射出切替バルブ18を開くとともに流量制御弁16を僅かに開いて低速制御することも可能である。
【0025】
そして射出位置速度センサー26が高速射出切換え位置に達したことを検知すると(t1)、射出切替バルブ18を瞬時に開き、射出用アキュムレータ14に畜積された高圧の作動油を、射出シリンダー10のヘッド室10Hに一気に供給する。この時、低速から4〜5m/secの高速まで瞬時に加速し安定化する必要がある。これを流量制御弁16の開度を調整してメータアウトによるフィードバック制御によって行なうことになるが、低速射出領域におけるサーボバルブ16の一定開度を、高速領域においておよそ設定速度となる開度としておけば、切換え後の流量制御弁16の開度制御は容易となる。高速射出領域では、プランジャーチップ7を高速で前進させ、キャビティ内で溶湯が凝固を始める前に短時間で充填する。
【0026】
金型キャビティ内が溶湯で充満して溶湯圧力が上昇し、射出力の測定値が切換力(Pm´)に達したことを検知すると、昇圧保持工程(領域)に切換える(t2)。切換えのタイミングは、設定切換え位置に達した時点で行なう位置切替でも良い。図4は圧力によって切換える様子を示し、圧力センサーまたはロードセルで射出力の測定値を監視しながら、設定切換え圧力(Pm’)に達した瞬間に昇圧保持工程への切換えが行われている。
切換時において、射出切替バルブ18を閉じるとともに増圧切替バルブ19を開く。すると増圧用アキュムレータ15に蓄積された高圧の作動油が、射出シリンダーのヘッド室に流れ込む。この時、急激な圧力上昇はバリの発生を引き起こし、また遅いと鋳巣の発生があるので、適度な昇圧時間で昇圧するよう絞り弁21の絞り量を予め調節しておく。そして、設定された保持力(Pm)に近づくと流量制御弁16の開度を調整し、射出力が保持力(Pm)となるよう制御する(t3)。保持領域になると、流量制御弁16は殆ど閉じられた状態になり、溶湯が凝固収縮し射出シリンダーのピストン12が前進する分だけ作動油をヘッド室に送り込んで、保持力(Pm)を維持する。
【0027】
昇圧保持時間が完了すると(t4)、流量制御弁16が完全に閉じられるとともに、増圧切替バルブ19、低速前後進切替バルブ20も閉じられる。
その後冷却時間が終了すると、型開き動作と連動しながら、流量制御弁16をタンク側に一定量開くとともに低速前後進切替バルブ20のbソレノイドを励磁して、ピストンロッド12及びプランジャーを前進し、製品を固定型から突き出す。
【0028】
続いて、ピストン12を射出開始位置まで後退する(戻す)ため、流量制御弁16を油圧供給装置22側(後退側)に開くとともに、低速前後進切替バルブ20のaソレノイドを励磁する。そして、ピストン12が射出開始位置に達すると、全てのバルブを閉じる。
その後、射出用アキュムレータ14と増圧用アキュムレータ15への畜圧を行い、次の注湯工程及び射出充填工程への準備をする。
【0029】
ピストン12の後退時において、流量制御弁16のスプール35を、図2において左側にメカ的な移動限(後退移動限)まで動かす(開ける)。この時、コントローラにおいて、エンコーダ34の検出位置を、記憶されている設定時の原点位置と比較する。そして、検出位置と記憶されている原点位置とのズレ量が、許容値以上の場合には異常と判定し、表示装置に警告メッセージを表示して、オペレータに流量制御弁16の異常を知らせる。異常を知ったオペレータは、鋳造作業を中止することにより、不良品の発生が続くのを止めることができる。このスプール原点位置のチェックは、ピストンの後退時に行なうため、毎サイクル実施可能であり、不良品の鋳造を最小限に食い止めることができる。また、オペレータへの警告は、ブザー等により音で行なっても良い。
そして、オペレータがカップリングの締め直しやエンコーダの交換を行ない異常が除去された後、再度鋳造運転を開始する。
【0030】
以上説明したように本願発明においては、流量制御弁の異常を毎サイクルチェックしオペレータに知らせることができるので、異常が起こった場合も即座に鋳造工程を停止することができ、不良品を鋳造し続けることはない。
【0031】
上記の実施の形態は本発明の例であり、本発明は、該実施の形態により制限されるものではなく、請求項に記載される事項によってのみ規定されており、上記以外の実施の形態も実施可能である。
【産業上の利用可能性】
【0032】
ダイカストマシンによりアルミニウム製品を鋳造する生産工場において実用可能であり、鋳造品の良品率向上および生産性向上に貢献できる。
【符号の説明】
【0033】
1 固定プラテン
2 可動プラテン
3 固定金型
4 可動金型
5 キャビティ(空洞)
6 スリーブ
7 プランジャーチップ
8 プランジャーロッド
9 射出カップリング
10 射出シリンダー
10H ヘッド室
10R ロッド室
12 ピストン
13 シリンダー本体
14 射出用アキュムレータ
15 増圧用アキュムレータ
16 流量制御弁(サーボバルブ)
17 ガスボトル
18 射出切替バルブ
19 増圧切替バルブ
20 低速前後進切替バルブ
21 絞り弁
22 油圧供給装置
23 チェックバルブ
24 オイルタンク
26 射出位置速度センサー
30 流量制御弁本体
30a 後退側端面
30b タンク側小径部
30c 油圧供給側小径部
31 回転直線運動変換装置
32 カップリング装置
33 サーボモータ
34 エンコーダ
35 スプール
35a タンク側スプール太径部
35b 油圧供給側スプール太径部
35c スプール左側端面
41 タンク接続ポート
42 シリンダー接続ポート
43 油圧供給装置接続ポート
45 油圧供給側大径部
46 シリンダー側大径部
47 タンク側大径部
51 連結ロッド
52 ガイドブッシュ固定板
53 ガイドブッシュ
54 変換装置ケース
56 ボールねじナット
57 ボールねじ軸
58 軸受け
59 押さえナット
60 カップリングケース
62 カップリング
100 ダイカストマシン(鋳造装置)
101 金型装置
102 射出装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
製品を鋳造するための金型と、
前記金型のキャビティ内に溶湯を充填するプランジャーと、
前記プランジャーと連結するピストンを備えた射出シリンダーと、
スプールの動作により、前記射出シリンダーに流入する作動油の流量、あるいは前記射出シリンダーから流出する作動油の流量を調整し、前記ピストンの動作速度あるいは圧力を制御可能な流量制御弁と、
前記流量制御弁に備え付けられており、回転運動を直線運動に変換する機構を介して前記スプールの位置を調節可能なサーボモータと、
前記サーボモータに備え付けられており、前記サーボモータの回転軸の回転量により前記スプールの位置を検出可能なエンコーダと、
を備えているダイカストマシンにおいて、
鋳造サイクル毎に、前記流量制御弁のスプールをメカ的な移動限まで動かし、その時に前記エンコーダにより検出された位置を、予め設定された原点位置と比較し、そのズレ量が許容範囲を超えた場合に、前記流量制御弁の異常と判定し警告を発することを特徴とする、流量制御弁の異常検出方法。
【請求項2】
前記流量制御弁は、前記射出シリンダーのロッド室と流路接続しており、
前記プランジャー及びピストンの後退時に前記スプールをメカ的な移動限まで動かし、その時の前記エンコーダの検出位置から、異常を判定し警告を発することを特徴とする、請求項1に記載の流量制御弁の異常検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−240069(P2012−240069A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−110455(P2011−110455)
【出願日】平成23年5月17日(2011.5.17)
【出願人】(300041192)宇部興産機械株式会社 (268)