説明

ダイカストマシンの射出装置および射出制御方法

【課題】 ダイカストマシンの射出装置における油圧回路を大幅に簡素化し、アキュムレータの畜圧制御、射出速度制御、昇圧保持圧力制御、および切換え制御を容易にする。
【解決手段】 スリーブ内に注湯された溶湯を金型キャビティ内に射出充填するプランジャーと、プランジャーを前後進動作する射出シリンダーと、射出シリンダーのヘッド室へ供給する作動油の流量を調整する射出用サーボバルブと、射出用サーボバルブを介して射出シリンダーのヘッド室に作動油を供給するアキュムレータと、アキュムレータと射出用サーボバルブの間に流路接続され作動油流路の開閉を行なう射出開閉バルブと、アキュムレータを畜圧する油圧供給装置と、プランジャーの位置および速度を検知する射出位置速度センサーと、射出圧力を検知する射出圧力検出器と、アキュムレータに畜圧された作動油の圧力を検知するアキュムレータ圧力検出器とを備えた射出装置とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
アルミニウム製品を鋳造するダイカストマシンの射出装置であって、金型キャビティ内に溶融状態のアルミニウム溶湯を射出充填する際の、射出速度と溶湯圧力を制御するための装置の構造、油圧回路、およびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
まず、横型のダイカストマシンによる一般的なダイカスト鋳造装置及び方法を、図4を用いて説明する。
ダイカストマシン(鋳造装置)100は、金型装置101と、射出装置102から構成されている。金型装置101には、対向する一対の固定プラテン1と可動プラテン2との間に、固定金型3と可動金型4が取付けられている。固定金型3可動金型4は、固定プラテン1、可動プラテン2、図示せぬ開閉装置などで構成される型締装置によって閉じられることにより、その間にキャビティ(空洞)5を形成する。型締力が負荷された状態において、キャビティ5内にアルミニウム(AL)などの溶湯(高温で溶融状態)が射出充填され、冷却固化後に金型が開かれて取り出すことにより、鋳造成形品を製造できる。アルミ溶湯をキャビティ5内に射出充填するために、射出装置102が設けられている。また、固定プラテン1には、アルミ溶湯を貯められるスリーブ6が設けられており、固定プラテン1及び固定金型3を貫通して、キャビティ5に流体連絡する。
【0003】
射出装置102には、アルミ溶湯を射出するための油圧駆動の往復動ピストンを備える射出シリンダー10が設けられている。射出シリンダー10は、射出シリンダー本体13と往復運動するピストンとを具備する。ピストンは、図4において左端にピストンヘッド11を具備し、そのピストンヘッド11と一体化しているピストンロッド12の先端は、射出カップリング9でプランジャーロッド8が連結され、その先にプランジャーチップ7が取付けられている。プランジャーチップ7は、スリーブ6内に嵌合し、プランジャースリーブ6内で往復運動して、スリーブ6内に注湯されたアルミニウム溶湯を圧送することにより、キャビティ5内に射出充填できる。
図4の実施の形態においては、射出装置102は油圧式であるので、図示せぬ油圧装置により、作動油をシリンダー本体10のヘッド室10Hに供給して、ピストンヘッド11及びピストンロッド12を駆動する。そして、スリーブ6に貯められたアルミ(AL)溶湯をプランジャーチップ7で押して、固定金型3、可動金型4から形成されるキャビティ(空洞)5に射出充填して鋳造成形する。
【0004】
ここで、溶湯をキャビティ内に射出充填する際の射出速度や射出圧力を、適切に設定し制御することが、良品を鋳造するためには極めて重要である。
一般的な鋳造の射出速度パターンを、図5を用いて説明する。
射出充填工程が開始される前の注湯工程において、図示せぬ注湯装置により溶湯が、スリーブ6上面の開口部からスリーブ6内に注湯され、射出開始状態となる。この時のプランジャーチップ7の先端位置はAである。(図5の上の図を参照)
【0005】
この状態から、まず低速射出工程が行われる。この工程では、低速でプランジャーチップ7を前進させ、スリーブ6の内部において溶湯が波立ち空気を巻き込まないようにすることが重要である。そのため、安定した低速(VL)の制御が要求される。プランジャーチップ7が前進し、溶湯がスリーブ6の上壁まで達し更に湯面がゲート近傍まで上昇しB位置に達すると(射出ストロークセンサがSL前進したことを検知すると)、高速射出工程に切換えられる。(図5の上から2番目の図を参照)
高速射出工程では、プランジャーチップ7等を一気に加速し、高速(Vh)でキャビティ5内に溶湯を射出充填する。これは、溶湯が低温であるキャビティ5の表面に接触すると瞬時に凝固するためであり、できるだけ短時間で凝固する前に充填することが、良品の鋳造のためには望ましい。特に、キャビティ5(鋳造品)が大型化、複雑化すると、より高速化が求められる。
【0006】
そして、キャビティ5内に溶湯が完全に充填する直前なると、キャビティ5内の溶湯圧力が上がってくるため、射出速度は下がっていく。プランジャーチップ7がC位置に達しキャビティ5内に溶湯が充満すると、射出圧力(射出シリンダーのヘッド側圧力)がさらに上昇するので、圧力センサーの測定値が設定切換え圧力になった時に、次の昇圧保持工程に切換える。(図5の上から3番目の図を参照)
昇圧保持工程では、あまり早く圧力を上昇させるとバリが発生し、また遅いと引け巣が発生するので、適切な昇圧速度で上昇させる。そして、設定された保持圧力(P)まで達すると一定の時間溶湯圧力を保持制御し、溶湯が凝固冷却して収縮する分、プランジャーチップ7を前進させる。(図5の下の図を参照)
【0007】
このように射出充填工程においては、高速射出と高い保持圧力が要求されるため、これまで様々な射出装置、油圧回路、制御方法が考案されてきた。
例えば、特許文献1においては、高油圧源から供給される作動油を、1つの流量制御弁によって、射出速度制御、射出力制御、射出速度制御から射出力制御への切り換えを行なう油圧制御装置が開示されている。
次に、特許文献2においては、1つの射出シリンダー本体に、射出用ピストンと増圧用ピストンを直列に配置し、射出工程と増圧工程において、それぞれ対応するピストンに油圧を供給し、それぞれの工程を制御している。
特許文献3においては、1つの射出シリンダーに、射出用アキュムレータと増圧用アキュムレータを具備し、各工程で別々の油圧源(アキュムレータ)から作動油を供給し、射出速度や保持圧力を制御している。
特許文献4においては、流量制御弁による射出速度制御方法について、数式を用いた制御方法が開示されている。
最後に、特許文献5においては、射出用アキュムレータと昇圧用アキュムレータのそれぞれにサーボバルブが設けられており、射出工程と昇圧工程において別々にサーボバルブの開度を調節して油圧回路を制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−77021号公報
【特許文献2】特開2004−160484号公報
【特許文献3】特開平1−150457号公報
【特許文献4】特開平7−16722号公報
【特許文献5】特開2009−107010号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1では、流量制御弁による射出制御装置のみ記載してあり、作動油の供給源である高油圧源に関する回路については、何ら開示されていない。
また、特許文献2では、射出シリンダーの構造が複雑であることと、射出工程から増圧工程への切換えの制御が困難であるという欠点がある。
特許文献3では、高価なアキュムレータを2つ装備する必要があるため、油圧回路が高価かつ複雑になっている。
特許文献4では、アキュムレータは1つ装備されているだけなので、増圧保持工程の圧力は、アキュムレータの畜圧値で決まり、保持圧力が低く設定されている場合はそれに対応して畜圧値も低くなり、射出工程の後半で圧力負けして射出速度が遅くなるという欠点がある。また、アキュムレータの畜圧方法については、何ら開示されていない。
そして、特許文献5では、高価なアキュムレータとサーボバルブをそれぞれ2つ装備する必要があり、油圧回路が高価かつ複雑になり、さらに制御も困難になるといった問題点がある。
よって、本願発明は、射出装置における油圧回路を大幅に簡素化し、アキュムレータの畜圧制御、射出速度制御、昇圧保持圧力制御、および切換え制御を容易にするためのものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以上の課題を解決するために、本願発明の第1の発明では、スリーブ内に注湯された溶湯を金型キャビティ内に射出充填するプランジャーと、シリンダー本体と、ピストンヘッドと、プランジャーと連結するピストンロッドと、ヘッド室と、ロッド室からなり、プランジャーを前後進動作する射出シリンダーと、射出シリンダーのヘッド室へ供給する作動油の流量を調整するため開度を連続的に変化させることが可能な射出用サーボバルブと、射出用サーボバルブを介して射出シリンダーのヘッド室に作動油を供給するアキュムレータと、アキュムレータと射出用サーボバルブの間に流路接続され作動油流路の開閉を行なう射出開閉バルブと、高圧の作動油を吐出してアキュムレータを畜圧する油圧供給装置と、プランジャーの位置および速度を検知する射出位置速度センサーと、射出シリンダーのヘッド室の圧力を検知する射出圧力検出器と、アキュムレータに畜圧された作動油の圧力を検知するアキュムレータ圧力検出器と、を備えた射出装置とする。
第2の発明では、第1の発明において、アキュムレータ圧力検出器は、アキュムレータの圧力が設定畜圧値に達すると信号を発する圧力スイッチとする。
第3の発明では、第2の発明において、アキュムレータの設定畜圧値は、アキュムレータの最高畜圧値とする。
第4の発明は、第1から第3の射出装置を用い、アキュムレータを設定畜圧値に畜圧し、スリーブ内に溶湯を注入後、射出開閉バルブを開いて射出工程を開始し、プランジャーが設定速度パターンで前進するように、射出位置速度センサーの測定値にもとづき射出用サーボバルブの開度をフィードバック制御し、プランジャーの位置が設定切換え位置に達するか、あるいは射出圧力が設定切換え圧力に達すると昇圧保持工程に切換え、昇圧保持工程では、設定圧力パターンになるよう射出圧力検出器の圧力測定値にもとづき射出用サーボバルブの開度をフィードバック制御する、射出制御方法である。
そして、第5の発明は、第4の発明において、昇圧保持工程では、昇圧保持工程での設定速度パターンと設定圧力パターンの両方のうち、先に制限を受けるものを優先して、射出用サーボバルブの開度をフィードバック制御する。
【発明の効果】
【0011】
射出充填工程から昇圧保持工程を1つのアキュムレータと1つのサーボバルブで制御するため、油圧回路を簡素化できる。また、アキュムレータを最高圧まで畜圧できるので、高速射出工程の終盤においても、メタル圧に負けて射出充填速度が落ちることがなく、品質の良い鋳造品を生産できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本願発明の実施例であり、射出装置の油圧回路図である。
【図2】本願発明における、射出速度及び射出圧力等の時間変化及びその際のピストンロッド、各バルブ等の状態を示すグラフである。
【図3】本願発明の実施例における、射出速度と射出圧力の測定値、及びその際の設定値を示すグラフである。
【図4】一般的なダイカストマシンにおける、油圧駆動方式の射出装置および金型周辺を示す図である。
【図5】一般的なダイカスト鋳造におけるプランジャーチップの位置、溶湯の状態、射出速度、溶湯圧力の関係を示す図およびグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面にもとづいて、本発明に係るダイカストマシンの射出装置、油圧回路及びその制御方法に関する実施例を詳細に説明する。
【実施例】
【0014】
本実施の形態においても、金型装置、プランジャー、射出シリンダー等は、図4に示す一般的なダイカストマシンと同様であるが、射出装置の油圧装置、油圧回路、及びその制御方法に特徴を有する。
【0015】
図1は、その油圧回路を示しており、射出シリンダー10のヘッド室10Hには、射出用サーボバルブ16が回路接続されている。射出用サーボバルブ16は、内部のスプールがサーボモータとボールねじの作用により移動することができ、作動油流路の開度を閉状態から全開状態まで連続的に変えることかできるので、作動油の流量を応答性良く調整することが可能である。さらに、射出用サーボバルブ16の上流側は、射出開閉ロジックバルブ24を介してアキュムレータ(ACC)14と回路接続している。アキュムレータ14は、摺動移動可能なピストンによってガス室と作動油室に仕切られており、ガス室は高圧ガスが充満しているガスボトル28と配管接続している。射出開閉ロジックバルブ24には、パイロットライン24aが設けられており、パイロットライン24aに圧力を立てるとバルブ閉状態となり、また圧力をタンクに落とすとバルブ開状態となる。よって、パイロットライン24aと接続する射出切替バルブ20がOFFしている状態(消磁状態)では、アキュムレータ14の圧力が導かれて射出開閉ロジックバルブ24は閉状態となり、またONしている状態(励磁状態)では、タンクと連通して射出開閉ロジックバルブ24は開状態となる。
【0016】
アキュムレータ14の作動油室は、チェックバルブ26と畜圧切替バルブ22を介してポンプAとも回路接続されている(油圧供給装置)。畜圧切替バルブ22が開いた状態(励磁状態)で、ポンプAから高圧の作動油を吐出すると、アキュムレータ14の作動油室に作動油が流れ込み、ピストンを押し上げ、ガス室及びガスボトル28のガスを圧縮し、アキュムレータ14を高圧に畜圧できる。アキュムレータ14の作動油室とチェックバルブ26の回路の途中には、アキュムレータ用圧力スイッチ29が接続されており、アキュムレータ14の圧力状態を検知できるようになっている。よって、所望の設定圧力まで畜圧されたことをアキュムレータ用圧力スイッチ29が検知すると、電気信号が図示せぬ制御装置に送られ、制御装置がポンプAからの作動油の吐出を停止するとともに、畜圧切替バルブ22をOFF(消磁)する。アキュムレータ用圧力スイッチ29は、ON/OFFタイプのもの、あるいは圧力値を連続的に出力する圧力センサーであっても良い。畜圧された高圧の作動油は、チェックバルブ26の作用によって、ポンプA側に漏れることは無い。
アキュムレータ用圧力スイッチ29の設定圧力は、アキュムレータ14が畜圧できる設計上の最高値に設定しておくことが良いが、充填し易くかつ低い保持圧力でも鋳巣が発生しない金型キャビティ形状のときは、最高値よりも低い値に設定しておくこともできる。その場合、畜圧に要するエネルギーを節約することができる。
【0017】
また、ヘッド室10Hには、射出圧力センサー31が接続されており、キャビティ内に溶湯を射出充填する際の射出圧力(溶湯圧力)を検知可能となっている。さらに、ヘッド室10Hは、ソレノイドを2個備え3つの切換え位置を有するシリンダー切替バルブ19と回路接続しており、バルブを切替えることによって、タンクあるいはポンプBと連通する。
【0018】
一方、射出シリンダー10のロッド室10Rは、タンク切替弁18を経由してタンクに回路接続するとともに、途中で分岐して前述したシリンダー切替バルブ19とも接続している。
ポンプBは、可変吐出ポンプあるいは定吐出ポンプと流量制御弁の組合せなどで構成されており、低速射出領域での速度、あるいはピストンが戻る時の速度を安定して制御できるようになっている。
ピストンロッド12には、射出位置速度センサー32の移動部が取り付けられており、プランジャー及びピストンの位置および速度を検知し、フィードバック制御を行うため制御装置に送信される。
【0019】
次に、このように構成された油圧回路及び油圧装置を用いて、本発明に係る射出充填工程を制御する方法について、図2を用いて説明する。
図2は、本実施の形態における、射出速度及び射出圧力:Ph(射出シリンダー10のヘッド室10Hの圧力)等の時間変化及びその際のピストンロッド12、各バルブ等の状態を表わすグラフである。Pmは設定保持圧力、Pm’は切換え圧力を示す。低速射出領域は、時間t0〜t1間であり、高速射出領域は、時間t1〜t2間、昇圧領域は、時間t2〜t3間、保持領域は、時間t3〜t4間である。
【0020】
まず、射出充填工程に入る前に、アキュムレータ14の畜圧(ACC畜圧設定値)を完了しておく。そして、高温の溶解炉で溶融状態となったアルミニウムの溶湯を、ラドル等で汲み取り、スリーブ内へ注湯する。その後、溶湯の温度が下がらないよう、速やかに射出充填工程を開始する。
射出充填工程の開始時では、全てのバルブがOFFした状態(消磁状態)から、射出切替バルブ20、タンク切替バルブ18、シリンダー切替バルブ19のbソレノイドをON(励磁)する。最初の低速射出領域では、所望の射出速度(0.2〜0.5m/sec程度)になるようにポンプBからの吐出量を調整する。この時、射出用サーボバルブ16は閉じられているため、その上流にはアキュムレータ14の圧力は伝わっているが、ヘッド室10H側への作動油の流出は無い。
低速射出領域は、ポンプBからの吐出量によって制御することもできるが、ポンプBからの供給を停止し、射出用サーボバルブ16を僅かに開いて低速制御することもできる。ポンプBからの吐出量によって制御する場合の、射出用サーボバルブ16に対する低速領域の設定速度パターンの値は0となる。
【0021】
そして射出位置速度センサー32が高速射出領域に達したことを検知すると(t1)、射出用サーボバルブ16が開かれ、所望の高速射出速度になるまで開き量が制御される。低速から4〜5m/secの高速まで瞬時に加速する必要があるが、射出用サーボバルブ16の高い応答性により実現することが可能である。高速射出領域では、プランジャーチップ7を高速で前進させ、キャビティ内で溶湯が凝固する前に短時間で充填する。高速領域に入った後射出圧力が一旦急激に上昇しそして下降しているが、これはピストンロッド12等の慣性質量を、高速まで加速するために要する力である。
【0022】
金型キャビティ内が溶湯で充満すると、昇圧保持工程(領域)に切換える(t2)。切換えのタイミングは、設定切換え位置、あるいは設定切換え圧力に達した時点で行なわれる。図2は圧力によって切換える様子を示し、射出圧力センサー31で射出圧力(Ph:ヘッド室の圧力)の測定値を監視しながら、設定切換え圧力(Pm’)に達した瞬間に昇圧保持工程への切換えが行われている。
切換え後は、所望の昇圧速度になるよう射出用サーボバルブ16の開き量を調整制御する(急激な圧力上昇はバリの発生を引き起こし、また遅いと鋳巣の発生がある)。そして、設定された保持圧力(Pm)に達すると(t3)、射出用サーボバルブ16は殆ど閉じられ、溶湯が凝固収縮し射出シリンダーのピストンが前進する分だけ作動油を送り込んで、保持圧力(Pm)を維持する。
ここで、切換え後の圧力制御時においても、射出速度が設定値を超えた場合は、速度を優先し速度フィードバック制御が行なわれる。昇圧保持工程での加圧は、ゲート近傍の溶湯が凝固しプランジャーの押し力がキャビティ内溶湯に伝わらなくなる程度の時間まで行なわれる。
【0023】
アキュムレータ14(ACC)の圧力は、高速領域および昇圧領域で作動油を吐出する分低下するが、保持領域では殆ど一定である。
また、アキュムレータ14は、最高畜圧値まで畜圧しておくことが望ましいが、畜圧に要するエネルギーを節約するため畜圧値を下げる場合は、保持領域におけるアキュムレータ14の圧力が設定保持圧力(Ph)よりも高くなるよう、さらに高速領域終盤において溶湯圧力に負けて射出速度が低下しないよう、畜圧値を設定しておく必要がある。
【0024】
昇圧保持時間が完了すると(t4)、射出用サーボバルブ16が完全に閉じられるとともに、シリンダー切替バルブ19、射出切替バルブ20及び射出開閉ロジックバルブ24も閉じられる。
その後冷却時間が終了すると、型開きとともにシリンダー切替バルブ19のbソレノイドを励磁して、ピストンロッド12及びプランジャーを前進し、製品を固定型から突き出す。さらに、タンク切替バルブ18を閉めるとともにシリンダー切替バルブ19のaソレノイドを励磁して、ピストンロッド12を射出開始位置まで戻す。
そして、アキュムレータ14への畜圧が行われ、次の注湯工程及び射出充填工程への準備が完了する。
【0025】
図3に射出充填工程の実施例を示す。低速領域では、加速域後0.5m/secに設定され、高速領域では加速域後4.5m/secに設定されており、それに追従するようフィードバック制御される(実測速度:V)。低速及び高速領域において、射出圧力上限設定値(7MPa)が設けられており、もし射出圧力がその値を超えた場合、圧力優先で制御される。昇圧保持工程への切換えは、プランジャーの位置によって行なわれている。昇圧保持工程では、射出圧力上限設定値の延長で圧力パターンが設定されており、そのプロファイルにもとづいて圧力フィードバック制御されている。圧力上昇パターンに従って最高圧力(15MPa)まで達すると、その値で保持される。この昇圧保持領域においては基本的には圧力フィードバック制御であるが、もし圧力上昇中の射出速度が速度設定値(4.5m/sec)を超えると、速度フィードバック制御に切換えるようになっており、圧力パターンと速度パターンで先に制限を受ける方にもとづいてフィードバック制御が行なわれる。
【0026】
それぞれの工程で行なわれるフィードバック制御のため、設定速度パターンや設定圧力パターンである目標値と、現時点のセンサーからの測定値との差などにもとづき、制御装置が射出用サーボバルブ16の適切な開度を算出する。そしてさらに、射出用サーボバルブ16のスプールを駆動(開度を調節)を行なうサーボモータへの指令電流値(または電圧値)が算出され、電気的に指令出力される。適切なバルブ開度や指令電流値を計算する方法として、PID制御理論や現代制御理論などがあり、それぞれの工程に適した制御理論が用いられる。
【0027】
以上説明したように本願発明においては、1つの油圧源(アキュムレータ14)から吐出された高圧の作動油を、1つの高応答流量調整弁(射出用サーボバルブ16)を用いて制御するため、油圧回路が簡素化されるとともにマシンのコストダウンが図れる。さらに、射出工程と昇圧保持工程を連続的に制御するため、速度制御から圧力制御への切換え時においても、フィードバック制御がスムーズかつ安定的となり、鋳造品質の高品質化、生産の安定化につながる。
【0028】
上記において記載した、あるいは添付図面に示した実施の形態の油圧回路において、説明を分かり易くするために、基本的に最低限の構成要素だけが記載されているが、装置の機能、制御、配置等に応じて必要な、弁、フィルター、センサ等の構成要素が追加されても良い。
例えば、図1の油圧回路図においては、射出シリンダー10のヘッド室10Hに3つの接続口があり、それぞれバルブやセンサーとつながる回路になっているが、射出シリンダー10の外で3つの回路が1つに合流し、ヘッド室の1つの接続口とつながる回路でも良い。
【0029】
上記の実施の形態は本発明の例であり、本発明は、該実施の形態により制限されるものではなく、請求項に記載される事項によってのみ規定されており、上記以外の実施の形態も実施可能である。
【産業上の利用可能性】
【0030】
ダイカストマシンによりアルミニウム製品を鋳造する生産工場において実用可能であり、射出装置の低コスト化、運転制御方法の簡素化に貢献できる。
【符号の説明】
【0031】
1 固定プラテン
2 可動プラテン
3 固定金型
4 可動金型
5 キャビティ(空洞)
6 スリーブ
7 プランジャーチップ
8 プランジャーロッド
9 カップリング
10 射出シリンダー
10H ヘッド室
10R ロッド室
11 ピストンヘッド
12 ピストンロッド
13 シリンダー本体
14 アキュムレータ(ACC)
16 射出用サーボバルブ
18 タンク切替バルブ
19 シリンダー切替バルブ
20 射出切替バルブ
22 畜圧切替バルブ
24 射出開閉ロジックバルブ
24a パイロットライン
26 チェックバルブ
28 ガスボトル
29 アキュムレータ圧力スイッチ
31 射出圧力センサー
32 射出位置速度センサー
100 ダイカストマシン(鋳造装置)
101 金型装置
102 射出装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スリーブ内に注湯された溶湯を金型キャビティ内に射出充填するプランジャーと、
シリンダー本体と、ピストンヘッドと、前記プランジャーと連結するピストンロッドと、ヘッド室と、ロッド室からなり、前記プランジャーを前後進動作する射出シリンダーと、
前記射出シリンダーの前記ヘッド室へ供給する作動油の流量を調整するため、開度を連続的に変化させることが可能な射出用サーボバルブと、
前記射出用サーボバルブを介して前記射出シリンダーの前記ヘッド室に作動油を供給するアキュムレータと、
前記アキュムレータと前記射出用サーボバルブの間に流路接続され、作動油流路の開閉を行なう射出開閉バルブと、
高圧の作動油を吐出して前記アキュムレータを畜圧する油圧供給装置と、
前記プランジャーの位置および速度を検知する射出位置速度センサーと、
前記射出シリンダーの前記ヘッド室の圧力を検知する射出圧力検出器と、
前記アキュムレータに畜圧された作動油の圧力を検知するアキュムレータ圧力検出器と、
を備えたことを特徴とするダイカストマシンの射出装置。
【請求項2】
前記アキュムレータ圧力検出器は、前記アキュムレータの圧力が設定畜圧値に達すると信号を発する圧力スイッチである、
ことを特徴とする請求項1に記載のダイカストマシンの射出装置。
【請求項3】
前記アキュムレータの設定畜圧値は、前記アキュムレータの最高畜圧値である、
ことを特徴とする請求項2に記載のダイカストマシンの射出装置。
【請求項4】
請求項1から3に記載のダイカストマシンの射出装置を用いた射出制御方法であって、
前記アキュムレータを設定畜圧値に畜圧し、
前記スリーブ内に溶湯を注入後、前記射出開閉バルブを開いて射出工程を開始し、
前記プランジャーが設定速度パターンで前進するように、前記射出位置速度センサーの測定値にもとづき前記射出用サーボバルブの開度をフィードバック制御し、
前記プランジャーの位置が設定切換え位置に達するか、あるいは射出圧力が設定切換え圧力に達すると昇圧保持工程に切換え、
昇圧保持工程では、設定圧力パターンになるよう前記射出圧力検出器の圧力測定値にもとづき前記射出用サーボバルブの開度をフィードバック制御する、
ことを特徴とするダイカストマシンの射出制御方法。
【請求項5】
請求項4に記載のダイカストマシンの射出制御方法であって、
昇圧保持工程では、昇圧保持工程での設定速度パターンと設定圧力パターンの両方のうち、先に制限を受けるものを優先して、前記射出用サーボバルブの開度をフィードバック制御する、
ことを特徴とするダイカストマシンの射出制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−131225(P2011−131225A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−291805(P2009−291805)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(300041192)宇部興産機械株式会社 (268)