説明

ダイカストマシンの射出装置及びその制御方法

【課題】 近年のダイカスト鋳造業界では、鋳造品の高品質化や薄肉大型化、さらにはコストダウンを目的とした多数個取り等の高度な鋳造技術が求められようになってきている。このような鋳造を実現するために、高速射出速度が10m/sec程度のいわゆる超高速の射出工程が実現でき、かつ、高加速度、高応答の動作、制御が実現できる射出装置が要望されている。
【解決手段】 低速射出工程と高速射出工程と昇圧保持工程とは、それぞれ別の油圧供給源からの作動油により駆動され、高速射出工程の油圧源は高速射出工程用のアキュムレータであり、高速射出工程用のノンリーク式サーボバルブのみを介して射出シリンダーのヘッド室と回路接続されている構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウムなどの溶湯を金型キャビティ内に射出充填し、金属製の部品を鋳造するダイカストマシンの射出装置に係り、特に高速で射出充填することが可能な射出装置及びその制御方法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
まず、横型のダイカストマシンによる一般的なダイカスト鋳造装置及び方法を、図6を用いて説明する。
ダイカストマシン(鋳造装置)200は、金型装置201と、射出シリンダー202とを具備しており、金型装置201においては、対向する一対の固定プラテン220と可動プラテン221との間に、固定金型218と可動金型219が設けられている。固定金型218と可動金型219は、固定プラテン220と可動プラテン221などで構成される型締装置により閉じられることにより、その間にキャビティ(空洞)222を形成し、キャビティ222内にアルミニウム(AL)などの溶湯が射出充填されて、鋳造成形品が製造される。アルミ溶湯を射出充填するために、射出シリンダー202が設けられており、固定プラテン220には、アルミ溶湯が貯められるプランジャースリーブ217が設けられて、プランジャースリーブ217は、固定プラテン220及び固定金型218を貫通して、キャビティ222に流体連絡する。
【0003】
射出シリンダー202は、アルミ溶湯を射出するための油圧駆動の往復動ピストン/シリンダーである。射出シリンダー202は、射出シリンダー本体216とピストン203とを具備する。ピストン203は、プランジャースリーブ217に係合する。ピストン203は、図6において左端にピストンヘッド215を具備し、そのピストンヘッド215と一体化しているピストンロッド214に射出カップリング213でプランジャーロッド212が連結され、その先にプランジャーチップ211が取り付けられている。プランジャーチップ211は、プランジャースリーブ217内に嵌合し、プランジャースリーブ217内で往復運動して、プランジャースリーブ217内のアルミ溶湯を圧送することにより、アルミ溶湯をキャビティ222内に射出充填する。
本実施の形態において、射出シリンダー202は、油圧式であるので、作動油をシリンダー本体216のヘッド側に供給して、ピストンヘッド215及びピストンロッド214を駆動し、プランジャースリーブ217に貯められたアルミ(AL)溶湯をプランジャーチップ211で押して、固定金型218、可動金型219から形成されるキャビティ(空洞)222に射出充填して鋳造成形する。
【0004】
ここで、溶湯をキャビティ内に射出充填する際の射出速度や射出圧力を、適切に設定し制御することが、良品を鋳造するためには極めて重要である。
一般的な鋳造の射出速度パターンを、図7を用いて説明する。
射出充填工程が開始される前の給湯工程において、図示せぬ給湯装置により溶湯が射出スリーブ217内に注湯され、射出開始状態となる。この時のプランジャーチップ211の先端の位置はAである。(図7の上の図を参照)
【0005】
この状態から、まず低速射出工程が行われる。この工程では、低速でプランジャーチップ211を前進させ、射出スリーブ217の内部において溶湯が波立ち空気を巻き込まないようにすることが必要である。そのため、安定した低速(V)の制御が要求される。プランジャーチップ211が前進し、溶湯が射出スリーブ217の上壁まで達し更に湯面がゲート近傍まで上昇するB位置に達すると(射出ストロークセンサがS前進したことを検知すると)、高速射出工程に切り替えられる。(図7の上から2番目の図を参照)
高速射出工程では、プランジャーチップ211等を一気に加速し、高速(V)でキャビティ222内に溶湯を射出充填する。これは、溶湯が低温であるキャビティ222の表面に接触すると瞬時に凝固するためであり、できるだけ高速で凝固する前に充填することが、良品の鋳造のためには望ましい。特に、キャビティ222(鋳造品)が大型化、複雑化すると、より高速化が求められる。
そして、キャビティ222内に溶湯が完全に充填する直前なると、サージ圧によるバリの発生を防止するため射出速度は下げられる。プランジャーチップ211がC位置に達しキャビティ222内に溶湯が充満すると、射出圧力(射出シリンダーのヘッド側圧力)が上昇するので、圧力センサの測定値が設定切替圧力以上になった時に、次の昇圧保持工程に切り替える。(図7の上から3番目の図を参照)
昇圧保持工程では、あまり早く圧力を上昇させるとバリが発生し、また遅いと引け巣が発生するので、適切な昇圧速度で上昇させる。そして、設定された保持圧力まで達すると一定の時間圧力を保持制御し、溶湯が凝固冷却して収縮する分、プランジャーチップ211を前進させる。
【0006】
このような高速射出が要求される射出充填工程を実現するため、一般的なダイカストマシンではアキュムレータが使用される。
アキュムレータを用いた場合の一連の鋳造工程を、図8に示す。金型が開いた状態から、まず「中子入」工程、「型閉」工程、「給湯」工程、「低速射出」工程、「高速射出」工程、「昇圧保持」工程、「冷却」工程、「型開」工程、「中子戻」工程、その後「押出」工程と「製品取出」工程が同時に行われ、「金型スプレー」工程を経て一連の鋳造工程が終了する。この一連の工程の中で、「アキュムレータ畜圧」工程は、「製品取出」工程から「金型スプレー」工程を通して10〜20秒かけてゆっくり行われ、射出充填工程の開始を待つ。
この圧力を保持して待機している間(10〜20秒)、アキュムレータから作動油が射出シリンダーへ流出しプランジャーチップ211が徐々に前進することを防止する必要があり、油圧回路の途中にチェック弁などシール性の良い開閉可能なバルブを入れられる。さらに速度制御するためのバルブも入れられる。
【0007】
上述したような射出充填工程を実現するため、図9のような射出装置が提案されている。(特許文献1参照)
この装置では、射出シリンダーのヘッド側とアキュムレータがチェックバルブと高速射出切換バルブを介して連絡している。また、ヘッド側にはブーストシリンダーが設けられ昇圧のために増圧できるようになっている。そして、射出充填工程では、まずチェックバルブが開かれて低速射出が行われ、次に高速射出切換バルブが開いて高速射出が行われる。昇圧保持工程では、チェックバルブが閉じられると同時に昇圧切換バルブが開かれて射出圧が昇圧、保持される。
しかし、この装置では、各工程における作動油の油圧供給源が一つであることと、各工程の油圧回路の全部あるいは一部が共通化されていることにより、各条件の設定値に自由度が小さく、さらに制御も困難で、様々な形状の鋳造品への対応が難しかった。
【0008】
また、射出速度の制御を高精度化するために、応答性の良い流量調整弁が開発され、よく用いられている。(特許文献2参照) これは、モータの回転運動をバルブスプールの直進往復運動に変換し、モータの回転角度を高精度に制御することにより、バルブの開度を制御し精密な作動油の流量制御、射出速度制御を実現するものである。
この流量調整弁を用いることにより、低速射出も高速射出も一つのバルブで制御することが可能となる。
しかし、この形式の流量調整弁では、バルブスプールがバルブスリーブ内で摺動できるように、バルブスプールの外径はバルブスリーブの内径より若干小さくなっている(隙間は、0.02〜0.03mm程度)。そのため、全閉状態にしても僅かに作動油がリークする(特に、高速射出用の大径のバルブスプールでは、リーク量が多くなる)ので、シール性の良いチェック弁との併用が必要であった。
【0009】
この点を改善するため、バルブスプールとバルブスリーブに当たり面を設けることにより流量調整弁にシール機能を付加し、チェック弁と合体した機能を持つ流量制御弁も開発されている。(特許文献3参照)
【0010】
【特許文献1】特公平03−41262号公報(本願図面の図9参照)
【特許文献2】特公平02−34708号公報
【特許文献3】特公昭61−31347号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、近年のダイカスト鋳造業界では、鋳造品の高品質化や薄肉大型化、さらにはコストダウンを目的とした多数個取り等の高度な鋳造技術が求められようになってきている。このような鋳造を実現するために、高速射出速度が10m/sec程度のいわゆる超高速の射出工程が実現でき、かつ、低速(0.2〜0.5m/sec)からその高速度までの立ち上がりに要する加速距離が50mm程度という高加速度、高応答の動作、制御が実現できる射出装置が要望されている。
【0012】
従来の高速射出速度は速くとも4〜5m/secであり、約2倍の射出速度が要求されることになる。しかし、作動油が回路内を流れる時の圧力損失は、流速の2乗に比例するため、射出速度が2倍になると圧力損失は4倍となり大きな流動抵抗になる。よって、たとえ大容量のアキュムレータを使用しても、この回路内での作動油の流動抵抗があるため、先に説明したような従来の射出装置、油圧回路では、超高速射出の実現は非常に困難であった。
【0013】
本発明では、こうした従来の射出装置、油圧回路の欠点を解決し、超高速射出が実現可能であるとともに、低速射出工程及び昇圧保持工程に対しても、条件設定の自由度が高くかつ高精度で安定的な制御が可能となる射出装置、油圧回路およびその制御方法を提供することを意図している。
【課題を解決するための手段】
【0014】
以上の課題を解決するために、
第1の本発明では、射出シリンダーのヘッド室に作動油を圧入することにより、射出プランジャーを前進させて金型に形成されたキャビティ内に溶湯を射出充填するダイカストマシンの射出装置であって、低速射出工程と高速射出工程と昇圧保持工程とは、それぞれ別の油圧供給源からの作動油により駆動され、高速射出工程の油圧供給源は高速射出工程用のアキュムレータであり、高速射出工程用のノンリーク式サーボバルブのみを介して射出シリンダーのヘッド室と回路接続されている構成とした。
【0015】
第2の本発明では、第1の発明において、高速射出工程用のノンリーク式サーボバルブは射出ブロックに組み込まれ、高速射出工程用のアキュムレータは射出ブロックに取り付けられ、射出ブロックは射出シリンダーのヘッド室と接続している構成とした。
【0016】
第3の本発明では、第1、2の発明において、低速射出工程の油圧供給源は油圧ポンプであり、昇圧保持工程の油圧供給源は昇圧保持工程用のアキュムレータである構成とした。
【0017】
第4本発明では、第1〜3の発明において、昇圧保持工程用のアキュムレータは、昇圧保持工程用のノンリーク式サーボバルブのみを介して射出シリンダーのヘッド室と回路接続されている構成とした。
【0018】
そして、第5の本発明では、第1〜4の発明によるダイカストマシンの射出装置を用いたダイカストマシンの射出制御方法であって、高速射出工程中は高速射出工程用のノンリーク式サーボバルブの開度を調整して速度制御を行い、高速射出工程とその準備のための工程以外の工程では高速射出工程用のノンリーク式サーボバルブを閉じてノンリーク状態に保持するようにした。
【発明の効果】
【0019】
本発明では、下記のような優れた効果を発揮する。
(1)油圧回路内での作動油の流動抵抗を減少することにより、超高速射出が実現できるので、特に大型品や薄肉品、多数個取りの鋳造が可能となり品質も向上する。
(2)それぞれの工程の油圧源及び回路が個別であり、各回路を最適化しているため、各工程の鋳造条件を個別に設定でき設定値の自由度も向上するため、様々な形状の鋳造品に対応可能である。
(3)それぞれの工程の制御装置が別個であるため、各工程の制御が安定し、品質及び良品率が向上し生産性が高まる。
(4)ロジックバルブ等のチェック弁が不要となり、油圧回路の簡素化及びコストダウンが図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面に基づいて、本発明に係るダイカストマシンの射出装置、油圧装置及びその制御方法に関する実施例を詳細に説明する。図1〜図5はいずれも本発明の実施例に係り、図1は射出装置の油圧回路図、図2は射出装置を示す図、図3は高速射出用ノンリーク式サーボバルブの周辺を示す図、図4は高速射出用ノンリーク式サーボバルブの細部を示す図、図5は射出充填中の射出速度及び射出圧力等の時間変化、その際のピストンロッド及び各バルブの状態を示すグラフである。
【実施例】
【0021】
本実施の形態においても、金型装置、射出プランジャー、射出シリンダー等は図6に示す一般的なダイカストマシンと同様であるが、射出装置の油圧回路、油圧装置、及び制御方法に特徴を有する。
【0022】
図1は、その油圧回路を示しており、射出シリンダー13のヘッド側には、高速射出用の回路と昇圧保持用の回路と低速射出用の回路が連絡している。
まず、高速射出用回路は、高速射出用ノンリーク式サーボバルブ16と射出用ピストンアキュムレータ14及びガスボトル29が直列的に回路接続しており、射出用アキュムレータ14への畜圧のためのチェック弁A26、昇圧アキュムレータ畜圧用開閉弁22とポンプAが途中で分岐して回路接続されている。
昇圧保持用の回路には、昇圧保持用ノンリーク式サーボバルブ17と昇圧保持用ピストンアキュムレータ15が連絡されており、途中で分岐して、チェック弁B27、昇圧アキュムレータ畜圧用開閉弁23、チェック弁C28及びポンプBに回路接続されている。
さらに、低速射出用回路は、射出用切替弁19及びチェック弁C28を経由してポンプBと接続されている。
【0023】
一方、射出シリンダー13のロッド側は、タンク切替弁18を経由してタンクに接続するとともに、途中で分岐して射出用切替弁19を経由して、チェック弁C28及びポンプBに接続されている。
射出シリンダー13のロッド側からタンク切替弁18を経てタンクに通じる回路には、途中に絞り弁を入れる(タンク切替弁18に絞り機能を持たせても良い)ことにより、ピストンが前進する際に背圧を立てることもできる。
【0024】
ポンプBは、可変吐出ポンプあるいは定吐出ポンプと流量制御弁の組合せなどで構成されており、低速射出工程での速度を安定して制御できるようになっている。
【0025】
次に、高速射出回路を構成する装置を、図2を用いて説明する。
射出シリンダー13のヘッド室には、射出マニホールド30が直接取り付けられており、さらに射出マニホールド30には高速射出用ピストンアキュムレータ14が直接接続され、ガスボトル29が配管接続されている。
【0026】
また、図3において詳細に示すように、射出マニホールド30には、高速射出用ノンリーク式サーボバルブ16が組み込まれている。高速射出用ノンリーク式サーボバルブ16は、バルブスプール33、バルブスリーブ34、回転直進変換装置32及びサーボモータ31から構成されている。サーボモータ31の回転角度を制御することにより、バルブスプール33をバルブスリーブ34内で移動させ、作動油流路を閉じてノンリーク状態としたり、また開き量を調整して射出速度を制御する。高速射出用ノンリーク式サーボバルブ16は、超高速射出が可能な作動油流量に適した大きさになっており、またサーボモータ31も高応答が可能な動作速度を実現できる容量となっている。
必要に応じてシールリング35及びピストンシールリング36が組み込まれており、作動油の漏れを防止している。
このノンリーク式サーボバルブの構造は、昇圧保持用ノンリーク式サーボバルブ17も同様であるが、作動油の流量が少ないため、高速射出用ノンリーク式サーボバルブ16に比べてサイズは小さくすることができる。
【0027】
ここで、前述の特許文献3に記載されている流量制御弁と、本発明に係るノンリーク式サーボバルブを比較する。
特許文献3に記載された流量制御弁では、射出回路の油圧力がバルブスプールの軸方向に作用するため、軸の反対側に別の回路からの圧油を導入し、この力に対抗しようとしている。そのため、油圧室等の装置が必要となり構造が複雑になっている。また、対抗する圧油を導入しても射出回路の圧力との間に差圧があるため、それに対抗するための力がスプールを駆動するモータには必要となる。そのためモータのサイズが大きくなり、応答性を悪くしている。さらに、歯車を使って動力を伝達し、その減速機能によりモータの小型化を図っているが、歯車の慣性が増える分応答性が鈍り、ひいては流量制御弁自体の応答性が落ちて、高速射出の高精度制御に適しないものになっていた。
一方、本発明に係るノンリーク式サーボバルブでは、図3に示すよう、射出圧力がバルブスプール33の軸方向に作用しない構造をとっているため、別の回路の油圧を導入する必要が無く、シンプルな構造になっている。また、サーボモータ31にはバルブスプール33を軸方向に動かす力のみしか要求されないので、小型で応答性の良いものが使え、超高速射出の高精度制御にも対応できる性能を発揮する。
【0028】
図4において、高速射出用ノンリーク式サーボバルブ16及び昇圧保持用ノンリーク式サーボバルブ17のバルブスプール33とバルブスリーブ34の詳細を示し、作動油の流れを制御する状態を説明する。
図4(a)に示すよう、バルブスプール33の外径とバルブスリーブ34の内径は、双方ともDであるが、バルブスプール33は内部で摺動できるようにバルブスリーブ34の内径より外径が若干(0.05mm程度)小さくなっている。Dは、それぞれの工程における流量を制御するのに適切な径になっている。
バルブスプール33には、径が一回り大きいリング部とそれに隣接したガイド部が形成されている。リング部の左側端面には、斜めに加工され金属当たり面が形成されており、同様にバルブスリーブ34に形成されている斜めの金属当たり面に押し付けられることにより、ノンリーク状態を作り出すことができる。この時、リング部に隣接したガイド部により、バルブスプール33とバルブスリーブ34の同心状態が保持され、金属当たり面は均一に押し付けられ、確実なノンリーク状態を生み出す。また、ガイド部の幅はLとなっているため、ノンリーク状態からバルブスプール33がL以上動くと作動油は流れ始める。
図4(b)において、バルブスプール33を少し開いて流量制御している状態を詳細に示しているが、アキュムレータから放出された作動油は図の上側から流れ込みバルブスプール33が開いた隙間から左側に流れ、サーボバルブの出口を経て射出シリンダー13のヘッド側に流れ込む。この開き量(隙間)は、サーボモータ31の回転角度を微妙に制御することにより決まり、作動油の流量を調整して射出速度を制御する。
図4(c)は、バルブスプール33を閉じたノンリークの状態を示しているが、この時、サーボモータ31の回転トルクを制御することにより、金属当たり面の押し付け力を適度に保持し、ノンリーク状態を実現する。
【0029】
次に、このように構成された油圧回路及び油圧装置を用いて、本発明に係る射出充填工程を制御する方法について、説明する。
【0030】
まず、射出充填工程に入る前に、高速射出用ピストンアキュムレータ14及び昇圧保持用ピストンアキュムレータ15を、それぞれ畜圧しておくことが必要である。これは、図8に示される一連の成形工程において、押出、金型スプレーまたは製品取出工程のタイミングで開始され、中子入工程が始まる前には終えて待機しておく。
高速射出用ピストンアキュムレータ14を畜圧するには、高速射出用ノンリーク式サーボバルブ16を閉じた状態で射出アキュムレータ畜圧用開閉弁22を開き、ポンプAから作動油を吐出し、所望の射出畜圧設定値になるまで作動油を送り込む。また、昇圧保持用ピストンアキュムレータ15に畜圧するには、射出用切替弁19を閉じた(消磁した)状態で昇圧保持用ノンリーク式サーボバルブ17を閉じ、昇圧アキュムレータ畜圧用開閉弁23を開いて、ポンプBより作動油を吐出し、所望の昇圧畜圧設定値になるまで作動油を送り込み、そして昇圧アキュムレータ畜圧用開閉弁23を閉じて終了する。
【0031】
射出充填工程の最初の低速射出工程では、全てのバルブが閉じた状態から、タンク切替弁18を開き射出用切替弁19のbソレノイドを励磁する。その時、所望の射出速度になるようにポンプBからの吐出量を調整する。
【0032】
そして図示せぬ射出ストロークセンサが高速射出領域に達したことを検知すると、高速射出用ノンリーク式サーボバルブ16が開かれ、所望の射出速度になるよう開き量が制御される。0.2〜0.5m/sec程度の低速から10m/secのいわゆる超高速まで瞬時に加速する必要があるが、高速射出用ノンリーク式サーボバルブ16の高い応答性により実現することができる。この時、高速射出用ノンリーク式サーボバルブ16をノンリーク状態からLより少し小さい量だけ予め(例えば、給湯工程の途中や低速射出工程の開始時から)開いて待機しておく(高速射出工程の準備のための工程)と、高速射出指令が来た瞬間バルブスプール33が動き出すと共に作動油が流れ出し、高速への立ち上がり応答性がさらに良くなる。
【0033】
キャビティの中に溶湯が充満する瞬間にサージ圧が発生しバリが出ることを防ぐため、高速領域の終盤においては速度が下げられ滑らかに昇圧保持工程へと移行する。
昇圧保持工程に移行するタイミングは、図示せぬ圧力センサで射出圧力(Ph)の測定値を監視しながら、設定切替圧力(Pm’)に達した瞬間行われ、射出速度用ノンリーク式サーボバルブ16が閉じられるとともに昇圧調整用ノンリーク式サーボバルブ17が開かれる。
【0034】
この時、所望の昇圧速度になるよう昇圧保持用ノンリーク式サーボバルブ17の開き量が調整される。そして、設定された保持圧力(Pm)に達すると、昇圧保持用ノンリーク式サーボバルブ17は殆ど閉じられ、溶湯が凝固収縮し射出シリンダーのピストンが前進する分だけ作動油を送り込んで、保持圧力(Pm)を維持する。
ここで、昇圧速度をより速くするためには、昇圧保持用ピストンアキュムレータ15の設定畜圧値を高くしておけば、昇圧速度は大きくなり短時間で保持圧力(Pm)に達することが可能である。
【0035】
凝固収縮のための圧力保持時間が経過すれば、昇圧保持用ノンリーク式サーボバルブ17が閉じられるとともに射出用切替弁19も閉じられ、射出充填工程は終了する。
その後、型開きとともに射出用切替弁19のbソレノイドを励磁して、ピストンロッドを前進し、製品を突き出す。さらに、タンク切替弁18を閉めるとともに射出用切替弁19のaソレノイドを励磁して、ピストンロッド12を射出開始位置まで戻す。
そして、各アキュムレータへの畜圧が行われ、次の給湯工程及び射出充填工程への準備が完了する。
【0036】
図5に、本実施の形態における、射出速度及び射出圧力:Ph(射出シリンダー13のヘッド室の圧力)等の時間変化及びその際のピストンロッド、各バルブ等の状態を表わすグラフを示す。図5中において、Phはヘッド室の圧力、Pmは設定保持圧力、Pm’は切替圧力を示す。低速射出領域は、時間t0〜t1間であり、高速射出領域は、時間t1〜t2間、昇圧領域は、時間t2〜t3間、保持領域は、時間t3〜t4間である。
t1において、射出ストロークセンサの測定値に基づき、低速領域から高速領域に切替えられる。
t2における、高速領域から昇圧領域への切替(即ち、高速射出用ノンリーク式サーボバルブ16が閉じで昇圧保持用ノンリーク式サーボバルブ17が開く(閉から所望の開度へ))は、主に、ヘッド室の圧力(Ph:射出圧力)を測定することにより、測定圧力値がPm’に達すると実施される。
そして、射出圧力が保持圧力Pmに達すると、昇圧調整用ノンリーク式サーボバルブ17の開度は小さくなり、連続的に昇圧領域から保持領域へ切替わる。
高速領域に入った後射出圧力が一旦急激に上昇しそして下降しているが、これはピストンロッド12等の慣性質量を、高速まで加速するために要する力である。
その他、ピストンロッド12の動作、各弁の動作等については、図5のグラフを見れば十分に理解できるので、詳細な説明は省略する。
【0037】
図10に、本発明の技術内容とは別である、ノンリーク式でない通常のサーボバルブを用いた場合の射出油圧回路図を示す。高速射出用のサーボバルブ316と射出用ピストンアキュムレータ314の間に、射出用ロジックバルブ343が必要で、さらにそれを開閉するための射出開閉バルブ341も必要であることがわかる。同様に、昇圧調整用サーボバルブ317と昇圧用ピストンアキュムレータ315の間に昇圧用ロジックバルブ344と昇圧用開閉バルブ342も必要である。
(ロジックバルブとは、チェック弁の一種でシール性に優れ、外部の電磁弁等と連絡することにより開閉が可能となっている。)
【0038】
また、その場合の射出マニホールド330を図11に示す。図3に比べ、射出用ロジックバルブ343が組み込まれているため、アキュムレータ314から放出され射出マニホールド330に入った作動油が射出シリンダーヘッド室に行くまで流路が4回曲がっている。一方、図3に示す本発明に係る実施例の場合は、曲がりは2回となっている。流路の曲がりは作動油の流れを乱し圧力損失の大きな原因となるので、図3の本発明に係る油圧装置の方が高速射出に適していることが分かる。
さらに、バルブの数が減ることと、射出マニホールドのサイズが小さくなることにより、コストダウンの効果もある。
【0039】
上記において記載した、あるいは添付図面に示した実施の形態の油圧回路において、説明を分かり易くするために、基本的に最低限の構成要素だけが記載されているが、装置の機能、制御、配置等に応じて必要な、弁、フィルター、センサ等の構成要素が追加されても良い。
例えば、図1の油圧回路図において、射出シリンダー13のヘッド室に3つの接続口がありそれぞれの油圧供給源とつながる回路になっているが、射出シリンダー13の外で3つの回路が1つに合流し、ヘッド室の1つの接続口とつながる回路でも良い。
【0040】
上記の実施の形態は本発明の例であり、本発明は、該実施の形態により制限されるものではなく、請求項に記載される事項によってのみ規定されており、上記以外の実施の形態も実施可能である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の実施例に係る射出装置の油圧回路図である。
【図2】本発明の実施例に係る射出シリンダー及び高速射出用の装置を示す図である。
【図3】本発明の実施例に係る高速射出用ノンリーク式サーボバルブの周辺を示す図である。
【図4】本発明の実施例に係るノンリーク式サーボバルブの細部を示す図である。
【図5】本発明の実施例に係る射出充填中の射出速度及び射出圧力等の時間変化、その際のピストンロッド及び各バルブの状態を示すグラフである。
【図6】ダイカストマシンの射出装置及び金型周辺の構成を示す図である。
【図7】射出充填工程におけるプランジャーチップの位置と溶湯の充填状態及び射出速度、射出ストロークを示す図である。
【図8】ダイカストマシンの各工程の順序及びアキュムレータ畜圧のタイミングを表す図である。
【図9】従来の射出装置の一例を示す図である。
【図10】ノンリーク式のサーボバルブを使わない場合の、油圧回路図である。
【図11】ノンリーク式のサーボバルブを使わない場合の、高速射出用サーボバルブ周辺を示す図である。
【符号の説明】
【0042】
10 カップリング
11 ピストンヘッド
12 ピストンロッド
13 射出シリンダー
14 高速射出用ピストンアキュムレータ(ACC)
15 昇圧保持用ピストンアキュムレータ(ACC)
16 高速射出用ノンリーク式サーボバルブ
17 昇圧保持用ノンリーク式サーボバルブ
18 タンク切替弁
19 射出用切替弁
22 射出アキュムレータ畜圧用開閉弁
23 昇圧アキュムレータ畜圧用開閉弁
26 チェック弁A
27 チェック弁B
28 チェック弁C
29 ガスボトル
30 射出マニホールド
31 サーボモータ
32 回転直進変換装置
33 バルブスプール
34 バルブスリーブ
35 シールリング
36 ピストンシールリング
200 横型のダイカストマシンの要部
201 金型装置
202 射出シリンダー
203 ピストン
211 プランジャーチップ
212 プランジャーロッド
213 カップリング
214 ピストンロッド
215 ピストンヘッド
216 射出シリンダー本体
217 射出スリーブ
218 固定金型
219 可動金型
220 固定プラテン
221 可動プラテン
222 キャビティ(空洞)
312 ピストンロッド
313 射出シリンダー
314 射出用ピストンアキュムレータ(ACC)
315 昇圧用ピストンアキュムレータ(ACC)
316 高速射出用サーボバルブ
317 昇圧保持用サーボバルブ
318 タンク切替弁
319 射出用切替弁
322 射出アキュムレータ畜圧用開閉弁
323 昇圧アキュムレータ畜圧用開閉弁
326 チェック弁A
327 チェック弁B
328 チェック弁C
329 ガスボトル
330 射出マニホールド
331 サーボモータ
332 回転直進変換装置
333 バルブスプール
334 バルブスリーブ
335 シールリング
336 ピストンシールリング
341 射出開閉バルブ
342 昇圧開閉バルブ
343 射出用ロジックバルブ
344 昇圧用ロジックバルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
射出シリンダーのヘッド室に作動油を圧入することにより、射出プランジャーを前進させて金型に形成されたキャビティ内に溶湯を射出充填するダイカストマシンの射出装置であって、
低速射出工程と高速射出工程と昇圧保持工程とは、それぞれ別の油圧供給源からの作動油により駆動され、
高速射出工程の油圧供給源は高速射出工程用のアキュムレータであり、高速射出工程用のノンリーク式サーボバルブのみを介して射出シリンダーのヘッド室と回路接続されていることを特徴とする、
ダイカストマシンの射出装置。
【請求項2】
請求項1におけるダイカストマシンの射出装置であって、
前記高速射出工程用のノンリーク式サーボバルブは射出ブロックに組み込まれ、前記高速射出工程用のアキュムレータは前記射出ブロックに取り付けられ、前記射出ブロックは射出シリンダーのヘッド室と接続していることを特徴とする、
ダイカストマシンの射出装置。
【請求項3】
請求項1および2におけるダイカストマシンの射出装置であって、
低速射出工程の油圧供給源は油圧ポンプであり、昇圧保持工程の油圧供給源は昇圧保持工程用のアキュムレータであることを特徴とする、
ダイカストマシンの射出装置。
【請求項4】
請求項1から3におけるダイカストマシンの射出装置であって、
前記昇圧保持工程用のアキュムレータは、昇圧保持工程用のノンリーク式サーボバルブのみを介して射出シリンダーのヘッド室と回路接続されていることを特徴とする、
ダイカストマシンの射出装置。
【請求項5】
請求項1から4に記載のダイカストマシンの射出装置を用いたダイカストマシンの射出制御方法であって、
高速射出工程中は高速射出工程用のノンリーク式サーボバルブの開度を調整して速度制御を行い、高速射出工程とその準備のための工程以外の工程では高速射出工程用のノンリーク式サーボバルブを閉じてノンリーク状態に保持することを特徴とする、
ダイカストマシンの射出制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−107010(P2009−107010A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−284690(P2007−284690)
【出願日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【出願人】(300041192)宇部興産機械株式会社 (268)