説明

ダイカストマシンの射出装置

【課題】 従来のダイカストマシンの射出装置は、大きなアキュムレータやオイルタンク、複雑な油圧回路などから構成されており、装置が大型化することや、油漏れ対策のメインテナンス作業を要するなど問題があった。
【解決手段】 溶湯を金型内に射出充填するプランジャーと、プランジャーと一体的に結合するプランジャー部材と、プランジャー部材にサージ圧防止シリンダーを介して連結する高速移動部材と、高速移動部材にクッションシリンダーを介して移動部分が接続する射出充填装置と、高速移動部材に軸受を介して装着され台形ねじと螺合しプランジャーが受ける圧力によってプランジャー部材と当接して動作が拘束されるロックナットと、台形ねじを押圧してロックナット及びプランジャー部材を介してプランジャーから溶湯に保持力を負荷する昇圧保持装置と、から構成されるダイカストマシンの射出装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
アルミニウム製品を鋳造するダイカストマシンの射出装置であって、金型キャビティ内に溶湯を射出充填し、圧力を負荷するための装置の機械構造、およびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
まず、横型のダイカストマシンによる一般的なダイカスト鋳造装置及び方法を、図8を用いて説明する。
ダイカストマシン(鋳造装置)100は、金型装置101と、射出装置102とを具備している。金型装置101には、対向する一対の固定プラテン120と可動プラテン121との間に、固定金型118と可動金型119が取付けられている。固定金型118と可動金型119は、固定プラテン120と可動プラテン121などで構成される型締装置によって閉じられることにより、その間にキャビティ(空洞)122を形成する。型締力が負荷された状態において、キャビティ122内にアルミニウム(AL)などの溶湯(高温で溶融状態)が射出充填され、冷却固化後に金型が開かれて取り出すことにより、鋳造成形品を製造できる。アルミ溶湯を射出充填するために、射出装置102が設けられている。また、固定プラテン120には、アルミ溶湯が貯められるプランジャースリーブ117が設けられており、固定プラテン120及び固定金型118を貫通して、キャビティ122に流体連絡する。
【0003】
射出装置102には、アルミ溶湯を射出するための油圧駆動の往復動ピストン/シリンダーを備える射出シリンダーが設けられている。射出シリンダーは、射出シリンダー本体116とピストン103とを具備する。ピストン103は、図8において左端にピストンヘッド115を具備し、そのピストンヘッド115と一体化しているピストンロッド114に射出カップリング113でプランジャーロッド112が連結され、その先にプランジャーチップ111が取付けられている。プランジャーチップ111は、プランジャースリーブ117内に嵌合し、プランジャースリーブ117内で往復運動して、プランジャースリーブ117内のアルミ溶湯を圧送することにより、アルミ溶湯をキャビティ122内に射出充填できる。
図8の実施の形態においては、射出装置102は油圧式であるので、図示せぬ油圧装置により、作動油をシリンダー本体116のヘッド側に供給して、ピストンヘッド115及びピストンロッド114を駆動する。そして、プランジャースリーブ117に貯められたアルミ(AL)溶湯をプランジャーチップ111で押して、固定金型118、可動金型119から形成されるキャビティ(空洞)122に射出充填して鋳造成形する。
【0004】
ここで、溶湯をキャビティ内に射出充填する際の射出速度や射出圧力を、適切に設定し制御することが、良品を鋳造するためには極めて重要である。
一般的な鋳造の射出速度パターンを、図9を用いて説明する。
射出充填工程が開始される前の給湯工程において、図示せぬ給湯装置により溶湯が射出スリーブ117内に注湯され、射出開始状態となる。この時のプランジャーチップ111の先端位置はAである。(図9の上の図を参照)
【0005】
この状態から、まず低速射出工程が行われる。この工程では、低速でプランジャーチップ111を前進させ、射出スリーブ117の内部において溶湯が波立ち空気を巻き込まないようにすることが必要である。そのため、安定した低速(VL)の制御が要求される。プランジャーチップ111が前進し、溶湯が射出スリーブ117の上壁まで達し更に湯面がゲート近傍まで上昇するB位置に達すると(射出ストロークセンサがSL前進したことを検知すると)、高速射出工程に切換えられる。(図9の上から2番目の図を参照)
高速射出工程では、プランジャーチップ111等を一気に加速し、高速(Vh)でキャビティ122内に溶湯を射出充填する。これは、溶湯が低温であるキャビティ122の表面に接触すると瞬時に凝固するためであり、できるだけ短時間で凝固する前に充填することが、良品の鋳造のためには望ましい。特に、キャビティ122(鋳造品)が大型化、複雑化すると、より高速化が求められる。
そして、キャビティ122内に溶湯が完全に充填する直前なると、溶湯の圧力が上がることにより速度は下がりだす。またサージ圧によるバリの発生を防ぐため、意図的に速度を下げる場合もある。プランジャーチップ111がC位置に達しキャビティ122内に溶湯が充満すると、射出圧力(射出シリンダーのヘッド側圧力)が上昇するので、圧力センサの測定値が設定切換え圧力になった時に、次の昇圧工程に切換える。(図9の上から3番目の図を参照)
昇圧工程では、あまり早く圧力を上昇させるとバリが発生し、また遅いと引け巣が発生するので、適切な昇圧速度で上昇させる。そして、設定された保持圧力(P)まで達すると一定の時間溶湯圧力を保持制御(保持工程)し、溶湯が凝固冷却して収縮する分、プランジャーチップ111を前進させる。(図9の下の図を参照)
【0006】
このように高速射出と高い保持圧力が要求されるため、従来のダイカストマシンの射出装置は、油圧装置によって駆動されていた。この油圧装置には、油圧ポンプ、大容量のアキュムレータ、ガスボトル、切換えバルブ、配管、オイルタンクなど多くの機器が必要で、油圧回路は複雑になっていた。そのため、装置の大型化や、油漏れ、メインテナンス作業の増大などの問題点があった。さらに、油圧回路内を高速で作動油が流動するため、圧力損失が発生し、エネルギー的なロスが生じていた。
【0007】
これらの問題を解決するため、近年では、サーボモータとボールねじの組合せによって装置を駆動する電動方式のものが開発されている。
特許文献1においては、射出充填工程の高速射出時に、油圧のアキュムレータを用いて高速動作を行ない、低速射出時と昇圧保持工程(増圧工程)では電動サーボモータとボールねじの組合せによってプランジャーを駆動する方式の射出機構が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−315050号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、昇圧保持工程中は、電動サーボモータによって駆動するものの、射出充填工程は、大きな射出シリンダーとアキュムレータを用いているため、油圧駆動方式の持つ欠点を依然内蔵している。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以上の課題を解決するために、本願発明の第1の発明では、前進することによりスリーブ内の溶湯を金型内に射出充填し圧力を負荷するするプランジャーと、プランジャーと一体的に結合するプランジャー部材と、プランジャー部材にサージ圧防止シリンダーを介して連結する高速移動部材と、高速移動部材にクッションシリンダーを介して移動部分が接続する電気駆動式の射出充填装置と、高速移動部材に軸受を介して装着されるとともに台形ねじと螺合しプランジャーが受ける圧力によってプランジャー部材と当接して台形ねじとの相対的な動作が拘束されるロックナットと、台形ねじを押圧してロックナット及びプランジャー部材を介してプランジャーから溶湯に保持力を付加する昇圧保持装置と、から構成されるダイカストマシンの射出装置である。
第2の発明では、第1の発明において、射出充填装置は、射出充填用サーボモータと射出充填用ボールねじから構成され、射出充填用ボールねじのナット部分がクッションシリンダーの移動部分と一体の構成とする。
第3の発明では、第1の発明において、昇圧保持装置は、昇圧用サーボモータと昇圧用ボールねじから構成する。
第4の発明では、第3の発明において、昇圧保持装置は、昇圧用ボールねじのナット部分の前進力を台形ねじに伝える圧縮ばねと、昇圧用サーボモータと昇圧用ボールねじの間に装着され昇圧用ボールねじの回転運動を抑止可能なブレーキとから構成され、昇圧保持工程において、溶湯圧力の昇圧は昇圧用サーボモータの回転動作によって圧縮ばねを圧縮しながら行い、昇圧後にはブレーキを動作し昇圧用ボールねじの回転運動を抑止することにより、圧縮ばねの圧縮力によって溶湯圧力の保持が可能である構成とする。
第5の発明では、第1の発明において、クッションシリンダーの油室の作動油は、回路接続するリリーフ弁によって、所定の圧力以上に上がらないように制御する。
第6の発明では、第1の発明において、サージ圧防止シリンダーの油室は、サージ圧吸収用油圧シリンダーと回路接続されており、サージ圧吸収用油圧シリンダーのピストンロッドは油圧用ボールねじと油圧用サーボモータによって移動動作され、サージ圧防止シリンダーの移動部分の位置および圧力を制御可能とする。
最後に第7の発明では、第1の発明において、サージ圧防止シリンダーの油室は、流量調整弁と回路接続されており、流量調整弁によってサージ圧防止シリンダーの移動部分の位置および圧力を制御可能とする。
最後に第8の発明は、第1の発明において、射出充填工程から昇圧工程に切換え後、サージ圧防止シリンダーの油室の圧力を調整し、プランジャー部材とロックシリンダーの当接速度を制御する、ダイカストマシンの射出装置の制御方法である。
【発明の効果】
【0011】
(1)大きな油圧タンクや射出用油圧シリンダーが不要となるため、油圧回路および射出装置全体を簡素化できる。
(2)射出充填工程を電気制御により速度制御できるので、動作が安定するとともに運転条件設定の自由度が増す。
(3)サージ圧を防止でき鋳造品にバリが発生することを防げる。
(4)射出充填装置がサージ圧の反力による衝撃によって破損することが無い。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本願発明の実施例であり、射出装置の構造の概略を示す図である。
【図2】本願発明の射出装置および金型周辺を横から見た図であり、射出充填装置(射出充填用ボールねじ等)は省略して示されている。
【図3】図2における矢視Aから見た射出装置を示す。
【図4】クッションシリンダーの油室と接続する油圧回路の実施例を示す図である。
【図5】サージ圧防止シリンダー(リング状シリンダー)の油室と接続する油圧回路の実施例を示す図である。
【図6】サージ圧防止シリンダー(リング状シリンダー)の油室と接続する油圧回路の他の実施例を示す図である。
【図7】射出充填工程、昇圧保持工程中における、各装置の速度、圧力、状態を表すグラフである。
【図8】従来の油圧駆動方式の射出装置、および金型周辺を示す図である。
【図9】一般的なダイカスト鋳造におけるプランジャーの位置、溶湯の状態、射出速度、溶湯圧力の関係を示す図およびグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る実施例を説明する。
【実施例】
【0014】
図1を用いてに、本発明に係るダイカストマシンの射出装置の構造を説明する。
プランジャーチップ10aとプランジャーロッド10bからなるプランジャー10は、図示せぬスリーブ内で摺動可能な状態であり、前進することによってスリーブ内の溶湯を金型キャビティ内に射出充填することができる。その時、プランジャーチップ10aの先端面は溶湯からメタル圧(射出圧力)を受けることになる。プランジャーロッド10bは、プランジャー部材12と一体的に接続している。プランジャー部材12は、サージ圧防止シリンダー16(リング状シリンダー)の移動部分と接合しており、また高速移動部材14とはキーを介すことにより、摺動運動可能であるが回転運動は拘束された状態で連結している。高速移動部材14には、ロックナット軸受31を介して、ロックナット30が回転自在且つ軸方向には拘束された状態で取り付けされている。ロックナット30の高速移動部材14側には摩擦ディスク15が固着されており、ロックナット30の一部を構成している。サージ圧防止シリンダー16の油室の作動油に圧力が負荷されると、プランジャー部材12と高速移動部材14が当接し、プランジャー部材12と摩擦ディスク15の間には、一定距離の隙間13が形成される。
【0015】
高速移動部材14の両側には、クッションシリンダー18が2組取り付けられている。クッションシリンダー18には、クッションシリンダー移動部材21が、スプライン19またはキーを介して、摺動可能であるが回転拘束状態で装着されている。クッションシリンダー移動部材21には、射出充填ボールねじナット20がボルトによって一体的に締結されている。射出充填ボールねじナット20と螺合する射出充填ボールねじ軸22は、後部支持部材40に射出充填軸受23を介して、回転自在且つ軸方向に拘束された状態で装着支持されている。射出充填ボールねじ軸22は、さらにカップリング24によって射出充填用サーボモータ25の回転軸と連結している。
ここで説明した射出充填装置は、射出充填ボールねじと射出充填用サーボモータ25等から構成されるが、リニアモータを用いても良い。
【0016】
ロックナット30と螺合する台形ねじ32は、キー33a及びカラー33bによって加圧部材33に固着されている。加圧部材33の内部には、昇圧ボールねじナット36と一体の昇圧ナットホルダー35が、キーを介して摺動可能であるが回転拘束状態で装着されており、圧縮状態のばね34(皿ばね又はコイルばね)によって片側(図の右方向)に押し付けられている。昇圧ボールねじナット36と螺合する昇圧ボールねじ軸37は、昇圧軸受38によって、後部支持部材40に回転自在且つ軸方向には拘束された状態で支持されている。昇圧ボールねじ軸37は、さらに減速機41、ブレーキ42、および昇圧カップリング43を介して昇圧用サーボモータ44の回転軸と、連結している。減速機41、ブレーキ42、および昇圧サーボモータ44の回転しない部分は、後部支持部材44に固定されている。昇圧ボールねじは、回転摩擦抵抗が少ないボールねじであることが好適であるが、大荷重が作用する大型機の場合は、台形ねじなどを用いても良い。また、減速機41を介すことにより、小さな回転トルクの昇圧サーボモータ44であっても、大きな回転トルクを昇圧ボールねじ軸37に伝えることができる。よって、減速機41は、設けなくても良い場合もある。
【0017】
図2は、金型周辺および射出装置を、横から見た図(射出充填ボールねじ等は省略している)であり、射出スリーブ55内に溶湯が注湯され、射出充填工程直前の状態を表している。固定プラテン50に取り付けられた可動金型52と可動プラテン51に取り付けられた可動金型53は、図示せぬ型締装置によって型締力が負荷されており、間には、鋳造品形状の空間であるキャビティが形成されている。固定プラテン50と固定型52には、射出スリーブ55が装着されており、キャビティと連通している。よって、プランジャー10を前進(図の左方向)させると、溶湯をキャビティ内に充填することができる。
【0018】
後部支持部材40は、下部支持フレーム46および上部支持フレーム47と一体化しており、固定プラテン50と連結されている。そのため、プランジャー10が射出充填および昇圧保持中に溶湯から受ける圧力を、受け止め支持することができる。
高速移動部材14と加圧部材33は、それぞれ高速部材用リニアガイド49と加圧部材用リニアガイド48によって、下部支持フレーム46上に前後方向には滑らかに摺動可能で且つ上下、横方向には拘束された状態で支持されている。
図3は、図2の矢視Aから見た図である。高速移動部材14は、2組の高速移動部材用リニアガイド49に支持されている。また、高速移動部材14の両側においては、クッションシリンダーを介して射出充填ボールねじ軸22等を支持している。
【0019】
図4は、2組のクッションシリンダー18の油室と、配管やホースを介して回路接続している油圧装置を示す。切換えバルブ61を励磁した状態で、油圧源より適切な圧力の作動油をクッションシリンダー18の油室に供給し、クッションシリンダー移動部材21をシリンダーエンドに押し付けた状態で、切換えバルブ61を消磁し、圧力を封入しておく。また、油圧回路は途中で分岐し、所定の圧力に設定されたリリーフ弁60を介してオイルタンク62と接続している。よって、溶湯が金型キャビティ内にフル充填した瞬間、高速射出部材14は急減速するが、リリーフ弁60から作動油がタンクに流れることによりクッションシリンダー18内で移動部材21が前方にストロークできる(動ける)。よって、射出充填ボールねじや、軸受23、カップリング24に、急減速によって作用する衝撃力が緩和されるので、それらに損傷が生じることはない。また、高速射出充填中にはクッションシリンダー移動部材21がストローク(移動)しないよう、高速射出充填中の溶湯圧力に抗することができる適切な圧力を、クッションシリンダー10の油室内に封入しておく必要がある。
【0020】
図5は、サージ圧防止シリンダー16(リング状シリンダー)の油室と回路接続する油圧装置を示す。サージ圧防止シリンダー16からの回路は途中で3回路に分岐し、ばね式アキュムレータ64、切換え弁65を介してタンク66、サージ圧吸収用油圧シリンダー67に繋がっている。ばね式アキュムレータ64は、サージ圧防止シリンダー16から流れてきた作動油を一時退避させ、回路内の圧力が急激に上がらないようにするためのものである。タンク66と切換え弁65は、回路内に作動油を適宜補充するために設けられている。また、サージ圧吸収用油圧シリンダー67は、ピストンロッドがナットホルダー68および油圧用ボールねじナット69と一体的に接続している。ボールねじナット69に螺合するボールねじ軸70は、カップリング71を介して油圧用サーボモータ72の回転軸と連結するとともに、図示せぬ軸受によって支持されている。よって、油圧用サーボモータ72の回転量およびトルクを制御することにより、ピストンロッドの位置と作動油の圧力を制御することができる。よって、サージ圧防止シリンダー16の油室内の作動油を適切な圧力で供給、保持し、さらに、適切な速度と圧力で抜くことがでる。そのため、キャビティ内に溶湯がフル充填した後、プランジャー部材12と摩擦ディスク15を低速で穏やかに当接させ、その後圧力を抜くことができる。圧力を抜くことにより、プランジャー部材12と摩擦ディスク15の間に生じる垂直抗力が大きくなるので、摩擦力も大きくなり、ロックナット30の回転拘束をより確実に行なえる。これは、台形ねじ32のリードの作用がロックナット30を回そうとする力より、摩擦力が回転を止めようとする力が上回るためである。プランジャー部材12と摩擦ディスク15を穏やかに当接させることで、そのときに生じるサージ圧も抑えることができる。
【0021】
図6は、サージ圧防止シリンダー16の油室と回路接続する油圧装置の別の例を示す。サージ圧防止シリンダー16からの回路は、3つに分岐し、ばね式アキュムレータ84、チェック弁85を介してポンプ86、および流量調整弁91を介してタンク93と繋がっている。ポンプ86は、電気モータ87によって回転駆動し、タンク88から作動油を吸い上げ、リリーフ弁89によって適切な圧力の作動油をサージ圧防止シリンダー16に供給する。流量調整弁91は、サーボモータ92の回転動作によって、弁開度を0から全開まで連続的且つ短時間に自由に調整することができる。よって、サージ圧防止シリンダー16の油室の作動油を、圧力センサー90の測定値などをフィードバックし、圧力を適切に制御しながらタンク93に落とし、プランジャー部材12と摩擦ディスク15を穏やかに当接させ、その後圧力を抜くことができる。
【0022】
なお、この実施例では、昇圧保持装置はサーボモータとボールねじによって保持力を発生させる構造で説明したが、油圧シリンダーによって保持力を発生させても良い。しかし、昇圧速度等をサーボモータのトルク制御で調整した方が、動作の安定性等に優れる。
【0023】
次に、このような射出装置によって行なう射出充填工程、昇圧保持工程、およびその制御方法について、図7を用いて説明する。
【0024】
まず、射出充填工開始前の射出装置の状態について説明する。クッションシリンダー18の油室に63の油圧源より作動油を供給し、クッションシリンダー移動部材21をシリンダーエンドまで移動させ、適切な圧力で保持しておく。また、サージ圧防止シリンダー16(リング状シリンダー)に適切な圧力を負荷しておく。この圧力は、射出充填工程から昇圧工程に切換える溶湯圧力に相当するようにしておくか、あるいはそれより若干高めにしておく。ブレーキ42はOFFにしておく。
【0025】
型締工程が完了後、給湯装置によって射出スリーブ内に溶湯が注湯されると、直ちに射出充填工程が開始される。まず、射出充填用サーボモータ25を低速で回転させ、低速射出を行なう。そして、プランジャー10が設定された距離前進して、スリーブ内の溶湯の上面が金型ゲート付近まで上昇すると、射出充填用サーボモータ25の回転を一気に加速し高速射出を行なう。この時、射出充填ボールねじ軸22やカップリング24の回転慣性のため、高速まで速度を上げるための加速域(加速時間)が存在する。射出充填工程中は、昇圧用サーボモータ44は位置保持制御し、加圧部材33等が動かないようにしておく。金型キャビティ内が溶湯でほぼ充満されると、プランジャー10が溶湯から受ける圧力が高くなり、切換え圧に達すると昇圧工程に切換える。この切換え圧は、プランジャー10やプランジャー部材12にロードセルなどを仕込んでおいて検知しても良いし、あるいは、サージ圧防止シリンダー16の圧力を切換え圧力相当に設定しておき、移動部分が動いた瞬間を位置センサーや、ばね式アキュムレータ64の動き、または圧力で検知しても良い。
【0026】
昇圧工程に切換わると、射出充填用サーボモータ25に回転方向と反対向けのトルクを生じさせ、回転を止めようとする。この時、クッションシリンダー18の油室から作動油がリリーフ弁60を介してオイルタンクに落ちるので、クッションシリンダー移動部材21はストロークできる。よって、クッションシリンダー18内には大きな圧力が発生しないので、射出充填ボールねじ軸22や、軸受、カップリングに大きな衝撃が生じなく、破損することは無い。また、射出充填ボールねじ軸22等の回転体の回転運動エネルギーは、プランジャー10には衝撃的に作用しなくなるので、サージ圧によるバリの発生を防止できることになる。そして、射出充填ボールねじ軸22等の回転が止まると、射出充填用サーボモータ25を休止し、フリー状態にする。
【0027】
切換え後さらに同時に、高速移動部材14などの速度の慣性によって溶湯にサージ圧が発生しないように、サージ圧防止シリンダー16の油室内の作動油を、油圧用サーボモータ72とサージ圧吸収用油圧シリンダー67、あるいは流量調整弁91を適切に動作させ、適切な圧力、速度で抜く。そして、プランジャー部材12と摩擦ディスクを低速で衝撃無く当接させる。すると、プランジャー10からの溶湯圧力によって、接触面に摩擦力が働くので、ロックナット30の回転は止まり、ロックナット30と台形ねじ32は相対的動作が抑止されロックされる。
【0028】
この状態になると、昇圧用サーボモータ44を駆動してトルク制御によって加圧部材33、台形ねじ32、プランジャー部材12を前進させ、溶湯の圧力を上げて昇圧する。昇圧速度は、トルク制御によって自在に調整することができる。この時ばね34は、押圧力によって圧縮されていく。そして、溶湯の圧力が所望の保持圧に達すると、ブレーキ42を動作させて、昇圧ボールねじ軸37の回転を止め、昇圧用サーボモータ44をフリー状態にして休止させ、電力の消費を削減する。保持工程中は、ばね34の圧縮力によって、プランジャー10から溶湯への押圧力は維持されるが、溶湯が凝固収縮する分、プランジャー10は前進するので、保持圧力は若干落ちていく。
【0029】
昇圧用サーボモータ44の前進駆動は、プランジャー部材12と摩擦ディスクの当接後と説明したが、昇圧速度をさらに早くしたい場合は、当接前に前進動作を開始しておいても良い。
また、ばね34とブレーキ42を装着しなくても、保持工程中に昇圧用サーボモータ44が回転トルクを発生し続ければ、保持圧を維持することもできる。
【0030】
設定された保持時間が経過すると保持工程は終了となり、ブレーキ42の作動を解除(OFF)し、保持圧力を落とす。そして、次の型開きとともに射出充填用サーボモータ25あるいは昇圧用サーボモータ44を駆動し、突き出し工程を行なう。鋳造品を金型から取り外すと、一連の鋳造工程が終わり、次の鋳造工程を開始する。
【0031】
上記の実施の形態は本発明の一例であり、本発明は、該実施の形態により制限されるものではなく、請求項に記載される事項によってのみ規定されており、上記以外の実施の形態も実施可能である。
【産業上の利用可能性】
【0032】
ダイカストマシンによりアルミニウム製品を鋳造する生産工場において実用可能であり、鋳造品品質の向上、射出装置の簡素化、省エネ運転に貢献できる。
【符号の説明】
【0033】
10 プランジャー
10a プランジャーチップ
10b プランジャーロッド
12 プランジャー部材
13 隙間
14 高速移動部材
15 摩擦ディスク
16 サージ圧防止シリンダー(リング状シリンダー)
18 クッションシリンダー
19 スプライン
20 射出充填ボールねじナット
21 クッションシリンダー移動部材
22 射出充填ボールねじ軸
23 射出充填軸受け
24 カップリング
25 射出充填用サーボモータ
30 ロックナット
31 ロックナット軸受け
32 台形ねじ
33 加圧部材
33a キー
33b カラー
34 ばね
35 昇圧ナットホルダー
36 昇圧ボールねじナット
37 昇圧ボールねじ軸
38 昇圧軸受け
40 後部支持部材
41 減速機
42 ブレーキ
43 昇圧カップリング
44 昇圧用サーボモータ
46 下部支持フレーム
47 上部支持フレーム
48 加圧部材用リニアガイド
49 高速移動部材用リニアガイド
50 固定プラテン
51 可動プラテン
52 固定金型
53 可動金型
55 射出スリーブ
60 リリーフ弁
61 切換えバルブ
62 オイルタンク
63 油圧源
64 ばね式アキュムレータ
65 切換え弁
66 タンク
67 サージ圧吸収用油圧シリンダー
68 ナットホルダー
69 油圧用ボールねじナット
70 油圧用ボールねじ軸
71 カップリング
72 油圧用サーボモータ
84 ばね式アキュムレータ
85 チェック弁
86 ポンプ
87 電気モータ
88 タンク
89 リリーフ弁
90 圧力センサー
91 流量調整弁
92 サーボモータ
93 タンク
100 ダイカストマシン(鋳造装置)
101 金型装置
102 射出装置
103 ピストン
111 プランジャーチップ
112 プランジャーロッド
113 カップリング
114 ピストンロッド
115 ピストンヘッド
116 射出シリンダー本体
117 射出スリーブ
118 固定金型
119 可動金型
120 固定プラテン
121 可動プラテン
122 キャビティ(空洞)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前進することによりスリーブ内の溶湯を金型内に射出充填し圧力を負荷するするプランジャーと、
前記プランジャーと一体的に結合するプランジャー部材と、
前記プランジャー部材にサージ圧防止シリンダーを介して連結する高速移動部材と、
前記高速移動部材にクッションシリンダーを介して移動部分が接続する電気駆動式の射出充填装置と、
前記高速移動部材に軸受を介して装着されるとともに、台形ねじと螺合し、前記プランジャーが受ける圧力によって前記プランジャー部材と当接して前記台形ねじとの相対的な動作が拘束されるロックナットと、
前記台形ねじを押圧して前記ロックナット及び前記プランジャー部材を介して前記プランジャーから溶湯に保持力を負荷する昇圧保持装置と、
から構成されることを特徴とするダイカストマシンの射出装置。
【請求項2】
前記射出充填装置は、射出充填用サーボモータと射出充填用ボールねじから構成され、前記射出充填用ボールねじのナット部分が前記クッションシリンダーの移動部分と一体であることを特徴とする、請求項1に記載のダイカストマシンの射出装置。
【請求項3】
前記昇圧保持装置は、昇圧用サーボモータと昇圧用ボールねじから構成されることを特徴とする、請求項1に記載のダイカストマシンの射出装置。
【請求項4】
前記昇圧保持装置は、前記昇圧用ボールねじのナット部分の前進力を前記台形ねじに伝える圧縮ばねと、前記昇圧用サーボモータと前記昇圧用ボールねじの間に装着され昇圧用ボールねじの回転運動を抑止可能なブレーキとから構成され、
昇圧保持工程において、溶湯圧力の昇圧は前記昇圧用サーボモータの回転動作によって前記圧縮ばねを圧縮しながら行い、昇圧後には前記ブレーキを動作し前記昇圧用ボールねじの回転運動を抑止することにより、前記圧縮ばねの圧縮力によって溶湯圧力の保持が可能であることを特徴とする、請求項3に記載のダイカストマシンの射出装置。
【請求項5】
前記クッションシリンダーの油室の作動油は、回路接続するリリーフ弁によって、所定の圧力以上に上がらないように制御されていることを特徴とする、請求項1に記載のダイカストマシンの射出装置。
【請求項6】
前記サージ圧防止シリンダーの油室は、サージ圧吸収用油圧シリンダーと回路接続されており、前記サージ圧吸収用油圧シリンダーのピストンロッドは油圧用ボールねじと油圧用サーボモータによって移動動作され、前記サージ圧防止シリンダーの移動部分の位置および圧力を制御可能であることを特徴とする、請求項1に記載のダイカストマシンの射出装置。
【請求項7】
前記サージ圧防止シリンダーの油室は、流量調整弁と回路接続されており、前記流量調整弁によって前記サージ圧防止シリンダーの移動部分の位置および圧力を制御可能であることを特徴とする、請求項1に記載のダイカストマシンの射出装置。
【請求項8】
請求項1に記載のダイカストマシンの射出装置において、射出充填工程から昇圧工程に切換え後、前記サージ圧防止シリンダーの油室の圧力を調整し、前記プランジャー部材とロックシリンダーの当接速度を制御することを特徴とする、ダイカストマシンの射出装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−156579(P2011−156579A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−21807(P2010−21807)
【出願日】平成22年2月3日(2010.2.3)
【出願人】(300041192)宇部興産機械株式会社 (268)