説明

ダイカストマシンの電動射出装置

【課題】金型キャビティ内に充填された溶融金属材料に作用するサージ圧を適宜調整可能なダイカストマシンの電動射出装置を提供する。
【解決手段】電動射出装置の直動体2と射出プランジャ5との間に、四節リンク63と、過負荷防止用ボールねじ機構64と、過負荷防止用電動モータ65とからなる過負荷防止機構6を備える。四節リンク63は、連結ピン61a,61b,61c,61dを介して長さの等しい4つのリンク部材62a,62b,62c,62dを菱形に連結してなり、対向に配置された2つの連結ピン61a,61cに、過負荷防止用ボールねじ機構64のねじ軸64aとナット体64bとを連結する。また、四節リンク63を構成する他の2つの連結ピン61b,61dを、それぞれ直動体2の先端部と射出プランジャ5の末端部とに連結する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイカストマシンに備えられる電動射出装置に係り、特に、金型キャビティ内のサージ圧を抑制する手段に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイカストマシンは、1ショット毎に射出プランジャを前進駆動することにより、一定量のAl合金やMg合金などの溶融金属材料を金型キャビティ内に射出・充填して、所要形状の製品を成形する成形機である。ダイカストマシンもプラスチック材料を金型キャビティ内に射出・充填して所要形状の製品を成形する射出成型機と同様に、低速射出工程、高速射出工程及び増圧工程(射出成形機にあっては、保圧工程)を経て成形材料を金型キャビティ内に射出・充填するが、ダイカストマシンは射出成形機に比べて、高速射出工程における射出速度が1ケタ程度高速であるという特徴がある。このため従来においては、射出プランジャを油圧により駆動する油圧式のダイカストマシンが主流であった。
【0003】
しかしながら、油圧式のダイカストマシンは、成形工場内が油で汚れやすく、作業環境が悪くなるため、近年、このような欠点のない電動式のダイカストマシンが提案されるに至っている(例えば、特許文献1,2参照。)。
【0004】
特許文献1に記載の電動射出装置は、図4に示すように、2つの射出用電動サーボモータ101a,101bを備え、これら2つの射出用電動サーボモータ101a,101bの回転力を、ナット体102a,102bとこれに螺合されたねじ軸103a,103bからなるボールねじ機構104a,104bによってナット体102a,102bの直進力に変換し、ナット体102a,102bが一体に取り付けられた移動部材105を介して、射出プランジャ106を前後進するようになっている。また、移動部材105と射出プランジャ106との間には、サージ圧抑制用の衝撃緩衝ばね107aが内蔵されたサージ圧防止装置(油圧シリンダ)107が設けられており、高速射出工程の完了時に、金型キャビティ内の溶融金属材料に過大なサージ圧が作用しないようになっている。この電動射出装置は、2つの射出用電動サーボモータ101a,101bの合力によって射出プランジャ106を駆動するので、高い射出速度が得られる。また、移動部材105と射出プランジャ106との間に衝撃緩衝ばね107aが内蔵されたサージ圧防止装置107を備えるので、バリ等の外観不良がない良品を成形できると共に、サージ圧による金型等の破損を防止することができる。
【0005】
また、特許文献2に記載の電動射出装置は、図5に示すように、射出用電動サーボモータ201の回転力を減速機202及び摩擦クラッチ203を介してボールねじ機構204のねじ軸204aに伝達し、ねじ軸204aに螺合されたボールねじ機構204のナット体204bを介して、射出プランジャ205を前後進するようになっている。摩擦クラッチ203には、互いに対向して配置された複数枚のクラッチプレート及びクラッチディスクと、これら各部材間に作用する圧接力ひいてはサージ圧の抑制効果を調整するためのねじ部材及び皿ばねとが備えられており、ねじ部材のねじ込み量を増加するほど、サージ圧を抑制できるようになっている。この電動射出装置は、減速機202の出力軸とボールねじ機構204のねじ軸204aとの間に摩擦クラッチ203を介したので、高速射出工程の完了時に金型キャビティ内の溶融金属材料に過大なサージ圧が作用せず、バリ等の外観不良がない良品を成形できると共に、サージ圧による金型等の破損を防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−260070号公報
【特許文献2】特開2007−296550号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の電動射出装置は、内蔵された衝撃緩衝ばね107aの弾性力によってサージ圧防止装置107のサージ圧抑制効果が一義的に決定されるので、成形品の成形条件に応じてサージ圧抑制効果を適宜調整できないという問題がある。また、サージ圧防止装置107として油圧シリンダを用いているので、油圧シリンダ及びその周辺機器からの油漏れを防止することが難しく、射出装置を電動化したことの効果が減殺されるという問題もある。
【0008】
一方、特許文献2に記載の電動射出装置は、ねじ部材のねじ込み量を調整することによってサージ圧の抑制効果を可変に調整可能であるが、ねじ部材の適正なねじ込み量は、成形品の成形条件が同じであったとしても、摩擦クラッチ203内に備えられたクラッチプレート及びクラッチディスクの摩耗度等によって時々刻々と変化するため、サージ圧を有効に防止するためには、連続運転の開始前に、ねじ部材のねじ込み量の調整と成形品の試し成形とを何度も繰り返さなくてはならず、作業性が悪いという問題がある。
【0009】
本発明は、かかる従来技術の問題を解消するためになされたものであり、その目的は、油圧を用いることなく、金型キャビティ内に作用するサージ圧を容易に低減可能なダイカストマシンの電動射出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、前記課題を解決するため、射出用電動モータと、前記射出用電動モータの回転運動をボールねじ機構のねじ軸に伝達する動力伝達機構と、前記ねじ軸に螺合されたナット体と、該ナット体を保持する直動体と、金型キャビティ内に溶融金属材料を射出する射出プランジャと、前記直動体と前記射出プランジャとの間に備えられた過負荷防止機構と、前記射出用電動モータの駆動及び前記過負荷防止機構の駆動を制御するコントローラを備え、前記過負荷防止機構は、連結ピンを介して4つのリンク部材を菱形に連結してなり、対向に配置された2つの連結ピンが、それぞれ前記直動体及び前記射出プランジャに連結された四節リンク機構と、該四節リンク機構を変形させて前記直動体と前記射出プランジャとの間隔を調整する過負荷防止用電動モータと、該過負荷防止用電動モータの回転力を直線運動に変換して前記四節リンク機構に伝達する過負荷防止用ボールねじ機構をもって構成され、前記コントローラは、低速射出工程、高速射出工程及び増圧工程の開始タイミングを記憶しており、前記高速射出工程の終期において、前記直動体の前進動作に応じて前記過負荷防止用電動モータの駆動を制御し、前記射出プランジャの前進動作を抑制することを特徴とする。
【0011】
四節リンク機構は、連結ピンを介して4つのリンク部材を菱形に連結してなるので、対向する2つの連結ピンが接近する方向に力を加えると、他の対向する2つの連結ピンが離隔する方向に移動し、また、対向する2つの連結ピンが離隔する方向に力を加えると、他の対向する2つの連結ピンが接近する方向に移動して、菱形を保ったまま各リンク部材の交差角度が変化する。したがって、この四節リンク機構の対向する2つの連結ピンをそれぞれ電動射出装置の直動体と射出プランジャとに連結し、他の2つの連結ピン間に過負荷防止用電動モータ及び過負荷防止用ボールねじ機構を用いて力を加えることにより、四節リンク機構を介して直動体から射出プランジャに伝達される力を適宜制御することができる。より具体的には、高速射出工程の終期において、直動体の前進動作に応じて過負荷防止用電動モータの駆動を制御し、直動体及び射出プランジャに連結された2つの連結ピン間の距離を縮小する方向に四節リンク機構を変形させると、直動体の前進運動が射出プランジャに直に伝達されず、四節リンク機構の変形に吸収されるので、金型キャビティ内のサージ圧を抑制することができる。
【0012】
また本発明は、前記構成のダイカストマシンの電動射出装置において、前記四節リンク機構として、長さの等しい4つのリンク部材を菱形に連結してなるものを用い、前記直動体及び前記射出プランジャに連結されない2つの連結ピンに前記過負荷防止用ボールねじ機構を構成するナット体及びねじ軸をそれぞれ連結し、前記ねじ軸に前記過負荷防止用電動モータの出力軸を連結したことを特徴とする。
【0013】
かかる構成によると、過負荷防止用電動モータを駆動することにより、過負荷防止用ボールねじ機構のナット体が連結された連結ピンとねじ軸が連結された連結ピンの相対距離を変更できるので、電動射出装置の直動体と射出プランジャとに連結された他の2つの連結ピン間の距離も変更することができる。よって、高速射出工程の終期において、過負荷防止用電動モータを適宜の方向に適宜の回転速度で駆動することにより、金型キャビティ内のサージ圧を抑制することができる。また、本構成によると、長さの等しい4つのリンク部材を菱形に連結してなる四節リンク機構を用いるので、過負荷防止機構をコンパクトに構成することができる。
【0014】
また本発明は、前記構成のダイカストマシンの電動射出装置において、前記四節リンク機構として、長さの等しい3つのリンク部材とこれよりも長大な1つのリンク部材とからなり、これら4つのリンク部材を菱形に連結してなるものを用い、前記長大な1つのリンク部材の端部に、前記過負荷防止用ボールねじ機構のねじ軸を連結し、該ねじ軸に前記過負荷防止用電動モータの出力軸を連結したことを特徴とする。
【0015】
かかる構成によっても、過負荷防止用電動モータを駆動することにより、菱形を保ったまま四節リンクを変形させることができるので、電動射出装置の直動体と射出プランジャとに連結された2つの連結ピン間の距離を適宜変更することができ、高速射出工程の終期において、過負荷防止用電動モータを適宜の方向に適宜の回転速度で駆動することにより、金型キャビティ内のサージ圧を抑制することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、過負荷防止機構として、四節リンク機構、過負荷防止用電動モータ及び過負荷防止用ボールねじ機構をもって構成され、四節リンク機構中の対向に配置された2つの連結ピンをそれぞれ射出装置の直動体と射出プランジャとに連結したものを用い、コントローラからの指令により、高速射出工程の終期において、直動体の前進動作に応じて過負荷防止用電動モータの駆動を制御し、射出プランジャの前進動作を抑制するので、金型キャビティ内のサージ圧を抑制することができる。また、本発明の過負荷防止機構は、油圧機器を使用しないので成形工場内の油汚れを防止できると共に、射出プランジャに作用する圧力等に応じて過負荷防止用電動モータの駆動制御を行うことにより、サージ圧を自在に制御可能であるので、事前の調整が不要であり、かつ成形条件の変更等に対応可能であって、作業性及び汎用性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例1に係る電動射出装置の構成図である。
【図2】本発明に係る電動射出装置の動作を示すタイミングチャートである。
【図3】実施例2に係る射出装置の構成図である。
【図4】第1従来例に係る射出装置の構成図である。
【図5】第1従来例に係る射出装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る電動射出装置の実施形態を、実施例ごとに図を用いて説明する。
【実施例1】
【0019】
図1に示すように、実施例1に係る電動射出装置は、第1及び第2の射出用電動モータ1a,1bと、これら第1及び第2の射出用電動モータ1a,1bの回転運動を直動体2の直進運動に変換するボールねじ機構3と、第1及び第2の射出用電動モータ1a,1bの回転運動をボールねじ機構3に伝達する第1及び第2の動力伝達機構4a,4bと、図示しない金型キャビティ内に溶融金属材料を射出・充填する射出プランジャ5と、直動体2と射出プランジャ5との間に備えられた過負荷防止機構6と、第1及び第2の射出用電動モータ1a,1b並びに過負荷防止機構6の駆動を制御するコントローラ7とから主に構成されている。
【0020】
第1及び第2の射出用電動モータ1a,1bとしては、所要の低速射出工程、高速射出工程及び増圧工程を実施可能な諸特性を有する電動サーボモータが用いられる。
【0021】
ボールねじ機構3は、第1の動力伝達機構4aを介して第1の射出用電動モータ1aの出力軸が連結される第1のねじ軸31と、第2の動力伝達機構4bを介して第2の射出用電動モータ1bの出力軸が連結される第2のねじ軸32と、第1のねじ軸31に螺合された第1のナット体33と、第2のねじ軸32に螺合された第2のナット体34とから構成されており、各ナット体33,34は、直動体2に保持されている。
【0022】
第1の動力伝達機構4aは、第1の射出用電動モータ1aの出力軸に固定されたプーリ41及び第1のねじ軸31に固定されたプーリ42と、これらの各プーリ41,42に輪掛けされたベルト43とからなる。また、第2の動力伝達機構4bは、第2の射出用電動モータ1bの出力軸に固定されたプーリ44及び第2のねじ軸32に固定されたプーリ45と、これらの各プーリ41,42に輪掛けされたベルト46とからなる。ベルト43,46としては、プーリ41,42及び44,45との間で滑りを生じにくく、回転を正確に伝達できることから、タイミングベルトが好適に用いられる。
【0023】
過負荷防止機構6は、連結ピン61a,61b,61c,61dを介して長さの等しい4つのリンク部材62a,62b,62c,62dを菱形に連結してなる四節リンク63と、対向に配置された2つの連結ピン61a,61cにねじ軸64aとこれに螺合されたナット体64bとが連結された過負荷防止用ボールねじ機構64と、ねじ軸64aを回転駆動して、四節リンク63を構成する各リンク部材62a,62b,62c,62dの交差角度を変更する過負荷防止用電動モータ65とからなり、四節リンク63を構成する2つの連結ピン61b,61dは、それぞれ直動体2の先端部と射出プランジャ5の末端部とに連結されている。本例の過負荷防止機構6は、このように構成されていることから、連結ピン61b,61dが直動体2及び射出プランジャ5に連結されていない状態で過負荷防止用電動モータ65を駆動すると、ねじ軸64aの先端部とナット体64bとの相対位置が変化し、四節リンク63が菱形を保ったまま変形される。よって、連結ピン61b,61dが直動体2及び射出プランジャ5に連結された状態では、過負荷防止用電動モータ65の駆動に応じて、直動体2の先端部と射出プランジャ5の末端部との相対距離を伸縮することができ、直動体2から射出プランジャ5への前進力の伝達を調整することができる。
【0024】
コントローラ7は、内蔵されたメモリ内に、型締め工程、低速射出工程、高速射出工程、増圧工程、型開き工程及び製品取り出し工程の各開始タイミング及び完了タイミングを記憶しており、所定のタイミングで型開閉装置、射出装置及び製品取り出し装置に備えられた各可動部の駆動を制御する。
【0025】
射出装置については、図2(a)に示すように、低速射出工程の開始タイミングに至ったとき、コントローラ7が第1及び第2の射出用電動モータ1a,1bを起動し、予め定められた低速で直動体2及び射出プランジャ5を前進駆動する。このときには、射出プランジャ5に作用する金型キャビティ内の圧力変化に拘わらず、図2(b)に示すように、直動体2の先端部と射出プランジャ5の末端部との相対距離が一定に保たれるように、過負荷防止用電動モータ65の駆動が制御される。したがって、直動体2の前進力は過負荷防止機構6を介して射出プランジャ5に直接的に伝達され、所要の低速射出工程を実施することができる。
【0026】
また、高速射出工程の開始タイミングに至ると、コントローラ7は第1及び第2の射出用電動モータ1a,1bを高速駆動に切り換え、予め定められた高速で直動体2及び射出プランジャ5を前進駆動する。このときにも、図2(b)に示すように、射出プランジャ5に作用する金型キャビティ内の圧力変化に拘わらず、直動体2の先端部と射出プランジャ5の末端部との相対距離が一定に保たれるように、過負荷防止用電動モータ65の駆動が制御される。これにより、直動体2の前進力は過負荷防止機構6を介して射出プランジャ5に直接的に伝達され、所要の高速射出工程を実施することができる。
【0027】
これに対して、射出プランジャ5の前進位置が高速射出工程の完了タイミングよりも以前の所定位置に至ったときには、コントローラ7が過負荷防止用電動モータ65の駆動を制御して、ねじ軸64aの先端部とナット体64bとの相対位置を変化させ、図2(b)に示すように、直動体2の先端部と射出プランジャ5の末端部とに連結された四節リンク63を構成する2つの連結ピン61b,61dの間隔を徐々に減少する。これにより、直動体2の前進運動が過負荷防止機構6に吸収され、射出プランジャ5の前進運動が抑制されるので、サージ圧が低減される。サージ圧は、過負荷防止用電動モータ65の回転速度、即ち、連結ピン61b,61dの間隔の減少速度を変更することによって調整できる。
【0028】
次いで、増圧工程の開始タイミングに至ったとき、コントローラ7が第1及び第2の射出用電動モータ1a,1bを増圧駆動に切り換え、予め定められた増圧速度で直動体2及び射出プランジャ5を前進駆動する。このときには、図2(b)に示すように、射出プランジャ5に作用する金型キャビティ内の圧力変化に拘わらず、直動体2の先端部と射出プランジャ5の末端部との相対距離が一定に保たれるように、過負荷防止用電動モータ65の駆動が制御される。これにより、直動体2の先端部と射出プランジャ5の末端部との相対距離が一定に保たれるので、直動体2の前進力は過負荷防止機構6を介して射出プランジャ5に直接的に伝達され、所要の増圧工程を実施することができる。
【0029】
このように、実施例1に係る電動射出装置は、過負荷防止機構6を、四節リンク63、過負荷防止用電動モータ65及び過負荷防止用ボールねじ機構64をもって構成し、油圧機器を使用しないので、成形工場内の油汚れを防止することができる。また、射出プランジャ5の前進位置をコントローラ7で監視し、過大なサージ圧を発生させないための最適な過負荷防止用電動モータ65の回転速度をコントローラ7にて演算可能であるので、従来技術とは異なり事前の調整等が不要で作業性に優れると共に、成形条件等の変化にも自在に対応可能であるので汎用性にも優れる。
【0030】
なお、前記実施例では、高速射出工程の完了タイミングよりも以前の所定のタイミングに至ったとき、射出プランジャ5の前進位置に応じて過負荷防止用電動モータ65の駆動を制御する構成としたが、射出プランジャ5に作用する金型キャビティ内の圧力に応じて過負荷防止用電動モータ65の駆動を制御し、過大なサージ圧の発生を防止する構成とすることもできる。さらには、射出プランジャ5の前進位置や金型キャビティ内の圧力に応じて過負荷防止用電動モータ65の駆動を制御するのではなく、過負荷防止用電動モータ65を一定トルクで駆動しておくことにより、射出プランジャ5が金型キャビティ内の圧力を受けたとき、自動的に直動体2の先端部と射出プランジャ5の末端部との間隔が減少するようにすることもできる。かかる構成によると、過負荷防止用電動モータ65を予め定められた一定トルクで駆動するだけで良いので、過負荷防止用電動モータ65の駆動制御を容易なものにすることができる。
【実施例2】
【0031】
次に、本発明に係る電動射出装置の実施例2について説明する。
【0032】
実施例2に係る電動射出装置は、図3に示すように、過負荷防止機構6に備えられる四節リンク63の構成を変更したことを特徴とする。即ち、四節リンク63を構成する4つのリンク部材のうち、一端が連結ピン61aを介して射出プランジャ5の末端部に連結される第1のリンク部材62aの全長を、他の第2〜第4のリンク部材62b,62c,62dよりも大きくし、第4のリンク部材62dの端部を第1のリンク部材62aの中間位置に連結して、レバー付きの四節リンクとする。また、過負荷防止用ボールねじ機構64のナット体64bを直動体2に取り付け、該ナット体64bに螺合されたねじ軸64aの先端部を第1のリンク部材62aの他端部に連結すると共に、過負荷防止用電動モータ65の出力軸とねじ軸64aとを、動力伝達機構66を介して連結する。
【0033】
本例の電動射出装置は、四節リンク63を構成する2つの連結ピン61b,61dが直動体2及び射出プランジャ5に連結されていない状態で、過負荷防止用電動モータ65を駆動すると、ねじ軸64aがナット体64bの軸方向に直進し、第1のリンク部材61aが連結ピン62aを中心として揺動されるので、四節リンク63が菱形を保ったまま変形される。よって、実施例1に係る電動射出装置と同様に、過負荷防止用電動モータ65を駆動することによって、サージ圧を低減することができる。その他の部分については、実施例1に係る電動射出装置と同じであるので、重複を避けるために説明を省略する。
【0034】
なお、前記各実施形態においては、2つの射出用電動モータ1a,1bを備えたが、射出用電動モータの数についてはこれに限定されるものではなく、1個又は3個以上とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、ダイカストマシンに備えられる電動射出装置に利用できる。
【符号の説明】
【0036】
1a,1b 射出用電動モータ
2 直動体
3 ボールねじ機構
31,32 ねじ軸
33,34 ナット体
4a,4b 動力伝達機構
41,42,44,45 プーリ
43,46 ベルト
5 射出プランジャ
6 過負荷防止機構
61a,61b,61c,61d 連結ピン
62a,62b,62c,62d リンク部材
63 四節リンク
64 過負荷防止用ボールねじ機構
64a ねじ軸
64b ナット体
65 過負荷防止用電動モータ
66 動力伝達機構


【特許請求の範囲】
【請求項1】
射出用電動モータと、前記射出用電動モータの回転運動をボールねじ機構のねじ軸に伝達する動力伝達機構と、前記ねじ軸に螺合されたナット体と、該ナット体を保持する直動体と、金型キャビティ内に溶融金属材料を射出する射出プランジャと、前記直動体と前記射出プランジャとの間に備えられた過負荷防止機構と、前記射出用電動モータの駆動及び前記過負荷防止機構の駆動を制御するコントローラを備え、
前記過負荷防止機構は、連結ピンを介して4つのリンク部材を菱形に連結してなり、対向に配置された2つの連結ピンが、それぞれ前記直動体及び前記射出プランジャに連結された四節リンク機構と、該四節リンク機構を変形させて前記直動体と前記射出プランジャとの間隔を調整する過負荷防止用電動モータと、該過負荷防止用電動モータの回転力を直線運動に変換して前記四節リンク機構に伝達する過負荷防止用ボールねじ機構をもって構成され、
前記コントローラは、低速射出工程、高速射出工程及び増圧工程の開始タイミングを記憶しており、前記高速射出工程の終期において、前記直動体の前進動作に応じて前記過負荷防止用電動モータの駆動を制御し、前記射出プランジャの前進動作を抑制することを特徴とするダイカストマシンの電動射出装置。
【請求項2】
前記四節リンク機構として、長さの等しい4つのリンク部材を菱形に連結してなるものを用い、前記直動体及び前記射出プランジャに連結されない2つの連結ピンに前記過負荷防止用ボールねじ機構を構成するナット体及びねじ軸をそれぞれ連結し、前記ねじ軸に前記過負荷防止用電動モータの出力軸を連結したことを特徴とする請求項1に記載のダイカストマシンの電動射出装置。
【請求項3】
前記四節リンク機構として、長さの等しい3つのリンク部材とこれよりも長大な1つのリンク部材とからなり、これら4つのリンク部材を菱形に連結してなるものを用い、前記長大な1つのリンク部材の端部に、前記過負荷防止用ボールねじ機構のねじ軸を連結し、該ねじ軸に前記過負荷防止用電動モータの出力軸を連結したことを特徴とする請求項1に記載のダイカストマシンの電動射出装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−192440(P2012−192440A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−59456(P2011−59456)
【出願日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(000222587)東洋機械金属株式会社 (299)