説明

ダイカストマシン及びダイカストマシンの異常検出方法

【課題】射出スリーブに対する射出プランジャの摺動抵抗を高精度で正確に検出させ、高品質な鋳造品を得ることができるダイカストマシン及びダイカストマシンの異常検出方法を提供する。
【解決手段】金属溶湯が供給される筒状の射出スリーブ18と、該射出スリーブ18内で進退される射出プランジャ15に装着された射出プランジャチップ15aとを備え、射出プランジャ15の前進により金属溶湯を型閉された金型のキャビティ内に射出充填する射出工程でその駆動源に電動サーボモータ9を少なくとも用いるダイカストマシンであって、射出プランジャ15を前進させる電動サーボモータ9のトルクを検出するトルク検出手段32と、トルク検出手段32で検出された実測値が予め設定された閾値を超えた値であるときに、射出プランジャ15の前進動作に異常があるとして判別する異常検出手段33を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出スリーブ内に供給された金属溶湯を射出プランジャの前進により金型内へ射出・充填するダイカストマシンに関し、特に射出ブランジャの動作に所定値以上の摺動抵抗が発生したとき、それを異常として検出するダイカストマシン及びダイカストマシンの異常検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から用いられている一般的なダイカストマシンにおいては、溶解炉で溶融された金属材料を1ショット毎にラドルで計量して汲み上げ、汲み上げられた金属溶湯を射出スリーブの給湯口に給湯し、射出スリーブ内に進退可能に設けられた射出プランジャの前進動作により金型のキャビティ内へ金属溶湯を高速且つ高圧で射出充填して、鋳造成形体の成形が行われる。
【0003】
金型のキャビティ内へ金属溶湯を射出するダイカストマシンの射出工程は、低速射出工程と、それに続く高速射出工程とからなっており、高速射出工程においては、プラスチック製品を成形する射出成形機の射出速度よりも1桁程速い高速の射出速度で、金型内に金属溶湯を射出充填する必要がある。そのため、射出工程における駆動源としては、低速射出工程では、電動サーボモータを駆動源として採用する一方で、高速射出工程では、より大きな駆動力を必要とするため、油圧駆動源やこれに電動サーボモータの駆動力を足し合わせ、金型内へ高速射出充填が行われる。
【0004】
ところで、一般的なダイカストマシンは、その稼動に伴い鋳造成形体を繰り返し製造するわけであるが、稼動を続けると、射出プランジャを進退動作させるときに、進退される射出プランジャに対し所定値以上の摺動抵抗が発生することがある。その原因は、射出スリーブの内壁面や該射出スリーブの内壁面に摺動自在に配設された射出プランジャチップの外周面に金属溶湯の残存体(Al等の溶けたカス)が付着したり、あるいは、射出スリーブに対する射出プランジャチップの所謂齧り、焼付き、バリ、異物噛み込み、熱変形等により発生する。
【0005】
上記従来技術に関連するものとして、特許文献1には、低速射出工程として、電動サーボモータの駆動により射出スリーブ内に供給された金属溶湯を金型のランナ部まで充填し、その直後に高速射出工程として、電動サーボモータに対し低速射出工程と同様の動作をとらせつつ、アキュームレータ(ACC)に貯えられた圧油を用い、射出プランジャを高速で前進駆動させ、金型のキャビティ内に金属溶湯を高速で射出充填を行うダイカストマシンが開示されており、また、特許文献2及び3には、射出スリーブと射出プランジャチップとの摺動抵抗の異常を検出することを目的として、摺動抵抗の異常を、射出プランジャチップの後退工程時における油圧データに基づき検出するダイカストマシンが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−315050号公報
【特許文献2】特開平4−279268号公報
【特許文献3】特開平3−32460号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献2及び3に開示されている従来技術では、射出プランジャチップが後退しているときの摺動抵抗を検出するものであることから、射出プランジャチップが前進動作を行っているとき、つまり、金属溶湯を射出充填するときの摺動抵抗の異常を正確に検出するには適していない。さらに、ダイカストマシンの射出工程においては、低速射出工程とそれよりも高速・高圧力で射出プランジャを前進させる高速射出工程があり、仮に高速射出工程を実行しているときの射出プランジャの圧力に基づき、射出プランジャチップの摺動抵抗の変化を異常として検出するとなると、射出プランジャが高速且つ高圧力で前進されるがため、摺動抵抗の異常時の変化が小さくその変化を読み取ることは実質困難なものとなる。また、射出スリーブの内壁面に付着した残存体、或いはバリや異物が、射出プランジャチップに対して鋭角的に接触されるようなとき(引っかかるような状態)には、摺動抵抗が大きくなるが、それとは逆に鈍角的に接触されるときには、摺動抵抗が小さくなることから、金属溶湯を金型内に射出充填するときの摺動抵抗の異常を正確に検出し、良品を成形するためには、射出プランジャチップが後退移動されるときではなく、前進移動されるときの摺動抵抗を高精度で正確に読み取り、摺動抵抗の異常を早期に解消することが不可欠である。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、射出プランジャを前進させ金属溶湯を射出充填する際の、射出スリーブに対する射出プランジャの摺動抵抗を高精度で正確に検出させ、高品質な鋳造品を得ることができるダイカストマシン及びダイカストマシンの異常検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係るダイカストマシンの発明は、
金属溶湯が供給される筒状の射出スリーブと、該射出スリーブ内で進退される射出プランジャに設けた射出プランジャチップとを備え、前記射出プランジャの前進により金属溶湯を型閉された金型のキャビティ内に射出充填する射出工程でその駆動源に電動サーボモータを少なくとも用いるダイカストマシンであって、
前記射出プランジャを前進させる前記電動サーボモータのトルクを検出するトルク検出手段と、該トルク検出手段で検出された実測値が予め設定された閾値を超えた値であるときに、射出プランジャの前進動作に異常があるとして判別する異常検出手段を備えることを特徴とする。
【0010】
請求項2に係るダイカストマシンの発明は、
金属溶湯が供給される筒状の射出スリーブと、該射出スリーブ内で進退される射出プランジャに設けた射出プランジャチップとを備え、前記射出プランジャの前進により金属溶湯を型閉された金型のキャビティ内に射出充填するときに、低速射出工程ではその駆動源に電動サーボモータを用い、該低速射出工程の次工程で行われる高速射出工程ではその駆動源に油圧駆動源を用いるダイカストマシンであって、
前記高速射出工程よりも低速で行われる低速射出工程で前記射出プランジャを前進させる前記電動サーボモータのトルクを検出するトルク検出手段と、該トルク検出手段で検出された実測値が予め設定された閾値を超えた値であるときに、射出プランジャの前進動作に異常があるとして判別する異常検出手段を備えることを特徴とする。
【0011】
請求項3に係るダイカストマシンの異常検出方法の発明は、
筒状の射出スリーブに供給された金属溶湯を、該射出スリーブ内に設けられた射出プランジャに構成される射出プランジャチップを前進させることにより、型閉された金型のキャビティ内に射出充填するに際し、低速射出工程ではその駆動源に電動サーボモータを用い、該低速射出工程の次工程で行われる高速射出工程ではその駆動源に油圧駆動源を用いるダイカストマシンの異常検出方法であって、
前記低速射出工程で前記射出プランジャを前進させる前記電動サーボモータのトルクをトルク検出手段で検出し、該トルク検出手段で検出された実測値が、予め記憶部に記憶されている閾値を超えた値であるとして、異常検出手段で判別されたとき、制御手段が前記ダイカストマシンを停止、若しくは表示手段に警告メッセージを表示することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ダイカストマシンを稼動させているときに、射出スリーブの内壁面や該射出スリーブの内壁面に摺動自在に配設された射出プランジャチップの外周面に金属溶湯の残存体(Al等の溶けたカス)が付着したり、あるいは、射出スリーブに対する射出プランジャチップの所謂齧り、焼付き、バリ、異物噛み込み、熱変形等が発生し、射出プランジャチップの前進移動中の摺動抵抗に異常が発生すると、トルク検出手段で検出される電動サーボモータのトルクの実測値が、予め記憶部に記憶されている閾値を超える。すると、それに基づき、異常検出手段がダイカストマシンに異常が発生したことを判別する。よって、この判別に基づき、ユーザは異常を解消するための対策を講じたり、或いは、異常があるとして判別されたときに、制御手段がダイカストマシンを停止したり、表示手段に警告メッセージを表示することで、ユーザに対し注意喚起をすることができる。さらに、異常検出手段が射出プランジャチップの摺動抵抗に異常が発生したことを判別するときは、電動サーボモータのトルク変化が顕著に現れる低速射出工程中に実行されることから、異常を高精度で正確に検出することが可能となり、摺動抵抗の変化が大きくなる前に、早期に異常を発見することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明のダイカストマシンの要部としての射出系ユニットを示す斜視図である。
【図2】ダイカストマシンの射出系ユニットの構成を示す説明図である。
【図3】射出系ユニットにおける動作工程の一部を示し、(a)は横軸に射出プランジャチップの位置を示し、縦軸には射出速度と射出圧力を示し、実線は射出速度であり、一点鎖線は射出圧力を示しており、(b)〜(d)は横軸に射出プランジャチップの位置を示し、(b)の縦軸には電動サーボモータ(のみ)の速度、(c)の縦軸には電動サーボモータ(のみ)のトルクを示しており、(d)は射出プランジャチップの摺動抵抗に異常が発生した場合を示しており、実線は電動サーボモータ(のみ)のトルクを示し、一点鎖線は射出圧力を示している。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を図1〜図3により以下に説明する。もちろん、本発明は、その発明の趣旨に反しない範囲で、実施形態において説明した以外の構成のものに対しても容易に適用可能なことは説明を要するまでもない。
【0015】
図1及び図2に示すダイカストマシンに構成される要部としての射出系ユニット1には、機台2、機台2上に取り付けられたベース部材3及び固定ダイプレート4、ベース部材3に取り付けられた保持ブロック5、固定ダイプレート4などに保持された支持部材6、ベース部材3上で前後進可能に設けられた移動体7、保持ブロック5と支持部材6との間に掛け渡らされ、移動体7の進退移動をガイドする複数本のガイドバー8、保持ブロック5に取り付けられ、後述する低速射出工程及び増圧工程のときに駆動源として用いられる電動サーボモータ9、保持ブロック5に保持され、対応する電動サーボモータ9の回転を、プーリ10、ベルト11等からなる駆動伝達機構を介して伝達する1対のボールネジ12、ボールネジ12と螺合されると共に、移動体7にその端部を固定したナット体13、移動体7に装着され、移動体7と共に移動される高速射出工程用の駆動源としての1対のアキュームレータ(以下、ACCと称す。)14、移動体7と一体化され、内部をピストン体として兼ねる射出プランジャ15が油圧動力源たるACC14の油圧により進退可能に設けられた油圧シリンダ16、固定ダイプレート4に取り付けられ、射出プランジャ15(の先端に有する射出プランジャチップ15a)が内部で進退可能に設けられた射出スリーブ18、射出スリーブ18の上部に設けられた金属溶湯が供給される注入口18a、ACC14と油圧シリンダ16の第1油室16aとを接続する油路上に配設され、方向切り替え機能と流量制御機能とを備えて射出プランジャ15を高速前進させるための油圧供給を遮断する制御弁20、制御弁20とタンク21とを接続する油路上に配設されたクーラー22、タンク21と油圧シリンダ16の第2油室16bとを接続する油路上に配設された油圧ポンプ23、油圧ポンプ23と油圧シリンダ16の第2油室16bとを接続する油路上に配設された第1の逆止弁25、制御弁20と油圧シリンダ16の第1油室16aとを接続する油路上に配設された圧力センサ26、圧力センサ26と第1の逆止弁25とを接続する油路上に配設された第2の逆止弁27、各種センサで検出された検出結果等に基づき、制御弁20の開閉や電動サーボモータ9の駆動等を制御したり後述する閾値の演算等を行ったりする、ダイカストマシン全体の制御を行う制御手段28、警告メッセージ等を表示する表示手段30、表示手段30に表示される各種数値(後述する閾値等)を設定するためのキー入力手段31等が構成され、制御手段28には、電動サーボモータ9のトルクを検出するトルク検出手段32、トルク検出手段32で検出された実測値が予め設定された閾値を超えた値であるときに、射出プランジャ15(射出プランジャ15の射出プランジャチップ15a)の前進動作に異常があるとして判別する異常検出手段33、前記閾値が予め記憶される閾値記憶部34を備えている。
【0016】
本実施形態では、電動サーボモータ9の回転力を、駆動伝達機構を介してボールネジ機構のボールネジ12に伝達して該ボールネジ12を回転させ、これにより、ボールネジ12に螺合したボールネジ機構のナット体13を軸方向に進退させることで、移動体7と共に油圧シリンダ16を移動させて、射出プランジャ15を進退させるようになっている。また、ACC14に蓄圧された圧油を、制御弁20を介して油圧シリンダ16に供給することで、射出プランジャ15に前進方向の力(増圧圧力)を付与して、射出プランジャ(油圧シリンダを除く)15を前進させるようになっていて、また、電動サーボモータ9とボールネジ機構とを2つずつ設けて、2つの電動サーボモータ9の出力を足し合わせて、移動体7と共に油圧シリンダ16に設けられた射出プランジャ15を軸方向に移動させるようにしているので、比較的大きな推力を得ることができるようになっている。
【0017】
次に、ダイカストマシンの動作について図3を用いて説明する。本実施形態のダイカストマシンは、成形体を製造する一連の成形工程として、低速射出工程、高速射出工程、増圧工程、冷却工程、ビスケット押出工程、後退工程が順に行われる。本実施形態では、先ず、電動サーボモータ9を駆動源として、駆動伝達機構、ボールネジ12等を介して、ナット体13を移動体7と共に前進させ、射出スリーブ18に注入口18aから供給された溶融金属材料を、射出プランジャ15の先端から型閉された金型のキャビティへ低速で射出充填するのだが、射出前の状態においては、射出プランジャ15は最後退位置にあり、制御弁20は中立位置にあり、ACC14の油室内には所定量・所定圧の圧油が貯えられており、このときACC14のガス室内のガスは、油の圧力により圧縮・昇圧されている。また、射出前の状態を含め、油を油圧シリンダ16の第2油室16bへ送り込む工程以外には、油圧ポンプ23は停止状態におかれている。また、射出前の状態では、ナット体13は最も後退した位置に配置される。
【0018】
そして、このような状態において、低速射出工程の開始タイミングに至ると、マシン全体の制御を司る制御手段28からの指令に基づいて、電動サーボモータ9が、所定方向に、かつ、低速射出工程に設定された速度で回転駆動され、それによって、ボールネジ機構のナット体13と共に、移動体7、油圧シリンダ16、射出プランジャ15が低速(0.5m/sec未満の速度であり、本実施形態では、0.25m/secに設定。)で前進駆動される。つまり、低速射出工程では、位置軸に沿った速度フィードバック制御によって電動サーボモータ9が駆動制御され、それによって、低速射出工程が実行されて、射出スリーブ18内の金属溶湯が金型のランナ部まで充填され、それに伴い金型のキャビティ内の空気抜きが行われる。そして、制御手段28は、図示しない位置センサからの出力に基づき、射出プランジャ15の前進位置を検出して、低速射出工程に設定された所定距離だけ射出プランジャ15を前進させたタイミングで、低速射出工程を高速射出工程に切り替える(図3の(イ)の位置)。
【0019】
次に、高速射出工程の開始タイミングになると、制御手段28は、低速射出工程では、電動サーボモータ9を回転駆動しつつ、制御弁20を開いて、それによりACC14に貯えられた圧油を、圧縮・昇圧されていたガス圧によって、制御弁20を通じて油圧シリンダ16の第1油室(前進用油室)16aに急速に送り込み、移動体7に対して射出プランジャ15を高速(0.5m/sec以上の速度であり、本実施形態では、2.5m/secに設定。)で前進駆動する。そのとき、油圧シリンダ16の第2油室16bの油は、第2の逆止弁27、油路を通じて、油圧シリンダ16の第1油室16aに送り込まれる。なお、高速射出工程では、図3(b)で示されているように、電動サーボモータ9が、低速射出工程のときよりも低速で回転され、移動体7を0.2m/secで前進駆動するものの、ACC14からの圧油により射出プランジャ15は、2.5m/secという高速度で前進駆動され、それにより、金属溶湯は金型のキャビティ内に急速に射出充填される。そして、制御手段28は、図示しない位置センサからの出力により、射出プランジャ15の前進位置を検出して、高速射出工程に設定された所定距離だけ射出プランジャ15を前進したタイミングで、制御弁20を閉じて油圧シリンダ16の第1油室16aへの油圧供給を遮断し高速射出工程を完了させる(図3(a)の(ロ)の位置)。
【0020】
そして、高速射出工程が完了すると、続いて増圧工程が実行される。増圧工程に入ると制御手段28は、電動サーボモータ9を射出工程(低速射出工程及び高速射出工程)での位置軸に沿った速度フィードバック制御から、時間軸に沿った圧力フィードバック制御に切り替えて、電動サーボモータ9に増圧工程で設定されている増圧圧力に一致する圧力を出力させる。当該増圧工程により、射出プランジャ15からビスケット29を介して金型内の固化し始めた金属に対して大きな圧力(例えば最大50ton程度)を付与し、金属の固化・収縮に伴って、射出プランジャ15は微量だけ微速前進される。そして、制御手段28は、時間監視に基づいて、増圧工程の完了タイミングを検出すると、増圧工程を冷却工程に切り替える。
【0021】
次に、冷却工程では、制御手段28は、電動サーボモータ9を位置軸に沿った速度フィードバック制御によって前進方向に駆動制御し、移動体7を前進させる。この移動体7の前進によって射出プランジャ15は前進方向の力を受けるが、射出プランジャ15の射出プランジャチップ15aの先端にはビスケット29が当接するため射出プランジャ15は前進することができず、反対に油圧に抗して後退する。それにより、油圧シリンダ16の第1油室16a内の圧油が制御弁20を通じて、ACC14の油室内へと戻され、それに伴いACC14のガス室内のガスが圧縮・昇圧される。そして、ACC14の油室内に所定量・所定圧の圧油が貯えられた(高速射出工程に必要な圧油が貯えられた)タイミングで、制御手段28により制御弁20が切り替えられると、該制御手段28は、油圧ポンプ23を駆動制御して、高速射出工程で油圧シリンダ16の第2油室16bから流出した油に相当する量の油を、油圧ポンプ23から油圧シリンダ16の第2油室16bへと送り込む。すると、高速射出工程で油圧シリンダ16の第2油室16bから流出した油に相当する量の油が、油圧シリンダ16の第2油室16bに送り込まれる。そして、油圧シリンダ16内で射出プランジャ15が最後退位置に至ったタイミングで、制御手段28は、油圧ポンプ23を停止させると共に制御弁20を中立位置に切り替え、さらに、電動サーボモータ9を停止させて、冷却工程の終了タイミングを待つ。なお、このとき、射出プランジャチップ15aの先端は、ビスケット29に当接した状態となる。
【0022】
そして、冷却工程が終了すると、制御手段28は、型開き工程を実行させ、この型開き動作と同期して、電動サーボモータ9を位置軸に沿った速度フィードバック制御によって前進方向に駆動制御して、移動体7を前進させる。そして、それに伴い、射出プランジャ15によりビスケット29を押し出すビスケット押出工程を、型開きと同期させて実行させる。
【0023】
次に、ビスケット押出工程が完了した後、制御手段28は適宜のタイミングで、射出プランジャ15を後退させる後退工程を実行し、電動サーボモータ9は、位置軸に沿った速度フィードバック制御によって後退方向に駆動制御して、移動体7を後退させる。そして、移動体7が最後退位置まで後退したタイミングで、制御手段28は電動サーボモータ9を停止させる。そして、そのような成形サイクルが繰り返されることで製品が多数製造されることになる。
【0024】
なお、ここで射出スリーブ18の内壁面や該射出スリーブ18の内壁面に摺動自在に配設された射出プランジャチップ15aの外周面に金属溶湯の残存体(Al等の溶けたカス)が付着したり、あるいは、射出スリーブ18に対する射出プランジャチップ15aの所謂齧り、焼付き、バリ、異物噛み込み、熱変形等が発生し、射出プランジャチップ15aの移動中の摺動抵抗に異常が発生した場合の異常検出方法について図3を用いて説明する。本実施形態のダイカストマシンの全体の動作工程は上述した通りであるが、本実施形態のダイカストマシンにおいては、射出スリーブ18に対する射出プランジャチップ15aの摺動抵抗の異常を、低速射出工程を実行しているときに行う。
【0025】
そして、図3(a)〜(c)のグラフに示すように、射出プランジャチップ15aの摺動抵抗に異常が発生していない状態では、電動サーボモータ9のトルクは乱れることなく安定しているが(図3(c)参照)、上述した摺動抵抗の異常が発生すると、図3(d)の右側に示すように、高速射出工程では電動サーボモータ9のトルク、及び射出圧力のグラフに乱れが発生しないものの、高速射出工程より低速且つ低圧で実行される電動サーボモータ9のみを駆動源とする低速射出工程では、図3(d)の左側に示すように、摺動抵抗の異常がグラフに乱れ(山折り谷折りの連続)として顕著に現れる。そして、(ホ)、(ヘ)として、低速射出工程における測定区間を示したように、予め設定した測定区間に対応する正常なときの電動サーボモータ9のトルク値X,Yに基づき、そのトルク値よりも10%増の値X’,Y’を算出させておき、その値を閾値記憶部34に予め閾値として記憶させておくことで、ダイカストマシンの稼動中において、トルク検出手段32で検出された電動サーボモータ9のトルクの実測値が前記閾値を超えた値であるときには、異常検出手段33は、射出プランジャ15の前進動作に異常があるとして判別し、その判別に基づき制御手段28はダイカストマシンの稼動を停止し、且つ表示手段30に警告メッセージを表示する。
【0026】
以上のように本実施形態のダイカストマシンによれば、金属溶湯が供給される筒状の射出スリーブ18と、射出スリーブ18内で進退される射出プランジャ15の先端に装着された射出プランジャチップ15aとを備え、射出プランジャ15の前進により、金属溶湯を型閉された金型のキャビティ内に射出充填するときに、低速射出工程ではその駆動源に電動サーボモータ9のみを用い、低速射出工程の次工程で行われる高速射出工程ではその駆動源に油圧駆動源ACC14と電動サーボモータ9とを用いるダイカストマシンであって、高速射出工程よりも低速で行われる低速射出工程で射出プランジャ15を前進させる電動サーボモータ9のトルクを検出するトルク検出手段32と、トルク検出手段32で検出された実測値が予め設定された閾値を超えた値であるときに、射出プランジャ15の前進動作に異常があるとして判別する異常検出手段33を備えたものであり、これにより、ダイカストマシンを稼動させているときに、射出スリーブ18の内壁面やこの射出スリーブ18の内壁面に摺動自在に配設された射出プランジャチップ15aの外周面に金属溶湯の残存体(Al等の溶けたカス)が付着したり、あるいは、射出スリーブに対する射出プランジャチップ15aの所謂齧り、焼付き、バリ、異物噛み込み、熱変形等が発生し、射出プランジャチップ15aの前進移動中の摺動抵抗に異常が発生すると、トルク検出手段32で検出された電動サーボモータ9のトルクの実測値が、予め閾値記憶部34に記憶されている閾値を超えることから、それに基づき、異常検出手段33がダイカストマシンの射出プランジャチップ15aの摺動抵抗に異常が発生したことを判別する。よって、この判別に基づき、ユーザは異常を解消するための対策(メインテナンス等)を講じたり、或いは、異常があるとして判別されたときに、制御手段28がダイカストマシンを停止したり、表示手段30に警告メッセージを表示することで、ユーザに対し注意喚起をすることができる。さらに、異常検出手段33が射出プランジャチップ15aの摺動抵抗に異常が発生したことを判別するときは、電動サーボモータ9のトルク変化が顕著に現れる低速射出工程中に実行されることから、異常を高精度で正確に検出することが可能となり、摺動抵抗の変化が大きくなる前に、早期に異常を発見して品質の良い鋳造品を製造することが可能となる。
【0027】
以上、本実施形態の一例を詳述したが、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。上記一例では、摺動抵抗に異常のない正常なときの電動サーボモータ9のトルク値に対し、閾値を10%増としているが、それに限定するものではなく、1%〜40%の範囲で適宜選定することも可能である。また、異常検出手段33が摺動抵抗の異常を判別したときには、ダイカストマシンの稼動を停止、或いは表示手段30に警告メッセージを表示するだけであっても良い。また、閾値に対して電動サーボモータ9の実測値がどれくらい増加したかを異常検出手段33で判別させ、その増加値に対応して、「少」、「中」、「大」で警告レベルの重要度を可変して、表示手段30に表示するようにしてもよい。また、異常検出手段33は、電動サーボモータ9の実測値が閾値を超えたときに摺動抵抗に異常があるとして判別するとして説明したが、測定区間における実測値の平均値やピークが閾値を超えた場合の値に基づき、射出プランジャチップ15aの摺動抵抗に異常があるとして判別するようにしてもよい。また、射出プランジャ15が前進移動されるときのみに限らず、後退移動しているときにも摺動抵抗の異常を検出してもよい。
【符号の説明】
【0028】
1 射出系ユニット
2 機台
3 ベース部材
4 固定ダイプレート
5 保持ブロック
6 支持部材
7 移動体
8 ガイドバー
9 電動サーボモータ
10 プーリ
11 ベルト
12 ボールネジ
13 ナット体
14 ACC(油圧駆動源)
15 射出プランジャ
15a 射出プランジャチップ
16 油圧シリンダ
16a 第1油室
16b 第2油室
18 射出スリーブ
18a 注入口
20 制御弁
21 タンク
22 クーラー
23 油圧ポンプ
25 第1の逆止弁
26 圧力センサ
27 第2の逆止弁
28 制御手段
29 ビスケット
30 表示手段
31 キー入力手段
32 トルク検出手段
33 異常検出手段
34 記憶部(閾値記憶部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属溶湯が供給される筒状の射出スリーブと、該射出スリーブ内で進退される射出プランジャに設けた射出プランジャチップとを備え、前記射出プランジャの前進により金属溶湯を型閉された金型のキャビティ内に射出充填する射出工程でその駆動源に電動サーボモータを少なくとも用いるダイカストマシンであって、
前記射出プランジャを前進させる前記電動サーボモータのトルクを検出するトルク検出手段と、該トルク検出手段で検出された実測値が予め設定された閾値を超えた値であるときに、射出プランジャの前進動作に異常があるとして判別する異常検出手段を備えることを特徴とするダイカストマシン。
【請求項2】
金属溶湯が供給される筒状の射出スリーブと、該射出スリーブ内で進退される射出プランジャに設けた射出プランジャチップとを備え、前記射出プランジャの前進により金属溶湯を型閉された金型のキャビティ内に射出充填するときに、低速射出工程ではその駆動源に電動サーボモータを用い、該低速射出工程の次工程で行われる高速射出工程ではその駆動源に油圧駆動源を用いるダイカストマシンであって、
前記高速射出工程よりも低速で行われる低速射出工程で前記射出プランジャを前進させる前記電動サーボモータのトルクを検出するトルク検出手段と、該トルク検出手段で検出された実測値が予め設定された閾値を超えた値であるときに、射出プランジャの前進動作に異常があるとして判別する異常検出手段を備えることを特徴とするダイカストマシン。
【請求項3】
筒状の射出スリーブに供給された金属溶湯を、該射出スリーブ内に設けられた射出プランジャに構成される射出プランジャチップを前進させることにより、型閉された金型のキャビティ内に射出充填するに際し、低速射出工程ではその駆動源に電動サーボモータを用い、該低速射出工程の次工程で行われる高速射出工程ではその駆動源に油圧駆動源を用いるダイカストマシンの異常検出方法であって、
前記低速射出工程で前記射出プランジャを前進させる前記電動サーボモータのトルクをトルク検出手段で検出し、該トルク検出手段で検出された実測値が、予め記憶部に記憶されている閾値を超えた値であるとして、異常検出手段で判別されたとき、制御手段が前記ダイカストマシンを停止、若しくは表示手段に警告メッセージを表示することを特徴とするダイカストマシンの異常検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−110930(P2012−110930A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−261610(P2010−261610)
【出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【出願人】(000222587)東洋機械金属株式会社 (299)