説明

ダイカストマシン及びダイカスト鋳造法

【課題】 溶湯の射出速度を高速化しても、サージ圧が増大せず、バリを発生しないダイカストマシン及びダイカスト鋳造法を提供する。
【解決手段】 射出装置を備えるダイカストマシンにおいて、射出装置を構成するプランジャロッド及びピストンロッドの少なくとも一方が、縦弾性係数が30GPa以上、170GPa以下の金属材料で作製されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バリを発生しないダイカストマシン及びダイカスト鋳造法に係るものである。
【背景技術】
【0002】
従来のダイカストマシンにおいては、Al、Mg等の軽金属、及び、それらの合金等の溶湯を、高速・高圧で、注湯口からスリーブを経て金型内に充填するために、射出装置を構成する往復動部材(プランジャチップを含むプランジャロッド、射出ピストン、及び、両者を結合するカップリング等)は、SCMやSKD等の合金鋼材(縦弾性係数約210GPa)で作製されていた。
【0003】
射出装置を構成する往復動部材の質量が大きいと、射出速度を高速化しようとする場合に、上記往復動部材の慣性力が問題となる。即ち、上記往復動部材の質量が大きいと、停止指令を発しても直ぐに停止できず、慣性力で移動し続け、その結果、金型内に溶湯を充填し終えた後も、溶湯を押圧する。
【0004】
上記往復動部材は、その運動エネルギーが金型内の溶湯により吸収されて停止することになるが、その結果、金型内において溶湯圧力が上昇し、サージ圧が発生する。
【0005】
このサージ圧が、型締力より大きくなると、鋳造品にバリが発生するので、高速射出時における慣性力や、サージ圧の低減を図る技術が、幾つか提案されている(特許文献1及び2、参照)。
【0006】
特許文献1には、低速射出時に、プランジャロッドと射出ピストンとを一体的に作動させ、射出充填完了直前に、プランジャロッドだけを作動させて金型に溶湯を充填する技術が開示されている。また、特許文献2には、プランジャロッドと射出ピストンの接合部に弾性部材を装着し、該弾性部材でサージ圧を吸収する技術が開示されている。
【0007】
しかし、いずれの技術も、制御自体が複雑で、サージ圧の適正な制御の点で不十分なものである。
【0008】
ところで、近年は、各種部品を軽量化するために、ダイカスト鋳造品の薄肉化が進んでいる。また、鋳造品の多様化に伴い、投影面積の大きな鋳造品を鋳造する技術が求められている。
【0009】
薄物や投影面積の大きなものを鋳造する場合、特に、金型内で溶湯が冷えて流動性を失う前に鋳込みを完了しなければならないので、溶湯の射出速度を高速化する必要があり、近年、射出速度は、従来の2m/s前後から3〜6m/sに上昇しつつある。
【0010】
薄物や投影面積の大きなものの鋳造において射出速度を高速化する場合、前述したように、射出装置を構成する往復動部材の慣性力、金型内のサージ圧に起因するバリ吹きの抑制が大きな課題となる。
【0011】
そこで、本出願人は、射出装置を構成するプランジャロッドと射出ピストンを、Ti−Al系の軽量合金で構成することを提案した(特許文献3及び4、参照)。この軽量化で、射出速度の高速化とともに、金型内の溶湯に作用する慣性力の低減がなされ、その結果、慣性力に起因するサージ圧のピーク値及び振幅値は小さくなり、バリ発生を抑制できる。しかし、射出装置の軽量化には限界があり、さらに、高速での射出には効果が限定される。
【0012】
また、通常、ダイカスト鋳造では、サージ圧を抑えるために、溶湯充填の最終段階で、射出速度を減速するが、この場合、通常、±2%程度ある給湯精度を、溶湯の充填量に反映できず、品質上最も重要な最終充填部における溶湯流れ挙動がショット毎に変わる。この現象は、上記提案に係る技術においても同様に生じ、バリ吹きの原因ともなる。
【0013】
【特許文献1】特開平8−300134号公報
【特許文献2】特開平7−155925号公報
【特許文献3】特開2004−216414号公報
【特許文献4】特開2004−216432号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記従来技術における課題に鑑み、溶湯の射出速度を高速化しても、サージ圧が増大せず、バリを発生しないダイカストマシン及びダイカスト鋳造法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、バリ発生の原因となる金型内のサージ圧を極力増大しない手法について、鋭意研究した。
【0016】
従来は、鋳込み終了時、往復動部材の運動エネルギーを溶湯で吸収することを前提に、サージ圧の低減を図るため、往復動部材の質量軽減及び/又は速度制御の観点から、運動エネルギーを極力小さくすることが試みられた。
【0017】
しかし、前述したように、溶湯の射出速度を、従来速度以上に高速化する場合、この試みには限界がある。
【0018】
そこで、本発明者は、鋳込み終了時、往復動部材の運動エネルギーを、溶湯だけでなく、往復動部材自体でも吸収できるようにすれば、金型内のサージ圧は増大しないのではないかとの発想に至り、運動エネルギーを吸収し得る往復動部材の機械特性について、鋭意調査した。
【0019】
その結果、射出装置を構成する往復動部材、特に、プランジャロッド及びピストンロッドの少なくとも一方を、縦弾性係数が30GPa以上、170GPa以下の金属材料で作製すると、鋳込の終了に際し、射出速度を減速しなくても、バリのない鋳造品を鋳造できることを見出した。
【0020】
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、射出装置を備えるダイカストマシンにおいて、射出装置を構成するプランジャロッド及びピストンロッドの少なくとも一方を、縦弾性係数が30GPa以上、170GPa以下の金属材料(ある程度の比強度があり、弾性率の低い金属材料が望ましい)で作製すること要旨とする。
【0021】
そして、本発明は、3m/s以上の射出速度で、該射出速度を、溶湯の充填が完了するまで減速せずに鋳造することを要旨とする。
【0022】
また、本発明においては、前記縦弾性係数が50GPa以上、150GPa以下であることを要旨とする。
【0023】
また、本発明においては、前記金属材料が、鋼材の比強度(強度/比重)より高い比強度を有する非鉄金属材料(例えば、Cu合金、Ti合金、Al合金、及び、Mg合金のいずれか1種、又は、これらの複合材)であることを要旨とする。
【0024】
本発明によれば、鋳造品にバリを発生せず、給湯量のバラツキの影響もない高品質の鋳造品を得ることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、射出装置を構成する往復動部材が停止する時の運動エネルギーを、往復動部材自体で吸収して、溶湯に対する衝撃力を大幅に低減し、射出完了時に生じるサージ圧を下げることができ、バリ吹きを防止することができる。
【0026】
また、通常、サージ圧を抑えるために、溶湯充填の最終段階で、射出速度を減速するので、通常、±2%程度ある給湯精度を、溶湯の充填量に反映できず、品質上最も重要な最終充填部における溶湯流れ挙動がショット毎に変わり、この現象がバリ発生の原因ともなるが、本発明によれば、射出速度を減速する必要がなく、溶湯の充填完了時まで高速で鋳込み、高品質で、かつ、品質のバラツキがない優れた鋳造品を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
図面に基づいて、本発明について説明する。図1に、ダイカストマシンの一態様を示す。ダイカストマシンは、金型装置と射出装置から構成されている。金型装置は、スリーブ7を備える固定型9に固定した金型10と、可動型8に固定した金型10で構成されていて、両金型10を型締して、湯口11と金型キャビティを作製する。
【0028】
射出装置は、シリンダー5内を往復動するピストン6に接続したピストンロッド3と、プランジャチップ2を先端に備えカップリング4を介してピストンロッド3に連結されたプランジャロッド1で構成されていて、注湯口12からスリーブ7内に注湯した溶湯13をプランジャチップ2で押圧し、溶湯13を、湯口11から金型キャビティ内に送り込む。
【0029】
本発明において、射出装置を構成するプランジャロッド1及びピストンロッド3の少なくとも一方は、縦弾性係数が30GPa以上、170GPa以下の金属材料で作製されている。
【0030】
従来、射出装置を構成する往復動部材は、縦弾性係数が210GPa程度のSCMやSKD等の合金鋼材で作製されていたが、本発明では、従来の金属材料の縦弾性係数よりも小さい縦弾性係数を有する金属材料で作製した往復動部材を用いることを特徴とする。
【0031】
射出装置を構成する往復動部材には、往復動方向に力が作用するので、往復動部材の軸方向(往復動方向)における機械的特性が重要である。それ故、縦弾性係数を、金属材料を評価し、選択する際の指標として採用した。
【0032】
そして、本発明者は、プランジャロッド及び/又はピストンロッドを、種々の縦弾性係数を有する金属材料で作製し、バリの発生と縦弾性係数との相関を調査した。その結果、縦弾性係数が30GPa未満であると、鋳造圧力の伝播が遅れるので、縦弾性係数の下限を30GPaとした。好ましい下限は、50GPaである。
【0033】
また、縦弾性係数が170GPaを超えると、運動エネルギー吸収の効果が薄れるので、縦弾性係数の上限を170GPaとした。好ましい上限は、150GMaである。
【0034】
即ち、縦弾性係数が30GPa以上、170GPa以下、好ましくは、50GPa以上、150GPa以下の金属材料で作製したプランジャロッド及び/又はピストンロッドを用いると、射出速度を従来速度以上に高速化しても、鋳造品にバリが発生しないことを確認した。
【0035】
例えば、通常であれば、射出速度が3m/sを超えると、バリが発生していた鋳造条件下でも、縦弾性係数が上記範囲にある金属材料で作製したプランジャロッド及び/又はピストンロッドを用いると、射出速度を、5.5m/s以上に高めても、バリが発生せず高品質の鋳造品を得ることができることを確認した。
【0036】
即ち、射出装置を構成する往復動部材を作製する金属材料として、上記の縦弾性係数の小さい金属材料を用いると、縦弾性係数が小さいが故、溶湯の充填終了時に、金属材料自身も、作用・反作用の法則に従い力を受け、僅かながら歪むことによって運動エネルギーを吸収して、溶湯に加わる衝撃力を緩和する。
【0037】
したがって、本発明によれば、複雑な衝撃吸収機構を用いることなく、往復動する射出部品の運動エネルギーを吸収し、溶湯の充填完了時に生じるサージ圧を低減して、バリのない高品質の鋳造品を得ることができる。
【0038】
また、通常、サージ圧を低減するため、溶湯充填の最終段階で、射出速度を減速するが、本発明によれば、射出速度を減速する必要はない。本発明によれば、溶湯の充填完了時まで高速の射出速度を維持して鋳込んだ時も、バリのない高品質の鋳造品を得ることができる。
【0039】
勿論、射出装置を作製する、プランジャロッド及びピストンロッド以外の部品を、縦弾性係数が30GPa以上、170GPa以下の金属材料で作製してもよい。
【0040】
本発明で用いる金属材料は、上記縦弾性係数の範囲を満たすものであればよく、特定の金属材料に特定されないが、射出装置の制御性の点から、軽量で高強度の金属材料が好ましく、さらに、作業性、生産性を考慮すると、優れた耐衝撃性や、振動吸収性、耐食性、耐クリープ特性等を備えている金属材料がより好ましい。
【0041】
上記縦弾性係数の範囲を満たす金属材料としては、例えば、Cu合金、Ti合金、Al合金、及び、Mg合金を挙げることができる。しかし、本発明で用いる金属材料は、上記例示の金属材料に限定されるものではない。
【実施例】
【0042】
次に、本発明の実施例について説明するが、実施例の条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0043】
(実施例)
縦弾性係数が120GPaのTi−Al合金で、プランジャロッドとピストンロッドを作製し、これらを搭載した530tonのダイカストマシン(図1、参照)を構成した。このダイカストマシンで、Mg溶湯を、射出速度6m/sで、鋳込み完了時まで減速せず鋳造した。バリのない鋳造品を得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0044】
前述したように、本発明によれば、射出速度を減速せずに、溶湯の充填完了時まで高速で鋳込み、高品質で、かつ、品質のバラツキがない優れた鋳造品を得ることができる。したがって、本発明は、産業上の利用可能性が極めて大きいものである。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】ダイカストマシンの一態様を示す図である。
【符号の説明】
【0046】
1 プランジャロッド
2 プランジャチップ
3 ピストンロッド
4 カップリング
5 シリンダー
6 ピストン
7 スリーブ
8 可動型
9 固定型
10 金型
11 湯口
12 注湯口
13 溶湯

【特許請求の範囲】
【請求項1】
射出装置を備えるダイカストマシンにおいて、射出装置を構成するプランジャロッド及びピストンロッドの少なくとも一方が、縦弾性係数が30GPa以上、170GPa以下の金属材料で作製されたものであることを特徴とするダイカストマシン。
【請求項2】
前記縦弾性係数が50GPa以上、150GPa以下であることを特徴とする請求項1に記載のダイカストマシン。
【請求項3】
前記金属材料が、鋼材の比強度(強度/比重)より高い比強度を有する非鉄金属材料であることを特徴とする請求項1又は2に記載のダイカストマシン。
【請求項4】
前記非鉄金属材料が、Cu合金、Ti合金、Al合金、及び、Mg合金のいずれか1種、又は、これらの複合材であることを特徴とする請求項3に記載のダイカストマシン。
【請求項5】
ダイカスト鋳造法において、
(a)請求項1〜4のいずれか1項に記載のダイカストマシンを用い、
(b)3m/s以上の射出速度で鋳込む
ことを特徴とするダイカスト鋳造法。
【請求項6】
前記射出速度を、溶湯の充填が完了するまで減速しないことを特徴とする請求項5に記載のダイカスト鋳造法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−224156(P2006−224156A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−41666(P2005−41666)
【出願日】平成17年2月18日(2005.2.18)
【出願人】(300041192)宇部興産機械株式会社 (268)