説明

ダイカストマシン

【課題】高真空式ダイカストマシンにおいて、チップ齧りを防止し、かつ潤滑剤がガス化して溶湯内に混入するのを防止する。
【解決手段】静止した固定金型(3)と、可動な可動金型(2)とを具備し、それらの間に形成されるは製品部(6)に溶湯(22)が射出されて製品が鋳造される、高真空ダイカストマシン(1)は、溶湯が貯められて製品部に流体連絡するスリーブ(8)と、溶湯を押圧するプランジャとを具備する。プランジャは、スリーブに嵌合して溶湯を押圧するチップ(9)と、駆動力をチップに伝達するプランジャロッド(10)と、チップ外周に設置されるピストンリング(11)とを具備する。マシン(1)は、ピストンリングに関してピストンロッド側において、ピストンロッド側の、スリーブ内面及びチップ外周に潤滑剤(37)を吹き付ける、スプレー潤滑装置(30)を更に具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金等の鋳造成形のためのダイカストマシン(鋳造装置)に係り、より特別には、高真空を利用した鋳造方法及びダイカストマシンにおいて、プランジャの潤滑のための潤滑剤がガス化して溶湯内へ混入することを防止可能なダイカストマシンに関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム合金等の金属の鋳造品の鋳造(ダイカスト)方法において、高真空を利用する高真空鋳造方法により、製品である鋳造品の品質が向上することが知られている。これは、金型のキャビティ(製品部)を真空にすることで、鋳造品内への空気の巻き込みが減少することによる。
【0003】
図1に、高真空を利用する高真空式ダイカストマシン(鋳造装置)1の一例を示す。ダイカストマシン1の構成については、本発明においても図1に示す装置と基本的には同様な装置を使用しており、本発明の実施例の説明において詳しく説明するため、ここでは必要なことだけについて説明する。高真空式ダイカストマシン1においては、射出成形する際に、製品部(キャビティ)6内を高真空にすることにより、ダイカスト製品内への空気の巻き込みを防止することができるので、高品質なダイカスト製品を成形可能であり、特には、薄肉の成形品に対して効果があることが知られている。
【0004】
ダイカストマシン1においては、スリーブ(又は、ブランジャスリーブ)8により形成される貯湯室23内に供給されて貯められたアルミニウム(AL)合金等の溶湯22を、プランジャロッド10(及びプランジャチップ9)により押圧して金型2,3により形成される製品部(キャビティ)6内に射出して製品を成形する。この際、製品部6から真空バルブ12を介してガス(一般には空気)を排出することにより、製品部6を真空にしながら射出を実施する。
【0005】
鋳造製品において、溶湯にガスが混入することは不良品発生の原因になるが、ガス混入を生じる原因の1つにプランジャの潤滑剤のガス化がある。スリーブ8内で往復動して射出を実施するプランジャは、プランジャのチップ9に具備されるピストンリング11でスリーブ8の内壁と接触して漏れを防ぎながら(シールしながら)摺動するが、この時ピストンリング11とスリーブ8内壁との摩耗を緩和するために潤滑剤により潤滑すること(チップ潤滑)が必要になる。従来技術においては、この潤滑剤が、貯湯室23(又はスリーブ)内の高温雰囲気によりガス化して溶湯に混入する問題がある。
【0006】
図6から8は、図1に示すような高真空装置でのダイカストマシンシステムにおける従来のチップ潤滑方式を示している。図6は、スリーブ8内に油性潤滑剤35を滴下する方式の図式的説明図であり、図7は、スリーブ8後部に切欠を設け、チップ9上に油性潤滑剤35を滴下する方式の図式的説明図であり、図8は、スリーブ内にノズル31から水溶性潤滑剤36を滴下しエアノズル32からのエアーブローで拡散させる方式の図式的説明図である。
【0007】
図6に示す「従来法のスリーブ内に油性潤滑剤を滴下する方法」は、現在ほとんどのダイカストマシンがこの方法であるが、この方法の場合、滴下されたオイルベースの潤滑剤35に溶湯がかかるため、オイルがガス化し溶湯の中に入り込み、高真空吸引時の溶湯の飛び込み(飛び湯)現象を助長する(図9を参照のこと)。このガスが、溶接時のブリスター不良に直接影響してくる。従って、高真空鋳造には最も不適当な潤滑方法である。
【0008】
ここで図9を参照して、高真空吸引時の溶湯飛び込み(飛び湯)現象を説明する。飛び湯は、高真空状態を、例えば5kPaにした場合、給湯時に溶湯内に巻込まれているガスや、溶解時に発生しているガス等が膨張しスリーブ内の溶湯表面が膨れ上がることにより発生する現象である。高真空鋳造の場合一般的に、給湯(注湯)口24をチップ9が塞いだ時点で真空引きを開始し、同時に溶湯温度低下を最小にする為、低速射出動作を行う。低速で前進するにつれ、スリーブ8(又は、貯湯室23)内の溶湯22の上面(湯面)は上昇し分流子21端のランナー20入り口に近づく。盛り上がった上面(湯面)が、ランナー20入り口にかかると、真空で引かれているガスの流れに乗って溶湯が飛ぶ。これが、高真空時の飛び湯現象で、飛び湯が起こると飛んだ湯の一部がゲート19及び/又はランナー20を塞ぎ、凝固し次にチップ9で押される正規の溶湯流れを阻害してしまう。その為、金型内湯流れパターンが大きく変わり、不良を引きおこす。特に、湯面の上昇と真空度の上昇のタイミングが一致すると、飛び湯現象は顕著になることが分っている。
【0009】
図7に示す「スリーブ後部に切欠を設け、チップ上に油性潤滑剤を滴下する方式」では、ピストンリング11がなければ、チップ9とスリーブ8の隙間が0.2〜0.3mmあり、この間に溜まったオイルベースの潤滑剤35が射出の前進・後退動作でスリーブ内面に塗布され、充分な潤滑効果を得ることが出来るが、真空式鋳造方法ではピストンリング11は必ず必要であるので、ピストンリング11が具備される場合には、その隙間は0.1mm以下となり、溜まり部が少なく、射出動作での潤滑剤塗布切れが起こり、潤滑不良の為の齧りが時折発生する(この方式は、先の図6の方式と比較すると、潤滑剤に直接溶湯が接触しない為、ガスの問題は改善される)。
【0010】
図8に示す「スリーブ内に水溶性潤滑剤を滴下しエアーブローで拡散させる方式」では、ノズル31からの水溶性潤滑剤36を用いる為、気化が早く、ガス発生が少ない。しかし、エアノズル32からのエアーブローでの拡散では、時折、拡散不良による齧りが発生する。
【0011】
また、チップ10又はピストンリング11の潤滑に関して記載する先行文献(例えば、特許文献1参照)があるが、この先行文献には、プランジャスリーブの内壁に潤滑剤をより一層満遍なく塗布することができるとともに、メンテナンス性にも優れるダイカスト鋳造装置を提供するとしたものである。更に詳しくは、プランジャスリーブの内周面を軸方向に移動させるプランジャロッドにおいて、プランジャロッドの外周面に嵌め込まれるリング状部材を有し、プランジャロッドは、プランジャスリーブの内壁に潤滑剤を塗布するための潤滑剤供給経路が内部に形成されているものであって、リング状部材は、内周面から外周面に向かう方向に形成された吐出孔がリング状部材の周方向にわたって複数形成されているものであり、吐出孔と潤滑剤供給経路とが連通するように、リング状部材がプランジャロッドの外周面に嵌め込まれることにより潤滑装置を構成する。先行文献1の請求項の2,3において、潤滑剤を満遍なく塗布するため突出孔の形成方向が各方向に向く様に記載されている。しかし、本構造ではプランジャスリーブの内周面に潤滑剤を塗布するだけで、高温になったプランジャスリーブ内周面で水分が蒸発した後に残る潤滑剤の形成膜が薄く、射出前進時のチップとプランジャスリーブとの間に充分な潤滑効果が発揮できないことが判明している。チップとプランジャスリーブが齧ると射出前進速度が波打ち、プランジャスリーブ内の溶湯にエアーを巻き込み、鋳造製品の品質が悪くなる(巻き込み巣が増える)。
このように、従来技術においては、潤滑剤がガス化して溶湯に混入したり、潤滑作用が不十分である等の問題があった。
【0012】
【特許文献1】特開2005−349452号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上述した事情に鑑みなされたもので、高真空装置でチップからのガス吸込み防止にピストンリングを使用する方式にて、チップ齧りを防止し、かつ潤滑剤がガス化してAL溶湯内に混入するのを防止する潤滑装置を有するダイカストマシンを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の第1の形態では、上述した目的を達成するために、真空を利用して鋳造成形を実施するダイカストマシン(1)は、静止した固定金型(3)と、固定金型(3)に対して接近又は離隔するように可動である可動金型(2)とを具備する、金型(2,3)であって、可動金型(2)を固定金型(3)に係合させるとそれらの間に、空洞である製品部(6)が形成され、製品部(6)に溶湯(22)を射出することにより製品が鋳造される、金型(2,3)と、製品部(6)に射出される溶湯(22)が給湯されて貯められていて且つ製品部(6)に流体連絡する、貯湯室(23)を形成するスリーブ(8)と、スリーブ(8)内の溶湯(22)を押圧するプランジャ(9,10)とを具備する。プランジャは、スリーブ(8)に嵌合するチップ(9)であって、チップ(9)は、その前面がスリーブ(8)内の溶湯(22)を押圧可能に接触する、チップ(9)と、溶湯室(23)に対向する側で、チップ(9)に連結して駆動力をチップ(9)に伝達するプランジャロッド(10)と、チップ(9)の外周に設置されてスリーブ(8)の内面と接触しながらスリーブの内面に沿って移動可能なピストンリング(11)とを具備する。ダイカストマシン(1)は、ピストンリング(11)に関して(を基準にして)ピストンロッド側において、スプレー潤滑装置(30)を更に具備する。スプレー潤滑装置(30)が、ピストンロッド側の、スリーブ(8)の内面及びチップ(9)の外周(面)に、潤滑剤(37)を吹き付けることを特徴とする。
【0015】
本発明における好適な形態においては、スプレー潤滑装置(30)は、潤滑剤(37)を吐出するための複数のノズル(31)と、ノズル(31)が放射状に取り付けられるノズルプレート(33)とを具備することが好ましい。ノズルプレート(33)は、半径方向に突き出るように形成された複数の突起部(38)と、隣接する前記突起部(38)に挟まれるように配置される凹部(39)とを具備する。ノズル(31)は突起部(38)に設置されており、凹部(39)は、流体が流通可能なように形成される。更には、ノズルプレート(33)は、プランジャロッド(10)を取り囲むようにプランジャロッド(10)に設置されており、突起部(38)は、実質的に等間隔でノズルプレート(33)の周方向に配置されることが好ましい。
【0016】
本発明におけるより好適な形態においては、ノズル(31)は、外側のケーシングであって管状の外管(41)と、外管(41)内において長手方向に伸張する管状の内管(42)とを具備することが好ましい。外管(41)と内管(42)との間の空間を空気等の気体が通過し、内管(42)内を潤滑剤(37)が通過する。また、潤滑剤(37)は、水溶性黒鉛スプレー液であることが好ましい。
【0017】
本発明における好適な形態においては、製品部(6)に流路(17,18)を介して流体連絡して、前記製品部(6)からガスを吸引する、真空ポンプ(16)と、製品部(6)からガスを排出する前記流路(17,18)において、金型(2,3)付近に設けられて、流路(17,18)の開閉を行う真空バルブ(12)とを更に具備することが好ましい。真空バルブ(12)は、製品部(6)内の溶湯(22)が真空バルブ(12)に衝突することにより閉じる。流路(17,18)において、真空バルブ(12)の下流側には、流路(17,18)を開閉可能な真空開閉バルブ(14)が設置される。
【0018】
上記の本発明の説明において、カッコ()内の記号又は数字は、以下に示す実施の形態との対応を示すために添付される。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、高真空法を利用した射出成形鋳造を実施可能なダイカストマシンにおいて、潤滑剤の膜が薄いと、射出時にピストンリングを備えるチップがスリーブを齧る現象が発生することを防止するため、より厚い潤滑剤の膜をスリーブ内壁に形成する目的から、潤滑剤を塗布する場所をチップとプランジャスリーブ内壁の摺動面のプランジャロッド側として、射出後のプランジャロッド後退時に潤滑剤を塗布することで、スリーブ内壁に十分な厚みの潤滑膜を形成することにより、高真空装置でチップからのガス吸込み防止にピストンリングを使用する方式において、チップ齧りを防止する。更に、潤滑剤がガス化して溶湯内に混入するのを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面に基づいて本発明の一実施の形態の高真空ダイカストマシン(鋳造装置)1を詳細に説明する。図1は、本発明の一実施の形態の高真空ダイカストマシン1の金型付近の部分的図式的説明図であるが、一般的なアルミ等の軽金属用高真空ダイカストマシンも基本的に同様な構成を有する。図1は、説明の便宜上、ダイカストマシン1の本発明に関係する構成を部分的に示しており、前出の従来技術の説明においても、図1を参照して一般的な高真空ダイカストマシンについて既に説明した。図2は、高真空ダイカストマシン1のプランジャ付近に設けられたスプレー方式のスプレー潤滑装置30の図式的説明図である。図3は、図2の潤滑装置30の動作の説明図である。図4は、図3におけるA−A断面図であり、ノズルプレート33の構成を示しており、図5は、チップ潤滑ノズル31の図式的側断面図であり、その構造図を示す。
【0021】
まず図1を参照すると、本発明の一実施の形態の高真空ダイカストマシン1の金型付近の構成が図式的に示されている。図1については、従来技術の説明で既に説明したが、ここでは、より詳しく説明する。図1のダイカストマシン1は通常、アルミ等の軽金属の製品の鋳造に使用され、金型装置と、射出シリンダ(その一部のみが図示される)とを具備する。金型装置においては一般的に、対向する一対の固定プラテン(図示されない)と可動プラテン(図示されない)との間に固定金型3と可動金型2が設けられており、固定金型3と可動金型2が図1に示すごとく係合して、それらの間に製品部(キャビティ)6を形成し、製品部6にアルミニウム(AL)等の溶湯22が射出・充填されて鋳造成形品が製造される。製品部6への溶湯22の射出・充填が完了し、製品冷却の後金型(2,3)を開き、図示しないシリンダにより押出板4を押すことにより、製品が押出ピン5に押され、可動金型2から離型される。アルミ溶湯22を射出するために、射出シリンダが設けられており、固定金型3にはアルミ溶湯22が貯められるスリーブ(又は、プランジャスリーブ)8が設置されており、スリーブ8は、固定金型3に設けられた孔に嵌合して、貯湯室23を形成し、更にランナー20、ゲート19を介して製品部6に流体連絡する。
【0022】
本実施の形態において、射出シリンダは、アルミ溶湯を射出するために、油圧駆動式又は電動式又は油圧と電動を組み合わせたハイブリッド式であって良い。射出シリンダは、シリンダ(図示されない)とプランジャ(又は、ピストン)とを具備する。図1において、プランジャの一部分である、プランジャロッド10と、その先に取り付けられていてピストンリング11を具備するチップ(又は、プランジャチップ)9とが示される。プランジャは、チップ9、特にはピストンリング11において、図1に示すように、スリーブ8に係合する。チップ9は、スリーブ8内に嵌合し、スリーブ8内で往復動して、スリーブ8内のアルミ溶湯22を押圧・圧送することによりアルミ溶湯22を金型2,3内の製品部6に射出して鋳造成形する。高真空鋳造を実施するダイカストマシンにおいては、高真空を維持するため、スリーブ8とチップ9との間の隙間をシールする目的から、ピストンリング11は必ず使用する。
【0023】
高真空鋳造方法の場合は従来例で既に説明したように、ブランジャを駆動して射出する際に、図1に示すように、真空ポンプ16により、製品部6から真空バルブ12、第1の真空管路18、真空開閉バルブ14、第2の真空管路17、真空タンク15等を介してガス(一般的に空気)を排出して製品部6を真空にしながら射出を実施する。従って、本実施の形態においては図1に示すように、金型の上部に製品部6に通じる通路(又は、排気管路)が設けられ、その通路に真空バルブ12が設置される。真空バルブ12周りの流路は、シールパッキン7によりシールされる。ここで、真空バルブ12は、ダイカストマシン1の運転開始時に開状態であるが、製品部6内がアルミ溶湯22により充填されると、溶湯の衝突で閉じる構造を有しており、真空バルブ12以降(より下流側)の真空吸引システムへの溶湯侵入を防止するようになっている。
【0024】
図2は、本発明の一実施の形態に従うダイカストマシン1のプランジャ付近に設けられたスプレー潤滑装置30を示す図式的説明図である。本実施の形態において、スプレー潤滑装置30は、ノズルプレート33と、6基のチップ潤滑剤ノズル31とを具備する。図4に示すように、ノズルプレート33は、プランジャロッド10にそれを囲むように取り付けられており、歯状に突起していて且つ実質的に等間隔に配置された6つの突起部38と、隣り合う突起部38に挟まれて配置されるやはり6つの凹部39とを具備することが好ましい。本実施の形態において、各突起部38には、図4に示すように、1つのチップ潤滑ノズル31が、突起部38の概略中心に配置されるので、本実施の形態において、チップ潤滑ノズル31は放射状に実質的に等間隔で6基具備される。但し、突起部38、凹部及びチップ潤滑ノズル31の数は、例えば、3,4,5,7,8等の6以外であっても良く、6より多くても少なくても良い。また突起部38の数とチップ潤滑ノズル31の数が異なっても良い。
【0025】
ノズルプレート33の外周は、円形が6箇所で切り欠かれた形状となっており、その直径は、内面が円形のスリーブ8の直径より少し小さくなっているので、プランジャのチップ9及びプランジャロッド10がスリーブ8内に進む際に、スリーブ8の内壁と干渉することなく通過可能である。チップ潤滑ノズル31は、図5に示すように、二重管構造であり、外管41と内管42とを具備しており、内管を、例えば、水溶性黒鉛スプレー液等の潤滑剤37が流れ、外管41と内管42との間のスペースをエアー又はガスが流れる。エアーが、前記スペースを流れることにより、エアーと共に潤滑剤37が、チップ潤滑ノズル31の先細るようにテーパした先端部に設けられたノズル口43から噴射する。本実施の形態において、6つの凹部は、ノズル口43から噴射したエアーの逃げ道である。
【0026】
図示されてはいないが、プランジャロッド10には縦方向に導管が穿孔されており、該導管はそれぞれ、チップ潤滑ノズル31のエアー通路と潤滑剤の通路である内管42に流体連絡するので、エアー及び潤滑剤は、それぞれ該導管を通り、スプレー潤滑装置30に供給される。プランジャロッド10に縦方向に穿孔されたエアーと潤滑剤の導管は、別個に穿孔されても良く、あるいは二重管の形式で形成されても良い。
【0027】
次に、本実施の形態のダイカストマシン1におけるスプレー潤滑装置30の作動について説明する。
チップ9の後ろに適切な間隔でノズルプレート33が設置されており、射出工程が終了した後の射出後退時に、ノズルプレート33内に配置された複数個(本実施の形態では6基)のチップ潤滑ノズル31から、水溶性黒鉛スプレー液等の潤滑剤37を円周に一様に噴霧する(図3参照)。この際、スプレー液37がチップ9とスリーブ8との間の隙間に入り込み均一な潤滑剤の塗布膜を形成することが好ましく、そのためにチップ潤滑剤ノズル31の噴霧ターゲット(潤滑剤が噴霧されるべき場所)は、チップ9とスリーブ8との間の隙間である。この液37の液体分のみが気化し、潤滑作用を有する黒鉛がスリーブ8内面に付着する。また、後退する高温のピストンリング11とスリーブ内面(通常、約200℃前後になっている)に挟まれて、乾燥が行われ(水分が蒸発する)、かつ、0.1mm以下の薄く完全な塗布膜が形成される。一方、エアー等の気体部分は、凹部39を通り、排出されるので、潤滑室を形成するプランジャロッド10側のチップ9とノズルプレート33との間の空間の圧力が上昇することなく、潤滑剤は正確にピストンリング11の潤滑を実施する。また、スリーブ8内の溶湯に潤滑剤37の液部分が混入してガス化することはない。
【0028】
次に上記実施の形態の効果及び作用について説明する。
本発明の一実施の形態の高真空ダイカストマシン及び鋳造方法により以下の効果が期待できる。
・潤滑剤の膜が薄いと射出時にチップがスリーブを齧る現象が発生することを防止するため、より厚い潤滑剤の膜をスリーブ内壁に形成する目的から、潤滑剤を塗布する場所をチップ9とスリーブ8内壁の摺動面のプランジャロッド10側として、射出後のプランジャロッド後退時に潤滑剤を塗布することで、スリーブ内壁に十分な厚みの潤滑膜を形成することにより、高真空装置でチップからのガス吸込み防止にピストンリングを使用する方式において、チップ齧りを防止する。
・更に、潤滑剤がガス化して溶湯内に混入するのを防止できる。
【0029】
上記において記載した、あるいは図面に示した実施の形態において示される真空バルブ12は、溶湯の衝突により閉じるタイプのものであったが、本発明はこれに限定されず、本発明の真空バルブは、例えば、高速射出段階への切り替え時点からの時間や射出ストロ−ク(又は、射出プランジャの位置)で真空バルブを閉じるタイプ等の、別のタイプであっても良く、本発明は基本的に、真空バルブのタイプによって適用できなくなるものではない。また、上記の実施の形態においては、真空バルブ12に加えて真空開閉バルブ14が具備されるが、本発明において真空開閉バルブが具備されなくても良い。
【0030】
上記の実施の形態において、潤滑剤37は水溶性黒鉛スプレー液であったが、本発明はこれに限定されず、別の潤滑剤であっても良い。
【0031】
また、上記において記載した、あるいは添付図面に示した実施の形態において示される構成は、本発明を説明する上で一般的に必要な構成要素のみを記載又は図示しており、本発明はこれに限定されるものではなく、本発明においては、機能上、制御上、配置上等の必要性に応じて、この構成に追加的に別の構成要素が付け加えられても良く、構成要素の一部が削除されても良い。
【0032】
上記の実施の形態は本発明の例であり、本発明は、該実施の形態により制限されるものではなく、請求項に記載される事項によってのみ規定されており、上記以外の実施の形態も実施可能である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1は、本発明の実施の形態の高真空ダイカストマシンの金型付近の部分的図式的説明図である。
【図2】図2は、本発明の一実施の形態に従う高真空ダイカストマシン1のプランジャ付近に設けられたスプレー方式のスプレー潤滑装置30の図式的説明図である。
【図3】図3は、図2の潤滑装置30の動作の説明図である。
【図4】図4は、図3におけるA−A断面図であり、ノズルプレート33の構成を示す。
【図5】図5は、チップ潤滑ノズル31の図式的側断面図であり、その構造図を示す。
【図6】図6は、従来のダイカストマシンのプランジャチップの潤滑方式の一例であり、「スリーブ内に油性潤滑剤を滴下する方式」の説明図である。
【図7】図7は、従来のダイカストマシンのプランジャチップの潤滑方式の一例であり、「スリーブ後部に切欠を設け、チップ上に油性潤滑剤を滴下する方式」の説明図である。
【図8】図8は、従来のダイカストマシンのプランジャチップの潤滑方式の一例であり、「スリーブ内に水溶性潤滑剤を滴下しエアーブローで拡散させる方式」の説明図である。
【図9】図9は、高真空吸引時の溶湯飛び込み現象説明図である。
【符号の説明】
【0034】
1 ダイカストマシン
2 可動金型
3 固定金型
4 押出板
6 製品部(キャビティ)
8 (プランジャ)スリーブ
9 (プランジャ)チップ
10 プランジャロッド
12 真空バルブ
14 真空開閉バルブ
16 真空ポンプ
17 第2の真空管路
18 第1の真空管路
19 ゲート
20 ランナー
22 (アルミ)溶湯
23 貯湯室
24 注湯口
30 スプレー潤滑装置
31 チップ潤滑剤ノズル
33 ノズルプレート
37 潤滑剤
38 突起部
39 凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空を利用して鋳造成形を実施するダイカストマシン(1)であって、
静止した固定金型(3)と、前記固定金型(3)に対して接近又は離隔するように可動である可動金型(2)とを具備する、金型(2,3)であって、前記可動金型(2)を前記固定金型(3)に係合させるとそれらの間に、空洞である製品部(6)が形成され、前記製品部(6)に溶湯(22)を射出することにより製品が鋳造される、金型(2,3)と、
前記製品部(6)に射出される前記溶湯(22)が給湯されて貯められていて且つ前記製品部(6)に流体連絡する、貯湯室(23)を形成するスリーブ(8)と、
前記スリーブ(8)内の溶湯(22)を押圧するプランジャ(9,10)と、
を具備するダイカストマシン(1)において、
前記プランジャは、
前記スリーブ(8)に嵌合するチップ(9)であって、前記チップ(9)は、その前面が前記スリーブ(8)内の溶湯(22)を押圧可能に接触する、チップ(9)と、
前記溶湯室(23)に対向する側で、前記チップ(9)に連結して駆動力を前記チップ(9)に伝達するプランジャロッド(10)と、
前記チップ(9)の外周に設置されて前記スリーブ(8)の内面と接触しながら前記スリーブの内面に沿って移動可能なピストンリング(11)と、
を具備しており、
前記ダイカストマシン(1)は、前記ピストンリング(11)に関してピストンロッド側において、スプレー潤滑装置(30)を更に具備しており、
前記スプレー潤滑装置(30)は、ピストンロッド側の、前記スリーブ(8)の内面及び前記チップ(9)の外周に、潤滑剤(37)を吹き付けることを特徴とするダイカストマシン(1)。
【請求項2】
前記スプレー潤滑装置(30)は、
潤滑剤を吐出するための複数のノズル(31)と、
前記ノズル(31)が放射状に取り付けられるノズルプレート(33)と、
を具備しており、
前記ノズルプレート(33)は、半径方向に突き出るように形成された複数の突起部(38)と、隣接する前記突起部(38)に挟まれるように配置される凹部(39)とを具備しており、
前記ノズル(31)は前記突起部(38)に設置されており、前記凹部(39)は、流体が流通可能なように形成されることを特徴とする請求項1に記載のダイカストマシン。
【請求項3】
前記潤滑剤(37)が前記チップ(9)と前記スリーブ(8)との間の隙間に入り込み均一な塗布膜を形成するために、前記ノズル(31)の噴霧ターゲットは、前記チップ(9)と前記スリーブ(8)との間の隙間であることを特徴とする請求項2に記載のダイカストマシン。
【請求項4】
前記ノズルプレート(33)は、前記プランジャロッド(10)を取り囲むように前記プランジャロッド(10)に設置されており、前記突起部(38)は、実質的に等間隔で前記ノズルプレート(33)の周方向に配置されることを特徴とする請求項2又は3に記載のダイカストマシン。
【請求項5】
前記ノズル(31)は、外側のケーシングであって管状の外管(41)と、前記外管(41)内において長手方向に伸張する管状の内管(42)とを具備しており、
前記外管(41)と前記内管(42)との間の空間を空気等の気体が通過し、
前記内管(42)内を前記潤滑剤(37)が通過することを特徴とする請求項2から4のいずれか一項に記載のダイカストマシン。
【請求項6】
前記潤滑剤(37)は、水溶性黒鉛スプレー液であることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載のダイカストマシン。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2008−264847(P2008−264847A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−113350(P2007−113350)
【出願日】平成19年4月23日(2007.4.23)
【出願人】(300041192)宇部興産機械株式会社 (268)