説明

ダイカスト機用の鋳造ユニット

本発明は、鋳造室本体1と鋳造ピストン4とを備ええる、ダイカスト機用の鋳造ユニットであって、鋳造室本体1は、鋳造材料入口8及び鋳造材料出口3を備えた、鋳造材料で充填可能な鋳造室2を有しており、鋳造ピストン4は、鋳造材料を加圧して鋳造材料出口をとおして鋳造室から放出するために鋳造室内で鋳造ピストンの長手方向に前進移動可能であるとともに、後退移動可能であり、後退移動により鋳造材料を鋳造材料入口を介して鋳造室内に供給することができる鋳造ユニットに関する。本発明によれば、鋳造ピストン4は、鋳造室本体1の貫通案内開口5を通って外部から鋳造室2内に延びており、鋳造室内に前進移動させられた鋳造ピストンの外套面4bと、鋳造ピストンの長手方向に対して横方向で外套面に対向する鋳造室本体の内壁面1cとの間に、鋳造ピストンの外断面dが鋳造室本体の内断面Dよりも相応に小さいことにより、鋳造室の自由空間領域6が形成される。例えば金属ダイカスト機のために使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はダイカスト機内で使用するための鋳造ユニットに関し、鋳造ユニットは鋳造室本体と鋳造ピストンとを含んでいる。鋳造室本体は、鋳造材料入口及び鋳造材料出口を備えた、鋳造材料で充填可能な鋳造室を有している。鋳造ピストンは、鋳造材料を加圧して鋳造材料出口をとおして鋳造室から放出するために鋳造室内で鋳造ピストンの長手方向に前進移動可能であるとともに、後退移動可能であり、前記後退移動により鋳造材料を鋳造材料入口を介して鋳造室内に供給することができる。
【背景技術】
【0002】
このような鋳造ユニットは典型的には、例えばホットチャンバー又はコールドチャンバー型の適切なダイカスト機内で、金属溶融物を鋳造ピストンの作用によって高速度及び高圧力で鋳造室から金型キャビティ内へ送出するために役立つ。金型キャビティ内では、そのとき金属溶融物の凝固により所望の金属鋳造部品が形成される。鋳造材料、例えば亜鉛、アルミニウム、又はマグネシウムから成る合金、及び製造しようとする鋳造部品に応じて、鋳造ユニットは例えば600℃及び1000barを上回る金属溶融物の比較的高い温度及び圧力に耐えなければならない。このことはよく知られているように、特別な構造手段を必要とする。
【0003】
従来型の鋳造ユニットの場合、鋳造ピストンは典型的には摺動ピストンとして形成されている。摺動ピストンは中空円筒状の鋳造室本体内で軸方向に前進移動及び後退移動を行うことができる。その外断面は、鋳造室本体の内断面に一致する。換言すれば、このような摺動ピストンは、鋳造室容積を可変に仕切る、鋳造室の軸方向移動可能な端壁を形成する。このような従来のタイプの鋳造ピストンは、その外断面が鋳造室本体の内断面に一致することによって、鋳造室容積とこのような端面との間を、場合によっては例えばピストン外周面に配置されている割り付けられたシール部材によって支援された状態で密閉している。鋳造ピストンへの力伝達は、鋳造ピストンの、鋳造室とは反対側の端面に設けられた、鋳造ピストンよりも断面が小さいピストン軸を介して行われる。鋳造ピストン軸は、例えば鋳造室本体に設けられた関連する貫通案内開口を通って鋳造室本体から引き出されており、この貫通案内開口は、ピストン軸の横断面に一致する横断面を有しており、ピストン軸の横断面は、鋳造ピストン外断面及び円筒状の鋳造室本体の内断面よりも小さい。
【0004】
種々の従来型の鋳造ユニットが、例えば独国特許出願公開第102005009669号明細書、同第19544716号明細書、及び同第4316927号明細書、並びに欧州特許第1483074号明細書に開示されている。
【0005】
上記タイプの摺動ピストンを有する鋳造ユニットは、いくつかの具体的な技術的難題に直面する。一つの問題点はいわゆる表皮凝固作用である。鋳造室本体のシリンダ壁が比較的低温であることにより、溶融物材料はその内壁で凝固し、そして二次元的な面接触で密着した状態でこの内壁に沿って動く鋳造ピストンの移動を妨げ、もしくは困難にするおそれがある。さらに、鋳造ピストンが後退すると、鋳造材料だけでなく大抵の場合空気も鋳造室内に存在する。この空気は型充填作動時、すなわち鋳造ピストンの前進移動時に再び排出されなければならない。つまりこの空気は溶融物酸化の問題を引き起こすおそれがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の根底を成す技術的課題は、摺動ピストンタイプの従来型の鋳造ユニットの上記難点を取り除くか或いは少なくとも軽減することのできるダイカスト機用の鋳造ユニットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明はこの課題を、請求項1の特徴を有する鋳造ユニットを提供することによって解決する。この鋳造ユニットでは、鋳造ピストンが、鋳造室本体の貫通案内開口を通って外部から鋳造室内に延びており、鋳造室内に前進移動させられた鋳造ピストンの外套面と、鋳造ピストンの長手方向に対して横方向で前記外套面に対向する鋳造室本体の内壁面との間に、鋳造ピストンの外断面が鋳造室本体の内断面よりも相応に小さいことにより、鋳造室の自由空間領域が形成される。
【発明の効果】
【0008】
換言すれば、本発明による鋳造ユニットの鋳造ピストンは、鋳造室内への前進移動によって鋳造室容積を適切に低減する押し退けタイプであって、この場合ピストンの外断面が従来型の摺動ピストンの形式に従って全面的に密着した状態で鋳造室本体の内断面に当て付けられることはない。自由空間領域を残しておくことにより、鋳造ピストンの外断面と、鋳造ピストンの長手方向に対して横方向で対向する鋳造室本体の内断面との間の、例えば表皮凝固作用に起因するいかなる摩擦問題も生じない。二次元的な面摩擦接触による摩擦問題は、貫通案内開口の領域に極めて局所的に限定され得る。これは、従来の摺動ピストンタイプにおいて摺動長さ全体に沿って鋳造ピストンの外断面領域と鋳造室本体の内断面領域との間に生じる従来の摩擦問題よりも著しく容易に抑制することができる。必要な場合には、鋳造ピストンと鋳造室仕切り壁との間の案内接触を一次元的線状にだけ、又はゼロ次元的点状にだけ維持することもできる。さらに、鋳造ユニットの本発明によるこの構成は、周囲空気が鋳造室内に不可避的に達することなしに、鋳造室が常に鋳造材料で完全に充填された状態を保つ可能性を比較的容易に提供する。
【0009】
本発明の別の構成では、鋳造材料入口は、自由空間領域内及び/又は鋳造室の鋳造材料出口内に開口している。このことは結果として、鋳造ピストンが最大限に前進移動しても鋳造室入口が鋳造ピストンによって塞がれないので有利である。従って、鋳造材料は、鋳造ピストンの最大前進移動位置からの後退移動開始時に既に、鋳造材料入口を介して鋳造室内に供給され得る。これとは対照的に、摺動ピストンタイプの従来型の鋳造ユニットの場合には、鋳造材料入口は大抵の場合、前進移動させられた鋳造ピストンによって塞がれ、そして鋳造ピストンがある程度の経路長さだけその最大前進移動から戻されて初めて、鋳造ピストンから解放される。本発明の鋳造ユニットはしたがって、鋳造室内への鋳造材料の一様で均質な供給を可能にし、ひいては望ましくない乱流が発生すること、及び鋳造ピストンの後退移動時に鋳造材料出口をとおして周囲空気が望ましくなく吸い込まれることを回避可能にする。鋳造室はこれにより、常に完全に鋳造材料で充填された状態を容易に保つことができる。
【0010】
別の構成では、鋳造材料入口、及び/又は鋳造材料入口に割り当てられた鋳造材料供給導管が閉鎖要素を備えており、前記閉鎖要素は、鋳造材料が鋳造材料入口を介して鋳造室から流出するのを防止する。要求及び用途に応じて、これは、それ自体は従来タイプの能動的又は受動的に作用する閉鎖要素、例えば適切な逆止弁であってよい。
【0011】
本発明の別の構成では、鋳造室本体は中空シリンダを有しており、そして貫通案内開口は中空シリンダの端部に設けられている。このようになっていると、鋳造ピストンは例えば、中空シリンダの長手方向軸線に対して平行なピストンの長手方向軸線を有して、貫通案内開口をとおして鋳造室内で軸方向に延びることができる。別の構成では、鋳造材料出口及び/又は鋳造材料入口は、貫通案内開口に対向する中空シリンダの端部、又は中空シリンダのシリンダ外套面に設けられている。これらの位置決め処置は、鋳造室内に導入されるべき鋳造材料及び鋳造室から加圧されて金型キャビティ内に放出可能な鋳造材料のための好都合な流動特性に貢献することができる。
【0012】
本発明の別の構成では、鋳造ピストンのための案内スリーブが設けられており、案内スリーブが、貫通案内開口の、鋳造室とは反対側の外側から外に向かって、及び/又は貫通案内開口の、鋳造室に向いた内側から鋳造室内に延びている。この案内スリーブによって、鋳造ピストンはその前進及び後退移動中に付加的に支持及び案内され得る。
【0013】
本発明の別の構成では、鋳造ピストン貫通案内部を封止するためのシール要素が設けられている。一つの可能な実施例において、シール要素は、貫通案内開口もしくは案内スリーブの、鋳造室の方に向いた内側に配置されている。内側に配置することの利点は、この領域内で凝固作用が生じた場合、鋳造ピストンの前進移動時に、凝固された溶融材料を鋳造室内に問題なく押し込むことができ、鋳造ピストンと鋳造室本体の内壁との間に妨害的な摩擦現象が生じないことである。鋳造ピストンの後退移動時にも、場合によっては貫通案内開口もしくは案内スリーブの内側のシール要素の領域内で凝固する溶融材料が問題を招くことはない。これは、この後退移動が鋳造ピストンの前進移動と異なりほとんど無圧状態で行われ得るという理由からだけでも既に言えることである。それというのも、鋳造室内の鋳造材料は鋳造ピストンの後退移動時には、鋳造ピストンの前進移動時の型充填段階中に生成される圧力ほど高い圧力下にはなく、無圧であるか、又は高くても著しく小さな供給圧力下にあるからである。この供給圧力は鋳造室内への鋳造材料の補給のために任意選択的に使用され得る。
【0014】
本発明の別の構成では、鋳造ピストンに少なくとも部分的に能動的な温度調節を施すための鋳造ピストン温度調節装置が設けられている。これにより、要求及び用途に応じて、鋳造ピストンの温度に能動的に影響を与えることができる。鋳造ピストンの、その都度鋳造室内に位置する部分は、その場所にある高温鋳造材料による温度の作用を受ける。この手段の構成において、鋳造ピストン温度調節装置は、鋳造ピストンの長さの少なくとも一部に沿った予め規定可能な温度プロファイルに従って、鋳造ピストンを能動的に温度調節できるように構成されている。例えばこれにより、鋳造ピストンに沿った温度勾配をもたらす、鋳造室内の高温鋳造材料の鋳造ピストンに与える温度の影響を適切に部分補償又は完全補償することができる。
【0015】
本発明の別の構成では、鋳造室に能動的な温度調節を施すための鋳造室温度調節装置が設けられている。このことは例えば、鋳造室内の溶融物凝固作用を予防し、もしくは鋳造室内の鋳造材料の比較的一様な温度分布を達成するために活用することができる。
【0016】
本発明の別の構成では、鋳造ユニットは環状逃げ溝と逃げ通路とを有している。環状逃げ溝は、貫通案内開口又は案内スリーブの、鋳造ピストンに向き合う内壁に位置し、及び逃げ通路は環状逃げ溝から鋳造室本体の外側へ通じている。例えば摩耗のために、何らかの溶融材料又は他の流体が鋳造ピストンと貫通案内開口もしくは案内スリーブとの間に達すると、これは環状逃げ溝と逃げ通路とを介して、制御された状態で外に向かって導出され得る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
本発明の有利な実施例を図面に示し以下に説明する。
【図1】図1は、ダイカスト機用の鋳造ユニットを概略的に示す側面図である。
【図2】図2は、環状逃げ溝と逃げ通路とを備えた鋳造ユニットの変更形を示す、図1に対応する図である。
【図3】図3は、鋳造材料入口が鋳造室の自由空間領域内ではなく鋳造材料出口領域内に開口する鋳造ユニットの変更形を示す、図2に対応する図である。
【図4】図4は、鋳造ピストン案内スリーブが鋳造室から外に向かって延びるのではなく、主として鋳造室内に延びる鋳造ユニットの一変更形を示す、図2に対応する図である。
【図5】図5は、能動的な鋳造室温度調節が行われない鋳造ユニットの一変更形を示す、図4に対応する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1に概略的に示された鋳造ユニットは、液状及び部分液状の金属溶融物、例えば錫、亜鉛、鉛、アルミニウム、マグネシウム、チタン、鋼、又は銅から成る合金、もしくはこれらの金属のうちの複数の金属、複数の金属の混合物、並びに任意選択的には粒子の混和物を含むこのような種類の材料を所属するダイカスト機内で加工するのに特に適している。鋳造ユニットは、要求に応じて、そして特にダイカスト機のタイプに応じて、例えばいわゆる縦型又は横型の鋳造ユニットとして、当該ダイカスト機内に組み込むことができる。鋳造ユニットは鋳造室本体1を有している。鋳造室本体1は図示の例では、中空シリンダ1aを含んでいて、中空シリンダ1aの内部は鋳造室2を形成している。図1の右側の端面には、鋳造材料出口3が設けられている。鋳造材料出口3を介して、鋳造材料を鋳造室2から、ここには十分には図示していない従来の形式で、金型キャビティ内に送出することができる。金型キャビティはダイカスト機の固定された金型半体部と可動の金型半体部とから形成され、製造しようとする鋳造部品の輪郭を形成する。
【0019】
さらに、鋳造ユニットは鋳造ピストン4を保持している。鋳造ピストンは細長い押し退けピストンとして実現されており、鋳造室本体1の貫通案内開口5を通って外部から鋳造室2内へ延びている。図示の例では、貫通案内開口5は、中空円筒状の鋳造室本体1の、鋳造材料出口3に対向する端面に設けられており、しかも鋳造材料出口3と同様に、鋳造室の中空シリンダ1の長手方向軸線1bに対して同軸的に設けられている。鋳造ピストン4は、両頭の移動矢印Bで示されているように、中空シリンダの長手方向軸線1bに整列する長手方向軸線4aを有して軸線方向に往復移動可能に保持されている。鋳造ピストンは図1において後方終端位置で示されている。
【0020】
鋳造ピストン4の外径dは、少なくとも鋳造室2内に移動可能なもしくは貫通案内開口5を通って移動可能な、鋳造ピストン4の部分にわたって一定であり、貫通案内開口5の直径にほぼ一致する。任意選択的には、鋳造ピストン4のこの部分は僅かに円錐形状を有していてもよい。この場合には、適合するシール部材を調達しなければならない。これに対して、鋳造室の中空シリンダ1aは、より大きい内径D、すなわちD>dを有しているので、鋳造室内に前進移動させられた鋳造ピストンの部分と、半径方向に対向する鋳造室壁との間に、環状ギャップ6が鋳造室の自由空間領域として残される。この自由空間領域は依然として鋳造室容積の一部である、というのも自由空間領域は鋳造ピストンによっては閉鎖されないからである。換言すれば、図1において破線で示された、推し進められた鋳造ピストン位置4’では、鋳造ピストン4の外套面4bと、中空円筒状の鋳造室本体1の内壁面1cとは、半径方向の自由空間距離D−dを置いて対向している。このように形成された自由空間環状ギャップ6は運転中には鋳造室2内にある鋳造材料で永続的に充填されている。言うまでもなく、鋳造ピストン4は、鋳造室2内に移動できないその後ろ側部分では、任意の横断面形状、例えば段付き形状又は円錐形状を有することができる。
【0021】
図示のピストン後方終端位置では、鋳造ピストン4の鋳造室側の端部4cは、鋳造室2の貫通案内開口5に対して僅かな距離を置いて位置している。鋳造ピストン4は、この後方終端位置から、所望量の液状又は部分液状の鋳造材料が関連する型充填作動で鋳造室2から金型キャビティ内へ放出される距離だけその都度前進移動され得る。すなわち、放出されるべき鋳造材料の体積は、鋳造ピストン4の、鋳造室2内へ移動させられた部分の体積と同じである。最大で鋳造ピストン4は、その前端部4cが鋳造室本体1の内壁の、鋳造材料出口3が位置する端面に達する位置にまで前進移動されることが可能であり、この例の場合のピストン直径dは鋳造材料出口3の直径aよりも大きい。その代わりに、鋳造材料出口3の直径aをピストン直径dよりも大であるように選択することもできる。この場合には、鋳造ピストン4の前端部4cは、当該の用途の目的に合っているならば、鋳造材料出口3内に前進移動され得る。鋳造ピストン4の前方終端位置は、この場合、鋳造ピストン4のための従来型の、図示されていない駆動装置の行程によって、又は対応する制限ストッパによって定められるだろう。
【0022】
鋳造材料は、鋳造材料供給導管7及びそれに付属する鋳造材料入口8を介して鋳造室2に供給することができる。鋳造材料入口8は、中空シリンダ1aのシリンダ外套面内に形成されている。この結果、鋳造材料入口8は鋳造室2の環状ギャップ形の自由空間領域6内に開口し、これにより、前進移動させられた鋳造ピストン4によって閉鎖されることはない。鋳造材料入口8及び/又は鋳造材料供給導管7は能動的又は受動的に作用する閉鎖要素9を備えている。この閉鎖要素によって、鋳造ピストン4が鋳造室2内に前進移動したときに、鋳造室内に位置する鋳造材料が鋳造材料入口8をとおして逃げることが阻止される。例えば、閉鎖要素9は概略的に示されているように逆止弁として実現されてよい。
【0023】
貫通案内開口5を通る鋳造ピストン4の貫通案内に封止作用をもたらすために、シール要素10、例えばシール性ゴムリング又は金属リングが、貫通案内開口5の、鋳造室側の内側に設けられている。シール要素10は、鋳造室2内の鋳造材料の圧力下で、通過する鋳造ピストン4に密着するように押し付けられ、及び/又は貫通案内開口5内に嵌め込まれるかもしくは挿入されるように、例えば適切に成形されたシールリップ要素として好ましく形成されている。シール要素10のために、要求に応じて、適切な幾何学的形状を有する弾性的又は非弾性的な構造形態を利用することができる。
【0024】
軸方向移動可能な鋳造ピストン4を案内するために、ピストン直径dに一致するスリーブ内径を有する案内スリーブ11が設けられている。この案内スリーブ11は図示の例では、鋳造室本体1の軸方向段部もしくはフランジとして実現されている。同時に、案内スリーブ11は図示の実施例では、案内スリーブ温度調節装置12を収容するために役立つ。案内スリーブ温度調節装置12は、能動的な案内スリーブ温度調節のために役立ち、そして図示のように貫通案内開口5の領域内に軸方向に延びることもできる。温度調節装置12は案内スリーブ11内で案内される鋳造ピストン4を温度調節することに貢献することもできる。案内スリーブは例えば、液状又は気体状の温度調節媒体を有するタイプであってよく、前記温度調節媒体は温度調節通路を通して導かれる。これらの温度調節通路は、案内スリーブ11もしくは貫通案内開口5の対応する部分内で鋳造ピストン4を同軸的に取り囲んでいる。
【0025】
能動的な鋳造ピストン温度調節のために、図示の実施例において実現されているように、相応の鋳造ピストン温度調節装置14が設けられてよい。この鋳造ピストン温度調節装置14は、例えば液状又は気体状の温度調節媒体を有するタイプであり、温度調節媒体は、鋳造ピストン4それ自身の中に延びている一つ以上の温度調節通路14aを通して導かれる。図示の実施例において、このことは、温度調節管15が、この目的で中空シリンダとして実現された鋳造ピストン4の内室16内に長手方向同軸的に、温度調節管15と鋳造ピストンの内壁との間に環状ギャップを残しながら挿入されることによって実現されている。環状ギャップが第1の温度調節通路を具現するのに対して、温度調節管15は第2の温度調節通路を具現する。温度調節媒体は、両温度調節通路のうちの一方を介して、前方の鋳造ピストン領域内まで案内されており、他方の温度調節通路を介して再び後方に向かって導出されることができる。
【0026】
上記温度調節装置12,14は、例えば鋳造室内への鋳造ピストンの前進移動可能な長さの少なくとも一部に沿った予め規定可能な温度プロファイルに従って、鋳造ピストン4もしくは案内スリーブ11の問題になっている部分を能動的に温度調節するために使用することができる。特にこれにより、要求及び用途に応じて、例えば、ピストン材料の膨張率が局所的に異なることに基づいて貫通案内開口5における鋳造ピストン4の封止を難しくするおそれがある鋳造ピストン4内の高い軸方向温度勾配を生じさせないことを目的として、鋳造室内へ移動可能な鋳造ピストン4の部分に及ぼされる、鋳造室2内の高温鋳造溶融物の温度の影響に抗するように作用することができる。両温度調節装置12,14は、鋳造ピストン4及び目的に合う場合には案内スリーブ11の所望の温度調節を行うというこの目的において、適切に互いに調和されることができる。別の実施例では、両温度調節装置12,14のうちの一方だけが設けられてもよい。
【0027】
さらに、鋳造室温度調節装置13が設けられている。鋳造室温度調節装置13によって、鋳造材料入口8及び隣接する鋳造材料供給導管7と、鋳造材料出口3及び隣接する鋳造材料出口導管とを含む鋳造室2を、所望の制御可能な様態で能動的に温度調節することができる。そのために、この温度調節装置13も例えば液状又は気体状の温度調節媒体を有するタイプであってよい。前記温度調節媒体は、中空シリンダ1aもしくは鋳造材料供給導管7及び/又は鋳造材料出口導管を同軸的に取り囲む温度調節通路を通して導かれる。従ってこの温度調節装置13によって、鋳造材料がその都度次の鋳造作動のために供給導管7を介して鋳造室2内に導かれ、その場所で貯えられ、次いで型充填作動において鋳造材料出口3を介して放出されるときに、鋳造材料を著しい温度勾配なしに、比較的一定の温度レベルに保つことができる。必要な場合には、温度調節装置13は別個に制御可能な複数の温度調節ゾーンもしくは温度調節ユニットに分割されてよい。
【0028】
構造条件に関する上記説明から明らかなように、図示の鋳造ユニットの場合、鋳造ピストン4は純然たる押し退けピストンとして作用する。鋳造室2内へのこの押し退けピストンの前進が、通常のように高速度及び高圧力のもとで鋳造室2から金型キャビティ内へ放出されるべき溶融物の量を決定する。鋳造ピストン4は無支持の状態で鋳造室2内へ移動し、この場合その外套面を鋳造室本体1のシリンダ内壁に面状に沿って導くことはない。従来の摺動ピストンタイプの鋳造ユニットに内在するような、鋳造ピストンと鋳造室壁との間の対応する滑り面に生じる妨害的な摩擦作用は、押し退けピストンタイプのこの鋳造ユニットでは原理的に発生しない。
【0029】
さらに、型充填作動終了後の鋳造ピストン4の後退移動時に、空気が鋳造室2内に達することを比較的容易に回避することができる。それというのも、前進移動させられた鋳造ピストン4が鋳造材料入口8を閉鎖しないので、鋳造ピストン4が後退移動するとすぐに鋳造材料は、供給導管7を介して、そして次いで開いた閉鎖要素9を介して鋳造室2内に補給され得るからである。鋳造材料のこの導入は、例えばほぼ無圧で又は僅かな正圧で行われ、いずれの場合にも、例えば鋳造材料入口3を介した空気の吸引を必要に応じて回避することができる。補給はさらに、その都度の鋳造サイクルの終わり近くに、鋳造材料凝固の結果として、空気の吸引を阻止する閉鎖栓を鋳造材料出口に形成することにより改善することができる。
【0030】
ここに実現された押し退けピストン原理は、型充填を生じさせるための、高圧力の形成及び高速度による鋳造ピストン4の移動を容易にし、その時閉じられた閉鎖要素9が鋳造材料入口8を閉じたままにするので、鋳造ピストン4によって押し退けられた鋳造材料は鋳造材料出口3だけを通って鋳造室2から、金型キャビティを充填するために出て行く。さらに本発明による鋳造ピストン構造の利点は、ピストン潤滑剤が必要とならず、その結果、対応する残滓が製造済鋳造部品に発生しないことである。
【0031】
図2〜5は、図1の鋳造ユニットの種々異なる有利な変更形を示している。理解を容易にするために、同一又は機能的に同等の要素に対しては同じ符号を用い、この点に関しては図1の鋳造ユニットの上記実施態様を参照することができる。
【0032】
図2に示された鋳造ユニットは、図1の鋳造ユニットに加えて、環状逃げ溝17と、それに割り当てられた逃げ通路18とを有している。環状逃げ溝17は、この例では案内スリーブ11の内壁に円環状に形成され、正確に言うと鋳造室本体1の貫通案内開口5と、案内スリーブ11の軸方向の外端との間の軸方向高さに形成されている。逃げ通路18は環状逃げ溝17から外方へ、すなわち鋳造室1の外側の外部空間内に通じている。このために、逃げ通路18は、例えば案内スリーブ11の壁を通る半径方向孔として形成されている。
【0033】
環状逃げ溝17は逃げ通路18と共に漏出物導出手段を形成することにより、例えば鋳造ピストン4の外側、シール要素10、及び/又は貫通案内開口5の内側もしくは案内スリーブ11の内側に生じる摩耗現象に基づいて、場合によっては鋳造ピストン4と貫通案内開口5との間の間隙内に望ましくない形で侵入する何らかの材料、例えば溶融材料を制御された状態で導出することができる。
【0034】
図3に示された鋳造ユニットが図1及び2の鋳造ユニットと異なっているのは、鋳造材料入口8が自由空間領域6内に開口するのではなく、鋳造室2の鋳造材料出口3の領域内に開口している点である。鋳造材料入口8のこの配置も、鋳造材料入口8が、前進移動する鋳造ピストン4によって閉鎖されないことを保証する。また、その他の点では、図1及び2の実施例に関して上述した特徴及び利点が、図3の鋳造ユニットにも同様に当てはまる。
【0035】
図4に示された鋳造ユニットが図1及び2の鋳造ユニットと異なっているのは、鋳造ピストン4の支持された案内のために、案内スリーブ11’が形成されており、案内スリーブ11’は、この場合主として鋳造室2内に突入する、すなわち鋳造ピストン4と鋳造室内壁1cとの間に残された自由空間領域6内に突入する、予め規定可能な軸方向の案内スリーブ長さを有している点である。シール要素10はこの例において、この案内スリーブ11’の内端部の領域内に配置され、もしくはこの領域内に挿入されている。鋳造ユニットのこの変更形においても任意選択的に設けることができる逃げ溝17及び逃げ通路18は、本来の鋳造室の中空シリンダ1aから外方へ向かう、鋳造ピストン4の案内スリーブ支持部の比較的短い軸方向部分の領域内に配置される。
【0036】
実施例のこの変更形において、案内スリーブ11’の大部分が、鋳造室2内に位置しており、従って稼働中にその場所に存在する溶融材料によって加熱されることができるので、図1〜3に示されているような案内スリーブ温度調節装置12は任意選択的には省略することができる。
【0037】
図5に示された鋳造ユニットは、この場合能動的な鋳造ピストン温度調節のための温度調節装置13が設けられていないことを除けば、図4の鋳造ユニットに同じである。この鋳造ユニットは、例えば鋳造室2の能動的な加熱を必要としない用途に適している。この変更形は例えば、鋳造ユニット全体が溶融浴中に浸されていて、鋳造ユニットが高温の溶融材料を介して受動的に加熱される、すなわち高温の液状溶融材料が鋳造室2もしくは鋳造室本体1を取り囲み、これを外側から高温に保つようになっている用途のために利用することができる。加えて、図示された他の実施例の場合にも当てはまるように、鋳造材料入口8を経由して溶融浴から鋳造室2内へ導入された溶融材料は、鋳造室2を内部から高温に保つことができる。
【0038】
言うまでもなく、図2〜5の変更形に関して述べた種々異なる改変を別の形式で組み合わせた、本発明による鋳造ユニットの更なる変更形が可能である。例えば全ての事例において、環状逃げ溝17は逃げ通路18とともに任意選択的には設けられていてもいなくてもよい。この場合、環状逃げ溝17は、上述の円形形状の代わりに、例えばらせん状に巻かれた輪郭を有していてもよい。図3に示されたような、鋳造材料出口3の領域内への鋳造材料入口8の開口は、図4及び5の変更形にも設けられてよい。さらに、図5に示された、能動的には加熱されない鋳造室2を備えた変更形において、主として鋳造室2内に面している図示の案内スリーブ11’の代わりに、図1〜3の変更形の案内スリーブ11のように、主として外部に面している案内スリーブが設けられてよい。
【0039】
さらに、本発明が図示の、もしくは上述の実施例に限定されないことは言うまでもない。つまり本発明の他の実施例において、更なる改変を加えることができ、例えば円形でない横断面及び適切に形成された貫通案内開口を備えた鋳造ピストンを有することができ、及び/又は、案内スリーブは、鋳造室本体とは別個の構成要素として、場合によっては、鋳造室本体に組み付けられた構成要素として実現することができる。本発明の更なる実施例において、鋳造材料入口及び鋳造材料出口は、図示の実施例におけるこれらの位置を交換することができ、或いは、任意の他の位置で鋳造室内に開口することができる。鋳造ピストンは対応する実施例において、鋳造材料出口及び/又は鋳造材料入口の長手方向に対して横方向に鋳造室内で延びることができる。上述の温度調節装置12,13,14のそれぞれに関して、上述のもの以外に、この用途の当業者によく知られている他のいずれの構造タイプも使用可能であり、加熱装置の場合には、例えば電気的な加熱要素を備えた電気的な加熱装置を使用することもできる。
【0040】
図示の例において、自由空間領域は、周方向で連続した環状ギャップとして形成されている。すなわち鋳造ピストンは鋳造室2内で支持なしに自由に移動する。別の実施例では、鋳造室内部で鋳造ピストンの点状又は線状の案内部材が設けられてもよい。すなわち、このような実施例では、鋳造ピストンの外套面は一つ以上の線接触部材に沿って、及び/又は一つ以上の点接触部材に沿って、鋳造ピストンの移動方向に対して横方向に対向する鋳造室の仕切り壁に当て付けられる。これらの場合、鋳造ピストンと鋳造室仕切り壁との間にある程度の摩擦が依然として生じはするが、一次元的線接触だけ又はゼロ次元的点接触だけしか存在しないことによって、鋳造ピストンの外套面が二次元摩擦接触面によって対向する鋳造室壁に全面的に当て付けられる摺動ピストンタイプの従来例におけるよりも摩擦は小さくなる。このように、図示された実施例は、線接触の意味において改変されて、例えば中空シリンダ内壁1c又は鋳造ピストン外套面4bが、周面に分配されて配置された、軸方向構成要素とともに延びる案内隆条を備え、これらの案内隆条が鋳造室2内部で鋳造ピストン4をその軸方向移動に際して案内するように保持するようにすることもできる。これらの案内隆条はこの場合、環状ギャップ自由空間6を複数の適切なセグメントに分割する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳造室本体(1)と鋳造ピストン(4)とを備える、ダイカスト機用の鋳造ユニットであって、
前記鋳造室本体(1)は、鋳造材料入口(8)及び鋳造材料出口(3)を備えた、鋳造材料で充填可能な鋳造室(2)を有しており、
前記鋳造ピストン(4)は、鋳造材料を加圧して前記鋳造材料出口をとおして前記鋳造室から放出するために前記鋳造室内で鋳造ピストンの長手方向に前進移動可能であるとともに、後退移動可能であり、前記後退移動により鋳造材料を、前記鋳造材料入口を介して鋳造室内に供給することができる、鋳造ユニットにおいて、
前記鋳造ピストン(4)が、前記鋳造室本体(1)の貫通案内開口(5)を通って外部から前記鋳造室(2)内に延びており、前記鋳造室内に前進移動させられた前記鋳造ピストンの外套面(4b)と、前記鋳造ピストンの長手方向に対して横方向で前記外套面に対向する、前記鋳造室本体の内壁面(1c)との間に、前記鋳造ピストンの外断面(d)が前記鋳造室本体の内断面(D)よりも相応に小さいことにより、前記鋳造室の自由空間領域(6)が形成されることを特徴とする、ダイカスト機用の鋳造ユニット。
【請求項2】
前記鋳造材料入口は、前記自由空間領域内及び/又は前記鋳造材料出口内に開口していることをさらに特徴とする、請求項1に記載の鋳造ユニット。
【請求項3】
前記鋳造材料入口及び/又は前記鋳造材料入口に割り当てられた鋳造材料供給導管(7)が閉鎖要素(9)を備えており、前記閉鎖要素は、鋳造材料が前記鋳造材料入口を介して前記鋳造室から逃げるのを防止することをさらに特徴とする、請求項2に記載の鋳造ユニット。
【請求項4】
前記鋳造室本体は中空シリンダ(1a)を有しており、前記貫通案内開口が前記中空シリンダの端部に設けられていることをさらに特徴とする、請求項1から3までのいずれか一項に記載の鋳造ユニット。
【請求項5】
前記鋳造材料出口及び/又は前記鋳造材料入口は、前記貫通案内開口に対向する前記中空シリンダの端部、又は前記中空シリンダのシリンダ外套面に設けられていることをさらに特徴とする、請求項4に記載の鋳造ユニット。
【請求項6】
前記鋳造ピストンのための案内スリーブ(11)が設けられており、前記案内スリーブが、前記貫通案内開口の、前記鋳造室とは反対側の外側から外に向かって延びていること、及び/又は前記貫通案内開口の、前記鋳造室に向いた内側から前記鋳造室内に延びていることをさらに特徴とする、請求項1から5までのいずれか一項に記載の鋳造ユニット。
【請求項7】
前記鋳造ピストン貫通案内部を封止するためのシール要素(10)が設けられていることをさらに特徴とする、請求項1から6までのいずれか一項に記載の鋳造ユニット。
【請求項8】
前記鋳造ピストンに少なくとも部分的に能動的な温度調節を施すための鋳造ピストン温度調節装置(14)、及び/又は案内スリーブ温度調節装置(12)が設けられていることをさらに特徴とする、請求項1から7までのいずれか一項に記載の鋳造ユニット。
【請求項9】
前記温度調節装置は、前記鋳造室内への前記鋳造ピストンの前進移動可能な長さの少なくとも一部に沿った予め規定可能な温度プロファイルに従って、前記鋳造ピストンを能動的に温度調節するように構成されていることをさらに特徴とする、請求項8に記載の鋳造ユニット。
【請求項10】
前記鋳造室に能動的な温度調節を施すための鋳造室温度調節装置(13)が設けられていることをさらに特徴とする、請求項1から9までのいずれか一項に記載の鋳造ユニット。
【請求項11】
前記貫通案内開口又は案内スリーブの、前記鋳造ピストンに向き合う内壁に位置する環状逃げ溝(17)と、そして前記環状逃げ溝から、前記鋳造室本体の外側へ通じる逃げ通路(18)とが設けられていることをさらに特徴とする、請求項1から10までのいずれか一項に記載の鋳造ユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2013−512106(P2013−512106A)
【公表日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−540417(P2012−540417)
【出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【国際出願番号】PCT/EP2010/068123
【国際公開番号】WO2011/064253
【国際公開日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(304029620)オスカー フレッヒ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディトゲゼルシャフト (8)