説明

ダイカスト鋳造における昇圧時間測定方法

【課題】サージ圧や増圧切替えのタイムラグに影響されることなく昇圧時間を正確に求めることができるようにする。
【解決手段】金型キャビティ内に溶湯が充填完了(B)した後のプランジャ速度Vの減速波形Vc上に昇圧開始の測定ポイントMSを設定すると共に、溶湯圧力Pの昇圧波形Pc上の高圧側に昇圧終了の測定ポイントMEを設定し、前記測定ポイントMSに基づいて昇圧開始時点TSを、前記測定ポイントMEに基づいて昇圧終了時点TEをそれぞれ測定し、昇圧開示時点TSから昇圧終了時点TEに達するまでの時間を昇圧時間tとする。溶湯圧力Pと無関係に測定した昇圧開始時点TSを用いて演算されるので、得られる昇圧時間tの値は正確となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイカスト鋳造において金型キャビティ内に溶湯が充填完了した後の昇圧時間を測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイカスト鋳造においては、通常、射出速度を低速から高速へ切替えて金型キャビティ内に溶湯を射出、充填した後、射出圧力(溶湯圧力)を昇圧して溶湯補給を行い、引け巣などの鋳造欠陥の発生を防止するようにしている。この際、金型キャビティ内への溶湯の充填完了と同時にゲート内での凝固が始まるため、前記昇圧は、溶湯の充填完了後、短時間で終了させる必要があり、昇圧に時間がかかる場合は、溶湯補給が不十分となって、鋳造欠陥、特に引け巣の発生が避けられないようになる。このため、従来は、鋳造工程中、溶湯にかかる圧力(以下、これを溶湯圧力という)の変化をセンサにより監視し、得られた圧力波形上に昇圧開始値と昇圧終了値とを設定して、前記昇圧開始値を超えた時点から昇圧終了値に達した時点までの時間を求め、この時間(昇圧時間)が所定時間を超える場合に鋳造不良と判断し、警報を発し、あるいはマシンを停止して成形条件を見直すか、マシンあるいは金型に異常がないかを点検するようにしていた。
【0003】
ところで、上記した圧力波形上への昇圧開始値と昇圧終了値の設定は、従来一般には、最終到達圧力(設定圧力)に対する所定の割合、たとえば、昇圧開始値については最終到達圧力の40%程度の値を、昇圧終了値については最終到達圧力の90%程度の値をそれぞれ用いるようにしていた。しかるに、ダイカスト鋳造においては、金型キャビティへの溶湯の充填完了と同時に発生するサージ圧や充填工程から増圧工程への切替えのタイムラグなどの影響で、昇圧初期段階の圧力波形に乱れが生じ、圧力波形上に前記昇圧開始値に相当するポイントが不安定になることもあって、昇圧時間の正確な測定が困難になる、という問題があった。
【0004】
そこで、たとえば、特許文献1に記載のものでは、上記圧力線図を、その最終記録側より逆向きに照合(サーチ)して、最初に計測される昇圧開始圧力相当値を昇圧開始値として特定することにより、昇圧時間の測定精度を向上させるようにしていた。
【特許文献1】特開昭58−145352号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、サージ圧の大きさや増圧切替えのタイムラグは、製造すべき鋳造品の種類(金型の大きさ、形状等)、射出系の成形条件や油圧回路などのマシン側の都合で大きく変化し、上記特許文献1に記載の対策によってもなお、昇圧時間を正確に求めることが困難である、という問題があった。
【0006】
本発明は、上記した従来の問題点に鑑みてなされたもので、その課題とするところは、サージ圧や増圧切替えのタイムラグに影響されることなく昇圧時間を正確に求めることができ、もって鋳造品の品質管理に対する信頼性の向上に大きく寄与する、ダイカスト鋳造における昇圧時間測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するため、金型キャビティ内に溶湯が充填完了した後のプランジャ速度の減速波形上に設定した測定ポイントに基づいて昇圧開始時点を測定すると共に、溶湯にかかる圧力の昇圧波形上の高圧側に設定した測定ポイントに基づいて昇圧終了時点を測定し、前記昇圧開始時点から前記昇圧終了時点に達するまでの時間を昇圧時間とすることを特徴とする。
【0008】
プランジャ速度は、金型キャビティ内への溶湯の充填完了直前から速度ゼロまたは速度ゼロ付近に向かって急降下(減速)する。このプランジャ速度は繰返し性があって安定しており、したがって、上記したようにプランジャ速度の減速波形上に昇圧開始の測定ポイントを設定することで、圧力波形と無関係に、すなわちサージ圧や増圧切替えのタイムラグによる影響を受けずに昇圧開始時点を特定できる。一方、溶湯にかかる圧力の昇圧波形の高圧側は波形が安定しているので、この領域に設定した測定ポイントに基づいて測定された昇圧終了時点は正確に現状を反映した値となる。本発明は、このようにして測定された昇圧開始時点から昇圧終了時点に達するまでの時間を昇圧時間としているので、その値は正確となる。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るダイカスト鋳造における昇圧時間測定方法によれば、サージ圧や増圧切替えのタイムラグなどの影響を受けずに昇圧時間を正確に求めることができるので、鋳造品の品質管理に適用して著しく信頼性の高いものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための最良の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0011】
本発明の実施対象であるダイカスト鋳造工程は従来と全く同じであり、射出スリーブ内に供給された所定量の金属溶湯がプランジャの前進により、ゲートを通して金型キャビティ内に高速で射出され、充填完了後、昇圧(増圧)による溶湯補給が行われて、溶湯金属が冷却固化することにより、射出工程は終了する。しかしてこの間、プランジャ位置、プランジャ速度および溶湯にかかる圧力(溶湯圧力)がセンサにより連続して検出されており、それらの検出結果が、マシン全体を制御する制御装置内の記憶手段に記憶されるようになっている。
【0012】
図1は、上記した鋳造工程中におけるプランジャ位置L、プランジャ速度Vおよび溶湯圧力Pの波形の一例を示したものである。なお、溶湯圧力Pは、プランジャに作用する圧力から換算して得られた値である。同図中、A点はプランジャが低速から高速に切替わる高速切替ポイント、Bは金型キャビティ内への溶湯の充填完了ポイントである。プランジャ速度Vの切替えは、射出系の油圧回路の切替えによって行われ、この高速切替えによってプランジャ速度Vは、高加速度で上昇して一旦ピークVaに達し、その後、前記ピークVaよりわずか低い一定速度Vbで推移して、金型キャビティ内への充填完了の直前で、減速波形Vcに従って高減速度で降下する。ここで、前記プランジャ速度VのピークVaは、溶湯がゲートに到達したポイントを、一定速度Vbで推移する過程は、金型キャビティ内への溶湯充填中をそれぞれ示している。
【0013】
溶湯圧力Pは、プランジャの高速切替えに応じて、わずか上昇して一定圧力Paを推移し、金型キャビティ内への充填完了と同時にサージ圧Pbに達する。一方、金型キャビティ内への充填完了により、射出系の油圧回路が増圧側に切替わり、溶湯圧力Pは、昇圧波形Pcに従って大きく上昇し、予め設定された最終圧力(最高圧力)Pdに到達する。溶湯圧力Pの高圧切替えは、金型キャビティ内に充填された溶湯をさらに加圧して溶湯補給を行うために設定されるもので、この溶湯補給によって引け巣などの鋳造欠陥の発生が防止される。しかして、この溶湯圧力Pの増圧切替えにはタイムラグが存在し、このタイムラグによって溶湯圧力Pの圧力波形には、サージ圧Pbから一旦落ち込むなどの圧力変動(乱れ)が生じる。
【0014】
本発明は、上記した溶湯圧力Pの充填完了後の昇圧時間tを測定しようとするもので、金型キャビティ内に溶湯が充填完了(B)した後のプランジャ速度Vの減速波形Vcに昇圧開始の測定ポイントMSを設定すると共に、溶湯圧力Pの昇圧波形Pcの高圧側に昇圧終了の測定ポイントMEを設定する。昇圧開始の測定ポイントMSの設定は、ここでは速度ゼロ付近を選択しているが、これは、鋳造品や成形条件によってはプランジャ速度Vが完全にゼロにならない場合が生じるためである。プランジャ速度Vが速度ゼロまで落ちる場合は、速度ゼロを選択してもよいことはもちろんである。一方、昇圧終了の測定ポイントMEの設定は、できるだけ最終圧力(最高圧力)Pdに近い位置とするのが望ましく、従来と同様に最終圧力Pdの90%程度の値を選択する。昇圧時間tの測定は、上記のように設定した昇圧開始の測定ポイントMSに基づいて昇圧開始時点TSを測定すると共に、昇圧終了の測定ポイントMEに基づいて昇圧終了時点TEを測定し、昇圧開示時点TSから昇圧終了時点TEに達するまでの時間を昇圧時間tとする。
【0015】
上記した昇圧時間tの測定は、図1に示したプランジャ速度Vの波形データおよび溶湯圧力Pの波形データを記憶する既存の記憶手段を含む制御装置に、該記憶手段に記憶された波形データに上記した測定ポイントMS、MEを設定しかつこれら測定ポイントMS、MEに基づいて昇圧開始時点TS、昇圧終了時点TEを演算する演算手段を追加することにより簡単に実行することができる。
【0016】
このようにして得られた昇圧時間tは、溶湯圧力Pと無関係に測定した昇圧開始時点TSを用いて演算されるので、その値は正確となる。したがって、この昇圧時間に基づいて鋳造品質の合否を判断する場合は、誤って良品を不良品と判定してしまうことはなくなり、その分、不必要にマシンを停止することがなくなって生産性が向上する。
【0017】
ここで、上記したプランジャ速度Vの減速波形Vcは、図1に示されるように、速度ゼロに近接する側でわずか長時間側へ傾斜し、屈折点Fを生じることが多い、本発明は、この屈折点Fに昇圧開始の測定ポイントを設定してもよいもので、この場合は、昇圧開始時点TSの測定バラツキが極めて小さくなるので、昇圧時間tの測定精度はより一層向上する。
【0018】
本発明はまた、プランジャ速度Vの減速波形Vc上のどの位置に昇圧開始の測定ポイントMSを設定してもよいもので、たとえば、プランジャ速度のしきい値を予め決めて、このしきい値を測定ポイントMSとしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】ダイカスト鋳造工程におけるプランジャ位置L、プランジャ速度Vおよび溶湯圧力Pの波形データの一例を示すグラフである。
【符号の説明】
【0020】
L プランジャ位置
V プランジャ速度
P 溶湯圧力
Vc プランジャ速度の減速波形
Pc 溶湯圧力の昇圧波形
S 昇圧開始の測定ポイント
E 昇圧終了の測定ポイント
S 昇圧開始時点
E 昇圧終了時点


【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型キャビティ内に溶湯が充填完了した後のプランジャ速度の減速波形上に設定した測定ポイントに基づいて昇圧開始時点を測定すると共に、溶湯にかかる圧力の昇圧波形上の高圧側に設定した測定ポイントに基づいて昇圧終了時点を測定し、前記昇圧開始時点から前記昇圧終了時点に達するまでの時間を昇圧時間とすることを特徴とするダイカスト鋳造における昇圧時間測定方法。
【請求項2】
プランジャ速度の減速波形上の測定ポイントを、速度ゼロまたは速度ゼロ付近に設定することを特徴とする請求項1に記載のダイカスト鋳造における昇圧時間測定方法。
【請求項3】
プランジャ速度の減速波形上の測定ポイントを、該減速波形の途中の屈折位置に設定することを特徴とする請求項1に記載のダイカスト鋳造における昇圧時間測定方法。
【請求項4】
溶湯にかかる圧力の昇圧波形上の測定ポイントを、最終到達圧力の90%程度の値に設定することを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載のダイカスト鋳造における昇圧時間測定方法。


【図1】
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【公開番号】特開2006−110615(P2006−110615A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−302943(P2004−302943)
【出願日】平成16年10月18日(2004.10.18)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(300041192)宇部興産機械株式会社 (268)