説明

ダイナミックマイクロホン

【課題】 振動板の後方に音響抵抗材を介して連通する所定容積の背部気室(空気室)を有するダイナミックマイクロホンにおいて、気密性に優れた背部気室を得る。
【解決手段】 ボイスコイル113を有する振動板11およびボイスコイル113が振動可能に配置される磁気ギャップを有する磁気回路12を備えるマイクロホンユニット10と、マイクロホンユニット10を磁気回路側から支持し、内部に音響抵抗材を介して振動板11の背面側と連通する背部気室20Aを有する円筒状のユニットホルダ20とを含み、背部気室20Aがユニットホルダ20内に同軸として気密的に嵌合される第1円筒部22と第2円筒部23とにより形成されるダイナミックマイクロホンにおいて、第1円筒部22と第2円筒部23とを、それらの間に音波漏洩防止用のリング状に形成されたガスケット28を挟んだ状態で一体的に組み合わせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はダイナミックマイクロホンに関し、さらに詳しく言えば、ダイナミックマイクロホンの指向性,感度および周波数応答などの性能を左右する背部気室(空気室)の構成に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載されているように、ダイナミックマイクロホンのうち、無指向性ダイナミックマイクロホンは抵抗制御であることから、振動板の後方に背部気室(空気室)とフェルトなどからなる音響抵抗材とが配置され、この音響抵抗によって周波数応答と感度が設定される。
【0003】
また、単一指向性ダイナミックマイクロホンでは、後方音響端子から入った音波は、後部音響端子の音響質量と上記音響抵抗とで分割されて振動板の後部に加えられ、指向性が設定される。このように、ダイナミックマイクロホンにおいて、振動板の後方から背部気室に連通する部分に設けられる音響抵抗は重要な役割を果たす。
【0004】
特に、単一指向性ダイナミックマイクロホンの場合、指向周波数応答を良好にするために、音響抵抗は複数の背部気室とその間を音響的に結合する音響抵抗材で構成される。その一例を図3,図4により説明する。図3はダイナミックマイクロホンに主要部として含まれるマイクロホンユニット10とユニットホルダ20とを示す断面図で、図4はその分解断面図である。
【0005】
これによると、マイクロホンユニット10は、振動板11と磁気回路12とを備えている。振動板11は、センタードーム111と、その周りに一体に連設されたサブドーム112とを有し、センタードーム111にはボイスコイル113が接着材などにより一体的に取り付けられている。
【0006】
磁気回路12は、円盤状に形成された永久磁石121と、永久磁石121の一方の極側に配置されたセンターポールピース122と、永久磁石121の他方の極に配置された皿状のテールヨーク123と、テールヨーク123の端部に配置され、センターポールピース122との間で磁気ギャップを形成するサイドヨーク124とを備えている。
【0007】
マイクロホンユニット10は、ユニットホルダ20により磁気回路12側から支持される。振動板11は、ボイスコイル113が上記磁気ギャップ内で振動するようにサブドーム112の周縁部がユニットホルダ20に固定される。また、振動板11の前方には、前方音響端子131を有するレゾネータ13が被せられる。
【0008】
このダイナミックマイクロホンは単一指向性であるため、ユニットホルダ20は、所定の音響抵抗材211を介して振動板11の後方(背面側)に連通する後方音響端子21を備えている。また、ユニットホルダ20の外周部には、ボイスコイル113の図示しない引出リード線が接続される端子板27が設けられている。
【0009】
ユニットホルダ20は円筒状に形成されていて、その内部にテールヨーク123に穿設されている音孔123aを介して振動板11の後方空間と連通する所定容積の背部気室(空気室)20Aを備えている。
【0010】
この例において、背部気室20Aはユニットホルダ20内に同軸として気密的に嵌合される第1円筒部22と第2円筒部23とにより形成される。第1円筒部22と第2円筒部23は、それぞれ一方の面側にフェルトなどの音響抵抗材25,26が貼り付けられた音孔221,231を有し、それらの他方の開口端部222,232同士を突き合わせた状態でユニットホルダ20内に嵌合されることにより、その内部に所定容積の背部気室20Aを形成する。
【0011】
この例では、ユニットホルダ20の後端側には、図3の想像線で示すように背部気室30Aを有する中筒30がさらに接続される。したがって、このダイナミックマイクロホンは、第1背部気室20Aと第2背部気室30Aの2つの空気室を備え、振動板11の後方空間は、音響抵抗材25を介して第1背部気室20Aと連通し、第1背部気室20Aは音響抵抗材26を介してさらに第2背部気室30Aと連通し、これら音響質量および音響抵抗により、所定の指向性および指向周波数応答が付与される。
【0012】
なお最終的に、ユニットホルダ20は中筒30とともに、ゴム弾性体からなる図示しないショックマウント部材を介してアルミニウムもしくは黄銅合金などからなる円筒状の図示しないマイク筐体(マイクグリップ)内に支持される。
【0013】
【特許文献1】実開平6−48295号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上記した構成のダイナミックマイクロホンにおいて、背部気室20Aは第1円筒部22と第2円筒部23とにより形成されるが、従来では、それらの開口端部222,232同士を接着材で接着することにより、その接合部分の気密を確保するようにしている。
【0015】
その場合、有機溶剤によるゴム系の接着材が一般的に用いられるが、この種の接着材は有機溶剤の蒸散によって体積が減少(接着材の肉痩せ)するため、場合によっては孔が開き、突き合わせの開口端部222,232間の気密が保たれなくなり、背部気室20Aから音漏れが生ずることがある。また、接着材が固化するまでの間、第1円筒部22と第2円筒部23とを図示しない治具にて固定しておく必要があり、生産性の面でも問題があった。
【0016】
したがって、本発明の課題は、振動板の後方に音響抵抗材を介して連通する所定容積の背部気室(空気室)を有するダイナミックマイクロホンにおいて、気密性に優れた背部気室を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、ボイスコイルを有する振動板および上記ボイスコイルが振動可能に配置される磁気ギャップを有する磁気回路を備えるマイクロホンユニットと、上記マイクロホンユニットを上記磁気回路側から支持し、内部に音響抵抗材を介して上記振動板の背面側と連通する背部気室を有する円筒状のユニットホルダとを含み、上記背部気室が上記ユニットホルダ内に同軸として気密的に嵌合される第1円筒部と第2円筒部とにより形成されるダイナミックマイクロホンにおいて、上記第1円筒部と上記第2円筒部とが、それらの突き合わせ端面間に音波漏洩防止用のリング状に形成されたガスケットを挟んだ状態で一体的に組み合わされていることを特徴としている。
【0018】
請求項2に記載の発明は、上記請求項1において、上記ガスケットがゴム弾性体からなることを特徴としている。
【0019】
請求項3に記載の発明は、上記請求項1または2において、上記第1円筒部と上記第2円筒部のうちの反磁気回路側の上記第2円筒部と、上記ユニットホルダとの間には、上記ガスケットに所定の押圧力を加えた状態で上記第2円筒部を上記ユニットホルダに固定する係止手段が設けられていることを特徴としている。
【0020】
また、請求項4に記載の発明は、上記請求項3において、上記係止手段が、上記ユニットホルダ側に形成された係止孔と、上記第2円筒部側に上記係止孔に弾性変形を伴って嵌合するように形成された係止爪とからなることを特徴としている。
【発明の効果】
【0021】
請求項1に記載の発明によれば、背部気室を形成する第1円筒部と第2円筒部とを、それらの突き合わせ端面間に音波漏洩防止用のリング状に形成されたガスケットを挟んだ状態で一体的に組み合わせるようにしたことにより、第1円筒部と第2円筒部間の気密不良を確実に防止することができる。
【0022】
ガスケットに圧縮変形するゴム弾性体を用いるようにした請求項2に記載の発明によれば、ガスケットが径方向にも変形(拡がる)するため、第1円筒部と第2円筒部とのつなぎ目部分とユニットホルダとの間の気密性をも確保することができる。
【0023】
第1円筒部と第2円筒部のうちの反磁気回路側の第2円筒部と、ユニットホルダとの間に、ガスケットに所定の押圧力を加えた状態で第2円筒部をユニットホルダに固定する係止手段を設けるようにした請求項3に記載の発明によれば、接着材が固化(乾燥)するまでの間、特別な治具によって第2円筒部を押さえておく必要がない。また、場合によっては接着材を用いることなく、気密性を確保することができる。
【0024】
また、係止手段として、ユニットホルダ側に形成された係止孔と、第2円筒部側に上記係止孔に弾性変形を伴って嵌合するように形成された係止爪との組み合わせを採用するようにした請求項4に記載の発明によれば、第2円筒部をユニットホルダに押し込むだけのいわゆるワンタッチ的な簡単な作業により、第2円筒部をユニットホルダに確実に固定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
次に、図1および図2により、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。図1は本発明のダイナミックマイクロホンが主要部として備えるマイクロホンユニットとユニットホルダとを示す断面図,図2はその分解断面図で、それぞれ先に説明した図3,図4に対応しており、参照符号についても変更を要しない構成要素には同じ符号を用いている。
【0026】
本発明のダイナミックマイクロホンにおいて、マイクロホンユニット10は、振動板11と磁気回路12とを備えているが、これらの構成は先に説明した図3,図4の従来例と同じであってよい。
【0027】
すなわち、振動板11は、センタードーム111と、その周りに一体に連設されたサブドーム112とを有し、センタードーム111にはボイスコイル113が接着材などにより一体的に取り付けられている。
【0028】
また、磁気回路12は、円盤状に形成された永久磁石121と、永久磁石121の一方の極側に配置されたセンターポールピース122と、永久磁石121の他方の極に配置された皿状のテールヨーク123と、テールヨーク123の端部に配置され、センターポールピース122との間で磁気ギャップを形成するサイドヨーク124とを備えた構成であってよい。
【0029】
マイクロホンユニット10は、ユニットホルダ20により磁気回路12側から支持されており、振動板11は、ボイスコイル113が上記磁気ギャップ内で振動するようにサブドーム112の周縁部がユニットホルダ20に固定される。また、振動板11の前方を覆うように、前方音響端子131を有するレゾネータ13が被せられる。
【0030】
このダイナミックマイクロホンは単一指向性であるため、ユニットホルダ20は、所定の音響抵抗材211を介して振動板11の後方(背面側)に連通する後方音響端子21を備えている。また、ユニットホルダ20の外周部には、ボイスコイル113の図示しない引出リード線が接続される端子板27が設けられてよい。
【0031】
ユニットホルダ20は円筒状に形成されていて、その内部にテールヨーク123に穿設されている音孔123aを介して振動板11の後方空間と連通する所定容積の背部気室(空気室)20Aを備えている。この背部気室20Aは、ユニットホルダ20内に同軸として気密的に嵌合される第1円筒部22と第2円筒部23とにより形成される。
【0032】
第1円筒部22と第2円筒部23は、それぞれ一方の面側にフェルトなどの音響抵抗材25,26が貼り付けられた音孔221,231を有し、それらの他方の開口端部222,232を突き合わせた状態でユニットホルダ20内に嵌合されることにより、その内部に所定容積の背部気室20Aを形成するが、本発明によると、開口端部222と開口端部232との間に、それらの間から音波が漏れるのを防止するリング状に形成されたガスケット28が挟み込まれる。
【0033】
ガスケット28は、通気性を持たない例えば通常の合成樹脂製のリングであってもよいが、圧縮変形するゴム弾性体であることが好ましい。これによれば、第1円筒部22と第2円筒部23とを強く締め付けた場合、ガスケット28が径方向に拡がるため、開口端部222と開口端部232のつなぎ目部分のみならず、そのつなぎ目部分とユニットホルダ20との間の気密性をも確保することができる。
【0034】
また、第1円筒部22と第2円筒部23との結合を強固なものとするため、両円筒部22,23のうちの反磁気回路12側に配置される第2円筒部23と、ユニットホルダ20との間に、ガスケット28に所定の押圧力を加えた状態で第2円筒部23をユニットホルダ20に固定する係止手段を設けることが好ましい。
【0035】
この例では、その係止手段を得るため、ユニットホルダ20側に係止孔201を穿設するとともに、第2円筒部23側に上記係止孔201に弾性変形を伴って嵌合する係止爪233を形成しており、これによれば、第2円筒部23をユニットホルダ20に押し込むだけのいわゆるワンタッチ的な簡単な作業により、第2円筒部23をユニットホルダ20に確実に固定することができる。
【0036】
なお、第1円筒部22と第2円筒部23との間に、ガスケット28を挟み込むにあたって、上記従来例のように有機溶剤型の接着材を併用してもよい。その場合、上記係止手段(201,233)を設けることにより、その接着材が固化(乾燥)するまでの間、特別な治具によって第2円筒部を押さえておく必要がない。
【0037】
また、有機溶剤の蒸散により接着材が肉痩せしたとしても、上記係止手段(201,233)の押圧力により、肉痩せした部分の隙間が潰されるため、良好な気密性を確保することができる。また、ガスケット28をゴム弾性体とするとともに、上記係止手段(201,233)を設けることにより、接着材なしで第1円筒部22と第2円筒部23との間の気密性を確保することができる。
【0038】
以上、本発明の要部について説明したが、ユニットホルダ20の後端側には、先の図3と同じく、図1の想像線で示すように背部気室30Aを有する中筒30がさらに接続されてもよい。
【0039】
そして最終的に、ユニットホルダ20は、ゴム弾性体からなる図示しないショックマウント部材を介してアルミニウムもしくは黄銅合金などからなる円筒状の図示しないマイク筐体(マイクグリップ)内に支持されることになる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明のダイナミックマイクロホンが主要部として備えるマイクロホンユニットとユニットホルダとを示す断面図。
【図2】図1の分解断面図。
【図3】従来のダイナミックマイクロホンが主要部として備えるマイクロホンユニットとユニットホルダとを示す断面図。
【図4】図3の分解断面図。
【符号の説明】
【0041】
10 マイクロホンユニット
20 ユニットホルダ
20A 背部気室(空気室)
201 係止孔
22 第1円筒部
221 音孔
222 開口端部
25 音響抵抗材
23 第2円筒部
231 音孔
232 開口端部
233 係止爪
26 音響抵抗材
28 ガスケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボイスコイルを有する振動板および上記ボイスコイルが振動可能に配置される磁気ギャップを有する磁気回路を備えるマイクロホンユニットと、上記マイクロホンユニットを上記磁気回路側から支持し、内部に音響抵抗材を介して上記振動板の背面側と連通する背部気室を有する円筒状のユニットホルダとを含み、上記背部気室が上記ユニットホルダ内に同軸として気密的に嵌合される第1円筒部と第2円筒部とにより形成されるダイナミックマイクロホンにおいて、
上記第1円筒部と上記第2円筒部とが、それらの突き合わせ端面間に音波漏洩防止用のリング状に形成されたガスケットを挟んだ状態で一体的に組み合わされていることを特徴とするダイナミックマイクロホン。
【請求項2】
上記ガスケットが、ゴム弾性体からなることを特徴とする請求項1に記載のダイナミックマイクロホン。
【請求項3】
上記第1円筒部と上記第2円筒部のうちの反磁気回路側の上記第2円筒部と、上記ユニットホルダとの間には、上記ガスケットに所定の押圧力を加えた状態で上記第2円筒部を上記ユニットホルダに固定する係止手段が設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載のダイナミックマイクロホン。
【請求項4】
上記係止手段が、上記ユニットホルダ側に形成された係止孔と、上記第2円筒部側に上記係止孔に弾性変形を伴って嵌合するように形成された係止爪とからなることを特徴とする請求項3に記載のダイナミックマイクロホン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−237939(P2006−237939A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−48429(P2005−48429)
【出願日】平成17年2月24日(2005.2.24)
【出願人】(000128566)株式会社オーディオテクニカ (787)
【Fターム(参考)】