説明

ダイナミックレンジ拡張装置

【課題】ダイナミックレンジが圧縮されて平滑化されたオーディオ信号の出力音に、メリハリ感と臨場感とを発現させ、音質を向上させること。
【解決手段】ダイナミックレンジ拡張装置は、オーディオ信号の包絡線の検出を行う包絡線検出手段21〜23と、包絡線をデシベル変換するデシベル変換手段24と、デシベル変換された包絡線の変化量を示す変化量信号を生成する微分手段25と、変化量信号の反転を行う反転手段26と、反転された変化量信号をリニアな信号に変換して検出信号を生成するリニア変換手段28と、オーディオ信号に検出信号を乗算した信号をオーディオ信号から減算することにより補完信号を生成する補完信号生成手段と、補完信号をオーディオ信号に加算する加算手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイナミックレンジ拡張装置に関し、より詳細には、ダイナミックレンジを圧縮して平滑化したオーディオ信号をスピーカなどから出力する場合に、出力音のメリハリ感と臨場感とを発現させることができ、音質を向上させることが可能なダイナミックレンジ拡張装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、コンサートホールや録音用スタジオにおいて演奏される楽器やボーカル等の音量レベルの範囲は非常に大きい。このため、音量レベルの範囲が非常に大きい楽器やボーカルの音を収録機器で録音する場合には、収録機器のダイナミックレンジを超えるような過大な音が収録機器に対して入力されるおそれがあった。
【0003】
ここで、ダイナミックレンジとは、識別可能な信号の最小値と最大値の比率を意味している。例えば、CDのように分解能が16bitに規定される場合は、ダイナミックレンジが96dBとなり、DVDのように分解能が24bitに規定される場合には、ダイナミックレンジが144dBとなる。
【0004】
収録機器においてダイナミックレンジを超えた音を収録すると、収録音には大きな歪が発生し、音質劣化の原因となってしまう。このような問題を解決する手段として、一般にコンプレッサやリミッタが適用されている(例えば、非特許文献1,非特許文献2参照)。
【0005】
図11(a)は、コンプレッサに対する入力信号の信号レベルと出力信号の出力レベルとの関係を示した入出力動作例を示し、図11(b)は、リミッタに対する入力信号の信号レベルと出力信号の出力レベルとの関係を示した入出力動作例を示している。
【0006】
コンプレッサは、可変式ゲインアンプとして機能するものである。コンプレッサは、図11(a)に示すように、入力信号の信号レベルに対する出力信号の信号レベルの増加割合を、予め設定されるスレッシホールドのレベルを超える前に比べて、スレッシホールドのレベルを超えた後の方が低くなるようにして、出力信号の信号レベルを抑制する役割を有している。すなわち、コンプレッサは、オーディオ信号を常時モニタし、設定されたスレッシホールドのレベルよりも音が大きくならないように自動的にゲインをコントロールするものである。
【0007】
一方で、リミッタは、高い圧縮レシオを持ったコンプレッサとして機能するものである。リミッタは、入力信号の信号レベルがスレッシホールドのレベルを大きく超えても出力レベルを一定に保つ役割を有している。
【0008】
コンプレッサとリミッタは、いずれも自動的にゲイン(信号レベル)が高い部分を抑圧し、所定のダイナミックレンジ内に収める役割を有している。しかしながら、コンプレッサは、スレッシホールドのレベルを超えた入力信号レベルの増加量をゆるやかに抑える(減少させる)ものであり、リミッタは設定したスレッシホールドのレベルを超えた信号をカットするものである点で、大きく相違する。
【0009】
図12は、CDに記録されたオーディオ信号の信号波形の一例を示した図である。上述したように、CDではダイナミックレンジが96dBとなり、ダイナミックレンジが96dBに収まらないオーディオ信号の信号レベルは抑制されることになる。図12の破線Cで囲んだ部分は、信号レベルが高くなっている箇所に該当し、オーディオ信号のレンジ内における振幅の最大値が、コンプレッサおよびリミッタにより±1に正規化された(クリップされた)箇所に該当する。図12の最小分解能は、1/(2(16−1))、つまり、3.05×10−5となっている。
【0010】
特に、図12の破線Aおよび破線Bで示される部分は、CDに記録されるオーディオ信号の振幅が±1に抑制されて振幅形状が矩形形状となっている。このため、フルスケールの信号は、矩形形状部分において振幅が±1に制限され、音源のダイナミックレンジが圧縮される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】岩宮眞一郎著、「図解入門よくわかる最新音響の基本と応用」、秀和システム、2011年3月、p. 242−243
【非特許文献2】「最強コンプレッサーマニュアル」、p.5-8、[online]、株式会社サウンドハウス、[平成23年8月10日検索]、<URL:http://www.soundhouse.co.jp/download/sonota/comp.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、このようなダイナミックレンジが圧縮されたCD音源を、ボリューム設定で音量を増大した後にスピーカから再生(出力)し、または、CD音源を増幅するパワーアンプ等を介してスピーカから再生(出力)する場合が多く存在する。このようにボリューム設定やパワーアンプ等による出力音の音量増大が行われると、CDに記録された状態において、既に信号出力が抑制されて平滑化されているため(ダイナミックレンジが圧縮されて、クリップされているため)、音のメリハリ感が大きく低減され、また、臨場感も低下してしまうという問題があった。
【0013】
また、図12の破線Aおよび破線Bで囲んだ部分のように、オーディオ信号の振幅が±1でクリップされた場合には、信号波形が矩形状になるため、不要な高調波が発生し易くなり、音質の劣化が発生するという問題があった。
【0014】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、ダイナミックレンジが圧縮されて平滑化されたオーディオ信号の出力音に、メリハリ感と臨場感とを発現させ、音質を向上させることが可能なダイナミックレンジ拡張装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、本発明に係るダイナミックレンジ拡張装置は、音源から出力されるオーディオ信号における最大値変化状態に基づいて包絡線の検出を行う包絡線検出手段と、該包絡線検出手段により検出された包絡線をデシベル変換するデシベル変換手段と、該デシベル変換手段によりデシベル変換された包絡線を微分処理することにより、包絡線の変化量を示す変化量信号を生成する微分手段と、前記微分手段により生成された変化量信号に−1を乗算することにより信号の反転を行う反転手段と、該反転手段により反転された前記変化量信号をリニアな信号に変換することにより検出信号を生成するリニア変換手段と、前記オーディオ信号に前記検出信号を乗算した信号を、前記オーディオ信号から減算することにより補完信号を生成する補完信号生成手段と、該補完信号生成手段により生成された補完信号を、前記オーディオ信号に加算する加算手段とを備えることを特徴とする。
【0016】
本発明に係るダイナミックレンジ拡張装置は、包絡線検出手段においてオーディオ信号の最大値変化状態に基づいて包絡線の検出を行い、微分手段により包絡線の変化量を示す変化量信号の生成を行う。
【0017】
このため、包絡線における最大値変化が大きい場合には、変化量信号の変化量が大きくなり、包絡線における最大値変化が小さい場合には、変化量信号の変化量が小さくなる。包絡線の変化量が示された変化量信号の反転を反転手段によって行った後にオーディオ信号に乗算し、乗算処理された信号を、オーディオ信号から減算することにより、圧縮されて平滑化されたオーディオ信号のダイナミックレンジを拡張するための補完信号を生成することができる。
【0018】
従って、加算手段において補完信号生成手段により生成された補完信号を、オーディオ信号に加算することにより、ダイナミックレンジが圧縮されて平滑化された箇所のダイナミックレンジを拡張することができ、出力されるオーディオ信号のメリハリ感と臨場感とを発現させることが可能となる。
【0019】
また、上述したダイナミックレンジ拡張装置は、前記補完信号生成手段により生成された補完信号のゲインを増幅又は減衰することによりゲイン調節を行うゲイン調節手段を有し、前記加算手段は、前記ゲイン調節手段によりゲイン調節された前記補完信号を、前記オーディオ信号に加算するものであってもよい。
【0020】
補完信号は、包絡線における最大値変化に基づいて生成されるため、ダイナミックレンジが圧縮されて平滑化された箇所におけるゲイン(振幅)を拡張することが可能である。しかしながら、拡張すべきダイナミックレンジのゲインは、ダイナミックレンジが圧縮されて平滑化されたオーディオ信号ごとに異なり、そのまま補完信号をオーディオ信号に加算しても、十分なダイナミックレンジの補完(拡張)を行えなかったり、ダイナミックレンジの補完(拡張)量が多すぎたりして、かえって音質の低下を招いてしまうおそれもある。
【0021】
このため、オーディオ信号の圧縮状態などに応じて、ゲイン調節手段で予め補完信号のゲインを増幅又は減衰しておくことにより、加算手段で補完信号が加算されたオーディオ信号のダイナミックレンジを、適切に拡張することが可能となる。
【0022】
また、上述したダイナミックレンジ拡張装置において、前記微分手段は、ハイパスフィルタを用いて前記オーディオ信号のフィルタリング処理を行うことによって微分処理を行い、該フィルタリング処理により求められる前記変化量の変化時間は、前記ハイパスフィルタにおける正規化カットオフ周波数の設定値を変更することにより調整されるものであってもよい。
【0023】
上述したように、微分手段における微分処理は、オーディオ信号に対して、ハイパスフィルタを用いたフィルタリング処理を行うことによって実現される。また、このハイパスフィルタの正規化カットオフ周波数の設定値を変更することにより、フィルタリング処理により求められる変化量の変化時間を調整することが可能となる。
【0024】
例えば、ダイナミックレンジが圧縮されて振幅が平滑化される状態は、コンプレッサやリミッタにおける設定により異なり、また、CDとDVDとではダイナミックレンジの圧縮状態が異なったものとなる。従って、オーディオ信号におけるダイナミックレンジの圧縮状態に応じて正規化カットオフ周波数を調整することにより、ダイナミックレンジの圧縮状態に適したダイナミックレンジの拡張時間の調整を行うことが可能となる。
【0025】
また、上述したダイナミックレンジ拡張装置が、音源から出力されるオーディオ信号から低域成分を抽出するローパスフィルタ手段を備え、前記包絡線検出手段は、前記ローパスフィルタ手段により抽出された低域のオーディオ信号に基づいて低域用の包絡線の検出を行い、前記デシベル変換手段は、前記包絡線検出手段により検出された低域用の包絡線をデシベル変換し、前記微分手段は、前記デシベル変換手段によりデシベル変換された低域用の包絡線を微分処理することにより、低域用の包絡線の変化量を示す低域変化量信号を生成し、前記反転手段は、前記微分手段により生成された低域変化量信号に−1を乗算することにより信号の反転を行い、前記リニア変換手段は、前記反転手段により反転された前記低域変化量信号をリニアな信号に変換することにより低域検出信号を生成し、前記補完信号生成手段は、前記低域のオーディオ信号に前記低域検出信号を乗算した信号を、前記低域のオーディオ信号から減算することにより低域補完信号を生成し、前記ゲイン調節手段は、前記補完信号生成手段により生成された低域補完信号のゲイン調節を行い、前記加算手段は、前記ゲイン調節手段によりゲイン調節された前記低域補完信号を、前記オーディオ信号に加算するものであってもよい。
【0026】
さらに、上述したダイナミックレンジ拡張装置が、音源から出力されるオーディオ信号から高域成分を抽出するハイパスフィルタ手段を備え、前記包絡線検出手段は、前記ハイパスフィルタ手段により抽出された高域のオーディオ信号における振幅変化状態基づいて高域用の包絡線の検出を行い、前記デシベル変換手段は、前記包絡線検出手段により検出された高域用の包絡線をデシベル変換し、前記微分手段は、前記デシベル変換手段によりデシベル変換された高域用の包絡線を微分処理することにより、高域用の包絡線の変化量を示す高域変化量信号を生成し、前記反転手段は、前記微分手段により生成された高域変化量信号に−1を乗算することにより信号の反転を行い、前記リニア変換手段は、前記反転手段により反転された前記高域変化量信号をリニアな信号に変換することにより高域検出信号を生成し、前記補完信号生成手段は、前記高域のオーディオ信号に前記高域検出信号を乗算した信号を、前記高域のオーディオ信号から減算することにより高域補完信号を生成し、前記ゲイン調節手段は、前記補完信号生成手段により生成された高域補完信号のゲイン調節を行い、前記加算手段は、前記ゲイン調節手段によりゲイン調節された前記高域補完信号を、前記オーディオ信号に加算するものであってもよい。
【0027】
上述したように、ダイナミックレンジ拡張装置が、オーディオ信号から低域成分を抽出するローパスフィルタ手段や、オーディオ信号から高域成分を抽出するハイパスフィルタ手段を備え、低域のオーディオ信号に適した低域補完信号や、高域のオーディオ信号に適した高域補完信号とを生成し、加算手段で、低域補完信号を、あるいは、低域補完信号と高域補完信号とを、オーディオ信号に加算することにより、音域ごとに別々にダイナミックレンジの拡張処理を行うことが可能となる。
【0028】
例えば、一般的に中域は、聴取者の聴覚感度が高い傾向があり、また、ボーカル音などの音声成分が多く含まれるため、ダイナミックレンジの拡張処理を行うと、かえって聴感上の変動感を低減させてしまうおそれがある。このため、中域以外の低域あるいは高域のダイナミックレンジを拡張することにより、中域における違和感を生じさせることなく、出力されるオーディオ信号の全体的なメリハリ感と臨場感とを高めることが可能となる。
【発明の効果】
【0029】
本発明に係るダイナミックレンジ拡張装置は、包絡線検出手段においてオーディオ信号の最大値変化状態に基づいて包絡線の検出を行い、微分手段により包絡線の変化量を示す変化量信号の生成を行う。
【0030】
このため、包絡線における最大値変化が大きい場合には、変化量信号の変化量が大きくなり、また、包絡線における最大値変化が小さい場合には、変化量信号の変化量が小さくなる。包絡線の変化量が示された変化量信号の反転を反転手段によって行った後にオーディオ信号に乗算し、乗算処理された信号を、オーディオ信号から減算することにより、圧縮されて平滑化されたオーディオ信号のダイナミックレンジを拡張するための補完信号を生成することができる。
【0031】
従って、加算手段において補完信号生成手段により生成された補完信号を、オーディオ信号に加算することにより、ダイナミックレンジが圧縮されて平滑化された箇所のダイナミックレンジを拡張することができ、出力されるオーディオ信号のメリハリ感と臨場感とを発現させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】実施の形態に係るダイナミックレンジ拡張装置の概略構成を示したブロック図である。
【図2】実施の形態に係る第1変動検出部の概略構成を示したブロック図である。
【図3】実施の形態に係る第1重み付け部の概略構成を示したブロック図である。
【図4】実施の形態に係るダイナミックレンジ拡張装置の動作例を説明するために設定された各機能部の動作パラメータを示した表である。
【図5】(a)は、実施の形態に係るダイナミックレンジ拡張装置に入力されるオーディオ信号を示した図であり、(b)は、低域補完信号を示した図であり、(c)は、高域補完信号を示した図であり、(d)は、(a)に示すオーディオ信号に対して、(b)に示す低域補完信号と、(c)に示す高域補完信号とを合成した出力信号を示している。
【図6】(a)は、実施の形態に係る第1変動検出部のデシベル変換部でデシベル変換された信号の出力状態を示した図であり、(b)は、実施の形態に係る第1変動検出部のレベル制限部でレベル制限が行われた信号の出力状態を示した図である。
【図7】(a)は、実施の形態に係る第2変動検出部のデシベル変換部でデシベル変換された信号の出力状態を示した図であり、(b)は、実施の形態に係る第2変動検出部のレベル制限部でレベル制限が行われた信号の出力状態を示した図である。
【図8】約90ミリ秒(msec)の間の低域補完信号の信号状態であって、図5(b)に示す低域補完信号を特定の時間軸で拡大した状態を示した図である。
【図9】約90ミリ秒(msec)の間の高域補完信号の信号状態であって、図5(c)に示す高域補完信号を特定の時間軸で拡大した状態を示した図である。
【図10】約90ミリ秒(msec)の間の合成した出力信号の信号状態であって、図5(d)に示す信号を特定の時間軸で拡大した状態を示した図である。
【図11】(a)は、コンプレッサに対する入力信号の信号レベルと出力信号の出力レベルとの関係を示した入出力動作例を示し、(b)は、リミッタに対する入力信号の信号レベルと出力信号の出力レベルとの関係を示した入出力動作例を示した図である。
【図12】CDに記録されたオーディオ信号の信号波形の一例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明に係るダイナミックレンジ拡張装置の一例について、図面を示して詳細について説明する。
【0034】
[ダイナミックレンジ拡張装置]
図1は、本実施の形態に係るダイナミックレンジ拡張装置1の概略構成を示したブロック図である。ダイナミックレンジ拡張装置1は、ダイナミックレンジの圧縮により平滑化された状態となったオーディオ信号のゲイン(信号レベル)を拡張する(補完する)役割を有している。
【0035】
ダイナミックレンジ拡張装置1は、LPF部(ローパスフィルタ手段)10と、HPF部(ハイパスフィルタ手段)11と、第1変動検出部12と、第2変動検出部13と、第1重み付け部14と、第2重み付け部15と、合成部(加算手段)16とを有している。
【0036】
ダイナミックレンジ拡張装置1には、ダイナミックレンジの圧縮されたオーディオ信号(例えば、CDなどへの記録に伴ってダイナミックレンジが圧縮されたオーディオ信号)が入力される。入力されたオーディオ信号は、図1に示すように、ダイナミックレンジ拡張装置1のLPF部10と、HPF部11と、合成部16とに対してそれぞれ出力される。
【0037】
LPF部10は、入力されたオーディオ信号(ダイナミックレンジの圧縮が行われたオーディオ信号)に対して、ローパスフィルタリング処理を行うことにより、入力されたオーディオ信号の低域成分を抽出する役割を有している。一方で、HPF部11は、入力されたオーディオ信号に対して、ハイパスフィルタリング処理を行うことにより、入力されたオーディオ信号の高域成分を抽出する役割を有している。
【0038】
第1変動検出部12は、LPF部10より入力された低域のオーディオ信号の包絡線を求め、求められた包絡線が小さい信号から大きい信号に変化する量を検出信号として検出して、第1重み付け部14へと出力する役割を有している。また、第2変動検出部13も同様に、HPF部11より入力された高域のオーディオ信号の包絡線を求め、求められた包絡線が小さい信号から大きい信号に変化する量を検出信号として検出して、第2重み付け部15へと出力する役割を有している。
【0039】
[第1変動検出部および第2変動検出部]
図2は、第1変動検出部12の概略構成を示したブロック図である。第1変動検出部12は、図2に示すように、最大値検出部(包絡線検出手段)21と、最大値ホールド部(包絡線検出手段)22と、スムージング部(包絡線検出手段)23と、デシベル変換部(デシベル変換手段)24と、微分部(微分手段)25と、反転部(反転手段)26と、レベル制限部27と、リニア変換部(リニア変換手段)28とを有している。
【0040】
最大値検出部21は、LPF部10によって低域成分が抽出されたオーディオ信号の振幅を絶対値化した後に、所定時間(mサンプル)内の最大値を検出して出力する役割を有している。従って、最大値検出部21において所定時間(mサンプル)ごとに最大値が更新されて、最大値ホールド部22に出力される。ただし、最大値検出部21に対する入力信号として、所定の周波数でサンプリングされたデータが用いられている。
【0041】
最大値ホールド部22は、最大値検出部21において所定時間(mサンプル)ごとに更新される最大値を受信した場合において、受信した最新の最大値だけでなく、その最大値を含む過去n回分の最大値(n個の最大値)の中で、最も大きな値を示す最大値の値を求める。そして、最大値ホールド部22は、求められた最大値を所定時間(mサンプル)ごとに、スムージング部23へ出力する。
【0042】
つまり、最大値ホールド部22は、最大値検出部21から所定時間(mサンプル)ごとに所定時間(mサンプル)の内の最も大きな値の最大値を取得し、さらに、取得した最大値を含む過去n回分の最大値の中で最も値の大きな最大値(つまり、n×mサンプルの間における最も値の高い最大値)を検出して、所定時間(mサンプル)ごとに、スムージング部23へ出力する。なお、最大値ホールド部22からスムージング部23へと出力されるn×mサンプルの中で最も高い値の最大値は、所定時間(mサンプル)だけ値がホールド(保持)された状態で出力される。
【0043】
なお、最大値検出部21または最大値ホールド部22においては、最大値検出における検出範囲が予め設定されており、設定された検出範囲以下(所定値以下)の信号レベルの検出は行なわれない。
【0044】
スムージング部23は、最大値ホールド部22より取得した最大値の信号を積分処理することにより、最大値の変動を滑らかにする(スムージング処理する)役割を有している。このようにして最大値ホールド部22より取得した信号を滑らかにすることにより、低域のオーディオ信号に対する包絡線の信号検出を行う。
【0045】
デシベル変換部24は、スムージング部23においてスムージング処理することにより求められた包絡線信号(包絡線:この包絡線信号は、リニアな信号特性(振幅でゲインが示される特性)を有している)を、デシベルの包絡線信号(ゲインがデシベル単位で示される信号特性の包絡線信号)へと変換する役割を有している。デシベル変換部24によりデシベルの包絡線信号へと変換された信号は、微分部25へ出力される。
【0046】
微分部25は、デシベル変換部24より取得したデシベルの包絡線信号を微分することにより、変化量検出を行う役割を有している。微分部25によって、包絡線信号に対して微分処理がなされた信号は、ゲイン(デシベル値)の変化量が大きい場合に高い値を示すことになり、変化量が小さい場合には小さい値を示すことになる。微分部25によって微分処理された信号は反転部26へと出力される。
【0047】
なお、微分部25における微分処理は、LPF部10で低域成分の抽出が行われたオーディオ信号に対して、ハイパスフィルタを用いたフィルタリング処理を行うことによって実現される。また、このハイパスフィルタにおける正規化カットオフ周波数の設定値を変更することによりフィルタリング処理により求められる変化量の変化時間を調整することが可能となっている。
【0048】
例えば、ダイナミックレンジが圧縮されて振幅が平滑化される状態は、コンプレッサやリミッタにおける設定により異なり、また、CDとDVDとでは、既に説明したように、ダイナミックレンジの圧縮状態が異なったものとなる。従って、オーディオ信号におけるダイナミックレンジの圧縮状態に応じて正規化カットオフ周波数を調整することにより、ダイナミックレンジの圧縮状態に適したダイナミックレンジの拡張時間の調整を行うことが可能となる。
【0049】
反転部26は、微分部25より取得された信号(変化量信号)に−1を乗算することにより信号の反転を行う役割を有している。さらに、レベル制限部27は、反転部26において反転された信号のマイナス側の変化量を制限し、プラス側の変化量のみを検出して、リニア変換部28へ出力する。リニア変換部28は、レベル制限部27においてプラス側の変化量のみ検出された信号を、リニアな信号に変換して検出信号として第1重み付け部14へと出力する。
【0050】
このように、第1変動検出部12では、LPF部10によって抽出された低域のオーディオ信号の包絡線に基づいて、小さい信号から大きい信号に変化する量を検出信号(低域用検出信号)として検出することができ、検出された検出信号は、大きく変化するほど検出量が大きくなる。
【0051】
また、第2変動検出部13も、図2に示す第1変動検出部12と同様の機能部を備えている。第2変動検出部13においては、HPF部11によって抽出された高域のオーディオ信号の包絡線に基づいて、小さい信号から大きい信号に変化する量を検出信号(高域用検出信号)として検出することができ、検出された検出信号は、大きく変化するほど検出量が大きくなる。第2変動検出部13における機能部の構成およびその役割は、図2に示す第1変動検出部12と同じものであるため、説明を省略する。
【0052】
[第1重み付け部および第2重み付け部]
図3は、第1重み付け部14の概略構成を示したブロック図である。第1重み付け部14は、図3に示すように、乗算部(補完信号生成手段)31、減算部(補完信号生成手段)32およびゲイン部(ゲイン調節手段)33を有している。
【0053】
乗算部31は、LPF部10より入力される低域のオーディオ信号と、第1変動検出部12より入力される検出信号との乗算処理を行う役割を有している。乗算部31の乗算処理により、低域のオーディオ信号において、小さい信号から大きい信号に変化する箇所の信号レベルが検出信号の検出量に対応して増幅されることになる。
【0054】
減算部32は、LPF部10より入力される低域のオーディオ信号から、乗算部31によって検出量に対応する増幅処理が行われた低域のオーディオ信号を減算する役割を有している。このように、減算部32で減算処理を行うことにより、低域のオーディオ信号において、小さい信号から大きい信号に変化する箇所における増幅前のオーディオ信号と増幅後のオーディオ信号との信号レベル差を重み付け量として求めることが可能となる。このようにして求められた重み付け量に関する信号(低域用重み付け信号:ゲイン手段によりゲイン調節される前の低域補完信号)は、減算部32からゲイン部33へ出力される。
【0055】
ゲイン部33は、低域用重み付け信号に対してゲインの増幅および減衰を行うことにより重み付け量の調節を行い、低域用の補完信号(低域補完信号)を生成する役割を有している。生成された低域用の補完信号は、合成部16へ出力される。
【0056】
低域用重み付け信号は、包絡線信号における最大値変化に基づいて生成されるため、ダイナミックレンジが圧縮されて平滑化された箇所におけるゲイン(振幅)を拡張することが可能である。しかしながら、拡張すべきダイナミックレンジのゲインは、ダイナミックレンジが圧縮されて平滑化されたオーディオ信号ごとに異なり、そのまま低域用重み付け信号をオーディオ信号に加算しても、十分なダイナミックレンジの補完(拡張)を行えなかったり、ダイナミックレンジの補完(拡張)量が多すぎたりして、かえって音質の低下を招いてしまうおそれもある。
【0057】
このため、オーディオ信号の圧縮状態などに応じて、ゲイン部33で予め低域用重み付け信号にゲインの増幅および減衰を行って、重み付け量を調節をした補完信号を生成することにより、次述する合成部16においてオーディオ信号に補完信号が加算された信号のダイナミックレンジを、適切に拡張し、調整することが可能となる。
【0058】
このように、第1重み付け部14では、減算部32で、LPF部10より入力された低域のオーディオ信号から、検出量に対応する増幅処理が行われた低域のオーディオ信号を減算することにより、低域のオーディオ信号における重み付け量を求めるとともに、ゲイン部33で、求められた重み付け量の調整を行うことにより低域補完信号を生成する。
【0059】
また、第2重み付け部15も、図3に示す第1重み付け部14と同様の機能部を備えている。第2重み付け部15では、減算部で、HPF部11より入力された高域のオーディオ信号から、検出量に対応する増幅処理が行われた高域のオーディオ信号を減算することにより、高域のオーディオ信号における重み付け量を求めるとともに、求められた重み付け量の調整を行うことにより高域補完信号を生成する。第2重み付け部15における機能部の構成およびその役割は、図3に示す第1重み付け部14と同じものであるため、説明を省略する。
【0060】
[合成部]
合成部16は、ダイナミックレンジ拡張装置1に入力されたオーディオ信号(ダイナミックレンジの圧縮により平滑化された状態となったオーディオ信号)に対して、第1重み付け部14において求められた低域補完信号と、第2重み付け部15において求められた高域補完信号とを加算する処理を行う役割を有している。このように加算処理を行うことによって、ダイナミックレンジの圧縮により平滑化された音源のオーディオ信号に対して、信号の包絡線の変化量に応じてゲイン補完がなされた低域成分・高域成分のオーディオ信号が加えられるため、ダイナミックレンジを拡張することができ、聴感上でメリハリ感や臨場感、音質を向上させることができる。
【0061】
なお、本実施の形態に係るダイナミックレンジ拡張装置1では、中域成分に対するダイナミックレンジの拡張処理は行っていない。中域成分は、一般的に、聴覚の感度が高く、ボーカル等の音声成分も多く含まれるため、中域成分におけるダイナミックレンジの拡張を行うと、聴感上の変動感を聴取者に与えてしまうおそれがあるからである。ただし、本実施の形態に係るダイナミックレンジ拡張装置1は、低域成分と高域成分とに対してのみダイナミックレンジの拡張処理を行う場合を一例として示しただけであり、中域成分についてもダイナミックレンジの拡張処理を行う構成とすることも可能である。さらに、低域成分のみ、中域成分のみ、高域成分のみ、低域成分と中域成分のみ、高域成分と中域成分のみなど、様々な組み合わせによってダイナミックレンジの拡張処理を行うことも可能である。
【0062】
[動作例説明]
次に、上述したダイナミックレンジ拡張装置1の動作例について説明する。図4は、ダイナミックレンジ拡張装置1における動作例を説明するために設定した各機能部の動作パラメータを示した表である。ダイナミックレンジ拡張装置1には、CDに記録されるオーディオ信号が入力されるものとする。
【0063】
図4に示すように、LPF部10およびHPF部11には、2次のバタワースフィルタが用いられており、LPF部10のカットオフ周波数は200Hz、HPF部11のカットオフ周波数は4kHzに設定されている。また、第1変動検出部12および第2変動検出部13に入力されるオーディオ信号は、CDに記録されるオーディオ信号であることから、サンプリング周波数が44.1kHzの音源によるものとなる。このようなオーディオ信号に対して、第1変動検出部12および第2変動検出部13の最大値検出の間隔は、64サンプルに設定される。
【0064】
さらに、最大値検出における検出範囲は−30dB〜0dBに設定されている。このため、−30dB以下となるオーディオ信号は−30dBとして出力される。従って、−30dB以下のオーディオ信号については、低域補完信号および高域補完信号の生成は行なわれない。
【0065】
また、サンプリング周波数が44.1kHzのオーディオ信号において、最大値検出の間隔が64サンプルに設定されると、最大値ホールド部22によりホールド処理されるオーディオ信号のサンプリング周波数は、689Hz(44,110Hz÷64サンプル)となる。
【0066】
さらに、第1変動検出部12および第2変動検出部13のスムージング部23には、1次のバタワース・ローパスフィルタが用いられ、微分部25には、1次のバタワース・ハイパスフィルタが用いられている。
【0067】
なお、第1変動検出部12および第2変動検出部13におけるスムージング部23の正規化カットオフ周波数は、689Hzを1.0とした場合に0.1に該当する周波数(68.9Hz)が設定されている。また、第1変動検出部12における微分部25の正規化カットオフ周波数は、689Hzを1.0とした場合に0.0171に該当する周波数が設定され、第2変動検出部13における微分部の正規化カットオフ周波数は、689Hzを1.0とした場合に0.0051に該当する周波数が設定されている。
【0068】
微分部におけるハイパスフィルタのカットオフ周波数を調整することにより、低域用検出信号および高域用検出信号における応答時間を制御することが可能となっている。例えば、カットオフ周波数を高くするほど検出信号の応答時間(検出信号における検出量の変動時間(反映時間))が長くなり、ダイナミックレンジの拡張における低域補完信号および高域補完信号の生成時間(補完信号により増大されるオーディオ信号の増大反映時間)を長くすることができる。
【0069】
また、第1重み付け部14のゲイン部33では、重み付け量の調整を行うために、入力される低域用重み付け信号に対して6dBのゲイン増幅量が設定されている。また、第2重み付け部15のゲイン部においては、入力される高域用重み付け信号に対して0dBのゲイン増幅量が設定されており、実質的に増減を行わない設定となっている。
【0070】
図5〜図8は、図4に示すように各機能部のパラメータを設定した場合における動作例を示した図である。
【0071】
[ダイナミックレンジの圧縮により平滑化されたオーディオ信号]
図5(a)は、ダイナミックレンジ拡張装置1に入力されるオーディオ信号(入力信号)を示した図である。図5(a)に示すオーディオ信号は、CDに記録されたオーディオ信号を再生したものであり、図12に示したオーディオ信号と同じ音源によるオーディオ信号を示している。図5(a)は、オーディオ信号を約3秒間だけ観測したものを示し、図12は、図5(a)におけるオーディオ信号の特定の時間軸を拡大して、約90ミリ秒(msec)の間だけ観測したものを示している。図5(a)に示すように、オーディオ信号の振幅は比較的一様になっており、ダイナミックレンジの圧縮により平滑化された信号を観測することができる。また、図5(a)の時間軸を拡大した図12に示すように、19ミリ秒(msec)〜28ミリ秒(msec)においては、振幅が±1でクリップされた(振幅が制限された)信号(図12の破線Aおよび破線Bの部分)を観測することができる。
【0072】
[包絡線信号の出力状態と検出量変化]
図6(a)は、第1変動検出部12のデシベル変換部24においてデシベル変換された信号の出力状態を示した図である。より詳細に、図6(a)に示す出力信号は、LPF部10においてオーディオ信号の低域成分の抽出がなされた後に、第1変動検出部12の最大値検出部21、最大値ホールド部22およびスムージング部23によって包絡線信号の検出がなされ、デシベル変換部24によってデシベル変換された信号を示している。
【0073】
また、図6(b)は、第1変動検出部12のレベル制限部27においてレベル制限が行われた信号の出力状態を示した図である。より詳細に、図6(b)に示す出力信号は、図6(a)に示す信号に対して微分部25で変化量検出が行われ、反転部26により信号の反転処理が行われた後に、レベル制限部27でプラス側の変化量のみが検出された信号を示している。
【0074】
図6(a)に示す信号の出力状態と、図6(b)に示す信号の出力状態とを比較すると、図6(a)に示すように、低域成分の包絡線信号の変化に応じて、図6(b)に示すように検出量が変化し、包絡線信号が大きく変化するほど検出量が大きくなっている。
【0075】
また、図7(a)は、第2変動検出部13のデシベル変換部においてデシベル変換された信号の出力状態を示した図である。より詳細に、図7(a)に示す出力信号は、HPF部11においてオーディオ信号の高域成分の抽出がなされた後に、第2変動検出部13の最大値検出部、最大値ホールド部およびスムージング部によって包絡線信号の検出がなされ、デシベル変換部によってデシベル変換された信号を示している。
【0076】
また、図7(b)は、第2変動検出部13のレベル制限部においてレベル制限が行われた信号の出力状態を示した図である。より詳細に、図7(b)に示す出力信号は、図7(a)に示す信号に対して微分部で変化量検出が行われ、反転部により信号の反転処理が行われた後に、レベル制限部でプラス側の変化量のみが検出された信号を示している。
【0077】
図7(a)に示す信号の出力状態と、図7(b)に示す信号の出力状態とを比較すると、図7(a)に示すように、高域成分の包絡線信号の変化に応じて、図7(b)に示すように検出量が変化し、包絡線信号が大きく変化するほど検出量が大きくなっている。
【0078】
[低域補完信号および高域補完信号]
図5(b)は、低域補完信号を示した図であり、図5(c)は高域補完信号を示した図である。
【0079】
低域補完信号は、図6(b)に示される出力信号を第1変動検出部12のリニア変換部28でデシベル信号からリニア信号へと変換した後に、第1重み付け部14の乗算部31でLPF部10より入力された低域のオーディオ信号との乗算処理を行い、減算部32で低域のオーディオ信号に対して減算処理を行った後に、ゲイン部33で重み付け量の調整が行われた信号である。
【0080】
また、高域補完信号は、図7(b)に示される出力信号を第2変動検出部13のリニア変換部でデシベル信号からリニア信号へと変換した後に、第2重み付け部15の乗算部でHPF部11より入力された高域のオーディオ信号との乗算処理を行い、減算部で高域のオーディオ信号に対して減算処理を行った後に、ゲイン部で重み付け量の調整が行われた信号である。
【0081】
図5(b)に示す低域補完信号は、低域のオーディオ信号において、振幅が±1でクリップされた(振幅が制限された)箇所に対応するようにして、振幅が大きく増幅されている。また、図5(c)に示す高域補完信号も同様に、高域のオーディオ信号において、振幅が±1でクリップされた(振幅が制限された)箇所に対応するようにして、振幅が増幅されている。
【0082】
このように、低域補完信号は、オーディオ信号の低域成分においてダイナミックレンジの圧縮により平滑化された振幅を増幅補完することにより、低域成分におけるダイナミックレンジの拡張を行うための補完信号として利用することが可能となっている。
【0083】
また、高域補完信号においても、オーディオ信号の高域成分においてダイナミックレンジの圧縮により平滑化された振幅を増幅補完することにより、高域成分におけるダイナミックレンジの拡張を行うための補完信号として利用することが可能となっている。
【0084】
図5(d)は、図5(a)に示すオーディオ信号に対して、図5(b)に示す低域補完信号と、図5(c)に示す高域補完信号とが合成された出力信号を示している。この合成された出力信号は、ダイナミックレンジ拡張装置1の合成部16において、入力されたオーディオ信号に対して低域補完信号と高域補完信号との加算処理が行われた信号に該当する。
【0085】
図5(d)に示すように、オーディオ信号に低域補完信号と高域補完信号とが合成された出力信号は、図5(a)に示す合成前のオーディオ信号に対して、信号の振幅が大きくなり(±1よりも大きな振幅となっており)、ダイナミックレンジが拡張されている。
【0086】
オーディオ信号に対して低域補完信号と高域補完信号とが合成された出力信号の信号状態がより理解しやすいように、図12に示したオーディオ信号に対応する時間軸における約90ミリ秒(msec)の間の低域補完信号の信号状態と、高域補完信号の信号状態と、オーディオ信号に対して低域補完信号と高域補完信号とを合成した出力信号の出力状態とを、図8〜図10に示す。
【0087】
図8は、約90ミリ秒(msec)の間の低域補完信号の信号状態であって、図5(b)に示す低域補完信号を特定の時間軸で拡大した状態を示し、図9は、約90ミリ秒(msec)の間の高域補完信号の信号状態であって、図5(c)に示す高域補完信号を特定の時間軸で拡大した状態を示し、図10は、約90ミリ秒(msec)の間の合成した出力信号の信号状態であって、図5(d)に示す信号を特定の時間軸で拡大した状態を示している。
【0088】
図8に示すように、低域補完信号の振幅は、±1よりも大きな振幅を示している.特に、図12に示すオーディオ信号において、振幅が±1に制限された箇所(図12の破線Aおよび破線Bで示される部分であって振幅が矩形状になった箇所)における振幅が増大されている。また、図9に示すように、高域補完信号においても、低域補完信号と同様に、オーディオ信号においてダイナミックレンジの圧縮により振幅の制限が行われた部分に対応するようにして、振幅の変動が示されている。
【0089】
このため、オーディオ信号に対して低域補完信号と高域補完信号とが合成された出力信号は、図10に示すように、図12において振幅が±1に制限されて矩形状に示された箇所の振幅が±1よりも大きな振幅へと増大されて、正弦波状の信号状態となっている。このように、オーディオ信号に対して低域補完信号と高域補完信号とを合成することにより、ダイナミックレンジが圧縮されたオーディオ信号に対して、ダイナミックレンジの拡張を行うことが可能となり、オーディオ信号のメリハリ感と臨場感とを向上させるとともに、不要な高調波を低減して音質の改善を図ることが可能となる。
【0090】
また、低域補完信号および高域補完信号はそれぞれ、低域のオーディオ信号の包絡線および高域のオーディオ信号における包絡線を微分することにより生成されるため、ダイナミックレンジが圧縮されたオーディオ信号の信号波形が矩形状に近づき変化量が大きくなればなるほど、生成される低域補完信号および高域補完信号のレベルが大きくなる。このため、ダイナミックレンジの圧縮が大きいほど補完信号のレベルが大きくなり、圧縮の度合い応じた補完信号がオーディオ信号に合成されることになる。従って、いかなるダイナミックレンジの圧縮状態においても、収録環境の音、すなわち、ダイナミックレンジが圧縮されていない源音に、ダイナミックレンジを近づけることが可能となる。
【0091】
また、ダイナミックレンジ拡張装置1におけるダイナミックレンジの拡張処理は、包絡線に基づいて求められる低域補完信号および高域補完信号により行われるため、ダイナミックレンジが圧縮されたオーディオ信号のボリューム設定の大小に係わらず効果的に行うことが可能となる。従って、パワーアンプやスピーカに十分な再生能力がある場合には、CDやDVDのような記録媒体におけるダイナミックレンジの制限によって、ダイナミックレンジが圧縮されたオーディオ信号を、ボリューム設定の音量を増大した後にスピーカから再生(出力)し、または、パワーアンプ等を介してスピーカから再生(出力)しても、出力信号のダイナミックレンジが拡張されているため、出力音のメリハリ感と臨場感を体感することが可能となり、不要な高調波の発生を抑制することが可能となる。
【0092】
以上、本発明に係るダイナミックレンジ拡張装置について、実施の形態において一例を示して説明を行ったが、本発明に係るダイナミックレンジ拡張装置は、上述した実施の形態に示す例には限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0093】
1 …ダイナミックレンジ拡張装置
10 …LPF部(ローパスフィルタ手段)
11 …HPF部(ハイパスフィルタ手段)
12 …第1変動検出部
13 …第2変動検出部
14 …第1重み付け部
15 …第2重み付け部
16 …合成部(加算手段)
21 …最大値検出部(包絡線検出手段)
22 …最大値ホールド部(包絡線検出手段)
23 …スムージング部(包絡線検出手段)
24 …デシベル変換部(デシベル変換手段)
25 …微分部(微分手段)
26 …反転部(反転手段)
27 …レベル制限部
28 …リニア変換部(リニア変換手段)
31 …乗算部(補完信号生成手段)
32 …減算部(補完信号生成手段)
33 …ゲイン部(ゲイン調節手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
音源から出力されるオーディオ信号における最大値変化状態に基づいて包絡線の検出を行う包絡線検出手段と、
該包絡線検出手段により検出された包絡線をデシベル変換するデシベル変換手段と、
該デシベル変換手段によりデシベル変換された包絡線を微分処理することにより、包絡線の変化量を示す変化量信号を生成する微分手段と、
前記微分手段により生成された変化量信号に−1を乗算することにより信号の反転を行う反転手段と、
該反転手段により反転された前記変化量信号をリニアな信号に変換することにより検出信号を生成するリニア変換手段と、
前記オーディオ信号に前記検出信号を乗算した信号を、前記オーディオ信号から減算することにより補完信号を生成する補完信号生成手段と、
該補完信号生成手段により生成された補完信号を、前記オーディオ信号に加算する加算手段と
を備えることを特徴とするダイナミックレンジ拡張装置。
【請求項2】
前記補完信号生成手段により生成された補完信号のゲインを増幅又は減衰することによりゲイン調節を行うゲイン調節手段を有し、
前記加算手段は、前記ゲイン調節手段によりゲイン調節された前記補完信号を、前記オーディオ信号に加算すること
を特徴とする請求項1に記載のダイナミックレンジ拡張装置。
【請求項3】
前記微分手段は、ハイパスフィルタを用いて前記オーディオ信号のフィルタリング処理を行うことによって微分処理を行い、
該フィルタリング処理により求められる前記変化量の変化時間は、前記ハイパスフィルタにおける正規化カットオフ周波数の設定値を変更することにより調整されること
を特徴とする請求項1又は請求項2に記載のダイナミックレンジ拡張装置。
【請求項4】
音源から出力されるオーディオ信号から低域成分を抽出するローパスフィルタ手段を備え、
前記包絡線検出手段は、前記ローパスフィルタ手段により抽出された低域のオーディオ信号に基づいて低域用の包絡線の検出を行い、
前記デシベル変換手段は、前記包絡線検出手段により検出された低域用の包絡線をデシベル変換し、
前記微分手段は、前記デシベル変換手段によりデシベル変換された低域用の包絡線を微分処理することにより、低域用の包絡線の変化量を示す低域変化量信号を生成し、
前記反転手段は、前記微分手段により生成された低域変化量信号に−1を乗算することにより信号の反転を行い、
前記リニア変換手段は、前記反転手段により反転された前記低域変化量信号をリニアな信号に変換することにより低域検出信号を生成し、
前記補完信号生成手段は、前記低域のオーディオ信号に前記低域検出信号を乗算した信号を、前記低域のオーディオ信号から減算することにより低域補完信号を生成し、
前記ゲイン調節手段は、前記補完信号生成手段により生成された低域補完信号のゲイン調節を行い、
前記加算手段は、前記ゲイン調節手段によりゲイン調節された前記低域補完信号を、前記オーディオ信号に加算する
ことを特徴とする請求項2又は請求項3に記載のダイナミックレンジ拡張装置。
【請求項5】
音源から出力されるオーディオ信号から高域成分を抽出するハイパスフィルタ手段を備え、
前記包絡線検出手段は、前記ハイパスフィルタ手段により抽出された高域のオーディオ信号における振幅変化状態基づいて高域用の包絡線の検出を行い、
前記デシベル変換手段は、前記包絡線検出手段により検出された高域用の包絡線をデシベル変換し、
前記微分手段は、前記デシベル変換手段によりデシベル変換された高域用の包絡線を微分処理することにより、高域用の包絡線の変化量を示す高域変化量信号を生成し、
前記反転手段は、前記微分手段により生成された高域変化量信号に−1を乗算することにより信号の反転を行い、
前記リニア変換手段は、前記反転手段により反転された前記高域変化量信号をリニアな信号に変換することにより高域検出信号を生成し、
前記補完信号生成手段は、前記高域のオーディオ信号に前記高域検出信号を乗算した信号を、前記高域のオーディオ信号から減算することにより高域補完信号を生成し、
前記ゲイン調節手段は、前記補完信号生成手段により生成された高域補完信号のゲイン調節を行い、
前記加算手段は、前記ゲイン調節手段によりゲイン調節された前記高域補完信号を、前記オーディオ信号に加算する
ことを特徴とする請求項2乃至請求項4のいずれか1項に記載のダイナミックレンジ拡張装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−55384(P2013−55384A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−190347(P2011−190347)
【出願日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【出願人】(000001487)クラリオン株式会社 (1,722)
【Fターム(参考)】