説明

ダイナモメータ

【課題】ダイナモメータの出力トルクの制御特性を容易に設定可能とする。
【解決手段】減算器32は、目標トルクFtrg(N)と検出トルクFo(N)の差分ΔF(N)を算出し、PID制御器33は、差分ΔF(N)に基づいて、PID制御を行い、モータ23の出力トルクFo(N)の制御値、すなわち、モータ23に出力させるトルクを表す制御値であるトルク制御値Fcnt(N)を出力する。ダイナミックスケーリング部34は、モータ23の出力トルクFoをトルク制御値Fcnt(N)と等しい値とするための、電流指令値ACR(%)を、回転速度計29の出力する回転速度Rvと、モータ23とモータ23を電流指令値ACR(%)に従ってACR制御するインバータ20との組の出力特性が記述されているスケーリングマップ35を参照して算出し、インバータ20に出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイナモメータを制御する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の各種試験に用いられるシャシーダイナモメータとしては、車両の走行状態を再現するために車両に対して走行中の路面を模擬するローラと、前記ローラにトルクを付与/吸収するモータと、モータの出力トルクを計測する測定装置とを備えた自動車用のシャシーダイナモメータや、自動車のエンジンやパワーユニットの出力軸に連結しエンジンの出力軸にトルクを付与/吸収するモータと、モータの出力トルクを計測する測定装置とを備えたエンジンダイナモメータが知られている。
【0003】
そして、このようなダイナモメータを制御する技術としては、モータをACR制御するインバータへの電流指令値を、目標トルクと測定装置の計測したモータの出力トルクとの偏差に従ってPID制御する技術が知られている(たとえば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-133714号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したモータをACR制御するインバータへの電流指令値をPID制御する技術、すなわち、インバータへの電流指令値をPID制御の出力値とする技術によれば、所望の制御特性を得るためのPID制御の制御特性は、使用するインバータとモータの出力特性、すなわち、電流指令値とモータの出力トルクとモータの回転速度との関係の特性毎に異なったものとなる。
【0006】
よって、この技術によれば、使用するインバータとモータの組み合わせ毎に、PID制御の制御特性を定める多様なパラメータ(比例制御、積分制御、微分制御各々の比例定数、積分制御の積分時間、微分制御の微分時間等)を、所望の制御特性が得られるように、それぞれチューニングするという煩雑な作業を行う必要がある。なお、PID制御に代えてPI制御を行う場合も同様である。
【0007】
そこで、本発明は、ダイナモメータの出力トルクの制御特性を、所望の制御特性に、より容易に設定することができるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題達成のために、本発明は、モータと、電流指令値に従って前記モータをACR制御するインバータとを備えたダイナモメータに、前記モータの出力トルクを、検出トルクとして検出するトルク検出部と、前記モータの回転速度を、検出回転速度として検出する回転速度検出部と、前記インバータに前記電流指令値を出力する制御装置とを備えると共に、制御装置を、目標トルクと前記検出トルクとの差分を差分トルクとして算出する差分産出部と、前記差分トルクに基づいたPI制御もしくはPID制御によって、前記モータの出力トルクの制御値を表すトルク制御値を出力するフィードバック出力制御部と、前記インバータとモータとの組の、前記電流指令値と前記モータの回転速度と前記モータの出力トルクとの関係の特性を示すマップと、前記マップを参照して、前記モータの出力トルクを、前記検出回転速度において、前記トルク制御値と同じ大きさの出力トルクとする前記電流指令値を算出して前記インバータに出力する電流指令値算出部とを含めて構成したものである。
【0009】
このようなダイナモメータによれば、フィードバック出力制御部におけるPI制御もしくはPID制御を、直接、モータの出力トルクの制御値を表すトルク制御値を出力として行い、電流指令値算出部において、トルク制御値のインバータに入力する電流指令値への変換を行う。
よって、フィードバック出力制御部におけるPI制御もしくはPID制御の各パラメータを、トルク制御値がモータの出力トルクに等しいものとして、出力トルクの所望の制御特性が得られるように設定すれば、個々のインバータとモータの組の特性毎に、PI制御もしくはPID制御のパラメータをインバータとモータの組の特性に応じて調整する必要はなくなり、トルク制御値のインバータに入力する電流指令値への変換に用いられるマップを、使用するインバータとモータの組に応じて、当該組の出力特性を表すものに交換するのみで、所望の制御特性によるモータのPI制御もしくはPID制御を実現することができる。
【0010】
よって、ダイナモメータの出力トルクの制御特性を、所望の制御特性に、PI制御もしくはPID制御のパラメータの煩雑なチューニング作業を必要とすることなしに、容易に設定することができるようになる。
ここで、このようなダイナモメータは、前記モータに連結された、自動車のタイヤが載置されるローラを備えたシャシーダイナモメータであってもよい。または、当該ダイナモメータは、前記モータに自動車のエンジンまたはパワーユニットの出力軸が連結されるエンジンダイナモメータであってもよい。
【発明の効果】
【0011】
以上のように、本発明によれば、ダイナモメータの出力トルクの制御特性を、所望の制御特性に、より容易に設定することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態に係るシャシーダイナモメータの構成を示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係るダイナモメータと制御装置の構成を示す図である。
【図3】本発明の実施形態に係るスケーリングマップの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、シャシーダイナモメータへの適用を例にとり説明する。
図1に、本実施形態に係るシャシーダイナモメータの構成を模式的に示す。
ここで、図1aはシャシーダイナモメータの上面模式図を、図1bはシャシーダイナモメータの側面模式図を示している。
図示するように、このシャシーダイナモメータは、自動車用のシャシーダイナモメータであり、ピット1と、ピット1内に配置されたダイナモメータ2と、制御装置3とを備えている。
ここで、ダイナモメータ2は、図2に示すように、インバータ20、ベース21、左右一対の円筒形状のローラ22、ベース21に固定されたモータ23を有している。そして、各ローラ22の中心軸24は、ベース21に固定された二つの支柱25によって回動可能に支持されている。また、左側のローラ22の中心軸24の右端は、左軸トルク計26を介在して、モータ23のモータ軸27の左端に連結し、右側のローラ22の中心軸24の左端は、右軸トルク計28を介在して、モータ23のモータ軸27の右端に連結している。また、モータ23には、モータ軸27の回転速度を検出し、検出した回転速度を回転速度Rvとして制御装置3に出力する回転速度計29が設けられている。
【0014】
このような構成において、インバータ20は、制御装置3から出力される電流指令値ACR(%)に従って、電流指令値ACR(%)で示される電流をPWM信号等によってモータ23に供給するACR制御(定電流制御)をモータ23に対して行い、ACR制御によって駆動されたモータ23の出力トルクによって各ローラ22の回転の動力の供給または吸収が行われる。なお、電流指令値ACR(%)は、電流指令値を、電流指令値の最大値に対する比率(%)で表したものであり、100%から-100%の値をとる。
【0015】
また、左軸トルク計26、右軸トルク計28は、たとえば歪みゲージであり、左軸トルク計26は、モータ23のモータ軸27と左側のローラ22の中心軸24との間に働く軸トルクをねじれ方向の歪み量より検出し、右軸トルク計28は、モータ23のモータ軸27と右側のローラ22の中心軸24との間に働く軸トルクを、たとえば、ねじれ方向の歪み量より検出する。そして、左軸トルク計26が検出した軸トルクと、右軸トルク計28が検出した軸トルクとを加算した値が、モータ23が出力しているトルクを表す検出トルクFo(N)として制御装置3に出力される。なお、「(N)」は、当該信号が力(ニュートン)を表す信号であることを表している。
【0016】
ここで、図1に示すように、このようなダイナモメータ2はローラ22の頂部がピット1上面に設けられた開口から露出するように配置されている。そして、自動車の試験は、図示するように、ピット1に試験する自動車である試験車両5を進行させ、左右の駆動輪のタイヤをダイナモメータ2の左右のローラ22の頂上にそれぞれ位置決めした上で、試験車両5をピット1に対して固定して行う。
【0017】
さて、図2に戻り、制御装置3は、目標トルク設定部31、減算器32、PID制御器33、ダイナミックスケーリング部34、スケーリングマップ35とを備えている。
目標トルク設定部31は、予め定義された目標トルクの付与スケジュールや、回転速度と目標トルクとの対応などに従って、回転速度計29の出力する回転速度Rvなどの必要に応じて参照しつつ、現時点の目標トルクFtrg(N)を出力する。
減算器32は、目標トルクFtrg(N)と検出トルクFo(N)の差分ΔF(N)を算出し、PID制御器33は、差分ΔF(N)に基づいて、モータ23の出力トルクFo(N)のPID制御を行う。すなわち、差分ΔF(N)に基づいた比例制御、積分制御、微分制御の各々を行って、モータ23の出力トルクFo(N)の制御値、すなわち、モータ23に出力させるトルクを表す制御値であるトルク制御値Fcnt(N)を算出し出力する。ここで、PID制御の、比例制御、積分制御、微分制御各々の比例定数、積分制御の積分時間、微分制御の微分時間等のパラメータは、予め、モータ23の出力トルクFo(N)がトルク制御値Fcnt(N)と等しくなるものとして、モータ23の出力トルクFo(N)の、所望の制御特性が得られるように設定されている。
【0018】
次に、ダイナミックスケーリング部34は、モータ23の出力トルクFoをトルク制御値Fcnt(N)と等しい値とするための、電流指令値ACR(%)を、回転速度計29の出力する回転速度Rvと、スケーリングマップ35を参照して算出し、インバータ20に出力する。
【0019】
ここで、スケーリングマップ35には、図3a1のグラフに示すような、使用しているインバータ20とモータ23の組の出力特性、すなわち、インバータ20に入力する電流制御値ACR(%)と、モータ23の回転速度Rvと、モータ23の出力トルクFo(N)との関係が記述されている。なお、図3のグラフは、縦軸を電流制御値ACR(%)、横軸を回転速度Rvとして、各出力トルクFo(N)の値に対応する曲線によって、これら三者の関係を示したものである。なお、図3a1のスケーリングマップ35は、一般的な出力特性の記述法に従えば、図3a2に示すような出力特性に対応するものである。図3a2は、縦軸を出力トルクFo(N)、横軸を回転速度Rvとして、各電流制御値ACR(%)の値に対応する曲線によってこれら三者の関係を示したものである。なお、図3a2において、各曲線は、下のものより順次、-100%、-90%、-80%、...-20%、-10%、10%、20%、...80%、90%、100%の電流制御値ACR(%)に対応する曲線である。
【0020】
そして、ダイナミックスケーリング部34は、回転速度計29の出力する回転速度Rvにおいて、モータ23の出力トルクFo(N)がトルク制御値Fcnt(N)と等しい値となる電流指令値ACR(%)をスケーリングマップ35を参照して求め、求めた電流指令値ACR(%)をインバータ20に出力する。
【0021】
以上、本発明の実施形態について説明した。
以上のように、本実施形態では、PID制御器33におけるPID制御を、直接、モータ23の出力トルクFo(N)の制御値を表すトルク制御値Fcnt(N)を出力として、モータ23の出力トルクFo(N)がトルク制御値Fcnt(N)と等しい場合に、モータ23の出力トルクFo(N)の、所望の制御特性が得られるように行い、ダイナミックスケーリング部34において、トルク制御値Fcnt(N)のインバータ20に入力する電流指令値ACR(%)への変換を行う。
【0022】
よって、インバータ20とモータ23の特性毎に、PID制御のパラメータをインバータ20とモータ23の組の出力特性毎に調整する必要はなくなり、トルク制御値Fcnt(N)のインバータ20に入力する電流指令値ACR(%)への変換に用いられるスケーリングマップ35を、使用するインバータ20とモータ23の組に応じて、当該組の出力特性を表すものに交換するのみで、所望の制御特性によるモータ23のPID制御を実現することができる。
【0023】
すなわち、たとえば、使用するインバータ20とモータ23の組の出力特性が、図3a1に示すようなものではなく、図3bに示すようなものである場合には、スケーリングマップ35を、図3bに示すものに交換するだけで、使用するインバータ20とモータ23の組が変わっても、PID制御器33のPID制御のパラメータを変更すること無しに、同様の制御特性によるモータ23のPID制御を実現することができる。
【0024】
よって、ダイナモメータ2の出力トルクの制御特性を、所望の制御特性に、PID制御のパラメータの煩雑なチューニング作業を必要とすることなしに、容易に設定することができるようになる。
以上、本発明の実施形態について説明した。
また、以上で示したシャシーダイナモメータの制御装置3は、PID制御器33においてPID制御に代えてPI制御を行うように構成してもよい。
また、以上で示したシャシーダイナモメータの制御装置3は、四輪駆動車や自動二輪車用のシャシーダイナモメータにも同様に適用することができる。
【0025】
また、以上のシャシーダイナモメータでは、ダイナモメータ2として軸トルク計でトルクを測定するタイプのダイナモメータを用いたが、ダイナモメータ2としては、軸周りに揺動可能に設けたモータ23と、モータ23の揺動に伴いモータ23に固定したアームから加わる荷重をトルクとして計測するロードセルとを備えた、揺動式のダイナモメータ2を用いるようにしてもよい。
【0026】
また、以上に示したシャシーダイナモメータの制御装置3は、エンジン、または、エンジンとトランスミッションよりなるパワーユニットの出力軸に連結し、当該出力軸にトルクを付与/吸収するモータと、モータを駆動するインバータと、エンジンの出力軸とモータ間に作用する軸トルクを計測する軸トルク計と、モータの回転速度を計測する回転速度計とを備えたエンジンダイナモメータの制御装置としても同様に用いることができる。
【符号の説明】
【0027】
1…ピット、2…ダイナモメータ、3…制御装置、5…試験車両、20…インバータ、21…ベース、22…ローラ、23…モータ、24…中心軸、25…支柱、26…左軸トルク計、27…モータ軸、28…右軸トルク計、29…回転速度計、31…目標トルク設定部、32…減算器、33…PID制御器、34…ダイナミックスケーリング部、35…スケーリングマップ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータと、電流指令値に従って前記モータをACR制御するインバータとを備えたダイナモメータであって、
前記モータの出力トルクを、検出トルクとして検出するトルク検出部と、
前記モータの回転速度を、検出回転速度として検出する回転速度検出部と、
前記インバータに前記電流指令値を出力する制御装置とを備え、
当該制御装置は、
目標トルクと前記検出トルクとの差分を差分トルクとして算出する差分産出部と、
前記差分トルクに基づいたPI制御もしくはPID制御によって、前記モータの出力トルクの制御値を表すトルク制御値を出力するフィードバック出力制御部と、
前記インバータとモータとの組の、前記電流指令値と前記モータの回転速度と前記モータの出力トルクとの関係の特性を示すマップと、
前記マップを参照して、前記モータの出力トルクを、前記検出回転速度において、前記トルク制御値と同じ大きさの出力トルクとする前記電流指令値を算出して前記インバータに出力する電流指令値算出部とを有することを特徴とするダイナモメータ。
【請求項2】
請求項1記載のダイナモメータであって、
当該ダイナモメータは、前記モータに連結された、自動車のタイヤが載置されるローラを備えたシャシーダイナモメータであることを特徴とするダイナモメータ。
【請求項3】
請求項1記載のダイナモメータであって、
当該ダイナモメータは、前記モータに自動車のエンジンまたはパワーユニットの出力軸が連結されるエンジンダイナモメータであることを特徴とするダイナモメータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−132699(P2012−132699A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−282772(P2010−282772)
【出願日】平成22年12月20日(2010.12.20)
【出願人】(000145806)株式会社小野測器 (230)
【Fターム(参考)】