説明

ダイバーシチ受信システム

【課題】線路の沿線に複数の基地局1,2を有する移動体通信システムにおいて,高速フェージングやビート干渉の影響を少なくした受信品質の良いダイバーシチ受信システムを実現する。
【解決手段】基地局1,2では,基準周波数信号発生手段14から受信した基準周波数信号によりキャリアの周波数を同期させ,キャリア周波数を一致させて電波を発射する。移動局10におけるダイバーシチ受信用の2つの移動局アンテナ11,12は,各基地局1,2からの電波伝搬路長の位相関係により,一方の移動局アンテナで受信する2つの電波の位相が打ち消しあうときには,他方の移動局アンテナで受信する2つの電波の位相が加算しあうように定められた配置条件に従って,移動局10上に配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,線路を移動する移動局とその線路に沿って配置された基地局が複数存在する移動通信システムに関し,特に,簡易な装置構成により移動局側において良好な受信品質を得るためのダイバーシチ受信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
複数の基地局を有する移動通信システムにおいて,多くの移動局に同一の情報を同時に伝達する場合,それぞれの基地局から同じ情報を,同じ値のキャリア周波数で送信する同一周波数複局同時送信方式が用いられる。列車無線システム等のような業務用移動通信システムでは,周波数利用効率の面からも,同一周波数複局同時送信方式は有効とされている。
【0003】
しかしながら,この場合のキャリアは,「設計値として同一周波数」のキャリアであって,実際には,各々の基地局のキャリアの発振源は独立している。そのため,複数の基地局から設計値が同じ周波数のキャリアを使って電波を発射する場合,基地局毎のキャリアの発振源が異なると,それぞれの実際のキャリア周波数は,厳密には同一周波数ではなく,キャリア周波数の差によってビート干渉が発生する問題がある。
【0004】
また,移動局は,複雑に反射や回折を行うマルチパス伝搬路の環境下で電波を受信しながら移動することによって,高速フェージング等の影響を受けるため,受信信号の品質は大きく劣化する。
【0005】
以上の背景技術について,図1の例に従ってさらに詳しく説明する。図1は,列車無線システムの一例の概要を示す図である。
【0006】
図1に示す列車無線システムは,複数の基地局1,2,3と,移動局10と,中央装置5を備えている。移動局10は,線路4上を移動する。基地局1〜3は,線路4に沿って配置されており,各々の基地局1〜3では,中央装置5から伝送路6を介して情報信号を受信する。
【0007】
基地局1〜3は,中央装置5から受信した情報信号を,「設計値として同一周波数」のキャリア周波数の電波で,各々のアンテナ7〜9を用いて送信する。移動局10では,少なくとも2本の移動局アンテナ11および12を用いて,その情報信号を受信する。
【0008】
基地局1からの電波と基地局2からの電波は,同一周波数複局同時送信方式により発射されるが,キャリアの発振源が異なると,ビート干渉の原因になる。すなわち,移動局10が基地局1と基地局2との間にある場合,基地局1のキャリア周波数f1 と基地局2のキャリア周波数f2 とが,「設計値として同一周波数」で設計されていても,それぞれの周波数の発振源が異なれば,キャリア周波数f1 とf2 とが完全に一致するということはなく,多少の周波数差Δfが発生する。そのため,この周波数差Δfによって,受信側の移動局10においてビート干渉が発生する。このビート干渉は,移動局10が基地局1と基地局2の中央付近にあって,それぞれの基地局1および2から到達する電波が同程度の強さで受信される場合に最も大きく変動する。
【0009】
例えば,周波数150MHz帯のキャリアでは,各々の基地局において発振源として1×10-6の安定度のクリスタルを使用すれば,Δf=f1 −f2 =150Hzの周波数差によるビートが発生する。
【0010】
また,周辺の建物,立地環境等による電波の反射や散乱によりマルチパス伝搬となるため,このような電波伝搬環境下を移動局10が移動することによって高速フェージングの影響を受ける。
【0011】
従来の高速フェージングやビート干渉の対策としては,非特許文献1に示されているように,同じ情報を複数の基地局から送信するにあたって,それぞれの基地局側で送信タイミングを遅延させるか,または送信する信号の波形を異なる波形となるように波形ひずみを挿入するなどの処理を施して送信する方法がとられていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】久保,岡崎,棚田,村上:「送信ダイバーシチと適応等化器によるビート干渉抑圧方式に関する一検討」,電子情報通信学会論文誌 B,Vol.J86−B,No.3,pp.468−476,2003年3月。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
高速フェージングやビート干渉による受信品質の劣化を回避するために,前述の非特許文献1に示されている方法では,各基地局が送信タイミングをずらしたり,波形を制御するというような信号の加工が必要となるだけでなく,それぞれの移動局では,各基地局から加工されて送られてきた信号を受信するために,適応等化器による補償が必要となり,複雑な処理が必要であった。その結果として,基地局と移動局の両方で,回路構成が複雑になるだけでなく,そのための検査および保守項目が増えるなど,初期コストだけでなく,維持コストにおいても経済的に負担となる側面があった。
【0014】
本発明は,列車無線システムのように線路を移動する移動局とその線路に沿って配置された基地局が複数存在する移動通信システムにおいて,複数の基地局からの電波干渉で発生するビート干渉や,高速フェージング等の影響を低減し,簡易かつ安価な装置構成により移動局において良好な受信品質を実現するダイバーシチ受信システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は,上記課題を解決するため,移動局側に,第1の移動局アンテナと第2の移動局アンテナの2本の移動局アンテナを設けて,ダイバーシチ受信を行うものであり,移動局アンテナの位置関係を次のように定める。
【0016】
複数の基地局のうち,例えば最も電波伝搬条件の悪い区間に隣接する2つの基地局を選び,第N番目の基地局と第N+1番目の基地局とし,前記第N番目の基地局から第N番目の基地局アンテナを使って送信し,前記第N+1番目の基地局から第N+1番目の基地局アンテナを使って送信するものとし,
前記第N番目の基地局アンテナから送信された電波が前記第1の移動局アンテナに達するまでの電波伝搬路長をX1
前記第N+1番目の基地局アンテナから送信された電波が前記第1の移動局アンテナに達するまでの電波伝搬路長をX2
前記第N番目の基地局アンテナから送信された電波が前記第2の移動局アンテナに達するまでの電波伝搬路長をY1
前記第N+1番目の基地局アンテナから送信された電波が前記第2の移動局アンテナに達するまでの電波伝搬路長をY2
電波の波長をλとした場合,
前記2つの移動局アンテナが,前記第N番目の基地局アンテナと前記第N+1番目の基地局アンテナの中央付近に存在し,かつ一方の移動局アンテナが,X1 =X2 ,またはY1 =Y2 のいずれかになるように存在するときに,
[1]受信品質を劣化させないようにする方法として,
|(Y1 −Y2 )−(X1 −X2 )−M×λ|≧λ/10 …(1)
を,任意の整数Mの値に対して満足するように前記2つの移動局アンテナの配置を定める。
[2]また,上記式(1) を満足する条件のうち,比較的有効な方法として,
|(Y1 −Y2 )−(X1 −X2 )−(kλ+λ/2)|≦λ/4 …(2)
を,任意の整数kに対して満足するように2つの移動局アンテナを配置する。
[3]さらに,上記式(2) を満足する条件のうち,最も有効な方法として,
|(Y1 −Y2 )−(X1 −X2 )−(kλ+λ/2) |≦λ/10 …(3)
を,任意の整数kに対して満足するように2つの移動局アンテナを配置する。
【0017】
複数の基地からの送信は,それぞれの基地局に基地局アンテナを設けて,基地局アンテナから送信する代わりに,それぞれの基地局にLCX(漏洩同軸ケーブル:以下同様)を設けて,LCXから送信する場合があり,この場合も本発明に含まれる。
【0018】
また,複数の基地局のキャリア周波数を全て同期させて,全く同じ周波数にすると,時間的にビート干渉による振幅変動が生じないために,それぞれの基地局のキャリア周波数が非同期な場合と比べて大幅な効果が期待される。そのため,本発明では,基準周波数信号を発生する手段を設けて,各基地局へ伝送手段により伝送し,各基地局のキャリア周波数を基準周波数信号に対して同期させる手段を設ける。
【0019】
以上のように,本発明を構成することにより,基地局のキャリア周波数を同期させない場合に比べて,ビート干渉に対する受信品質の劣化を,より効果的に減少させることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の方法に従って移動局アンテナを配置すれば,両方の移動局アンテナの受信レベルが同時に低い値にならないようになるだけでなく,片方の移動局アンテナの受信レベルが低いときには,他方の移動局アンテナの受信レベルが高くなるような位置関係に,2つの移動局アンテナが配置されることになる。
【0021】
したがって,本発明によれば,2本の移動局アンテナの位置を最適な関係に定めることによって良好なダイバーシチ受信が可能になり,従来のような複雑で高価な方法を用いずに,ビート干渉対策やフェージング対策を実現することができる。
【0022】
本発明では,基地局側が基地局アンテナではなく,LCXを使って送信する場合には,それぞれの基地局の中間はLCXとLCXの間に位置する。この場合は,いずれの基地局間でも電波伝搬環境が比較的単純であり同じ条件になる傾向があるため,より高いダイバーシチ受信効果が得られる。
【0023】
さらに,本発明では,基地局の全てのキャリア周波数を全く同じ周波数になるように周波数同期させることにより,上記移動局アンテナの位置関係において時間的なビート干渉が生じなくなり,さらに優れたダイバーシチ受信を実現することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】列車無線システムの一例の概要を示す図である。
【図2】本発明の実施形態を説明するための第1の例を示す図である。
【図3】本発明の実施形態を説明するための第2の例を示す図である。
【図4】本発明の実施形態を説明するための第3の例を示す図である。
【図5】基地局の第1の構成例を示す図である。
【図6】基地局の第2の構成例を示す図である。
【図7】ダイバーシチ受信装置の第1の構成例を示す図である。
【図8】ダイバーシチ受信装置の第2の構成例を示す図である。
【図9】2つの基地局間の中心付近の電波の振幅と電力の大きさを示す図である。
【図10】特定の移動局アンテナ間隔における2つの基地局間の中心付近の電波の振幅と電力の大きさを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下,本発明の実施形態を図面を用いながら詳細に説明する。
【0026】
〔第1の例〕
図2は,本発明の実施形態を説明するための第1の例を示す図である。ダイバーシチ受信システムの構成の一例として,隣接する基地局1および基地局2,線路4,中央装置5,伝送路6,移動局10からなるシステムを示す。この第1の例では,後に詳しく説明する本発明の効果を,より理解しやすくするために,仮に各基地局におけるキャリア周波数の同期をとらなかった場合の例について説明する。なお,基地局1と基地局2との間の中央付近は,他の基地局間の中央付近と比べて,最も電波伝搬条件が悪いものとする。例えば,線路4の沿線の地形や建物等の電波伝搬環境に大きな違いがない場合,2つの基地局間(基地局1,2の間)が,他の基地局間と比べて最も離れているときに,その最も離れている2つの基地局間の中央付近は,最も電波伝搬条件が悪いと考えられる。
【0027】
中央装置5から送られる情報信号は,伝送路6を介して基地局1,2の各々へ送信される。基地局1,2は,受信した情報信号を同一の周波数で設計されたキャリア周波数による変調信号に変換し,基地局アンテナ7,8を介して電波信号として送信する。
【0028】
図2の構成の場合において,基地局1と基地局2の各々のキャリア周波数は,一般には発振源が異なるため,周波数同期を行わない限り,完全に一致することはなく,多少異なる。基地局1のキャリア周波数をf1 (角周波数をω1 =2πf1 ),基地局2のキャリア周波数をf2 (角周波数をω2 =2πf2 )で表すとすると,それぞれのキャリアの周波数差Δf=f1 −f2 により,移動局10の受信側においてビート干渉が発生する。
【0029】
移動局10は,線路4上を移動しながら,ダイバーシチ受信用の移動局アンテナ11,12で基地局1と基地局2から送信される電波を受信し,受信した信号をダイバーシチ受信装置13へ送る。
【0030】
図2において,基地局アンテナ7と基地局アンテナ8とから送信された電波が,それぞれ移動局アンテナ11に達するまでの電波伝搬路長をX1 ,X2 とし,さらに,基地局アンテナ7と基地局アンテナ8から送信された電波が,それぞれ移動局アンテナ12に達するまでの電波伝搬路長をY1 とY2 とする。
【0031】
基地局1の基地局アンテナ7から送信された電波E1 を,
1 =A1 cos(ω1 t+θ1 ) …(4)
基地局2の基地局アンテナ8から送信された電波E2 を,
2 =A2 cos(ω2 t+θ2 ) …(5)
とする。ここで,振幅A1 と振幅A2 は,各々,電波E1 と電波E2 における振幅値であり,位相θ1 と位相θ2 は,各々,基地局1と基地局2の発振源の位相である。したがって,式(4) および式(5) は,任意の時間tにおける電波を示す。
【0032】
移動局アンテナ11の受信入力R1 は,2つの基地局から送信された電波E1 および電波E2 が合成されたものであり,その受信入力(受信電波)R1 は,電波伝搬速度をcとすると,以下の式(6) のように表される。
【0033】
1 =(A1 /X1 )cos{ω1 (t−X1 /c)+θ1
+(A2 /X2 )cos{ω2 (t−X2 /c)+θ2 } …(6)
移動局アンテナ12の受信入力R2 も,同様に以下の式(7) のように表される。
【0034】
2 =(A1 /Y1 )cos{ω1 (t−Y1 /c)+θ1
+(A2 /Y2 )cos{ω2 (t−Y2 /c)+θ2 } …(7)
また,式(6) および式(7) は,それぞれ,次のように変形することができる。
【0035】
1 =B1 cos{ω1 (t−X1 /c)+θ1 +φ1 } …(8)
2 =B2 cos{ω1 (t−Y1 /c)+θ1 +φ2 } …(9)
ここで,受信入力R1 の振幅B1 と受信入力R2 の振幅B2 は,次式で表される。
【0036】
1 =sqrt〔(A1 /X1 2 +(A2 /X2 2 +2A1 2 /(X1 2 )cos{(ω2 −ω1 )t +2π(X1 /λ1 −X2 /λ2 )+θ2 −θ1 }〕 …(10)
2 =sqrt〔(A1 /Y1 2 +(A2 /Y2 2 +2A1 2 /(Y1 2 )cos{(ω2 −ω1 )t +2π(Y1 /λ1 −Y2 /λ2 )+θ2 −θ1 }〕 …(11)
ここで,sqrt〔…〕は,〔…〕の平方根を表す。また,波長λ1 ,波長λ2 は,それぞれキャリア周波数f1 ,f2 の電波の波長であり,次式のように表される。
【0037】
λ1 =c/f1 …(12)
λ2 =c/f2 …(13)
さらに,位相φ1 ,φ2 は次式で表される。
【0038】
φ1 =tan-1〔(A2 /X2 )sin{(ω2 −ω1 )t +2π(X1 /λ1 −X2 /λ2 )+θ2 −θ1 }/[(A1 /X1 )+(A2 /X2 )cos{(ω2 −ω1 )t +2π(X1 /λ1 −X2 /λ2 )+θ2 −θ1 }]〕 …(14)
φ2 =tan-1〔(A2 /Y2 )sin{(ω2 −ω1 )t +2π(Y1 /λ1 −Y2 /λ2 )+θ2 −θ1 }/[(A1 /Y1 )+(A2 /Y2 )cos{(ω2 −ω1 )t +2π(Y1 /λ1 −Y2 /λ2 )+θ2 −θ1 }]〕 …(15)
本発明では,ダイバーシチ受信用の2つの移動局アンテナ(11または12)のいずれか一方の受信電波の振幅B1 またはB2 が最も小さい条件の下でも,他方の移動局アンテナ(12または11)の受信電波の振幅B2 またはB1 が所定の範囲になるように移動局アンテナ11,12のアンテナ間隔を保つことを特徴としている。そこで,振幅B1 が最小になる条件を求めてみる。
【0039】
cos{(ω2 −ω1 )t +2π(X1 /λ1 −X2 /λ2 )+θ2 −θ1 }=−1
…(16)
この式(16)が満たされるとき,受信電波の振幅B1 が最小になる可能性があり,そのためには,
(ω2 −ω1 )t +2π(X1 /λ1 −X2 /λ2 )+θ2 −θ1 =±奇数×π
…(17)
である。実際,このときに,
1 =sqrt{(A1 /X1 −A2 /X2 2 } …(18)
となり,例えば,2つの基地局1,2の中間付近で,電波伝搬路長X1 =X2 であれば,同じ振幅(A1 =A2 )の電波については,移動局アンテナ11の受信電波の振幅B1 =0になってしまう。
【0040】
このようなときに,他方の移動局アンテナ12の受信電波の振幅B2 が所定の範囲に収まる条件を求めると,式(17)から以下に示す通りとなる。
【0041】
(ω2 −ω1 )t +θ2 −θ1 =±奇数×π−2π(X1 /λ1 −X2 /λ2
…(19)
この式(19)を式(11)に代入すると,振幅B1 が下がったときの振幅B2 の値として,以下の値が求まる。
【0042】
2 =sqrt〔(A1 /Y1 2 +(A2 /Y22 +2A1 2 /(Y1 2 )cos〔2π{(Y1 /λ1 −Y2 /λ2 )−(X1 /λ1 −X2 /λ2 )}±奇数×π〕〕 …(20)
同一周波数複局同時送信方式の場合には,キャリア周波数f1 ≒f2 であるので,波長λ1 ≒λ2 である。したがって,波長λ1 ,λ2 をλとして表すと,式(20)は次のようになる。
【0043】
2 =sqrt〔(A1 /Y1 2 +(A2 /Y22 +2A1 2 /(Y1 2 )cos〔2π{(Y1 −Y2 )−(X1 −X2 )}/λ±奇数×π〕〕 …(21)
式(21)について,数値計算をしてみる。計算を簡略化するために,図2の図面上の奥行きの距離を無視して2次元で考える。また,振幅A1 =A2 の条件で計算することにする。
【0044】
図2において,基地局1の基地局アンテナ7と基地局2の基地局アンテナ8との距離をL,基地局アンテナ7のアンテナ軸の延長線と移動局アンテナ11との距離をX,移動局アンテナ11,12間のアンテナ間隔をDとすると,移動局アンテナ12と基地局アンテナ8のアンテナ軸の延長線の距離は,L−X−Dである。また,図2に示す電波伝搬路長X1 ,X2 ,Y1 ,Y2 は,次のようになる。
【0045】
1 =sqrt〔X2 +H2 〕 …(22)
2 =sqrt〔(L−) 2 +H2 〕 …(23)
1 =sqrt〔(X+D)2 +H2 〕 …(24)
2 =sqrt〔(L−X−D) 2 +H2 〕 …(25)
図9は,2つの基地局間の中心付近における受信電波の振幅と電力の大きさを示す図である。なお,図9(B)は,図9(A)の一部を拡大した図である。図9では,式(21)について,{(Y1 −Y2 )−(X1 −X2 )}/λを横軸,振幅と電力を縦軸にして数値計算した結果を示している。振幅のピークについては,中心付近で1になるように振幅A1 とA2 の値を選んでいる。
【0046】
図9(A)および図9(B)の実線で示す“B2(振幅)”は,2つの基地局1と基地局2との間の中心付近において,一方の移動局アンテナ11の受信電波の振幅B1 が最小になるときの他方の移動局アンテナ12の受信電波の振幅B2 である。また,破線で示す“B2(電力)”は,このときの移動局アンテナ12の受信電力に比例する値であり,式(21)を自乗して求めた値である。
【0047】
以上の計算結果から,任意の整数Mの値に対して,
|(Y1 −Y2 )−(X1 −X2 )−M×λ|≧λ/10 …(26)
の関係であれば(図9(B)の区間Aに相当),移動局アンテナ11の受信電波の振幅B1 が最小になるときに,他方の移動局アンテナ12の受信電波の振幅B2 が最小になることはなく,受信電力で見たときに,少なくとも,ピークの10%程度以上の受信が可能になる。
【0048】
次に,任意の整数kに対して,
|(Y1 −Y2 )−(X1 −X2 )−(kλ+λ/2)|≦λ/4 …(27)
の関係であれば(図9(B)の区間Bに相当) ,移動局アンテナ11の受信電波の振幅B1 が最小になるときの他方の移動局アンテナ12の受信電波の振幅B2 はピークの70%以上であり,また,受信電力で見たときに,少なくとも,ピークの50%以上の受信が可能になる。
【0049】
さらに,任意の整数kに対して,
|(Y1 −Y2 )−(X1 −X2 )−(kλ+λ/2)|≦λ/10 …(28)
の関係であれば(図9(B)の区間Cに相当),移動局アンテナ11の受信電波の振幅B1 が最小になるときの他方の移動局アンテナ12の受信電波の振幅B2 はピークの95%以上であり,受信電力で見たときに,少なくとも,ピークの90%以上の受信が可能になる。
【0050】
図10は,2つの移動局アンテナ11,12が移動局10の進行方向にD=λ/4の間隔だけ離れて配置されている場合の移動局アンテナ11,12のそれぞれの受信電波の振幅と電力の大きさを示している。図10(A)は,基地局の電波発射部が基地局アンテナで構成される場合を示しており,図10(B)は,電波発射部がLCXで構成される場合を示している。なお,図10(B)については,後述する。
【0051】
図10(A)において,“B1(振幅)”,“B2(振幅)”とあるのは,それぞれ移動局アンテナ11,12の受信電波の振幅に比例する値であり,“B1(電力)”,“B2(電力)”とあるのは,それぞれ移動局アンテナ11,12の受信電波の電力に比例する値である。縦軸には,これらの振幅と電力が示され,横軸には,中心からの距離(X−L/2)を波長λで割った値(X−L/2)/λが示されている。なお,具体的な数値としては,距離L=1km,高さH=10mの場合について計算した。
【0052】
図10(A)に示される結果から明らかなように,2つの移動局アンテナ11,12の間がD=λ/4だけ離れていると,一方の受信電波の電力が最も下がったときに,他方の受信電波の電力は最も高い値となり,最も優れた受信ダイバーシチ効果が得られることがわかる。
【0053】
この第1の例によれば,移動局側に所定の配置条件を満足する移動局アンテナ2本を設けて,ダイバーシチ受信を行う。本発明に従って,移動局アンテナを所定の配置条件を満足するように配置すれば,両方の移動局アンテナの受信レベルが同時に低い値にならないようにするだけでなく,片方の移動局アンテナの受信レベルが低いときには,他方の移動局アンテナの受信レベルが高くなるようにすることができる。したがって,2本の移動局アンテナの位置を最適な関係に定めることによって,移動局において良好な受信品質を得ることができるダイバーシチ受信を実現できる。また,後述するように複雑で高価な回路,装置等を用いずに,簡易な装置によりビート干渉対策やフェージング対策を実現することができる。
【0054】
〔第2の例〕
図3は,本発明の実施形態を説明するための第2の例を示す図である。
【0055】
この第2の例では,前述した第1の例の構成に加えて,基準周波数信号発生装置14が設けられている。信号線15を介して,基準周波数信号発生装置14から基準周波数信号を各基地局1,2へ送り,各基地局1,2が基準周波数信号に基づいてキャリア周波数の同期をとることによって,基地局1,2の各々のキャリア周波数を一致させる。
【0056】
前述した式(10),式(11),式(14)および式(15)から明らかなように,基地局1と基地局2とでキャリアの周波数差Δfがある場合,(ω1 −ω2 )=2π(f1 −f2 )≠0であるため,その周波数差Δf=f1 −f2 に応じて,振幅や位相が時間的に変動する。この振幅や位相の時間的な変化は,移動局10の受信信号の品質に大きな影響を与える。例えば,受信信号がアナログ信号の場合は,受信信号がビート干渉し,ビート音が発生して耳障りになるし,デジタル信号の場合には,受信信号の誤り率が悪化する。
【0057】
この周波数差Δfが小さければ小さいほど,時間的な振幅変動や位相変動が遅くなるため,受信信号の品質はよくなる。そこで,本発明では,基地局1,2のそれぞれのキャリア周波数f1 ,f2 を周波数同期により一致させ,(ω1 −ω2 )=2π(f1 −f2 )=0を実現する。このように,それぞれの基地局1,2のキャリア周波数を一致させた場合,時間的にはビート干渉の影響はなくなる。
【0058】
この場合の振幅は,次式によって表現される。λ1 =λ2 =λとすると,
1 =sqrt〔(A1 /X1 2 +(A2 /X2 2 +2A1 2 /(X1 2 )cos{2π(X1 −X2 )/λ+θ2 −θ1 }〕 …(29)
2 =sqrt〔(A1 /Y1 2 +(A2 /Y2 2 +2A1 2 /(Y1 2 )cos{2π(Y1 −Y2 )/λ+θ2 −θ1 }〕 …(30)
場所的にはそれぞれの基地局からの電波がお互いの信号を打ち消すような位相関係で発射された場合に,受信信号の振幅がなくなる現象がある。例えば,式(29)で,
{2π(X1 −X2 )/λ+θ2 −θ1 }=±奇数×π …(31)
のときに,
1 =sqrt{(A1 /X1 −A2 /X2 2
=|A1 /X1 −A2 /X2 | …(32)
になるが,ここで,
1 /X1 =A2 /X2 …(33)
という条件が成立すると,お互いが打ち消しあうために,一方の移動局アンテナでは,受信できなくなる。特に,移動局10が線路4上のこのような条件のところで停止している場合には,その移動局アンテナでは,いつまで経っても電波を受信できない。
【0059】
これに対し,本発明は,基準周波数信号発生装置14を設けることにより,基地局1,2のキャリア周波数を一致させた場合に,すなわち,ビート干渉が起きないようにした状態で,移動局10が停止していても,他方の移動局アンテナでは十分なレベルで受信できるように工夫されており,しかも最も優れた受信品質が得られる構成になっている。
【0060】
この場合においても,図10(A)に示すものと同様な数値計算が可能である。図10(A)に示されるように,2つの移動局アンテナの間隔DをD=λ/4として配置すれば,移動局アンテナ11の受信電波の振幅と電力が最も小さくなるときに,他方の移動局アンテナ12の受信電波の振幅と電力は,ピークになっている。したがって,本発明の場合,移動局10が線路4上で停止した場合に,たとえ一方の移動局アンテナの受信電波の電力が最小であっても,他方の移動局アンテナの受信電波の電力は十分な値となるため,十分な受信品質を確保することができる。
【0061】
以上のように,第2の例によれば,基地局の全てのキャリア周波数を同一の周波数となるように周波数同期させることにより,前述した第1の例の効果に加えて,移動局において時間的なビート干渉が生じないようにし,より良好な受信品質を得ることができるダイバーシチ受信が可能になる。
【0062】
〔第3の例〕
第2の例では,基地局の電波発射部が基地局アンテナの場合の例を説明したが,以下に説明する第3の例のように,電波発射部が漏洩同軸ケーブルLCX(Leaky CoaXial cable )で構成され,隣接する基地局の中間が漏洩同軸ケーブルLCXと漏洩同軸ケーブルLCXの間に位置する場合においても,本発明を用いることによって,移動局10において良好な受信品質を得ることができるダイバーシチ受信を実現することができる。
【0063】
図4は,本発明の実施形態を説明するための第3の例を示す図である。この第3の例は,前述した第2の例における基地局アンテナ7,8を,それぞれLCX16,17で置き換えた例である。
【0064】
全ての基地局からの送信が同じ間隔で設計されたLCXを使って行われる場合には,いずれの隣接する基地局1,2を選んでも,LCX16とLCX17の間の電波伝搬条件は同程度と考えられる。このような場合には,任意に選んだ隣接する基地局1のLCX16と基地局2のLCX17の中央付近で,移動局アンテナ11,12の配置を決める。このように,それぞれの基地局間の電波伝搬条件が,いずれの隣接する基地局を選んでも同程度と考えられる場合には,任意の隣接する基地局の中央付近で移動局アンテナ11,12の配置を,本発明の配置条件に従って定めるものとし,これも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0065】
移動局10が列車の車両であり,車両の屋根にダイバーシチ受信用の移動局アンテナ11と移動局アンテナ12が配置され,基地局1のLCX16と基地局2のLCX17から発射された電波を受信する場合に,図4に示すように,
LCX16の端から移動局アンテナ11までの距離をX1
LCX17の端から移動局アンテナ11までの距離をX2
LCX16の端から移動局アンテナ12までの距離をY1
LCX17の端から移動局アンテナ12までの距離をY2
とし,図10(A)と同様な方法で計算すると,受信電波の振幅と電力は,図10(B)に示すような結果となる。図10(B)は,移動局10が2つの基地局1と基地局2の中心付近において,2つの移動局アンテナ11,12が移動局10の線路4の進行方向にアンテナ間隔D=λ/4だけ離れて配置された場合の移動局アンテナ11,12のそれぞれの受信電波の振幅と電力の大きさを示している。なお,条件としては,距離L=40m,高さH=5mの場合の例について計算している。
【0066】
図10(B)に示されるように,例えば,LCX16の端部とLCX17の端部との間隔Lが40m程度であっても,アンテナ間隔D=λ/4離していれば,一方の移動局アンテナ11(または12)の受信電波の電力が最小のときに,他方の移動局アンテナ12(または11)の受信電波の電力はほぼピークの値になり,良好な受信品質を得ることができる。
【0067】
〔近似式による説明〕
隣接する基地局アンテナ7,8(またはLCX16,17の送信端,以下同様)の間の距離Lと比べて,基地局アンテナ7,8と移動局アンテナ11,12の高低差Hが非常に小さい場合について,一方の移動局アンテナで受信した電波の振幅が非常に小さくなったときの他方の移動局アンテナで受信した電波の振幅を,近似式を用いて説明する。図2の場合,2つの基地局アンテナ7,8の間の中央付近では,X≫H,L≫H,L−X≫H,L−X−D≫Hと考えられるので,
{(Y1 −Y2 )−(X1 −X2 )}/λ≒2D/λ …(34)
となる。したがって,式(21)は,
2 =sqrt〔(A1 /Y1 2 +(A2 /Y22 +2A1 2 /(Y1 2 )cos(4πD/λ±奇数×π)〕 …(35)
となる。式(35)から,kを任意の整数として,
D=λ/4+kλ/2 …(36)
であれば,
2 =A1 /Y1 +A2 /Y2 …(37)
となり,2つの基地局1,2から送信される電波は,移動局10において互いに加算しあって十分な振幅となることが分かる。以上は,第1の例における近似を説明したが,第2,第3の例についても同様である。
【0068】
〔高速フェージングに対する効果の説明〕
以上,第1〜第3の例で説明したように,本発明によれば,線路に沿って置かれた2つの基地局からのビート干渉に対して,移動局が所定の配置条件で設置された2つの移動局アンテナでダイバーシチ受信する場合に,一方の移動局アンテナの受信電波が非常に小さくなるときに,他方の移動局アンテナの受信電波は最も高い値になるため,良好な受信品質のダイバーシチ受信が可能になる。
【0069】
本発明のようなダイバーシチ受信システムは,線路に沿って基地局が存在する場合,ビート干渉だけでなく,基地局からの電波が反射や回折を行って,マルチパス伝搬で移動局へ到来する場合にも効果がある。その理由としては,列車無線システムのように線路に沿って配置された基地局アンテナや漏洩同軸ケーブル(LCX)から送信される電波は,線路方向については障害物の少ない立地環境であるため,線路に沿って伝搬し易く,反射や回折で生じるマルチパス伝搬は,線路に沿ったものが主になると考えられるからである。実際上,同程度の振幅の波が同時に2波干渉することはあっても,同時に3波以上干渉する確率は低いと考えられる。そこで,線路方向に伝搬する波が2波干渉したものとすると,前述したように,kを任意の整数として線路方向にアンテナ間隔DがD=λ/4+kλ/2となるように2つの移動局アンテナを離して配置することにより,一方の移動局アンテナの受信振幅が最も小さくなるときにおいても,他方の移動局アンテナの受信振幅は最も高い値になることは,容易に推測される。
【0070】
〔基地局の第1の構成例〕
図5は,基地局1,2の第1の構成例を示す図である。この第1の構成例は,例えば図2で説明した第1の例で用いられる。
【0071】
基地局1,2では,それぞれ中央装置5(図2参照)から送られてきた情報信号を,直交変調器18で変調する。直交変調器18では,入力された情報信号をもとに波形生成回路21で同相成分と直交成分の波形を生成する。波形生成回路21で生成された同相成分の信号はミキサー22に入力され,直交成分の信号はミキサー23に入力される。
【0072】
波形生成回路21から出力された同相成分の信号は,ミキサー22においてキャリア発振器19の出力と掛け算される。波形生成回路21から出力された直交成分の信号は,ミキサー23においてキャリア発振器19の出力をπ/2移相器20で90度位相シフトされたキャリアと掛け算される。
【0073】
このようにミキサー22と23により掛け算された結果の2つの信号が,加算器24で加算されることにより直交変調される。直交変調器18により直交変調された信号は,送信アンプ25により増幅され,基地局アンテナ7,8から移動局10へ送信される。
【0074】
図5に示す構成において,キャリア発振器19の安定度が高いほど,図2に示す基地局1,2のキャリア周波数の差Δfを小さくすることができる。すなわち,基地局1および2のキャリア周波数f1 およびf2 において,Δf=(f1 −f2 )≒0により,移動局10における受信信号のビート周波数は低く抑えることができるため,受信信号の品質は良好となる。例えば,キャリア発振器19として,発振源にルビジウム発振器,TCXO(Temperature Compensated Crystal Oscillator)等を設けると高安定なキャリア周波数を実現することができる。
【0075】
この基地局の第1の構成例を,図3,図4で説明した第2の例,第3の例で用いる場合には,基準周波数信号発生装置14として,キャリア周波数の波を発生させて,その波を図5のキャリア発振器19の出力と置き換えることによって,同様に情報信号を直交変調することができる。
【0076】
〔基地局の第2の構成例〕
図6は,基地局1,2の第2の構成例を示す図である。この第2の構成例は,例えば図3または図4で説明した第2または第3の例で用いられる。
【0077】
直交変調器18には,図3(または図4)に示す中央装置5から送られてきた情報信号が入力され,キャリア周波数信号発生部26には,図3(または図4)に示す基準周波数信号発生装置14から伝送路15を介して送られてきた基準周波数信号が入力される。
【0078】
図6に示す直交変調器18,π/2移相器20および送信アンプ25は,図5に示すものと同様な機能であるため,ここではその説明は省略し,図6のその他の構成の機能について説明する。
【0079】
キャリア周波数信号発生部26は,基準周波数信号を入力し,入力した基準周波数信号に対して周波数同期したキャリア周波数信号を生成する。このために,キャリア周波数信号発生部26は,位相比較部27,フィルタ28,発振器29,分周器30を備える。
【0080】
位相比較部27は,基準周波数信号と,分周器30により発振器29の出力信号が分周された信号とを位相比較し,その位相比較に応じた出力信号をフィルタ28に出力する。フィルタ28は,位相比較部27から出力された位相比較に応じた出力信号をフィルタ処理し,そのフィルタ処理の結果に応じて,発振器29の出力を安定化させるように制御する。なお,発振器29には,例えば,周波数可変範囲内にキャリア周波数が入る水晶発振器等の安価な電圧制御発振器を用いることができる。
【0081】
以上の制御により,キャリア周波数信号発生部26から基準周波数信号を周波数同期の基準としたキャリア周波数の信号がπ/2移相器20に出力される。
【0082】
π/2移相器20では,キャリア周波数信号発生部26から出力されたキャリア周波数の信号の位相をπ/2位相シフトし,位相シフトした信号を直交変調器18のミキサー23に出力する。前述の図5で説明したように直交変調器18では直交変調が行なわれ,直交変調された信号がアンプ25を介して送信信号として出力される。
【0083】
前述した第2の例および第3の例で使用する基準周波数信号発生装置14から出力される基準周波数信号の周波数は,キャリア周波数とは限らず,伝送路15の有線伝送に都合の良い周波数(キャリヤ周波数よりも低い周波数)を選ぶことができる。したがって,この場合には,簡易な構成で,かつ,安価な装置のキャリア周波数信号発生部26により,各々の基地局でキャリア周波数を同一の周波数とすることができる。
【0084】
〔ダイバーシチ受信装置の第1の構成例〕
図7は,ダイバーシチ受信装置13の第1の構成例を示す図である。なお,図7は,選択ダイバーシチ方式による構成例であり,図2〜図4で説明した第1〜第3の例のいずれにおいても用いることができる。
【0085】
移動局10は,移動局アンテナ11と12で受信した電波を受信信号として入力し,受信信号から復調出力を生成するためのダイバーシチ受信装置13を備える。図7に示すダイバーシチ受信装置13は,受信機31と32,包絡線レベル検出部33と34,包絡線レベル比較部35,復調器36と37,電子スイッチ38を備える。
【0086】
移動局アンテナ11と12で受信された電波は,各々,受信信号として受信機31と32に入力される。受信機31と32の出力には,各々,受信信号の包絡線レベルを検出する包絡線レベル検出部33と34が接続される。包絡線レベル検出部33と34は,それぞれ受信機31と32の出力から受信信号の包絡線レベルを検出し,検出した受信信号の包絡線レベルを包絡線レベル比較部35に出力する。
【0087】
また,受信機31と32は,送信側の基地局1,2により所定の変調が施された受信信号を復調器36と37に出力する。復調器36と37は,それぞれ入力された受信信号に所定の復調処理を実施した後,復調信号として電子スイッチ38へ出力する。
【0088】
包絡線レベル比較部35は,受信機31と32の包絡線レベルに基づいて,いずれの受信電波のレベルが大きいかを判断し,受信電波のレベルの大きい方を選択する。すなわち,包絡線レベル比較部35は,包絡線レベル検出部33と34が検出した受信信号の包絡線レベルに基づいて,復調器36と37の復調信号のうち,包絡線レベルが大きい側を選択し,選択した復調信号を出力するように電子スイッチ38の選択を切り替える。
【0089】
以上の結果,ダイバーシチ受信装置13の第1の構成例では,移動局アンテナ11と12で受信した受信電波の中のレベルの大きい方を復調した信号が選択され,出力される。したがって,復調出力は,信号品質の良い情報信号となる。
【0090】
〔ダイバーシチ受信装置の第2の構成例〕
図8は,ダイバーシチ受信装置13の第2の構成例を示す図である。なお,図8は,最大比合成ダイバーシチ方式による構成例であり,図2〜図4で説明した第1〜第3の例のいずれにおいても用いることができる。
【0091】
図8に示すダイバーシチ受信装置13は,受信機31と32,包絡線レベル検出部33と34,振幅制御増幅器39と40,位相差検波部41,可変移相器42,加算器43,復調器44を備える。
【0092】
移動局アンテナ11と12で受信された電波は,各々,受信信号として受信機31と32に入力される。受信機31と32の出力には,各々,受信信号の包絡線レベルを検出する包絡線レベル検出部33と34が接続される。
【0093】
包絡線レベル検出部33と34は,それぞれ受信機31と32の出力から受信信号の包絡線レベルを検出し,検出した受信信号の包絡線レベルを振幅制御増幅器39と40に出力する。
【0094】
受信機31と32の出力は,それぞれ振幅制御増幅器39と40に入力される。振幅制御増幅器39と40は,受信機31と32から受信信号を入力するとともに,包絡線レベル検出部33と34が検出した受信電波の包絡線レベルに基づいて,入力した受信信号の振幅を可変する。この場合,振幅制御増幅器39と40は,包絡線レベルが高い(またはCN比が高い)ときには高い増幅率とし,包絡線レベルが低い(またはCN比が低い)ときには低い増幅率とする。
【0095】
振幅制御増幅器39と40の出力は,それぞれ位相差検波部41に入力され,位相差検波部41により互いの出力の位相差が検出される。位相差検波部41は,この位相差に応じた出力信号を可変移相器42に出力する。
【0096】
可変移相器42は,この検出された位相差(位相差検波部41の出力信号)に基づいて,一方の振幅制御増幅器の出力(図8の例では振幅制御増幅器40の出力)の位相を可変する。この場合,可変移相器42は,加算器43で加算した信号の振幅が大きくなるように位相を可変する。可変移相器42により位相が可変された振幅制御増幅器40の出力は,他方の振幅制御増幅器39の出力と加算器43で加算される。
【0097】
以上の結果,加算器43で加算された信号は,移動局アンテナ11,12で受信した電波のレベルの大きい方に基づいて振幅が強調され,かつ,位相的にも加算された信号が得られるので,この加算器43の出力を復調器44により復調した復調出力は,信号品質の良い情報信号となる。
【符号の説明】
【0098】
1,2,3 基地局
4 線路
5 中央装置
6,15 伝送路
7,8,9 基地局アンテナ
10 移動局
11,12 移動局アンテナ
13 ダイバーシチ受信装置
14 基準周波数信号発生装置
16,17 LCX(漏洩同軸ケーブル)
18 直交変調器
19 キャリア発振器
20 π/2移相器
21 波形生成回路
22,23 ミキサー
24,43 加算器
25 アンプ
26 キャリア周波数信号発生部
27 位相比較部
28 フィルタ
29 発振器
30 分周器
31,32 受信機
33,34 包絡線レベル検出部
35 包絡線レベル比較部
36,37,44 復調器
38 電子スイッチ
39,40 振幅制御増幅器
41 位相差検波部
42 可変移相器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
線路に沿って配置された複数の基地局の電波発射部から複局同時送信方式によって送信された電波を,前記線路上を移動する移動局が第1の移動局アンテナと第2の移動局アンテナの2つの移動局アンテナで受信するダイバーシチ受信システムであって,
前記電波のキャリア周波数を同期させるための基準周波数信号を発生する基準周波数信号発生手段と,
前記基準周波数信号発生手段から得られる基準周波数信号を前記複数の基地局へ伝送する伝送手段とを備え,
前記複数の基地局は,前記伝送手段により受信した基準周波数信号に基づいて,それぞれの前記基地局の電波発射部が送信する電波のキャリア周波数を同一にする周波数同期手段を備え,
前記移動局における前記2つの移動局アンテナの配置条件として,
前記複数の基地局の中から選ばれた隣接する2つの基地局を第1の基地局と第2の基地局とし,
前記第1の基地局の電波発射部から送信された電波が前記第1の移動局アンテナに達するまでの電波伝搬路長をX1 とし,
前記第2の基地局の電波発射部から送信された電波が前記第1の移動局アンテナに達するまでの電波伝搬路長をX2 とし,
前記第1の基地局の電波発射部から送信された電波が前記第2の移動局アンテナに達するまでの電波伝搬路長をY1 とし,
前記第2の基地局の電波発射部から送信された電波が前記第2の移動局アンテナに達するまでの電波伝搬路長をY2 とし,
前記電波の波長をλとした場合において,
前記2つの移動局アンテナが,前記第1の基地局の電波発射部と前記第2の基地局の電波発射部の中央付近に存在し,かつ,前記第1の移動局アンテナがX1 =X2 の位置または前記第2の移動局アンテナがY1 =Y2 の位置に存在するときに,
|(Y1 −Y2 )−(X1 −X2 )−M×λ|≧λ/10
の条件(Mは任意の整数)が満たされる前記移動局上の位置に,前記2つの移動局アンテナが配置された
ことを特徴とするダイバーシチ受信システム。
【請求項2】
請求項1に記載のダイバーシチ受信システムにおいて,
前記移動局における前記2つの移動局アンテナの配置条件として,さらに,
|(Y1 −Y2 )−(X1 −X2 )−(kλ+λ/2)|≦λ/4
の条件(kは任意の整数)が満たされる前記移動局上の位置に,前記2つの移動局アンテナが配置された
ことを特徴とするダイバーシチ受信システム。
【請求項3】
請求項1に記載のダイバーシチ受信システムにおいて,
前記移動局における前記2つの移動局アンテナの配置条件として,さらに,
|(Y1 −Y2 )−(X1 −X2 )−(kλ+λ/2)|≦λ/10
の条件(kは任意の整数)が満たされる前記移動局上の位置に,前記2つの移動局アンテナが配置された
ことを特徴とするダイバーシチ受信システム。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載のダイバーシチ受信システムにおいて,
前記移動局における前記2つの移動局アンテナが,前記線路の進行方向に,ある整数nに対して(λ/4+nλ/2)だけ離して配置された
ことを特徴とするダイバーシチ受信システム。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載のダイバーシチ受信システムにおいて,
前記基準局の電波発射部がアンテナまたは漏洩同軸ケーブルである
ことを特徴とするダイバーシチ受信システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate