説明

ダイヤモンドリーマ

【課題】ワークの穴の真円度が多角形になる問題点と、動的バランスが悪く回転数を高めるにつれて振動が発生して高能率加工が出来ない問題点を解決することができるダイヤモンドリーマを提供することである。
【解決手段】3枚の刃にそれぞれセルフガイド機能と切削機能を同時に備えたダイヤモンドリーマとする。3枚の刃は、ダイヤモンドリーマの外周を3等分に分割するように等分割式とするか、または不等分割式とする。回転数を高めて高能率切削加工に用いる際には、動的バランスを高めることが可能な等分割式とすることが好ましい。また、ビビリを発生して多角形穴が生じる現象に対しては不等分割式とすることが好ましい。この場合は動的アンバランス量を刃以外の部位に設けることで高速回転に対応する。3枚の刃のうち、いずれか一つの刃の外周はマージン幅が0.02〜0.1mm、残りの二つの刃の外周はマージン幅が0.2〜0.5mmに設定することがより好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高能率な切削加工が可能なだけでなく、高精度な加工精度が得られるダイヤモンドリーマに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的にドリルなどで加工された穴は、高精度ではなく、良好な仕上げ面も得られない。このような下穴を要求される寸法精度および表面粗さに仕上げるには、様々な仕上げ方法があるが、機械加工の中で最も手軽に実施でき、広く活用されている方法としてリーマによる加工が知られている。リーマによって仕上げられた穴は、高い寸法精度、真円度および極めて良好な表面粗さが得られる特長がある。
特に、穴の高精度仕上げ加工には、4枚刃8点ガイド(ダブルランド、サブランド)を用いている。高能率を優先する場合、4枚刃8点パッドのリーマを用いる例が多いが、仕上げ加工刃具の回転軸に対しワークの下穴とのズレ、刃具の工作精度誤差、および機上の仕上げ加工刃具の刃振れなどにより加工されたワークの穴の真円度が多角形になりやすい問題を抱えている。これらを厳しく管理することで高精度な穴を得ることが出来る。その際の得られる真円度は2〜4μmである。
(例えば、特許文献1参照)
【0003】
さらに、特に、穴の高精度仕上げ加工には、1枚刃のガンリーマが用いられている。1枚刃のガンリーマは、切削機能を持つ刃が一枚で他はセルフガイド機能であり多刃のもつ課題を解消しているが、切削作用刃が一つであることから加工能率面で多刃に大きく劣る。さらに、軸対称でないため動的バランスが悪く回転数を高めるにつれて振動が発生するため回転数を高めた高能率加工はできないという大きな課題を抱えている。一枚刃ガンリーマで得る事が出来る真円度は1.5〜3.0μmである。
(例えば、特許文献2参照)
【0004】
【特許文献1】特開2003−340646号公報
【特許文献2】特開平8−52617号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の問題点を解決しようとするものである。すなわち、加工されたワークの穴の真円度が多角形になる問題点と、動的バランスが悪く回転数を高めるにつれて振動が発生して高能率加工はできないというふたつの問題点を解決するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、3枚の刃を備えた、ダイヤモンドリーマであって、3枚の刃は、それぞれがセルフガイド機能と切削機能を同時に備えたことを特徴とするダイヤモンドリーマである。
ここで3枚の刃は、ダイヤモンドリーマの外周を3等分に分割するように等分割式とするか、または不等分割式とする。回転数を高めて高能率切削加工に用いる際には、動的バランスを高めることが可能な等分割式とすることが好ましい。また、ビビリを発生して多角形穴が生じる現象に対しては不等分割式とすることが好ましい。この場合は動的アンバランス量を刃以外の部位に設ける(相当量を付加、または削除)ことで高速回転に対応する。
さらに、3枚の刃は、それぞれがセルフガイド機能と切削機能を同時に備えている。すなわち、3枚の刃は、それぞれが外周にマージン幅を有するのでこれがセルフガイド機能として作用し、さらにそれぞれが切れ刃を有するのでこれが切削機能として作用するのである。
【0007】
本発明は詳しくは、刃の材質は、焼結ダイヤモンド、多結晶ダイヤモンドおよび単結晶ダイヤモンドのいずれか一つ、または二つ以上が選択されたものであることを特徴とするものである。
工作物の材質、硬さ、要求される穴の拡張量、真円度、表面粗さおよび加工条件などによって、適宜、焼結ダイヤモンド、多結晶ダイヤモンドおよび単結晶ダイヤモンドのいずれか一つ、または二つ以上を選択する。
【0008】
本発明はさらに詳しくは、3枚の刃のうち、いずれか一つの刃の外周はマージン幅が0.02〜0.1mm、残りの二つの刃の外周はマージン幅が0.2〜0.5mmであることを特徴とするものである。
本発明は、円を決定する最小接触数、すなわち、三点支持(三点パッド)設計を採用し、かつ三箇所のうちの一つは外周マージン幅を0.1mm以下とすることで、この刃部に他の二つよりも高い切削能力を持たせている。さらに他の二つのパッドも先端部位に刃を成形し、この部位も切削に関与し高能率切削加工を実現することができる。三箇所の先端の食い付き部は図1の如く外周マージン幅の小さい刃部の切削能力を他の二箇所よりも高めその切削力で故意に(設計上強制的に)外周マージンの大きい二箇所のパッドがワーク内周面に押し付けられるように設計している。この効果により、切削加工中に刃具がぶれない(揺らがない)安定した加工精度を維持することができる。
ここで3枚の刃のうち、いずれか一つの刃の外周はマージン幅が0.02mm未満ではパッドの役割を果たすことが出来ない。また0.1mmを超えると切削能力が低下するので好ましくない。このマージン幅は0.02〜0.08mmであることがより好ましく、0.02〜0.05mmであることが最も好ましい。
そして、残りの二つの刃の外周はマージン幅が0.2mm未満ではパッドの効果が十分に得られないので切削加工中に刃が揺らぐおそれがあり好ましくない。また0.5mmを超えると切削抵抗が高くなり、加工面の焼けの原因にもなるので好ましくない。このマージン幅は0.2〜0.4mmであることがより好ましく、0.25〜0.4mmであることが最も好ましい。
【発明の効果】
【0009】
高能率な切削加工が可能なだけでなく、高精度な加工精度が得られるダイヤモンドリーマを提供することができる。特に、アルミニウム合金、銅合金などの非鉄金属材料などの切削加工で極めて良好な結果が得られるダイヤモンドリーマを提供することができる。特に、各種の量産部品を低コスト、高能率に生産するのに貢献することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
発明を実施するための最良の形態については、実施例の項で説明する。
【実施例1】
【0011】
図1〜3に示す、直径Dが40mm、3枚の刃を等分割式とし、刃の材質として焼結ダイヤモンドを用いたダイヤモンドリーマを製作した。マージン幅が最も小さいのはA刃で、そのマージン幅Maは0.05mm、残りの二つはB刃で、そのマージン幅Mbは0.4mmである。その他、刃の各寸法は以下の通りである。gは0.25mm、cは0.08mm、dは0.1mm、eは6mm、fは1mm、αは60°、βは15°、γは5°とした。
このダイヤモンドリーマをマシニングセンタに取り付け、アルミニウム合金を切削加工テストして本発明の効果を確認した。テストの切削条件の詳細は以下の通りである。
切削速度は180m/min、送り速度は460mm/min、送り量は0.12mm/rev、取り代は直径で0.4mm、切削油剤にはエマルジョン系水溶性オイルを用いた。加工結果は、穴の真円度が1.8μm、表面粗さは0.8Sであった。
【実施例2】
【0012】
実施例1のダイヤモンドリーマを用いて、実施例1と切削条件以外は同一としてテストを行った。テストの切削条件の詳細は以下の通りである。
切削速度は300m/min、送り速度は770mm/min、送り量は0.12mm/rev、取り代は直径で0.4mm、切削油剤にはエマルジョン系水溶性オイルを用いた。加工結果は、穴の真円度が2.0μm、表面粗さは0.8Sであった。
【実施例3】
【0013】
実施例1のダイヤモンドリーマを用いて、実施例1と切削条件以外は同一としてテストを行った。テストの切削条件の詳細は以下の通りである。
切削速度は500m/min、送り速度は1270mm/min、送り量は0.12mm/rev、取り代は直径で0.4mm、切削油剤にはエマルジョン系水溶性オイルを用いた。加工結果は、穴の真円度が2.5μm、表面粗さは0.8Sであった。
【比較例1】
【0014】
図4に示す、1枚刃のガンリーマを用いて、実施例1と同様にテストを実施した。テストの切削条件の詳細は以下の通りである。
切削速度は180m/min、送り速度は300mm/min、送り量は0.08mm/rev、取り代は直径で0.4mm、切削油剤にはエマルジョン系水溶性オイルを用いた。加工結果は、穴の真円度が1.8μm、表面粗さは1.0Sであった。
【比較例2】
【0015】
図5に示す、4枚刃の8点パッドのダイヤモンドリーマを用いて、実施例1と同様にテストを実施した。テストの切削条件の詳細は以下の通りである。
切削速度は180m/min、送り速度は460mm/min、送り量は0.12mm/rev、取り代は直径で0.4mm、切削油剤にはエマルジョン系水溶性オイルを用いた。加工結果は、穴の真円度が2.5μm、表面粗さは0.8Sであった。
【比較例3】
【0016】
さらに、比較例2と同じ、4枚刃の8点パッドのダイヤモンドリーマを用いて、実施例1と同様にテストを実施した。テストの切削条件の詳細は以下の通りである。
切削速度は300m/min、送り速度は770mm/min、送り量は0.12mm/rev、取り代は直径で0.4mm、切削油剤にはエマルジョン系水溶性オイルを用いた。加工結果は、穴の真円度が5.0μm、表面粗さは0.8Sであった。
【0017】
以上のテスト結果から、本発明によれば高能率の切削加工が可能で、しかも加工後の穴は高精度の真円度と、極めて良好な表面粗さが得られることがわかった。
【0018】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例1のダイヤモンドリーマの左側面図を示す。
【図2】実施例1の側面図を示す。
【図3】実施例1のA刃、B刃の詳細を示す。
【図4】従来の1枚刃のガンリーマを示す。
【図5】従来の4枚刃の8点パッドのダイヤモンドリーマを示す。
【符号の説明】
【0020】
1 ダイヤモンドリーマ
Ma A刃のマージン幅
Mb B刃のマージン幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3枚の刃を備えた、ダイヤモンドリーマであって、
前記3枚の刃は、それぞれがセルフガイド機能と切削機能を同時に備えたことを特徴とする、ダイヤモンドリーマ。
【請求項2】
前記刃の材質は、焼結ダイヤモンド、多結晶ダイヤモンドおよび単結晶ダイヤモンドのいずれか一つ、または二つ以上が選択されたものであることを特徴とする、請求項1記載のダイヤモンドリーマ。
【請求項3】
前記3枚の刃のうち、いずれか一つの刃の外周はマージン幅が0.02〜0.1mm、残りの二つの刃の外周はマージン幅が0.2〜0.5mmであることを特徴とする、請求項1または2記載のダイヤモンドリーマ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2008−194779(P2008−194779A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−32214(P2007−32214)
【出願日】平成19年2月13日(2007.2.13)
【出願人】(000220103)株式会社アライドマテリアル (192)
【Fターム(参考)】