説明

ダイヤモンド放射線検出器

【課題】感度や耐久性が改善されたダイヤモンド放射線検出器の製造方法を提供する。
【解決手段】ホウ素をドープしたダイヤモンドからなる基体10と、該基体10の表面に、高純度の単結晶ダイヤモンドからなる外被層12を成長させ、該外被層12の上に櫛形電極アレイ16を形成することでダイアモンド放射線検出器を製造する。このとき、該外被層12の粒径を該基体10と同等の粒径とすることで、より優れた性能が得られ、ダイヤモンド放射線検出器の耐久性を向上させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイヤモンドは、ダイヤモンドの中にほんのわずかな距離(例えば、10μm未満)入り込む放射線、例えば、約220nm未満の波長を持つ電磁波(例えば、紫外線及び軟X線)、並びにα粒子に対して電気的に反応を示すのに使用されることがある。そのような放射線のための、現行のダイヤモンド検出器は、通常、約1〜200μmの厚さの成長したままのダイヤモンドであって、自立しているか、又はシリコン基板等の非ダイヤモンド基体の上にあるダイヤモンドの薄層から成る。該薄層の成長表面は典型的には、櫛形電極アレイでパターン化される。
【0003】
ダイヤモンドは、広いバンドギャップの半導体であり、室温での通常環境下では電気絶縁体である。純ダイヤモンドが導電性を帯びるためには、電子が、電子・正孔(e-h)対を創り出しながら、通常満たされた価電子帯から通常空の伝導帯まで活性化されなければならない;これは、γ線、X線、紫外線、α粒子、β粒子等の放射線がダイヤモンドに衝突するときに生じる。もしダイヤモンド中に電場が存在するならば、キャリヤが移動して、電流が流れる。特定のダイヤモンドに対する光電流の大きさは、放射線の種類と強度とによって決まり、その光電流は、e-h対が再結合するまで流れる。
【0004】
放射線によって生じる電荷担体は典型的には、前記層の成長表面の櫛形電極アレイによって集められる。
米国特許第5,216,249号明細書は、化学蒸着により堆積した多結晶性ダイヤモンド材の層を有する中性子検出器であって、該ダイヤモンド材が、該検出器の中性子検出特性を最適化するのに十分な量の、ドーパントとしての10Bを含有する上記中性子検出器を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第5,216,249号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による放射線検出器、とりわけ、γ線、X線、紫外線、α粒子、β粒子等の放射線のための検出器は、ホウ素ドープトダイヤモンド基体の表面上に成長したダイヤモンドの外被層を有する。
【0007】
その基体は、ホウ素ドープトダイヤモンドであり、実質的に多結晶質体又は単結晶であってもよい。そのダイヤモンドは、ホウ素ドーピングがイオン注入によって、高圧/高温合成中の成長カプセル中への導入によって、又は自然状態のままで達成される、天然ダイヤモンド又は合成ダイヤモンドであってもよい。そのダイヤモンドはまた、化学蒸着(CVD)によって生成することができる。CVDの結果、ダイヤモンドを合成する間にホウ素ドーピングが通常、達成される。ホウ素の諸原子は、ダイヤモンド格子の中の、置換位置又は割り込み位置に存在することがある。ホウ素ドープトダイヤモンドのホウ素含有量は典型的には、1cm3当り1017〜1021個の範囲にある。
【0008】
ホウ素ドープトダイヤモンド基体は典型的には、0.1〜2mmの厚さを有する。
放射線検出器は、ホウ素ドープトダイヤモンド基体の表面にエピタキシャル成長によって生成されるダイヤモンドの外被層を有する。外被層のダイヤモンドは、基体の粒径と同等の粒径を有する。
【0009】
従って、基体のホウ素ドープトダイヤモンドが20〜50μmの粒径を有する場合、外被層のダイヤモンドの粒径は20〜50μmである。ダイヤモンド外被層の厚さは典型的には、1μm〜500μmの範囲、好ましくは、3μm〜50μmの範囲にある。
被覆ダイヤモンド層はまた、該基体の結晶の特徴の幾つかを保持することがあり、従って、例えば、非ダイヤモンド基体の上に成長した同じ厚さの層よりも大きい粒径を有していることがある。
【0010】
被覆ダイヤモンドは、CVDによって成長するのが好ましい。CVDによって基体上にダイヤモンドを堆積する方法は、現在、十分に確立されており、特許明細書及び他の文献において頻繁に述べられてきた。基体上にダイヤモンドを堆積する方法には、解離時に、原子状のハロゲン(例えば、F、Cl)又は水素、遊離基を含有する炭素又はC、及び他の反応性種[例えば、CHx、CFx(式中、xは1〜4である場合がある)]を与えることができる気体混合物を与える工程が通常含まれる。加えて、酸素含有源が存在することもあり、また、窒素源及びホウ素源が存在することもある。多くのプロセスでは、ヘリウム、ネオン、アルゴン等の不活性ガスも存在する。このように、典型的な供給源気体混合物には、炭化水素 Cxy(式中、x及びyはそれぞれ、1〜10である場合がある);含ハロゲン炭素化合物 Cxy(ハロゲン)(式中、x、y及びzはそれぞれ、1〜10である場合がある);任意的に、CO、CO2、O2、H2、N2、NH3、B26及び不活性ガスの1種以上;が含有される。各々の気体は、天然の同位体比で存在することもあり、或いは、相対同位体比が人為的に制御されることもある:例えば、水素は、重水素又は三重水素として存在することもあり、また、炭素は12C又は13Cとして存在することもある。供給源気体混合物の解離は、マイクロ波、レーザー、高周波エネルギー、炎、熱フィラメント等のエネルギー源によって引き起こされ、そして、そのようにして生じた反応性気体種が基体上に堆積して、ダイヤモンドを形成する。
【0011】
本発明の好ましい一形態において、CVDダイヤモンド外被層が成長する表面は、研磨済み面である。その表面は、低い粗面度、例えば、30nm未満のRA(即ち、中心線平均)に研磨されることがある。そのような研磨済み面を用いたときの外被層は、粗面に成長した外被層に比べて、遥かに小さい成長粗面度を有する。
使用中、放射線検出器は典型的には、外被層に加わる第1の電気接点、及び、基体に加わるか又は基体と電気接触している第2の電気接点を有する。
【0012】
更に、本発明による、放射線を検出するか又は測定する方法は、上述のタイプの放射線検出器を与える工程と、ダイヤモンド外被層の表面を放射線にさらす工程とを含む。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の放射線検出器の態様の概略図。
【実施例】
【0014】
次に、放射線検出器の概略図である添付図面を参照して、本発明の態様を記述する。この図面を参照すると、ホウ素ドープトCVDダイヤモンド基体10は、基体10の表面14上に、CVDを用いてエピタキシャル成長を行ったダイヤモンドの、薄くて高品質の外被層(overlayer)12を有する。表面14は、研磨済み表面であってもよい。基体10のホウ素含有量は典型的には、1017〜1021の範囲である。外被層12は、基体の粒径と同等の粒径を有する。
【0015】
層12の頂部表面16には、それと電気的に接触させた櫛形電極アレイ18が備えられている。アレイ18は複数の電極20を備えている。背面接触22は、基体10上に与えられており、アースに接続されている。櫛形電極アレイ16は、(図面にコンデンサ24として概略的に示す)適切な分離回路を経て、電流又は電荷の測定装置に接続されている。26は、バイアス電圧を示す。
使用中、検出すべき放射線は、薄くて高品質の層12に衝突する。e-h対が生じ、外部バイアス電圧の作用下で、これらは分離する。外部回路に電流が誘導され、電流又は電荷の測定装置によって測定される。電流/電荷の大きさによって、放射線の強度が測定される。
【0016】
第2の態様(図示せず)では、高品質層12の表面上に櫛形電極アレーを作る。第1の組の電極は、−1000vと+1000vの間の電圧にバイアスをかけ、第2の組の電極は、アースに接続する。使用中、検出すべき放射線は、薄くて高品質の層12に衝突する。e-h対が生じ、外部バイアス電圧の作用下で、これらは分離する。外部回路に電流が誘導され、電流又は電荷の測定装置によって測定される。電流/電荷の大きさによって、放射線の強度が測定される。
【0017】
記述し説明した放射線検出器は、従来のダイヤモンド検出器に比べて幾つかの利点を有する。第1に、被覆層の粒径が大きいために、より優れた性能が与えられる。第2に、櫛形電極アレイにおける隣接電極間の隙間をブリッジしている単粒の数が増大している。このために、ある放射線強度に対する信号の振幅が増大することになる。第3に、導電性である基体は、背面電極として使用することができる。第4に、被覆層の粒径が大きいために、その層の欠陥密度はより低い。第5に、検出器は耐久性により一層優れている。
本発明は、次の実施例によって更に説明する。
【0018】
4.5×4.5×0.8mmの寸法と、30nm未満の測定表面粗さ Raとを有するホウ素ドープトダイヤモンド層は、1019原子/cm3のレベルのホウ素の均一分布を有することがSIMS(質量分析計)によって分かった。これは、CVDにより、80μmの厚さを有する高純度ダイヤモンド層を被覆するための基体として使用した。ダイヤモンド層で被覆された基体を処理加工して、ホウ素ドープト基体の頂部に厚さが10μmで、Ra<30nmの薄くて高品質の層を有する製作物を造った。SIMSの分析結果では、境界面の高純度側にホウ素を検出することはできないことが分かった。製作物の最終寸法は4.5×4.5×0.81mmであった。その構造は、図1に示される配列をした放射線検出器として有用であることが分かった。
【0019】
以上、本発明は、以下の特徴を有する。
(1)ホウ素ドープトダイヤモンド基体の表面上に成長したダイヤモンドの外被層を有する放射線検出器。
(2)γ線、X線、紫外線、α粒子及びβ粒子から選ばれる放射線を検出するのに使用するための放射線検出器。
(3)ホウ素ドープトダイヤモンドが、実質的に多結晶質体又は単結晶である、(1)又は(2)に記載の放射線検出器。
(4)ホウ素ドープトダイヤモンドが、CVDダイヤモンドである、(1)〜(3)のいずれか1項に記載の放射線検出器。
(5)ホウ素ドープトダイヤモンドのホウ素含有量が、1cm3当りのホウ素原子が1017〜1021個の範囲にある、(1)〜(4)のいずれか1項に記載の放射線検出器。
(6)外被層のダイヤモンドが、基体の粒径と同等の粒径を有する、(1)〜(5)のいずれか1項に記載の放射線検出器。
(7)基体のホウ素ドープトダイヤモンドが20〜50μmの粒径を有し、外被層のダイヤモンドが20〜50μmの粒径を有する、(1)〜(6)のいずれか1項に記載の放射線検出器。
(8)ホウ素ドープトダイヤモンド基体が、0.1〜2mmの厚さを有する、(1)〜(7)のいずれか1項に記載の放射線検出器。
(9)ダイヤモンド外被層の厚さが、1μm〜500μmである、(1)〜(8)のいずれか1項に記載の放射線検出器。
(10)ダイヤモンド外被層の厚さが、3μm〜50μmである、(1)〜(9)のいずれか1項に記載の放射線検出器。
(11)被覆層のダイヤモンドがCVDによって成長したものである、(1)〜(10)のいずれか1項に記載の放射線検出器。
(12)CVDダイヤモンドの外被層が、研磨済み面の上に成長したものである、(11)に記載の放射線検出器。
(13)研磨済み面が、30nm未満のRAを有する、(12)に記載の放射線検出器。
(14)(1)〜(13)のいずれか1項に記載のダイヤモンド検出器を与える工程と、外被層の表面を放射線にさらす工程とを含む、放射線を検出するか又は測定する方法。
(15)添付図面を参照して本明細書に実質的に記述されている放射線検出器。
(16)添付図面を参照して本明細書に実質的に記述されている、放射線を検出するか又は測定する方法。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線検出器の製造方法において、該製造方法が、
ホウ素ドープトダイヤモンドからなる基体を準備する段階と、
前記基体の表面に、高純度の単結晶ダイヤモンドからなる層を成長させる段階とを含む、放射線検出器の製造方法。
【請求項2】
前記ホウ素ドープトダイヤモンドからなる基体をCVDにより作製する段階を含む、請求項1に記載された放射線検出器の製造方法。
【請求項3】
前記ホウ素ドープトダイヤモンドからなる基体のホウ素含有量は、1cm3当りのホウ素原子が1017〜1021個の範囲にある、請求項1または請求項2に記載された放射線検出器の製造方法。
【請求項4】
前記ホウ素ドープトダイヤモンドからなる基体が、0.1〜2mmの厚さを有する、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載された放射線検出器の製造方法。
【請求項5】
前記ホウ素ドープトダイヤモンドからなる基体の表面に成長させられた前記高純度の単結晶ダイヤモンドからなる層の厚さが、1μm〜500μmである、請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載された放射線検出器の製造方法。
【請求項6】
前記ホウ素ドープトダイヤモンドからなる基体の表面に成長させられた前記高純度の単結晶ダイヤモンドからなる層の厚さが、3μm〜50μmである、請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載された放射線検出器の製造方法。
【請求項7】
前記ホウ素ドープトダイヤモンドからなる基体の表面に成長させられた前記高純度の単結晶ダイヤモンドからなる層が、CVDにより成長させられる、請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載された放射線検出器の製造方法。
【請求項8】
前記高純度の単結晶ダイヤモンドからなる層が成長させられるべき前記ホウ素ドープトダイヤモンドからなる基体の表面を研磨する段階を含む、請求項1から請求項7までのいずれか1項に記載された放射線検出器の製造方法。
【請求項9】
前記ホウ素ドープトダイヤモンドからなる基体の表面を30nm未満の表面粗さRaに研磨する、請求項8に記載された放射線検出器の製造方法。
【請求項10】
放射線を検出又は測定する方法において、該方法が、
請求項1から請求項9までのいずれか1項に記載された放射線検出器の製造方法により製造された放射線検出器を準備する段階と、
前記高純度の単結晶ダイヤモンドからなる層の表面を放射線にさらす段階とを含む、放射線を検出又は測定する方法。
【請求項11】
検出又は測定される放射線が、ガンマ線、X線、紫外線、アルファ線、およびベータ線から選択される、請求項10に記載された放射線を検出又は測定する方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−64698(P2011−64698A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−260968(P2010−260968)
【出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【分割の表示】特願2001−568110(P2001−568110)の分割
【原出願日】平成13年3月13日(2001.3.13)
【出願人】(500478891)デ ビアス インダストリアル ダイアモンズ (プロプライエタリイ)リミテッド (1)
【Fターム(参考)】