説明

ダイレクトメタノール型燃料電池の燃料供給装置

【課題】発電部に対してポンプを使用せずに必要十分な量の燃料を供給することができるダイレクトメタノール型燃料電池の燃料供給装置を提供すること。
【解決手段】 燃料タンク2に貯留されたメタノール水溶液を燃料供給管路4を介して発電部5のアノード側に供給するように構成されたダイレクトメタノール型燃料電池1の燃料供給装置7において、燃料供給管路4に弾性変形に伴って大小に容積変化するとともにその内部に予め定められた量のメタノール水溶液を貯留する可変容量タンク7が設けられ、可変容量タンク7はその容積が減少するように弾性変形することによりその内部に貯留しているメタノール水溶液を押し出して発電部5のアノード側に供給し、かつ復元することに伴って燃料タンク2に貯留されているメタノール水溶液を吸引してその内部に補充するように構成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ダイレクトメタノール型燃料電池に燃料を供給する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ダイレクトメタノール型の燃料電池(以下、DMFCと記す。)は、メタノールを燃料とし、そのメタノールと酸素との電気化学反応によって発電をおこなうように構成された燃料電池である。このDMFCは、その動作温度が他の燃料電池に比較して低いこと、可燃性ガスを燃料として使用する燃料電池と比較して液体燃料を用いるために燃料のエネルギ密度が高いこと、またそれにより燃料を貯留する容器を小型化できること、これらに加えて、貯蔵の難しい水素ガスを燃料に用いないなどのことから燃料電池全体の構成を簡素化したり小型化したりすることができるなどの特徴を備えている。したがって、DMFCは、今後、小型携帯型の機器用電源として有望視されている燃料電池である。
【0003】
DMFCは、膜・電極接合体(以下、MEAと記す。)のアノードにおいて、メタノールと、それと同量以上の水分が存在すると、白金とルテニウムとの等量混合物によって構成される触媒を介してメタノールが下記の(1)式に示したように酸化されてプロトンと電子と二酸化炭素とを生成する。その電子は外部回路を移動してカソードに到達し、プロトンは電解質膜を透過してカソードに到達する。二酸化炭素はメタノールが透過してきたアノード側のガス拡散層や電極などを介してDMFCの外部に放出される。一方、カソードにおいては下記の(2)式に示したように、DMFCの外部からMEAに供給された酸素が主として白金によって構成される触媒を介してアノードから移動してきたプロトンおよび電子と反応して水が生成される。
【0004】
アノードにおける反応
CHOH + HO → CO+ 6H 十 6e …(1)式
カソードにおける反応
3/2O + 6H + 6e → 3HO …(2)式
【0005】
このように、DMFCでは、発電部のアノード側の触媒層においてメタノールを酸化させて生じた電子が外部回路を流れることにより電力を生じるように構成されている。したがって、DMFCの発電電力を向上させたり、その発電した電力を安定的に取り出すためには、発電部のアノード側に必要十分にメタノールを供給することが好ましい。そこで従来、発電部のアノード側に必要十分に燃料を供給するための各種の技術が開発されており、その例が特許文献1や特許文献2に記載されている。
【0006】
特許文献1には、容積変化するとともにその内部に燃料を貯留する燃料室と、その燃料室に圧力を付与してその容積を変化させることにより燃料室から燃料を押し出すばねやダイヤフラムなどの手段とを備えた燃料容器が記載されている。燃料容器はその内部に燃料を流入させるための流入通路と、その内部の燃料を流出させるための流出通路とに連通されている。流入通路には燃料容器に燃料を流入させる場合に開となり、燃料を流出させる場合に閉となる逆止弁が設けられ、その上流側に電気的に駆動される燃料ポンプが設けられている。流出通路には無電圧状態で閉となり、通電されることにより開となる圧力調整弁が設けられている。したがって、燃料ポンプを駆動させなくても、圧力制御弁に通電してこれを開くと、ばねやダイヤフラムなどによって燃料室に圧力を付与して燃料室から燃料を押し出して燃料電池機構に供給することができる、とされている。
【0007】
特許文献2には、DMFCの発電部にメタノール蒸気を供給するように構成された気化供給型のDMFCが記載されており、その気化供給型のDMFCはメタノール蒸気を生じさせる燃料供給装置に対して燃料収容部に貯留されている液相のメタノールを電気的に駆動させられるポンプを用いて間欠的に送液するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−314376号公報
【特許文献2】特開2010−146767号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1や特許文献2に記載されているように、電気的に駆動されるポンプや弁を使用すると、これらの駆動のために発電した電力の一部が消費されることになり、出力電力の低下を招く可能性がある。また、上記のポンプを用いて発電部に燃料を供給する構成では、その分、装置が大型化する虞があり、DMFCを小型軽量化するためには不利になる可能性がある。
【0010】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、発電部に対してポンプを使用せずに必要十分な量の燃料を供給することができるダイレクトメタノール型燃料電池の燃料供給装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、燃料タンクに貯留されたメタノール水溶液を燃料供給管路を介して発電部のアノード側に供給するように構成されたダイレクトメタノール型燃料電池の燃料供給装置において、前記燃料供給管路に、弾性部材によって形成されかつ変形に伴って大小に容積変化するとともに、その内部に予め定められた量の前記メタノール水溶液を貯留する可変容量タンクが設けられ、前記可変容量タンクは、その容積が減少するように変形することによりその内部に貯留している前記メタノール水溶液を押し出して前記発電部のアノード側に供給し、かつ復元することに伴って前記燃料タンクに貯留されている前記メタノール水溶液を吸引してその内部に補充するように構成されていることを特徴とするものである。
【0012】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記燃料供給管路における前記燃料タンクと前記可変容量タンクとの間に、前記燃料タンクから前記可変容量タンクに向けた前記メタノール水溶液の流動を許容し、これとは反対方向の前記メタノール水溶液の流動を規制する第一の一方向弁が設けられ、前記燃料供給管路における前記可変容量タンクと前記発電部のアノード側との間に、前記可変容量タンクから前記発電部のアノード側に向けた前記メタノール水溶液の流動を許容し、これとは反対方向の前記メタノール水溶液の流動を規制する第二の一方向弁が設けられ、前記燃料タンクに、その内部圧力が低下した場合にその外部から前記燃料タンクの内部に向けた外気の流入を許容し、かつ、前記燃料タンクの内部に存在する気相および液相の前記メタノール水溶液が前記外部に流出することを規制する圧力調整弁が設けられていることを特徴とするダイレクトメタノール型燃料電池の燃料供給装置である。
【0013】
請求項3の発明は、請求項1または2の発明において、前記可変容量タンクは、その容積が前記燃料タンクよりも小さく形成されたシリコン樹脂製のスポイトを含むことを特徴とするダイレクトメタノール型燃料電池の燃料供給装置である。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の発明によれば、燃料タンクと発電部とを連通する燃料供給管路に、弾性部材によって形成され、変形することにより容積変化するとともに、その内部に予め定められた量のメタノール水溶液を貯留する可変容量タンクが設けられている。その可変容量タンクは、その容積減少に伴ってその内部に貯留しているメタノール水溶液を押し出して発電部に供給し、弾性力によって元の形状に復元することに伴って燃料タンクからメタノール水溶液を吸引してその内部に補充するように構成されている。そのため、発電部における発電量が低下した場合に、例えば外力によって可変容量タンクを変形させてその容積を減少させると、その容積減少に応じた量のメタノール水溶液を発電部に供給することができる。その供給量は、上述したように、可変容量タンクの変形に伴う容積減少に応じた量となっており、したがって、外力による容積減少を調整することによりメタノール水溶液の供給量を増減したり、あるいは一定量にすることができる。このように電気的に駆動されるポンプを使用せずに、発電部に燃料であるメタノール水溶液を必要十分に供給することができるとともに、燃料の供給のために発電した電力を消費しないので、その分、出力電力を向上させることができる。これに加えて、電気的に駆動するポンプを使用しないので、その分、DMFCを小型軽量化したり、材料コストを削減したりすることができる。したがって、小型携帯型の機器用電源として搭載性に優れたものとすることができる。
【0015】
請求項2の発明によれば、請求項1の発明による効果と同様の効果に加えて、燃料タンクと可変容量タンクとの間および可変容量タンクと発電部との間に、燃料タンクから発電部に向けたメタノール水溶液の流動を許容し、これとは反対方向の流動を規制する第一および第二の一方向弁がそれぞれ設けられている。これに加えて、燃料タンクにはその内部圧力が低下した場合にその内部に対する外気の流入を許容しかつ燃料タンクの内部からその外部に対して気相および液相のメタノール水溶液が流出することを規制する圧力調整弁が設けられている。したがって、上記の可変容量タンクが変形してその容積が減少すると、その内部から押し出されたメタノール水溶液は、第二の一方向弁を介して発電部のアノード側に供給される。一方で、可変容量タンクが弾性力によって復元する場合においては、その復元の過程で生じた圧力によって燃料タンクから可変容量タンクに向けたメタノール水溶液の流動が生じる。すなわち、上記の圧力によって第一の一方向弁が開かれるとともに燃料タンクに貯留されているメタノール水溶液が燃料供給管路に導き出され、その導き出されたメタノール水溶液が第一の一方向弁を介して可変容量タンクの内部に供給される。これに加えて、燃料タンクに貯留されているメタノール水溶液の一部が可変容量タンクに移動することに伴って燃料タンクの内部圧力の低下が生じ、これに伴って圧力調整弁が開となって燃料タンクの内部に外気が導入される。このように圧力調整弁は、燃料タンクの内部圧力を一定に保つように機能するため、燃料の導出にともなう内部圧力の低下を未然に防止することができる。したがって、第一および第二の一方向弁ならびに圧力調整弁をそれぞれ設けることによって、メタノール水溶液の流動方向を制限して燃料タンクに貯留されているメタノール水溶液を確実に発電部のアノード側に供給することができる。
【0016】
請求項3の発明によれば、請求項1または2の発明による効果と同様の効果に加えて、
可変容量タンクはシリコン製のスポイトを含むため、燃料であるメタノールに対する耐薬品性や耐久性を備えたものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】この発明に係る燃料供給装置を適用したダイレクトメタノール型燃料電池の構成の一例を模式的に示す図である。
【図2】単セル型の発電部の基本的な構成を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
つぎにこの発明を具体的に説明する。図1に、この発明に係る燃料供給装置を適用したDMFCの構成の一例を模式的に示してある。DMFC1は、予め定められた濃度に調整されたメタノール水溶液もしくは無希釈のメタノールを貯留する燃料タンク2を備えている。燃料タンク2には圧力調整弁3が設けられており、その圧力調整弁3は、燃料タンク2の内部圧力が減少した場合に開となって外気を内部に流入させるように構成され、これに加えて燃料タンク2の内部の空気や、気相および液相のメタノール水溶液をその外部に流出させないように構成されている。図1に示す例では、圧力調整弁3は燃料タンク2の上方に設けられており、燃料タンク2の空間部分に連通するようになっている。
【0019】
燃料タンク2は燃料供給管路4を介して発電部5のアノード側に連通されている。燃料供給管路4には第一の一方向弁6が設けられており、その第一の一方向弁6は、燃料タンク2から発電部5に向けたメタノール水溶液の流動を許容し、これとは反対方向のメタノール水溶液の流動を規制するように構成されている。
【0020】
第一の一方向弁6よりも発電部5側の燃料供給管路4に連通して可変容量タンク7が設けられている。可変容量タンク7は、弾性部材によって形成されかつ変形することに伴ってその容積が大小に増減するように構成された中空の容器であり、その内部に予め定められた量のメタノール水溶液を貯留するようになっている。この可変容量タンク7は一例としてシリコンゴムやポリエチレンあるいはポリプロピレンなどのメタノールに対する耐薬品性や耐久性を有する合成樹脂材料によって形成されたスポイトを使用することができる。その内容積は例えば燃料タンク2の内容積よりも小さく形成されており、より具体的には、例えば内容積を3mlとすれば、そのスポイトを外力によって押し潰すと、最大3mlのメタノール水溶液を毎回、発電部5に向けて供給することができる。この可変容量タンク7は、外力によってその容積を減少させることができ、その外力を取り除くと、元の形状に復元するように構成されていればよい。そして、この可変容量タンク7は、元の形状に戻る場合に、燃料タンク2から燃料を吸い上げるため、可変容量タンク7の内部は、常に燃料が充填された状態となる。すなわち、可変容量タンク7として上記のスポイトを使用した場合には、そのスポイト内に常に燃料が充填された状態となる。
【0021】
燃料供給管路4における可変容量タンク7の発電部5側に第二の一方向弁8が設けられている。この第二の一方向弁8は、燃料タンク2や可変容量タンク7から発電部5に向けたメタノール水溶液の流動を許容し、これとは反対方向のメタノール水溶液の流動を規制するように構成されている。
【0022】
上記の第一の一方向弁6や第二の一方向弁8は発電部5から燃料タンク2に向けたメタノール水溶液のいわゆる逆流を防止するためのものであり、従来一般的に使用される逆止弁などを使用することができる。
【0023】
図2に、単セル型の発電部の基本的な構成の一例を断面図で示してある。発電部5は電解質として高分子電解質膜9を備え、その表裏両面側に触媒層10および触媒層11がそれぞれ設けられている。その高分子電解質膜9には、一例としてパーフルオロスルホン酸系高分子膜(例えばNafion 117(登録商標))やポリベンゾイミダゾールなどを用いることができる。アノード側触媒層10は、前述した(1)式で示したように、触媒の存在下でメタノールと水とを反応させるものであり、例えば、チタン、ステンレス(SUS)などによって形成されたメッシュ構造体の表面に触媒として白金およびルテニウムの等量混合物が被覆されて形成されている。
【0024】
カソード側触媒層11は、前述した(2)式で示したように、触媒の存在下で外部から供給された酸素と、アノードから高分子電解質膜9を透過してきたプロトンと、電気回路を移動してきた電子とを反応させるように構成されており、例えば、チタン、ステンレス(SUS)などによって形成されたメッシュ構造体の表面に触媒として白金が被覆されて形成されている。
【0025】
これらの触媒層10および触媒層11の表面側には、ガス拡散層12およびガス拡散層13がそれぞれ設けられている。各ガス拡散層12および13は、各触媒層10および11の表面側に燃料や空気を均一に拡散させて供給するための空隙を確保するためのものであり、導電性の多孔構造とされている。具体的には、カーボン紙あるいはカーボン繊維をメッシュ構造に編んだものを使用することができる。これに加えて、アノード側ガス拡散層12は液相のメタノールや水が付着することにより、燃料の拡散あるいは流動が阻害されないように水和処理を施すことが好ましい。カソード側ガス拡散層には撥水処理を行ってフラッディングを抑えることが好ましい。上記の水和処理は上記のカーボン紙あるいはカーボン繊維に酸化スズを含浸させる方法など、従来知られている方法で行えばよい。撥水処理はカーボン紙あるいはカーボン繊維にフッ素系樹脂をコーティングする方法など、従来知られている方法で行えばよい。
【0026】
各ガス拡散層12および13の表面側に集電板14および集電板15がそれぞれ設けられている。各集電板14および15は、アノードの触媒反応で生じた電子を捕捉してカソードに移動させるとともに、発電した電力をDMFC1の外部に取り出すためのものであり、したがって各集電板14および15は電極としても機能する。そのため、各集電板14および15は電子の捕捉を向上させたり、電気的な腐食に対する耐久性を向上させるために、これに加えて燃料や空気を触媒層10および触媒層11に到達させるために、一例として鉄、銅、チタン、ステンレス(SUS)などの金属製のメッシュ構造体に白金や金などの導電性材料を被覆して構成されている。
【0027】
そして、上記の電解質膜9および各触媒層10,11ならびに各ガス拡散層12,13そして各集電板14,15を積層し、例えばホットプレス機で加熱加圧して一体構造化することにより膜・電極接合体(MEA)16が構成されている。そして、これをエンドプレート17,18によって挟み込むことによって固定して図2に示す単セル型の発電部5が構成されている。詳細は図示しないが、アノード側のエンドプレート17には、アノード側触媒層10側に開口し、蛇状に蛇行した細溝形状の燃料チャンネルが連続的に形成されている。この燃料チャンネルに燃料タンク2に貯留されているメタノール水溶液が燃料供給管路4を介して供給されるようになっている。これに対して、カソード側のエンドプレート18には、カソード側触媒層11側に開口した複数の細溝形状の空気チャンネルが互いに平行に形成されている。各空気チャンネルの両端部は外気に対して解放されており、その両端部を介して空気チャンネルに外気が導入されるようになっている。このカソード側エンドプレート18における空気チャンネルの直線状部分と、上述したアノード側エンドプレート17における燃料チャンネルの直線状部分とは互いに直交するように配置させることが好ましい。そして、各集電板14,15に電気回路19を介して負荷20が接続されている。なお、空気チャンネルはエンドプレート18の一方の面と他方の面とを連通する孔形状に形成してもよい。
【0028】
図2に示す例では、いわゆる単セル型のDMFC1を示してあるが、複数のMEA16を積層化することによってDMFC1の出力可能な電力を増大させることができる。複数のMEA16を積層化する場合には、一つのMEA16を二つのバイポーラ−プレート(図示せず)によって挟み込むように積層化してスタックを形成するとともに、そのスタックの表裏両面のそれぞれにMEA16を露出させ、これを上記のエンドプレート17,18で挟み込むことによって複数のセル(すなわち、MEA16)を積層したDMFCを構成することができる。そのバイポーラープレートは、例えば合成樹脂材料もしくは合成樹脂材料と繊維との複合材料(FRP)によって構成することができ、その一方の面に上記の燃料チャンネルを形成し、他方の面に上記の空気チャンネルを形成する。このバイポーラ−プレートにおいても、空気チャンネルを互いに平行な細溝形状に形成した場合においては、一方の面に形成される燃料チャンネルの直線状部分と、他方の面に形成される空気チャンネルの直線状部分とがバイポーラ−プレートを挟んで互いに直交させることが好ましい。
【0029】
つぎに、上述したように構成した単セル型のDMFC1の作用について説明する。DMFC1の発電を開始する場合には、可変容量タンク7に外力を作用させて変形させ、その容積を減少させることによってその内部に貯留されているメタノール水溶液を燃料供給管路4に押し出す。可変容量タンク7は、手動によって変形させてもよい。可変容量タンク7からメタノール水溶液が供給されて燃料供給管路4の圧力が上昇すると、第一の一方向弁6が閉となり、第二の一方向弁8が開となる。その結果、可変容量タンク7から押し出されたメタノール水溶液は第二の一方向弁8を通ってアノード側エンドプレート17の燃料チャンネルに供給される。燃料チャンネルにメタノール水溶液が供給されることによりアノード側触媒層10では上述した(1)式に示す反応が生じ、カソード側触媒層11では上述した(2)式に示す反応が生じてDMFC1の発電が開始され、電気回路19を介して負荷20に電力が供給される。
【0030】
可変容量タンク7の変形のために作用させた外力を取り除くと、可変容量タンク7は弾性力によって元の形状に復元し、その過程で生じる圧力によって第一の一方向弁6と、第二の一方向弁8との間の燃料供給管路4におけるメタノール水溶液がその内部に吸引されるように、可変容量タンク7に向けて流動する。そのメタノール水溶液の流動に伴って上記の各一方向弁6,8の間における燃料供給管路4の圧力が低下して第一の一方向弁6が開となり、第二の一方向弁8が閉となる。そして、燃料タンク2に貯留されているメタノール水溶液が第一の一方向弁6を通ってこれらの一方向弁6,8の間の燃料供給管路4に供給される。すなわち、上記の可変容量タンク7の復元に伴う圧力変化によって燃料タンク2から各一方向弁6,8の間の燃料供給管路4にメタノール水溶液が導き出される。その燃料供給管路4に導き出されたメタノール水溶液は、上記の圧力によって可変容量タンク7の内部に供給される。このようにして可変容量タンク7の内部にメタノール水溶液が補充される。
【0031】
一方、燃料タンク2においては上記のメタノール水溶液の流出に伴って内部圧力の低下が生じる。また、燃料タンク2の内部圧力の低下に伴って圧力調整弁3が開となって燃料タンク2の内部に外気が導入される。このようにして燃料タンク2の内部圧力の変化が是正される。
【0032】
そして、負荷20に対して供給する電力が低下した場合には、可変容量タンク7を外力によって再び変形させて燃料チャンネルに新たなメタノール水溶液を供給するとともに、その新たなメタノール水溶液を燃料チャンネルに供給することによってそれまで燃料チャンネルに溜まっていたメタノール水溶液を燃料チャンネルから排出させる。このようにして燃料チャンネルにおけるメタノール水溶液を入れ替えると、燃料チャンネルにおけるメタノール水溶液の濃度が上昇して発電部5のアノード側触媒層10に供給されるメタノールの濃度が上昇するため、DMFC1の発電量が上昇して負荷20に対して供給する電力が上昇する。
【0033】
したがって、この発明によれば、可変容量タンク7の容積変化に応じた量のメタノール水溶液を発電部5に供給することができるため、上述した外力による変形操作を繰り返したり、その変形に伴う容積変化を調整するなどのことによって発電部5に対するメタノール水溶液の供給量を必要十分にすることができる。しかも、その可変容量タンク7の変形やメタノール水溶液の供給のために、電気的に駆動されるポンプなどの動力を使用しないので、その分、DMFC1の出力電力を向上させることができる。これに加えて、DMFC1を小型軽量化したり、材料コストを削減したりすることができる。したがって、この発明に係る燃料供給装置を備えたDMFCは小型携帯型の機器用電源として搭載性に優れている。
【符号の説明】
【0034】
1…DMFC、 2…燃料タンク、 4…燃料供給管路、 5…発電部、 7…可変容量タンク。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料タンクに貯留されたメタノール水溶液を燃料供給管路を介して発電部のアノード側に供給するように構成されたダイレクトメタノール型燃料電池の燃料供給装置において、
前記燃料供給管路に、弾性部材によって形成されかつその変形に伴って大小に容積変化するとともに、その内部に予め定められた量の前記メタノール水溶液を貯留する可変容量タンクが設けられ、
前記可変容量タンクは、その容積が減少するように変形することによりその内部に貯留している前記メタノール水溶液を押し出して前記発電部のアノード側に供給し、かつ復元することに伴って前記燃料タンクに貯留されている前記メタノール水溶液を吸引してその内部に補充するように構成されている
ことを特徴とするダイレクトメタノール型燃料電池の燃料供給装置。
【請求項2】
前記燃料供給管路における前記燃料タンクと前記可変容量タンクとの間に、前記燃料タンクから前記可変容量タンクに向けた前記メタノール水溶液の流動を許容し、これとは反対方向の前記メタノール水溶液の流動を規制する第一の一方向弁が設けられ、
前記燃料供給管路における前記可変容量タンクと前記発電部のアノード側との間に、前記可変容量タンクから前記発電部のアノード側に向けた前記メタノール水溶液の流動を許容し、これとは反対方向の前記メタノール水溶液の流動を規制する第二の一方向弁が設けられ、
前記燃料タンクに、その内部圧力が低下した場合にその外部から前記燃料タンクの内部に向けた外気の流入を許容し、かつ、前記燃料タンクの内部に存在する気相および液相の前記メタノール水溶液が前記外部に流出することを規制する圧力調整弁が設けられている
ことを特徴とする請求項1に記載のダイレクトメタノール型燃料電池の燃料供給装置。
【請求項3】
前記可変容量タンクは、その容積が前記燃料タンクよりも小さく形成されたシリコン樹脂製のスポイトを含む
ことを特徴とする請求項1または2に記載のダイレクトメタノール型燃料電池の燃料供給装置。

【図1】
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【図2】
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