説明

ダブルデッキエレベーター

【課題】乗りかごの昇降時における風音を低減させ、乗り心地の良いダブルデッキエレベーターを得ること。
【解決手段】乗りかご4が上かご6及び下かご7を有するダブルデッキエレベーターにおいて、上かご6及び下かご7間の正面、側面及び背面に、上かご6及び下かご7間の隙間空間を塞ぐカバー23a,23b,23cを設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は乗りかごが上かご及び下かごを有するダブルデッキエレベーターに関する。
【背景技術】
【0002】
図9、図10、図11は、従来の高層建物用のダブルデッキエレベーターの概略構成を示す図であって、昇降路1の両側壁にはそれぞれガイドレール2が垂直に立設されており、この両ガイドレール2の間に吊りロープ3によって吊り下げられた乗りかご4が配設され、その乗りかご4が上記ガイドレール2に沿って昇降するようにしてある。上記乗りかご4は、かご枠5とこれに載置された上かご6と下かご7で構成されており、かご枠5の上下、左右にはそれぞれ各ガイドレール2の両側とその端面に当接して転動するガイドローラ8aを有する案内装置8が設けられている。
【0003】
かご枠5の中間梁9及び下梁10にはそれぞれ床受枠11及び12が敷設されており、この床受枠11と上かご6の底面との間及び床受枠12と下かご7の底面との間には、それぞれ床下防振ゴム13を介してロードセル14が配設され、このロードセル14によって上かご16及び下かご7が支承されている。
【0004】
上かご6及び下かご7の重量は上記ロードセル14によって検知され、各種の情報として利用される。また、上かご6及び下かご7の下面と中間梁9及び下梁10との間にはそれぞれ変位計15が設けられており、上かご6或は下かご7の各段階の荷重が検知されるようにしてある。
【0005】
ところで、このような上かご6及び下かご7を有する乗りかご4は、つりロープ3によって懸吊されているが、この吊りロープ3が直接乗りかご4に取り付けられる1:1ローピング(図10)と、かご枠5の最上部の上梁16にシーブ17を設け、そこに吊りロープ3を回す2:1ローピング(図11)とがある。
【0006】
一方、各ホール側の開口部にはホールドア18が、また各かごの開口部にはカードア19が開閉可能に設けられ、これらのホールドア18及びカードア19はドア駆動装置20によって開閉されるようになっている。また、ホール側の開口部の床面とかごの開口部の床には、それぞれドアの開閉をスムーズにするためのホールシル21とカーシル22が設置されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、このようなダブルデッキエレベーターにおいては、上かご6の底面と下かご7の頂壁との間に隙間空間があり、しかもその空間のホール側にはドア開閉駆動装置が設けられているため、乗りかごが高速で昇降する際に風音が発生し騒音の発生源となる等の問題がある。
【0008】
本発明は、このような点に鑑み、乗りかごの昇降時における風音を低減させ、乗り心地の良いダブルデッキエレベーターを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、乗りかごが上かご及び下かごを有するダブルデッキエレベーターにおいて、上かご及び下かご間の正面、側面及び背面に、上かご及び下かご間の隙間空間を塞ぐカバーが設けられ、上かご及び下かご間に設けられている正面カバーには、落下物防止装置の揺動可能な案内板によって開閉される開口部が設けられており、上記案内板の起立位置において、上記開口部が案内板によって密封されるようにしたことを特徴とする。
【0010】
本発明は、上かご及び下かご間の正面、側面及び背面に設けられたカバーは、その表面が上かご及び下かごにおける側板の外面と段差なく滑らかな平面となるように構成されていることを特徴とする。
【0011】
本発明は、上かご及び下かご間の正面、側面及び背面に設けられたカバーは、それぞれ1枚によりまたは上下に分割された複数枚により構成されており、各カバーの上縁部及び下縁部の少なくとも一方は、弾性体を介して上かご或は下かご、または中間部のかご枠に連結されていることを特徴とする。
【0012】
本発明は、上かご及び下かご間の正面、側面及び背面に設けられた各カバーの外面には、上下方向に延びる複数の整風板が突設されていることを特徴とする。
【0013】
本発明は、上かごの上面部及び下かごの下面部にはカプセル状の整風装置が設けられていることを特徴とする。
【0014】
本発明は、上かご及び下かご間の正面、側面および背面に設けられた各カバー及びカプセル状の整風装置の少なくとも一方の内面には、制振・吸音材が装着されていることを特徴とする。
【0015】
本発明は、上下の各整風装置の上面或は下面に、空気の流れをスムーズにする断面三角形状のスポイラーが設けられていることを特徴とする。
【0016】
本発明は、カプセル状の整風装置の外表面には、凹凸状のセレーションが形成されていることを特徴とする。
【発明の実施の形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0018】
図1(a),(b)は本発明のダブルデッキエレベーターの概略構成を示す図であって、(a)は(b)のX−X線に沿う断面図、(b)は(a)のY−Y線に沿う断面図であり、かご枠5には上かご6及び下かご7が上下に取り付けられており、上かご6及び下かご7が一体となって昇降路1内を昇降するようにしてある。
【0019】
ところで、上記上かご6と下かご7との間には、両者間の正面、両側面、及び背面を塞ぐ正面カバー23a、側面カバー23b,23b、及び背面カバー23cが設けられている。図2の(a),(b)は上記上かご6と下かご7間部を拡大して示す正断面図、及び側断面図であって、正面カバー23aは上かごシル22と下かご天井15との段差部をカバーするため下半部に内方への湾曲部が形成されており、その上縁部が緩衝材24aを介してカーシル22の下面に固着されており、下縁部が下かご天井25に固着されている。また、側面カバー23bはその上縁部がかご枠5の内側面に沿い前後方向に延びる床受枠11aに緩衝材24bを介して装着してあり、下縁部が下かご天井25に固着されている。さらに背面カバー23cはその上縁部が背面に沿い横方向に延びる床受枠11bに緩衝材24cを介して取り付けられており、下縁部は下かご天井25に固着されている。そして、上記正面カバー23a、側面カバー23b及び背面カバー23cは、その表面が上かご6及び下かご7における側板の外面と段差なく滑らかな平面となるようにしてある。また、正面カバー23aにはドア駆動装置20と対向する位置に開口26が設けられており、その開口26に上記ドア駆動装置20の前部が挿入されている。
【0020】
このように、この実施の形態においては上かご6及び下かご7間に生ずる隙間空間が正面カバー23a、側面カバー23b及び背面カバー23cによって塞がれているので、乗りかごの昇降時において風の流れが整流され、上記隙間空間により空気の流れが乱され風音を発生するようなことが低減される。
【0021】
一方、上かご6及び下かご7は床下防振ゴム13を介して床受枠11、或は12に支持されているので、上かご6と下かご7の振動によってそれらの間の隙間は変動する。しかし、正面カバー23a、側面カバー23b及び背面カバー23cはそれぞれ緩衝材24a,24b,24cを介して上かご側に固着されているので、上記隙間の変動は上記緩衝材24a,24b,24cによって吸収され、正面カバー23a、側面カバー23b、背面カバー23cに変形等が生ずることが確実に防止される。
【0022】
ところで、図2には各カバーの上縁部と上かご側との間に緩衝材を介装したものを示したが、各カバーの上縁部を上かご側に固着し、下縁部と下かご天井25の間に緩衝材を介装するようにしてもよい。
【0023】
図3(a),(b)は本発明の他の実施の形態を示す図であり、正面カバー23a、側面カバー23b、及び背面カバー23cが中間部のかご枠27に固着されており、各カバーの上縁側と上かごシル20、或は床受枠11a,11bとの間に緩衝材24a,24b,24cが介装され、各カバーの下縁側と下かご天井25との間に緩衝材28が介装されている。
【0024】
したがって、この場合も上記緩衝材24a,24b,24c及び28によって両かご間の隙間の変動を吸収することができる。
【0025】
図4(a),(b)は本発明のさらに他の実施の形態を示す図であって、各カバーが上下に2分割され、正面上カバー23aと正面下カバー23aによって正面カバーが構成され、側面上カバー23bと側面下カバー23bによって側面カバーが構成されている。さらに、背面上カバー23cと背面下カバー23cによって背面カバーが構成されている。
【0026】
上記正面上カバー23a、側面上カバー23b及び背面上カバー23cはその各下縁部が中間部のかご枠27に固着され、正面上カバー23aの上縁部と上かごシル22との間、側面上カバー23bの上縁部と床受枠11aとの間、及び背面上カバー23cの上縁部と床受枠11bとの間にそれぞれ緩衝材24a,24b,24cが介装されている。
【0027】
また、正面下カバー23a、側面下カバー23b、及び背面下カバー23cは、その各下縁部が下かご天井15に固着され、各カバーの上縁部と中間部のかご枠27との間に緩衝材29が介装されている。
【0028】
しかして、この場合各カバーが上下に2分割されており、上下の各カバーに緩衝材が設けられているので、その上下の緩衝材によって両かご間の隙間の変動を十分吸収することができ、前記各実施の形態と同様な作用効果を奏する。
【0029】
なお、図4に示す実施の形態においては、各カバーの下縁部を中間部のかご枠27或は下かご天井15に固着したものを示したが、上縁部をかご枠等に固着するようにしてもよい。
【0030】
図5は本発明の他の実施の形態を示す図であって、上かご6及び下かご7との間にはその前部に、落下物防止装置30が設けられている。すなわち、下かご7の前面側上方部には落下物案内板31が水平軸線回りに揺動可能に装着してあり、下かご天井15の上方には落下物収容皿32が設けられている。
【0031】
しかして、落下物案内板31を図5の(b)の実線で示すような傾斜位置に揺動させ、落下物案内板31の頂端部を前方に突出させておくと、上かご6とホール側との隙間から或る物体が落下した場合には、その落下物33は上記落下物案内板31によって落下物収容皿32の上方に案内され、その落下物収容皿32に収容される。したがって、上記落下物33が下かごに乗降している人に当るようなことが確実に防止される。
【0032】
そこで、前記上かごシル22と下かご天井15との間に設けられている前面カバー23aには、上記落下物案内板31の揺動によって開閉される開口34が形成されており、その開口34の周縁部には、上記落下物案内板31が一点鎖線で示す閉止位置すなわち起立位置になったとき、その落下物案内板31の周縁部が当接して上記開口34を密封する封止部材35が装着してある。
【0033】
しかして、この場合も前面カバー23a等により風の流れを整流し、空気流の乱れによる騒音を低減することができる。しかも、落下物案内板31を前方に突出した状態にすると、上かごの出入口付近の隙間から下かごの出入口に落下する落下物33を落下物収容皿32に収容することができ、上かごからの塵、水等の落下物が下かごの出入口にいる乗客に降りかかることを防止することができる。
しかも、下かごから上かごの乗降客を見上げることも防止することができる。
【0034】
図6は、図2に示す実施の形態の他の実施の形態を示す図であって、正面カバー23a、側面カバー23b及び背面カバー23cの外面には、上下方向に延びる複数個の整風板36が設けられている。
【0035】
しかして、上記整風板36によってカバー表面の風の流れが整流され、風切り音の発生をより低減させることができる。
【0036】
図7は、本発明のさらに他の実施の形態を示す図であり、上かご6の上部及び下かご7の下部にはカプセル状の整風装置37,38が取り付けられており、上かご6及び下かご7を一つの滑らかな流線形状をなすようにしてある。
【0037】
また、上記カプセル状の整風装置37,38の内面及び前記中間部の前面カバー23a、側面カバー23b、背面カバー23cの内面には制振・吸音材39a,39b,39c,39dが装着されている。さらに、上記上部の整風装置37及び下部の整風装置38の上部或は下部には、それぞれ空気流をスムーズにするための断面三角形状のスポイラー40,41が設けられている。
【0038】
この実施の形態においては、上述のように上かご6の上部及び下かご7の下部にカプセル状の整風装置37,38が設けられて、上かご6と下かご7が一つの滑らかな流線形状になるようにしてあるため、乗りかごが昇降する際に上かご6の上部及び下かご7の下部で発生していた空気流の乱れによる風音が低減される。また、上記整風装置37,38の内面及び前面カバー23a等の中間カバーの内面に制振・吸音材39a,39b,…を装着することによって、上記整風装置や中間カバーの振動が低減され、これによっても乗りかごの昇降時における風音を低減することができる。
【0039】
さらに、上記整風装置37,38の上部或は下部にスポイラー40,41を設けることによって、上記カプセル状の整風装置の上・下面で受けていた空気を一層スムーズに流すことができ、風の抵抗を低減させることができる。
【0040】
図8は本発明の他の実施の形態を示す図であって、上かご6の上部或は下かご7の下部に設けられた整風装置37,38には、ガイドレールと係合するガイドローラ42の近傍部、吊りロープ43及びコンペンロープ44の周辺部分には凹セレーション45が設けられている。
【0041】
しかして、この場合には上記凹セレーション45によって整風装置37,38の表面に沿って流れる空気流における渦の発生が減少され、風切り音などの騒音発生が低減される。なお、上記実施の形態においては、凹セレーション45を設けたものを示したが、凸セレーションを設けても同様の作用効果を奏する。
【0042】
[発明の効果]
本発明は上述のように構成したので、ダブルデッキエレベーターの乗りかごが昇降する際に発生する風音を低減させることができ、乗客の乗り心地を一層向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】(a),(b)は本発明のダブルデッキエレベーターの概略構成を示す図であって、(a)は(b)のX−X線に沿う断面図、(b)は(a)のY−Y線に沿う断面図。
【図2】(a),(b)は図1の(a),(b)の上かご及び下かご間部を拡大して示す正断面図及び側断面図。
【図3】(a),(b)は本発明の他の実施の形態を示す正断面図及び側断面図。
【図4】(a),(b)は本発明のさらに他の実施の形態を示す正断面図及び側断面図。
【図5】(a),(b),(c)は本発明の他の実施の形態を示す正断面図、側断面図、及び落下物防止装置の落下物案内板部の平断面図。
【図6】(a),(b),(c)は本発明の他の実施の形態を示す正断面図、側断面図、及び側面カバー等の平断面図。
【図7】(a),(b)は本発明のさらに他の実施の形態を示す正断面図及び側断面図。
【図8】(a),(b)は本発明の他の実施の形態の正断面図及び側断面図。
【図9】従来のダブルデッキエレベーターの概略構成を示す側断面図。
【図10】従来のダブルデッキエレベーターの概略構成を示す正面図。
【図11】従来のダブルデッキエレベーターの他の例の概略構成を示す正面図。
【符号の説明】
【0044】
5 かご枠
6 上かご
7 下かご
20 ドア
23a 正面カバー
23b 側面カバー
23c 背面カバー
24a,24b,24c,28,29 緩衝材
25 下かご天井
27 中間部のかご枠
30 落下物防止装置
31 落下物案内板
32 落下物収容皿
33 落下物
36 整風板
37,38 整風装置
39a,39b,39c,39d 制振・吸音材
40,41 スポイラー
45 凹セレーション

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗りかごが上かご及び下かごを有するダブルデッキエレベーターにおいて、上かご及び下かご間の正面、側面及び背面に、上かご及び下かご間の隙間空間を塞ぐカバーが設けられ、
上かご及び下かご間に設けられている正面カバーには、落下物防止装置の揺動可能な案内板によって開閉される開口部が設けられており、上記案内板の起立位置において、上記開口部が案内板によって密封されるようにしたことを特徴とする、ダブルデッキエレベーター。
【請求項2】
上かご及び下かご間の正面、側面及び背面に設けられたカバーは、その表面が上かご及び下かごにおける側板の外面と段差なく滑らかな平面となるように構成されていることを特徴とする、請求項1記載のダブルデッキエレベーター。
【請求項3】
上かご及び下かご間の正面、側面及び背面に設けられたカバーは、それぞれ1枚によりまたは上下に分割された複数枚により構成されており、各カバーの上縁部及び下縁部の少なくとも一方は、弾性体を介して上かご或は下かご、または中間部のかご枠に連結されていることを特徴とする、請求項1または2記載のダブルデッキエレベーター。
【請求項4】
上かご及び下かご間の正面、側面及び背面に設けられた各カバーの外面には、上下方向に延びる複数の整風板が突設されていることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載のダブルデッキエレベーター。
【請求項5】
上かごの上面部及び下かごの下面部にはカプセル状の整風装置が設けられていることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれかに記載のダブルデッキエレベーター。
【請求項6】
上かご及び下かご間の正面、側面および背面に設けられた各カバー及びカプセル状の整風装置の少なくとも一方の内面には、制振・吸音材が装着されていることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれかに記載のダブルデッキエレベーター。
【請求項7】
上下の各整風装置の上面或は下面に、空気の流れをスムーズにする断面三角形状のスポイラーが設けられていることを特徴とする、請求項5記載のダブルデッキエレベーター。
【請求項8】
カプセル状の整風装置の外表面には、凹凸状のセレーションが形成されていることを特徴とする、請求項5乃至7のいずれかに記載のダブルデッキエレベーター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−79677(P2011−79677A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−281978(P2010−281978)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【分割の表示】特願2000−56981(P2000−56981)の分割
【原出願日】平成12年3月2日(2000.3.2)
【出願人】(391017540)東芝ITコントロールシステム株式会社 (107)
【出願人】(390025265)東芝エレベータ株式会社 (2,543)
【Fターム(参考)】