説明

ダンパ装置

【課題】 ダンパ回転で発生する遠心力による摺動部間の面圧の増大による摩擦力を減少させることにより、摺動部材の揺動が滑らかに行なえ、振動減衰効果を阻害せずに、摺動面の揺動による磨耗が防止できる信頼性のあるダンパ装置を提供する。
【解決手段】 エンジンとトランスミッションの間に装着され、トーションスプリングにより振動を減衰するダンパ装置であって、トーションスプリングの揺動により摺擦する金属部材にダイヤモンドライクカーボンの被膜を形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両等の自動変速機と共に用いられるトルクコンバータや発進クラッチ等に使用され、エンジンとトランスミッションとの間に配置されて振動を減衰するダンパ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のダンパ組立体は、特許文献1に記載のようにダンパに使用されているトーションスプリングやトーションスプリングの弾性を利用してエンジンとトランスミッションとの間で生じる振動を吸収また減衰している。
【0003】
この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては次のものがある。
【特許文献1】特開2000−329197号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に開示のダンパでは、エンジンとトランスミッションとの間に装着されているスライダ及びトーションスプリングが高速回転による遠心力により、外径部に設置されているハウジングなどと強い力により接触をする。このために、トーションスプリングのスムースな伸縮が阻害されダンパの振動減衰に悪影響を及ぼす、また接触部が磨耗するなどの問題が生じていた。
【0005】
そこで、本発明の目的は、ダンパ回転で発生する遠心力による摺動部間の面圧の増大による摩擦力を減少させることにより、摺動部材の揺動が滑らかに行なえ、振動減衰効果を阻害せずに、摺動面の揺動による磨耗が防止できる信頼性のあるダンパ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的達成のため、本発明のダンパ装置は、エンジンとトランスミッションの間に装着され、トーションスプリングにより振動を減衰するダンパ装置であって、前記トーションスプリングの揺動により摺擦する金属部材にダイヤモンドライクカーボンの被膜を形成したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
本発明のダンパ装置によれば、次のような効果が得られる。
ダンパ装置に使用されているトーションスプリングの摺動により発生する摩擦力が伝わる金属部材にダイヤモンドライクカーボン膜をコーティングすることにより、ダンパ回転で発生する遠心力による摺動部間の面圧の増大による摩擦力を減少させることにより、摺動メンバーの揺動をスムースに行うことができる。
【0008】
これにより、ダンパ装置の振動減衰効果が阻害されないこと、また、摺動面の揺動による磨耗の防止ができ、ダンパ装置の信頼性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
ダイヤモンドライクカーボン被膜の厚さは0.1μmから5μmが望ましい。この厚みが0.1μm未満では磨耗に対し耐久寿命が短く、逆に5μm以上では、被膜がもろくなり、加工コスト面で不利である。
【実施例】
【0010】
以下、添付図面を参照して本発明の実施例を詳細に説明する。尚、図示の実施例は例示として本発明を示しているに過ぎず、その他の変更が可能なことは言うまでもない。
【0011】
図1は、本発明のダンパ装置の各実施例を示す正面図であり、図2は、図1のA−A断面図である。
【0012】
ダンパ装置1は、それぞれほぼ環状で、互いに対向する一対のリテーナプレート11、12及びリング33によって構成されている。ダンパ装置1は、その外周に円周方向にほぼ等間隔に配置された複数のスプライン42を有するホルダ35を有する。
【0013】
ホルダ35によって構成される空所の円周上の所定位置には、大小一組とした複数組のスプリング31、スプリング32が円周方向でほぼ等間隔に配置されている。スプリング31とスプリング32は、それぞれ所定のバネ定数を有するコイルバネであり、大径のスプリング32内に小径のスプリング31が嵌合している。スプリング31とスプリング32は、それぞれコイル型のトーションスプリングである。
【0014】
ダンパ装置1は、更に、スプリング31及びスプリング32に弾性係合する爪14を有し、内周に円周方向にほぼ等間隔に配置された複数のスプライン41を有するほぼ環状のドライブプレート13と、複数のスプリング31及びスプリング32との間に配置され、ホルダ35内に形成される空所内を移動可能に配置された複数のスライダ部材15を備えている。
【0015】
ダンパ装置1は、相手部材の一方を外周側のスプライン42に嵌合させ、他方の相手部材を内周側のスプライン41に嵌合させることによって取りつける。また、リテーナプレート11、12及びリング33は、それぞれに設けた軸方向の貫通孔24にリベット23を挿通して、一体に固定されている。図1に示すように、貫通孔24は円周方向でほぼ等間隔に複数個設けられている。更に、リベット23は、従来のものより小さいものを使用しているので、リテーナプレート12及び13の径方向の幅を抑えることができる。
【0016】
リテーナプレート11及び12にはスプリング31及びスプリング32の移動を規制する複数の折り返し部25が円周方向の所定位置に設けられており、トルク伝達が行われる際、ホルダ35側とほぼ環状のドライブプレート13側との間に振動が発生したときに爪14と折り返し部25との間でスプリング31及びスプリング32が収縮することによってこの振動を吸収する。
【0017】
上述の実施例ではホルダ35の外周及び爪14を有するドライブプレート13の内周にスプラインを設けているが、これは逆の構成でも良い。すなわち、ドライブプレート13の内周側に爪14を設け、ドライブプレート13の外周にスプラインを加工し、一方ホルダ35はリング33及びリテーナプレートの加締め部分を内周側で行い、またスプラインも内周側に加工することによって本発明のダンパ装置を得ることができる。また、外側のスプラインは、リテーナプレートの径を小さくして、リング33の径を大きくしてリング33に設けることもできる。
【0018】
(第1実施例)
図1及び図2に示す構成のダンパ装置1において、スプリング31及び32に摺擦する金属部材である、リテーナプレート11及び12とドライブプレート13の表面にダイヤモンドライクカーボン皮膜(以下、説明を簡略にするため「DLC皮膜」と称する)を形成した。
【0019】
DLC皮膜は、リテーナプレート11、リテーナプレート12、ドライブプレート13全部の表面に形成しても良いが、リテーナプレート11及びリテーナプレート12のみ、ドライブプレート13のみ、また3つ金属部材のうちいずれか一つだけに形成しても良い。
【0020】
(第2実施例)
図1及び図2に示す構成のダンパ装置1において、リテーナプレート11、リテーナプレート12、ドライブプレート13などの金属部材に摺擦するスプリング31及び32の表面にDLC皮膜を形成した。
【0021】
DLC皮膜は、スプリング31とスプリング32の両方の表面に形成することができるが、他の金属部材と摺擦する面積が大きいスプリング32のみの表面に形成しても良い。
【0022】
(第3実施例)
図1及び図2に示す構成のダンパ装置1において、複数のスプリング31及びスプリング32との間に配置され、ホルダ35内に形成される空所内を移動可能に、円周方向等配に設けられた複数のスライダ部材15の表面にDLC皮膜を形成した。
【0023】
他の部材に比較して、摺擦が激しいスライダ部材15にDLC皮膜を施すことで、本発明の効果である、振動減衰や磨耗防止がより効果的に達成できる。
【0024】
以上説明した各実施例では。DLC皮膜は、リテーナプレート11、リテーナプレート12、ドライブプレート13などの金属部材、スプリング31とスプリング32、スライダ部材15の表面全てに形成する。しかしながら、表面の一部に形成することもできる。
【0025】
更に、各実施例を組み合わせて、リテーナプレート11、リテーナプレート12、ドライブプレート13などの金属部材、スプリング31とスプリング32、スライダ部材15の全てにDLC皮膜を形成することもできる。また、第1実施例と第2実施例、第1実施例と第3実施例、第2実施例と第3実施例を組み合わせることもできる。
【0026】
また、ダイヤモンドライクカーボン皮膜は、プラズマCVD(化学蒸着)法、またはPVD(物理蒸着)法によって形成される。
【0027】
上述のダンパ装置は、例えば、車両の自動変速機に用いられるトルクコンバータのロックアップピストンに配置して使用することができる。また、発進クラッチ用のダンパ装置としても用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の各実施例のダンパ装置を示す正面図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【符号の説明】
【0029】
1 ダンパ装置
11、12 リテーナプレート
13 ドライブプレート
14 爪
15 スライダ部材
31 スプリング
32 スプリング
33 リング
35 ホルダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンとトランスミッションの間に装着され、トーションスプリングにより振動を減衰するダンパ装置であって、前記トーションスプリングの揺動により摺擦する金属部材にダイヤモンドライクカーボンの被膜を形成したことを特徴とするダンパ装置。
【請求項2】
前記金属部材は、前記トーションスプリングを保持しているリテーナプレート及び/またはドライブプレートであることを特徴とする請求項1に記載のダンパ装置。
【請求項3】
エンジンとトランスミッションの間に装着され、トーションスプリングにより振動を減衰するダンパ装置であって、前記トーションスプリングにダイヤモンドライクカーボンの被膜を形成したことを特徴とするダンパ装置。
【請求項4】
前記トーションスプリングの揺動により摺擦する金属部材にダイヤモンドライクカーボンの被膜を形成したことを特徴とする請求項3に記載のダンパ装置。
【請求項5】
エンジンとトランスミッションの間に装着され、トーションスプリングにより振動を減衰するダンパ装置であって、前記トーションスプリング間に装着されているスライダ部材にダイヤモンドライクカーボンの被膜を形成したことを特徴とするダンパ装置。
【請求項6】
前記トーションスプリングにダイヤモンドライクカーボンの被膜を形成したことを特徴とする請求項5に記載のダンパ装置。
【請求項7】
前記トーションスプリングの揺動により摺擦する金属部材にダイヤモンドライクカーボンの被膜を形成したことを特徴とする請求項6に記載のダンパ装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−248905(P2008−248905A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−87086(P2007−87086)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000102784)NSKワーナー株式会社 (149)