説明

チェーンによる洋上浮体構造物係留装置及びその設置方法

【課題】洋上にて係留される洋上浮体構造物に搭載した精密機器類に対する係留チェーンからの衝撃を緩和させるとともに、係留チェーンの中間部分の切断が防止されるチェーンによる洋上浮体構造物係留装置の提供。
【解決手段】係留チェーン2を、海面平穏状態時にアンカー3から所定長さだけ水底面4に接触している接地長部L2と、洋上浮体構造物1から縦向きに水底面4に達する長さの垂下長部L1とを有する長さとし、係留チェーン3の両端部に緩衝材5a,5bを介在させるとともに、前記垂下長部の下端部位置であって前記潮の干満にかかわりなく水底面4に接触しない位置と、前記接地長部の垂下長部側端部位置であって、前記潮の干満によっては水底面4から離れない位置とに、それぞれ緩衝材5c,5dを介在させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、GPS波浪計測設備や係船施設および沿岸構造物の位置表示器など、沖合の大深度域における精密機械を搭載した洋上浮体構造物を、チェーンを使用して係留する洋上浮体構造物係留装置及びその設置方法に関する。
【背景技術】
【0002】
我が国は過去に多くの津波により被災しており、宮城県沖地震や東海・南海・東南海地震津波の発生が切迫する中、津波対策が急務となっていると同時に、近年日本に上陸する台風が大型化の傾向にあり、台風対策技術の整備も進んでいる。
【0003】
これら対策技術の一つとして、一早く津波や台風の来襲を察知できるように、陸上から遠く離れた沖合に、係留チェーンとアンカーを用いた係留ブイ式波浪計測設備を設置する方法が採用されている。
【0004】
係留チェーンの投入方法に関しては、送り出し工法、クレーン船工法、自由落下工法がある。自由落下工法は実績が多く、コスト的・施工的にも有利であるが、水面下から大重量のアンカーおよび係留チェーンを落下させる方式のため、大水深の場合は着底時の衝撃力が係留チェーンを介して浮体構造物自身に及び、搭載されている精密機械の安全性を損ねるという問題がある。
【0005】
また、係留後においては、高波浪が作用した場合にも浮体構造物に衝撃力が作用し、搭載されている精密機械の安全性を損ねるという問題がある。
【0006】
一方、係留ブイ等の洋上浮体を係留する係留チェーンが高波浪時に切断する部位が、係留チェーンと係留ブイとの連結部分及びアンカーと係留チェーンとの連結部分に集中することを検証し、それらの部位に緩衝材を介在させ、係留チェーンの切断事故を防止する方法が開発されている(例えば非特許文献1)。
【0007】
また、緩衝材としては、チェーンを構成する複数の鎖環を、互いに接触させないでゴム状弾性材内に埋め込むことによって弾性伸縮するようにした構造のものが開発されている(例えば特許文献1及び2)。
【非特許文献1】「港湾技術資料 No.816 Dec.1995」運輸省港湾技術研究所
【特許文献1】特開平5−340447号公報
【特許文献2】特開平1−150041号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、従来の緩衝材を使用した洋上浮体構造物の係留にあっては、係留チェーン切断事故防止を目的としてものであり、係留ブイ式波浪計測設備のように精密機器類を搭載した洋上構造物に搭載した精密機器に対する衝撃を緩和し、それらの機器類の衝撃による損傷を防止することはできないという問題があった。
【0009】
更に、従来の係留チェーンは、洋上浮体構造物が波浪によって上下したり水平方向に移動したりすることにより、海底との接触部が頻繁に水底面に叩きつけられ、これによって磨耗が飛躍的に進むとともに、連なりあっている鎖環間に海底の砂が入り込み、それが擦れることにより鎖環が削られ、係留チェーンの中間長さ部分が切断するという問題があった。
【0010】
本発明は、このような従来の問題に鑑み、アンカー及び係留チェーンの投入時、投入後の係留時のいずれの場合においても、係留される洋上浮体構造物に搭載した精密機器類に対する係留チェーンからの衝撃を緩和させ、精密機器類の正常な機能を維持させることができるとともに、係留チェーンの中間部分の切断が防止されるチェーンによる洋上浮体構造物係留装置の提供を目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述の如き従来の問題を解決し、所期の目的を達成する請求項1に記載の発明の特徴は、精密機器類を搭載した洋上浮体構造物を、係留チェーンを介して水底面のアンカーに係留させるチェーンによる洋上浮体構造物係留装置において、
前記係留チェーンを、海面平穏状態時に、アンカーから所定長さだけ水底面に接触している接地長部と、前記洋上浮体構造物から縦向きに水底面に達する長さの垂下長部とを有する長さとし、該係留チェーンの両端部に緩衝材を介在させるとともに、前記垂下長部の下端部位置であって前記潮の干満にかかわりなく水底面に接触しない位置と、前記接地長部の垂下長部側端部位置であって、前記潮の干満によっては水底面から離れない位置とに、それぞれ緩衝材を介在させたことにある。
【0012】
請求項2に記載の発明の特徴は請求項1の構成に加え、緩衝材は、複数の鎖環からなる短鎖体を、互いに隣り合う鎖環を接触させないでゴム状弾性材内に埋め込み、該短鎖体の両端にシャックルを備えている構造であることにある。
【0013】
請求項3に記載の発明の特徴は、精密機器類を搭載した洋上浮体構造物を、係留チェーンを介して水底面のアンカーに係留させるチェーンによる洋上浮体構造物係留装置において、前記係留チェーンを、海面平穏状態時に、アンカーから所定長さだけ水底面に接触している接地長部と、前記洋上浮体構造物から縦向きに水底面に達する長さの垂下長部とを有する長さとし、該係留チェーンの両端部に緩衝材を介在させるとともに、前記垂下長部の下端部位置であって前記潮の干満にかかわりなく水底面に接触しない位置と、前記接地長部の垂下長部側端部位置であって、前記潮の干満によっては水底面から離れない位置とに、それぞれ緩衝材を介在させた係留装置を使用し、前記洋上浮体構造物を水面上に浮かべた状態で係留チェーンを、その該洋上浮体構造物側から順次水面下に繰り出し、その最深部が水深の1/2〜1/4の深さに達した状態で残りの係留チェーンを一定長さ位置毎に作業船に固縛し、然る後係留チェーンのアンカー側端部をアンカーと共に水中に投入することにより、該アンカー側の重量によって前記固縛が順次解除されるようにしてなるチェーンによる洋上浮体構造物係留装置の設置方法にある。
【発明の効果】
【0014】
本発明による洋上浮体構造物係留装置においては、上述したように、係留チェーンを、海面平穏状態時に、アンカーから所定長さだけ水底面に接触している接地長部と、前記洋上浮体構造物から縦向きに水底面に達する長さの垂下長部とを有する長さとし、該係留チェーンの両端部に緩衝材を介在させるとともに、前記垂下長部の下端部位置であって前記潮の干満にかかわりなく水底面に接触しない位置と、前記接地長部の垂下長部側端部位置であって、前記潮の干満によっては水底面から離れない位置とに、それぞれ緩衝材を介在させたことにより、アンカー及び係留チェーンの投入時、投入後の係留時のいずれの場合においても、係留される洋上浮体構造物に搭載した精密機器類に対する係留チェーンからの衝撃を緩和させ、精密機器類の正常な機能を維持させることができるとともに、係留チェーンの中間部分の切断が防止される。
【0015】
また、本発明による洋上浮体構造物係留装置の設置方法にあっては、係留チェーンの長さを潮の干満にかかわりなく、海面平穏状態時に、アンカーから所定長さだけ水底面に接触している接地長部と、前記洋上浮体構造物から縦向きに水底面に達する長さの垂下長部とを有する長さとし、該係留チェーンの両端部に緩衝材を介在させるとともに、前記垂下長部の下端部位置であって前記潮の干満にかかわりなく水底面に接触しない位置と、前記接地長部の垂下長部側端部位置であって、前記潮の干満によっては水底面から離れない位置とに、それぞれ緩衝材を介在させた洋上浮体構造物係留装置を使用し、洋上浮体構造物を水面上に浮かべた状態で係留チェーンを、その該洋上浮体構造物側から順次水面下に繰り出し、その最深部が水深の1/2〜1/4の深さに達した状態で残りの係留チェーンを一定長さ位置毎に作業船に固縛し、然る後係留チェーンのアンカー側端部をアンカーと共に水中に投入することにより、該アンカー側の重量によって前記固縛が順次解除されるようにしたことにより、アンカー及び係留チェーンを水底面に沈降させるようにしたことにより、係留チェーン及びアンカーの着底の際に洋上浮体構造物に加わる衝撃が低減され、搭載されている精密機器類の損傷を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に本発明を実施するための最良の形態を、図面に基づいて説明する。
図1は、本発明に係る洋上浮体構造物係留装置の概略構成を示している。図において1は、波浪計測器、データ送信機等の精密機器を搭載した洋上浮体構造物であり、2は該構造物1を水底面に係留するための係留チェーン、3はアンカーである。
【0017】
この係留チェーン2には、構造物1との連結部分に上端部緩衝材5aが、アンカー3との連結部分に下端部緩衝材5bが、係留チェーンの中間長さ近辺に所望の間隔を隔てた2箇所の中間部上側緩衝材5c及び中間部下側緩衝材5dの合計4個の緩衝材が接続されている。
【0018】
各緩衝材は図2に示すように、複数の鎖環10a,10a……からなる短鎖10を、互いに隣り合う鎖環を接触させないでゴム状弾性材11内に埋め込み、該短鎖体10の両端にシャックル12を備えた構造となっているものが使用できる。この各シャックル12を介して洋上浮体構造物1、係留チェーン本体2a又はアンカー3に連結し、これらの緩衝材5a〜5dと係留チェーン本体2aとによって係留チェーン2が構成されている。
【0019】
係留チェーン2は、海面が平穏状態の時に、アンカーから所定長さだけ水底面に接触している接地長部L2と、洋上浮体構造物1から縦向きに水底面に達する長さの垂下長部L1とを有し、全長を水深の約2倍程度としている。
【0020】
中間部上側緩衝材5cは、前記垂下長部L1の下端部位置であって潮の干満にかかわりなく水底面4に接触しない位置、更に具体的には、常に水底面4より1m以上、上にある位置に連結されている。
【0021】
また、中間部下側緩衝材5dは、前記接地長部L2の垂下長部側端部であって、海面が平穏状態の時に、潮の干満によっては水底面4から離れない位置に連結されている。
【0022】
このように構成される洋上浮体構造物係留装置は、図3に示すように、高波浪により構造物1が上下動する際及びアンカー3及び係留チェーン2の初期投入時における衝撃は、上端部緩衝材5a及び中間部上側緩衝材5cによって係留チェーン2から伝わる衝撃が和らげられる。
【0023】
高波浪時において、図4に示すように構造物1が水平方向に流され、係留チェーン2全体が水底面4から離れた状態での衝撃は、全ての緩衝材5a〜5dによって衝撃が和らげられる。
【0024】
また、荒波浪時において、図5に示すように接地長部L2が水底面4を引きずられる場合の衝撃は、緩衝材5a,5c,5dによって和らげられ、またその際に水底面4を引きずる際の磨耗は、緩衝材5dによって低減される。
【0025】
次に、本発明に係る洋上浮体構造物の係留方法の一例を図6〜図11について説明する。
【0026】
図6に示すように、構造物1を水上に浮かべ、これを支援船20によって係留チェーン2が搭載されている作業船21から放す方向に移動させつつ、クレーン22によって係留チェーンを順次繰り出す。
【0027】
これによって繰り出された係留チェーン2のU字状に垂下された最深部が、水深の1/2〜1/4程度、好ましくは1/3程度までに達した時、クレーン22による繰り出しを停止し、図7に示すように残りの係留チェーン2を、一定長さ毎に作業船の船腹に固縛し、上下方向のジグザグ状に吊り下げる。尚、この固縛は、平常状態では係留チェーン2の重さに耐えるが、所定以上の下向き荷重が掛かったとき、即ち後述するアンカー投入後において、アンカー及びこれとともに沈降するチェーンの動荷重が衝撃的に加わった際に、固縛が解かれる固縛具を使用する。この状態でアンカー3を水中に投入することによりアンカー3とこれに繋がっている係留チェーン2が沈降し、係留チェーン2先端部分が延び切った際に生じる下向きの衝撃荷重によって1番目の固縛が解かれる。
【0028】
この作用が順次繰り返されて図8に示すように最後の固縛が解かれ、係留チェーン2は、その上端が構造物1に支持された状態で沈降され、垂下長部L1が伸びきった状態でその下端が着底する。この着底の際の衝撃が、緩衝材5a,5cによって和らげられる。尚、このときの衝撃を和らげるために、支援船20により構造物1を作業船21に近づける。次いで接地長部L2が順次着底し、係留作業が終了する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係る洋上浮体構造物係留装置の概略構成を示す側面図である。
【図2】本発明に係る洋上浮体構造物係留装置に使用する緩衝材の一例を示す断面図である。
【図3】本発明に係る洋上浮体構造物係留装置の海面平穏時及び係留チェーン投入時に係留チェーンにかかる衝撃状態を示す側面図である。
【図4】同上の高波浪時における係留チェーン全体が水底面4から離れた状態を示す側面図である。
【図5】同上の係留チェーンの接地長部が引きずられる状態を示す側面図である。
【図6】本発明に係る洋上浮体構造物係留装置の設置方法の一例の係留チェーンの初期繰り出し状態を示す側面図である。
【図7】同上の係留チェーンを固縛した後、アンカー投入後の初期状態を示す側面図である。
【図8】同上の全ての固縛が解かれた状態の側面図である。
【符号の説明】
【0030】
L1 垂下長部
L2 接地長部
1 洋上浮体構造物
2 係留チェーン
2a 係留チェーン本体
3 アンカー
4 水底面
5a 上端部緩衝材
5b 下端部緩衝材
5c 中間部上側緩衝材
5d 中間部下側緩衝材
10 短鎖
10a 鎖環
11 ゴム状弾性材
12 シャックル
20 支援船
21 作業船
22 クレーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
精密機器類を搭載した洋上浮体構造物を、係留チェーンを介して水底面のアンカーに係留させるチェーンによる洋上浮体構造物係留装置において、
前記係留チェーンを、海面平穏状態時に、アンカーから所定長さだけ水底面に接触している接地長部と、前記洋上浮体構造物から縦向きに水底面に達する長さの垂下長部とを有する長さとし、
該係留チェーンの両端部に緩衝材を介在させるとともに、
前記垂下長部の下端部位置であって前記潮の干満にかかわりなく水底面に接触しない位置と、前記接地長部の垂下長部側端部位置であって、前記潮の干満によっては水底面から離れない位置とに、それぞれ緩衝材を介在させたことを特徴としてなるチェーンによる洋上浮体構造物係留装置。
【請求項2】
緩衝材は、複数の鎖環からなる短鎖体を、互いに隣り合う鎖環を接触させないでゴム状弾性材内に埋め込み、該短鎖体の両端にシャックルを備えている構造である請求項1に記載のチェーンによる洋上浮体構造物係留装置。
【請求項3】
精密機器類を搭載した洋上浮体構造物を、係留チェーンを介して水底面のアンカーに係留させるチェーンによる洋上浮体構造物係留装置において、前記係留チェーンを、海面平穏状態時に、アンカーから所定長さだけ水底面に接触している接地長部と、前記洋上浮体構造物から縦向きに水底面に達する長さの垂下長部とを有する長さとし、該係留チェーンの両端部に緩衝材を介在させるとともに、前記垂下長部の下端部位置であって前記潮の干満にかかわりなく水底面に接触しない位置と、前記接地長部の垂下長部側端部位置であって、前記潮の干満によっては水底面から離れない位置とに、それぞれ緩衝材を介在させた係留装置を使用し、前記洋上浮体構造物を水面上に浮かべた状態で係留チェーンを、その該洋上浮体構造物側から順次水面下に繰り出し、その最深部が水深の1/2〜1/4の深さに達した状態で残りの係留チェーンを一定長さ位置毎に作業船に固縛し、然る後係留チェーンのアンカー側端部をアンカーと共に水中に投入することにより、該アンカー側の重量によって前記固縛が順次解除されるようにしてなるチェーンによる洋上浮体構造物係留装置の設置方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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