説明

チェーン用潤滑剤組成物及びチェーン

【課題】チェーンの摺動面に付着させることにより、チェーンにかかる遠心力に対する適切な抗力と流動性とが得られ、流出が抑制され、長時間に亘って、良好な潤滑耐摩耗性能が発揮されるチェーン用潤滑剤組成物及びチェーンを提供する。
【解決手段】チェーン1は、ピン5,5により連結された一対の外プレート4,4と、相隣る外プレート4,4の相隣るピン5,5を内嵌させるブシュ3,3により連結された一対の内プレート2,2とを交互に連結してなる。チェーンの各構成部品の外面及び内面には、常温で液体である潤滑剤95〜80質量%と、常温で固体であるワックス5〜20質量%とを含み、半固体状又は固体状を有し、ちょう度が60以上475以下であり、滴点が60℃以上120℃以下であるチェーン用潤滑剤組成物が付着されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チェーン用潤滑剤組成物、及び該チェーン用潤滑剤組成物を面に付着してなるチェーンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、動力伝達機構及び搬送機構として、ブシュチェーン、ローラチェーン等のチェーンが用いられている。ブシュチェーンは、両端部が2本のピンにより連結される一対の外プレートと、二対の外プレートの相隣る側のピンを内嵌させるように2つのブシュが両端部に設けられた、一対の内プレートとを交互に連結して構成されている。ローラチェーンの場合、ブシュに外嵌されたローラをさらに備えている。
【0003】
前記ブシュは円筒状を有する。ブシュには、帯鋼を切断した矩形母材を成形機等により円筒状に巻き加工してなる巻きタイプ、鍛造等により成形され、母線状継ぎ目がない円筒状部材を用いてなるシームレスタイプ、金属焼結体からなる焼結タイプ等がある。巻きタイプ、及びシームレスタイプのブシュにおいては、耐摩耗性を向上させるために、通常、該ブシュと前記ピンとの間、該ブシュとローラとの間の摺動面に潤滑剤を介在させている。焼結タイプのブシュには、該ブシュの空孔に潤滑油を含浸させている。
【0004】
前記潤滑剤として、通常、粘度分類で、SAE(アメリカ合衆国自動車技術会)のNo.10〜50(エンジン油:ISO VG(国際標準化機構 粘度分類)22〜320相当)のグレードに属し、常温で液体であるものが多用されている。
【0005】
ブシュが巻きタイプである場合、矩形母材を巻き加工するときの突き合わせ部が継ぎ目となって残存するため、前記潤滑剤を用い、ブシュにピンを挿入してチェーンを構成し、使用したときに、前記継ぎ目から潤滑剤が流出し、耐摩耗伸び寿命が短いという問題があった。
潤滑剤の流出を緩和する目的で、特許文献1には、内周面に盲溝を複数設けたブシュの発明が開示されている。しかし、特許文献1のブシュの場合においても、チェーンにかかる遠心力等の影響により、盲溝に保持された潤滑剤が継ぎ目に流動し易く、この盲溝から流出した潤滑剤が継ぎ目の長手方向の端部から短時間で外部へ流出し、ブシュに、長時間に亘って潤滑剤が保持され得ず、潤滑耐摩耗性能を維持することができないという問題があった。
【0006】
特許文献2には、シームレスタイプのブシュにおいて、内周面に盲溝を複数設けたものが開示されている。このブシュにおいては、継ぎ目に起因する潤滑剤の損失はないが、ブシュの軸方向の両端側の開口部から潤滑剤が漏出するのを十分に抑制することはできないという問題があった。
【0007】
焼結タイプのブシュの場合、上述したように、常温液体の潤滑剤を空孔に含浸保持させることで、チェーンにかかる遠心力による飛散を抑制している。そして、揺動に伴うピンとのポンプ作用によりブシュの空孔から吸い出され、摩擦熱に起因する膨張により溢出した潤滑剤が、ピンとの摺動部分において、油膜を形成し、この油膜によって、ピンの焼き付け等が抑制されている。揺動が停止すれば、温度降下により潤滑剤は再び空孔に吸い込まれるので、潤滑剤には空孔の径に対応して出入りすることができる流動性が必要とされており、潤滑剤は外部にも流出しやすく、潤滑剤のロスが多いという問題があった。
以上のように、潤滑剤を物理的に保持させる機構の検討が種々なされてきた。
【0008】
また、軸受用潤滑剤組成物の発明として、特許文献3には、超高分子量ポリエチレン又は低分子量ポリエチレンと、これらの融解温度より高い滴点を有する潤滑グリースとを配合してなる軸受用潤滑組成物の発明が開示されている。特許文献4には、潤滑グリース、超高分子量ポリオレフィン、及び油の溢出抑制剤を混合してなる軸受用固形潤滑剤の発明が開示されている。
【特許文献1】特開平8−277886号公報
【特許文献2】特開2007−218430号公報
【特許文献3】特公昭63−23239号公報
【特許文献4】特開平9−268298号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
チェーンの軸受であるブシュは、モータ等の高速回転運動をする軸の軸受と異なり、一般的に、ピン(又は軸)との摺動が低速、高面圧であり、かつピンが揺動運動をする。前記特許文献3及び4の潤滑剤組成物の場合、超高分子量ポリオレフィン又は低分子量ポリエチレンと、それらの融解温度より高い滴点を有する潤滑グリースとを配合して固化させているため、チェーンに用いたとき、チェーン運動、すなわち揺動のような大きな動きに対して、潤滑剤は復元されずに、外部へ飛散してロスがあり、摺動熱が、潤滑剤が融解する温度に達した時点では、摩耗がすでに促進されているという問題があった。
【0010】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであり、摺動面に付着させることにより、チェーンにかかる遠心力に対する適切な抗力と流動性とが得られ、流出(ロス)が抑制されるので、長時間に亘って、良好な潤滑耐摩耗性能が発揮されるチェーン用潤滑剤組成物、及びチェーンを提供することを目的とする。
【0011】
また、本発明は、パラフィン系の鉱物油に、平均分子量が900以上8000以下であるポリエチレンワックスを配合することにより、流出がより抑制され、より良好な潤滑耐摩耗性能が発揮され、チェーンが、より良好な耐摩耗伸び寿命を有するチェーン用潤滑剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
第1発明に係るチェーン用潤滑剤組成物は、常温で液体である潤滑剤95〜80質量%と、常温で固体であるワックス5〜20質量%とを含み、ちょう度が60以上475以下であり、滴点が60℃以上120℃以下であることを特徴とする。
【0013】
ここで、常温とは、温度が25℃である場合をいう。
本発明においては、潤滑剤組成物をチェーンの面に付着させることにより、ブシュとピンとの摺動面等に該潤滑剤組成物が介在するので、チェーンにかかる遠心力に対する適切な抗力と流動性とが得られ、潤滑剤組成物の飛散によるロス(流出)が抑制され、長時間に亘って、良好な潤滑耐摩耗性能が発揮される。
【0014】
第2発明に係るチェーン用潤滑剤組成物は、第1発明において、ちょう度が95以上385以下であり、滴点が77℃以上120℃以下であることを特徴とする。
【0015】
本発明においては、潤滑剤組成物のちょう度及び滴点がより適切であるので、潤滑剤組成物が摺動面に介在する場合に、より適切な抗力と流動性とが得られ、潤滑剤組成物の流出がより抑制され、より長時間に亘って、良好な潤滑耐摩耗性能が発揮される。
【0016】
第3発明に係るチェーン用潤滑剤組成物は、第1又は第2発明において、前記潤滑剤はパラフィン系の鉱物油であり、前記ワックスはポリエチレンワックスであり、平均分子量が900以上8000以下であることを特徴とする。
【0017】
本発明においては、潤滑剤組成物が摺動面に介在する場合、より適切な抗力と流動性とが得られ、潤滑剤組成物の流出がさらに抑制されるので、さらに長時間に亘って、良好な潤滑耐摩耗性能が発揮される。
また、潤滑剤組成物をブシュとピンとの間に浸透させるのに長時間を要さず、作業性が良好である。
【0018】
第4発明に係るチェーンは、2本のピンにより連結される一対の外プレートと、相隣る前記外プレートの相隣るピンを内嵌させる2つのブシュにより連結される一対の内プレートとを交互に連結してなるチェーンにおいて、面に、第1乃至第3発明のいずれかのチェーン用潤滑剤組成物を付着してなることを特徴とする。
【0019】
本発明においては、摺動面に本発明の潤滑剤組成物が介在するので、使用時に、良好な潤滑耐摩耗性能が発揮され、良好な耐摩耗伸び寿命を有する。
【発明の効果】
【0020】
第1発明及び第4発明によれば、潤滑剤組成物が摺動面に介在するので、チェーンにかかる遠心力に対する抗力と流動性とが得られ、潤滑剤組成物の飛散によるロスが抑制され、長時間に亘って、良好な潤滑耐摩耗性能が発揮される。従って、チェーンは良好な耐摩耗伸び寿命を有する。
【0021】
第2及び第3発明によれば、潤滑剤組成物をチェーンの摺動面に介在させた場合に、潤滑剤組成物の流出がより抑制され、より良好な潤滑耐摩耗性能が発揮されるので、チェーンはより良好な耐摩耗伸び寿命を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明をその実施の形態を示す図面に基づき具体的に説明する。
本発明に係るチェーン用潤滑剤組成物(以下、潤滑剤組成物という)は、常温で液体である潤滑剤95〜80質量%と、常温で固体であるワックス5〜20質量%とを含み、ちょう度が60以上475以下であり、滴点が60℃以上120℃以下である。
ちょう度は95以上385以下であり、滴点が77℃以上120℃以下であるのがより好ましい。
【0023】
前記潤滑剤としては、鉱物油、合成炭化水素(ポリ−α−オレフィン:PAO)、ヒンダードエステル(ポリオールエステル)、ポリフェニルエーテル油、ポリアルキレングリコール油、ジエステル油、リン酸エステル油、シリコーン油、ケイ酸エステル、フルオロカーボン、動植物油等が挙げられる。中でも、鉱物油、ヒンダードエステル等が好ましい。
【0024】
前記ワックスとしては、パラフィンワックス,マイクロクリスタリンワックス,ペトロラタム等の石油ワックスと、ポリエチレンワックス,フィッシャー・トロプシュワックス等の合成ワックスと、脂肪酸アマイド,脂肪酸エステル等の油脂系合成ワックスと、蜜ロウ,ラノリン等の動物系ワックス、カルナウバワックス,ライスワックス等の植物系ワックス、及びモンタンワックス,オゾケライト等の鉱物系ワックスからなる天然ワックスとが挙げられる。
【0025】
本発明に係る潤滑剤組成物は、付加機能を付与するために、必要に応じ、油性剤、防錆剤、酸化防止剤、極圧剤、消泡剤等の添加剤を1種又は2種以上、組み合わせて添加することができる。この添加剤は、潤滑剤組成物全体に対し、0質量%超過10質量%以下含まれるのが好ましい。
【0026】
前記油性剤としては、ステアリン酸、オレイン酸等の長鎖脂肪酸、及びその塩が挙げられる。
前記防錆剤としては、カルボン酸、カルボン酸塩、スルホン酸塩、リン酸エステル類等が挙げられる。
【0027】
前記酸化防止剤としては、DBPC(2,6−ジ−t−ブチルパラクレゾール)、フェニル−α−ナフチルアミン、ジアリルジチオリン酸亜鉛、ベンゾトリアゾール等が挙げられる。
前記極圧剤としては、ジアルキルポリスルフィド、アルキルリン酸エステル、アルキルチオリン酸亜鉛等が挙げられる。
前記消泡剤としては、ジメチルポリシロキサン等が挙げられる。
【0028】
本発明のチェーンとしては、ブシュチェーン、ローラチェーン等が挙げられる。
【実施例】
【0029】
以下、本発明の実施例及び比較例につき具体的に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0030】
[実施例1]
図1は、本発明の実施例1に係るローラチェーンタイプのチェーン1を示す一部斜視図である。
チェーン1の内プレート2及び外プレート4は、長円形の平板な部材の中央部両側縁に内側に向かう円弧状の窪みを形成し、長円の両極近傍に穴2a,2a及び穴4a,4aをそれぞれ開設した略8の字型を有しており、プレート幅及び開設してある穴の直径は外プレート4より内プレート2の方が大きい。内プレート2の2つの穴2a,2aには、円筒状のブシュ3,3の一端がそれぞれしまりばめしてあり、ブシュ3,3の他端を他方の内プレート2の穴2a,2aにしまりばめすることによって内プレート2,2が連結されている。ブシュ3,3には該ブシュ3,3の外径より大きな内径を有する筒状のローラ6,6が回転自在に外嵌されている。本実施例において、ブシュ3としては、巻きタイプのものを用いた。
【0031】
外プレート4の2つの穴4a,4aには、円柱状のピン5,5の一端がそれぞれしまりばめされている。ピン5,5は、直径がブシュ3,3の内径より小さく、長さが内プレート2,2間の距離より長い寸法であり、ピン5,5の他端を他方の外プレート4の穴4a,4aにしまりばめすることで、外プレート4,4が連結されるように構成されている。
【0032】
そして、外プレート4に嵌め込んだピン5,5の一方を内プレート2,2の一方のブシュ3に挿通し、上述したように他方の外プレート4の穴4aにしまりばめすることで、外プレート4,4と内プレート2,2とが交互に連結され、チェーン1が構成される。
チェーン1のサイズは、「JIS B1801−1895」の呼び番号80に相当する。
【0033】
このチェーン1の構成部品の外面及び内面に付着させる潤滑剤組成物として、「ダイアナフレシア P430」(パラフィン系鉱物油/平均分子量1171:出光興産株式会社製)85質量%と、「三井ハイワックス110P」(ポリエチレンワックス/平均分子量1000,融点109℃(DSC法):三井化学株式会社製)15質量%とを配合した。この配合物を融点以上に加温し、前記チェーン1を5〜10分浸漬して、前記潤滑剤組成物が外面及び内面に付着された、実施例1のチェーン1を得た。
【0034】
[実施例2]
潤滑剤組成物に含有されるワックスとして、「三井ハイワックス320P」(ポリエチレンワックス/平均分子量3000,融点109℃(DSC法):三井化学株式会社製)15質量%を配合したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2のチェーンを作製した。
【0035】
[実施例3]
潤滑剤組成物に含有されるワックスとして、「三井ハイワックス720P」(ポリエチレンワックス/平均分子量7200,融点113℃(DSC法):三井化学株式会社製)15質量%を配合したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例3のチェーンを作製した。
【0036】
[実施例4]
潤滑剤組成物として、「コスモニュートラル150」(パラフィン系鉱物油/平均分子量410:コスモ石油ルブリカンツ株式会社製)85質量%と、前記「三井ハイワックス320P」15質量%とを配合したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例4のチェーンを作製した。
【0037】
[実施例5]
潤滑剤組成物のワックスとして、前記「三井ハイワックス720P」15質量%を配合したこと以外は、実施例4と同様にして、実施例5のチェーンを作製した。
【0038】
[実施例6]
潤滑剤組成物として、「コスモニュートラル500」(パラフィン系鉱物油/平均分子量521:コスモ石油ルブリカンツ株式会社製)85質量%と、前記「三井ハイワックス320P」15質量%とを配合したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例6のチェーンを作製した。
【0039】
[実施例7]
潤滑剤組成物のワックスとして、前記「三井ハイワックス720P」15質量%を配合したこと以外は、実施例6と同様にして、実施例7のチェーンを作製した。
【0040】
[実施例8]
潤滑剤組成物のワックスとして、「三井ハイワックス800P」(ポリエチレンワックス/平均分子量8000,融点127℃(DSC法):三井化学株式会社製)5質量%と、「三井ハイワックス320P」10質量%とを配合したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例8のチェーンを作製した。
【0041】
[実施例9]
潤滑剤組成物のワックスとして、前記「三井ハイワックス800P」10質量%と、「三井ハイワックス320P」5質量%とを配合したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例9のチェーンを作製した。
【0042】
[実施例10]
潤滑剤組成物として、前記「ダイアナフレシア P430」93質量%と、「三井ハイワックス220P」(ポリエチレンワックス/平均分子量2000,融点110℃(DSC法):三井化学株式会社製)7質量%とを配合したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例10のチェーンを作製した。
【0043】
[実施例11]
潤滑剤組成物として、「ダイアナフレシア P430」90質量%と、「三井ハイワックス220P」10質量%を配合したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例11のチェーンを作製した。
【0044】
[実施例12]
潤滑剤組成物として、「ダイアナフレシア P430」85質量%と、「三井ハイワックス220P」15質量%を配合したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例12のチェーンを作製した。
【0045】
[実施例13]
潤滑剤組成物として、「ダイアナフレシア P430」80質量%と、「三井ハイワックス220P」20質量%とを配合したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例13のチェーンを作製した。
【0046】
[実施例14]
潤滑剤組成物として、「ダイアナフレシア P430」90質量%と、ステアリン酸アマイド10質量%とを配合したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例14のチェーンを作製した。
【0047】
[実施例15]
潤滑剤組成物として、ヒンダードエステル90質量%と、「三井ハイワックス220P」10質量%とを配合したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例15のチェーンを作製した。
【0048】
[実施例16]
潤滑剤組成物として、「ダイアナフレシア P430」相当品のブライトストック油90質量%と、「HNP−10」(パラフィンワックス/平均分子量592,融点75℃:日本精鑞株式会社製)10質量%とを配合したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例16のチェーンを作製した。
【0049】
[比較例1]
ワックスは配合せず、前記「コスモニュートラル150」を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1のチェーンを作製した。
【0050】
[比較例2]
ワックスは配合せず、前記「コスモニュートラル500」を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例2のチェーンを作製した。
【0051】
[比較例3]
ワックスは配合せず、前記「ダイアナフレシア P430」を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例3のチェーンを作製した。
【0052】
[比較例4]
潤滑剤組成物に含有されるワックスとして、前記「三井ハイワックス800P」15質量%を配合したこと以外は、実施例1と同様にして、比較例4のチェーンを作製した。
【0053】
[比較例5]
潤滑剤組成物として、前記「ダイアナフレシア P430」96.5質量%と、「三井ハイワックス220P」3.5質量%とを配合したこと以外は、実施例1と同様にして、比較例5のチェーンを作製した。
【0054】
実施例1乃至16、比較例1及び5の潤滑剤組成物につき、ちょう度、滴点、及び動粘度を測定した。その結果を下記の表1に示す。ちょう度は、「石油ワックス(JIS K 2235)」、及び「グリース(JIS K 2220)」のちょう度の測定方法に準じ、各潤滑剤組成物を125℃まで加温し、25℃まで放冷し、試料中に規定の円錐が進入する深さを測定して求めた。
滴点の測定は、「グリース(JIS K 2220)」の滴点の測定方法に準じて行った。
【0055】
【表1】

【0056】
絶対粘度は、音叉型振動式粘度測定装置を用い、120℃まで加温した後、自然放冷して求めた。
実施例1乃至3、及び比較例3の潤滑剤組成物については、温度と絶対粘度との関係を調べた結果を図2のグラフに、実施例4、6、及び比較例3の潤滑剤組成物については、温度と絶対粘度との関係を調べた結果を図3のグラフに示す。図3には、実施例2の測定結果も示してある。
なお、表1において、比較例1乃至3については、40℃の動粘度を示してある。
【0057】
実施例1乃至16、及び比較例3及び4に係るチェーンの耐摩耗伸び寿命を評価するために、以下の性能評価試験を行った。
雰囲気温度を室温とし、各チェーンを2つのスプロケット(歯数:17T)に無端状に懸回し、一方のスプロケットの中心から、他方のスプロケットに向かう方向と反対の方向に負荷荷重(面圧1.27kN/cm2 、すべり速度16.2m/min)をかけた状態で、毎分650回転で回転させ、各チェーンの摩耗伸び量が1.0%になるまでの運転時間を測定した。その結果を上記の表1に示す。
【0058】
チェーンの外面及び内面に潤滑剤を付着させていない場合の摩耗伸び時間は略20時間である。比較例1及び2については、それぞれ試験開始後5時間、10時間で潤滑剤組成物がほぼ消失するのが確認されているので、前記20時間に、潤滑剤組成物がほぼ消失するまでの時間を加えた時間より少し長くした、28時間、33時間がそれぞれ摩耗伸び時間として推定される。比較例5については、上記の試験を行っていないが、ちょう度が測定できないほど柔らかく、潤滑剤組成物が流出しやすいので、摩耗伸び時間は略60時間を大きく下回ると推定される。
【0059】
実施例1乃至16と、比較例1乃至3、及び5とを比較することにより、常温で液体である潤滑剤95〜80質量%と、常温で固体であるワックス5〜20質量%とを配合してなり、ちょう度が60以上475以下であり、滴点が60℃以上120℃以下である潤滑剤組成物をチェーンの外面及び内面に付着させている実施例1乃至16のチェーンは、摩耗伸び時間が58時間を超え、耐摩耗寿命が向上していることが分かる。
これは、実施例1乃至16に係る潤滑剤組成物が摺動面に介在する場合、チェーンにかかる遠心力に対する適切な抗力と流動性とが得られ、潤滑剤組成物の飛散によるロスが抑制され、長時間に亘って、良好な潤滑耐摩耗性能が発揮されるためと考えられる。
そして、実施例1乃至16に係る潤滑剤組成物の滴点は、潤滑剤組成物の融解温度(融点)より低い温度であり、潤滑剤組成物が融解する温度に達するまでに適度の流動性を有し、ロスすることなく潤滑性能を発揮する。
なお、本実施例のチェーンは、全ての面に本実施例の潤滑剤組成物が付着されているので、潤滑耐摩耗性能が良好であるとともに、防錆性も良好である。
【0060】
表1及び図2において、実施例1乃至3、並びに比較例3及び4を比較することにより、実施例1乃至3は、ワックスを配合していない比較例3より摩耗伸び時間が向上していることが分かる。そして、潤滑剤、ワックスの種類が同一であり、潤滑剤及びワックスの配合量が同一である場合、ワックスの分子量が増加するのに従い、動粘度及び滴点が高くなり、チェーンの摺動面に付着させた場合、摩耗伸び時間が長くなることが分かる。
【0061】
比較例4の場合、表1に示すように、摩耗伸び時間は155時間と良好であるが、ちょう度が測定できないほど硬く、滴点が120℃と高くなり、該潤滑剤組成物がブシュとピンとの間に浸透するのに長時間を要して作業性が悪い。また、チェーンの使用時にチェーンの屈曲抵抗が大きくなり、チェーンが屈曲しにくくなるので、実使用に向かないという問題がある。従って、平均分子量が8000未満であるポリエチレンワックスを用いるのが好ましい。
【0062】
平均分子量が8000である「三井ハイワックス800P」を用いる場合、実施例8及び9の潤滑剤組成物のように、平均分子量が3000である「三井ハイワックス320P」と混合することで、得られる潤滑剤組成物が、ちょう度が測定できる程度の柔らかさを有し、ブシュとピンとの間に容易に浸透することができ、作業性が良好になる。そして、摩耗伸び時間も長く、耐摩耗寿命が長い。
【0063】
実施例4と5とを、実施例6と7とをそれぞれ比較した場合、潤滑剤、及びワックスの種類が同一であり、潤滑剤及びワックスの配合量が同一であるとき、ワックスの分子量が増加するのに従い、チェーンの摺動面に付着させた場合、摩耗伸び時間が長くなることが分かる。
【0064】
表1及び図3において、実施例2、4及び6、並びに比較例3を比較することにより、同一のワックスを用い、潤滑剤及びワックスの配合量が同一である場合、潤滑剤の分子量が増加するのに従い、動粘度及び滴点が高くなり、チェーンの摺動面に付着させた場合、摩耗伸び時間が長くなることが分かる。
【0065】
図4は、実施例10乃至13、及び比較例5の性状の分析結果に基づき、ワックスの配合量と、滴点及びちょう度との関係を表したグラフである。
図4、並びに表1における実施例10乃至13、及び比較例5の性能評価結果を比較することにより、ワックスの配合量が増加するのに従い、ちょう度が小さく、すなわち硬くなり、かつ滴点が高くなり、チェーンの摺動面に付着させた場合、摩耗伸び時間が長くなることが分かる。
【0066】
ワックスの質量%が20を超える場合、潤滑剤組成物のコストが高くなる。
ワックスの質量%が5未満である場合、潤滑剤組成物のちょう度が測定できなくなる程、柔らかくなり、流出しやすくなって摩耗伸び時間が短くなるので、ワックスは潤滑剤組成物中に、5質量%以上20質量%以下含有するのが好ましい。
【0067】
表1において、実施例11と14とを比較することにより、同一の潤滑剤に同一の配合量のワックスを添加した場合、ワックスとしてポリエチレンワックスを含む実施例11の方が、脂肪酸アマイドワックスを含む実施例14より摩耗伸び時間が長いことが分かる。 実施例11と15とを比較することにより、同一のワックスを配合した場合、潤滑剤としてパラフィン系鉱物油を含む実施例11の方が、ヒンダードエステルを含む実施例16より摩耗伸び時間が長いことが分かる。
また、潤滑剤として「ダイアナフレシア P430」相当品のブライトストック油を、ワックスとしてパラフィンワックスを配合した実施例16は、ポリエチレンワックスを配合した実施例11より摩耗伸び時間が短くなっていることが分かる。
【0068】
表1、及び図4より、滴点が60℃以上である場合、潤滑剤組成物の流出が抑制されるため、摩耗伸び時間が略60時間を超えることが分かる。滴点が120℃を超える場合、上述した比較例4のように、作業性が悪くなるので、滴点は120℃以下であるのが好ましい。
【0069】
潤滑剤組成物が柔らかすぎる場合、摺動時に流出によるロスがあり、潤滑剤組成物が硬すぎる場合、潤滑剤組成物がブシュとピンとの間に浸透するのに長時間を要して作業性が悪くなるので、ちょう度は60以上475以下であるのが好ましく、95以上385以下であるのがより好ましい。
そして、表1より、ちょう度がより大きく、すなわち潤滑剤組成物がより柔らかい場合、滴点がより高くなるように設計することで、摩耗伸び時間が長くなるように制御できることが分かる。
【0070】
なお、前記実施例においては、本発明に係る潤滑剤組成物にチェーン1を浸漬することにより、該潤滑剤組成物をチェーン1の外面及び内面に付着させた場合につき説明しているがこれに限定されるものではなく、塗布等によりチェーンの面に潤滑剤組成物を付着させてもよい。
また、前記実施例においては、巻きタイプのブシュ3を有するチェーン1の面に、本発明に係る潤滑剤組成物を付着させた場合につき説明しているがこれに限定されるものではなく、シームレスタイプのブシュ、及び内周面に盲溝が設けられたブシュ等を有するチェーンの面に付着させることにしてもよい。
そして、チェーンはローラチェーンタイプに限定されるものではなく、ブシュチェーンタイプであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の実施例1に係るローラチェーンタイプのチェーンを示す一部斜視図である。
【図2】実施例1乃至3、及び比較例1の潤滑剤組成物について、温度と絶対粘度との関係を調べた結果を示すグラフである。
【図3】実施例2、4、6、及び比較例3の潤滑剤組成物について、温度と絶対粘度との関係を調べた結果を示したグラフである。
【図4】ワックスの配合量と、滴点及びちょう度との関係を示したグラフである。
【符号の説明】
【0072】
1 チェーン
2 内プレート
2a 穴
3 ブシュ
4 外プレート
4a 穴
5 ピン
6 ローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
常温で液体である潤滑剤95〜80質量%と、
常温で固体であるワックス5〜20質量%と
を含み、
ちょう度が60以上475以下であり、滴点が60℃以上120℃以下であることを特徴とするチェーン用潤滑剤組成物。
【請求項2】
ちょう度が95以上385以下であり、滴点が77℃以上120℃以下である請求項1に記載のチェーン用潤滑剤組成物。
【請求項3】
前記潤滑剤はパラフィン系の鉱物油であり、
前記ワックスはポリエチレンワックスであり、平均分子量が900以上8000以下である請求項1又は2に記載のチェーン用潤滑剤組成物。
【請求項4】
2本のピンにより連結される一対の外プレートと、相隣る前記外プレートの相隣るピンを内嵌させる2つのブシュにより連結される一対の内プレートとを交互に連結してなるチェーンにおいて、
面に、請求項1乃至3のいずれかに記載のチェーン用潤滑剤組成物を付着してなることを特徴とするチェーン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−144005(P2009−144005A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−321062(P2007−321062)
【出願日】平成19年12月12日(2007.12.12)
【出願人】(000003355)株式会社椿本チエイン (861)
【Fターム(参考)】