説明

チェーン

【課題】孔内面の応力の集中を緩和して疲労強度を向上するとともに、リンクプレートや他の構成部材を大きくすることなくリンクプレートの引張破断力に対する強度を確保したチェーンを提供すること。
【解決手段】内リンクプレート120と外リンクプレート110とがブシュ130と連結ピン140で交互に多数連結されているチェーン100において、内リンクプレート120のピン孔121が、引張方向を長径とする楕円形状に形成されていること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、産業用機械等の動力伝達機構あるいは搬送機構などに用いられるチェーンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、前後一対のブシュ孔を有する左右一対の内リンクプレートと、両端部が内リンクプレートのブシュ孔に圧入嵌着されたブシュと、内リンクプレートの両外側に配置され前後一対のピン孔を有する左右一対の外リンクプレートと、ブシュに回転自在に嵌挿されて両端部が外リンクプレートのピン孔に圧入嵌着された連結ピンとで構成され、内リンクプレートと外リンクプレートとが交互に多数連結されているチェーンが周知である。
【0003】
これらの周知のチェーンは、内リンクプレートのブシュ孔が円形に形成され、円筒状のブシュが圧入嵌着されるとともに、外リンクプレートのピン孔が円形に形成され、円柱状の連結ピンが圧入嵌着されて、一対の外リンクプレートのピン孔に連結ピンが嵌着固定された外リンクと一対の内リンクプレートのブシュ孔にブシュが嵌着固定された内リンクとが、ブシュに連結ピンが緩挿されることにより交互に多数連結されて構成されている。
【0004】
そして、チェーンに張力が作用すると、円筒状のブシュの内周面と該ブシュ内に回転自在に嵌挿された連結ピンの外周面が接触して張力を伝達し、チェーンが全体として動力伝達機構あるいは搬送機構を構成する(例えば、特許文献1、2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−257531号公報(第2頁、図5)
【特許文献2】特開2007−107583号公報(第2頁、図8)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これら周知のチェーンにおいて、内リンクプレート520にはチェーンの張力Fによって引張破断力が作用するが、図10に示すように、内リンクプレート520の張力と直交する方向の断面の中で断面B−Bにおける断面積が最も小さくなるため、引張破断力に耐え得る断面B−Bの断面積が得られるように幅Lが規定されている。
【0007】
しかしながら、内リンクプレート520の断面B−Bは、ブシュ孔521の直径DLの半分のDL/2の距離だけ側方に位置して曲げ応力も発生することとなり、断面B−Bのブシュ孔521側に応力集中領域522が発生して、該応力集中領域522に繰り返し応力がかかることにより亀裂が発生して疲労破壊が生じるという問題があった。
【0008】
また、断面B−Bのブシュ孔521側端面の曲率半径を大きくして該応力の集中を緩和することも考えられるが、そのためにはブシュ孔521自体の直径DLを大きくする必要があり、引張破断力に耐え得る断面B−Bの断面積が得られるように幅Lを確保するために内リンクプレート520自体を大きくし、かつ、ブシュの直径も大きくしなければならないという問題があった。
【0009】
本発明は、前述したような従来技術の問題を解決するものであって、すなわち、本発明の目的は、孔内面の応力の集中を緩和して疲労強度を向上するとともに、リンクプレートや他の構成部材の形状や大きさの変更を最小限としてリンクプレートの引張破断力に対する強度を確保したチェーンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本請求項1に係る発明は、前後一対のブシュ孔を有する左右一対の内リンクプレートと、両端部が前記内リンクプレートのブシュ孔に圧入嵌着されたブシュと、前記内リンクプレートの両外側に配置され前後一対のピン孔を有する左右一対の外リンクプレートと、前記ブシュに回転自在に嵌挿されて両端部が前記外リンクプレートのピン孔に圧入嵌着された連結ピンとで構成され、前記内リンクプレートと前記外リンクプレートとが交互に多数連結されているチェーンにおいて、前記内リンクプレートのブシュ孔が、引張方向を長径とする楕円形状に形成されていることにより、前記課題を解決するものである。
【0011】
本請求項2に係る発明は、請求項1に記載されたチェーンの構成に加えて、前記ブシュが、両端に設けられ前記内リンクプレートのブシュ孔に圧入されるブシュ端部楕円部と、該両端のブシュ端部楕円部の中間に設けられたブシュ中間円筒部とからなることにより、前記課題をさらに解決するものである。
【0012】
本請求項3に係る発明は、請求項2に記載されたチェーンの構成に加えて、前記ブシュ端部楕円部の長径が、前記ブシュ中間円筒部の直径と等しいことにより、前記課題をさらに解決するものである。
【発明の効果】
【0013】
本請求項1に係る発明のチェーンは、前後一対のブシュ孔を有する左右一対の内リンクプレートと、両端部が内リンクプレートのブシュ孔に圧入嵌着されたブシュと、内リンクプレートの両外側に配置され前後一対のピン孔を有する左右一対の外リンクプレートと、ブシュに回転自在に嵌挿されて両端部が外リンクプレートのピン孔に圧入嵌着された連結ピンとで構成され、内リンクプレートと外リンクプレートとが交互に多数連結されているチェーンにおいて、内リンクプレートのブシュ孔が引張方向を長径とする楕円形状に形成されていることにより、ブシュ孔の引張方向と直角方向側面の曲率半径を大きくすることができるため、ブシュ孔の引張方向と直角方向側面の応力の集中を緩和して疲労強度を向上することができるとともに、内リンクプレートの引張破断力に対する強度を確保することができる。
【0014】
本請求項2に係る発明のチェーンは、請求項1に係るチェーンが奏する効果に加えて、ブシュが、両端に設けられ内リンクプレートのブシュ孔に圧入される端部楕円ブシュ部と、該両端のブシュ端部楕円部の中間に設けられたブシュ中間円筒部とからなることにより、ローラを遊嵌、あるいは、スプロケットと係合するブシュ中間円筒部を従来のブシュと同様の円筒状とすることができるため、ブシュやチェーンの他の構成部材の形状や大きさの変更を最小限として内リンクプレートの引張破断力に対する強度を確保することができる。
【0015】
本請求項3に係る発明のチェーンは、請求項2に係るチェーンが奏する効果に加えて、ブシュ端部楕円部の長径がブシュ中間円筒部の直径と等しいことにより、円筒状のブシュから切削や変形加工により製作する際に、ブシュ端部楕円部のみを加工すればよいため、製作が容易となるとともに、加工に伴う強度の低下も防止でき、また、孔の引張方向と直角な方向の側面の直径が従来の円形のブシュ孔より小さくなり、ブシュ孔の引張方向と直角な方向の側面の曲率半径を大きくすることができるため、ブシュ孔の引張方向と直角方向側面の応力の集中を緩和して疲労強度を向上することができるとともに、内リンクプレートや他の構成部材の形状や大きさの変更を最小限として内リンクプレートの引張破断力に対する強度を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施例であるチェーンの斜視図。
【図2】図1に示すチェーンの内リンクプレートの斜視図。
【図3】本発明の第1実施例であるチェーンの内リンクプレートの平面図。
【図4】本発明の第1実施例であるチェーンのブシュの斜視図。
【図5】図1に示すチェーンの引張方向の断面図。
【図6】図1に示すチェーンの引張方向と直角方向の断面図。
【図7】図1に示すチェーンの内リンクプレートの拡大説明図。
【図8】本発明の第2実施例であるチェーンの内リンクプレートの平面図。
【図9】本発明の第3実施例であるチェーンのブシュの斜視図。
【図10】従来のチェーンの内リンクプレートの拡大説明図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のチェーンは、前後一対のブシュ孔を有する左右一対の内リンクプレートと、両端部が内リンクプレートのブシュ孔に圧入嵌着されたブシュと、内リンクプレートの両外側に配置され前後一対のピン孔を有する左右一対の外リンクプレートと、ブシュに回転自在に嵌挿されて両端部が外リンクプレートのピン孔に圧入嵌着された連結ピンとで構成され、内リンクプレートと外リンクプレートとが交互に多数連結されているチェーンにおいて、内リンクプレートのブシュ孔が引張方向を長径とする楕円形状に形成されて、孔内面の応力の集中を緩和して疲労強度を向上することができるとともに、リンクプレートや他の構成部材の形状や大きさの変更を最小限としてリンクプレートの引張破断力に対する強度を確保することができるものであれば、その具体的な実施態様は如何なるものであっても何ら構わない。
【0018】
すなわち、本発明のチェーンは、ブシュが直接スプロケットと係合する、いわゆるブシュチェーンであってもよく、ブシュの外周に遊嵌されたローラがスプロケットと係合するいわゆるローラチェーンであっても良い。
また、リンクプレートに設けられた歯がスプロケットと係合するいわゆるサイレントチェーンであっても良い。
【実施例1】
【0019】
以下に、本発明の実施例であるチェーンについて図面に基づいて説明する。
本発明の第1実施例であるチェーン100は、図1に示すように、左右一対の内リンクプレート120と、両端部が内リンクプレート120のブシュ孔121に圧入嵌着されたブシュ130と、内リンクプレート120の両外側に配置する左右一対の外リンクプレート110と、ブシュ130に回転自在に嵌挿されて両端部が外リンクプレート110のピン孔111に圧入嵌着された連結ピン140とを有している。
【0020】
内リンクプレート120のブシュ孔121は、図2、図3に示すように、チェーン100の引張方向を長径とする楕円形状に形成されている。
そして、従来の円形のブシュ孔をもつ内リンクプレート(図3の点線で示す。)のブシュ孔の直径をDL、ブシュ孔の中心を通る引張方向の内リンクプレートの側方の幅をLとした場合、本実施例における内リンクプレート120は、楕円形状のブシュ孔の長径がDT、短径がDLであり、ブシュ孔121の中心を通る引張方向の内リンクプレート120の側方の幅は同様にLとなるように構成されている。
【0021】
ブシュ130は、図4に示すように、両端に内リンクプレート120のブシュ孔121に圧入されるブシュ端部楕円部132と、該両端のブシュ端部楕円部132の中間に設けられたブシュ中間円筒部131と、長手方向に連結ピン140が遊嵌される連結ピン遊嵌孔133を有しており、ブシュ端部楕円部132の長径はブシュ中間円筒部131の直径と等しくなるように構成されている。
【0022】
そして、図5、図6に示すように、一対の内リンクプレート120のブシュ孔121にブシュ130のブシュ端部楕円部132が嵌着固定され、ブシュ130の連結ピン遊嵌孔133に連結ピン140が遊嵌され、一対の外リンクプレート110のピン孔111に連結ピン140が嵌着固定されることにより、多数の内リンクプレート120および外リンクプレート110が交互に連結されて一連のチェーン100が構成される。
なお、ブシュ130のブシュ中間円筒部131にはローラ150が遊嵌されている。
【0023】
以上のように構成されたチェーン100において、図7に示すように、内リンクプレート120のブシュ孔121の長径DTが短径DLよりも長いことによって、張力Fと直交する方向の断面A−Aにかかる曲げ応力は、従来の円形のブシュ孔521より小さな曲げ応力となり、さらに、断面A−Aのブシュ孔121側端面の曲率半径も従来の円形のブシュ孔521大きくなるため、応力集中領域122にかかる応力が低減され、該応力集中領域122に繰り返し応力がかかることにより亀裂が発生することが防止される。
【実施例2】
【0024】
本発明の第2実施例である内リンクプレート220のブシュ孔221は、図8に示すように、第1実施例と同様に、チェーン100の引張方向を長径とする楕円形状に形成されている。
従来の円形のブシュ孔をもつ内リンクプレート(図8の点線で示す。)のブシュ孔の直径をDL、ブシュ孔の中心を通る引張方向と直角方向の内リンクプレートの側方の幅をLとした場合、本実施例における内リンクプレート220は、楕円形状のブシュ孔の長径がDL、短径がDSであり、ブシュ孔221の中心を通る引張方向と直角方向の内リンクプレート120の側方の幅は同様にLとなるように構成されている。
【0025】
このことにより、第1実施例と同様に、内リンクプレート220のブシュ孔221の長径DLが短径DSよりも長いことによって、張力Fと直交する方向の断面A−Aにかかる曲げ応力は、従来の円形のブシュ孔521より小さな曲げ応力となり、さらに、断面A−Aのブシュ孔221側端面の曲率半径も従来の円形のブシュ孔521大きくなるため、応力集中領域222にかかる応力が低減され、該応力集中領域に繰り返し応力がかかることにより亀裂が発生することが防止される。
【0026】
また、ブシュ孔221自体の大きさは従来の円形のブシュ孔521より小さく、引張破断力に耐え得る断面A−Aの断面積が得られるように幅Lを確保しても、内リンクプレート220自体は小さく形成でき、かつ、ブシュ130も全体として小さく形成することができるため、チェーン100全体もコンパクトになる。
【実施例3】
【0027】
本発明の第3実施例であるチェーンは、内リンクプレート120は第1実施例と同様でありが、ブシュ130が、図9に示すように、両端に内リンクプレート220のブシュ孔221に圧入されるブシュ端部楕円部232と、該両端のブシュ端部楕円部232の中間に設けられたブシュ中間円筒部231と、長手方向に連結ピン240が遊嵌される連結ピン遊嵌孔233を有しており、ブシュ端部楕円部232の短径がブシュ中間円筒部231の直径と等しくなるように構成されている。
【0028】
このことにより、第1実施例と同様に、内リンクプレート120の張力Fと直交する方向の断面A−Aにかかる曲げ応力が、従来の円形のブシュ孔521より小さな曲げ応力となり、さらに、応力集中領域122にかかる応力が低減され、該応力集中領域122に繰り返し応力がかかることにより亀裂が発生することが防止されるとともに、ブシュ中間円筒部231を従来のブシュと同様の直径とすることができ、ローラ等の他の構成部材の形状や大きさの変更を少なくすることができる。
【0029】
以上のように、本発明のチェーンによれば、孔内面の応力の集中を緩和して疲労強度を向上することができるとともに、リンクプレートや他の構成部材の形状や大きさの変更を最小限としてリンクプレートの引張破断力に対する強度を確保することができる。
【0030】
なお、上記各実施例は、内リンクプレート120、220のブシュ孔121、221のみを引張方向を長径とする楕円形状に形成し、ブシュ130の端部を楕円形状とするものであるが、外リンクプレート110のピン孔111も引張方向を長径とする楕円形状に形成し、連結ピン140の端部を楕円形状としても良い。
【符号の説明】
【0031】
100 ・・・チェーン
110 ・・・外リンクプレート
111 ・・・ピン孔
120、120、520 ・・・内リンクプレート
121、221、521 ・・・ブシュ孔
122、 522 ・・・応力集中領域
130、230 ・・・ブシュ
131、231 ・・・ブシュ端部楕円部
132、232 ・・・ブシュ中間円筒部
133、233 ・・・連結ピン遊嵌孔
140 ・・・連結ピン
150 ・・・ローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前後一対のブシュ孔を有する左右一対の内リンクプレートと、両端部が前記内リンクプレートのブシュ孔に圧入嵌着されたブシュと、前記内リンクプレートの両外側に配置され前後一対のピン孔を有する左右一対の外リンクプレートと、前記ブシュに回転自在に嵌挿されて両端部が前記外リンクプレートのピン孔に圧入嵌着された連結ピンとで構成され、前記内リンクプレートと前記外リンクプレートとが交互に多数連結されているチェーンにおいて、
前記内リンクプレートのブシュ孔が、引張方向を長径とする楕円形状に形成されていることを特徴とするチェーン。
【請求項2】
前記ブシュが、両端に設けられ前記内リンクプレートのブシュ孔に圧入される端部楕円ブシュ部と、該両端のブシュ端部楕円部の中間に設けられたブシュ中間円筒部とからなることを特徴とする請求項1に記載のチェーン。
【請求項3】
前記ブシュ端部楕円部の長径が、前記ブシュ中間円筒部の直径と等しいことを特徴とする請求項2に記載のチェーン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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