説明

チタニウムシリカ系触媒の再生方法

【課題】水熱合成反応を抑制して、必要なガス流通量を増やすことなく、活性が低下したチタニウムシリカ系触媒の活性を容易に再生できる方法を提供する。
【解決手段】活性が低下したチタニウムシリカ系触媒に対して、流通量が再生対象のチタニウムシリカ系触媒1kgに対して0.1〜50m3 /時の範囲であるガス流通下で、チタニウムシリカ系触媒を100〜200℃の温度範囲にて乾燥させる工程と、乾燥させたチタニウムシリカ系触媒を250〜500℃の温度範囲にて焼成する工程との2工程を実施することにより、チタニウムシリカ系触媒の活性を回復させて再生する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性が低下したチタニウムシリカ系触媒の活性を再生する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チタニウムシリカ系触媒は、アルコール・ケトン類、飽和炭化水素などの有機化合物に対する酸化反応、エポキシ化反応、ヒドロキシ化反応などの種々の反応に用いられている。例えば、特許文献1には、チタノシリケート触媒の存在下で、シクロヘキサノン、過酸化水素及びアンモニアを反応させることにより、シクロヘキサノンオキシムを製造することが記載されている。また、特許文献1では、シクロヘキサノンオキシム反応において、未使用のチタノシリケート触媒と使用済みのチタノシリケート触媒とを併用することが開示されている。
【0003】
このようなチタニウムシリカ系触媒にあっては、反応時間の経過につれて徐々に劣化していき、触媒としての活性が低下する。この触媒の活性低下は、タール状物質のコーキングまたは触媒活性点への被毒物質の蓄積に起因すると考えられる。
【0004】
このような触媒の活性劣化に伴う最終生成物の収率低下を防止するためには、触媒懸濁方式などの液相反応においては、活性が劣化した触媒を反応系から取り出すとともに、活性が高い触媒を新たに追加していく必要があり、一方固定床方式などの気相反応においては、活性が劣化した触媒を活性が高い触媒に入れ替える必要がある。しかしながら、反応系に対するこのような触媒の追加または入替えにおいて、反応系に新たに仕込む触媒として新品の触媒を使用することはコスト面で問題がある。そこで、一旦使用された触媒を再生して繰り返し使用を可能とする手段が不可欠であり、活性が低下した触媒は、ガス流通下での高温加熱処理による活性回復が試みられている。例えば、特特許文献2には、有機ハイドロパーオキサイドとオレフィンとを反応させてエポキシドを得るために使用したシリル化していないチタン含有酸化ケイ素触媒を、酸素を含むガス存在下で焼成することにより、活性を回復させた再生触媒を得る方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−307418号公報
【特許文献2】特開2008−62177号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
活性が低下した触媒の焼成について、低温での焼成では触媒活性の回復が十分でなく、高温焼成ではシンタリングなどにより熱的損傷を受けやすいことが知られており、ガス流通下、300〜900℃で焼成を行うことが一般的である。活性が低下した触媒の焼成にあっては、触媒に付着した揮発性有機物の発生に対する安全性を確保するために、水洗浄の前処理が行われる。また、触媒を用いた反応系で水が存在する場合には、焼成前の触媒には少なからず水が存在する。
【0007】
このように水が付着している触媒に対して、ガス流通下、300〜900℃で焼成処理を施した場合には、水と触媒成分との水熱合成反応が起こって、結果として触媒の活性構造が破壊され、活性の回復率が低下する。このような水熱合成反応は温度と水分分圧とが影響すると考えられ、300〜900℃での焼成処理においても、ガス流通量を増加して水分分圧を低下させることで、水熱合成反応による再生触媒の活性低下を抑制して回復率を高めることは可能である。しかしながら、ガス流通量のみで水熱合成反応を抑制しようとした場合は、膨大なガス流通量が必要となり、ガス流通量を増やすことはその流通ガスを昇温させるための電力及び燃料のコストが上昇するという問題がある。
【0008】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、再生対象のチタニウムシリカ系触媒に含まれる水分を蒸発させるための乾燥工程を焼成工程の前に設けることにより、水熱合成反応を抑制して、必要なガス流通量を増やすことなく、また、電力及び燃料のコストを上昇させることなく、活性が低下したチタニウムシリカ系触媒の活性を容易に再生できるチタニウムシリカ系触媒の再生方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るチタニウムシリカ系触媒の再生方法は、活性が低下したチタニウムシリカ系触媒の活性を再生する方法において、前記チタニウムシリカ系触媒を洗浄水で洗浄する工程と、洗浄したチタニウムシリカ系触媒を、該チタニウムシリカ系触媒1kgに対して流通量が0.1〜50m3 /時の範囲であるガス流通下で100〜200℃の温度範囲にて乾燥させる工程と、乾燥させたチタニウムシリカ系触媒を250〜500℃の温度範囲にて焼成する工程とを有することを特徴とする。
【0010】
本発明のチタニウムシリカ系触媒の再生方法にあっては、活性が低下したチタニウムシリカ系触媒を洗浄水で洗浄した後、そのチタニウムシリカ系触媒を所定量(チタニウムシリカ系触媒1kgに対して0.1〜50m3 /時)のガス流通下で100〜200℃の温度範囲にて乾燥させる乾燥工程と、乾燥させたチタニウムシリカ系触媒を250〜500℃の温度範囲にて焼成する焼成工程との2工程により、チタニウムシリカ系触媒を再生する。最初の乾燥工程では、低温環境にて、チタニウムシリカ系触媒に含まれる水分を蒸発させる。その後、焼成工程では、高温環境にて、チタニウムシリカ系触媒に付着したコーク及び触媒被毒物質をガス化させて除去する。
【0011】
本発明では、前段の乾燥工程においてチタニウムシリカ系触媒に含まれる水分を蒸発させているので、後段の焼成工程における水熱合成反応は抑制される。よって、少ない流通ガス量であっても効率良くチタニウムシリカ系触媒の活性は再生される。
【0012】
乾燥工程時に流通させるガスの量をチタニウムシリカ系触媒1kgに対して0.1〜50m3 /時としている理由は、0.1m3 /時未満では触媒から気化した水蒸気を置換して水熱合成を抑制する量としては十分ではなく、また50m3 /時を超えると触媒自体が飛散するからである。
【0013】
乾燥工程における温度範囲を100〜200℃に設定している理由は、100℃未満では水分蒸発の処理が高効率に進まず、200℃を超えると水熱合成反応が起こりやすくなるからである。また、焼成工程における温度範囲を250〜500℃に設定している理由は、250℃未満では焼成による効果(コーク及び触媒被毒物質のガス化)が得られにくく、500℃を超えると熱的損傷を受けやすくなるからである。
【0014】
本発明に係るチタニウムシリカ系触媒の再生方法は、前記ガスが少なくとも窒素または酸素を含むガスであることを特徴とする。
【0015】
本発明のチタニウムシリカ系触媒の再生方法にあっては、乾燥工程焼成工程とにおいて流通させるガスとして、少なくとも窒素または酸素を含むガスを使用する。よって、チタニウムシリカ系触媒が効率良く再生される。なお、乾燥工程と焼成工程とにおいて、同種のガスを使用しても良いし、異種のガスを使用しても良い。
【0016】
本発明に係るチタニウムシリカ系触媒の再生方法は、再生対象のチタニウムシリカ系触媒の水分率が0.1重量%以上であることを特徴とする。
【0017】
本発明のチタニウムシリカ系触媒の再生方法にあっては、水分率が0.1重量%以上であるチタニウムシリカ系触媒に対して再生処理を行う。水分率が0.1重量%以上であるチタニウムシリカ系触媒は、いきなり高温の焼成処理を行うと水熱合成反応が起こって、その活性構造が破壊される虞がある。そこで、このようなチタニウムシリカ系触媒に対しては、焼成処理より前に水分を除去する本発明のような乾燥処理が有効であり、水分率が0.1重量%以上であるチタニウムシリカ系触媒が本発明の適用対象である。一方、水分率が0.1重量%未満であるチタニウムシリカ系触媒は、含まれる水分が少ないため、水熱合成反応は起こりにくいので、本発明の適用対象外である。
【0018】
本発明に係るチタニウムシリカ系触媒の再生方法は、再生対象のチタニウムシリカ系触媒が液相反応で使用されたものであることを特徴とする。
【0019】
本発明のチタニウムシリカ系触媒の再生方法にあっては、触媒懸濁方式のような液相反応で使用されたチタニウムシリカ系触媒に対して再生処理を行う。液相反応で使用されたチタニウムシリカ系触媒は、再生処理の前に行う触媒の洗浄処理において、洗浄水を用いて触媒に付着した反応溶媒を取り除くことが一般的であり、再生対象のチタニウムシリカ系触媒は水分を多く含んでいる。このような水分を多く含んだチタニウムシリカ系触媒にいきなり高温の焼成処理を行うと水熱合成反応が起こって、その活性構造が破壊される虞がある。そこで、このようなチタニウムシリカ系触媒に対しては、焼成処理より前に水分を除去する本発明のような乾燥処理が有効である。
【発明の効果】
【0020】
本発明のチタニウムシリカ系触媒の再生方法では、活性が低下したチタニウムシリカ系触媒を洗浄水で洗浄した後、チタニウムシリカ系触媒1kgに対して0.1〜50m3 /時のガス流通下で100〜200℃の温度範囲にてそのチタニウムシリカ系触媒を乾燥させ、その後、250〜500℃の温度範囲にてそのチタニウムシリカ系触媒を焼成するようにしたので、水と触媒成分とによる水熱合成反応を抑制することができ、少ない流通ガス量であっても効率良くチタニウムシリカ系触媒を容易に再生することができる。この結果、流通ガスを昇温するための電力及び燃料が少なくてすみ、再生コストの低減化を図ることができる。
【0021】
また、本発明のチタニウムシリカ系触媒の再生方法では、少なくとも窒素または酸素を含むガスを流通させるようにしたので、チタニウムシリカ系触媒の活性を効率良く回復でき、高い回復率を実現することができる。
【0022】
また、本発明のチタニウムシリカ系触媒の再生方法では、水分率が0.1重量%以上であるチタニウムシリカ系触媒を再生対象としたので、水分の影響を解消できて、上記のような本発明の効果を顕著に呈することができる。
【0023】
また、本発明のチタニウムシリカ系触媒の再生方法では、液相反応で使用されたチタニウムシリカ系触媒を再生対象としたので、水分の影響を解消できて、上記のような本発明の効果を顕著に呈することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について説明する。本発明において対象となる触媒は、反応に寄与してその活性が低下したチタニウムシリカ系触媒であり、その触媒が寄与した反応の種類は何であっても良い。
【0025】
まず、活性が低下したチタニウムシリカ系触媒を、水及び/または洗浄水で洗浄して、触媒に付着しているコーク及び触媒被毒物質以外の成分を取り除く。洗浄後のチタニウムシリカ系触媒を、ハンドリング性を確保できる程度の含液率(60重量%以下程度)まで加熱せずに乾燥させる。
【0026】
その後、乾燥したチタニウムシリカ系触媒を加熱炉に仕込み、触媒の活性回復が十分となる空気及び/または酸素ガス流通下で、150℃にて15時間加熱して、チタニウムシリカ系触媒に含まれる水分を蒸発させる。この際、流通するガスの量は、チタニウムシリカ系触媒1kgに対して0.1〜50m3 /時とする。所定量のガス流通によって、蒸発した水蒸気の対流を起こして、水分の蒸発を促進させる。
【0027】
その後、空気及び/または酸素ガス流通下で、加熱炉の温度を17時間かけて450℃まで昇温して、チタニウムシリカ系触媒を焼成し、触媒上のコーク及び触媒被毒物質をガス化して除去する。この際、焼成時の加熱炉内での酸素濃度が18%以上を確保できるように、ガス流通量を制御する。
【0028】
以下、流通するガスの量を異ならせた実施例と比較例とにおけるチタニウムシリカ系触媒の再生評価の実験について説明する。以下の例は、シクロヘキサノンのオキシム化反応によって活性が低下したチタニウムシリカ系触媒を再生させた例である。
【0029】
(実施例)
活性が低下した36.3kgのチタニウムシリカ系触媒を、水洗した後、常温でろ過乾燥させた。常温乾燥後のチタニウムシリカ系触媒の水分率は、57.7%であった。常温乾燥後のチタニウムシリカ系触媒を、層高40mmにて電気炉に仕込んだ。
【0030】
その後、通気量100m3 /時として電気炉内に空気を導入し、1時間かけて150℃まで炉内温度を上昇させ、炉内温度を150℃に維持した状態でチタニウムシリカ系触媒を14時間保持した。その後、通気量100m3 /時として電気炉内に空気を導入したまま、17時間かけて450℃まで炉内温度を上昇させ、炉内温度を450℃に維持した状態でチタニウムシリカ系触媒を6時間保持した。この際の空気の通気量は、チタニウムシリカ系触媒1kgに対して2.8m3 /時(=100÷36.3)であった。
【0031】
再生後のチタニウムシリカ系触媒を電気炉から取り出し、取り出したチタニウムシリカ系触媒を用いて、シクロヘキサノンのオキシム化反応を実施した。500mlのガラス製容器に、この再生した1.5gのチタニウムシリカ系触媒、100gのシクロヘキサノン、1.9モル等量のアンモニア、2.0モル等量のターシャルブチルアルコール、1.5モル等量の過酸化水素水を入れて、95℃にてオキシム化反応を開始させたところ、147時間後にその反応が停止した。
【0032】
(比較例)
活性が低下した36.3kgのチタニウムシリカ系触媒を、水洗した後、常温でろ過乾燥させた。常温乾燥後のチタニウムシリカ系触媒の水分率は、56.6%であった。常温乾燥後のチタニウムシリカ系触媒を、層高40mmにて電気炉に仕込んだ。
【0033】
その後、通気量1.5m3 /時として電気炉内に空気を導入し、1時間かけて150℃まで炉内温度を上昇させ、炉内温度を150℃に維持した状態でチタニウムシリカ系触媒を14時間保持した。その後、通気量1.5m3 /時として電気炉内に空気を導入したまま、17時間かけて450℃まで炉内温度を上昇させ、炉内温度を450℃に維持した状態でチタニウムシリカ系触媒を6時間保持した。この際の空気の通気量は、チタニウムシリカ系触媒1kgに対して0.041m3 /時(=1.5÷36.3)であった。
【0034】
再生後のチタニウムシリカ系触媒を電気炉から取り出し、取り出したチタニウムシリカ系触媒を用いて、上記実施例と同一の条件にてシクロヘキサノンのオキシム化反応を実施した。オキシム化反応の開始後、102時間にてその反応が停止した。
【0035】
(対照例)
新品のチタニウムシリカ系触媒を用いて、上記実施例及び比較例と同一の条件にてシクロヘキサノンのオキシム化反応を行ったところ、反応開始後、223時間後にその反応が停止した。
【0036】
以上のことから、空気の通気量がチタニウムシリカ系触媒1kgに対して0.041m3 /時である比較例の再生方法にあっては、46%(=102÷223×100)の低い活性回復率しか得られていない。これに対して、空気の通気量がチタニウムシリカ系触媒1kgに対して2.8m3 /時である実施例の再生方法にあっては、66%(=147÷223×100)の高い活性回復率を実現できている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性が低下したチタニウムシリカ系触媒の活性を再生する方法において、
前記チタニウムシリカ系触媒を洗浄水で洗浄する工程と、
洗浄したチタニウムシリカ系触媒を、該チタニウムシリカ系触媒1kgに対して流通量が0.1〜50m3 /時の範囲であるガス流通下で100〜200℃の温度範囲にて乾燥させる工程と、
乾燥させたチタニウムシリカ系触媒を250〜500℃の温度範囲にて焼成する工程と を有することを特徴とするチタニウムシリカ系触媒の再生方法。
【請求項2】
前記ガスは、少なくとも窒素または酸素を含むガスであることを特徴とする請求項1記載のチタニウムシリカ系触媒の再生方法。
【請求項3】
再生対象のチタニウムシリカ系触媒の水分率が0.1重量%以上であることを特徴とする請求項1または2記載のチタニウムシリカ系触媒の再生方法。
【請求項4】
再生対象のチタニウムシリカ系触媒は、液相反応で使用されたものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のチタニウムシリカ系触媒の再生方法。

【公開番号】特開2010−201375(P2010−201375A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−50899(P2009−50899)
【出願日】平成21年3月4日(2009.3.4)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】