説明

チタン部材と鋼部材の接合方法

【課題】チタン部材と鋼部材とを接合し、接合強度が母材強度を上回る接合体を製造するに当たり、より効率良く製造することが可能な接合体の接合方法を提供する。
【解決手段】本発明の接合方法は、チタン部材31と鋼部材32とをろう付け接合する方法であって、チタン部材31に含まれるチタンと鋼部材32に含まれる炭素との結合を阻害する材料からなる芯材10の両面にろう材として機能する金属が固着したクラッドろう材1を用いてチタン部材31と鋼部材32とをろう付け接合することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタン部材と鋼部材とをろう付け接合することを特徴とする接合方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用エンジンのターボチャージャー(過給機)に使用されるインペラ(Ti‐Al合金などのチタン部材)と軸(低合金鋼などの鋼部材)の接合には強力な接合力が得られるNi基アモルファスろう材を用いたろう付け接合が行われている。しかし、この方法によるときは、鋼部材中のCおよびチタン部材中のTiがそれぞれ接合層内へ拡散し、両者が接合層内で反応する。この結果、接合部に脆い炭化物TiCが形成される。
一方、ガソリン車は燃費向上のため排気ガス温度上昇の傾向にあり、ターボチャージャーの使用温度が高くなりつつある。このような使用環境下では、Ti、Cの拡散および反応が促進され、使用中に接合部のTiC層が成長し、接合部強度が低下する。
【0003】
このような問題に対して、特許文献1では、チタン部材と鋼部材との間に、フェライト系ステンレス鋼からなる中間材を挟み、チタン部材と中間材との間及び中間材と鋼部材との間に、Niロウを介在させて接合してなる接合体の技術が提案されている。これにより、チタン部材と鋼部材との間に挟んだフェライト系ステンレス鋼の中間材がバリアーとなって、接合時に鋼部材中のC成分が拡散してTi成分と出会い、反応して炭化物TiCを形成することが防止される。
【特許文献1】特開2006−297474号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1では、チタン部材と鋼部材との間フェライト系ステンレス鋼からなる中間材のシートを挟み、チタン部材と中間材との間、および中間材と鋼部材との間に、それぞれNiロウの箔を挟み、接合部を、真空中または不活性ガス雰囲気内において、所定の温度及び圧力の条件で加熱、保持することにより製造している。ここで、チタン部材と鋼部材との間には、フェライト系ステンレス鋼の中間材のシート一枚と、チタン部材と中間材との間、および中間材と鋼部材との間に挟まれるNiロウの箔が二枚と、計三枚の構造からなっている。その結果、チタン部材と鋼部材とを接合する際の芯合わせが困難になるとともに製造工程が煩雑になるので、接合体を製造するに当たり効率良く製造することができない場合がある。
【0005】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、チタン部材と鋼部材とを接合し、接合強度が母材強度を上回る接合体を製造するに当たり、より効率良く製造することが可能な接合体の接合方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、本発明の接合方法は、チタン部材と鋼部材とをろう付け接合する方法であって、前記チタン部材に含まれるチタンと前記鋼部材に含まれる炭素との結合を阻害する材料からなる芯材の両面にろう材として機能する金属が固着したクラッドろう材を用いて前記チタン部材と前記鋼部材とをろう付け接合することを特徴とする。
この接合方法によれば、チタン部材と鋼部材とを結合する場合、チタン部材とクラッドろう材と鋼部材とを位置合わせした後、加熱加圧処理により、チタン部材と鋼部材とが、クラッドろう材を介して接合される。位置合わせは、3つの部材(チタン部材、クラッドろう材、鋼部材)のみであり、従来の中間材と2枚のNiロウ箔とを用いる場合に比べて容易となる。
【0007】
本発明においては、前記金属は、Ni基ろう材であることが望ましい。また、本発明においては、前記チタン部材は、Ti-Al合金からなることが望ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、チタン部材と鋼部材とをろう付け接合する方法であって、前記チタン部材に含まれるチタンと前記鋼部材に含まれる炭素との結合を阻害する材料からなる芯材の両面にろう材として機能する金属が固着したクラッドろう材を用いて前記チタン部材と前記鋼部材とをろう付け接合する接合方法を採用することによって、チタン部材と鋼部材との間に別途ろう材を配置する必要がない。すなわち、チタン部材と鋼部材とを接合する際の芯合わせが容易になり、製品の製造効率を向上させた接合体とすることができる。また、この接合方法によれば、芯材がチタン部材と鋼部材とを隔離して拡散防止用のバリアー材としての働きをするため、チタン部材中のTi成分と鋼部材中のC成分とが反応して脆い炭化物TiCが形成されることがなくなる。その結果、チタン部材と鋼部材との接合強度の低下を防ぐことができる。
したがって、本発明では、チタン部材と鋼部材とを接合し、接合強度が母材強度を上回る接合体を製造するに当たり、より効率良く製造することができる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。かかる実施の形態は、本発明の一態様を示すものであり、この発明を限定するものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で任意に変更可能である。また、以下の図面においては、各構成をわかりやすくするために、実際の構造と各構造における縮尺や数等が異なっている。
【0010】
図1は、本発明の接合方法による、接合体の一例として、車両用エンジンの過給機に使用されるインペラ(チタン部材)31と軸(鋼部材)32との接合体30を模式的に示した断面図である。接合体30は、チタン部材31と、3層構造のクラッドろう材1と、鋼部材32とから構成されている。
【0011】
チタン部材31の材料としては軽くて高温強度に優れたTi‐Al合金が好適である。鋼部材32の材料としては、比強度及び靭性に優れた低合金鋼が好適である。低合金鋼は、炭素鋼に炭素以外の金属材料を少量(8%以下)添加した鋼部材であり、「強靭鋼」「高張力鋼」とも呼ばれ、その主なものとして、「クロムモリブデン鋼」「ニッケル・クロムモリブデン鋼」がある。
【0012】
図2は本発明のクラッドろう材1の構成の一例を模式的に示している。クラッドろう材1は、金属からなる板状の芯材10と、芯材10の両面に形成されるろう材組成を有するクラッド層11とから構成されている。後述するが、クラッドろう材1は、芯材10の表面にろう材として機能する金属を圧着後、ろう材の融点近傍の温度に加熱して、ろう材が溶融あるいは焼結して層となり、芯材10の表面に固着されることによって形成される。
【0013】
芯材10の材料としては、ろう材の融点よりも高い融点を持つ金属を用いることが望ましい。本実施形態では、低炭素ステンレス鋼のSUS316Lを形成材料とする。SUS316Lはオーステナイト系ステンレス鋼であり、フェライト系ステンレス鋼よりも高温強度、加工性、靭性、疲労強度に優れている。また、SUS316Lは、クロムニッケル系ステンレス鋼であり、主成分は、重量で、C:0.03%以下、Si:1%以下、Mn:2%以下、P:0.045%以下、S:0.03%以下、Ni:12%〜15%、Cr:16%〜18%、Mo:2%〜3%となっている。また、芯材10の厚さは、チタン部材31と鋼部材32とを隔離して拡散防止用のバリアー材としての機能を果たすことのできる厚さで良く、本実施形態では0.3mm(図2の10t)としている。
【0014】
クラッド層11のろう材組成の材料としては、チタン部材31と鋼部材32に対して良い濡れ性を有するものを用いることが望ましい。本実施形態では、Niベースのろう材であるBNi‐3を形成材料とする。クラッド層11の厚さは、チタン部材31と鋼部材32の拡散接合を促す機能を果たすことのできる厚さで良く、本実施形態では芯材10の両面に形成されるクラッド層11の両方とも0.04mm(図2の11t)としている。
【0015】
図3は、本発明のクラッドろう材1の製造装置D1の概略構成図である。製造装置D1は、ホッパ21と、ベルトフィーダ22と、圧延ローラ23と、プーリ24と、加熱炉25と、回収ローラ26とを備えている。
【0016】
ホッパ21は、クラッド層11の形成材料である粉末(Niろう材を含む原料粉末)11Aを収容するとともに、粉末11Aをベルトフィーダ22に供給するように構成されている。
【0017】
ベルトフィーダ22は、粉末11Aを搬送し、圧延ローラ23上から下方に粉末11Aを落下させることによって、圧延ローラ23の周面(後述する圧延ローラ23Aの周面)に粉末11Aを供給する構成となっている。
【0018】
圧延ローラ23は、一対の圧延ローラ23Aと圧延ローラ23Bとによって構成されている。圧延ローラ23Aがベルトフィーダ22の下方に配置されている。圧延ローラ23は、不図示の回転駆動機構により回転駆動されることによって、ベルトフィーダ22を介して供給される粉末11Aと上方から挿通される板状のシート材10Aとを圧延ローラ23Aと圧延ローラ23Bとの間によって圧延する構成となっている。そして、圧延ローラ23は、圧延ローラ23A、23B間においてシート材10A及び粉末11Aを圧着し、これによってシート材10Aの一方側の面に、粉末11Aからなる粉末層を形成する。
【0019】
プーリ24は、圧延ローラ23の下方に配置されており、圧延ローラ23によって粉末11Aが一方側の面に圧着されたシート材10Aを水平方向にガイドするように構成されている。
【0020】
加熱炉25は、一方側の面に配置された粉末11Aをシート材10Aごと、粉末11Aの融点近傍まで加熱することによって粉末11Aを溶融あるいは焼結させるものである。これによって、シート材10Aの一方側の面における粉末層が溶融あるいは焼結し、その後冷却されることによって、ろう材組成を有するクラッド層11とされる。
【0021】
回収ローラ26は、加熱炉25から排出されたシート材10A、すなわちクラッドシートを巻き取ることによって回収するものである。
【0022】
このようにして構成された製造装置D1の動作について説明する。まず、製造装置D1はホッパ21に収容された粉末11Aをベルトフィーダ22によって圧延ローラ23Aの周面に供給する。
【0023】
次いで、圧延ローラ23Aの周面に供給された粉末11Aは、圧延ローラ23Aの回転駆動によって、圧延ローラ23A、23Bの間に供給され、圧延ローラ23A、23Bの間に上方から下方へ挿通されて搬送される板状のシート材10Aの一方側の面に圧着されて配置される。
【0024】
次いで、粉末11Aが圧着されたシート材10Aは、圧延ローラ23A、23Bの下方に位置する加熱炉25にプーリ24を介して挿入され、粉末11Aの融点近傍の温度まで加熱される。この結果、粉末11Aからなる粉末層が溶融あるいは焼結して層となり、シート材10Aの表面にしっかりと固着されることによって、ろう材組成を有するクラッド層11となる。
【0025】
そして、クラッド層11が形成されたシート材10A、すなわちクラッドシートが回収ローラ26によって巻き取られることによって回収される。
【0026】
以上の工程により、シート材10Aの一方側の面にクラッド層11が形成されたクラッドシートが製造される。さらに、同様の工程をシート材10Aの他方の面に施した後、チタン部材31と鋼部材32とを接合する接合部の形状に合わせて裁断する工程を経ることにより、図1に示すような、芯材10の両面にクラッド層11が形成されたクラッドろう材1が製造される。
【0027】
図4(a)は、従来技術の接合方法による、チタン部材31と鋼部材32の接合直前の各部材の配置を示した概略図である。従来技術の接合方法は、チタン部材31と鋼部材32との間に、フェライト系ステンレス鋼からなる中間材13のシートを挟み、チタン部材31と中間材13の間、および中間材13と鋼部材32との間に、それぞれNiロウ14の箔を挟む工程を経ていた。そして、接合部を、真空中または不活性ガス雰囲気中において、温度がNiロウ14の融点を超えて1150℃以下である温度に加熱して、1.5〜7.0MPaの圧力を加え、その条件に10〜180秒間保つことから接合していた。
【0028】
図4(b)は、本実施形態の接合方法による、チタン部材31と鋼部材32の接合直前の各部材の配置を示した概略図である。本実施形態の接合方法は、チタン部材31と鋼部材32との間に、芯材10の両面にろう材組成を有するクラッド層11が形成されたクラッドろう材1を挟む工程を経る。そして、前述の従来技術の接合条件(雰囲気、温度、圧力、保持時間)にて接合される。
【0029】
図5は、チタン部材31と鋼部材32の接合において、Ni基アモルファスろう材12のみを使用した場合の接合部(接合体)30Aを模式的に示した断面図である。接合体30Aは、Ni基アモルファスろう材12の一方の面にチタン部材31を有し、他方の面に鋼部材32を有して構成されている。
【0030】
接合体30Aの接合は、Ni基アモルファスろう材12を挟んだ両方の部材の成分が相互に拡散して反応することが避けられない。チタン部材31中のTi成分と、鋼部材32中のC成分とが拡散して反応すると、脆い炭化物TiC40Aが形成される。そして、使用中に反応が促進していくとNi基アモルファスろう材12の中に、炭化物TiC40Aの層(炭化物層)40が形成される。これにより、接合強度が接合当初と比較して低下する場合がある。
【0031】
図6は、チタン部材31と鋼部材32の接合において、芯材10の両面にクラッド層11が形成された三層構造からなるクラッドろう材1を使用した場合の接合部(接合体)30Bを模式的に示した断面図である。接合体30Bは、クラッドろう材1の一方の面にチタン部材31を有し、他方の面に鋼部材32を有して構成されている。
【0032】
接合体30Bの接合は、前述の接合体30Aと同様に拡散接合により行われる。前述の接合体30Aの接合は、Ni基アモルファスろう材12のみを用いているのに対して、接合体30Bの接合は三層構造からなるクラッドろう材1を用いている。この三層構造によれば、クラッドろう材1中の芯材10がチタン部材31と鋼部材32とを隔離して拡散防止用のバリアー材としての働きをする。その結果、チタン部材31中のTi成分と鋼部材32中のC成分とが反応して接合部に脆い炭化物TiC40Aの形成されること、さらには炭化物層40が形成されることを防ぐことができる。これにより、チタン部材31と鋼部材32とを接合するに当たり、接合強度が使用中に低下することのない、信頼性の高い製品が提供できる。
【0033】
なお、本実施形態では、チタン部材31と鋼部材32との間は、予めろう材組成を有する三層構造のクラッドろう材1からなっているので、別途ろう材を配置する必要がない。また、フェライト系ステンレス鋼の中間材のシート一枚とNiロウの箔が二枚とからなる計三枚の構造に比べて、三層構造のクラッドろう材1は一枚のみからなるため、チタン部材31と鋼部材32とを接合する際の芯合わせが容易になる。したがって、製造工程が簡素化するので、接合体を製造するに当たり効率良く製造することが可能となる。
【0034】
また、本実施形態では、基材10がチタン部材31と鋼部材32とを隔離して拡散防止用のバリアー材としての働きをするため、チタン部材31中のTi成分と鋼部材32中のC成分とが反応して脆い炭化物TiC40Aが形成されることがなくなる。その結果、チタン部材31と鋼部材32との接合強度の低下を防ぐことができる。
【0035】
また、本実施形態では、ろう材として機能する金属11Aの材料は、Ni基ろう材を使用しているので、より信頼性の高い接合体30を得ることできる。より具体的には、この構成によれば、耐熱性、耐食性に優れ、鉄系母材に濡れ性が良いので、チタン部材31と鋼部材32を良好に接合することができる。
【0036】
また、本実施形態では、チタン部材31の材料はTi‐Al合金を使用しているので、より信頼性の高い接合体30を得ることできる。より具体的には、この構成によれば、チタンとアルミニウムの金属間化合物(チタンアルミナイド)からなり、高温において、アルミニウムの酸化物が表面に緻密な保護性被膜を形成するので、優れた耐酸化性を得ることができる。また、従来より耐熱構造材料として使用されているニッケル基超合金に比べて軽量なので、製品の軽量化を図ることができる。
【0037】
以上、車両用エンジンのターボチャージャー(過給機)に使用されるインペラ(Ti‐Al合金などのチタン部材)31と軸(低合金鋼などの鋼部材)32の接合方法に関して説明してきたが、本発明は、エンジンバルブのヘッドとステムの接合方法にも適用できるだけでなく、チタン部材と鋼部材との拡散接合に関して、本発明は広い用途をもつ。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明のクラッドろう材を使用した接合体の断面図である。
【図2】本発明のクラッドろう材の模式図である。
【図3】本発明のクラッドろう材の製造装置の概略図である。
【図4】接合体の接合方法の概略図である。
【図5】Ni基アモルファスろう材のみを使用した接合部の断面図である。
【図6】本発明のクラッドろう材を使用した接合部の断面図である。
【符号の説明】
【0039】
1…クラッドろう材、10…芯材、11…クラッド層、11A…粉末(ろう材として機能する金属)、31…チタン部材、32…鋼部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン部材と鋼部材とをろう付け接合する方法であって、
前記チタン部材に含まれるチタンと前記鋼部材に含まれる炭素との結合を阻害する材料からなる芯材の両面にろう材として機能する金属が固着したクラッドろう材を用いて前記チタン部材と前記鋼部材とをろう付け接合することを特徴とする接合方法。
【請求項2】
前記金属は、Ni基ろう材であることを特徴とする請求項1に記載の接合方法。
【請求項3】
前記チタン部材は、Ti-Al合金からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の接合方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−5643(P2010−5643A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−165725(P2008−165725)
【出願日】平成20年6月25日(2008.6.25)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)