説明

チタン酸化皮膜の形成方法

【課題】硝酸等の強酸化剤を使用することなく、均一で緻密な酸化皮膜を形成できる方法及び均一で緻密な酸化皮膜を有する設備を提供する。
【解決手段】少なくとも表層がチタン材からなる被処理設備に、酸素を溶存する水を、100℃〜250℃の温度で接触させるチタン酸化皮膜の形成方法。及び、少なくとも表層がチタン材からなる設備であって、上記記載のチタン酸化皮膜の形成方法により、チタン酸化皮膜が形成された設備。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタン酸化皮膜の形成方法に関する。さらに詳しくは、チタン材からなる反応容器等の設備を酸素を含有する水により処理することによって、設備の表層に酸化皮膜を形成する方法、及びこの方法にて酸化皮膜が形成された設備に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、2−ブタノールの直接水和法を採用した化学プラントのように、高温高圧かつ強酸性領域で生じる反応を利用する場合、反応容器等の設備には高耐久性、耐酸性であるものを使用する必要がある。このような設備には金属チタンが用いられる場合が多いものの、チタンは水素を吸収して水素脆化を起こすことが知られている。そのため、設備にはチタンの表面に酸化皮膜を形成したものが使用されている。
【0003】
酸化皮膜を形成するためには、例えば、チタンを高温で加熱する方法、塩酸や硝酸で処理する方法又は過酸化水素水で処理する方法がある(例えば、特許文献1、2参照。)。
しかしながら、チタンを高温で加熱する方法では、被処理対象である設備をバーナー等により600℃程度まで加熱する必要があるため、設備の熱収縮等が問題となり採用は困難である。
また、塩酸や硝酸で処理する方法や過酸化水素水で処理する方法では、処理に使用した酸の後処理が必要であったり、処理後に設備を洗浄する必要があるため、取り扱いが面倒であるという問題があった。さらに、得られる酸化皮膜の厚さや均一性を制御することが困難であった。
【特許文献1】特公昭58−2274号公報
【特許文献2】特開昭63−223187号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上述の問題に鑑みなされたものであり、硝酸等の強酸化剤を使用することなく、膜厚及び質が均一な酸化皮膜を形成できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、チタン材からなる設備を、酸素を溶存させた水を使用して、高温下で処理することによって、チタン表層に均一な酸化皮膜を形成できることを見出し、本発明を完成させた。
本発明によれば、以下のチタン酸化皮膜の形成方法及び設備が提供できる。
1.少なくとも表層がチタン材からなる被処理設備に、酸素を溶存する水を、100℃〜250℃の温度で接触させることを特徴とするチタン酸化皮膜の形成方法。
2.前記水が飽和酸素水である1記載のチタン酸化皮膜の形成方法。
3.少なくとも表層がチタン材からなる設備であって、1又は2に記載のチタン酸化皮膜の形成方法により、チタン酸化皮膜が形成された設備。
4.前記チタン酸化皮膜の厚さが200Å〜1000Åである3記載の設備。
5.前記設備が、ヘテロポリ酸水溶液を触媒として用い、n−ブテンを直接水和する第2級ブタノールの製造で使用される設備である3又は4記載の設備。
【発明の効果】
【0006】
本発明のチタン酸化皮膜の形成方法では、従来のように硝酸等の強酸化剤を使用しないため、廃液の処理が不要であり、また、処理後の洗浄も不要となる。
また、得られるチタン酸化皮膜の膜厚及び質が均一であるため、皮膜を比較的薄く形成した場合でも水素脆化を効率的に防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明のチタン酸化皮膜の形成方法は、チタン材からなる被処理設備に、酸素を溶存する水を、100℃〜250℃の温度で接触させることを特徴とする。
少なくとも表層がチタン材からなる被処理設備としては、金属チタン単体、および金属チタン合金又は炭素鋼やステンレス鋼等からなる設備の表層に金属チタンまたは金属チタン合金を内張り(爆着クラッド、ライニング)したものからなる、反応槽(塔)、輸送管の配管、タンク等の貯蔵設備等、化学プラントを形成する各設備が挙げられる。
【0008】
本発明で使用する酸素を溶存する水としては、設備や反応に悪影響を与えるイオン等の異物を除去したものであって、酸素を溶存している水が使用できる。具体的には、脱イオン処理後、脱気処理をしない水、純水を大気開放して空気中の酸素を吸収した水、純水に空気や酸素をバブリングすることにより酸素を溶存させた水等が使用できる。
尚、脱イオン処理等はイオン交換樹脂を使用する等、公知の方法が使用できる。
【0009】
水に溶存する酸素量は元々少ないため、本発明においては、5〜30℃、大気圧下の状態における飽和酸素水を使用することが好ましい。
本発明では、酸素を溶存する水を使用し、従来のように硝酸等の強酸化剤を使用しない。このため、皮膜形成処理後の洗浄工程が省略できる場合があり、また、酸廃液の処理が不要となる。
【0010】
チタン材からなる被処理設備に、酸素を溶存する水を、100℃〜250℃の温度で接触させる。具体的には、化学プラントにおいて、被処理設備を加熱して100℃〜250℃の温度に維持し、その中に酸素を溶存する水を投入、循環させればよい。尚、処理時の温度が250℃を超えると、形成される酸化皮膜の膜厚が厚くなり、剥離しやすくなるため、好ましくない。一方、100℃未満では、酸化皮膜の厚みが薄くなり、防食効果が期待できないため、好ましくない。処理時の温度は150℃〜250℃が特に好ましい。
【0011】
このように、高温下で酸素を溶存する水を設備に接触させることによって、溶存酸素がチタンの表層を酸化するので酸化皮膜が形成される。
処理時間は、形成したい酸化皮膜の膜厚に合わせて適宜調整すればよいが、例えば、飽和酸素水を用いて酸化皮膜の膜厚を200Å〜1000Åにするためには、3日〜10日程度でよい。
【0012】
本発明の形成方法では、被処理設備に、膜厚及び質が均一な酸化皮膜を形成することができる。このため、硝酸等を使用した方法で形成した酸化皮膜と比べて膜厚が薄くても、十分な防食性を発揮する。酸化皮膜が厚くなりすぎると皮膜自体が脆くなり問題となるが、本発明の形成方法では、酸化皮膜の膜厚を200Å〜1000Åと薄くしても信頼性が高い。尚、酸化皮膜の膜厚はエリプソメトリーなどにより測定できる。
【0013】
本発明の設備は、上述したように優れた防食性を有するチタン酸化皮膜が形成されている。そのため、高温及び高圧下であって、さらに、強酸性領域において起こる反応を使用する化学プラントにおいても好適である。例えば、ヘテロポリ酸水溶液を触媒として用い、n−ブテンを直接水和する第2級ブタノール(2−ブタノール)の製造で使用される設備(反応塔等)に好適に使用できる。
【0014】
n−ブテンを直接水和する製造方法では、n−ブテン(n−ブテン−1又はn−ブテン−2、あるいはこれらの混合物)を原料としてpHが2.3以下のヘテロポリ酸水溶液と接触させてn−ブテンの水和反応を進行させる。
ヘテロポリ酸としては、ケイタングステン酸、リンタングステン酸、ケイモリブデン酸、リンモリブデン酸等を使用する。
ヘテロポリ酸水溶液の濃度は、使用するヘテロポリ酸の種類等により適宜調整する必要があるが、通常、0.001モル/リットル〜0.2モル/リットルである。
【0015】
この製造方法において、反応温度は140℃〜300℃とし、反応圧力は6MPa以上とすることが好ましい。このため、高温高圧下、かつ強酸性雰囲気での反応となることから、設備の腐食対策が必要となるので、上述した本発明の設備が好適に使用できる。
尚、n−ブテンを直接水和する製造方法の詳細については、例えば、特開昭60−149536号公報や特開平4−356434号公報を参照できる。
【実施例】
【0016】
以下、本発明を実施例によってさらに具体的に説明する。
実施例1
空気バブリングを行い、酸素を飽和させた純水1リットルと50mm×30mm×5mm(厚さ)のチタン試験片をオートクレーブ(テフロン(登録商標)内張り)に入れ、密閉して220℃に昇温し、試験片を表1に示す時間浸漬した。
その後、オートクレーブから試験片を取り出し、酸化皮膜厚さをエリプソメトリーで測定した。測定結果を表1に示す。
【0017】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明のチタン酸化皮膜の形成方法は、防食性が要求される設備に酸化皮膜を形成する方法として好適に利用できる。
また、本発明のチタン酸化皮膜を形成した設備は、厳しい条件で進行する化学反応を利用する化学プラント用の設備として好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも表層がチタン材からなる被処理設備に、酸素を溶存する水を、100℃〜250℃の温度で接触させることを特徴とするチタン酸化皮膜の形成方法。
【請求項2】
前記水が飽和酸素水である請求項1記載のチタン酸化皮膜の形成方法。
【請求項3】
少なくとも表層がチタン材からなる設備であって、
請求項1又は2に記載のチタン酸化皮膜の形成方法により、チタン酸化皮膜が形成された設備。
【請求項4】
前記チタン酸化皮膜の厚さが200Å〜1000Åである請求項3記載の設備。
【請求項5】
前記設備が、ヘテロポリ酸水溶液を触媒として用い、n−ブテンを直接水和する第2級ブタノールの製造で使用される設備である請求項3又は4記載の設備。



【公開番号】特開2007−231385(P2007−231385A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−55940(P2006−55940)
【出願日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】