チューブとボンディング剤との結合状態の評価方法及びチューブ内に設置された坑内機器
【課題】掘削井内のケーシングを固定している結合状態を分析するための方法および装置の提供。
【解決手段】チューブとボンディング剤との間の結合状態を評価するのに役立つ坑内機器40を示している。図8においてチューブは地下層38を貫通している掘削井32に設置された坑内ケーシング36である。ボンディング剤はセメント44から成っており、それは地層38内の層を分離するため及び掘削井32にケーシング36を固定するためのものである。坑内機器40は掘削井32内に索条34で吊り下げられ、この索条34は地表滑車35で任意に支持されている。この索条34は坑内機器40を掘削井32内に下ろしたり支持したり坑外に上げたりする手段になるだけでなく機器40と地表45の間の通信回線にもなる。情報処理システム(IHS)47は索条34を介して坑内機器40に連結されている。
【解決手段】チューブとボンディング剤との間の結合状態を評価するのに役立つ坑内機器40を示している。図8においてチューブは地下層38を貫通している掘削井32に設置された坑内ケーシング36である。ボンディング剤はセメント44から成っており、それは地層38内の層を分離するため及び掘削井32にケーシング36を固定するためのものである。坑内機器40は掘削井32内に索条34で吊り下げられ、この索条34は地表滑車35で任意に支持されている。この索条34は坑内機器40を掘削井32内に下ろしたり支持したり坑外に上げたりする手段になるだけでなく機器40と地表45の間の通信回線にもなる。情報処理システム(IHS)47は索条34を介して坑内機器40に連結されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は掘削井ケーシングを評価する分野に関する。更に詳細には、掘削井内のケーシングを固定している結合状態を分析するための方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化水素を生産する坑井は、一般的にケーシング8のようなチューブからなり、坑井5内にセットされる。一般に、ケーシング8の外径と坑井5の内径との間に形成される環状空間帯の中にセメント9を加えることによってケーシング8は坑井に固定される。セメントボンドはケーシング8を坑井5内に固定するだけでなく、地層18内で隣接する層(Z1とZ2)を相互に分離する役目も果たす。層のうちの1つが油またはガスを含んでおり、他の層が水などの非炭化水素流体を含有している場合には、隣接する層を分離することが重要になることがある。ケーシング8を取り囲むセメント9に欠陥があり隣接する層からの分離がなされていないと、水や他の望ましくない流体が炭化水素を生産する層に入り込んできて、生産層内の炭化水素を希釈または汚染する可能性がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
セメントボンドに欠陥があるかどうかを検知するために、坑井5にケーシング8を固定するセメント9の状態を分析するための坑内機器14が開発されている。これらの坑内機器14は、滑車12に結合された索条10で坑井5内に吊り下げられる。そして通常、
その外表面に変換器16が設置され、その変換器はボーリング内の流体物により音響的結合を形成する。通常、ケーシング8の表面に沿って音波が進み又は伝播するとき、これらの変換器16はケーシング8に音波を発し、音波の振幅を記録することができる。音波の減衰を分析することによって、セメントボンドの有効性や完全性といった特性を評価することができる。
【0004】
このような音響変換器の一つに圧電性結晶を有する圧電素子がある。これは電気的エネルギーを機械的振動又は機械的発振に変換する。圧電素子によって生じた振動はケーシング8に送られ、順にケーシング8に音波を形成する。チューブから周波数応答を誘導するために、この音波はチューブ部材にエネルギーを与え受信変換器によってモニターされる。測定した周波数応答は収集されリアルタイムで分析されるか又は後で分析するためにデータとして蓄えられる。このデータはアナログ形式でもデジタル形式でも可能である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
チューブとボンディング剤との間の結合状態について評価する方法をここに開示する。この方法はチューブにおける半径方向の共振モードを測定し、この測定値を基準チューブと比較することを含む。比較することにより水がチューブに隣接しているかどうかだけでなく結合状態に関する情報が得られる。
【0006】
本方法を実現するために設けられた坑内機器についてもここに開示する。坑内機器はチューブ内に設置したままにすることができ、送信器と受信器とを有して構成される。受信器はチューブ内に生じた半径方向の共振周波数応答を受信するように設定されている。受信した応答は基準チューブの応答と比較される。この坑内機器は比較するためのアナライザーを含むことができる。
【0007】
また、詰まったチューブを評価する方法もここに開示する。この評価方法はチューブ内に誘導された周波数応答を測定し、基準チューブのものと測定した周波数応答と比較し、この比較に基づいてこのチューブがどこに詰まっているか評価することを含む。
【0008】
チューブ内の周波数応答は音の信号によって生じ、多数の因子に依存している。例えば、チューブの直径やチューブの周りにセメントが存在することやチューブの外側にセメントの代わりに流体物が存在することである。従来、流体物やセメントが存在するかどうかを評価する方法として、時間とともに音波や振動の振幅が減衰することを利用する方法が知られていたが、この評価では音の信号によって生じた周波数応答の記録を利用していなかった。チューブの外表面に水を有する例のような適切に固着していないチューブだけでなく適切に固着したチューブをシミュレートするような試験台が発展可能である。比較する目的のために試験台データに対応する周波数応答を得ることができる。しかし、このような試験台は状況により、特に何年も存在しているケースドホールを扱うようなときに、実用的でないことが多い。
【0009】
ここで議論するためにチューブとしては特に坑内ケーシング、坑内チュービング、ドリルストリング又は実質的に円柱状の部材が挙げられる。また、この開示に関して、適切に固着していない部分があるかどうかにかかわりなく、固定チューブとは定位置にセメントで固定されたチューブのセグメントのことをいう。さらに、未固定チューブとはセメントによって固定されていないチューブの一部のことをいう。一般に、未固定チューブは自由空間にあり空気にのみ囲まれている。一方、“フリーパイプ”は水のような流体物によって囲まれたチューブの固定されていない部分のことをいう。
【0010】
ここに開示された本方法の実施例によると、チューブ内に共振応答が生じ、その後に測定される。チューブを振動源で刺激し、その結果、チューブに沿って誘導された振動を測定することによってチューブの共振応答が測定される。振幅と周波数とをプロットした測定データを検討し、測定した応答において“急な山形”になっているところを特定することでグラフを使ってこれを実行できる。さらに、チューブの周りや外表面に接触している物質が変化すると、チューブにおける半径方向の共振応答の大きさは変わる。したがって、本方法によりチューブの周りの物質の変化に起因する共振値変化を評価することができ、そして共振値変化に基づいてチューブに接触している物質や周りにある物質を特定することができる。
【0011】
細長いチューブと直径及び壁の厚みが大体同じであるとき、同じ物質からなる(リングのような)チューブ部分の共振応答モードと細長いチューブの共振応答モードとはほとんど同じである。このようにこのリングの共振モードを知ることにより、細長いチューブに対応させて共振曲げモードを概算できる。チューブ部分の未固定共振モードについては実験的に測定もできるし、計算することもできることに注目すべきである。
【0012】
リング状ボディーの共振周波数は次の関係式でモデル化される。
(ωn)2−(Κn)(ωn)2+Qn=0 ・・・(1)
パラメータΚnとQnとは次のように定義される。
Κn={(n2+1)/[(a2)(ρ)(h)]}{(n2)(D/a2)(E)(h)} ・・・(2)
Qn=[n2(n2−1)(DEh)]/[a2(ρh)2] ・・・(3)
ここで、nはモードの次数、aはリングの半径、hは厚さ、ρ,E,Dは密度、ヤング係数、曲げ剛性を示し、曲げ剛性はD=Eh2(12(1−ν2))で定義され、ここでνはポアソン比である。式1,2,3を組み合わせると、次の式で固有(共振)周波数が表せる。
ωfn=[(Κn/2)(1−(1−4Qn/Κn2)1/2)1/2 ・・・(4)
ωfb=[(Κn/2)(1+(1−4Qn/Κn2)1/2)1/2 ・・・(5)
式4は曲げ又はベンディングモードに関し、式5は“ブリーシング”モードに関する。
【0013】
曲げモードで共振しているリングは図2aに、ブリーシングモードは図2bに例示されている。―このようにここで説明する共振モードには曲げモードもブリーシングモードも含まれている。周波数の関係式をさらに簡略化すると、共振周波数は物質のヤング係数を密度で割ったものの平方根に大体比例することがわかる。この簡略化した関係式を式6と7に示した。
ωfn=((E/ρ)1/2)Gfn ・・・(6)
ωfb=((E/ρ)1/2)Gfb ・・・(7)
ここでGfnとGbnは幾何学的因子であり、次の関係となる。
ここで、AとBは次のようにリングの半径とリングの厚さhとモード次数nとポアソン比νに依存する。
このように、リングや断面積がリング状である物体の共振周波数は、その物体に接触し、又はその周りにある物質の剛性やマスに関係して変化する。チューブは断面積がリング状であるので、この現象をチューブに適用できる。
【0014】
共振周波数と物質の剛性及びマスとの間の関係をケーシングボンドがある状況に当てはめてみると、掘削井内のチューブの共振周波数は、結合状態の有効性やセメント特性に起因して変化することが推測される(鋼特性は知られている)。通常、ケーシングのようなチューブが掘削井内に固定されるとき、チューブの外表面はセメントに囲まれるか(したがってほとんどの壁は固定されている)又は水のような流体物によって囲まれている(通常壁は固着していない)。チューブの外表面とセメントとの間にも微小環が存在することがある。
【発明の効果】
【0015】
水や大部分のケーシングボンドのような掘削井流体の物理的特性に基づくと、上記の関係によりケーシングボンド(たとえばセメント)により固定されたチューブセグメントの共振周波数は、液体の存在により固定されていない未固定チューブの共振周波数より大きいことがわかる。同様に未固定チューブの共振周波数は、液体(たとえば水)に囲まれたチューブセグメントの共振周波数より大きい。ここに説明した本方法を次のように限定しない例で実施することでこの推測を検証した。
【0016】
チューブの周波数応答を物理的に測定することによって、任意のチューブ部分での応答が実験的に得られる。特定のチューブ及びその部分のうち大体すべてを測定できる。掘削井内のすべてのチューブを測定して適切に固定されていない部分を推測するとき、測定した応答を分析することで未固定部分や固定が不十分な部分を特定することができる。あるいは、その固定状態がわかるそのチューブの部分を測定することができる。これらの方法は共振周波数の実験基準を得るために使われる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
周囲を異なるもので囲まれているチューブの共振モードを評価するための試験設備が準備された。この試験設備はチューブ20からなり、長さが36インチ、直径は5と1/2インチ、厚さが7/16インチの鋼パイプである。また、同じパイプからカットされた長さ1インチの較正用リングも準備した。図3の実施形態に示されるように、チューブ20の外表面に接着させて9つのセンサー又は変換器16を取り付けた。実験で使われたセンサーはセラミック圧電変換器である。3つのセンサーはチューブ20の3箇所にそれぞれ設置した。“C”と表示されたところのセンサーはセメントで固定された部分であり、“W”と表示されたところのセンサーはチューブ20に水のある部であり、“A”と表示されたところのセンサーはチューブ20が空気にさらされている部分である。チューブ20の周りに90°間隔でセンサーを配置した。図4は試験設備の断面図を示したものである。水22はセメント部分の上にあり、チューブの外周ではその水面の上に空気24がある。
【0018】
空気や水の存在下で測定したリングの周波数応答(衝撃励起)をそれぞれ図5と図6に示した。測定した周波数応答にはピーク26とそれぞれの図に(28aと28b)が示されている。表1は空気と水との存在下で測定したリングの共振周波数及び空気の存在下で計算したリングの共振周波数を比較したものである。振動モードを比較することで観測した共振値を明確に特定することができる。図と表のデータは水を加えることにより周波数が下方へシフトすることを示している。
【0019】
【表1】
図7はセメントで固定された部分に取り付けたセンサーを使用して測定したチューブ20の周波数応答を示している。信号を発振するセンサーは180°に、周波数応答を受信するセンサーは0°に設置された。プロット28cは多くの周波数応答があり、その多くは長手方向でチューブ20の共振周波数を表すのだが、この共振応答は容易に特定でき○30でマークした。
【0020】
パイプの共振周波数値はパイプからカットしたリングよりも大きいことは注目に値する。表2は空気中でのリングとパイプとの共振周波数である。パイプが長くなるほどその長さが標準的なリングと比較して半径方向の剛性が加わるので、この値の差は予期されるものであり論理的にも一致している。
【0021】
【表2】
【0022】
セメントがパイプに固着するとこれに対応して減衰が増すこともこの測定は示している。この減衰については、減衰率η=1/2Q を使って最もよく説明できる。ここで、Qは共振の品質係数である。品質係数は式:Q=FR/ΔF-3dBで定義される。ここで、FRは共振周波数、ΔF-3dBは共振ピークの頂点から−3dBの点で測定した周波数幅である。この品質係数と上記式(1)−(5)のQn値とは異なる。表3は空気と水とセメントで結合したパイプの3箇所すべてにおける共振周波数(FR)と減衰率ηを示している。これらの値はパイプをセメントで固めた5日後に測定した。
【0023】
【表3】
【0024】
上述した実験結果により水がチューブにマス(慣性)を加え、それによりチューブの共振周波数は減少する(水は964Hzに対して空気は1192Hz)ことが検証された。一方、セメントボンドはチューブを固くして順に共振周波数モードは増加する(セメントは1736Hzに対して空気は1192Hz)。このように、掘削井5内に設置したチューブ20の周波数モードの測定値と、直径と厚さがチューブと大体同じリングの周波数モード(測定値も計算値も)とを比較すると、チューブ20の周りのセメントボンドの存在や質を評価することができる。これはケーシングとチュービングがしばらくの間定位置にあるときに特に利用でき、最初から設置されているチューブ20のリングのサンプルは利用することができない。直径、厚さ、材質がチューブと大体同じリングは加工され、試験され、それによって、比較するための基準データを規定する。これらの基準チューブの共振値は上記の関係式を使用して数学的に得ることもできる。
【0025】
このようにチューブとボンディング剤との間の結合状態は、チューブの測定した共振周波数と基準チューブの共振周波数とを比較することで評価できる。ここで議論するために、ボンディング剤とは坑内チューブと掘削井の間に使用された物質のことをいい、掘削井内にチューブを固着するために使用されたもの及びチューブに沿って分離するために使用されたものの内少なくとも一方のことである。基準チューブにはボンディング剤によって固定されたチューブ、未固定のチューブ、フリーパイプチューブが含まれる。基準チューブの状態(例えば、固定、未固定、フリー)とそれに対応した共振周波数が分かると、測定したチューブの周波数は基準チューブと比較され、その結果測定したチューブの結合状態を評価することができる。上述した手順はボンディング剤の機械特性を判定するために使用される。このような機械特性には密度、ヤング係数、圧縮率、ポアソン比及びボンディング剤の速度がある。
【0026】
図8はチューブとボンディング剤との間の結合状態を評価するのに役立つ坑内機器40を示している。図8においてチューブは地下層38を貫通している掘削井32に設置された坑内ケーシング36である。ボンディング剤はセメント44から成っており、それは地層38内の層を分離するため及び掘削井32にケーシング36を固定するためのものである。坑内機器40は掘削井32内に索条34で吊り下げられ、この索条34は地表滑車35で任意に支持されている。この索条34は坑内機器40を掘削井32内に下ろしたり支持したり坑外に上げたりする手段になるだけでなく機器40と地表45の間の通信回線にもなる。情報処理システム(IHS)47は索条34を介して坑内機器40に連結されている。
【0027】
図8における坑内機器40の実施例では坑内機器40に設置された変換器42が示されている。変換器42は送信器と受信器から構成されるか又は1つかそれ以上の変換器は送信機能と受信機能との両方を持つ。送信器は圧電素子、電磁音波変換器(EMAT)、ウェッジ変換器、パルスレーザー、曲げ共振器、又はこれらの組み合わせからなる。変換器42が組み込まれることで坑内機器40は音波のような信号をケーシング36に送信しそれによってその中で音の信号を誘導する機能を備える。結果として誘導されたケーシング36に沿って伝播する信号を受信器が組み込まれることで機器40は記録することができる。さらに、受信器によって検知される信号であってケーシング36に共振周波数応答を誘導するように設計された信号を発するように変換器は調整されている。このように坑内機器40はケーシング36に誘導された周波数応答すなわち半径方向の共振周波数応答を含んでこれを測定する機能を備える。
【0028】
ある実施例では、坑内機器40はケーシング36内を(上方又は下方へ)移動する。その間に変換器でケーシング36内に音の信号を発し受信器でそれによって誘導された周波数応答を記録する。上述した信号分析の方法、例えばチューブボンドを評価するために基準チューブの共振と比較する方法、によりその記録された応答は解析される。
【0029】
記録された信号はその後の分析のために坑内機器40内に蓄えられるか又はリアルタイムに分析するために索条34を介して地表に送信することもできる。この分析は上述した工程と方法とからなり、この工程と方法とは周波数応答を測定・受信し、測定した周波数応答と基準チューブとを比較し、この比較に基づいて結合状態を評価するものである。音の信号や応答を記録するのと同時にこれらの分析工程が機能するように、特にアナライザーを使用する。このアナライザーは坑内機器40と一緒に配置するかさもなければ坑井32内に配置することもできる。このアナライザーは坑内に場所が残っていても分析システムの一部又は全てを地表に又は遠隔地に設置することもある。
【0030】
図8に示すように、IHSは索条34を介して坑内機器40に連結されている。このIHS47はここに記述した音の信号が発振するのをコントロールするため及びその後その信号の記録を受信するためのうち少なくとも一方のために設けている。さらに、このIHSは記録したデータを蓄積するためにまた読み易い形式にデータを加工するために使用されることもある。このIHS47は地表、坑井内あるいは部分的に地表より上部や下部に設置される。このIHS47はプロセッサ、プロセッサによりアクセスできるメモリー、プロセッサによりアクセスできる不揮発性ストレージ領域、そして上述したそれぞれの工程を実行するための論理アルゴリズムから構成されている。
【実施例】
【0031】
図9はここに記述した方法の実施例であり、チューブがドリルストリング56を有する場合を表す。示したように、ドリルストリング56に坑井52の壁58の内側を覆う泥壁60が付着する。通常、坑井52とその周りを取り囲む地層54との間の圧力(矢印で表した)が異なるために坑井の壁58に対してドリルストリングが詰まってしまう。バランスを欠いた状態とされるこの圧力差は、坑井圧力が地層圧力を上回り、圧力差により坑井52から地層54に流体移動が生じるまで坑井52に高密度流体物を加えることによっても発生する。この状態の1つの悪影響としては、ドリルストリングが坑井壁58のかなり近い場所を通過した場合、流体移動によりドリルストリング56が坑井壁58に詰まってしまう、結果として”抑留”として知られた状態になってしまうということがある。
【0032】
詰まったドリルストリング56はストリング56に衝撃や振動を与えたり地表からパイプの重みよりかなり強く引いたりすることで解消でき、場合によってはパイプを回復するためにストリング56を供給することも必要である。どちらの回復方法でも適切に解消するためにドリルストリング56のどの部分が詰まっているか判断することが必要である。坑井壁とドリルストリング56の外表面との間が如何に強く密着しているかは、チューブとボンディング剤との間の結合状態を解明するのに使用したのと同じ方法で識別することができる。その長さ方向に分離した場所のチューブ(ドリルストリング)に共振応答を発生するのに適した信号を送ること、それに応答した共振応答を測定すること、基準チューブと測定した応答を比較すること、によりチューブのどの部分が坑井壁に接触しているかがわかる。ドリルストリングが掘削井壁に付着している場所を知ることで、パイプの固定位置とその深さとがわかる。さらに、本方法では泥壁がドリルストリングに接着している深さだけでなくその方位も識別することができる。
【0033】
さらに図9は詰まったドリルストリング56内に変換器42を備えた坑内機器40がどのように挿入されているかの1つの例示である。坑内機器40に設置された交換器42はチューブ壁(ドリルストリング)に半径方向の共振周波数応答を誘導するような信号を発することができ、またその結果生じた信号を記録することができる。
【0034】
図10はケースドホール62内に設置したチュ−ビング64の一部を示す。このケースドホールはケースドホール62内にセメント65で固定されたケーシング63を含む。パッカー67はチュ−ビング64をケーシング63に固定する。岩屑70や崩壊堆積物はパッカー67の上でチュ−ビング64に隣接したホールに堆積する。時間とともに相当量の岩屑70によりケーシング63内にチュ−ビングが詰め込まれるようになる。それによりチュ−ビング64の除去ができなくなる。詰まったチュ−ビングを解消する方法はチュービングがどのようにそしてどこで詰まっているかによって決まる。ボンディング剤や泥壁のときと同様にチュービング64の周りにある岩屑70は坑内機器40で検知できる。したがってチュービング64内に坑内機器40を下ろし、半径方向の共振周波数を測定し、共振周波数を基準周波数と比較することにより、パッカー67に隣接したチュービングが岩屑70に取り囲まれているかどうか評価することができる。
【0035】
それ故にここに記載した本方法は、本発明に固有の他の実施例と同様に目的を実行しそして言及した目的や効果を達成するために十分応用できる。開示する目的で本発明のより好ましい実施例を提供したが、所望の結果を出すためには手順の細部に沢山の修正点がある。例えば、基準チューブの共振周波数は測定によって実験的に得ることができるし又はこの値は上記に列挙した関係式により算出することもできる。これらのそして他の似たような修正は当業者自身に容易に示唆するだろう。そしてそれはここに開示した本発明の趣旨と添付の請求項の範囲内に制限することを意図するものである。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】図1は、従来技術のセメントボンド評価装置を示している。
【図2a】図2aは、円状リングの振動モードを示している。
【図2b】図2bは、円状リングの振動モードを示している。
【図3】図3は、チューブテストの構成の実施例を示している。
【図4】図4は、チューブテストの構成の断面図である。
【図5】図5は、周波数応答のプロットである。
【図6】図6は、周波数応答のプロットである。
【図7】図7は、周波数応答のプロットである。
【図8】図8は、坑井内に設置した坑内機器の実施例の側面図である。
【図9】図9は、坑内機器を有するドリルストリングの詰まった部分の側面図である。
【図10】図10は、坑内機器を有する、詰まったチューブの部分切欠図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は掘削井ケーシングを評価する分野に関する。更に詳細には、掘削井内のケーシングを固定している結合状態を分析するための方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化水素を生産する坑井は、一般的にケーシング8のようなチューブからなり、坑井5内にセットされる。一般に、ケーシング8の外径と坑井5の内径との間に形成される環状空間帯の中にセメント9を加えることによってケーシング8は坑井に固定される。セメントボンドはケーシング8を坑井5内に固定するだけでなく、地層18内で隣接する層(Z1とZ2)を相互に分離する役目も果たす。層のうちの1つが油またはガスを含んでおり、他の層が水などの非炭化水素流体を含有している場合には、隣接する層を分離することが重要になることがある。ケーシング8を取り囲むセメント9に欠陥があり隣接する層からの分離がなされていないと、水や他の望ましくない流体が炭化水素を生産する層に入り込んできて、生産層内の炭化水素を希釈または汚染する可能性がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
セメントボンドに欠陥があるかどうかを検知するために、坑井5にケーシング8を固定するセメント9の状態を分析するための坑内機器14が開発されている。これらの坑内機器14は、滑車12に結合された索条10で坑井5内に吊り下げられる。そして通常、
その外表面に変換器16が設置され、その変換器はボーリング内の流体物により音響的結合を形成する。通常、ケーシング8の表面に沿って音波が進み又は伝播するとき、これらの変換器16はケーシング8に音波を発し、音波の振幅を記録することができる。音波の減衰を分析することによって、セメントボンドの有効性や完全性といった特性を評価することができる。
【0004】
このような音響変換器の一つに圧電性結晶を有する圧電素子がある。これは電気的エネルギーを機械的振動又は機械的発振に変換する。圧電素子によって生じた振動はケーシング8に送られ、順にケーシング8に音波を形成する。チューブから周波数応答を誘導するために、この音波はチューブ部材にエネルギーを与え受信変換器によってモニターされる。測定した周波数応答は収集されリアルタイムで分析されるか又は後で分析するためにデータとして蓄えられる。このデータはアナログ形式でもデジタル形式でも可能である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
チューブとボンディング剤との間の結合状態について評価する方法をここに開示する。この方法はチューブにおける半径方向の共振モードを測定し、この測定値を基準チューブと比較することを含む。比較することにより水がチューブに隣接しているかどうかだけでなく結合状態に関する情報が得られる。
【0006】
本方法を実現するために設けられた坑内機器についてもここに開示する。坑内機器はチューブ内に設置したままにすることができ、送信器と受信器とを有して構成される。受信器はチューブ内に生じた半径方向の共振周波数応答を受信するように設定されている。受信した応答は基準チューブの応答と比較される。この坑内機器は比較するためのアナライザーを含むことができる。
【0007】
また、詰まったチューブを評価する方法もここに開示する。この評価方法はチューブ内に誘導された周波数応答を測定し、基準チューブのものと測定した周波数応答と比較し、この比較に基づいてこのチューブがどこに詰まっているか評価することを含む。
【0008】
チューブ内の周波数応答は音の信号によって生じ、多数の因子に依存している。例えば、チューブの直径やチューブの周りにセメントが存在することやチューブの外側にセメントの代わりに流体物が存在することである。従来、流体物やセメントが存在するかどうかを評価する方法として、時間とともに音波や振動の振幅が減衰することを利用する方法が知られていたが、この評価では音の信号によって生じた周波数応答の記録を利用していなかった。チューブの外表面に水を有する例のような適切に固着していないチューブだけでなく適切に固着したチューブをシミュレートするような試験台が発展可能である。比較する目的のために試験台データに対応する周波数応答を得ることができる。しかし、このような試験台は状況により、特に何年も存在しているケースドホールを扱うようなときに、実用的でないことが多い。
【0009】
ここで議論するためにチューブとしては特に坑内ケーシング、坑内チュービング、ドリルストリング又は実質的に円柱状の部材が挙げられる。また、この開示に関して、適切に固着していない部分があるかどうかにかかわりなく、固定チューブとは定位置にセメントで固定されたチューブのセグメントのことをいう。さらに、未固定チューブとはセメントによって固定されていないチューブの一部のことをいう。一般に、未固定チューブは自由空間にあり空気にのみ囲まれている。一方、“フリーパイプ”は水のような流体物によって囲まれたチューブの固定されていない部分のことをいう。
【0010】
ここに開示された本方法の実施例によると、チューブ内に共振応答が生じ、その後に測定される。チューブを振動源で刺激し、その結果、チューブに沿って誘導された振動を測定することによってチューブの共振応答が測定される。振幅と周波数とをプロットした測定データを検討し、測定した応答において“急な山形”になっているところを特定することでグラフを使ってこれを実行できる。さらに、チューブの周りや外表面に接触している物質が変化すると、チューブにおける半径方向の共振応答の大きさは変わる。したがって、本方法によりチューブの周りの物質の変化に起因する共振値変化を評価することができ、そして共振値変化に基づいてチューブに接触している物質や周りにある物質を特定することができる。
【0011】
細長いチューブと直径及び壁の厚みが大体同じであるとき、同じ物質からなる(リングのような)チューブ部分の共振応答モードと細長いチューブの共振応答モードとはほとんど同じである。このようにこのリングの共振モードを知ることにより、細長いチューブに対応させて共振曲げモードを概算できる。チューブ部分の未固定共振モードについては実験的に測定もできるし、計算することもできることに注目すべきである。
【0012】
リング状ボディーの共振周波数は次の関係式でモデル化される。
(ωn)2−(Κn)(ωn)2+Qn=0 ・・・(1)
パラメータΚnとQnとは次のように定義される。
Κn={(n2+1)/[(a2)(ρ)(h)]}{(n2)(D/a2)(E)(h)} ・・・(2)
Qn=[n2(n2−1)(DEh)]/[a2(ρh)2] ・・・(3)
ここで、nはモードの次数、aはリングの半径、hは厚さ、ρ,E,Dは密度、ヤング係数、曲げ剛性を示し、曲げ剛性はD=Eh2(12(1−ν2))で定義され、ここでνはポアソン比である。式1,2,3を組み合わせると、次の式で固有(共振)周波数が表せる。
ωfn=[(Κn/2)(1−(1−4Qn/Κn2)1/2)1/2 ・・・(4)
ωfb=[(Κn/2)(1+(1−4Qn/Κn2)1/2)1/2 ・・・(5)
式4は曲げ又はベンディングモードに関し、式5は“ブリーシング”モードに関する。
【0013】
曲げモードで共振しているリングは図2aに、ブリーシングモードは図2bに例示されている。―このようにここで説明する共振モードには曲げモードもブリーシングモードも含まれている。周波数の関係式をさらに簡略化すると、共振周波数は物質のヤング係数を密度で割ったものの平方根に大体比例することがわかる。この簡略化した関係式を式6と7に示した。
ωfn=((E/ρ)1/2)Gfn ・・・(6)
ωfb=((E/ρ)1/2)Gfb ・・・(7)
ここでGfnとGbnは幾何学的因子であり、次の関係となる。
ここで、AとBは次のようにリングの半径とリングの厚さhとモード次数nとポアソン比νに依存する。
このように、リングや断面積がリング状である物体の共振周波数は、その物体に接触し、又はその周りにある物質の剛性やマスに関係して変化する。チューブは断面積がリング状であるので、この現象をチューブに適用できる。
【0014】
共振周波数と物質の剛性及びマスとの間の関係をケーシングボンドがある状況に当てはめてみると、掘削井内のチューブの共振周波数は、結合状態の有効性やセメント特性に起因して変化することが推測される(鋼特性は知られている)。通常、ケーシングのようなチューブが掘削井内に固定されるとき、チューブの外表面はセメントに囲まれるか(したがってほとんどの壁は固定されている)又は水のような流体物によって囲まれている(通常壁は固着していない)。チューブの外表面とセメントとの間にも微小環が存在することがある。
【発明の効果】
【0015】
水や大部分のケーシングボンドのような掘削井流体の物理的特性に基づくと、上記の関係によりケーシングボンド(たとえばセメント)により固定されたチューブセグメントの共振周波数は、液体の存在により固定されていない未固定チューブの共振周波数より大きいことがわかる。同様に未固定チューブの共振周波数は、液体(たとえば水)に囲まれたチューブセグメントの共振周波数より大きい。ここに説明した本方法を次のように限定しない例で実施することでこの推測を検証した。
【0016】
チューブの周波数応答を物理的に測定することによって、任意のチューブ部分での応答が実験的に得られる。特定のチューブ及びその部分のうち大体すべてを測定できる。掘削井内のすべてのチューブを測定して適切に固定されていない部分を推測するとき、測定した応答を分析することで未固定部分や固定が不十分な部分を特定することができる。あるいは、その固定状態がわかるそのチューブの部分を測定することができる。これらの方法は共振周波数の実験基準を得るために使われる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
周囲を異なるもので囲まれているチューブの共振モードを評価するための試験設備が準備された。この試験設備はチューブ20からなり、長さが36インチ、直径は5と1/2インチ、厚さが7/16インチの鋼パイプである。また、同じパイプからカットされた長さ1インチの較正用リングも準備した。図3の実施形態に示されるように、チューブ20の外表面に接着させて9つのセンサー又は変換器16を取り付けた。実験で使われたセンサーはセラミック圧電変換器である。3つのセンサーはチューブ20の3箇所にそれぞれ設置した。“C”と表示されたところのセンサーはセメントで固定された部分であり、“W”と表示されたところのセンサーはチューブ20に水のある部であり、“A”と表示されたところのセンサーはチューブ20が空気にさらされている部分である。チューブ20の周りに90°間隔でセンサーを配置した。図4は試験設備の断面図を示したものである。水22はセメント部分の上にあり、チューブの外周ではその水面の上に空気24がある。
【0018】
空気や水の存在下で測定したリングの周波数応答(衝撃励起)をそれぞれ図5と図6に示した。測定した周波数応答にはピーク26とそれぞれの図に(28aと28b)が示されている。表1は空気と水との存在下で測定したリングの共振周波数及び空気の存在下で計算したリングの共振周波数を比較したものである。振動モードを比較することで観測した共振値を明確に特定することができる。図と表のデータは水を加えることにより周波数が下方へシフトすることを示している。
【0019】
【表1】
図7はセメントで固定された部分に取り付けたセンサーを使用して測定したチューブ20の周波数応答を示している。信号を発振するセンサーは180°に、周波数応答を受信するセンサーは0°に設置された。プロット28cは多くの周波数応答があり、その多くは長手方向でチューブ20の共振周波数を表すのだが、この共振応答は容易に特定でき○30でマークした。
【0020】
パイプの共振周波数値はパイプからカットしたリングよりも大きいことは注目に値する。表2は空気中でのリングとパイプとの共振周波数である。パイプが長くなるほどその長さが標準的なリングと比較して半径方向の剛性が加わるので、この値の差は予期されるものであり論理的にも一致している。
【0021】
【表2】
【0022】
セメントがパイプに固着するとこれに対応して減衰が増すこともこの測定は示している。この減衰については、減衰率η=1/2Q を使って最もよく説明できる。ここで、Qは共振の品質係数である。品質係数は式:Q=FR/ΔF-3dBで定義される。ここで、FRは共振周波数、ΔF-3dBは共振ピークの頂点から−3dBの点で測定した周波数幅である。この品質係数と上記式(1)−(5)のQn値とは異なる。表3は空気と水とセメントで結合したパイプの3箇所すべてにおける共振周波数(FR)と減衰率ηを示している。これらの値はパイプをセメントで固めた5日後に測定した。
【0023】
【表3】
【0024】
上述した実験結果により水がチューブにマス(慣性)を加え、それによりチューブの共振周波数は減少する(水は964Hzに対して空気は1192Hz)ことが検証された。一方、セメントボンドはチューブを固くして順に共振周波数モードは増加する(セメントは1736Hzに対して空気は1192Hz)。このように、掘削井5内に設置したチューブ20の周波数モードの測定値と、直径と厚さがチューブと大体同じリングの周波数モード(測定値も計算値も)とを比較すると、チューブ20の周りのセメントボンドの存在や質を評価することができる。これはケーシングとチュービングがしばらくの間定位置にあるときに特に利用でき、最初から設置されているチューブ20のリングのサンプルは利用することができない。直径、厚さ、材質がチューブと大体同じリングは加工され、試験され、それによって、比較するための基準データを規定する。これらの基準チューブの共振値は上記の関係式を使用して数学的に得ることもできる。
【0025】
このようにチューブとボンディング剤との間の結合状態は、チューブの測定した共振周波数と基準チューブの共振周波数とを比較することで評価できる。ここで議論するために、ボンディング剤とは坑内チューブと掘削井の間に使用された物質のことをいい、掘削井内にチューブを固着するために使用されたもの及びチューブに沿って分離するために使用されたものの内少なくとも一方のことである。基準チューブにはボンディング剤によって固定されたチューブ、未固定のチューブ、フリーパイプチューブが含まれる。基準チューブの状態(例えば、固定、未固定、フリー)とそれに対応した共振周波数が分かると、測定したチューブの周波数は基準チューブと比較され、その結果測定したチューブの結合状態を評価することができる。上述した手順はボンディング剤の機械特性を判定するために使用される。このような機械特性には密度、ヤング係数、圧縮率、ポアソン比及びボンディング剤の速度がある。
【0026】
図8はチューブとボンディング剤との間の結合状態を評価するのに役立つ坑内機器40を示している。図8においてチューブは地下層38を貫通している掘削井32に設置された坑内ケーシング36である。ボンディング剤はセメント44から成っており、それは地層38内の層を分離するため及び掘削井32にケーシング36を固定するためのものである。坑内機器40は掘削井32内に索条34で吊り下げられ、この索条34は地表滑車35で任意に支持されている。この索条34は坑内機器40を掘削井32内に下ろしたり支持したり坑外に上げたりする手段になるだけでなく機器40と地表45の間の通信回線にもなる。情報処理システム(IHS)47は索条34を介して坑内機器40に連結されている。
【0027】
図8における坑内機器40の実施例では坑内機器40に設置された変換器42が示されている。変換器42は送信器と受信器から構成されるか又は1つかそれ以上の変換器は送信機能と受信機能との両方を持つ。送信器は圧電素子、電磁音波変換器(EMAT)、ウェッジ変換器、パルスレーザー、曲げ共振器、又はこれらの組み合わせからなる。変換器42が組み込まれることで坑内機器40は音波のような信号をケーシング36に送信しそれによってその中で音の信号を誘導する機能を備える。結果として誘導されたケーシング36に沿って伝播する信号を受信器が組み込まれることで機器40は記録することができる。さらに、受信器によって検知される信号であってケーシング36に共振周波数応答を誘導するように設計された信号を発するように変換器は調整されている。このように坑内機器40はケーシング36に誘導された周波数応答すなわち半径方向の共振周波数応答を含んでこれを測定する機能を備える。
【0028】
ある実施例では、坑内機器40はケーシング36内を(上方又は下方へ)移動する。その間に変換器でケーシング36内に音の信号を発し受信器でそれによって誘導された周波数応答を記録する。上述した信号分析の方法、例えばチューブボンドを評価するために基準チューブの共振と比較する方法、によりその記録された応答は解析される。
【0029】
記録された信号はその後の分析のために坑内機器40内に蓄えられるか又はリアルタイムに分析するために索条34を介して地表に送信することもできる。この分析は上述した工程と方法とからなり、この工程と方法とは周波数応答を測定・受信し、測定した周波数応答と基準チューブとを比較し、この比較に基づいて結合状態を評価するものである。音の信号や応答を記録するのと同時にこれらの分析工程が機能するように、特にアナライザーを使用する。このアナライザーは坑内機器40と一緒に配置するかさもなければ坑井32内に配置することもできる。このアナライザーは坑内に場所が残っていても分析システムの一部又は全てを地表に又は遠隔地に設置することもある。
【0030】
図8に示すように、IHSは索条34を介して坑内機器40に連結されている。このIHS47はここに記述した音の信号が発振するのをコントロールするため及びその後その信号の記録を受信するためのうち少なくとも一方のために設けている。さらに、このIHSは記録したデータを蓄積するためにまた読み易い形式にデータを加工するために使用されることもある。このIHS47は地表、坑井内あるいは部分的に地表より上部や下部に設置される。このIHS47はプロセッサ、プロセッサによりアクセスできるメモリー、プロセッサによりアクセスできる不揮発性ストレージ領域、そして上述したそれぞれの工程を実行するための論理アルゴリズムから構成されている。
【実施例】
【0031】
図9はここに記述した方法の実施例であり、チューブがドリルストリング56を有する場合を表す。示したように、ドリルストリング56に坑井52の壁58の内側を覆う泥壁60が付着する。通常、坑井52とその周りを取り囲む地層54との間の圧力(矢印で表した)が異なるために坑井の壁58に対してドリルストリングが詰まってしまう。バランスを欠いた状態とされるこの圧力差は、坑井圧力が地層圧力を上回り、圧力差により坑井52から地層54に流体移動が生じるまで坑井52に高密度流体物を加えることによっても発生する。この状態の1つの悪影響としては、ドリルストリングが坑井壁58のかなり近い場所を通過した場合、流体移動によりドリルストリング56が坑井壁58に詰まってしまう、結果として”抑留”として知られた状態になってしまうということがある。
【0032】
詰まったドリルストリング56はストリング56に衝撃や振動を与えたり地表からパイプの重みよりかなり強く引いたりすることで解消でき、場合によってはパイプを回復するためにストリング56を供給することも必要である。どちらの回復方法でも適切に解消するためにドリルストリング56のどの部分が詰まっているか判断することが必要である。坑井壁とドリルストリング56の外表面との間が如何に強く密着しているかは、チューブとボンディング剤との間の結合状態を解明するのに使用したのと同じ方法で識別することができる。その長さ方向に分離した場所のチューブ(ドリルストリング)に共振応答を発生するのに適した信号を送ること、それに応答した共振応答を測定すること、基準チューブと測定した応答を比較すること、によりチューブのどの部分が坑井壁に接触しているかがわかる。ドリルストリングが掘削井壁に付着している場所を知ることで、パイプの固定位置とその深さとがわかる。さらに、本方法では泥壁がドリルストリングに接着している深さだけでなくその方位も識別することができる。
【0033】
さらに図9は詰まったドリルストリング56内に変換器42を備えた坑内機器40がどのように挿入されているかの1つの例示である。坑内機器40に設置された交換器42はチューブ壁(ドリルストリング)に半径方向の共振周波数応答を誘導するような信号を発することができ、またその結果生じた信号を記録することができる。
【0034】
図10はケースドホール62内に設置したチュ−ビング64の一部を示す。このケースドホールはケースドホール62内にセメント65で固定されたケーシング63を含む。パッカー67はチュ−ビング64をケーシング63に固定する。岩屑70や崩壊堆積物はパッカー67の上でチュ−ビング64に隣接したホールに堆積する。時間とともに相当量の岩屑70によりケーシング63内にチュ−ビングが詰め込まれるようになる。それによりチュ−ビング64の除去ができなくなる。詰まったチュ−ビングを解消する方法はチュービングがどのようにそしてどこで詰まっているかによって決まる。ボンディング剤や泥壁のときと同様にチュービング64の周りにある岩屑70は坑内機器40で検知できる。したがってチュービング64内に坑内機器40を下ろし、半径方向の共振周波数を測定し、共振周波数を基準周波数と比較することにより、パッカー67に隣接したチュービングが岩屑70に取り囲まれているかどうか評価することができる。
【0035】
それ故にここに記載した本方法は、本発明に固有の他の実施例と同様に目的を実行しそして言及した目的や効果を達成するために十分応用できる。開示する目的で本発明のより好ましい実施例を提供したが、所望の結果を出すためには手順の細部に沢山の修正点がある。例えば、基準チューブの共振周波数は測定によって実験的に得ることができるし又はこの値は上記に列挙した関係式により算出することもできる。これらのそして他の似たような修正は当業者自身に容易に示唆するだろう。そしてそれはここに開示した本発明の趣旨と添付の請求項の範囲内に制限することを意図するものである。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】図1は、従来技術のセメントボンド評価装置を示している。
【図2a】図2aは、円状リングの振動モードを示している。
【図2b】図2bは、円状リングの振動モードを示している。
【図3】図3は、チューブテストの構成の実施例を示している。
【図4】図4は、チューブテストの構成の断面図である。
【図5】図5は、周波数応答のプロットである。
【図6】図6は、周波数応答のプロットである。
【図7】図7は、周波数応答のプロットである。
【図8】図8は、坑井内に設置した坑内機器の実施例の側面図である。
【図9】図9は、坑内機器を有するドリルストリングの詰まった部分の側面図である。
【図10】図10は、坑内機器を有する、詰まったチューブの部分切欠図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チューブ内に誘導した共振周波数応答の測定と、
測定した周波数応答と基準チューブの共振との比較と、
該比較に基づく結合状態の評価と、
を含むことを特徴とするチューブとボンディング剤との結合状態を評価する方法。
【請求項2】
前記基準チューブは固定されていることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
さらにボンディング剤の機械的特性を評価することを含むことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記機械的特性が密度、ヤング係数、圧縮率、ポアソン比及び速度を含むことを特徴とする請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記ボンディング剤の特性が既知であることを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項6】
前記基準チューブは固定されていないことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記結合状態を評価する工程はチューブの周囲における流体物の存在を判定することを含むことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記結合状態を評価する工程は結合状態の質を判定することを含むことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項9】
半径方向の共振周波数応答は疎密波、横波、横方向に偏光した横波、ラム波及びこれらの組み合わせから選ばれた少なくとも一つの波によって誘導されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項10】
さらにチューブに隣接する微小環を検知することを含むことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項11】
前記共振周波数は曲げモードとブリージングモードからなるリストから選ばれることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項12】
前記共振周波数は次の関係式で決定することからなる請求項1記載の方法。:ωfn=((E/ρ)1/2)Gfn
(ただし、Eはチューブのヤング係数、ρはチューブの密度、Gfnはチューブの幾何学的因子を示す。)
【請求項13】
前記共振周波数は次の関係式で決定することからなる請求項1記載の方法。:ωbn=((E/ρ)1/2)Gbn
(ただし、Eはチューブのヤング係数、ρはチューブの密度、Gbnはチューブの幾何学的因子を示す。)
【請求項14】
送信器と、
チューブ内に誘導した半径方向の共振周波数応答を受信するように設定され、該応答を基準チューブの応答と比較する受信器と、
を含むことを特徴とするチューブ内に設置可能な坑内機器。
【請求項15】
さらにチューブ内に誘導された応答と基準チューブの応答とを比較するように設定されたアナライザーを含むことを特徴とすることを特徴とする請求項14記載の坑内機器。
【請求項16】
前記アナライザーは情報処理システムを含むことを特徴とする請求項15記載の坑内機器。
【請求項17】
圧電素子、EMAT、パルスレーザー、ウェッジ変換器及び曲げ共振器からなるリストから選らばれた少なくとも一つの装置を含むことを特徴とする請求項15記載の坑内機器。
【請求項18】
さらに信号発振器を含むことを特徴とする請求項15記載の坑内機器。
【請求項19】
前記送信器と前記受信器とが同じ変換器内にあることを特徴とする請求項14記載の坑内機器。
【請求項20】
半径方向の共振周波数応答を誘導するように設定されたチューブ内への信号の発振と、
該チューブ内に誘導された半径方向の共振周波数応答の測定と、
該坑内チューブの特性を示す基準チューブの特定と、
基準チューブの半径方向の共振周波数応答の取得と、
測定した周波数応答と基準チューブの半径方向の共振周波数応答との比較と、
該比較に基づく結合状態の評価と、
を含むことを特徴とする坑内チューブの結合状態を評価する方法。
【請求項21】
前記基準チューブは固定されていることを特徴とする請求項20記載の方法。
【請求項22】
前記ボンディング剤の特性が既知であることを特徴とする請求項21記載の方法。
【請求項23】
前記基準チューブは固定されていないことを特徴とする請求項20記載の方法。
【請求項24】
前記結合状態を評価する工程はチューブの周囲における流体物の存在を判定することを含むことを特徴とする請求項20記載の方法。
【請求項25】
前記基準チューブの半径方向の共振周波数応答を得る工程は計算により行われることを特徴とする請求項20記載の方法。
【請求項26】
前記基準チューブの半径方向の共振周波数応答を得る工程は実験により行われることを特徴とする請求項20記載の方法。
【請求項27】
チューブ内に誘導された周波数応答の測定と、
該測定した周波数応答と基準チューブの周波数応答との比較と、
該比較に基づく該チューブが詰まった場所の評価と、
を含むことを特徴とするチューブを評価する方法。
【請求項28】
前記周波数応答は半径方向の共振周波数応答であることを特徴とする請求項27記載の方法。
【請求項29】
前記基準チューブは固定されていることを特徴とする請求項27記載の方法。
【請求項30】
前記基準チューブは固定されていないことを特徴とする請求項27記載の方法。
【請求項31】
詰まったチューブはバランスを欠いた状態で掘削井内に固定されたドリルストリングであることを特徴とする請求項27記載の方法。
【請求項32】
詰まったチューブは堆積した岩屑によりケーシング内に固定されたチュービングを含むことを特徴とする請求項27記載の方法。
【請求項1】
チューブ内に誘導した共振周波数応答の測定と、
測定した周波数応答と基準チューブの共振との比較と、
該比較に基づく結合状態の評価と、
を含むことを特徴とするチューブとボンディング剤との結合状態を評価する方法。
【請求項2】
前記基準チューブは固定されていることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
さらにボンディング剤の機械的特性を評価することを含むことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記機械的特性が密度、ヤング係数、圧縮率、ポアソン比及び速度を含むことを特徴とする請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記ボンディング剤の特性が既知であることを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項6】
前記基準チューブは固定されていないことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記結合状態を評価する工程はチューブの周囲における流体物の存在を判定することを含むことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記結合状態を評価する工程は結合状態の質を判定することを含むことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項9】
半径方向の共振周波数応答は疎密波、横波、横方向に偏光した横波、ラム波及びこれらの組み合わせから選ばれた少なくとも一つの波によって誘導されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項10】
さらにチューブに隣接する微小環を検知することを含むことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項11】
前記共振周波数は曲げモードとブリージングモードからなるリストから選ばれることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項12】
前記共振周波数は次の関係式で決定することからなる請求項1記載の方法。:ωfn=((E/ρ)1/2)Gfn
(ただし、Eはチューブのヤング係数、ρはチューブの密度、Gfnはチューブの幾何学的因子を示す。)
【請求項13】
前記共振周波数は次の関係式で決定することからなる請求項1記載の方法。:ωbn=((E/ρ)1/2)Gbn
(ただし、Eはチューブのヤング係数、ρはチューブの密度、Gbnはチューブの幾何学的因子を示す。)
【請求項14】
送信器と、
チューブ内に誘導した半径方向の共振周波数応答を受信するように設定され、該応答を基準チューブの応答と比較する受信器と、
を含むことを特徴とするチューブ内に設置可能な坑内機器。
【請求項15】
さらにチューブ内に誘導された応答と基準チューブの応答とを比較するように設定されたアナライザーを含むことを特徴とすることを特徴とする請求項14記載の坑内機器。
【請求項16】
前記アナライザーは情報処理システムを含むことを特徴とする請求項15記載の坑内機器。
【請求項17】
圧電素子、EMAT、パルスレーザー、ウェッジ変換器及び曲げ共振器からなるリストから選らばれた少なくとも一つの装置を含むことを特徴とする請求項15記載の坑内機器。
【請求項18】
さらに信号発振器を含むことを特徴とする請求項15記載の坑内機器。
【請求項19】
前記送信器と前記受信器とが同じ変換器内にあることを特徴とする請求項14記載の坑内機器。
【請求項20】
半径方向の共振周波数応答を誘導するように設定されたチューブ内への信号の発振と、
該チューブ内に誘導された半径方向の共振周波数応答の測定と、
該坑内チューブの特性を示す基準チューブの特定と、
基準チューブの半径方向の共振周波数応答の取得と、
測定した周波数応答と基準チューブの半径方向の共振周波数応答との比較と、
該比較に基づく結合状態の評価と、
を含むことを特徴とする坑内チューブの結合状態を評価する方法。
【請求項21】
前記基準チューブは固定されていることを特徴とする請求項20記載の方法。
【請求項22】
前記ボンディング剤の特性が既知であることを特徴とする請求項21記載の方法。
【請求項23】
前記基準チューブは固定されていないことを特徴とする請求項20記載の方法。
【請求項24】
前記結合状態を評価する工程はチューブの周囲における流体物の存在を判定することを含むことを特徴とする請求項20記載の方法。
【請求項25】
前記基準チューブの半径方向の共振周波数応答を得る工程は計算により行われることを特徴とする請求項20記載の方法。
【請求項26】
前記基準チューブの半径方向の共振周波数応答を得る工程は実験により行われることを特徴とする請求項20記載の方法。
【請求項27】
チューブ内に誘導された周波数応答の測定と、
該測定した周波数応答と基準チューブの周波数応答との比較と、
該比較に基づく該チューブが詰まった場所の評価と、
を含むことを特徴とするチューブを評価する方法。
【請求項28】
前記周波数応答は半径方向の共振周波数応答であることを特徴とする請求項27記載の方法。
【請求項29】
前記基準チューブは固定されていることを特徴とする請求項27記載の方法。
【請求項30】
前記基準チューブは固定されていないことを特徴とする請求項27記載の方法。
【請求項31】
詰まったチューブはバランスを欠いた状態で掘削井内に固定されたドリルストリングであることを特徴とする請求項27記載の方法。
【請求項32】
詰まったチューブは堆積した岩屑によりケーシング内に固定されたチュービングを含むことを特徴とする請求項27記載の方法。
【図1】
【図2a】
【図2b】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2a】
【図2b】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2007−218897(P2007−218897A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2006−332847(P2006−332847)
【出願日】平成18年12月11日(2006.12.11)
【出願人】(301008534)ベイカー ヒューズ インコーポレイテッド (21)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−332847(P2006−332847)
【出願日】平成18年12月11日(2006.12.11)
【出願人】(301008534)ベイカー ヒューズ インコーポレイテッド (21)
【Fターム(参考)】
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