説明

チーズ及びその製造方法

【課題】 熟成しなくとも製造直後で熟成チーズの風味を有し、所望の糸引き性を有するモッツァレラチーズ等のパスタフィラータチーズを提供することを目的とする。
【解決手段】 所定量のタングステン酸可溶性窒素含量であるパスタフィラータチーズを提供する。またパスタフィラータチーズの製造工程において、カード混練時に熟成チーズ及び/又は酵素処理チーズを添加、混練する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主にピザなどに使用するモッツァレラチーズ等のパスタフィラータチーズに関する。
【背景技術】
【0002】
モッツァレラチーズに代表されるパスタフィラータチーズは、イタリア語の「生地(パスタ)」と「糸状に裂ける(フィラータ)」とから命名されており、加熱することで糸引き状態となる。パスタフィラータチーズは一般的に、一旦凝固したカードを熱水中で練り上げる混練工程に特徴のある製造方法より製造される。この工程を経ることで、生地が弾力のある繊維状の組織となり、一定温度以上の熱を加えると伸縮性のある生地、すなわち糸引き状態を呈する。パスタフィラータチーズにはモッツァレラチーズ以外に、カチョカヴァッロ・シラーノ、プロヴォローネ・ヴァルパダーナ、カネストラート・プリエーゼ等がある。このようなパスタフィラータチーズは、ピザ・グラタンなどのチーズを利用する加工食品に使用され、加熱調理時に溶解したチーズによる糸引きを得ることができる。
【0003】
しかし例えば、モッツァレラチーズのみをピザ、グラタンなどにトッピングした場合、良好な糸引きを得ることはできるが、当該チーズの特性からそのままでは熟成チーズの風味を得ることは困難である。また、上記のような熱水中での混練という製造工程を経るために、カード中のレンネットの一部が失活したり、乳酸菌数が減少したりするために、熟成したとしても風味の生成は遅くなってしまう。また日数をかけて熟成したとしても、パスタフィラータチーズ特有の糸引き性や独特の食感が失われてしまう。
【0004】
現在市場において販売されているピザやグラタン製品(宅配システムにおけるピザを含む)では、パスタフィラータチーズの持つ糸引き性と熟成チーズ特有の風味の双方を製品に付与するために、例えばシュレッドしたモッツァレラチーズとシュレッドした熟成チーズとを混合して製品にトッピングすることで対応している。具体的には、市販の冷凍ピザでは、ゴーダチーズ、チェダーチーズ、エダムチーズなどの熟成プロセスチーズとモッツァレラチーズとの粉砕物を複数種類混合した混合チーズをピザ生地にトッピングしている。しかし、上記の製品においては、その製造時に個々のチーズを粉砕・計量し、更に特定比率にブレンドする必要があり、その作業が繁雑であり、経済的に不利となる。
【0005】
一方、パスタフィラータチーズに関しては、食品素材、調味料などを均一に混入して味覚の豊富化をすることが検討されている(例えば、特許文献1,特許文献2)。しかしいずれの技術においても食品素材を均一にパスタフィラータチーズに含有させるための添加方法についてのみ言及しており、純粋なチーズとして風味の改良については述べられておらず、即ち熟成チーズの風味とパスタフィラータチーズの十分な糸引き性とを併せ持つパスタフィラータチーズ及びその製造方法に関しては全く言及されていない。
【0006】
【特許文献1】特開平1−148147号公報
【特許文献2】特開平3−83541号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、従来技術によれば、ピザやグラタンなどのトッピングとして糸引き性と熟成チーズの風味との双方を有するパスタフィラータチーズは未だ提供されておらず、ゴーダチーズ、チェダーチーズ、エダムチーズなどの熟成チーズとモッツァレラチーズ等のパスタフィラータチーズとを混合して使用する以外に解決方法が無く、繁雑な作業を経なければならないなどの問題点があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
即ち、本発明は製造直後で熟成チーズの風味を持ち、且つそれ自身の有する十分な糸引き性を有するモッツァレラチーズを始めとするパスタフィラータチーズを提供することを目的とする。これにより、特別な熟成期間を経ることなく、モッツァレラチーズ等のパスタフィラータチーズの食感と熟成チーズの風味とが同時に味わえるチーズを提供することが可能となった。
【0009】
本発明の一態様は、ホスホタングステン酸可溶性窒素含量が0.4〜4.0mg/gであることを特徴とする熟成チーズの風味を持つパスタフィラータチーズである。
【0010】
本発明のパスタフィラータチーズは所定値以上の糸引き性を有することが好ましい。さらに糸引き性が12cm以上であることが好ましい。
【0011】
本発明のパスタフィラータチーズは、必要な場合に、安定剤をチーズ成分に対して0.05〜2.5重量%含有することが好ましい。
【0012】
また、本発明の別の態様は、熟成チーズの風味を持つパスタフィラータチーズの製造方法である。本発明の製造方法は、pH5.0〜5.8のカードを熱水中で混練して、品温50〜80℃の可塑性のあるカードとした後、熱水からカードを分離する工程と、当該カードにホスホタングステン酸可溶性窒素含量が所定量以上の熟成チーズ及び/又は酵素処理チーズをカード重量に対し所定の割合で添加・混練する工程とを経ることにより、チーズ中のホスホタングステン酸可溶性窒素含量が0.4〜4.0mg/gであるパスタフィラータチーズを製造することが出来る。
【0013】
上記製造方法においては、添加するチーズとしてはホスホタングステン酸可溶性窒素含量が2.0mg/g以上の熟成チーズであって、カード重量に対し1.0〜50.0%の割合で添加・混練することが好ましい。
【0014】
あるいは、上記製造方法においては、添加するチーズとしてはホスホタングステン酸可溶性窒素含量が2.0mg/g以上の酵素処理チーズであって、カード重量に対し0.1〜20.0%の割合で添加・混練することが好ましい。
【0015】
なお、上記製造方法における混練工程において、必要な場合に、カードと熟成チーズ及び/又は酵素処理チーズの合計重量に対し、安定剤を0.05〜0.5%添加することが好ましい。
【0016】
本発明の製造方法によるパスタフィラータチーズは所定値以上の糸引き性を有することが好ましい。さらに糸引き性が12cm以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ピザ、グラタンなどのチーズトッピングを施す食品に最適な、良好な糸引き性を有し、且つ熟成チーズの風味を併せ持つモッツァレラチーズを始めとするパスタフィラータチーズを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下に述べる個々の形態には限定されない。
【0019】
本発明におけるパスタフィラータチーズは、一般的に、一旦凝固したカードを熱水中での練り上げ工程を経ることで、生地が弾力のある繊維状の組織となり、一定温度以上の熱を加えると伸縮性のある生地、すなわち糸引き状態を呈するチーズの総称である。本発明によるパスタフィラータチーズは、その組成及び製造方法に特徴があり、特定のパスタフィラータチーズ(モッツァレラチーズ、カチョカヴァッロ・シラーノ、プロヴォローネ・ヴァルパダーナ、カネストラート・プリエーゼ等)のうちの特定のチーズには限定されない。しかし、熟成したパスタフィラータチーズの糸引き性は著しく低下してしまうために好ましくない。
【0020】
本発明によるパスタフィラータチーズのホスホタングステン酸(以下PTAと略称する)可溶性窒素含量は0.4〜4.0mg/gであり、好ましくは0.4〜2.0mg/gである。PTA可溶性窒素含量がこの範囲にある場合に、本発明のパスタフィラータチーズは、その糸引き性を呈すると同時に、熟成チーズの風味を呈することになる。
【0021】
本発明のパスタフィラータチーズは、上記課題を解決するため、その製造工程に混練工程があることに着目し、チーズカードに、ゴーダチーズ、チェダーチーズ、エダムチーズ等の熟成チーズや酵素処理チーズを混練時に加えることで、製造直後でも熟成チーズのコクのある風味をもつチーズを提供することができる。
【0022】
本発明のパスタフィラータチーズの製造方法は、主に以下の工程からなる。
pH5.0〜5.8のパスタフィラータチーズカードを熱水中で混練して、品温50〜80℃の可塑性のあるカードとした後、熱水からカードを分離し、
熱水から分離したカードにPTA可溶性窒素含量が所定量以上の熟成チーズ及び/又は酵素処理チーズをカード重量に対し所定の割合で添加・混練する工程を有する製造方法である。
【0023】
なお、上記のカードについては、その製造方法に得に制約はなく、パスタフィラータチーズ製造の常法に従って得られるものを用いることができる。
【0024】
熟成チーズ及び/又は酵素処理チーズの添加・混練工程においては、品温を先の工程と同じ程度に維持することが好ましい。品温を50〜80℃に保持することで、可塑性を保つことができる。可塑性を保つことで、混練により熟成チーズ及び/又は酵素分解チーズを均一に分散させることができる。従って、ここで用いる混練機等の混練手段としては、ジャケット等の保温機能のついたものであることが好ましい。
【0025】
本発明における「熱水」とは、60〜90℃に加温した水であり、水の種類は、通常食品製造過程において使用される水(飲用に適する水)が用いられる。また、本発明における「可塑性」とは、一定の形状は保つが、ある程度以上の負荷をかけることで容易にその形状が変化し、負荷を取り除いてもそのひずみがそのまま残る性質をいう。
【0026】
本発明において添加するチーズが熟成チーズである場合には、熟成チーズのPTA可溶性窒素含量は2.0mg/g、好ましくは2.0〜4.0mg/gである。この熟成チーズをカード重量に対して1.0〜50.0%、好ましくは20.0〜50.0%添加する。これにより製造直後に得られるパスタフィラータチーズのPTA可溶性窒素含量が0.4〜4.0mg/g、好ましくは0.4〜2.0mg/gとなる。
【0027】
本発明において添加する熟成チーズとは、通常市場において流通しているゴーダチーズ、チェダーチーズ、エダムチーズなどの熟成チーズであってよい。
【0028】
また、添加するチーズが酵素処理チーズである場合には、酵素処理チーズのPTA可溶性窒素含量は2.0mg/g、好ましくは10.0〜20.0mg/gである。この酵素処理チーズをカード重量に対して0.1〜20.0%、好ましくは4.0〜10.0%添加する。これにより製造直後に得られるパスタフィラータチーズのPTA可溶性窒素含量が0.4〜4.0mg/g、好ましくは0.4〜2.0mg/gとなる。
【0029】
本発明において添加する酵素処理チーズとは、未熟成のチーズを粉砕し、水を加えてスラリー状にした原料に、プロテアーゼ、リパーセなどの各種酵素を作用させてチーズの熟成風味を短期間で実現させたものである。当該技術分野において一般的に加工食品・菓子などにチーズ風味を付与する目的で使用されるものを本発明に用いることができる。
【0030】
本発明において用いられるPTA可溶性窒素とは、タンパク質が酵素によって分解されることで生成された分子量約600以下の短鎖ペプチド、アミノ酸に含まれる窒素を定量化したものであって、熟成の進行と共に増加する。これらの短鎖ペプチドやアミノ酸は熟成チーズのコクのある風味に寄与しているために、PTA可溶性窒素は熟成度合いの指標となる。
【0031】
なおPTA可溶性窒素は以下の方法によって測定し、得られた値がチーズ1g当たりのアミノ態窒素となる。
(1) 試料25gを温湯150mlに溶解する。
(2) 40%ホルマリン数滴を溶液に加え、50℃で2時間振とうする。
(3) 生じた脂肪層を除き、残った溶液を遠心分離にかける(3000rpm、5分間)。
(4) 上澄み液を目の細かい綿布で濾過し、濾液を250mlメスフラスコに移す。また、遠沈管及び沈殿を少量の温湯で洗って、遠心分離・濾過を繰り返し、濾液と合わせる。
(5) 濾液に水を加えて250mlに定容後、溶液を50ml採取する。
(6) 採取した溶液に、25%硫酸30ml、水10ml、19%PTA水溶液10mlを加え、24時間、室温で放置する。
(7) 溶液をNo.5Bの濾紙で濾過する。
(8) 濾液20mlを取り窒素を定量する(ケルダール法)。
【0032】
本発明によるパスタフィラータチーズは、所定の糸引き性を呈することが好ましく、特に12cm以上であることが好ましい。たとえばパスタフィラータチーズは熟成工程を経ることでPTA可溶性窒素含量が増加し、その結果、熟成チーズの風味を有することになる。しかしこの場合には糸引き性が著しく低下してしまい、本発明の目的とする所望の糸引き性をピザなどのチーズ使用製品に付与することが出来ない。従って本発明によるパスタフィラータチーズは、従来品と比較して、熟成風味がする割には糸引き性が強いものになる。
本発明によるパスタフィラータチーズの糸引き性は以下の方法により測定した値である。
(1)シュレッドしたチーズ約30gをアルミホイルにのせ、オーブントースターで約3分加熱する。
(2)30秒間静置した後、フォークで溶けたチーズをかき混ぜ上方に引っ張る。
(3)引っ張りの動作を糸を引いたチーズが切れるまで行い、糸が切れた時の距離(チーズの糸引き長さ)を測定する。この距離(cm)を糸引き性として評価する。
本発明のパスタフィラータチーズは、上記方法により12〜90cm、好ましくは30〜70cmの糸引き性を有する。一方、熟成したパスタフィラータチーズの糸引き性は、10cm以下まで低下してしまうため好ましくない。
【0033】
尚、パスタフィラータチーズは、製造工程中、特にカード混練時に脂肪が分離することがある。本発明の場合、熟成チーズの種類・熟度、酵素分解チーズの種類によってはさらに脂肪分離の可能性は高くなる。したがって本発明においては、必要に応じて脂肪分離を低減するために安定剤を添加することが好ましい。本発明において用いられる安定剤としては、これらには限定されないが、ローカストビーンガム、キサンタンガム、グアガム、タラガム、ペクチン、カラギーナン、カルボキシメチルセルロース、澱粉(化工澱粉を含む)、ゼラチン、アラビアガム、ナトリウムカゼイン、卵白などが挙げられる。安定剤を添加するには、直接あるいは水溶液として添加することができる。特に水溶液として添加するとより確実な効果が得られる。安定剤の添加量としてはカードと熟成チーズ及び/又は酵素処理チーズの合計重量に対し、0.05〜2.5%、好ましくは0.05〜1.0%である。
【0034】
本発明のチーズは、熟成チーズの風味とパスタフィラータチーズの糸引き性を併せ持っており、ピザ・グラタン等の加熱調理食品に利用できる。また、パスタフィラータチーズのミルキーな風味と熟成チーズのコクのある風味を併せ持っていることから、そのまま喫食しても美味なチーズである。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例を挙げて説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。なお、本明細書において%表示は明示しない場合には重量%を示す。
【0036】
まず、乳を原料として従来のパスタフィラータチーズの製造方法に従ってpH5.0〜5.8のカードを調整する。得られたカードを細断し混練機内に入れ、熱水中(60〜90℃)で混練する。品温が50〜80℃の可塑性のあるカードを調整した後、混練機内の熱水を排水する。カードに食塩を添加した後、続いて所定PTA可溶性窒素含量の熟成チーズ及び/又は酵素分解チーズの所定量を添加して、品温を50〜80℃に保持しながら更に混練する。上記の方法で得られたカードは、目的とする製品の大きさ・形に応じて成形し、更に20%食塩水中に浸漬し、製品とする。
【0037】
次に、より具体的な本発明によるパスタフィラータチーズと比較のチーズとを製造し、それぞれについてその特性を調べた。
【0038】
[試験例1]
常法に従って、モッツァレラチーズのカードを調製した。カードは、短冊状に細断し、70℃の熱水が入った混練機で混練し、可塑性のある60℃のカードを作成した。混練機から熱水を排水した後、対カード重量比0.75%の食塩を添加し、さらに混練した。次いで、約3mm×5mm×50mmのサイズにシュレッドした熟成6ヶ月、PTA可溶性窒素含量が3.4mg/gのゴーダチーズを添加し混練した。ゴーダチーズを混合したカードは、100mm×100mm×250mmのサイズに成形し、冷水中で1時間冷却後、4℃の20%食塩水に3時間浸漬した。浸漬終了後のカードは、真空包装し、冷蔵保管した。なお、ゴーダチーズの添加量は、対カード重量比で20%、40%添加し、それぞれを実施例1,実施例2とした。また無添加のものを製造し、比較例1とした。
【0039】
作成した実施例1,2及び比較例1の試作チーズに関して、PTA可溶性窒素含量の測定を先述した方法に基づいて行った。
【0040】
また、実施例1,2及び比較例1の試作チーズの糸引き性について評価を行った。評価方法は、以下の通りである。
(1)シュレッドしたチーズ約30gをアルミホイルにのせ、オーブントースターで約3分加熱する。
(2)30秒間静置した後、フォークで溶けたチーズをかき混ぜ、上方に引っ張る。
(3)引っ張りの動作を、糸を引いたチーズが切れるまで行い、糸が切れた時の距離(チーズの糸引き長さ)を測定する。この距離(cm)を糸引き性として評価した。
【0041】
また、実施例1,2及び比較例1の「熟成チーズの風味」について評価を行った。評価は、訓練された専門パネラー10名により各チーズにおける「熟成チーズの風味」について評価を行った。評価基準は、以下の通りである。
1点:熟成チーズの風味がない
2点:熟成チーズの風味がわずかにある
3点:熟成チーズの風味がある
4点:熟成チーズの風味がやや強い
5点:熟成チーズの風味が強い
【0042】
PTA可溶性窒素含量、「熟成チーズの風味」評価、糸引き性のそれぞれの結果を表1に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
比較例1はPTA可溶性窒素含量が低く、これに対して実施例1,2は、PTA可溶性窒素含量が高くなっている。PTA可溶性窒素含量は、分子量600以下のアミノ酸、ペプチド中の窒素分を示す指標であり、これらの成分が旨味を始めとする熟成チーズの風味を呈する。すなわち、実施例1,2では、ゴーダチーズ由来の呈味成分が製造直後のモッツァレラチーズに付与されたと言える。官能評価においては、比較例1は、「熟成チーズの風味」がわずかである。一方、実施例1,2は、「熟成チーズの風味」を呈していた。糸引き性の評価では、実施例1,2は比較例1同等の良好な糸引き性を示した。
【0045】
[試験例2]
常法に従って、モッツァレラチーズのカードを調製した。カードは、短冊状に細断し、70℃の熱水が入った混練機で混練し、可塑性のある60℃のカードを作成した。混練機から熱水を排水した後、対カード重量比0.75%の食塩を添加し、さらに混練した。次いで、PTA可溶性窒素含量が17mg/gの酵素分解チーズを混練した。酵素処理チーズを混合したカードは、100mm×100mm×250mmのサイズに成形し、冷水中で1時間冷却後、4℃で20%食塩水に3時間浸漬した。チーズの食塩含量は1.5%となった。浸漬終了後のカードは、真空包装し、冷蔵保管した。
なお、酵素処理チーズの添加量は、対カード重量比で4%、8%添加し、それぞれを実施例3,実施例4とした。また無添加のものを製造し、比較例2とした。
【0046】
作成した実施例3,4及び比較例2の試作チーズに関して、PTA可溶性窒素含量、糸引き性の測定と、熟成チーズの風味についての評価を、試験例1と同様の方法により行った。
【0047】
PTA可溶性窒素含量、「熟成チーズの風味」評価、糸引き性のそれぞれの結果を表2に示す。
【0048】
【表2】

【0049】
比較例2はPTA可溶性窒素含量が低く、これに対して実施例3,4はPTA可溶性窒素含量が高くなっていた。官能評価においては、比較例2は、「熟成チーズの風味」がわずかである。一方、実施例3,4は十分な「熟成チーズの風味」を呈していた。糸引き性の評価では、実施例3,4は比較例2同等の良好な糸引き性を示した。
【0050】
[試験例3]
常法に従って、モッツァレラチーズのカードを調製した。カードは、短冊状に細断し、70℃の熱水が入った混練機で混練し、可塑性のある60℃のカードを作成した。混練機から熱水を排水した後、対カード重量比0.75%の食塩を添加し、さらに混練した。次いで、約3mm×5mm×50mmのサイズにシュレッドした熟成6ヶ月のゴーダチーズを対カード重量比で20%添加し混練した。また、安定剤であるローカストビーンガムをカード・熟成チーズの合計重量比で0.075%、0.15%添加した試作チーズを作成した。
安定剤0.075%、0.15%添加の試料をそれぞれ実施例5,6とした。また安定剤を添加していないものを製造し、比較例3とした。
なお、本試験例において使用したローカストビーンガムは、3.0%のローカストビーンガム水溶液を作製し、カード・熟成チーズの合計重量に対して所定量の濃度になるよう添加した。
【0051】
上記製造過程における混練工程の脂肪歩留まりを測定し表3に示した。尚、混練工程における脂肪歩留まりは以下の式(1)により求めた。
【0052】
【数1】

【0053】
【表3】

【0054】
安定剤の添加により、脂肪歩留まりの低下を防ぐことができ、向上が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明により、製造直後で熟成チーズの風味を持ち、且つそれ自身の有する糸引き性を損なわずに有するモッツァレラチーズを始めとするパスタフィラータチーズを提供することが可能となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホスホタングステン酸可溶性窒素含量が0.4〜4.0mg/gであることを特徴とする熟成チーズの風味を持つパスタフィラータチーズ。
【請求項2】
所定値以上の糸引き性を有することを特徴とする請求項1に熟成チーズの風味を持つパスタフィラータチーズ。
【請求項3】
糸引き性が12cm以上であることを特徴とする請求項1又は2に熟成チーズの風味を持つパスタフィラータチーズ。
【請求項4】
安定剤をチーズ成分に対して0.05〜2.5重量%含有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のパスタフィラータチーズ。
【請求項5】
熟成チーズの風味を持つパスタフィラータチーズの製造方法であって、pH5.0〜5.8のカードを熱水中で混練して、品温50〜80℃の可塑性のあるカードとした後、熱水からカードを分離する工程と、当該カードにホスホタングステン酸可溶性窒素含量が所定量以上の熟成チーズ及び/又は酵素処理チーズをカード重量に対し所定の割合で添加・混練する工程と、を有し、チーズ中のホスホタングステン酸可溶性窒素含量が0.4〜4.0mg/gであることを特徴とするパスタフィラータチーズの製造方法。
【請求項6】
添加するチーズがホスホタングステン酸可溶性窒素含量が2.0mg/g以上の熟成チーズであって、カード重量に対し1.0〜50.0%の割合で添加・混練することを特徴とする請求項5に記載のパスタフィラータチーズの製造方法。
【請求項7】
添加するチーズがホスホタングステン酸可溶性窒素含量が2.0mg/g以上の酵素処理チーズであって、カード重量に対し0.1〜20.0%の割合で添加・混練することを特徴とする請求項5に記載のパスタフィラータチーズの製造方法。
【請求項8】
混練工程において、カードと熟成チーズ及び/又は酵素処理チーズの合計重量に対し、安定剤を0.05〜2.5%添加することを特徴とする請求項5乃至7のいずれかに記載のパスタフィラータチーズの製造方法。
【請求項9】
所定値以上の糸引き性を有することを特徴とする請求項5乃至8のいずれかに記載のパスタフィラータチーズの製造方法。
【請求項10】
糸引き性が12cm以上であることを特徴とする請求項9に記載のパスタフィラータチーズの製造方法。

【公開番号】特開2008−220192(P2008−220192A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−58815(P2007−58815)
【出願日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【出願人】(000006138)明治乳業株式会社 (265)
【Fターム(参考)】