説明

ツイストペア線、ハーネス及び該ツイストペア線の製造方法

【課題】安価で低雑音のハーネスを製造することができ、在庫の管理が容易であるツイストペア線、該ツイストペア線を複数備えるハーネス、及び該ツイストペア線の製造方法の提供。
【解決手段】ツイストペア線3は、一対の電線を構成する電線30a,30bを有し、電線30a,30bは撚り合わされている。ツイストペア線3は、撚り合わせの間隔が、第1間隔d1である第1部分と、第1間隔d1とは異なる第2間隔d2である第2部分とによって形成される。ここで、第1部分及び第2部分の長さは略同じである。ツイストペア線4はツイストペア線3と同様に構成される。ツイストペア線3,4は、ツイストペア線3の第1部分及び第2部分夫々がツイストペア線4の第2部分及び第1部分に隣り合うように、配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信装置間の配線に使用されるツイストペア線、該ツイストペア線を複数備えるハーネス、及び、該ツイストペア線の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、車両の高機能化に伴って、車両には多種多様な電子機器を制御するECU(Electronic Control Unit)が搭載されている。各ECUは、一対の電線が撚り合わさったツイストペア線に接続されており、ツイストペア線を介して他のECUと通信している。
【0003】
更に、複数のツイストペア線は、複数のECUへの配線を容易にするために束ねられ、ハーネスとして使用されている。このため、一のツイストペア線に電流が流れて電磁波が発生した場合、発生した電磁波によって、一のツイストペア線に近接する他のツイストペア線に電流が流れ、他のツイストペア線を伝送する信号に雑音が重畳する。
【0004】
非特許文献1には複数のツイストペア線間で発生する雑音が低い従来のハーネスが記載されている。図3は従来のハーネスの要部構成を示すブロック図である。従来のハーネス6は2つのツイストペア線7,8を備えている。ツイストペア線7は、電線70a,70bを有し、電線70a,70bは撚り合わされている。同様に、ツイストペア線8も、電線80a,80bを有し、電線80a,80bは撚り合わされている。電線70a,70bの撚り合わせの間隔と、電線80a,80bの撚り合わせの間隔とは異なっている。
【0005】
電線70a,70b間に電圧を印加してツイストペア線7に信号を伝送させた場合、電線70a,70b夫々に流れる電流の方向は互いに逆である。電線70a,70b夫々に電流が流れた場合、アンペールの法則に従って、電流の方向に対して右回りの方向に磁界が発生し、発生した磁界は、電線80a,80bの撚り合わせによって形成される環と鎖交する。
【0006】
このとき、電線70a,70b夫々に流れる電流の方向が互いに逆であるため、電線70a,70b夫々に電流が流れることによって発生する磁界の方向は互いに逆になる。磁界が電線80a,80bの撚り合わせによって形成される環と鎖交した場合、鎖交した磁界の方向に対して環の右回りの方向に雑音電流が流れる。
【0007】
電線70a,70b夫々に電流が流れることによって発生する磁界の方向は互いに逆であるため、電線80a,80bの撚り合わせによって形成される環に流れる雑音電流の方向は、環と鎖交する磁界が電線70a,70bのいずれに電流が流れたことによって発生した磁界であるかによって異なる。
【0008】
電線80a,80b夫々において、電線70aに近接する部分は、電線70aに電流が流れることによって発生する磁界の影響を受け、電線70bに近接する部分は、電線70bに電流が流れることによって発生する磁界の影響を受ける。
【0009】
従って、電線70a,70b夫々に近接する電線80aの部分を流れる雑音電流の方向は互いに逆になり、同様に、電線70a,70b夫々に近接する電線80bの部分を流れる雑音電流の方向も互いに逆になる。
【0010】
従来のハーネス6では、電線70a,70bの撚り合わせの間隔と、電線80a,80bの撚り合わせの間隔とが異なるため、電線80aには電線70a,70b夫々が近接する部分があり、電線80bにも電線70a,70b夫々が近接する部分がある。従って、電線70a,70b夫々に電流が流れて電磁波が発生した場合、電線80a,80b夫々において、互いに逆向きに流れる雑音電流が発生し、発生した雑音電流が互いに打消し合う。
【0011】
同様に、ツイストペア線8に信号を伝送させてツイストペア線8から電磁波が発生した場合、電線70a,70b夫々において互いに逆向きに流れる雑音電流が発生し、発生した雑音電流が互いに打消し合う。
従って、ハーネス6においてツイストペア線7,8間で発生する雑音は低い。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】戸根 勤 著、「ネットワークはなぜつながるのか」、第2版、日経BP社、2007年4月、p.198−201
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、非特許文献1に記載のハーネスは、撚り合わせの間隔が異なる2種類のツイストペア線が必要であるため、製造費用が高く、在庫の管理が難しいという問題がある。
【0014】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、安価で低雑音のハーネスを製造することができ、在庫の管理が容易であるツイストペア線、該ツイストペア線を複数備えるハーネス、及び該ツイストペア線の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係るツイストペア線は、一対の電線が撚り合わされたツイストペア線において、撚り合わせの間隔が、第1間隔である第1部分と、前記第1間隔とは異なる第2間隔である第2部分とによって形成され、前記第1部分及び第2部分の長さが略同じであることを特徴とする。
【0016】
本発明にあっては、第1部分と第2部分とにおいて、撚り合わせの間隔が異なり、第1部分及び第2部分の長さが略同じである。
【0017】
これにより、第1部分と第2部分とが隣り合うように、複数を束ねてハーネスを製造することができる。この場合、撚り合わせの間隔が同じ部分が隣り合わないため、信号を伝送させた場合に発生する雑音が低い。また、複数の種類を製造する必要はないため、ハーネスの製造費用が低く、在庫の管理が容易になる。
【0018】
本発明に係るハーネスは、前述のツイストペア線を複数備え、各ツイストペア線の前記第1部分は他のツイストペア線の前記第2部分と隣り合うことを特徴とする。
【0019】
本発明にあっては、各ツイストペア線の第1部分は他のツイストペア線の第2部分と隣り合うように、複数のツイストペア線が束ねられるため、撚り合わせの間隔が同じ部分が隣り合わない。これにより、複数のツイストペア線に信号を伝送させた場合に発生する雑音が低い。また、1種類のツイストペア線で構成されるため、製造費用が低い。
【0020】
本発明に係るツイストペア線の製造方法は、撚り合わされた一対の電線の両端夫々に共通のコネクタが接続されたツイストペア線の製造方法において、可塑性を有する直線状の一対の電線における両端夫々に前記コネクタを接続し、該一対の電線の長手方向の中心部を固定し、一方のコネクタを第1回数だけ一方向に回転させ、他方のコネクタを該第1回数とは異なる第2回数だけ他方向に回転させることを特徴とする。
【0021】
本発明にあっては、直線状の一対の電線における両端夫々にコネクタを接続して一対の電線の長手方向の中心部を固定し、一方のコネクタは一方向に第1回数だけ回転させ、他方のコネクタは他方向に第1回数とは異なる第2回数だけ他の方向に回転させる。
【0022】
一対の電線は、可塑性を有しているので、コネクタの回転によって変えられた形状を保つ。このため、撚り合わせの間隔が異なる2つの部分を形成することができる。
【0023】
また、技術的に難しい製造工程がないため製造が容易であり、コネクタのより近くに撚り合わせの交差位置を設けることができる。従って、信号を伝送させた場合に、コネクタ近傍で発生する雑音は低い。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、撚り合わせの間隔が異なる第1部分及び第2部分によって形成され、第1部分及び第2部分の長さが略同じであるので、安価で低雑音のハーネスを製造でき、容易に在庫を管理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係るハーネスの要部構成を示すブロック図である。
【図2】ツイストペア線の製造方法を説明するための説明図である。
【図3】従来のハーネスの要部構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて詳述する。
図1は、本発明に係るハーネスの要部構成を示すブロック図である。このハーネス1は、ECU等の一の通信装置が備える送信部20及び受信部21、並びに、他の通信装置が備える送信部22及び受信部23夫々に着脱可能に接続されている。送信部20,22夫々は、イーサネット(登録商標)又はMOST(Media Oriented Systems Transport)等の通信プロトコルに従った信号を、ハーネス1を介して受信部23,21に送信する。
【0027】
ハーネス1はツイストペア線3,4を備えている。ツイストペア線3は、送信部20及び受信部23間に接続され、送信部20は、ツイストペア線3を介して信号を受信部23に送信する。同様に、ツイストペア線4は、送信部22及び受信部21間に接続され、送信部22は、ツイストペア線4を介して信号を受信部21に送信する。
【0028】
ツイストペア線3は、電線30a,30b及びコネクタ31,32を備える。電線30a,30bは、一対の電線を構成し、撚り合わされている。電線30a,30bの両端夫々には共通のコネクタ31,32が接続されている。コネクタ31,32夫々は送信部20及び受信部23に着脱可能に接続されている。
【0029】
ツイストペア線3は、撚り合わせの間隔が第1間隔d1である第1部分と、撚り合わせの間隔が第1間隔d1とは異なる第2間隔d2である第2部分とによって形成される。第1部分及び第2部分の長さは略同じであり、第1部分及び第2部分の境界はツイストペア線3の長手方向の中心部に位置する。第1間隔d1及び第2間隔d2夫々は例えば13mm及び18mmである。
【0030】
コネクタ31は端子33,34を備えている。端子33,34夫々は電線30a,30bに接続されており、送信部20に着脱可能に接続されている。送信部20は端子33,34を介して電線30a,30bに信号を出力する。
【0031】
コネクタ32は端子35,36を備えている。端子35,36夫々は、電線30a,30bに接続されており、受信部23に着脱可能に接続されている。受信部23は端子35,36を介して電線30a,30bから信号を受信する。
【0032】
ツイストペア線4は、ツイストペア線3と同様の構成であり、電線40a,40b及びコネクタ41,42を備える。電線40a,40bは、一対の電線を構成し、撚り合されている。電線40a,40bの両端夫々には共通のコネクタ41,42が接続されている。コネクタ41,42夫々は送信部22及び受信部21に着脱可能に接続されている。
【0033】
ツイストペア線4も、電線40a,40bの撚り合わせの間隔夫々が第1間隔d1及び第2間隔d2である第1部分及び第2部分によって形成される。第1部分及び第2部分の長さは略同じであり、第1部分及び第2部分の境界は、ツイストペア線4の長手方向の中心部に位置する。
【0034】
コネクタ41は端子43,44を備えている。端子43,44夫々は電線40a,40bに接続されており、受信部21に着脱可能に接続されている。受信部21は端子43,44を介して電線40a,40bから信号を受信する。
【0035】
コネクタ42は端子45,46を備えている。端子45,46夫々は、電線40a,40bに接続されており、送信部22に着脱可能に接続されている。送信部22は端子45,46を介して電線40a,40bに信号を出力する。
【0036】
ハーネス1では、ツイストペア線3の第1部分及び第2部分夫々がツイストペア線4の第2部分及び第1部分に隣り合うように、ツイストペア線3,4が配置されている。
【0037】
このため、ツイストペア線3,4について、撚り合わせの間隔が同じ部分が隣り合うことはなく、ツイストペア線3,4間で発生する雑音は低い。また、ハーネス1では、構成が同じツイストペア線3,4が用いられ、構成が異なる複数の種類のツイストペア線を製造する必要がないため、安価にハーネス1を製造することができ、ツイストペア線の在庫を容易に管理することができる。
【0038】
なお、撚り合わせの間隔が異なり、長さが略同じであるK(4以上の偶数)個の部分によって形成されるツイストペア線についても同様の効果が得られる。夫々がK個の部分によって形成される複数のツイストペア線でハーネスを構成する場合、複数のツイストペア線は、撚り合わせの間隔が異なる部分が隣り合うように束ねられる。
【0039】
図2はツイストペア線3の製造方法を説明するための説明図である。ツイストペア線4の製造方法はツイストペア線3の製造方法と同様であるため説明を省略する。
【0040】
まず、図2Aに示すように、長さが略同じで直線状の電線30a,30bを、電線30a,30b夫々の長手方向の中心部で交差するように配置する。
なお、電線30a,30b夫々は可塑性を有している。このため、電線30a,30b夫々は、外力を加えられて変形した後に外力が加えられなくなっても、変えられた形状を保つ。
【0041】
次に、電線30a,30bの両端夫々に共通のコネクタ31,32を接続する。具体的には、コネクタ31の端子33,34夫々を電線30a,30b夫々の一端に接続し、コネクタ32の端子35,36夫々を電線30a,30b夫々の他端に接続する。更に、電線30a,30b夫々の長手方向の中心部、即ち電線30a,30bが交差している部分を固定する。
【0042】
次に、図2Bに示すように、コネクタ31からコネクタ32への方向に対して一方向、例えば右回りにコネクタ31を第1回数だけ回転させ、他方向、例えば左回りにコネクタ32を、第1回数とは異なる第2回数だけ回転させる。
【0043】
このようにして、図2Cに示すように、電線30a,30bを第1間隔d1及び第2間隔d2夫々で撚り合わした第1部分及び第2部分で形成されるツイストペア線3を製造することができる。また、技術的に難しい製造工程を必要としないため、ツイストペア線3を容易に製造することができる。
【0044】
従来の製造方法、特に、車両に搭載される通信装置間に接続されるツイストペア線の製造方法では、撚り合わされた長尺の一対の電線を所望の長さに切断し、切断した一対の電線の両端部分の撚り合わせをほどき、両端部分夫々にコネクタを接続していた。このため、コネクタから、コネクタに最も近い撚り合わせの交差位置までの距離が、撚り合わせの間隔よりも長い。
【0045】
このように構成されたツイストペア線を2つ束ねてハーネスを製造した場合、2つのツイストペア線のコネクタ近傍では、近接する電線が長い距離に渡って同じになり、2つのツイストペア線間で発生する雑音が低減されない。
【0046】
しかしながら、図2を用いて説明した本発明に係るツイストペア線3の製造方法では、直線状の電線30a,30bの両端夫々にコネクタ31,32を接続した後に、コネクタ31,32を回転させることによって電線30a,30bを撚り合わせる。
【0047】
このため、コネクタ31(又はコネクタ32)から、コネクタ31(又はコネクタ32)に最も近い撚り合わせの交差位置までの距離を第1間隔d1(又は第2間隔d2)よりも短くすることができる。
【0048】
従って、ツイストペア線3と同様の製造方法で製造したツイストペア線4とを、ツイストペア線3の第1部分及び第2部分夫々がツイストペア線4の第2部分及び第1部分と隣り合うように、束ねてハーネス1を製造した場合、コネクタ31,32,41,42近傍夫々において、ツイストペア線3,4間で発生する雑音は低い。
【0049】
なお、ツイストペア線3を製造する場合に、直線状の電線30a,30bを交差させて固定したが、直線状の電線30a,30bを平行に配置して直線状の電線30a,30bの長手方向の中心部を固定してもよい。
【0050】
なお、ハーネス1が備えるツイストペア線は2本に限定されない。ハーネス1は、ツイストペア線3と同様に構成されたツイストペア線を3本以上備えてもよい。この場合、各ツイストペア線の第1部分は他のツイストペア線の第2部分と隣り合うように配置される。
【0051】
開示された実施の形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上述の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0052】
1 ハーネス
3,4 ツイストペア線
30a,30b,40a,40b 電線
31,32,41,42 コネクタ
d1 第1間隔
d2 第2間隔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電線が撚り合わされたツイストペア線において、
撚り合わせの間隔が、第1間隔である第1部分と、前記第1間隔とは異なる第2間隔である第2部分とによって形成され、
前記第1部分及び第2部分の長さが略同じであること
を特徴とするツイストペア線。
【請求項2】
請求項1に記載のツイストペア線を複数備え、
各ツイストペア線の前記第1部分は他のツイストペア線の前記第2部分と隣り合うこと
を特徴とするハーネス。
【請求項3】
撚り合わされた一対の電線の両端夫々に共通のコネクタが接続されたツイストペア線の製造方法において、
可塑性を有する直線状の一対の電線における両端夫々に前記コネクタを接続し、
該一対の電線の長手方向の中心部を固定し、
一方のコネクタを第1回数だけ一方向に回転させ、
他方のコネクタを該第1回数とは異なる第2回数だけ他方向に回転させること
を特徴とするツイストペア線の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−26139(P2013−26139A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−162195(P2011−162195)
【出願日】平成23年7月25日(2011.7.25)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】