説明

ツルマンネン草のカルス誘導方法

【課題】中国では古くからツルマンネン草の解熱、解毒作用及び急性肝炎、慢性肝炎、黄疸などへの効能が知られ、肝炎患者には肝炎治療薬として用いられている。しかしながら、依然としてツルマンネン草の含有成分もはっきりとしておらず、またサルメントシンの分離・生成方法も確立していないのが現状である。また、簡易に化学合成するのは困難であり大量生産は非常に難しく、更には従来のカルス誘導方法でツルマンネン草のカルス誘導は不可能であった。
【解決手段】本発明は、2,4−ジクロロフェノキシ酢酸を2.0ppmから4.0ppmと、スクロースを1.0%から2.0%と、寒天を1.5%から3.0%含有する寒天培地にてツルマンネン草のカルス誘導を行うカルス誘導方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ツルマンネン草(Sedum Sarmentosum Burge)のカルス誘導方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、日本における肝炎患者数は300〜400万人とも言われている。病態として主に3つに分類される。第1に急性肝炎である。A型肝炎ウイルスが原因であることが多く、症状としては、倦怠感、発熱、筋肉痛、黄疸がある。アルコール性肝炎や薬剤性肝炎もこの当該発祥形態をとることが多い。第2に劇症肝炎である。A・B型肝炎ウイルスが原因であることが多く、脳障害を引き起こす可能性もあるが、その有効な治療法はほとんど確立されていないのが現状である。第3に慢性肝炎である。自覚症状が乏しく、B・C型肝炎においては肝臓の繊維化、肝細胞の変異・壊死という症状が進行し、肝硬変に至る場合が多い。
【0003】
なかでも、B・C型肝炎ウイルスは感染者の肝臓や血液中に長期間とどまり、感染者がキャリア(ウイルス保持者)となってしまうと、治療が困難となる場合が多く、肝炎、慢性肝炎から肝硬変、そして肝細胞癌に至る可能性が高い。肝炎治療の目的として最も重要なものの一つに、これら肝硬変、肝細胞癌への移行抑制がある。
【0004】
現在行われている治療法としては、B・C型肝炎に対してはウイルスの消失を目的とした抗ウイルス療法がある。特にC型肝炎においては、インターフェロン投与による治療がほぼ確立されている。また、B型肝炎においても、近年新たな抗ウイルス治療薬が適用されるようになった。当該方法によれば、ウイルスを完全に消失できるため、当然に肝硬変、肝細胞癌への移行は回避できる。
【0005】
しかしながら、これらの抗ウイルス剤はその副作用が大きな問題となっている。発熱、倦怠感、頭痛、筋肉痛、痙攣などのインフルエンザ様症状が起こることがあり、まれにではあるが重篤化することもある。また、ウイルス遺伝子型の違いにより、効果が異なる場合や、年齢や肝炎による症状次第では、その使用制限があるという問題もある。なお、肝炎患者の40%は、種々の理由によりウイルスの消失は不可能と言われている。更には、抗ウイルス剤が高額であるという問題もある。
【0006】
そこで、抗ウイルス療法とは別の療法として、肝庇護療法も行われている。当該療法はウイルスを消失するものではないが、炎症を抑えて進行を遅らせることを目的とするものである。つまり、上述したように肝炎から肝硬変、肝細胞癌への移行を抑制するものである。これは、抗ウイルス療法を行えない場合や、効果が出なかった場合、耐性株が出現した場合に有効な治療法であり、また抗ウイルス療法による副作用を敬遠する患者に対しても有効である。
【0007】
そのような肝庇護療法の一つとして、肝臓が傷ついた際に肝細胞から漏れ出す酵素、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT又はGPT)とアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST又はGOT)を正常値の範囲内に抑制する療法がある。当該ALT値及びAST値は、肝臓に障害が起こっている場合に上昇し、肝炎の程度を示す最も基本的な指標の一つである。そして、ALT値を正常範囲で保持した場合、ウイルスを消失した場合と同程度の発癌抑制効果があるとも言われている。よって、ウイルスを消失するものではないが、当該肝庇護療法も非常に有効な治療法である。
【0008】
そこで本発明者らは、中国で古くから肝炎治療薬として用いられているツルマンネン草に注目した。中国では古くからツルマンネン草の解熱、解毒作用及び急性肝炎、慢性肝炎、黄疸などへの効能が知られ、肝炎治療薬として臨床研究も進められている。ツルマンネン草はベンケイソウ科のキリンソウ属の多年草で、古来より漢方薬として用いられており、日本でも平成14年から厚生労働省より「医薬品的効能効果を標榜しない限り食品として認められる成分本質リスト」に追加され、健康食品としての利用が可能となった。ツルマンネン草の肝炎治療薬としては、薬用成分としてサルメントシン(Sarmentosine;[(E)−3−Cyano−4−hydroxy−2−butenyl]β−D−glucopyranoside)が含まれており、当該成分がAST、ALTの値を低下させ、肝細胞壊死とそれに伴う炎症を改善することがわかっており、現在のところ副作用の報告もない。よって、ツルマンネン草を用いた肝庇護療法の有効性が期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−270854
【特許文献2】特開H07−313149
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、依然としてツルマンネン草の含有成分もはっきりとしておらず、またサルメントシンの分離・生成方法も確立していないのが現状である。また、その合成方法も糖を骨格としているため、簡易に化学合成するのは困難であり大量生産は非常に難しい。
【0011】
そこで、本発明はツルマンネン草の含有成分や、サルメントシンの分離・生成方法の確立、及び細胞融合や外来遺伝子の導入などの新しい技術の利用を最終的な目的として、その初期段階としてツルマンネン草のカルス誘導方法を完成させた。
【0012】
なお、植物のカルス誘導方法については、特許文献1のスターチスのカルス誘導方法や、特許文献2のケナフのカルス誘導方法などが開示されているが、植物種が異なるとカルスの誘導条件が全く異なるため、従来の方法ではツルマンネン草をカルス誘導することはできなかった。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(1)本発明は、ツルマンネン草の葉片を採取し、採取した葉片を殺菌処理し、殺菌処理した葉片を固体培地に置床し、培養するツルマンネン草のカルス誘導方法であって、
【0014】
前記固体培地は、2,4−ジクロロフェノキシ酢酸を2.0ppmから4.0ppmと、スクロースを1.0%から2.0%と、寒天を1.5%から3.0%含有する寒天培地であるツルマンネン草のカルス誘導方法を提供する。
【0015】
(2)本発明は、前記固体培地は、2,4−ジクロロフェノキシ酢酸に代えて、3−インドール酢酸を10.0ppmを含有し、スクロースを1.0%と、寒天を1.5%から3.0%含有する寒天培地である上記(1)に記載のツルマンネン草のカルス誘導方法を提供する。
【0016】
(3)本発明は、前記殺菌処理は、滅菌水で10分間洗浄する第一洗浄工程と、前記第一洗浄工程で洗浄した葉片を0.1%界面活性剤水溶液で7分間殺菌する第一殺菌工程と、前記第一殺菌工程で殺菌した葉片を滅菌水で10分間洗浄する第二洗浄工程と、前記第二洗浄工程で洗浄した葉片を0.3%次亜塩素酸ナトリウム水溶液で7分間殺菌する第二殺菌工程と、前記第二殺菌工程で殺菌した葉片を滅菌水で10分間洗浄する第三洗浄工程と、前記第三洗浄工程で洗浄した葉片を70%エタノール水溶液で7分間殺菌する第三殺菌工程と、前記第三洗浄工程で洗浄した葉片を70%エタノール水溶液で7分間殺菌する第三殺菌工程と、当該第三殺菌工程で殺菌した葉片を滅菌水で10分間洗浄する工程を複数回繰り返す洗浄繰り返し工程と、を含む上記(1)又は(2)に記載のツルマンネン草のカルス誘導方法を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の方法によれば、ツルマンネン草のカルス形成が可能である。また、効率よく、安定したカルス誘導が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明にかかるツルマンネン草のカルス誘導方法の処理フロー図
【図2】本発明にかかるツルマンネン草のカルス誘導方法における殺菌処理のフロー図
【図3】本発明に用いる固体培地で利用するMS溶液の調製処理フロー図
【図4】本発明に用いる固体培地で利用する植物ホルモン濃度が異なる植物ホルモン−MS溶液の調製処理フロー図
【図5】本発明に用いる固体培地の調製処理フロー図
【図6】植物ホルモンとして2,4−Dを用いた場合の、植物ホルモン濃度別のカルス発生確率を示すグラフ
【図7】植物ホルモンとして2,4−Dを用いた場合の、スクロース濃度別のカルス発生確率を示すグラフ
【図8】植物ホルモンとして2,4−Dを用いた場合の、寒天濃度別のカルス発生確率を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本件発明の実施の形態について、添付図面を用いて説明する。なお、本件発明は、これら実施形態に何ら限定されるべきものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得る。
<<実施形態1>>
<実施形態1:概要>
【0020】
図1に本実施形態の処理フロー図を示す。本実施形態は、ツルマンネン草の葉片を採取し(S0101)、採取した葉片を殺菌処理し(S0102)、殺菌処理した葉片を固体培地に置床し(S0103)、培養するツルマンネン草のカルス誘導方法であって、前記固体培地は、植物ホルモンと、糖を含有する寒天培地であるツルマンネン草のカルス誘導方法について説明する。
<実施形態1:構成>
【0021】
「ツルマンネン草」とは、Sedum Sarmentosum Burgeのことであり、中薬名を水盆草(垂盆草)といい、ベンケイソウ科キリンソウ属の多年性多肉植物である。全草は肝炎の有効成分であるサルメントシンを含む。中国では古来より肝炎治療の漢方薬として用いられ、以下のような臨床報告もなされている(出典:中薬大辞典 上海科学技術出版社、小学館編)。
【0022】
無黄疸型伝染性肝炎の治療において、ツルマンネン草の錠剤を用いた。錠剤は製法により低温錠(生薬3gを含む)と常温錠(生薬2gを含む)に分けられ、低温錠なら3〜5錠、常温錠なら5〜7錠を1日3回服用し、3ヶ月を1クールとした。その結果、低温錠を用いて蔓延性肝炎・慢性肝炎20例の治療において、うち18例で自覚症状が明らかに好転し、またトランスアミナーゼ値が正常になってすでに1ヶ月達するという結果が得られた。なお、トランスアミナーゼ値の回復はほとんどが治療開始2週間で確認された。また、常温錠を用いて急性肝炎・慢性肝炎・蔓延性肝炎合わせて47例の治療において、うち27例で自覚症状が明らかに好転し、トランスアミナーゼ値が正常になってすでに1ヶ月達するという結果が得られた。なお、トランスアミナーゼ値の回復はほとんどが治療開始2〜4週間で確認された。また、5例で症状が改善され、トランスアミナーゼ値も下降するか正常に近くなった。
【0023】
以上のように、ツルマンネン草は肝炎の肝庇護療法に有意な効果を発揮する。従って、ツルマンネン草の含有成分や、サルメントシンの分離・生成方法の確立、及び細胞融合や外来遺伝子の導入などの新しい技術の利用を最終的な目的として、本発明はその初期段階としてツルマンネン草のカルス誘導方法を提供するものである。
【0024】
なお、ツルマンネン草のカルス誘導において、培地に置床し、培養する植物体の一部は、葉片が望ましい。根を用いる場合、泥の洗浄が葉片より難しく泥に付着している細菌によるコンタミネーションに繋がる可能性もあり、対して葉片であれば採取及び殺菌操作が容易だからである。
【0025】
殺菌処理方法は従来よりカルス誘導方法に利用されてきた方法であれば特に限定しないが、ツルマンネン草が多肉植物であることから、葉片が厚く、図2に記載する方法が好ましい。つまり、採取した葉片を滅菌水で10分間洗浄する第一洗浄工程と(S0201)、前記第一洗浄工程で洗浄した葉片を0.1%界面活性剤水溶液で7分間殺菌する第一殺菌工程と(S0202)、前記第一殺菌工程で殺菌した葉片を滅菌水で10分間洗浄する第二洗浄工程と(S0203)、前記第二洗浄工程で洗浄した葉片を0.3%次亜塩素酸ナトリウム水溶液で7分間殺菌する第二殺菌工程と(S0204)、前記第二殺菌工程で殺菌した葉片を滅菌水で10分間洗浄する第三洗浄工程と(S0205)、前記第三洗浄工程で洗浄した葉片を70%エタノール水溶液で7分間殺菌する第三殺菌工程と(S0206)、当該第三殺菌工程で殺菌した葉片を滅菌水で10分間洗浄する工程を複数回繰り返し行う洗浄繰り返し工程と(S0207)、からなる殺菌処理方法である。なお、洗浄繰り返し工程(S0207)の繰り返しの回数は1回のみでもよいが、より確実に殺菌処理を行うためにも複数回繰り返し洗浄するのが好ましい。当該方法によれば、肉厚なツルマンネン草の内部まで殺菌できる。
【0026】
使用する固体培地は、植物ホルモンとして、2,4−ジクロロフェノキシ酢酸(2,4−dichlorophenoxy acetic acid)(以下、「2,4−D」とする)を2.0ppm〜4.0ppmと、糖としてスクロースを1.0%〜2.0%含有する。また、寒天は1.5%〜3.0%である。その他の成分はカルス誘導に一般的に用いられるものでよい。好ましくは、下記表1、及び表2に示すそれぞれMS培地(Murashige&Skoog培地)用混合塩類(以下、「MS塩類」とする)と、MS培地用ビタミン類(MP BIOMEDICALS社、MURASHIGE & SKOOG MODIFIED VITAMIN SOLUTION 1000X)(以下、「MSビタミン類」とする)を含有する固体培地である。
【0027】
[表1]

【0028】
[表2]

【0029】
また上記固体培地以外に、植物ホルモンとして、3−インドール酢酸(3−Indoleacetic acid)(以下、「IAA」とする)を10.0ppm、糖としてスクロースを1.0%、寒天を1.5%〜3.0%含有する寒天培地を固体培地として用いてもよい。上記固体培地と同様に、その他の成分はカルス誘導に一般的に用いられるものでよいが、好ましくはMS塩類及びMSビタミン類を含有する固体培地である。
【0030】
なお、培地の調製については、実施例1にて詳述する。
【0031】
なお、いずれの固体培地においても、培養は明条件で無菌条件下で行うのが好ましく、培養温度は特に限定しないが、25℃が好ましい。培養開始から2〜4週間でカルスの誘導が確認できる。
<実施形態1:効果>
【0032】
本実施形態の方法によれば、ツルマンネン草のカルス形成が可能である。また、効率よく、安定したカルス誘導が可能となる。
【実施例1】
【0033】
(1)固体培地の調製
【0034】
(i)MS溶液の調製
【0035】
図3にMS溶液の調製手順を示す。まず、上記表1のMS塩類粉末(略4.6g)を超純水約200mlで溶解し(S0301)、これを1000mlメスフラスコに移し、これに上記表2のMSビタミン類液を1〜2滴添加する(S0302)。これをフラスコの標線まで超純水を加え、よく混ぜ(S0303)、MS溶液とする。
【0036】
(ii)植物ホルモン−MS溶液の調製
【0037】
図4に、植物ホルモン−MS溶液の調製(S0401)と、下記植物ホルモン濃度が異なる植物ホルモン−MS溶液の調製(S0402)手順を示す。まず、植物ホルモン0.01gに、前記(i)で調製済のMS溶液を約30ml加え、超音波水槽にて溶解する(S0403)。その後、100mlメスフラスコに移し、再度MS溶液をフラスコの標線まで加え、よく混ぜる(S0404)。これを、植物ホルモン−MS溶液とする。なお、本実施例においては、植物ホルモンとして、2,4−D、IAA、ベンジルアデニン(N−Benzyladenine)(以下、「BA」とする)、キチネン(6−Furfurylaminopurine)の4種類を用い、4種類の植物ホルモン−MS溶液を調製した。
【0038】
(iii)植物ホルモン濃度が異なる植物ホルモン−MS溶液の調製
【0039】
前記(ii)で調製した植物ホルモン−MS溶液を、1,2,4,6,8,10mlずつ100mlメスフラスコに移し(S0405)、これにMS溶液を標線まで加え、よく混ぜる(S0406)。これにより、植物ホルモン濃度がそれぞれ1ppm、2ppm、4ppm、6ppm、8ppm、10ppmである植物ホルモン−MS溶液が調製される。植物ホルモン濃度が異なる植物ホルモン−MS溶液を下記表3にまとめる。
【0040】
[表3]

【0041】
(iv)固体培地の調製
【0042】
図5に固体培地の調製手順を示す。前記(iii)で調製した各種濃度の植物ホルモン−MS溶液10mlを(S0501)、スクロース(S0502)及び寒天(S0503)に加え混合し(S0504)、アルミ栓をしてオートクレーブにて120℃、20分間加熱滅菌処理をする(S0505)。その後、傾斜冷却し(S0506)、これを固体培地とする。なお、スクロース(S0502)は、それぞれ0.1g、0.2g、0.4g、0.6g、0.8g、1.0g(スクロース濃度:1.0%、2.0%、4.0%、6.0%、8.0%、10.0%)加えたものを調製した。また。寒天(S0503)は0.15g、0.30g(寒天濃度:1.5%、3.0%)加えたものを調製した。
【0043】
(2)培養結果
【0044】
(i)植物ホルモンが2,4−Dであって、寒天濃度が1.5%、3.0%の場合、それぞれ表4、表5の結果が得られた。なお、表中「〇」はカルス誘導が確認できたことを示し、「−」はカルス誘導が確認できなかったことを示す。
【0045】
[表4]

【0046】
寒天濃度1.5%の固体培地においては、2,4−Dが2ppmであって、スクロースが2.0%濃度の場合、2週目前後でツルマンネン草のカルス誘導が確認できた。同様に、2,4−Dが4ppmであって、スクロースが1.0%濃度及び2.0%濃度の場合、2週目前後でツルマンネン草のカルス誘導が確認できた。また、いずれの場合も、4週目においてもカルス誘導が確認できた。
【0047】
[表5]

【0048】
寒天濃度3.0%の固体培地においては、2,4−Dが10ppmであって、スクロースが1.0%濃度の場合、4週目でツルマンネン草のカルス誘導が確認できた。なお、それ以前では確認できなかった。
【0049】
(ii)植物ホルモンがIAAであって、寒天濃度が1.5%の場合、カルス形成は確認できなかった。寒天濃度が3.0%の場合、表6の結果が得られた。
【0050】
[表6]

【0051】
寒天濃度3.0%の固体培地においては、IAAが10ppmであって、スクロースが1.0%濃度の場合、ツルマンネン草のカルス誘導が確認できた。また、同時に発根も確認された。
【0052】
(iii)植物ホルモンがBA又はキチネンの場合、植物ホルモン濃度、寒天濃度、スクロース濃度に係わらず、ツルマンネン草のカルス形成が確認できなかった。
【0053】
(3)まとめ
【0054】
以上より、ツルマンネン草のカルス誘導においては、使用する植物ホルモン、及び固体培地中の植物ホルモン濃度及びスクロース濃度、寒天濃度の影響を大きく受けることが分かった。そして、使用する植物ホルモンとしては、2,4−D及びIAAが有効であることがわかった。なかでも2,4−Dがより有効であることが示唆された。
【0055】
そこで、下記実施例2で、植物ホルモンとして2,4−Dを2〜4ppm含有する固体培地を用いて、ツルマンネン草のカルス誘導について更に検討した。
【実施例2】
【0056】
(1)固体培地の調製
【0057】
上記実施例1(1)と同様の方法で、2,4−Dは、各々2ppm、3ppm、4ppm含有し、スクロースは、各々1.0%、1.5%、2.0%含有し、寒天は各々1.5%、3.0%含有する固体培地を調製した。
【0058】
(2)培養結果
【0059】
寒天濃度が1.5%である各種固体培地におけるカルス細胞の発生確率を表7に、寒天濃度が3.0%である各種固体培地におけるカルス細胞の発生確率を表8に示す。
【0060】
[表7]

【0061】
[表8]

【0062】
また、全ての固体培地においてカルス誘導が確認できた。また、上記結果を用いて、2,4−D濃度、スクロース濃度、寒天濃度とカルス誘導との関係を図6乃至図8に示す。図6は、スクロース濃度及び寒天濃度に係わらず、各2,4−D濃度(2ppm、3ppm、4ppm)におけるカルス発生確率を示す。つまり、図6において、各2,4−D濃度が2ppmの場合のカルス発生確率93.62とは、表7及び表8における2,4−D濃度2ppmで、スクロース濃度が1.0%、1.5%、2.0%の場合を全て合わせたカルス発生確率である(44÷47×100=93.617・・・)。同様に、図7は、2,4−D濃度及び寒天濃度に係わらず、各スクロース濃度(1.0%、1.5%、2.0%)を合わせたカルス発生確率を示し、図8は、2,4−D濃度及びスクロース濃度に係わらず、各寒天濃度(1.5%、3.0%)を合わせたカルス発生確率を示す。
【0063】
図6より、カルス細胞発生に最適な2,4−D濃度は2ppmであることが示された。また、図7より、スクロース濃度の増加に伴い、カルス発生確率も増加することが分かり、最適なスクロース濃度は2.0%であることが示された。また、図8より最適な寒天濃度は3.0%であることが示された。
【0064】
(3)まとめ
以上より、ツルマンネン草のカルス誘導は、植物ホルモンとして2,4−Dを2ppm含有し、また糖分としてスクロースを2.0%含有する固体培地上で行うのが最も効率が良いことが示唆された。なお、寒天濃度については、図8に示すとおり、カルス発生確率については1.5%と3.0%で大きな差異はみられなかったが、カルス化に要する時間は、寒天濃度1.5%の固体培地の方がより短くてすむため、寒天濃度は1.5%が好ましいことが示唆された。これは、寒天濃度が低い方が培地が柔らかく、組織への培地成分の浸透がスムーズに行われるためと考えられる。他方で、カルス化により長い時間を要する場合、培地の乾燥を防ぐために組織の置き換え回数も増え、またコンタミネーションの可能性も増加するためである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ツルマンネン草の葉片を採取し、採取した葉片を殺菌処理し、殺菌処理した葉片を固体培地に置床し、培養するツルマンネン草のカルス誘導方法であって、
前記固体培地は、2,4−ジクロロフェノキシ酢酸を2.0ppmから4.0ppmと、スクロースを1.0%から2.0%と、寒天を1.5%から3.0%含有する寒天培地であるツルマンネン草のカルス誘導方法。
【請求項2】
前記固体培地は、2,4−ジクロロフェノキシ酢酸に代えて、3−インドール酢酸を10.0ppmを含有し、スクロースを1.0%と、寒天を1.5%から3.0%含有する寒天培地である請求項1に記載のツルマンネン草のカルス誘導方法。
【請求項3】
前記殺菌処理は、
滅菌水で10分間洗浄する第一洗浄工程と、
前記第一洗浄工程で洗浄した葉片を0.1%界面活性剤水溶液で7分間殺菌する第一殺菌工程と、
前記第一殺菌工程で殺菌した葉片を滅菌水で10分間洗浄する第二洗浄工程と、
前記第二洗浄工程で洗浄した葉片を0.3%次亜塩素酸ナトリウム水溶液で7分間殺菌する第二殺菌工程と、
前記第二殺菌工程で殺菌した葉片を滅菌水で10分間洗浄する第三洗浄工程と、
前記第三洗浄工程で洗浄した葉片を70%エタノール水溶液で7分間殺菌する第三殺菌工程と、
当該第三殺菌工程で殺菌した葉片を滅菌水で10分間洗浄する工程を複数回繰り返す洗浄繰り返し工程と、
を含む請求項1又は2に記載のツルマンネン草のカルス誘導方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−4662(P2011−4662A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−151490(P2009−151490)
【出願日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【出願人】(598163064)学校法人千葉工業大学 (101)
【Fターム(参考)】