説明

テクスチャーで硬化したアルファ−アルミナを被覆した切削工具インサート

【課題】本発明は、金属機械加工において使用すべき被覆された切削工具インサート及びテクスチャー硬化α−Al23層に関する。
【解決手段】該アルミナ層は、改善された靭性によって特徴づけられ、その全ての機能的部分を覆う基板に接着する。被膜は、2〜12の長さ/幅比をもつ柱状粒子から成る2〜20μmの範囲の厚みをもつテクスチャー硬化α−Al23である少なくとも1つの層を含めた1種以上の耐熱層で構成されている。α−Al23は強い(0006)回折ピークを示す。改善された摩耗耐性及び靭性は、(0006)反射についてのテクスチャー係数(TC)が1.33 ln h+2(ここでhはα−Al23層の厚みである)より大きい場合、そしてα−Al23層の表面が1μm未満のRa値まで湿式ブラストされた場合に得られる。強い(0001)テクスチャーをもつアルミナ層は、結合相富化超硬合金基板上に適用される。この組合せは、耐摩耗性及び靭性の増強に寄与する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械的制約条件が著しく変動する例えば鋼(低合金鋼及び硬化鋼)及び鋳鉄特にノジュラー鋳鉄の旋削といった広範な金属切削作業において有用なテクスチャー(組織)で硬化したα−Al23層及び靭性表面領域を備える基板を組合せた、被覆超硬合金インサートに関する。
【背景技術】
【0002】
工業規模でのα−Al23多形体の制御は、米国特許第5,137,774号に基づいた商業的製品で1990年代の始めに達成された。その後この特許の改良は、好ましいテクスチャーを備えるα−Al23を堆積するために用いられた。米国特許第5,654,035号では(10−12)テクスチャーをもつアルミナ層が、または、米国特許第5、980、988号では(11−20)テクスチャーをもつアルミナ層が開示されている。米国特許第5,863,640号では、(10−12)、(10−14)及び(11−20)テクスチャーが開示されている。米国特許第6、333、103号は、(10−1(10))平面上のα−Al23の粒子生成及び成長を制御するための改良された方法について記述している。米国特許第6,869,668号は、テクスチャー改良剤(ZrCl4)を用いて、α−Al23内に強い(10−10)テクスチャーを得るための方法について記述している。上述の先行技術過程は全て、約1000℃という被覆温度を使用する。米国特許第7,094,447号は、顕著な(10−12)テクスチャーを達成するための技術について記述している。顕著な(10−14)及び(1126)テクスチャーを生み出すための増強された被覆技術が、それぞれ米国特許第2006/0199026号及び米国特許第2006/0141271号に開示されている。しかしながら、(0001)テクスチャーの指標である(0006)回折ピークは、以前に観察されていなかった。米国特許第2007/104945号では、(0001)テクスチャー加工されたアルミナ層が開示されている。(10−12)、(10−14)及び(0001)テクスチャー加工されたアルミナ層は比較され、(0001)テクスチャーがその他のテクスチャーよりも優れていることがわかっている。
【0003】
被覆に先立ち超硬合金切削工具インサートの上部部分内に靭性ある結合相富化表面領域を生成する方法は、一般に勾配焼結と呼ばれている。該結合相富化表面領域を生成するのに使用される過程としては2つのタイプが存在する。すなわち、
(i)表面近くでの立方晶系炭化物相の溶解によるもの(N−勾配)、米国特許第4,277,283号、米国特許第4,610,931号、米国特許第4,830,930号及び米国特許第5,106,674号、
(ii)制御された冷却または脱炭による(C勾配)、米国特許第5,106,674号及び米国特許第4,830,930号。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第5,137,774号
【特許文献2】米国特許第5,654,035号
【特許文献3】米国特許第5、980、988号
【特許文献4】米国特許第5,863,640号
【特許文献5】米国特許第6、333、103号
【特許文献6】米国特許第6,869,668号
【特許文献7】米国特許第7,094,447号
【特許文献8】米国特許第2006/0199026号
【特許文献9】米国特許第2006/0141271号
【特許文献10】米国特許第2007/104945号
【特許文献11】米国特許第4,277,283号
【特許文献12】米国特許第4,610,931号
【特許文献13】米国特許第4,830,930号
【特許文献14】米国特許第5,106,674号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
新しい法律/規則により、金属機械加工における冷却用潤滑油の使用のコストは増大することになる。このことが乾式機械加工を促進させる。その代り、これにより、さらに温度耐性ある被覆された超硬合金に対する需要は増大することになり、一般に金属切削業界は新しい代替的方法を考慮せざるを得なくなる。以下に記すのは、市場における最も重要な傾向である。
・生産性増大のためのより高い切削速度。
・コスト削減及び環境の見地から見た乾式機械加工及び/または最少油量潤滑(MQL)。
・部材及び構造の軽量化のための難加工材料すなわち高強度材料。
【0006】
これらの傾向は全て、変性耐性及び靭性と合わせて、耐摩耗性についての要求を高くしている。その高い化学安定性及び有利な熱特性のため、Al23は、高速金属切削のための理想的な被膜材料である。上述の市場における傾向に起因して、増強された靭性と合わせて増強された耐摩耗性に対する要求が浮き彫りにされている。
【0007】
本発明の目的は、変形耐性及び靭性と合わせて耐摩耗性が改善された改良型アルミナ被膜超硬合金工具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
今や驚くべきことに、結合相富化基板と組合せて、テクスチャー硬化効果の最大限の利点を達成できるということが発見された。このような超硬合金上に適用された場合、(0001)テクスチャー硬化α−Al23は明らかに先行技術より優れた性能を示す。コバルト富化の効果は、(0001)テクスチャーの存在により強化される。もう1つの驚くべき効果は、切削エッジが塑性変形を起こす傾向を(0001)テクスチャーが明らかにを減少させるということにある。
【0009】
かくして、本発明は、結合相富化表面領域をもつ超硬合金とテクスチャー硬化α−Al23層を組合せている。以下のものを含む切削工具インサートが提供される。
【0010】
a)バルク基板
本発明に従うと、4〜12、好ましくは5〜9、最も好ましくは6〜7wt%のCo、周期表のIVb、Vb及びVIb群からの金属、好ましくはTi、Nb及びTaの立方晶系炭化物5〜10、好ましくは7.5〜9.5wt%、そして残りはWC、好ましくは83〜87wt%のWCという組成をもつ超硬合金本体から成る被覆された切削工具インサートが提供される。TaとNbの重量濃度間の比率は1.0〜3.0の間、好ましくは1.5〜2であり、Ti及びNbのそれは0.5〜2.0、好ましくは0.8〜1.2である。
【0011】
コバルト結合相は好ましくはタングステンで高合金化されている。結合相中のWの濃度は、S値=σ/16.1として表わすことができ、式中σはμTm3kg-1単位の結合相の磁気モーメントである。S値は、結合相内のタングステンの含有率により左右され、タングステン含有率の減少と共に増大する。かくして、純粋コバルトについて、或いは炭素で飽和した結合剤についてS=1である。さらに、η−相の形成に対する境界線に対応する量でWを含有する結合相についてはS=0.78であることが指摘される。Sは、0.78という境界線値よりもわずかに高いもの、好ましくは0.79〜0.90の範囲内、最も好ましくは0.80〜0.85の範囲内とすべきである。
【0012】
飽和保磁力として表わされる平均WC粒子サイズは9〜18、好ましくは10〜15、最も好ましくは11〜13kA/mである。
【0013】
b)コバルト富化
超硬合金バルクの表面領域内の結合相富化層の厚みは、5〜50、好ましくは10〜30、最も好ましくは15〜25μmである。これは、バルクの公称結合相含有量のものの1.2〜2.5倍の範囲内の平均結合相含有率を有し、基本的に立方晶系炭化物を含まない。
【0014】
c)α−Al22
被膜は、テクスチャー硬化α−Al23層である少なくとも1層を含む1種以上の耐熱層で構成されている。α−Al23層の厚みは1〜20、好ましくは2〜15、より好ましくは4〜12そして最も好ましくは4〜7μmである。α−Al23層は、強い(0001)テクスチャーをもつ柱状粒子で構成されている。アルミナ粒子の長さ/幅比は、層の厚みに左右され、2〜12、好ましくは2〜10である。α−Al23層は、CuKr放射線が用いられる場合、2Q=41、675°で(0006)回折ピークにより特徴づけられる。(10−12)、(10−14)、(11−20)、(11−23)、(11−26)及び(30−30)といったようなその他の一般的回折ピークは低い強度を示す。アルミナ層についてのテクスチャー係数(TC)は以下の式(1)に従って決定される。
【数1】

として定義され、ここで、
I(hkil)は、(hkil)反射の強度であり、
Io(hkil)は、JCPDSカードのNo.46−1212に従った標準強度であり、
n=計算中に使用された反射回数であり、使用された(hkil)反射は
【数2】

である。従ってn=6であり、テクスチャー係数の最大値は6である。
【0015】
TC(0006)反射についてのTC値がより多くの数のアルミナ層について測定され、得られた値が層の厚みの1関数として表わされた時点で、以下の曲線を実験データと適合させることができた。従って、好ましいTC(0006)値を次のように表わすことができる。
TC(0006)≧1.33 ln h+2,hε[1,20] (2)
【0016】
上式(2)は、厚みhが約1から20μmまで変動する実験的層から得られた最低のTC(0006)値を表わしている。TC(0006)が等式(2)から得られるものより大きい場合、より良い性能が得られるということが指摘される。例えば、厚みhが4μm以上である場合4超、好ましくは5超のTC(0006)値が好まれる。切削試験は、TC(0006)≧5である場合に、増強された性能が得られるということを明らかに示している。これらの状況は、CVD過程が核生成及び成長に関して適切に制御された場合に得ることができる。さらに、式(2)から明白であるように、ここでも又CVD過程が適切に制御されることを条件として、CVD層の厚みが大きくなればなるほど(0006)ピークの強度及びTC(0006)が一般に高くなるということが指摘される。3超好ましくは4超のTC(0006)は、4μm未満の比較的薄いアルミナ層について受容可能である。テクスチャー硬化CVDアルミナ層は、約0.5〜1.0GPaの引張り残留応力下にある。本発明に従ったα−Al23層は、被覆された状態のα−Al23に関するものであるということが強調される。
【0017】
α―Al2O層にさらに、Al23スラリーを用いて湿式ブラストすることで得ることのできる光沢ある好ましくは黒色の表面仕上げを特徴とする。Raとして表わされる表面粗度は、1.0μm未満、好ましくは0.7μm未満、最も好ましくは0.5μm未満であるべきである。
【0018】
a)被膜
本発明にしたがう被膜は、1〜20、好ましくは5〜10、最も好ましくは5〜8μmの厚みをもつCVD−Ti(C,N)、CVD−TiN、CVD−TiC、MTCVD−Ti(C,N)、MTCVD−Zr(C,N)、MTCVD−Ti(B,C,N)、CVD−HfNまたはその組合せ、好ましくはTi(C,N)の基板に隣接する第1層を含む。前記第1層に、好ましくは外部表面に向かってアルミニウム含有率が増大する厚み0.5〜1μmの(Ti,Al)(C,O,N)の結合層により終結される。好ましくは、3μm未満、好ましくは0.5〜2μmの厚みで、前記第1層と基板の間にTiNの中間層が存在する。
【0019】
一つの実施態様においては、上述のテクスチャー硬化α−Al23層は最上層である。もう1つの実施態様においては、上述のテクスチャー硬化α−Al23層の上に約0.5〜3μm、好ましくは0.5〜1.5μmの厚みを有するTi、Zr及びHfのうちの1種以上の炭化物、窒化物、炭窒化物またはカルボキン窒化物の層が存在する。この場合も同様に、被膜表面は上述の通りのRaとして測定された表面粗度を有する。
【0020】
e)好ましい実施態様
1つの好ましい実施態様においては、切削工具インサートは、周期表の第IVB、VB及びVIb群からの金属の立方晶系炭化物6.5〜9.5wt%及び6〜9wt%のCoという組成を有し、ここで最上層は、2〜15の長さ/幅比及び4.5以上のTC(0006)をもつ柱状粒子から成る厚み4〜7μmで湿式ブラストされた(Ra<1μm)α−Al23層である。被膜にはさらに、厚み4〜10μm好ましくは5〜7μmのCVD−Ti(C,N)、CVD−TiN、CVD−TiC、MTCVD−Ti(C,N)、MTCVD−Ti(C,O,N)、MTCVD−(Ti,Al)(C,O,N)またはその組合せ好ましくはTi(C,N)から成る超硬合金基板に隣接する第1層が含まれている。
【0021】
もう1つの好ましい実施態様においては、切削工具インサートは、周期表の第IVB、VB及びVIB群からの金属の立方晶系炭化物5〜10wt%及び4〜6wt%のCoという組成を有し、ここで最上層は、2〜20の長さ/幅比及び5.0以上のTC(0006)をもつ柱状粒子から成る厚み6〜15μmで湿式ブラストされた(Ra<1μm)α−Al23層である。被膜にはさらに、厚み4〜15μm好ましくは5〜10μmのCVD−Ti(C,N)、CVD−TiN、CVD−TiC、MTCVD−Ti(C,N)、MTCVD−Ti(C,O,N)、MTCVD−(Ti,Al)(C,O,N)またはその組合せ好ましくはTi(C,N)から成る超硬合金基板に隣接する第1層が含まれている。
【0022】
f)方法
本発明は同様に、立方晶系相を基本的に含まない結合相富化表面領域を伴う立方晶系炭窒化物、WC、Coの結合相から成る超硬合金基板そして被膜を含む、本明細書にしたがう切削工具インサートの製造方法にも関する。4〜9好ましくは5〜8、最も好ましくは6〜7wt%のCo、及び周期表のIVB、VB及びVIB群からの金属、好ましくはTi、Nb及びTaの立方晶系炭化物6〜10、好ましくは6.5〜9.5、最も好ましくは7.5〜9wt%、そして残りはWC、好ましくは84〜88wt%のWCを含有する粉末混合物。Ta及びTbの重量濃度間の比率は1.0〜3.0の範囲内、好ましくは1.5〜2の範囲内にある。TiとNbの重量濃度間の比率は、0.5〜1.5、好ましくは0.8〜1.2の範囲内である。充分に制御された量の窒素が例えば窒化物といった粉末を通して添加されるかまたは例えば窒素ガスを用いて炉の中で現場内窒化を実施することによって添加される。添加すべき窒素の最適量は、超硬合金の組成、特に立方晶系相の量に左右される。正確な条件は、或る程度は、使用中の焼結用機器の設計により左右される。所望の結果を得るために本明細書にしたがう焼結過程及び窒素添加を決定し修正するのは、当業者の範疇に入ることである。
【0023】
粉末材料は、所望のS値が得られるような形でタングステンまたは炭素及び加圧成形剤と混合され、混合物は、所望の特性をもつ粉末材料を得るべく湿式粉砕され噴霧乾燥させられる。その後、粉末は圧密され焼結される。焼結は1300℃〜1500℃の温度で、約50mbarの制御された雰囲気内で実施され、その後冷却される。
【0024】
エッジ丸めを含む従来の焼結後処理の後に、CVD及びMTCVD技術を用いて被膜が適用される。第1層は、任意には、基板に隣接した厚み3μm未満、好ましくは0.5〜2.0μmの薄いTiN層そして付加的にはアルミナ−Ti(C,N)界面の下0.5〜2.5μmのところに位置する厚み3μm未満、好ましくは0.5〜2.0μmのもう1つの任意のTiN層を含む、MTCVD−Ti(C,N)である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に従ったα−Al23層からCuKr放射を用いることによって得られた41.675°の2Qにおける(0006)回折ピークを示す。
【図2a】N勾配での超硬合金の表面領域の未被覆で研磨済みの横断面の倍率1200倍の光学顕微鏡写真である。白色相は結合相であり、明灰色はWCであり、暗灰色は立方晶系相である。
【図2b】図2aからの基板上に被覆させられたTi(C,N)層上に被覆させられた本発明に従った被覆済みα−Al23の研磨された横断面の後方散乱電子を用いて得られた倍率10000倍のSEM顕微鏡写真である。
【図3】本発明に従ったテクスチャー硬化α−Al23層、実施例3からの被膜Cの横断面SEM顕微鏡写真を示す。被膜表面にほぼ平行な(0001)平面に矢印がついている。
【図4a】実施例3からの(0001)テクスチャー加工されたα−Al23層cのSEM表面画像を示す。図4aの該発明に従った層、層cは、図4bの先行技術に従った層、層dのように(0001)平面により終結されていない。
【図4b】実施例3からの(0001)テクスチャー加工されたα−Al23層dのSEM表面画像を示す。図4bの先行技術に従った層、層dは(0001)平面により終結されている。
【図5】実施例4からのα−Al23層a、b、及びcのX線回折(XRD)パターンを示す。
【図6】実施例7中の切削試験におけるmm/rev単位の送り速度と無損傷切削エッジ数の関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は同様に、(0001)テクスチャーを有し850〜1050℃の温度範囲内、好ましくは900〜1000℃でテクスチャー加工されたα−Al23層を生産する洗練された方法にも関する。α−Al23層は、好ましくは外部表面に向かってアルミニウム含有率が増大する(Ti、Al)(C、O、N)の結合層の上に被覆されている。この層の上に、制御されたOの含有率でTi(C、O)層が被覆されている。ALD(原子層蒸着)において用いられるものと同じ要領で、非常に薄い酸化チタン核生成層が得られる。手順は以下の通りである。
(i)好ましくはAlCl3とあわせた、第1の前駆物質TiCl4の曝露段階、
(ii)パージ(N2)段階、
(iii)第2の前駆物質(H2O)の曝露段階、
(iv)パージ(N2)段階。(i)と(iii)の段階の持続時間は各々1〜5分、好ましくは2分であり、(ii)と(iv)の段階は各々2〜10分、好ましくは5分である。
【0027】
α−Al23の被覆は、硫黄またはフッ素含有化合物無しで比較的長い30〜120分、好ましくは60分の核生成段階で開始される。α−Al23は、任意にはフッ素含有化合物SFまたはHF、好ましくはSF6と共に硫黄含有化合物H2SまたはSO2好ましくはH2Sを用いてその所望の厚みまで成長させられる。α−Al23が適正に核生成されその後CO+CO2気体混合物(ここでCO=2.5−5.5×CO2)と共に比較的少量のこれらのドーパントを使用して被覆過程を行なった時点で、先行技術から知られているものよりも強い(0001)成長テクスチャーを、制御された形で得ることができる。先行技術と比べた重要な差異は、核生成手順に加えて、α−Al23自体の成長の間も、テクスチャーが制御されているという点にある。CO/CO2比は、好ましい成長方向を維持するべくCVD過程中2.5から5.5まで漸進的に増大させられる。その結果、(0001)テクスチャーはより強く、アルミナ層の表面微細構造は(10−12)及び(10−14)表面により終結されて、先の既知のものと異なっている。核生成及び成長の両方が正しく制御されているのではないかぎり、記述されたテクスチャーを得ることはできない。これは、(0001)テクスチャ〔(0006)回折ピーク)〕がこれまで知られていなかったという事実についての1つの考えられる説明である。
【0028】
被覆作業の後、Al23スラリーを用いた湿式ブラストにより得ることのできる1.0μm未満、好ましくは0.7μm未満、最も好ましくは0.5μm未満のRaとして表現される表面粗度をもつ、光沢のある好ましくは黒色の表面仕上げを得るように、最も外側の層は平滑化される。Ra値は、湿式ブラストデータ、例えば圧力及び時間により容易に制御可能である。当然のことながら、考えられるその他の表面処理もいくつか存在し、これからも適用することができる。
【実施例】
【0029】
実施例1
0.83のS値に対応するWで合金化された結合相を伴う、6.6wt%のCO、3.6wt%のTaC、2.2wt%のNbC、2.5wt%のTiC及び残りWCという組成をもつCNMG120408−M5及びSNUN120408型式の超硬合金インサートを、原料粉末の従来の粉砕、グリーンコンパクトの加圧成形及び後続する1430℃での焼結によって生産した。窒素をTi(C,N)としての炭化物粉末に添加した。焼結後の微細構造の調査は、約20μmの厚みをもつ立方晶系炭化物の無い領域が形成されるということを示した(図2a)。飽和保磁力は、約1μmの平均粒子サイズに対応する11.8kA/mであった。この基板を「基板A」と呼ぶ。
【0030】
実施例2(比較例)
実施例1で使用されている通りの、ただし窒素添加の無い類似の粉末混合物から、CNMG120408−M5及びSNUN120408の型式のインサートを標準的な手順に従って加圧成形し焼結した。インサートを検査し、これらはCo富化を全く示さなかった。平均粒子径は、実施例1と同じであった。この基板を「基板B」と呼ぶ。
【0031】
実施例3
実施例1及び2からの超硬合金切削インサートを、MTCVD−Ti(C,N)の層で被覆した。MTCVD層の厚みは約6μmであった。この層の上に、約6μmのα−Al23から成る4つのαAl23層を被覆させた。
a)(10−12)テクスチャー加工されたα−Al23(先行技術に従ったもの)、
b)(10−14)テクスチャー加工されたα−Al23(先行技術に従ったもの)、
c)(0001)テクスチャー加工されたα−Al23(本発明)、及び
d)先行技術米国特許第2007/104945号に従った(0001)テクスチャー加工されたα−Al23
【0032】
これらの層を層a、b、c及びdと呼ぶことにする。例えば、層aを伴う基板AはAaと呼ばれる。層cを該発明に従って被覆させた。先行技術の過程を用いて層dを被覆させた。層cのために使用された過程は、(0001)方向に沿ってより強い成長を結果としてもたらし、この層のα−Al23粒子の表面は、(0001)表面(本発明)によって終結されなかった。
【0033】
被覆された工具を、0.8μm未満のRa値までアルミナ粒子を用いて湿式ブラストした。図3は、湿式ブラスト前の層cの横断面SEM顕微鏡写真を示す。アルミナ層は、基板表面に平行な(0001)平面(矢印付き)をもつ柱状粒子で構成されている。図4は、表面形態の以上で論述した差異を実証する層c及びdのSEM表面画像を示している。
【0034】
実施例4
X線回折を用いて層a)、b)、c)及びd)を研究した。X線回折パターンは図5に提示されている。層a)及びb)上の(0006)回折ピークの不在に留意すべきである。TC(10−12)、TC(10−14)及びTC(0006)を決定した。結果は表1に提示されている。2つの異なる(0001)テクスチャー加工されたアルミナ層が生産されたという点に留意されたい(強い(0006)回折ピークを伴う層c及びd)。層cは、該発明に従ったものである。
表1
層 ピーク指数(hkil) TC(hikl)
a (10−12) 5.16
b (10−14) 4.23
c (0006) 5.55(本発明)
d (0006) 4.02(先行技術)
【0035】
実施例5
実施例1からの60の超硬合金切削インサートをMTCVD−Ti(C,N)層で被覆グした。2、4、6、8、10及び15μmという厚みで本発明に従ってα−Al23アルミナ層でこれらのうち10個のインサートを被覆した(厚み1種類あたり10個のインサート)。同一の過程を用いてアルミナ層を被覆させた。XRDにより回折ピーク強度を決定し、等式1を使用することによりTC値を得た。結果は、表2に示されている。
表2
層厚み(μm) TC(インサート10個の平均)
2 3.4±0.4
4 4.9±0.6
6 5.2±0.5
8 5.4±0.4
10 5.5±0.4
15 5.7±0.2
【0036】
実施例6
実施例1からの結合相富化基板上に被覆された層a)、b)及びc)を、以下の条件下で溝付き棒材試験を用いて評価した。
加工対象物:円筒形溝付き棒材
材料:SS1672
インサートの型式:CNMG120408−M5
切削速度:130m/分
送り速度:一回転あたり0.1、0.125、0.16、0.20、0.25、0.315、0.4、0.5、0.63、0.8及び1.0mm、長さ10mmを切削した後に漸進的に増加。
切削深さ:2.0mm
備考:乾式旋削
工具寿命基準:エッジ破断に至るまで漸進的に送り速度を増大。各変形形態の10のエッジをテストした。
【0037】
結果は、送り速度(mm/回転)の関数としての残存したエッジの数を示す図6に提示されている。図6は、工具の特性にとって層のテクスチャーが重要であることを実証している。(0001)テクスチャー硬化層は先行技術よりも優れた性能を示す。
【0038】
実施例7
実施例1〜3からの被覆されたインサートを、断続的切削で旋削作業中の靭性に関してテストした。加工対象物の材料はSS2343であった。
加工対象物:円筒形溝付き棒材
材料:SS2343
インサートに型式:CNMG120408−M5
切削速度:70m/分
送り速度:一回転あたり0.1、0.125、0.16、0.20、0.25、0.315、0.4、0.5、0.63、0.8及び1.0mm、長さ10mmを切削した後に漸進的に増加。
切削深さ:2.0mm
備考:冷却材、各変形形態の15のエッジをテストした。
【0039】
表3から明白であるように、結合相富化基板上に本発明に従って層を被覆させた場合にエッジ靭性は著しく増強された。試験の結果は、該発明に従った層(層c)が、結合相富化基板上に被覆された場合に先行技術(層a及びb)よりも明らかに優れた靭性を示すということを示した。
表3
基板/被膜 破断時の平均送り速度
Aa 0.31
Ab 0.40
Ac(本発明) 0.64(Abと比較して+60%)
Ad(先行技術) 0.49(Abと比較して+23%)
Ba 0.14
Bb 0.21
Bc 0.26(Bbと比較して+24%)
Bd 0.24(Bbと比較して+14%)
【0040】
実施例8
層a)、b)、c)及びd)を、鋳鉄中での長手方向旋削におけるエッジチッピングに関してテストした。このタイプの鋳鉄は、このタイプの工具にとって好ましい加工対象物材料ではないにせよ、アルミナ層のエッジチッピング傾向を評価する目的で使用された。
加工対象物:円筒棒材
材料:SS0130
インサートに型式:SMUN120408
切削速度:220m/分
送り速度:0.4mm/回転
切削深さ:2.0mm
備考:乾燥旋削
【0041】
2分及び6分の切削後にインサートを検査した。表4から明らかであるように、先行技術の製品のエッジ靭性は、層が本発明に従って生産された場合に著しく増強された。
表4
2分後のエッジ 6分後のエッジ
ラインの剥離(%) の剥離(%)
Aa 8 22
Ab 6 17
Ac 4 8
Ad 4 12
【0042】
実施例9
実施3からの層a(先行技術)、c(本発明)及びd(先行技術)を、冷却材を用いて普通の炭素鋼内での連続旋削においてテストした。以下の切削データを使用した。
加工対象物:円筒棒材
材料:SS1672
インサートタイプ:SNUN120408
切削速度:320m/分
送り速度:0.4mm/回
切削深さ:2.0mm
工具寿命基準:側面摩耗>0.3mm
該例は、耐摩耗性が、該発明に従ったより高いTC(0006)をもつアルミナ層についてより高いものであることを実証している。試験結果は、表5にまとめられている。
表5
実験的基板/被膜 工具寿命(分)
被膜Aa(先行技術) 5.2
被膜Ac(本発明) 11.5
被膜Ad(先行技術) 8.2

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超硬合金本体及び被膜を含む切削工具インサートにおいて、
前記超硬合金本体がWCと、4〜12好ましくは5〜9wt%のCoと、0.79〜0.90のS値と9〜18好ましくは10〜15kA/mの飽和保磁力とをもつ周期表の第IVb、Vb及びVIb群からの金属で好ましくはTi、Nb及びTaの立方晶系炭化物を5〜10好ましくは7.5〜9.5wt%を含み、前記超硬合金本体の少なくとも1つの表面が、被膜に隣接して超硬合金を基本的に含まない厚み5〜50μm好ましくは5〜30μmの結合相富化表面領域を有し、前記被膜の少なくとも1層は、2〜12の長さ/幅比をもつ柱状粒子から成る厚み1〜20好ましくは2〜15μmのα−Al23であり、前記α−Al23層はテクスチャー係数TC(0006)を有し、
TC(0006)≧1.33 lnh+2であり、
式中のhはμm単位の前記α−Al23層の厚みであり、且つTC(0006)は、次のように定義され
【数1】

I(hkil)は、(hkil)反射の測定強度であり、
Io(hkil)は、JCPDSカードのNo.46−1212に従った標準強度であり、
nは、計算中に使用された反射回数であり、
使用された(hkil)反射は、
【数2】

であることを特徴とする切削工具インサート。
【請求項2】
5〜30μmの厚みをもつ結合相富化表面領域が基本的に、被膜に隣接して立方晶系炭化物を含まず、少なくとも1層が、2から12の長さ/幅比及びTC(0006)≧5をもつ柱状粒子から成る厚み4〜15μmの前記α−Al23層であることを特徴とする請求項1に記載の切削工具インサート。
【請求項3】
5〜30μm未満の厚みをもつ結合相富化表面領域が基本的に、前記被膜に隣接して立方晶系炭化物を含まず、少なくとも1層が、2〜10の長さ/幅比及びTC(0006)≧4をもつ柱状粒子から成る厚み4μm未満のα−Al23層であることを特徴とする請求項1に記載の切削工具インサート。
【請求項4】
前記被膜が、CVD−Ti(C,N)、CVD−TiN、CVD−TiC、CVD−HfN、MTCVD−Ti(C,N)、MTCVD−Ti(C,O,N)、MTCVD−Zr(C,N)、MTCVD−Zr(C,O,N)、MTCVD−Ti(B,C,N)、MTCVD(Ti,Al)(C,O,N)またはこれらの組合せ、好ましくはTi(C,N)でできた厚み1〜20μm好ましくは5〜10μmの本体に隣接する第1層、及び前記第1層に隣接する前記テクスチャー硬化α−Al23層を含んで成ることを特徴とする請求項1〜3に記載の切削工具インサート。
【請求項5】
α−Al23層が1.0μm未満好ましくは0.7μm未満のRa値をもつ最上層であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の切削工具インサート。
【請求項6】
0.5〜3μm好ましくは0.5〜1.5μmの厚みをもつTi、Tr及びHfの少なくとも1種の炭化物、窒化物、炭窒化物またはカルボキシ窒化物の層がα−Al23層の上にあることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の切削工具インサート。
【請求項7】
前記層が、1.0μm未満好ましくは0.5μm未満のRa値をもつ最上層であることを特徴とする請求項6に記載の切削工具インサート。
【請求項8】
周期表の第IVb、Vb及びVIb群からの金属の立方晶系炭化物6.5〜9.5wt%及び6〜9wt%のCoという組成を特徴とし、ここで最上層が、2〜15の長さ/幅比及び4.5以上のTC(0006)をもつ柱状粒子から成る厚み4〜7μmで湿式ブラストされた(Ra<1μm)α−Al23層であり、前記被膜はさらに、厚み4〜10μm好ましくは5〜7μmのCVD−Ti(C,N)、CVD−TiN、CVD−TiC、MTCVD−Ti(C,N)、MTCVD−Ti(C,O,N)、MTCVD−(Ti,Al)(C,O,N)またはその組合せ好ましくはTi(C,N)から成る超硬合金基板に隣接する第1層が含まれていることを特徴とする請求項1に記載の切削工具インサート。
【請求項9】
周期表の第IVb、Vb及びVIb群からの金属の立方晶系炭化物5〜10wt%及び4〜6wt%のCoという組成を特徴とし、ここで最上層が、2〜20の長さ/幅比及び5.0以上のTC(0006)をもつ柱状粒子から成る厚み6〜15μmで湿式ブラストされた(Ra<1μm)α−Al23層であり、前記被膜はさらに、厚み4〜15μm好ましくは5〜10μmのCVD−Ti(C,N)、CVD−TiN、CVD−TiC、MTCVD−Ti(C,N)、MTCVD−Ti(C,O,N)、MTCVD−(Ti,Al)(C,O,N)またはその組合せ好ましくはTi(C,N)から成る超硬合金基板に隣接する第1層が含まれていることを特徴とする請求項1に記載の切削工具インサート。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3】
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【図4a】
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【図4b】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−107200(P2013−107200A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2013−3594(P2013−3594)
【出願日】平成25年1月11日(2013.1.11)
【分割の表示】特願2008−21297(P2008−21297)の分割
【原出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(591106875)セコ ツールズ アクティエボラーグ (28)
【Fターム(参考)】