説明

テクネチウム標識脂肪酸

【課題】心臓に取り込まれ、β酸化の基質認識が可能な新規標識脂肪酸を提供すること。
【解決手段】 下記式(1)で示される標識脂肪酸とする。


(Rは炭素数11以上20以下のアルキル鎖であり、このアルキル鎖の各炭素における水素は炭素数1以上5以下のアルキル鎖が置換されていても良い。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テクネチウムを用いた標識脂肪酸(以下「テクネチウム標識脂肪酸」という。)に関し、特に、心臓に取り込まれ、心臓の脂肪酸代謝イメ−ジングに好適に用いることができるものに関する。
【背景技術】
【0002】
心筋は、主に長鎖脂肪酸をβ酸化により代謝しエネルギ−源として利用しているが、生理的条件下では、心収縮に必要なATPの60〜70%を脂肪酸の酸化により得ている。それ故、心疾患を診断する上で放射性核種標識長鎖脂肪酸誘導体を用いた脂肪酸代謝イメ−ジングは有用な情報を与えると考えられている。なお、このβ酸化の基質認識を行う標識脂肪酸として、例えば下記非特許文献1に、放射性元素としてヨウ素を用いた15−(p−[123I]iodophenyl)pentadecanoic acid(以下「[123I]IPPA」という。)が開示されている。
【0003】
しかしながら、上記[123I]IPPAでは、放射性元素としてヨウ素を用いているため高価であり、入手が限定されるという問題がある。この問題を解決すべくジェネレ−タで容易に溶出でき、診断に適したγ線エネルギ−および半減期を有するテクネシウム(以下「Tc」と表現する。)を用いることが検討されつつある
【0004】
【非特許文献1】Knapp FF,Jr,Kropp J,Franken PR,Visser Fc,Sloof Gw,Eisenhut M,Yamamichi Y,Shiakami Y,Kusuoka H,Nishimura T、“Pharmacokinetics of radioiodinated fatty acid mycardial imaging myocardial imaging agents in animal models and human studies.”、Q.J.Nucl.Med.、Vol.40、No.3、252−269、1996
【非特許文献2】Magata Y,Kawaguchi T,Ukon M,Yamamura N,Uehara T,Ogawa K,Arano Y,Temmma T,Mukai T,Tadamura E,Saji H.、“A Tc−99m−labeled long chain fatty acid derivative for myocardinal imaging.”、Bioconjugate Chem.、Vol.15、No.2、389−393、2004
【非特許文献3】Chu T,Zhang Y,Liu X,Wang Y,Hu S,Wang X、“Synthesis and biodistribution of 99mTc−Ccarbonyltechnetium−labeled fatty acids.”、Appl.Radiat.Isot.、Vol.60、No.6、845−850、2004
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記非特許文献2、3に記載の技術であっても、実際に心臓に取り込まれ,β酸化の基質として認識される脂肪酸は実現されていない。
【0006】
そこで、本発明は、上記課題を解決し、心臓に取り込まれ、β酸化の基質認識が可能な新規標識脂肪酸を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する手段としての本発明の一形態に係る標識脂肪酸は、下記式(1)で示される。
【化1】

(Rは炭素数11以上20以下のアルキル鎖であり、このアルキル鎖の各炭素における水素は炭素数1以上5以下のアルキル鎖、水酸基、酸素又は窒素で置換されていても良い。)
【0008】
また、本発明の他の一形態に係る標識脂肪酸は、下記式(2)で示される。
【化2】

(mは11以上20以下の整数である。)
【0009】
また、本発明の他の一形態に係る標識脂肪酸は、下記式(3)で示される。
【化3】

【0010】
また、本発明の他の一形態に係る標識脂肪酸は、下記式(4)で示される。
【化4】

(R’は炭素数9以上18以下のアルキル鎖であり、このアルキル鎖の各炭素における水素は炭素数1以上5以下のアルキル鎖、水酸基、酸素又は窒素で置換されていても良い。)
【発明の効果】
【0011】
以上、本発明により、心臓に取り込まれ、β酸化の基質認識が可能な新規標識脂肪酸を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。ただし、本発明は多くの異なる態様による実施が可能であり、以下に説明する実施形態、実施例に狭く限定されるものではない。
【0013】
本実施形態に係る標識脂肪酸(以下「本標識脂肪酸」という。)は、下記式(1)で示される(以下「本標識脂肪酸」という。)。
【化5】

【0014】
本標識脂肪酸は、有機金属化合物としてのcyclopentadienyltricarbonyltechnetium骨格を有しているため生体内で芳香族化合物として認識可能となり、代謝される。
【0015】
本標識脂肪酸はその構造にTcを有しているが、Tcとしては体外計測可能なγ線あるいは陽電子放出由来のγ線を放出する核種である限りにおいて限定されるわけではないが、例えば99mTc、94mTcが好ましい。
【0016】
また、心臓に取り込まれる脂肪酸は長鎖脂肪酸である必要から、Rは炭素数11以上のアルキル鎖である。なおこのアルキル鎖における炭素数の上限については特に限定されないが20以下であることが好ましい。即ち、本標識脂肪酸におけるRは11以上20以下であることが好ましい。また、本標識脂肪酸におけるアルキル鎖Rの各炭素における水素は炭素数1以上5以下のアルキル鎖、水酸基、酸素又は窒素で置換されていても良い。
【0017】
なお、本標識脂肪酸においてアルキル鎖Rの水素が他のもので置換されていない場合、下記式(2)となる。この場合、アルキル鎖のみとなりβ酸化だけで代謝されていくため実際の標識脂肪酸としての評価が容易になるという利点や合成が容易となるという利点があるためより好ましい。
【化6】

(mは11以上20以下の整数である。)
【0018】
なお、本標識脂肪酸では、下記式(3)とすることも好ましい。
【化7】

【0019】
また本標識脂肪酸では、βの位置の炭素に結合している水素をメチル基等の炭素数5以下のアルキル鎖で置換することも好ましい。このようにすることで、はじめにα酸化させることが可能となり、心筋中での保持時間を増加させることができる。なお、下記式(4)に、βの位置の炭素に結合している水素をメチル基に置換した場合の例を示す。この場合、R’は炭素数9以上18以下のアルキル鎖であることが好ましく、更に、このアルキル鎖の各炭素における水素は炭素数1以上5以下のアルキル鎖で置換されていても良い。
【化8】

【0020】
また、本標識脂肪酸を用いて心臓におけるβ酸化の基質を認識する方法としては、様々な方法を採用することができ限定されるわけではないが、例えば本標識脂肪酸を静脈に注射し、シングルフォトン断層画像装置(SPECT)やポジトロン断層画像装置(PET)等を用いて測定する方法が挙げられる。
【0021】
また、本標識脂肪酸を静脈に注射する場合、限定されるわけではないが本標識脂肪酸は生理食塩水溶液、中性(pH5以上8以下)の緩衝液又は等張液等の溶媒に溶解させておくことが好ましく、また必要に応じアルブミンや界面活性剤等を加えることも好ましい。なお、生理食塩水溶液、中性(pH5以上8以下)の緩衝液又は等張液等の溶媒に溶解させる標識脂肪酸の量としては適宜調整可能であり限定されるわけではないが、例えば37MBq以上370MBq以下であることが好ましい。また、アルブミンを加える場合、限定されるわけではないが全重量に対し0.1重量%以上5重量%以下であることが好ましく、界面活性剤を加える場合、限定されるわけではないが全重量に対し0.1重量%以上10重量%以下であることが好ましい。
【0022】
本標識脂肪酸は、限定されるわけではないが合成によって得ることができる。合成方法も本標識脂肪酸を得ることができる限り限定されるわけではないが、例えば下記の方法によって得ることができる。
【0023】
まず、下記式(5)で示されるジカルボン酸に対して両方のカルボキシル基を保護基で保護し、下記式(6)で示される両カルボキシル基を保護した化合物を得る。
【化9】

(Rは炭素数11以上20以下のアルキル鎖であり、このアルキル鎖の各炭素における水素は炭素数1以上5以下のアルキル鎖、水酸基、酸素又は窒素で置換されていても良い。)
【化10】

(B及びB’はカルボン酸の保護基である。BとB’は同じ保護基であってもよく、異なる保護基であってもよい。)
【0024】
そして、この両カルボン酸を保護した上記式(6)で示される化合物の一方の保護基の脱保護を行い、下記式(7)で示される一方のカルボキシル基のみを保護したモノカルボン酸誘導体を得る。
【化11】

【0025】
そして、この得られたモノカルボン酸誘導体に対し、ハロゲン化アルカノイル化を行い、下記式(8)で示されるハロゲン化アルカノイル誘導体を得る。
【化12】

(Xはハロゲンである。)
【0026】
そして、この得られたハロゲン化アルカノイル誘導体対し、Friedel Crafts反応を行い、下記式(9)で示されるフェロセニルオキソ脂肪酸の保護体を得る。
【化13】

【0027】
そして、この得られたフェロセニルオキソ脂肪酸の保護体に対し、Tcとのdouble ligand transfer反応を行い、下記式(10)で示されるシクロペンタジエニルトリカルボニルテクネチウムオキソ脂肪酸の保護体を得る。
【化14】

【0028】
そして、この得られたシクロペンタジエニルトリカルボニルテクネチウムオキソ脂肪酸の保護体に対し、還元を行い、下記式(11)で示されるシクロペンタジエニルトリカルボニルテクネチウム脂肪酸の保護体を得る。
【化15】

【0029】
そして、この得られたシクロペンタジエニルトリカルボニルテクネチウム脂肪酸の保護体に対し、脱保護反応を行い、下記式(12)で示されるシクロペンタジエニルトリカルボニルテクネチウム脂肪酸を得る。
【化16】

【0030】
以上により、本標識脂肪酸を得ることができる。
【実施例】
【0031】
ここで、上記実施形態に係る標識脂肪酸について、具体的に作成を行い効果を確認した。この結果を実施例として説明する。
【0032】
本実施例では、下記式(13)で示される標識脂肪酸を作製した。なお本実施例に係る標識脂肪酸としては、放射性同位元素99mTcを用いたものの他、非放射性同位元素としてReを用いたものも作製した(以下、Reを用いたものを「CpTR−PA」と表現し、99mTcを用いたものを「[99mTc]CpTT−PA」と表現する。)。
【化17】

【0033】
(Pentadecanedionic acid dimetyl esterの合成)
乾燥メタノ−ル(40mL)を−10℃に冷却し,撹拌しながらthionyl chloride(40mL)を滴下した。10分後、乾燥した下記式(14)で示されるPpentadecanedionic acid(6.0g)を加えた。その後徐々に温度を上げていき3〜5時間灌流した。そして溶媒を減圧留去した後、ether(40mL)とsat NaCl水溶液(40mL)で分液した後、水層のpHが5.0以上になったら有機層を無水硫酸カルシウムで乾燥し、下記式(15)で示されるPpentadecanedionic acid dimetyl esterを5.9g(収率:89.5%)の白色結晶として得た。
【化18】

【化19】

【0034】
(Pentadecanonic acid monomethyl esterの合成)
Pentadecanedionic acid dimetyl ester(5.25g、17mmol)を乾燥メタノ−ル(120mL)に溶解し、激しく撹拌しながら乾燥メタノ−ル(100mL)に溶かしたBa(OH)(4.69g,27mmol)を滴下した。17時間以上撹拌した後、析出した結晶をろ取し、少量のメタノ−ルで洗浄した。残渣をether(100mL)に溶解し、4N HCl(100mL×3)で洗浄し、無水硫酸カルシウムで乾燥させた。溶媒を減圧留去後、残渣をethyl acetate−hexane (1:2)を溶出溶媒とするカラムクロマトグラフィ−で精製し、下記式(16)で示されるpentadecanonic acid monomethyl esterを3.80g(収率:78.2%)で得た。
【化20】

【0035】
(15−ferrocenoyl−15−oxopentadecanoic acid methyl ester の合成)
乾燥したpentadecanoic acid monomethyl ester (2.0g,6.9mmol)をthionyl chloride(5mL、69mmol)に溶解し、3時間還流した。その後室温でover night撹拌した。Thionyl chlorideを減圧留去し、下記式(17)で示される14−chlorocarbonyl−tetradecanoic acid methyl esterを2.2g(91%)得た。14−chlorocarbonyl−tetradecanoic acid methyl esterは未精製のまま次の反応に用いた。Ferrocene(4)1.3g(6.8mmol)を乾燥dichloromethane 10mLに溶解した。10mLのdichloromethaneに溶解したaluminum chloride(1.3g、6.8mmol)と1−methyl pentadecanedionic acid chloride(2.0g、6.8mmol)を窒素気流下先の溶液に滴下した。室温で一晩撹拌後、氷上(30mL)に反応液を注いだ。酢酸エチル(30mL)を加え、飽和食塩水(30mL×3)で洗浄した後、有機層を無水硫酸カルシウムで乾燥させた。有機層を濃縮後、残渣をクロロホルム:ヘキサン=5:2を溶出溶媒とするカラムクロマトグラフィ−に付し、黄色の結晶の下記式(18)で示される15−ferrocenoyl−15−oxopentadecanoic acid methyl ester(1.5g、収率:49%)を得た。
【化21】

【化22】

【0036】
(Tricarbonyl(15−cyclopendadienyl−15−oxopentadecanoic acid methyl ester)rheniumの合成)
15−ferrocenoyl−15−oxopentadecanoic acid methyl ester(471.6mg、1.04mmol)、ammonium perrhenate(0.089g、0.33mmol)、chromium hexacarbonyl(0.410g、1.86mmol)、chromium(III) chloride anhydrous(0.106g、0.67mmol)を耐圧ガラスチュ−ブ(耐圧ガラス工業)に入れ、乾燥メタノ−ルを2mL加えた。蓋を密閉し、180℃で45分間激しく撹拌しながら反応させた。室温まで冷却し、セライトでろ過を行った後、ethyl acetate−hexane 1:4を溶出溶媒とするシリカゲルクロマトグラフィ−に付し、下記式(19)で示されるtricarbonyl(15−cyclopendadienyl−15−oxopentadecanoic acid methyl ester)rheniumを白色結晶として得た(54.5g,収率:27.3%)。
【化23】

【0037】
(Tricarbonyl(15−cyclopentadienyl pentadecanoic acid methyl ester)rheniumの合成)
Tricarbonyl(15−cyclopendadienyl−15−oxopentadecanoic acid methyl ester)rhenium(47mg、78μmol)をdichloromethane 1mLに溶解し、次いでdichloromethane 1mLに溶解したtitanium(IV) chloride(14.7mg、78μmol)を加えた。撹拌しながらdichloromethane 1mLに溶解したtriethylsilane(36.3mg、312μmol)を加え、室温で14時間撹拌した。5% sodium carbonate水溶液を1mL加え、有機層を分取した。溶媒を減圧留去後、chloroform:hexane 5:2を溶出溶媒とするシリカゲルクロマトグラフィにより下記式(20)で示されるtricarbonyl(15−cyclopentadienyl pentadecanoic acid methyl ester)rheniumを白色結晶として得た(23mg、収率:50%)。
【化24】

【0038】
Tricarbonyl(15−cyclopendadienyl pentadecanoic acid)rhenium (CpTR−PA)合成
Tricarbonyl(15−cyclopentadienyl pentadecanoic acid methyl ester)rhenium (11mg、19μmol)をdioxane 600μLに溶解した.2N NaOHを200μL加え,室温で8時間反応させた.Conc,HCl(120μL)を加えて酸性とした後、ethyl acetate(5mL)と1% HCl solution(5mL×3)を加え,有機層を分取した。有機層を無水硫酸カルシウムで乾燥させた後、溶媒を減圧濃縮することにより下記式(21)で示されるCpTR−PAを白色結晶として得た(8.3mg、収率:77.4 %).
【化25】

【0039】
([99mTc]tricarbonyl(15−cyclopentadienyl tetradecanoic acid methyl ester)technetiumの合成)
15−ferrocenoyl−15−oxopentadecanoic acid methyl ester(10mg、22μmol)、chromium hexacarbonyl(14mg、64μmol)、chromium(III) chloride(11mg、58μmol)を入れた耐圧チュ−ブ(Taiatsu glass kogyo)に乾燥methanol 500μLに溶解した99mTcOを加えた。蓋を閉めた後、180℃で45分間反応させた。そして室温まで冷却した後、溶媒を減圧留去した。残渣をクロロホルムを溶出溶媒とするシリカゲルクロマトグラフィ−により精製し下記式(22)で示される[99mTc]tricarbonyl(15−cyclopentadienyl tetradecanoic acid methyl ester)technetiumを得た。
【化26】

【0040】
([99mTc]tricarbonyl(15−cyclopentadieyl pentadecanoic acid methyl ester)technetium の合成)
[99mTc]tricarbonyl(15−cyclopentadienyl tetradecanoic acid methyl ester)technetiumにdichloromethane 50μLに溶かしたtitanium(IV) chloride(8μL)を加えた。撹拌しながらtriethylsilane 50μLを加え、室温で1時間撹拌した。水1mLとether 1mLを加え有機層を分取した。有機層を減圧留去することにより下記式(23)で示される[99mTc]tricarbonyl(15−cyclopentadieyl pentadecanoic acid methyl ester)technetiumを得た。
【化27】

【0041】
([99mTc]tricarbonyl(15−cyclopentadieyl pentadecanoic acid)technetium ([99mTc]CpTT−PA)の合成)
[99mTc]tricarbonyl(15−cyclopentadieyl pentadecanoic acid methyl ester)technetiumをethanol 600μL、2N NaOH 200μLを加え、95℃で10分間反応させた。反応液をSep−Pakに通し、水3mLで洗浄し、次いでethanol 3mLで溶出した。初めのethanol溶出液100μLは除いて収集した。Ethanol層を減圧留去した後、RP−HPLCにより精製し、下記式(24)で示される[99mTc]CpTT−PAを得た。
【化28】

【0042】
なお、この結果得られた物質それぞれに対しては、逆相高速液体クロマトグラフィ− (RP−HPLC)による分析を行い、構造を確認した。RP−HPLCによる分析にはNacalai Tesque Inc.(Kyoto,Japan)のCosmosil 5C18−AR−300(4.6×150mm)を使用した。放射性核種標識脂肪酸の分析には0.1% trifluoroacetic acid(TFA)を含む水溶液(A相)と0.1%TFAを含むacetonitrile(B相)を移動相として用い、A相を30分で30〜0%まで変化させる直線gradient法により流速1mL/minで溶出した。なおこの結果を図1に示す。この結果[99mTc]CpTT−PAとCpTR−PAは近い保持時間を示し、上記式(13)の化合物(CpTR−PAはTcがReとなった化合物)となっていることが確認できた。
【0043】
次に、[99mTc]CpTT−PAをethanolに溶解し、ethanol濃度が5〜10%になるように1%BSA saline溶液に加えた。その後0.22μmのフィルタ−により濾過したWistar rats(male、200g)に1匹あたり300μL(148kBq)を尾静脈から投与した。投与後1、2、5、10、30分にその血液と臓器の重量を測定後、放射活性を測定した。この結果を図2に示す。この結果、[99mTc]CpTT−PAの心臓血液比は1を遙かに超え,[99mTc]CpTT−PAが心臓に取り込まれていることを確認できた。
【0044】
次に、SPECTを用いて撮像を行った。この撮像は3ヘッドガンマカメラ(GCA 9300A、Toshiba、Tokyo、Japan)に1.0mmのピンホールコリメータを装備して行った。Wister rats(male、200〜300g)にpentobarbital(50mg/kg)を腹腔内投与し、[99mTc]CpTT−PA (30MBq、300μL)を尾静脈より投与した。投与1分後より4°/20secで120°回転させ、合計10分間撮像した。マトリックスサイズは128×128で画像収集し、ピクセルサイズ0.6mmで表示した。この結果を図3に示す。この結果、ラットの心臓をSPECTにおいて確認することができた。
【0045】
また更に、心臓におけるβ酸化の基質となるかを検討するために,ラット心臓摘出灌流心を用いた検討を行った。2時間[99mTc]CpTT−PA溶液を溶解した溶液を灌流した後、Folch法により脂質を抽出し、脂質に含まれる放射活性をクロロホルムを展開溶媒とする薄層クロマトグラフィにより分析した。この結果を図4に示す。この結果、Rf値0.8近傍にトリグリセリド化したと思われるピ−クが観測でき、[99mTc]CpTT−PAは通常の脂肪酸と同様に貯蔵されることが確認できた。
【0046】
また更に、上記抽出した脂質に対し、加水分解を行い,RP−HPLCによる分析を行った。また、灌流液に残存する放射活性も同様に分析した。この結果を図5に示す。なお、図5中(a)は、上記加水分解後の脂質であり、(b)は合成した[99mTc]CpTT−PAと、別途合成した[99mTc]CpTT−propionic acidの標品(下記式(21))の結果であり、(c)は、灌流液である。この結果、いずれの場合においても[99mTc]CpTT−propionic acidに一致する放射活性が確認できた。
【0047】
以上の結果から、本実施例に係る標識脂肪酸は、下記式中における1から6へ順次β酸化されていくことが予想され、本実施例により本発明が心臓におけるβ酸化の基質認識を実現可能であることを確認できた。本結果はラットを用いた検討より得られたものであるが、人においても同様の結果が得られると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、心臓におけるβ酸化の基質認識を実現可能な新規標識脂肪酸として産業上の利用可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】実施例に係る[99mTc]CpTT−PAの構造をRP−HPLCにより確認した結果を示す図である。
【図2】実施例に係る[99mTc]CpTT−PAのラット体内動態を示す図である。
【図3】実施例に係る[99mTc]CpTT−PAのSPECTによる心臓への集積を確認した図(図面代用)である。
【図4】実施例に係る[99mTc]CpTT−PAの心筋内部における存在形を示す図である。
【図5】実施例に係る[99mTc]CpTT−PAが心筋においてβ酸化によって代謝されたことを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で示される標識脂肪酸。
【化1】

(Rは炭素数11以上20以下のアルキル鎖であり、このアルキル鎖の各炭素における水素は炭素数1以上5以下のアルキル鎖、水酸基、酸素又は窒素で置換されていても良い。)
【請求項2】
下記式(2)で示される標識脂肪酸。
【化2】

(mは11以上20以下の整数である。)
【請求項3】
下記式(3)で示される標識脂肪酸。
【化3】

【請求項4】
下記式(4)で示される標識脂肪酸。
【化4】

(R’は炭素数9以上18以下のアルキル鎖であり、このアルキル鎖の各炭素における水素は炭素数1以上5以下のアルキル鎖、水酸基、酸素又は窒素で置換されていても良い。)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−320942(P2007−320942A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−156320(P2006−156320)
【出願日】平成18年6月5日(2006.6.5)
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【Fターム(参考)】