説明

テトラサイクリン誘導体の伝達用組成物

【課題】哺乳類にテトラサイクリン化合物を伝達するための組成物を提供する。
【解決手段】
抗菌性テトラサイクリン化合物および少なくとも1種の除放剤を含む除放剤を含む。テトラサイクリン化合物は、上記除放マトリックスと結合させて、哺乳類を実質的に抗菌活性なしで治療するような放出プロフィールを与える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テトラサイクリン化合物の哺乳類への伝達に関する。さらに詳細には、本発明は、抗生物活性(即ち、抗菌活性)の不存在下での哺乳類の治療のためのテトラサイクリン化合物またはその誘導体の除放に関する。
【背景技術】
【0002】
テトラサイクリンおよびその化学関連物の多くは、抗生物質のとりわけ成功した群を構成している。テトラサイクリン自体並びにスポロサイクリン等のようなある種のテトラサイクリン化合物は、広域抗生物質であり、広範囲の細菌に対して有用性を有する。
通常のテトラサイクリン組成物は、その抗菌特性を最適にするように設計されている。
通常の組成物は、血清濃度中にスパイクを発生させ、次いで、血清濃度の急激な低下によって作用する。従って、短い血清濃度半減期を有する比較的大量の投与量が投与される。
この短い血清半減期は、通常の組成物を頻繁に、例えば、3〜6時間毎に投与することを必要とする。
【0003】
テトラサイクリン類は、その抗菌特性以外に、多くの他の治療用途を有することが開示されている。例えば、テトラサイクリン類は、哺乳動物コラーゲナーゼ、ゼラチナーゼ、マクロファージエラスターゼおよび細菌コラーゲナーゼのようなコラーゲン分解酵素活性を抑制することも知られている(非特許文献1および2、並びに特許文献1、2、3および4参照)。さらに、テトラサイクリン類は、哺乳動物骨格筋の消耗およびたんぱく質分解を抑制することも知られている(特許文献5参照)。
さらにまた、テトラサイクリン類は、骨たんぱく質合成を増強すること(特許文献6参照)、および臓器培養物における骨吸収を低減させること(特許文献7参照)も示唆されている。
同様に、テトラサイクリン類は、たんぱく質類の過剰のグリコシル化を改善し得ることも開示されている(特許文献8参照)。とりわけ、テトラサイクリン類は、糖尿病におけるコラーゲンの過剰のグリコシル化に由来する過剰のコラーゲン架橋を抑制する。
【0004】
これらの諸特性は、多くの疾病の治療においてテトラサイクリン類を有用にしている。
例えば、非抗菌性テトラサイクリン類を含むテトラサイクリン類が関節炎治療において有効であるという多くの提案が存在する。例えば、非特許文献3、4、5、6、および7を参照されたい。
また、テトラサイクリン類は、皮膚疾患の治療における使用も示唆されている。例えば、ミノサイクリンが、過剰のコラーゲナーゼに関連していると信じられている生命にかかわる皮膚症状である栄養障害性表皮水疱症の治療において有効であることが報告されている(非特許文献8参照)。
皮膚疾患におけるテトラサイクリンの有効性は、Elewski等によっても研究されている(非特許文献9参照)。Elewski等は、テトラサイクリン抗生剤が皮膚疾患において抗炎症活性を有し得ることを開示している。
【0005】
同様に、Plewig等は、抗生剤が炎症性皮膚炎の治療において有効であるという仮説を検証するように設計した実験を開示している(非特許文献10参照)。Plewig等の実験は、テトラサイクリンがヨウ化カリウムパッチにより誘発させた膿疱の治療において抗炎症特性を有することを立証している。
【0006】
非ステロイド系抗炎症剤と併用したテトラサイクリン類の使用は、尋常性座瘡によって生じた炎症性皮膚障害の治療において研究されている。Wong等は、テトラサイクリンとイブプロフェンの併用を試験し、テトラサイクリンが尋常性座瘡に対する有効な薬剤であり、一方、イブプロフェンがシクロキシゲナーゼの抑制により生じた炎症の軽減において有用であったことを見出している(非特許文献11参照)。Funt等は、抗菌投与量のミノサイクリンとイブプロフェンとの併用によって、同様な結果を開示している(非特許文献12参照)。
【0007】
抗菌性テトラサイクリン誘導体であるドキシサイクリンは、硝酸塩産生を抑制するのに使用されている。D'Agostino等は、細菌系リポポリサッカライド(以下、LPS)を注入したマウスに投与したドキシサイクリンが、IL-10依存性メカニズムによる硝酸塩産生を抑制することによって防御作用を示した実験を開示している(非特許文献13参照)。
従って、テトラサイクリン化合物のその抗菌活性とは別の数多くの使用が存在する。テトラサイクリン抗生剤類は感染症の治療において一般に有効であるものの、これらの化合物の使用は、望ましくない副作用をもたらし得る。例えば、抗菌性テトラサイクリン類の長期投与は、腸内細菌叢のような健常生物体叢を低減または排除し得、さらに、抗生剤耐性生物体の産生並びに酵母および真菌類の過剰増殖をもたらし得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第4,666,897号
【特許文献2】米国特許第4,704,383号
【特許文献3】米国特許第4,935,411号
【特許文献4】米国特許第4,935,412号
【特許文献5】米国特許第5,045,538号
【特許文献6】米国特許再審査第34,656号
【特許文献7】米国特許第4,704,383号
【特許文献8】米国特許第5,532,227号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Golub et al., J. Periodont. Res. 20:12-23 (1985)
【非特許文献2】Golub et al., Crit. Revs. Oral Biol. Med. 2:297-322 (1991)
【非特許文献3】Greenwald et al., "Tetracyclines Suppress Metalloproteinase Activity in Adjuvant Arthritis and, in Combination with Flurbiprofen, Ameliorate Bone Damage", Journal of Rheumatology 19:927-938 (1992)
【非特許文献4】Greenwald et al., "Treatment of Destructive Arthritic Disorders with MMP Inhibitors: Potential Role of Tetracyclines in, Inhibition of Matrix Metalloproteinases: Therapeutic Potential", Annals of the New York Academy of Sciences 732:181-198 (1994)
【非特許文献5】Kloppenburg et al., "Minocycline in Active Rheumatoid Arthritis", Arthritis Rheum 37:629-636 (1994)
【非特許文献6】Ryan et al., "Potential of Tetracycline to Modify Cartilage Breakdown in Osteoarthritis", Current Opinion in Rheumatology 8:238-247 (1998)
【非特許文献7】O'Dell et al., "Treatment of Early Rheumatoid Arthritis with Minocycline or Placebo", Arthritis Rheum 40:842-848 (1997)
【非特許文献8】White et al., Lancet, Apr. 29, P. 966 (1989)
【非特許文献9】Elewski et al., Journal of the American Academy of Dermatology 8:807-812 (1983)
【非特許文献10】Plewig et al., Journal of Investigative Dermatology 65:532 (1975)
【非特許文献11】Wong et al. Journal of American Academy of Dermatology 1:1076-1081 (1984)
【非特許文献12】Funt et al., Journal of the American Academy of Dermatology 13:524-525 (1985)
【非特許文献13】D'Agostino et al., Journal of Infectious Diseases: 177:489-92 (1998)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、通常の組成物と異なり、哺乳類における抗菌性応答において必要とする投与量よりも低い投与量を、比較的一定の血清値で、より長期の血清半減期でもって提供する哺乳類へのテトラサイクリン化合物類の改良された伝達用の組成物が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、哺乳類へのテトラサイクリン化合物の伝達用組成物を含む。本発明の組成物は、抗菌性テトラサイクリン化合物と少なくとも1種の除放剤とを含む。上記テトラサイクリン化合物は、上記除放剤と結合させて、抗生剤活性(即ち、抗菌活性)において必要とする投与量よりも低い投与量の伝達に特徴を有するテトラサイクリン放出プロフィールを与え、哺乳類を実質的に抗菌活性を有さないテトラサイクリン化合物によって治療するようにしている。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に従う組成物においてテトラサイクリン化合物と結合させた3種の異なる除放剤の組合せを使用したテトラサイクリンの放出プロフィールを示す。
【0013】
上記組成物によって放出されるテトラサイクリン化合物の量は、抗菌活性において必要とする血清濃度閾値よりも低い限りにおいて、変動し得る。その血清値は、一般に約0.1〜1.0μg/ml、好ましくは約0.3〜0.8μg/mlの間であろう。この放出プロフィールは、約6〜24時間の間実質的に一定速度に維持すべきである。
好ましい実施態様においては、上記テトラサイクリンはドキシサイクリンである。好ましいドキシサイクリン血清値は、12〜24時間に亘って0.4〜0.8μg/mlである。
また、上記組成物は、即効性放出剤、持続性放出剤、遅延性放出剤およびこれらの組合せからなる群から選ばれた除放剤を含み得る。1つの実施態様においては、上記組成物は、テトラサイクリン化合物と一緒に3種全ての放出剤を含有して、指定時間に亘って実質的に一定の投与量割合を与えるようにすることができる。
【0014】
また、本発明は、テトラサイクリン化合物による哺乳類の治療方法も含む。本発明方法は、少なくとも1種の除放剤と結合させたテトラサイクリン化合物を哺乳類に投与して、予め選定した時間、好ましくは6〜24時間に亘って非抗菌活性を有する放出プロフィールを与えることを含む。
本発明方法は、即効性放出剤、持続性放出剤、遅延性放出剤およびこれらの組合せからなる群から選ばれた除放剤を含み得る。1つの実施態様においては、上記組成物は、テトラサイクリン化合物と一緒に3種全ての放出剤を含有して、指定時間に亘って実質的に一定の投与量割合を与えるようにすることができる。
また、テトラサイクリン化合物の制御された伝達のための単位投与量も提供する。この単位投与量は、テトラサイクリン化合物と少なくとも1種の除放剤を含む。テトラサイクリン化合物は、上記除放剤と結合させて、哺乳類内で実質的に抗菌活性を有さないテトラサイクリン放出プロフィールを与えるようにする。好ましい実施態様においては、この単位投与量は、カプセルまたは錠剤のいずれかである。
【0015】
テトラサイクリン化合物を哺乳類に伝達するための上記組成物並びにテトラサイクリン化合物による哺乳類の相応する治療方法は、本明細書において説明するように、テトラサイクリン化合物投与のために通常使用される制御された伝達組成物を上回る多くの利点を提供する。
第1に、抗菌性応答を与えるのに必要とする投与量よりも低い投与量でテトラサイクリン化合物を投与することによって、体内の健常生物体叢の低減、抗生剤耐性生物体の産生または日和見的酵母および真菌類の過剰増殖のような望ましくない副作用が回避される。
第2に、本発明の除放組成物は、患者の薬剤服用順守性を増大させる。低投与量のテトラサイクリン化合物を1日中多数回投与する代りに、本発明の組成物は、患者がテトラサイクリン化合物を1日に1回または2回服用するのを可能にする。上記テトラサイクリン化合物の除放は、哺乳類における抗菌性応答において必要とする投与量よりも低い所望の投与量プロフィールを創生する。
【0016】
また、本発明の組成物は、食後のテトラサイクリン取込みの低下を回避させる。通常のテトラサイクリン化合物においては、極めて頻繁に、消化管からの血液流へのテトラサイクリン化合物の到達割合は、哺乳類が食事を開始すると同時に低下する。このテトラサイクリン取込みの低下は、1日に1回または2回の服用でよい組成物によって、とりわけ、小腸に相対するような消化管の上部部分中に取り込まれて残存し得る除放調合物によって改善される。
さらに、本発明の組成物による血清濃度は、直接放出調合物として投与された等価の投与量からのピーク血清濃度よりも実質的に低いことから、通常のテトラサイクリン組成物において生ずる光毒性のリスクも低減される。
【0017】
本発明の組成物は、上述したように、通常のプロフィールと正反対である放出プロフィールを与えるように設計する。さらに詳細には、本発明の組成物は、哺乳類に対してテトラサイクリン化合物の制御された放出を提供し、それによって、哺乳類において抗菌活性は実質的に存在しない。本発明の組成物は、哺乳類における抗菌作用を生じさせるのに必要とする投与量よりも低いテトラサイクリン化合物投与量をより長時間、例えば、12〜24時間に亘って実質的に一定の速度で与えることによって、その治療効果を生ずる。
本発明の組成物は、哺乳類に投与する。哺乳類は、例えば、ヒト、並びに、イヌおよびネコのようなペット動物、ラットおよびマウスのような実験動物、およびウマおよびウシのような農場動物を含む。
本明細書において定義するときの“テトラサイクリン化合物”とは、当該技術において公知であるように、所定の血清閾値よりも多く投与したときに抗菌活性を有する上述したようなテトラサイクリンまたは任意のテトラサイクリン誘導体を称する。
親化合物のテトラサイクリンは、下記の一般的構造を有する:
【0018】
【化1】

【0019】
その多環状核の番号付け方式は、下記のとおりである:
【化2】

【0020】
テトラサイクリン、並びに5-OH(オキシテトラサイクリン、例えば、テラマイシン)および7-Cl(クロロテトラサイクリン、例えば、オーレオマイシン)誘導体は、天然に存在し、すべて、周知の抗生剤である。7-ジメチルアミノ-テトラサイクリン(ミノサイクリン)および6α-デオキシ-5-ヒドロキシ-テトラサイクリン(ドキシサイクリン)のような半合成誘導体も公知のテトラサイクリン抗生剤である。天然テトラサイクリン類は、その抗菌特性を喪失させることなく修飾し得るが、上記構造におけるある種の元素は残存させて修飾しなければならない。好ましい抗菌性テトラサイクリン類としては、テトラサイクリン、ドキシサイクリン、デメクロサイクリン、ミノサイクリンおよびリメサイクリンがある。
上記抗菌性テトラサイクリン類と構造的に関連するが、化学修飾によって実質的にまたは完全に喪失させた抗菌活性を有する1群の化合物も定義付けされている。基本テトラサイクリン構造に対してなし得るまたはなし得ない修飾については、Mitscher, L.A., The Chemistry of the Tetracycline Antibiotics, Marcel Dekker, New York (1978), Ch. 6において検証されている。Mitscherによれば、テトラサイクリン環状系の5〜9位での修飾は、抗菌特性の完全な喪失を起すことなくなし得る。しかしながら、環状系の基本構造に対する変化、または1〜4もしくは10〜12位での置換基による置換は、一般に、実質的に抗菌活性が低いまたは本質的に抗菌活性を有さないテトラサイクリン類の合成に至っている。
【0021】
本発明の組成物は、テトラサイクリン化合物以外に、1種以上の他の治療剤も含み得る。テトラサイクリン化合物とそのような他の薬剤との併用は、治療プロトコールを増強させ得る。また、本発明の組成物は、当業者において理解されているような適切な製薬上の担体(ベヒクル)または賦形剤中でのテトラサイクリン化合物の組合せも含み得る。
上記テトラサイクリン化合物以外に、本発明の組成物は、少なくとも1種の除放剤を含む。除放剤は、当該技術において公知である。例えば、米国特許第4,837,030号、第5,262,164号、第5,582,837号、第5,681,585号、第5,716,631号、第5,736,152号、第5,840,332号、第5,855,915号、第6,007,843号、第6,020,002号、第6,120,803号および第6,143,353号を参照されたい。
【0022】
本発明の組成物は、上記テトラサイクリン化合物と除放剤を種々の相対量で含み得る。
例えば、テトラサイクリンは、本発明の組成物の10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%または90%を構成し得る。除放剤は、本発明の組成物の10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%または90%を構成し得る。
上記テトラサイクリン化合物は、上記除放剤マトリックスと結合させて、哺乳類中にテトラサイクリン放出プロフィールを与え、それによって、哺乳類を実質的に抗菌活性を有していないテトラサイクリン化合物で治療する。好ましいのは、上記除放剤マトリックスがテトラサイクリン化合物を指定時間に亘って有効なテトラサイクリン血清値を維持するのに十分な量と速度で放出し得ることである。
【0023】
上記テトラサイクリンと除放剤は、物理的に(例えば、混合、つき混ぜ(mulling)、圧縮等のような機械的手段により)、および/または化学反応および/または二次的化学結合、例えば、バンデルワール力等によるように化学的に、相互に結合させる。上記テトラサイクリン化合物/除放剤の組合せは、本発明の組成物中に、テトラサイクリン/除放剤マトリックス系の組合せにおける哺乳類生体系の正常な相互作用の結果としての治療活性テトラサイクリンの高度に予測され得る事前選定放出プロフィールを与えるのに十分な量で含ませる。
【0024】
上記除放剤は、テトラサイクリン化合物を哺乳類の生体系に対して利用可能にする速度を制御する1種以上の成分を含み得る。上記除放剤は、即効性放出剤、遅延性放出剤、持続性放出剤、またはこれらの組合せを含み得る。
即効性放出剤とは、哺乳類に対する即時の放出を促進または増強させる成分を称する。
即効性放出剤は、テトラサイクリン化合物の分散性を高める追加の成分であり得る。即効性放出剤の例は、界面活性剤である。
持続性放出剤は、哺乳類へのテトラサイクリン化合物の放出をある量で一定期間に亘って可能にする成分または成分の組合せである。持続性放出剤の例としては、ゲル類、ワックス類、油脂類、乳化剤類、油脂と乳化剤の組合せ、ポリマー類、澱粉、セルロースポリマー類等、並びにこれらの組合せがある。また、持続性放出剤は、例えば、他の高分子または生分解性コーティングまたはマトリックスと組合せた上記のものも含み得る。
遅延性放出剤は、テトラサイクリン化合物が最初の投与からある時間まで哺乳類に対して利用可能になることを抑制する成分である。遅延性放出剤は、テトラサイクリン化合物の放出を将来のある時間まで抑制する。遅延性放出剤の例としては、限定するものではないが、セルロースポリマー類のような高分子または生分解性コーティングまたはマトリックス、およびこれらの組合せがある。
【0025】
好ましい実施態様においては、本発明の組成物は、2種以上の除放剤を含み、3つのタイプの除放剤の全て、即ち、即効性放出剤、持続性放出剤および遅延性放出剤を含み得る。
3つのタイプの除放剤全てを使用することによって、テトラサイクリン化合物を特定の投与量で延長された時間間隔、例えば、12〜24時間に亘って投与するプロフィールを生じさせることができる。図1は、即効性、遅延性および持続性の除放剤を使用した放出プロフィールを示す。
持続性除放剤は、好ましくは、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、およびこれらの混合物からなる群から選ばれたセルロースポリマー、好ましくは高分子量セルロースポリマーからなる。勿論、最も好ましい水溶性セルロースポリマーは、HPMCである。
【0026】
好ましくは、上記HPMCは、所望の放出プロフィールを与えるように選定した特定の分子量を有する高分子量HPMCである。例えば、12時間に亘って実質的に一定の放出速度を与えるように設計した錠剤は、好ましくは少なくとも約65,000、より好ましくは約85,000の平均分子量を有するHPMCを含有する。
また、上記除放成分は、放出プロフィールに影響を与え得る少量の他の物質も含有し得る。そのような物質の例としては、カヌバ(canuba)ワックス、鯨蝋、カンデリラ蝋、ココアバター、セトステリルアルコール、蜜蝋、部分水素化植物油、セレシン、パラフィン、ミリスチルアルコール、ステアリルアルコール、セチルアルコールおよびステアリン酸のような製薬配合物において使用される通常のワックスおよびワックス状物質がある。放出プロフィールに影響を与え得る親水性ガム類も、少量での使用が意図される。親水性ガム類の例としては、アカシア、ゼラチン、トラガカント、ヴィーガム(veegum)、キサンチンガム、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)およびヒドロキシエチルセルロース(HEC)がある。
【0027】
本発明のテトラサイクリン組成物は、懸濁液または溶液のような液体形で、或いは錠剤、ペレット、粒子、カプセルまたは軟質ゲルのような固体形で投与することができる。例えば、上記剤形は固形粒子を充填した高分子カプセルであり得、この剤形は、その後、公知のパターンまたはプロフィールに従ってテトラサイクリン化合物を放出させることができる。また、そのような粒子を2つ以上の放出プロフィールを有するように調製して、延長された時間に亘って、組合さった放出パターンにより予め選定したプロフィールを与えるようにすることもできる。
【0028】
1つの実施態様においては、上記テトラサイクリン化合物/除放剤の組合せは、例えば、圧縮錠剤のような不均質マトリックスの形で投与して、テトラサイクリン化合物の放出をマトリックスの拡散、浸食または両方の組合せによって制御し得る。
本発明が意図する除放剤とテトラサイクリン化合物の他の組合せとしては、サンドイッチとして形成し且つ少なくとも拡散または浸食の物理的崩壊作用に依存してテトラサイクリンを除放させる高分子物質(1種以上)とテトラサイクリン化合物の組合せがある。さらに、水膨潤性ヒドロゲルマトリックス中の不均質テトラサイクリン分散液または溶液は、マトリックスの緩慢な表面から中心への膨潤、そして、その後のマトリックスの水膨潤部分からのテトラサイクリンの拡散およびテトラサイクリンを含有する水膨潤マトリックスの浸食の組合せによるテトラサイクリンの放出によってテトラサイクリンの放出を制御するのに有用である。
【0029】
持続性除放剤は、好ましくは、上述した1種以上の放出成分を使用することによって、所望の放出プロフィールに従うテトラサイクリンの持続性放出を与える。さらに好ましくは、この除放剤は、所定時間に亘って実質的に一定速度でテトラサイクリン化合物を放出する放出プロフィールを与え、それによって哺乳類を実質的に抗菌活性を有していないテトラサイクリンによって治療する。
述語を本明細書において使用する場合、“実質的に一定速度”とは、活性成分、即ち、テトラサイクリンの放出速度を放出所定時間の少なくとも約60%に亘る、好ましくは少なくとも約70%に亘る、より好ましくは少なくとも約80%に亘る、最も好ましくは約90%に亘る所望範囲内に維持することを称する。
【0030】
本発明の組成物における放出プロフィールは、抗菌活性を実質的に与えない。換言すれば、この放出プロフィールによって投与されたテトラサイクリン化合物の投与量は、抗菌活性において必要とする量よりも低い。
例えば、本発明の抗菌性テトラサイクリン化合物は、最低抗菌血清濃度の10〜80%である血清テトラサイクリン濃度を生ずる量で有利に投与し得る。最低抗菌血清濃度とは、有意の抗菌作用を示すことが知られている最低濃度である。
定常状態薬物動力学に基づくテトラサイクリン類の血漿抗菌閾値の幾つかの例は、次のとおりである:ドキシサイクリンの1.0μg/ml、ミノサイクリンの0.8μg/ml、およびテトラサイクリンの0.5μg/ml。
【0031】
投与量は、哺乳類の大小、使用する特定のテトラサイクリン化合物等のような当該技術において知られている種々の要因によって変化するであろう。その量は、当業者であれば決定し得ることである。
一般に、放出させるテトラサイクリン化合物の量は、抗菌活性ではない所望の治療活性を有するテトラサイクリンの血清値を与える。テトラサイクリンの血清値の幾つかの例としては、約0.1μg/ml、好ましくは約0.3μg/mlの最低値;および約1.0μg/ml、より好ましくは約0.8μg/mlの最高値がある。例えば、使用するテトラサイクリン化合物がドキシサイクリンである場合、約0.4〜約0.8μ/mlの血清を維持するのが好ましい。
【0032】
本発明の組成物中の除放剤は、延長された時間、例えば、6時間、8時間、12時間または24時間に亘って実質的に一定速度で特定の血清濃度値を維持するように設計する。好ましいのは、上記除放剤によって、特定の抗菌血清濃度以下の値を少なくとも12〜24時間与えるようにテトラサイクリン化合物を哺乳類中で放出させることである。
他の成分を本発明に従って使用してテトラサイクリン組成物を改良することもできる。
そのような成分としては、錠剤の成形の容易さおよび一般的性質に寄与するバインダー類;錠剤の圧縮およびコンパクト化を助長する潤滑剤;および凝集性物質に付着して粒子間摩擦を低下させることによって流動特性を増強させる流動剤またはグリダント(glidant)類がある。
【0033】
有用なバインダー類の例としては、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、微結晶性セルロース、澱粉類、ラクトース、サクロース、マンニトール、ソルビトール、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、エチルセルロース、ポリアクリルアミド類、ポリビニルオキソアゾリドン、およびポリビニルアルコール類がある。好ましいバインダーは、FMC社から市販されているAvicel PH-101のような微結晶性セルロースである。
潤滑剤としては、限定するものではないが、次のものがあり得る:ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸、水素化植物油、ステロテックス(sterotex)、ポリオキシエチレン、モノステアレート、タルク、ポリエチレングリコール、安息香酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸マグネシウムおよび軽質鉱油がある。勿論、好ましい潤滑剤は、ステアリン酸マグネシウムとステアリン酸である。
使用し得る流動剤またはグリダント類としては、澱粉、タルク、ステアリン酸マグネシウムおよびカルシウム、ステアリン酸亜鉛、二塩基性リン酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、ケイ酸カルシウム、二酸化ケイ素およびシリカエアロゲル類がある。好ましい流動剤またはグリダント類は二酸化ケイ素である。
十分な機械的強度と許容し得る放出プロフィールを有する錠剤は、例えば、粉末テトラサイクリン化合物をHPMCと、さらに適切なバインダー、潤滑剤および流動剤と混合し、混合物をタブレットプレス内で圧縮することによって製造し得る。これらの錠剤を形成するのに使用する典型的な圧縮力は、約45〜約56 KN、好ましくは約50〜約53 KNの範囲であり、約15 kp〜約30 kp、好ましくは約18 kp〜約25 kp範囲の硬度を有する錠剤が得られる。
【0034】
また、本発明は、テトラサイクリン化合物の制御された伝達用の単位投与量にも関する。単位投与量は、上述するような除放テトラサイクリン組成物を使用して、テトラサイクリン化合物を、哺乳類内で実質的に抗菌活性なしで実質的に一定速度で指定時間に亘って哺乳類に伝達させる。投与する単位投与量は、例えば、約6時間、8時間、12時間および24時間から選ばれた放出時間を有する。12〜24時間が好ましい。
上記単位投与量は、約0.1〜約1.0μg/ml、より好ましくは約0.3〜約0.8μg/mlの血清テトラサイクリン濃度を生ずる抗菌性テトラサイクリン投与量を提供する。例えば、使用するテトラサイクリン化合物がドキシサイクリンである場合、約0.4〜約0.8μ/mlの血清を維持するのが好ましい。
上記単位投与量は、液体形、例えば、懸濁液または溶液で、あるいは錠剤、ペレット、粒子、カプセルまたは軟質ゲルのような固体形で投与し得る。錠剤またはカプセルが好ましい。
上記単位投与量の1つの実施態様は、ビーズ状物(beadlet)を含有するカプセルである。
各カプセル内には、異なるpH値において溶解する各種のコーティングでコーティングされているビーズ状物が存在する。
【0035】
また、テトラサイクリン化合物による哺乳類の治療方法も本発明において提供される。
この方法は、テトラサイクリン組成物を哺乳類に上述したようにして投与することを含む。上記組成物は、抗菌性テトラサイクリン化合物、非抗菌性テトラサイクリン化合物またはこれらの組合せであり得るテトラサイクリン化合物を含む。また、上記組成物は、少なくとも1種の除放剤を含む除放マトリックスも含む。そのテトラサイクリン化合物は、上記除放マトリックスと結合させて、哺乳類を実質的に抗菌活性を有していないテトラサイクリンによって治療するようにする。
任意の適切な投与形を使用し得る。全身投与が好ましい。全身投与の例は、腸管内および腸管外である。
腸管内投与はテトラサイクリン組成物の好ましい伝達経路であり、テトラサイクリン化合物を適切な希釈剤、担体等と一緒に含む組成物を容易に調製し得る。液体または固形(例えば、錠剤、ゼラチンカプセル)製剤を使用し得る。
好ましい実施態様においては、上記除放組成物は、胃腸管の上部部分、例えば、胃または十二指腸内に取込ませる。そのような組成物は、典型的には、大き目の粒度を有する除放剤を使用し、当該技術において公知のようにして製造する。好ましいのは、組成物中の少なくとも50%、より好ましくは80%以上のテトラサイクリンを上部胃腸管ないで放出させることである。
上記テトラサイクリン組成物を胃腸管の上部部分内に取り込ませることにより、食後に生ずるテトラサイクリン取込み損失は解消される。また、小腸および大腸内の有益な生物体叢の喪失も、通常のテトラサイクリン組成物に比較して低減される。
腸管外使用(例えば、静脈内、筋肉内、皮下注射)も意図され、当該技術において公知のような、通常の希釈剤、担体等を使用する製剤を使用してテトラサイクリン化合物を伝達し得る。
【0036】
本発明の1つの実施態様においては、上記テトラサイクリン化合物は、非抗菌性テトラサイクリン化合物または誘導体であり得る。非抗菌性テトラサイクリン化合物は、構造的には抗菌性テトラサイクリン類と関連するが、化学修飾により実質的にまたは完全に排除した抗菌活性を有する。例えば、非抗菌性テトラサイクリン化合物は、テトラサイクリンまたはドキシサイクリンの抗菌活性に匹敵し得る抗菌活性を、テトラサイクリンまたはドキシサイクリンそれぞれの少なくとも約10倍、好ましくは少なくとも約25倍以上の濃度で達成し得るものである。
化学修飾非抗菌性テトラサイクリン(CMT)類の低としては、4-デ(ジメチルアミノ)テトラサイクリン(CMT-1)、テトラサイクリノニトリル(CMT-2)、6-デメチル-6-デオキシ-4-デ(ヂメチルアミノ)テトラサイクリン(CMT-3)、7-クロロ-4-デ(ヂメチルアミノ)テトラサイクリン(CMT-4)、テトラサイクリンピラゾール(CMT-5)、4-ヒドロキシ-4-デ(ジメチルアミノ)テトラサイクリン(CMT-6)、4-デ(ジメチルアミノ-12α-デオキシテトラサイクリン(CMT-7)、6-デオキシ-5α-ヒドロキシ-4-デ(ジメチルアミノ)テトラサイクリン(CMT-8)、4-デ(ジメチルアミノ)-12α-デオキシアンヒドロテトラサイクリン(CMT-9)、4-デ(ジメチルアミノ)ミノサイクリン(CMT-10)がある。
テトラサイクリン誘導体は、本発明の目的において、2000年5月18日付で出願された同時継続米国特許出願第09/573,654号に包括的にまたは特定的に開示されている化合物を含む任意のテトラサイクリン誘導体であり得る。上記米国特許出願は、参考として本明細書に引用する。
【0037】
本明細書は、以下の(1)〜(2)の発明を開示する。
(1) a. 抗菌性テトラサイクリン化合物、および
b. 少なくとも1種の除放剤;
を含み、前記テトラサイクリン化合物を前記少なくとも1種の除放剤と結合させて哺乳類中にテトラサイクリン放出プロフィールを与え、それによって哺乳類を実質的に抗菌活性を有しない前記テトラサイクリン化合物によって治療することを特徴とする哺乳類へのテトラサイクリン化合物の伝達用組成物。
(2) a. 抗菌性テトラサイクリン化合物、および
b. 少なくとも1種の除放剤;
を含み、前記テトラサイクリン化合物を前記少なくとも1種の除放剤と結合させて哺乳類中にテトラサイクリン放出プロフィールを与え、それによって哺乳類を実質的に抗菌活性を有しない前記テトラサイクリン化合物によって治療することを特徴とするテトラサイクリンの制御された伝達のための単位投与量。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビーズ状物からなる徐放性医薬カプセルであって、
前記ビーズ状物が、
a. ドキシサイクリン
b. 徐放剤、及び
c. 徐放剤以外の少なくとも1種の医薬品賦形剤
からなり、
前記徐放剤が、
1. 即効性放出剤、又は
2. 高分子及び/又は生分解性の遅延性放出剤
のいずれかであり、
前記カプセルが、即効性放出剤を有するビーズ状物及び遅延性放出剤を有するビーズ状物からなり、
前記ドキシサイクリンを前記除放剤と物理的に結合させて、投与されたときにヒトにおいて放出プロフィールを与え、それによって実質的に抗菌活性を有しない投与量のドキシサイクリンによって前記ヒトを治療し、
前記投与量が、12〜24時間に亘って約0.4〜0.8μg/mlの血清レベルを与える
ことを特徴とする、徐放性医薬カプセル。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2011−157396(P2011−157396A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−106231(P2011−106231)
【出願日】平成23年5月11日(2011.5.11)
【分割の表示】特願2009−275764(P2009−275764)の分割
【原出願日】平成14年4月5日(2002.4.5)
【出願人】(500056851)コッラジェネックス ファーマシューチカルス インコーポレイテッド (7)
【Fターム(参考)】