説明

テトラサイクリン調節される転写モジュレーター

【課題】真核細胞及び生物における遺伝子の発現を調節するのに有用な核酸分子及び蛋白質を開示する。
【解決手段】真核細胞における転写を阻止する融合蛋白質をコードする核酸であって、その融合蛋白質が、(a)tetオペレーター配列へテトラサイクリン又はテトラサイクリンアナログの非存在下で結合するが存在下では結合しないtetリプレッサーである第1のポリペプチドであり、下記(b)に機能的に結合されたポリペプチド、及び(b)真核細胞における転写を阻止する異種の第2のポリペプチドを含む、上記の核酸であり、本発明の転写アクチベーター及びインヒビター融合蛋白質を組み合わせて用いて、1つ以上のtetオペレーター結合した遺伝子の発現を調節することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テトラサイクリン調節される転写モジュレーターに関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景:
細胞蛋白質の機能の分析は、一般に、引き続く付随する表現型の分析に対応する遺伝子の発現レベルの変化によって容易になる。このアプローチのためには、外来の刺激により制御される誘導可能な発現系が望ましい。理想的には、かかる系は、遺伝子発現に関して「オン/オフ」を媒介するだけでなく、限られたレベルでの遺伝子の限定的発現をも可能にする。
【0003】
遺伝子活性を制御する試みが、種々の誘導可能な真核生物プロモーター、例えば重金属イオン(Mayo等(1982)Cell 29:99-108; Brinster等(1982)Nature 296:39-42; Searle等(1985)Mol.Cell Biol.5:1480-1489)、熱ショック(Nouer 等(1991)Heat Shock Response(Nouer,L.編)フロリダ、Boca Raton在、CRC、167-220頁)又はホルモン(Lee 等(1981)Nature 294:228-232; Hynes 等(1981)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 78:2038-2042; Klock 等(1987)Nature 329:734-736; Israel & Kaufman(1989)Nucl.Acids Res.17:2589-2604)に対して応答性のもの、を用いて為されてきた。しかしながら、これらの系は、一般に、次の問題の一方又は両方に悩まされてきた:即ち(1)インデューサー(例えば、重金属イオン、熱ショック又はステロイドホルモン)が、分析を面倒にし得る多面発現性効果を引き起こし、(2)多くのプロモーター系が、非誘導状態において高レベルの基礎活性を示し、これは、調節された遺伝子を阻止し又、控え目な誘導因子を生じる。
【0004】
これらの制限を回避するためのアプローチは、進化的に離れた種例えば大腸菌からの調節エレメントを、かかる調節サーキットを調節するエフェクターが真核細胞の生理に対して不活発であり、その結果、真核細胞において多面発現性効果を誘出しないことが期待されるもっと高等な真核細胞に導入することである。例えば、大腸菌のLacリプレッサー(lacR)/オペレーター/インデューサー系は、真核細胞内で機能し、次の3つの異なるアプローチにより、遺伝子発現を調節するために用いられた:即ち(1)プロモーター部位に適当に置かれたlacオペレーターによる転写開始の阻止(Hu & Davidson(1987)Cell 48:555-566; Brown等(1987)Cell 49:603-612; Figge等(1988)Cell 52:713-722; Fuerst等(1989)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:2549-2553: Deuschle 等(1989)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:5400-5405);(2)LacR/オペレーター複合体による伸長中の転写するRNAポリメラーゼIIの封鎖(Deuschle等(1990)Science 248:480-483);及び(3)LacRと単純ヘルペスウイルス(HSV)のビリオン蛋白質16(VP16)の活性化ドメインとの融合の原因であるプロモーターの活性化(Labow 等(1990)Mol.Cell Biol.10:3343-3356; Baim等(1991)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:5072-5076)。
【0005】
Lac系の一つのバージョンにおいては、lacオペレーター結合した配列の発現は、Lac−VP16融合蛋白質により構成的に活性化され、イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)の存在下で停止される(Labow等(1990)前出)。この系の他のバージョンにおいては、IPTGの存在下でlacオペレーターに結合する(細胞の温度を増すことにより促進される)lacR−VP16が用いられる(Baim等(1991)前出)。これらのlac系の真核細胞における利用は、部分的に、IPTGが真核細胞中でゆっくりと不十分に作用し、細胞毒性レベルに達する濃度で使用しなければならないために限られている。或は、遺伝子発現を誘導するための温度シフトの利用は、細胞における多面発現性効果を誘出しやすい。従って、迅速で高レベルの遺伝子発現の誘導を示し旦つインデューサーが細胞毒性又は多面発現性効果を伴わずに真核細胞により許容される、もっと効果的な誘導可能な調節系が必要である。
【0006】
大腸菌のテトラサイクリン(Tc)耐性の成分は、真核細胞中でも機能することが見出され、遺伝子発現を調節するために利用されてきた。例えば、テトラサイクリンの不在においてtetオペレーターに結合して遺伝子転写を抑制するTetリプレッサー(TetR)は、tetオペレーター配列を含むプロモーターからの転写を抑制するのに十分な高濃度で植物細胞中で発現された(Gatz,C.等(1992)Plant J.2:397-404)。
【非特許文献1】Gatz,C.等(1992)Plant J.2:397-404
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、細胞中でのダウンレギュレート(down-regulated)された遺伝子発現を維持するためにはTetRの非常に高い細胞内濃度が必要であるが、それは、多くの状況において達成できず、従って、その系における「漏れ」を生じる。
【0008】
他の研究において、TetRは、テトラサイクリン制御される転写アクチベーター(tTA)を造るためにVP16の活性化ドメインと融合された(Gossen,M.及びBujard,H.(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:5547-5551)。このtTA融合蛋白質は、TetRと同じ様式でテトラサイクリンにより調節される(即ち、tTAは、テトラサイクリンの不在時にはtetオペレーター配列に結合するが、テトラサイクリン存在下では結合しない)。従って、この系では、Tcの連続的存在において、遺伝子発現が停止され、Tcが除去されると転写が誘導される。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明の要約:
この発明の一つの面は、真核細胞中での遺伝子発現を刺激するために原核生物のTetリプレッサー/オペレーター/インデューサー系の成分を利用する誘導可能な調節系に関係する。この発明の系において、tetオペレーター結合したヌクレオチド配列の転写は、テトラサイクリンの不在時にはサイレントに維持されるが、テトラサイクリン(又はそのアナログ)の存在下では迅速且つ強力に誘導され得る。転写は、少なくとも2つのポリペプチドよりなる融合蛋白質により誘導される。それらのポリペプチドは、テトラサイクリン又はテトラサイクリンアナログの存在下でtetオペレーター配列に結合する第1のポリペプチド及び真核細胞における転写を直接又は間接に活性化する第2のポリペプチドである。好適具体例において、この融合蛋白質の第1のポリペプチドは、野生型リプレッサーと逆の様式でTcにより調節される(即ち、Tcの不在時ではなく存在時にtetオペレーター配列に結合する)変異したTetリプレッサーである。従って、誘導剤(Tc又はTcアナログ)の不在時に、tetオペレーター結合したヌクレオチド配列の転写は、誘導されないままである。誘導剤の存在下では、tetオペレーター結合したヌクレオチド配列は、この発明のトランスアクチベーター融合蛋白質により刺激される。
【0010】
この発明の誘導可能な調節系は、遺伝子発現の誘導が迅速で効率的且つ強力であり(例えば、典型的には、1000〜2000倍の、最大で20,000倍の発現の増大が認められた)、誘導剤が連続的に存在する必要がないという有利な特性を有する。その上、誘導剤は、真核細胞において多面発現性効果又は細胞毒性を引き起こさない。この発明の誘導可能な調節系は、イン・ビトロ又はイン・ビボで、細胞中の遺伝子発現の調節に応用することができ、遺伝子治療応用又はトランスジェニック及び相同組換え生物(例えば、動物及び植物)における遺伝子産物の発現に特に有用である。
【0011】
この発明の誘導可能な調節系は、少なくとも2つの成分:テトラサイクリン誘導可能な転写アクチベーター及び調節すべき標的の転写ユニットを含む。従って、この発明の一つの面は、Tc誘導可能な転写アクチベーター(トランスアクチベーター)融合蛋白質及びこの融合蛋白質をコードする核酸(例えば、DNA)に関係する。好適な融合蛋白質は、単純ヘルペスウイルスのビリオン蛋白質16(VP16)の活性化ドメインと機能的に結合された、71、95、101及び/又は102位のアミノ酸から選択する少なくとも1つのアミノ酸の位置が変異したTn10コードされたTetリプレッサーを含む(かかる融合蛋白質のヌクレオチド及びアミノ酸配列を、それぞれ、SEQ ID NO:1及び2に示す)。一具体例において、融合蛋白質の活性化ドメインは、VP16の約127のC末端アミノ酸を含む(例えば、SEQ ID NO:2の融合蛋白質)。他の具体例において、活性化ドメインは、VP16のC末端の約11アミノ酸(そのアミノ酸配列は、例えば、SEQ ID NO:4に示してある)の少なくとも1コピーを含む。必要な機能的活性を有する他の変異したTetリプレッサー及び転写活性化ドメインは、この発明の範囲内にある。更に、トランスアクチベーター蛋白質は、この融合蛋白質の細胞核への輸送を促進する第3のポリペプチドを含むことができる。例えば、核への局在化のシグナル(例えば、SEQ ID NO:5に示したアミノ酸配列を有する)を融合蛋白質に取り込むことができる。この発明は、更に、この発明のトランスアクチベーター融合蛋白質をコードする核酸を含む組換えベクター及び宿主細胞を提供する。この発明は又、更に、この発明のトランスアクチベーター融合蛋白質をコードする核酸を含むトランスジェニック及び相同組換え生物を提供する。
【0012】
この発明のトランスアクチベーターを用いて、最小プロモーター配列及び少なくとも1つのtetオペレーター配列と機能的に結合された転写されるべきヌクレオチド配列よりなる標的転写ユニットの転写を調節する。転写されるべきヌクレオチド配列は、標的蛋白質又は活性なRNA分子(例えば、アンチセンスRNA分子又はリボザイム)をコードすることができ、外因性又は内因性のヌクレオチド配列であってよい。この発明のトランスアクチベーターをコードする第1の核酸及びそのトランスアクチベーターに対する標的転写ユニットを含む第2の核酸は、核酸組成物に取り込まれ得る。この核酸組成物を宿主細胞又は生物(例えば、トランスジェニック及び相同組換え動物及び植物)に導入して、転写されるべき標的ヌクレオチド配列のテトラサイクリン誘導可能な発現を与えることができる。
【0013】
転写されるべき単一ヌクレオチド配列の発現のための調節系の提供に加えて、この発明は、転写されるべき2つ以上のヌクレオチド配列の統合的又は独立した調節を可能にする新規な標的転写ユニットをも特徴とする。一具体例において、転写されるべき2つのヌクレオチド配列の統合的調節は、転写されるべき第1のヌクレオチド配列がtetオペレーター配列の5’末端に機能的に結合され、転写されるべき第2のヌクレオチドが同じtetオペレーター配列の3’末端に機能的に結合され、それにより、第1及び第2のヌクレオチド配列が発散様式で転写される転写ユニットを用いて達成される。かかる二方向転写ユニットのための適当な二方向プロモーターは、SEQ ID NO:6及び7に示してある。かかる転写ユニットは、同じ細胞中のヘテロダイマー蛋白質の2つのサブユニット(例えば、抗体の鎖)の化学量論的量を生成するために又は標的遺伝子と同じ細胞内の検出可能マーカーをコードする遺伝子とを同時発現させ、それにより、標的遺伝子を発現する細胞の選択を可能にするために特に有用である。
【0014】
他の具体例において、2つのヌクレオチド配列の独立の調節は、転写されるべき第1のヌクレオチド配列が第1のクラスの型のtetオペレーターに機能的に結合され、転写されるべき第2のヌクレオチド配列が第2の異なるクラスの型のtetオペレーターに機能的に結合された転写ユニットを用いて達成される。2つの異なる転写アクチベーター融合蛋白質を、次いで、2つのヌクレオチド配列の転写を調節するために用いる:一つの融合蛋白質は、Tcの存在下で第1のクラスのtetオペレーター配列に結合するが、他の融合蛋白質は、Tcの不在時に第2のクラスのtetオペレーター配列に結合する(或は、第1の融合蛋白質は、Tcの不在時に第1のクラスのtetオペレーター配列に結合し、第2の融合蛋白質は、Tcの存在下で第2のクラスのtetオペレーター配列と結合する)。この転写ユニットは、宿主中の治療遺伝子及び自殺遺伝子の発現を独立に調節するために特に有用である。例えば、治療遺伝子の発現は、テトラサイクリンの存在において刺激され、次いで、治療が完了したときは、テトラサイクリンの除去により自殺遺伝子の発現が刺激される。
【0015】
この発明の他の面は、この発明のトランスアクチベーター融合蛋白質を発現する宿主細胞又は動物中の少なくとも1つのtetオペレーター配列に機能的に結合されたヌクレオチド配列の転写を刺激する方法に関係する。宿主細胞において、転写は、細胞をTc又はTcアナログと接触させることにより刺激される。患者(例えば、トランスジェニック又は相同組換え生物)において、転写は、Tc又はTcアナログをその患者に投与することにより刺激される。種々のTcアナログを用いて及びこの誘導剤の濃度を変えて、遺伝子発現の誘導のレベルを調節することができる。高レベルの遺伝子発現用の好適なTcアナログには、無水テトラサイクリン及びドキシサイクリンが含まれる。この発明は、更に、この発明の調節系を用いて標的蛋白質を製造し及び単離するための方法を提供する。例えば、宿主細胞又は宿主細胞を生育させる培養培地由来の少なくとも1つのtetオペレーター配列に機能的に結合されたヌクレオチド配列によりコードされる蛋白質を単離することを更に含む方法を提供する。
【0016】
この発明の他の面は、1つ以上のtetオペレーター配列に結合された遺伝子の発現を高度に制御された様式で阻止するのに有用なテトラサイクリン調節される転写インヒビターに関係する。この発明の転写インヒビターは、少なくとも2つのポリペプチド(tetオペレーター配列と結合する第1のポリペプチド及び真核細胞における転写を直接又は間接に阻止する第2の異種ポリペプチド)からなる融合蛋白質を含む。この第2の異種ポリペプチドは、第1のポリペプチドとは異なる蛋白質から誘導される。この発明の融合蛋白質は真核生物の転写的サイレンサードメインを含むので、それらは、TetRリプレッサー単独よりも真核細胞における転写の抑制に有効であることが予想される。
【0017】
この発明の一具体例において、インヒビター融合蛋白質の第1のポリペプチドは、テトラサイクリン(Tc)又はそのアナログの不在時にtetオペレーター配列に結合するが、存在時には結合しない(例えば、この第1のポリペプチドは、好ましくは、Tetリプレッサー、例えばSEQ ID NO:17に示したアミノ酸配列を有するTn10誘導されたTetリプレッサーである)。テトラサイクリン(又はTcアナログ)の不在時に、この融合蛋白質は、標的遺伝子に機能的に結合されたtetオペレーター配列に結合し、それにより、標的遺伝子の転写を阻止する。他の具体例において、この第1のポリペプチドは、テトラサイクリンの存在下ではtetオペレーター配列に結合するが、不在時には結合しない(例えば、第1のポリペプチドは、好ましくは、変異したTetリプレッサー、例えば71、95、101及び/又は102位にアミノ酸置換を有するTn10誘導されたTetリプレッサーである)。好ましくは、この第1のポリペプチドは、SEQ ID NO:19に示したアミノ酸配列を有する。テトラサイクリン(又はTcアナログ)の存在下では、この融合蛋白質は、標的遺伝子に機能的に結合したtetオペレーター配列に結合し、それにより、標的遺伝子の転写を阻止する。
【0018】
第2のポリペプチドは、蛋白質例えばv−erbAオンコジーン産物、キイロショウジョウバエKrueppel蛋白質、レチノイン酸レセプターα、甲状腺ホルモンレセプターα、酵母Ssn6/Tup1蛋白質複合体、偶数スキップキイロショウジョウバエ蛋白質、SIR1、NeP1、キイロショウジョウバエドーサル蛋白質、TSF3、SFI、キイロショウジョウバエハンチバック蛋白質、キイロショウジョウバエKnirps蛋白質、WT1、Oct−2.1、キイロショウジョウバエengrailed蛋白質、E4BP4又はZF5からの転写的「サイレンサー」ドメインであってよい。好適なサイレンサードメインは、Kruppelのアミノ酸残基406〜466(SEQ ID NO:21に示してある)及びv−erbAのアミノ酸残基364〜635(SEQ ID NO:23に示してある)を含む。
【0019】
この発明の融合蛋白質は、更なるポリペプチド例えば、融合蛋白質の細胞核への輸送を促進する第3のポリペプチド(即ち、核への輸送用アミノ酸配列)を、更に含んでよい。
【0020】
この発明は、更に、この発明の転写インヒビター融合蛋白質をコードする単離した核酸分子及び、これらの核酸分子を、コードされた転写インヒビター融合蛋白質の宿主細胞での発現に適した形態で含む組換え発現ベクターを提供する。この発明は、尚更に、この発明の組換え発現ベクターが導入された宿主細胞を提供する。従って、転写インヒビター融合蛋白質は、これらの宿主細胞において発現される。宿主細胞は、例えば、哺乳動物細胞(例えば、ヒト細胞)、酵母細胞、カビ細胞又は昆虫細胞であってよい。更に、宿主細胞は、受精した非ヒト卵母細胞であってよく、この場合、宿主細胞を用いて、転写インヒビター融合蛋白質を発現する細胞を有するトランスジェニック生物を造ることができる。尚、更に、融合蛋白質をコードする核酸と宿主細胞内の標的遺伝子との間での相同組換えを与える組換え発現ベクターをデザインすることができる。かかる相同組換えベクターを用いて、この発明の融合蛋白質を発現する相同組換え動物を造ることができる。
【0021】
好適組換えにおいて、宿主細胞(又は宿主生物の細胞)は又、少なくとも1つのtetオペレーター配列に機能的に結合された転写されるべきヌクレオチド配列をも含む(例えば、発現がTc又はそのアナログにより調節され得る標的遺伝子)。これらの宿主細胞中のtetオペレーター結合された標的遺伝子の転写を調節するために、宿主細胞と接触するTc(又はそのアナログ)の濃度を変える。例えば、転写インヒビター融合蛋白質がTcの不在時にtetオペレーターに結合するときは、細胞に接触するTcの濃度を減らして、それにより、標的とするtetオペレーター結合した遺伝子の転写を阻止する(例えば、もし細胞を先ずTcの存在下で培養するならば、次いで、培養培地からTcを除去して標的遺伝子の転写を阻止することができる)。或は、転写インヒビター融合蛋白質がTcの存在下でtetオペレーター配列に結合するときは、細胞と接触するTcの濃度を増して、それにより、標的とするtetオペレーター結合した遺伝子の転写を阻止する(例えば、もし細胞を先ずTcの不在にて培養するならば、次いで、Tcを培養培地に加えて標的遺伝子の転写を阻止することができる)。
【0022】
この発明の転写インヒビター融合蛋白質は、更にここに記載した様々な状況において遺伝子発現を阻止するのに有用である。特に好適な具体例においては、同じ宿主細胞中のテトラサイクリン調節される転写インヒビターとアクチベーター融合蛋白質との組合せにより、標的とするtetオペレーター(tetO)結合された遺伝子の転写を調節して、その標的遺伝子の発現レベルの正確な制御を与える。例えば、Tcの存在下でのみtetOに結合するアクチベーター融合蛋白質及びTcの不在時にのみtetOに結合するインヒビター融合蛋白質が、標的とするtetO結合した遺伝子を含む宿主細胞において発現される。Tcの不在時には、標的遺伝子の転写の基礎レベルは、インヒビター融合蛋白質により阻止される。細胞とTc(又はアナログ)との接触に際して、標的遺伝子の転写は、アクチベーター融合蛋白質により刺激される。この発明のアクチベーター及びインヒビター融合蛋白質を組み合わせて用いて、標的とする多数のtetO結合した遺伝子の発現を調節することもできる。
【0023】
この発明の遺伝子の発現を調節するための新規なキットも又、この発明の範囲内にある。一具体例において、この発明のキットは、この発明のトランスアクチベーター融合蛋白質をコードする少なくとも1つの核酸分子及び、標的遺伝子をtetオペレーター配列に機能的に結合するようにクローン化することのできる標的転写ユニットを含むことができる。或は、又は更に、これらのキットは、この発明の転写インヒビター融合蛋白質をコードする核酸分子を含むことができる。標的とする多数の遺伝子を、例えば統合的又は独立的調節のためにクローン化することのできる標的転写ユニットも又、この発明のキットに含まれ得る。更に、少なくとも1つのテトラサイクリン又はテトラサイクリンアナログを、これらのキットに含めることができる。
【0024】
図面の簡単な説明:
図1は、テトラサイクリン及び種々のテトラサイクリンアナログ(1μg/ml f.c.)による、HR5−C11細胞におけるルシフェラーセ活性の刺激を示す棒グラフである。ルシフェラーセ活性の測定前3日間、細胞を、示したテトラサイクリン類の不在(−)又は存在下で生育させた。各無地及び平行線を引いた棒は、単一の培養皿のルシフェラーゼ活性を表している。
図2は、種々の濃度のドキシサイクリンとインキュベートしたときのHR5−C11細胞における相対的ルシフェラーゼ活性を示すグラフである。3つの独立の実験の結果を示してある。
図3は、ドキシサイクリンによる、HR5−C11細胞におけるルシフェラーゼ活性の誘導の動力学を示すグラフである。HR5−C11培養物を、1μg/mlのドシキサイクリンにさらして、ルシフェラーゼ活性を種々の間隔で測定した;(●)ドキシサイクリンを含む培養物、(○)抗生物質の不在において生育させた培養物。
【0025】
図4は、種々のクラスのTetリプレッサーのアミノ酸配列を示しており、クラスBの(例えば、Tn10誘導の)Tetリプレッサーと比較した種々のクラスのTetリプレッサーのアミノ酸配列間の相同性を示している。クラスBと同一である他のクラスのTetリプレッサー中のアミノ酸位置をダッシュで示してある。
図5は、種々のクラスのtetオペレーターのヌクレオチド配列を示している:クラスA(SEQ ID NO:11)、クラスB(SEQ ID NO:12)、クラスC(SEQ ID NO:13)、クラスD(SEQ ID NO:14)及びクラスE(SEQ ID NO:15)。
図6は、テトラサイクリン調節される転写アクチベーターによる調節のためのものと同じtetオペレーターに機能的に結合された標的とする2つの遺伝子の統合的調節のための二方向性プロモーター構築物の図式ダイヤグラムである。
【0026】
図7A(SEQ ID NO:6)は、テトラサイクリン調節される転写アクチベーターによる標的とする2つの遺伝子の統合的調節のための二方向性プロモーター領域のヌクレオチド配列を示している。
図7B(SEQ ID NO:7)は、テトラサイクリン調節される転写アクチベーターによる標的とする2つの遺伝子の統合的調節のための二方向性プロモーター領域のヌクレオチド配列を示している。
図8は、テトラサイクリン調節される転写アクチベーターによるルシフェラーゼ及びβ−ガラクトシダーゼ活性の統合的発現を示すグラフである。
図9A〜Bは、テトラサイクリン調節される転写アクチベーター(tTA)の発現に対する自己調節的プロモーターの図式ダイヤグラムである。パネルAは、Tcの不在時にtetオペレーターに結合する野生型Tetリプレッサー含有トランスアクチベーター融合蛋白質の発現の自己調節を示している。パネルBは、Tcの存在下でtetオペレーターに結合する変異したTetリプレッサー含有トランスアクチベーター融合蛋白質の発現の自己調節を示している。
【0027】
図10は、増大する濃度のテトラサイクリンアナログ、ドキシサイクリンの存在下における、それぞれ、テトラサイクリン調節される転写インヒビター蛋白質(tSD)及びテトラサイクリン誘導可能な転写アクチベーター融合蛋白質(rtTA)による、標的tetオペレーター(tetOwt)が結合した遺伝子の負の及び正の調節の図式ダイヤグラムである。
図11は、Krueppel又はv−erbAサイレンサードメインの何れかをコードする核酸のTetリプレッサーをコードする核酸(tetR遺伝子)の3’末端へのイン・フレーム融合による、TetR−サイレンサードメイン融合構築物の構築の図式ダイヤグラムである。
図12は、ルシフェラーゼレポーター遺伝子だけについてのトランスジェニックマウス(右のチェックのカラム)又はルシフェラーゼレポーター遺伝子とtTARトランスジーンを有する二重トランスジェニック動物におけるルシフェラーゼ活性の、ドキシサイクリンの不在(中央の暗いカラム)又は存在下(左の明るいカラム)での発現のグラフ表示である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
発明の詳細な説明:
この発明は、真核細胞又は動物における遺伝子発現を高度に制御された様式で調節するために用いることのできる核酸分子及び蛋白質に関係する。この発明の系による遺伝子発現の調節は、少なくとも次の2つの成分を含む:調節配列に機能的に結合された遺伝子及び、誘導性薬剤の存在又は不在時に調節配列に結合して遺伝子の転写を活性化し又は阻止する蛋白質。この発明の系は、原核生物のTetリプレッサー/オペレーター/インデューサー系の成分を利用して真核細胞における遺伝子発現を刺激する。
【0029】
この発明の種々の面は、tetオペレーター(tetO)配列に結合したときに遺伝子転写を活性化し又は阻止することができるが、テトラサイクリン又はそのアナログが存在するとき又は不在のときにのみtetオペレーター配列に結合する融合蛋白質に関係する。従って、宿主細胞において、tetオペレーター配列に機能的に結合された遺伝子の転写を、この発明の融合蛋白質により、宿主細胞に接触しているテトラサイクリン(又はアナログ)の濃度を変える(例えば、テトラサイクリンを培養培地に加え又は該培地から除去し、或は、テトラサイクリンを宿主生物に投与し又は該投与を止める)ことにより刺激し又は阻止する。
【0030】
この発明は、更に、この発明の融合蛋白質による調節のための標的転写ユニットに関係する。標的とする単一のtetオペレーター結合した遺伝子の調節を可能にすることに加えて、この発明は又、この発明のトランスアクチベーター融合蛋白質により、統合的又は独立的様式にて調節され得る、転写されるべき2つ以上の遺伝子を含む新規な転写ユニットをも提供する。テトラサイクリン(又はそのアナログ)を用いる遺伝子転写の刺激又は阻止の方法;及びここに記載した調節系の成分を含むキットも又、この発明に含まれる。
【0031】
下記のサブセクションにおいて、この発明の誘導可能な調節系の成分を含む核酸及び蛋白質、及びそれらの相互関係をもっと詳細に検討する。それらのサブセクションは、下記の通りである:
I.テトラサイクリン誘導可能な転写アクチベーター
A.トランスアクチベーター融合蛋白質の第1のポリペプチド
B.トランスアクチベーター融合蛋白質の第2のポリペプチド
C.トランスアクチベーター融合蛋白質の第3のポリペプチド

II.トランスアクチベーター融合蛋白質の発現
A.発現ベクター
B.宿主細胞
C.宿主細胞中への核酸の導入
D.トランスジェニック生物
E.相同組換え生物

III.テトラサイクリン誘導可能なトランスアクチベーターにより調節される標的転写ユニット
A.tetオペレーター結合したヌクレオチド配列の発現の調節
B.2つのヌクレオチド配列の統合的調節
C.多数のヌクレオチド配列の独立的調節
D.多数のヌクレオチド配列の組み合わせた統合的及び独立的調節

IV.テトラサイクリン調節される転写インヒビター
A.転写インヒビター融合蛋白質の第1のポリペプチド
B.転写インヒビター融合蛋白質の第2のポリペプチド
C.転写インヒビター融合蛋白質の第3のポリペプチド
D.転写インヒビター融合蛋白質の発現

V.この発明のキット

VI.テトラサイクリン又はそのアナログによる遺伝子発現の調節
A.トランスアクチベーター融合蛋白質による遺伝子発現の刺激
B.転写インヒビター融合蛋白質による遺伝子発現の阻止
C.遺伝子発現の組み合わせた正及び負の調節

VII.この発明の応用
A.遺伝子治療
B.イン・ビトロでの蛋白質の生成
C.イン・ビボでの蛋白質の生成
D.ヒトの病気の動物モデル
E.クローニング用の安定な細胞系統の生成
【0032】
I.テトラサイクリン誘導可能な転写アクチベーター:
この発明の誘導可能な調節系において、遺伝子の転写は、転写アクチベーター蛋白質(本明細書においては、単にトランスアクチベーターとも呼ぶ)により活性化される。この発明のトランスアクチベーターは、融合蛋白質である。この発明の一つの面は、従って、融合蛋白質及び融合蛋白質をコードする核酸(例えば、DNA)に関係する。用語「融合蛋白質」は、典型的には異なる源に由来する、機能的に結合された少なくとも2つのポリペプチドを記述することを意図するものである。これらのポリペプチドに関して、用語「機能的に結合された」は、2つのポリペプチドが、各ポリペプチドがその意図される機能を発揮し得る様式で結合されることを意味することを意図している。典型的には、これらの2つのポリペプチドは、ペプチド結合を介して結合される。この融合蛋白質は、好ましくは、標準的なDNA技術により生成される。例えば、第1のポリペプチドをコードするDNA分子を、第2のポリペプチドをコードする他のDNA分子にライゲートし、その結果生成したハイブリッドDNA分子を宿主細胞中で発現させて融合蛋白質を生成する。これらのDNA分子は、ライゲーション後に、コードされたポリペプチドの翻訳フレームが変化しないように、互いに5’から3’の方向でライゲートする(即ち、DNA分子を、互いにイン・フレームにライゲートする)。
【0033】
A.トランスアクチベーター融合蛋白質の第1のポリペプチド:
この発明のトランスアクチベーター融合蛋白質は、部分的に、テトラサイクリン(Tc)又はそのアナログの存在時にtetオペレーター配列に結合する第1のポリペプチドよりなる。この融合蛋白質の第1のポリペプチドは、好ましくは、変異したTetリプレッサーである。用語「変異したTetリプレッサー」は、野生型Tetリプレッサーに類似するが少なくとも1つのアミノ酸が野生型Tetリプレッサーと異なるアミノ酸配列を有するポリペプチドを含むことを意図するものである。用語「野生型Tetリプレッサー」は、Tcの不在時に原核細胞中のtetオペレーター配列からの転写を抑制する天然の蛋白質を記述することを意図するものである。変異したTetリプレッサーと野生型のTetリプレッサーとの間のアミノ酸の違いは、1つ以上のアミノ酸の置換、1つ以上のアミノ酸の欠失、又は1つ以上のアミノ酸の付加であってよい。この発明の変異したTetリプレッサーは、次の機能的特性を有する:1)このポリペプチドは、tetオペレーター配列に結合することができ(即ち、それは、野生型TetリプレッサーのDNA結合特異性を保持している);そして、それは、野生型Tetリプレッサーとは逆の様式でテトラサイクリンにより調節される(即ち、変異したTetリプレッサーはTcの不在時ではなくTc(又はTcアナログ)の存在時にのみtetオペレーター配列に結合する)。
【0034】
好適具体例において、上記の機能的特性を有する変異したTetリプレッサーは、野生型リプレッサーの配列におけるアミノ酸残基の置換により造られる。例えば、実施例1に記載したように、71、95、101及び102位にアミノ酸置換を有するTn10誘導されたTetリプレッサーは、所望の機能的特性を有し、従って、この発明のトランスアクチベーター融合蛋白質において第1のポリペプチドとして用いることができる。この変異したTetリプレッサーのアミノ酸配列をSEQ ID NO:2(1〜207位)に示す。この発明は、特定の変異に限定されるものではないが、この変異したTetリプレッサーの一具体例において、71位は、グルタミン酸からリジンに、95位は、アスパラギン酸からアスパラギンに、101位は、ロイシンからセリンに、そして102位は、グリシンからアスパラギン酸に変異される。これらのアミノ酸の位置の4つ全部より少ない変異は、所望の機能的特性を有するTetリプレッサーを達成するのに十分であり得る。従って、Tetリプレッサーは、好ましくは、これらの位置の少なくとも1つにおいて変異される。この変異したTetリプレッサーの所望の機能的特性を保持するこれらの又は他のアミノ酸位置における他のアミノ酸置換、欠失又は付加は、この発明の範囲内にある。Hinrichs,W等(1994)Science 264:418-420に記載のように、Tetリプレッサー−テトラサイクリン複合体の結晶構造は、変異したTetリプレッサーの合理的デザインのために利用することができる。この構造に基づいて、アミノ酸71位は、テトラサイクリン結合ポケットの外側に位置し、これは、この部位における変異が、この発明の変異したTetリプレッサーの所望の機能的特性を達成するのに必要でないことを示唆している。対照的に、アミノ酸95、101及び102位は、保存されたテトラサイクリン結合ポケット内に位置する。従って、Tetリプレッサーのテトラサイクリン結合ポケットは、この発明の変異したTetリプレッサーを造るための突然変異のための標的であり得る。
【0035】
この発明の融合蛋白質中への取込みのための更なる変異したTetリプレッサーを、この発明の教示に従って造ることができる。A、B、C、D及びE等の幾つかの異なるクラスのTetリプレッサーが記載された(これらの内、Tn10コードされたリプレッサーは、クラスBリプレッサーである)。種々のクラスのTetリプレッサーのアミノ酸配列は、高度の相同性(即ち、蛋白質の長さの40〜60%)を共有する(上記の突然変異を含む領域を含む)。種々のクラスのTetリプレッサーのアミノ酸配列を図4に示して比較してあるが、これらは又、Tovar,K等(1988)Mol.Gen.Genet.215:76-80 にも記載されている。従って、Tn10誘導したTetリプレッサーに関して上記したものと同等の突然変異を、この発明の融合蛋白質に含ませるために他のクラスのTetリプレッサー中に作ることができる。例えば、アミノ酸95位は、5つのすべてのリプレッサーのクラスにおいてアスパラギン酸であるが、任意のクラスのリプレッサーにおいてアスパラギンに変異させることができる。同様に、102位は、5つのすベてのリプレッサーのクラスにおいてグリシンであるが、任意のクラスのリプレッサーにおいてアスパラギン酸に変異させることができる。更なる適当な同等の変異は、当業者には明白であり、ここに記載の手順によって造り且つ機能について試験することができる。A、C、D及びEクラスのTetリプレッサーのヌクレオチド及びアミン酸配列は、Waters,S.H.等(1983)Nucl.Acids Res 11:6089-6105,Unger,B.等(1984)Gene 31:103-108,Unger,B.等(1984)Nucl.Acids Res.12:7693-7703及びTovar,K.等(1988)Mol.Gen.Genet.215:76-80にそれぞれ間示されている。これらの野生型の配列は、ここに記載の誘導可能な調節系において利用するために、この発明の教示に従って突然変異させることができる。
【0036】
上記の突然変異に代わるもの、更なる適当な変異したTetリプレッサー(即ち、上記の所望の機能的特性を有するもの)を、実施例1に記載したように野生型Tetリプレッサーの突然変異誘発及び選択により造ることができる。野生型クラスBTetリプレッサーのヌクレオチド及びアミノ酸配列は、Hillen,W.及びSchollmeier,K.(1983)Nucl.Acids Res.11:525-539及びPostle,K.等(1984)Nucl.Acids Res.12:4849-4863 に開示されている。野生型クラスA、C、D及びE型リプレッサーのヌクレオチド及びアミノ酸配列は、上で引用されている。変異したTetリプレッサーは、例えば、次のようにして造り、選択することができる:野生型Tetリプレッサーをコードする核酸(例えば、DNA)をランダムな突然変異誘発にかけ、その結果生じた変異した核酸を発現ベクターに取込み、スクリーニングのための宿主細胞に導入する。テトラサイクリンの存在時にのみtetオペレーター配列に結合するTetリプレッサーの選択を可能にするスクリーニングアッセイを用いる。例えば、発現ベクター中の変異した核酸のライブラリーを、tetオペレーター配列が、Lacリプレッサーをコードする遺伝子の発現を制御し、Lacリプレッサーが、選択可能マーカー(例えば、薬剤耐性)をコードする遺伝子の発現を制御する大腸菌株中に導入することができる。Tetリプレッサーの細菌中のtetオペレーター配列への結合は、Lacリプレッサーの発現を阻止し、それにより、選択可能マーカー遺伝子の発現が誘導される。マーカー遺伝子を発現している細胞は、選択可能な表現型(例えば、薬剤耐性)に基づいて選択される。野生型Tetリプレッサーに関して、選択可能マーカー遺伝子の発現は、Tcの不在時に起きる。変異したTetリプレッサーをコードする核酸は、Tcの存在時にのみ細菌中の選択可能なマーカー遺伝子の発現を誘導する核酸の能力に基づいて、この系を用いて選択される。
【0037】
トランスアクチベーター融合蛋白質(例えば、変異したTetリプレッサー)の第1のポリペプチドは、tetオペレーター配列に特異的に結合する特性を有する。Tetリプレッサーの各クラスは、対応する標的tetオペレーター配列を有する。従って、用語「tetオペレーター配列」は、tetオペレーター配列のすべてのクラス例えばクラスA、B、C、D及びEを含むことを意図するものである。tetオペレーターのこれらの5つのクラスのヌクレオチド配列を、図5及びSEQ ID NO:11〜15に示すが、Waters,S.H.等(1983)前出、Hillen,W.及びSchollenmeier,K.(1983)前出、Stuber,D.及びBujard,H.(1983)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 78:167-171,Unger,B.等(1984)前出、及びTovar,K等(1988)前出に記載されている。好適具体例において、変異したTetリプレッサーは、Tn10コードされたリプレッサー(即ち、クラスB)であり、tetオペレーター配列は、クラスBtetオペレーター配列である。或は、変異したクラスATetリプレッサーは、クラスAtetオペレーター配列等と共に用いることができる(他のクラスのTetリプレッサー/オペレーターについて)。
【0038】
クラスAtetオペレーターに結合する変異したTetリプレッサーを造る他のアプローチは、ここに記載の既に変異したTn10由来のTetリプレッサー(クラスBリプレッサー)を、それがもはや有効にクラスB型オペレーターに結合せずにクラスA型オペレーターに有効に結合するように、更に変異させることである。クラスA又はB型オペレーターの第6位のヌクレオチドは、相補的リプレッサーによるオペレーターの認識について決定的に重要であるということが見出されている(6位は、クラスBオペレーターではG/C対であり、クラスAオペレーターではA/T対である)(Wissman等(1988)J.Mol.Biol.202:397-406参照)。クラスA又はクラスBTetリプレッサーの第40位のアミノ酸が、オペレーターの6位の認識について決定的に重要なアミノ酸残基であるということも見出されている(40位のアミノ酸は、クラスBリプレッサーではスレオニンであるが、クラスAリプレッサーではアラニンである)。更に、クラスBリプレッサーのThr40のAlaでの置換は、その結合特異性を変えて、そのリプレッサーは今やクラスAオペレーターと結合できるようになるということが見出されている(同様に、クラスAリプレッサーのAla40のThrでの置換は、その結合特異性を変えて、そのリプレッサーは今やクラスBオペレーターと結合できるようになる)(Altschmied等(1988)EMBO J.7:4011-4017参照)。従って、ここに開示した変異したTn10由来のTetリプレッサーの結合特異性を、アミノ酸残基40を標準的分子生物学技術(例えば、位置指定突然変異導入法)により更にThrからAlaに変えることによって変えることができる。
【0039】
特定の変異を(例えば、上記の71、95、101及び/又は102位に)有する変異したTetリプレッサーを、標準的分子生物学技術(例えば、位置指定突然変異導入法又はヌクレオチド変異を組み込むオリゴヌクレオチドプライマーを用いるPCR媒介の突然変異導入)により、ヌクレオチド変化を、野生型リプレッサーをコードする核酸中に導入することによって造ることができる。或は、変異したTetリプレッサーがライブラリーからの選択により同定されるときには、その変異した核酸をライブラリーベクターから回収することができる。この発明のトランスアクチベーター融合蛋白質を造るためには、変異したTetリプレッサーをコードする核酸を、次いで、転写活性化ドメインをコードする他の核酸にイン・フレームでライゲートし、その融合構築物を組換え発現ベクター中に組み込む。この組換え発現ベクターを宿主細胞又は動物に導入することにより、トランスアクチベーター融合蛋白質を発現させることができる。
【0040】
B.トランスアクチベーター融合蛋白質の第2のポリペプチド:
トランスアクチベーター融合蛋白質の第1のポリペプチドを、真核細胞における転写を直接又は間接に活性化する第2のポリペプチドに機能的に結合する。第1及び第2のポリペプチドを機能的に結合するためには、各ポリペプチドの機能を保存する方法(例えば、化学的架橋)によって第1及び第2のポリペプチドを機能的に結合することができるが、典型的には、第1及び第2のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を互いにイン・フレームでライゲートして融合蛋白質をコードするキメラ遺伝子を造る。好適具体例において、トランスアクチベーターそれ自身の第2のポリペプチドは、転写活性化活性を有する(即ち、この第2のポリペプチドは、直接、転写を活性化する)。他の具体例において、第2のポリペプチドは、融合蛋白質と相互作用する転写活性化蛋白質の補充により、間接的機構によって、転写を活性化する。従って、用語「真核細胞中の転写を活性化するポリペプチド」は、ここで用いる場合、直接又は間接に転写を活性化するポリペプチドを含むことを意図するものである。
【0041】
真核細胞における転写を活性化するように機能し得るポリペプチドは、当分野で公知である。特に、多くのDNA結合蛋白質の転写活性化ドメインが記載されており、そのドメインが異種蛋白質に移されたときにそれらの活性化機能を保持することが示されている。この発明の融合蛋白質における利用のための好適なポリペプチドは、単純ヘルペスウイルスビリオン蛋白質16である(ここでは、VP16と呼び、そのアミノ酸配列は、Triezenberg,S.J.等(1988)Genes Dev.2:718-729に開示されている)。一具体例において、VP16の約127のC末端アミノ酸を用いる。例えば、SEQ ID NO:2に示したアミノ酸配列(208〜335位)を有するポリペプチドを、融合蛋白質における第2のポリペプチドとして用いることができる。他の具体例においては、転写活性化能力を保持しているVP16のC末端からの約11アミノ酸の少なくとも1コピーを、第2のポリペプチドとして用いる。好ましくは、この領域のダイマー(即ち、約22アミノ酸)を用いる。VP16の適当なC末端ペプチド部分は、Seipel,K.等(EMBO J.(1992)13:4961-4968)に記載されている。例えば、SEQ ID NO:4に示したアミノ酸配列(SEQ ID NO:3に示したヌクレオチド配列によりコードされる)を有するペプチドのダイマーを、融合蛋白質の第2のポリペプチドとして用いることができる。
【0042】
真核細胞における転写活性化能力を有する他のポリペプチドを、この発明の融合蛋白質において用いることができる。種々の蛋白質内に見出される転写活性化ドメインは、類似の構造的特徴に基づいて、幾つかのカテゴリーに分類された。転写活性化ドメインの型には、酸性転写活性化ドメイン、プロリンリッチ転写活性化ドメイン、セリン/スレオニンリッチ転写活性化ドメイン及びグルタミンリッチ転写活性化ドメインが含まれる。酸性転写活性化ドメインの例には、既に述べたVP16の領域及びGAL4の753〜881アミノ酸残基が含まれる。プロリンリッチ活性化ドメインの例には、CTF/NF1の399〜499アミノ酸残基及びAP2のアミノ酸残基が含まれる。セリン/スレオニンリッチ転写活性化ドメインの例には、ITF1の1〜427アミノ酸残基及びITF2の2〜451アミノ酸残基が含まれる。グルタミンリッチ活性化ドメインの例には、Oct1の175〜269アミノ酸残基及びSp1の132〜243アミノ酸残基が含まれる。上記の領域の各々のアミノ酸配列及び他の有用な転写活性化ドメインは、Seipel,K.等(EMBO J.(1992)13:4961-4968)に記載されている。
【0043】
前に記載された転写活性化ドメインに加えて、標準的技術によって同定することのできる新規な転写活性化ドメインは、この発明の範囲内にある。ポリペプチドの転写活性化能力は、そのポリペプチドをDNA結合活性を有する他のポリペプチドに結合させ、その融合蛋白質により刺激される標的配列の転写量を測定することによってアッセイすることができる。例えば、当分野で用いられる標準的アッセイは、推定上の転写活性化ドメインとGAL4DNA結合ドメイン(例えば、アミノ酸残基1〜93)との融合蛋白質を利用する。次いで、この融合蛋白質を用いて、GAL4結合部位に結合されたレポーター遺伝子の発現を刺激する(例えば、Seipel,K.等(EMBO J.(1992)11:4961-4968)及びそこで引用されている文献を参照されたい)。
【0044】
他の具体例において、融合蛋白質の第2のポリペプチドは、融合蛋白質と相互作用する転写アクチベーターを補充することにより転写を間接的に活性化する。例えば、この発明の変異したtetRを、宿主細胞内に存在する転写アクチベーター蛋白質例えば内因性アクチベーターとの蛋白質−蛋白質相互作用を媒介することができるポリペプチドドメイン(例えば、二量体化ドメイン)に融合させることができる。DNA結合ドメインとトランスアクチベーションドメインとの間の機能的結合は、共有結合である必要はないことが示されている(例えば、Fields及びSong(1989)Nature 340:245-247; Chien等(1991)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:9578-9582; Gyuris等(1993)Cell 75:791-803; 及びZervos,A.S.(1993)Cell 72:223-232参照されたい)。従って、融合蛋白質の第2のポリペプチドは、転写を直接活性化するのではなく、むしろ、適合性の蛋白質−蛋白質総合作用ドメイン及び転写活性化ドメインを有する内因性ポリペプチドとの安定な相互作用を形成するのであろう。安定な相互作用(又は二量体化)ドメインの例には、ロイシンジッパー(Landschulz等(1989)Science 243:1681-1688)、ヘリックス−ループ−ヘリックスドメイン(Murre,C.等(1989)Cell 58:537-544)及びジンクフィンガードメイン(Frankel,A.D.等(1988)Science 240:70-73)が含まれる。融合蛋白質内に存在する二量体化ドメインと内因性核因子との相互作用は、その核因子のトランスアクチベーションドメインの、その融合蛋白質への補充を生じ、それにより、この融合蛋白質が結合するtetオペレーター配列への補充を生じる。
【0045】
C.トランスアクチベーター融合蛋白質の第3のポリペプチド:
変異したTetリプレッサー及び転写活性化ドメインに加えて、この発明の融合蛋白質は、融合蛋白質の細胞核への輸送を促進する機能的に結合した第3のポリペプチドを含むことができる。蛋白質中に含まれたときにその蛋白質の核への輸送を促進するように機能するアミノ酸配列は、この分野で公知であり、核局在化シグナル(NLS)と呼ばれている。核局在化シグナルは、典型的には、塩基性アミノ酸のストレッチからなる。異種蛋白質(例えば、この発明の融合蛋白質)に結合したとき、この核局在化シグナルは、その蛋白質の細胞核への輸送を促進する。この核局在化シグナルは、異種蛋白質に、その蛋白質表面に露出され且つその蛋白質の機能を邪魔しないように結合される。好ましくは、NLSは、蛋白質の一方の末端例えばN末端に結合される。この発明の融合蛋白質に含まれ得るNLSの非制限的例のアミノ酸配列を、SEQ ID NO:5に示す。好ましくは、核局在化シグナルをコードする核酸を、標準的DNA技術により、融合蛋白質をコードする核酸に(例えば、5’末端に)イン・フレームでスプライスする。
【0046】
SEQ ID NO:1に示したヌクレオチド配列を有するこの発明のトランスアクチベーターを含むプラスミドpUHD17−1(実施例1で更に詳細に説明する)を、1994年7月8日に、ブダペスト条約の規定により、ドイツ国、Braunschweig在、Deutsche Sammlung Von Mikroorganismen und ZellKulturen GmbH(DSM)に寄託して、寄託番号DSM9279を与えられた。
【0047】
II.トランスアクチベーター融合蛋白質の発現:
A.発現ベクター:
上記のようにトランスアクチベーター融合蛋白質をコードするこの発明の核酸を、宿主細胞中での融合蛋白質の発現に適した形態で組換え発現ベクター中に組み込むことができる。用語「宿主細胞中の融合蛋白質の発現に適した形態で」は、組換え発現ベクターが、核酸のmRNAへの転写及びそのmRNAの融合蛋白質への翻訳を与える様式で、融合蛋白質をコードする核酸に機能的に結合された1つ以上の調節配列を含むことを意味することを意図している。用語「調節配列」は、技術的に認識され且つプロモーター、エンハンサー及び他の発現制御要素(例えば、ポリアデニル化シグナル)を含むことを意図している。かかる制御配列は、当業者に公知であり、Goeddel,Gene Expression Technology: Methodsin Enzymology 185,(1991)Academic Press,カリフォルニア、San Diego在に記載されている。発現ベクターのデザインは、トランスフェクトされる宿主細胞の選択及び/又は発現すべき融合蛋白質の量等のファクターに依存し得るということは、理解されるべきである。
【0048】
哺乳動物細胞で用いる場合、組換え発現ベクターの制御機能は、しばしば、ウイルス性遺伝物質により与えられる。例えば、一般に用いられるプロモーターは、ポリオーマ、アデノウイルス2、サイトメガロウイルス及びSV40に由来する。融合蛋白質の発現を指示するためのウイルス性調節要素の利用は、融合蛋白質の高レベルの構成的発現を種々の宿主細胞において与えることができる。好適な組換え発現ベクターにおいて、融合蛋白質をコードする配列は、その上流(即ち、5’側)で、ヒトサイトメガロウイルスIEプロモーターと隣接し、下流(即ち、3’側)で、SV40ポリ(A)シグナルと隣接する。例えば、実施例1に記載したものと同様の発現ベクターを用いることができる。ヒトサイトメガロウイルスIEプロモーターは、Boshart等(1985)Cell 41:521-530に記載されている。他の使用し得る偏在的に発現させるプロモーターには、HSV−Tkプロモーター(McKnight等(1984)Cell 37:253-262に開示されている)及びβ−アクチンプロモーター(例えば、Ng等(1985)Mol.Cell.Biol.5:2720-2732 により記載されたヒトβ−アクチンプロモーター)が含まれる。
【0049】
或は、組換え発現ベクターの調節配列は、特定の細胞型における融合蛋白質の発現を優先的に指示することができる。即ち、組織特異的な調節要素を用いることができる。用いることのできる組織特異的プロモーターの非制限的な例には、アルブミンプロモーター(肝臓特異的;Pinkert等(1987)Genes Dev.1:268-277)、リンパ特異的プロモーター(Calame及びEaton(1988)Adv.Immunol.43:235-275){T細胞レセプター(Winoto及びBaltimore(1989)EMBO J.8:729-733)及び免疫グロブリン(Banerji 等(1983)Cell 33:729-740; Queen及びBaltimore(1983)Cell 33:741-748)の特定のプロモーター中}、ニューロン特異的プロモーター(例えば、ニューロフィラメントプロモーター;Byrne 及びRuddle(1989)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:5474-5477)、膵臓特異的プロモーター(Edlund等(1985)Science 230:912-916)及び乳腺特異的プロモーター(例えば、ミルクホエープロモーター;米国特許第4,873,316号及び欧州出願公開第264,166号)が含まれる。発生的に調節されるプロモーター例えばマウスhoxプロモーター(Kessel及びGruss(1990)Science 249:374-379)及びα−フェトプロテインプロモーター(Campes及びTilghman(1989)Genes Dev.3:537-546)も又、含まれる。
【0050】
或は、トランスアクチベーター融合蛋白質をコードする自己調節性構築物を造ることができる。これを達成するためには、融合蛋白質をコードする核酸を、最小プロモーター配列及び少なくとも1つのtetオペレーター配列に機能的に結合する。例えば、SEQ ID NO:1の核酸を、SEQ ID NO:8、9又は10に示したヌクレオチド配列を有するプロモーターに結合することができる(SEQ ID NO:8及び9の核酸は、最小CMVプロモーター及び10個のtetオペレーターを含み;SEQ ID NO:10の核酸は、TKプロモーター及び10個のtetオペレーターを含む)。かかる自己調節性構築物の図式ダイヤグラムを、図9Bに示す。この核酸を(例えば、組換え発現ベクターにて)細胞に導入したときは、トランスアクチベーター遺伝子の少量の基礎的転写が、「漏れ(leakiness)」により生じることはありそうなことである。Tc(又はそのアナログ)の存在下においては、この少量のトランスアクチベーター融合蛋白質は、トランスアクチベーターをコードするヌクレオチド配列の上流のtetオペレーター配列に結合して、トランスアクチベーターをコードするヌクレオチド配列の更なる転写を刺激し、それにより、その細胞におけるトランスアクチベーター融合蛋白質の更なる産生へと導く。かかる自己調節性プロモーターは、他のテトラサイクリン調節されるトランスアクチベーター例えば、Gossen,M.及びBujard,H.(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:5547-5551に記載されたTcの不在時にtetオペレーターと結合する野生型Tetリプレッサー融合蛋白質(tTA)(図9Aに示す)と共に用いることもできるということは、当業者には認識されよう。このトランスアクチベーターと共に用いる場合、このトランスアクチベーターをコードするヌクレオチド配列の自己調節された転写は、Tcの不在時に刺激される。自己調節性プロモーターに機能的に結合されたGossen及びBujard(1992)(前出)に記載されたtTAをコードするヌクレオチド配列を含むプラスミドpUHD15−3は、1994年7月8日に、ブダペスト条約の規定により、ドイツ国、Braunschweig在、Deutsche Sammlung Von Mikroorganismen und ZellKulturen GmbH(DSM)に寄託され、寄託番号DSM9280が与えられた。
【0051】
一具体例において、この発明の組換え発現ベクターは、プラスミド例えば実施例1に記載したものである。或は、この発明の組換え発現ベクターは、ウイルス核酸中に導入された核酸の発現を与えるウイルス又はその部分であってよい。例えば、複製欠損のレトロウイルス、アデノウイルス及びアデノ関連ウイルスを用いることができる。組換えレトロウイルスを生成し及びかかるウイルスをイン・ビトロ又はイン・ビボで細胞に感染させるためのプロトコールは、Current Protocols in Molecular Biology,Ausubel,F.M.等(編)、Greene Publishing Associates,(1989),第9.10-9.14 節及び他の標準的実験室マニュアルに見出すことができる。適当なレトロウイルスの例には、pLJ、pZIP、pWE及びpEMが含まれる(これらは、当業者には、周知である)。適当なパッケージングウイルス株の例には、ΨCrip、ΨCre、Ψ2及びΨAmが含まれる。アデノウイルスのゲノムは、トランスアクチベーター融合蛋白質をコードし且つ発現させるが、正常な溶菌性ウイルス生活サイクルにおいて複製する能力に関して不活性化されるように操作することができる。例えば、Berkner 等(1988)BioTechniques 6:616; Rosenfeld等(1991)Science 252:431-434及び;Rosenfeld 等(1992)Cell 68:143-155を参照されたい。アデノウイルスAd株5d1324型又は他のアデノウイルス株(例えば、Ad2、Ad3、Ad4等)は、当業者に周知である。或は、アデノ関連ウイルスベクター例えば、Tratschin 等(1985)Mol.Cell.Biol.5:3251-3260 に記載されたものを用いて、トランスアクチベーター融合蛋白質を発現させることができる。
【0052】
B.宿主細胞:
この発明の融合蛋白質は、その融合蛋白質をコードする核酸を宿主細胞に導入することにより、真核細胞内で発現させることができる(ここに、この核酸は、この宿主細胞における融合蛋白質の発現に適した形態である)。例えば、融合蛋白質をコードするこの発明の組換え発現ベクターを、宿主細胞中に導入する。或は、調節配列(例えば、プロモーター配列)に機能的に結合されているが更なるベクター配列を有しないこの融合蛋白質をコードする核酸を宿主細胞に導入することができる。ここで用いる場合、用語「宿主細胞」は、発現すべき蛋白質、選んだ選択システム又は採用した発酵システムと不適合性でない任意の真核細胞又は細胞株を含むことを意図している。用い得る哺乳動物細胞株の非制限的例には、CHOdhfr-細胞(Urlaub及びChasin(1980)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 77:4216-4220)、293細胞(Graham等(1977)J.Gen.Virol.36:pp59)又はSP2若しくはNSO(Galfre及びMilstein(1981)Meth.Enzymol.73(B):3-46)等のミエローマ細胞が含まれる。
【0053】
細胞株に加えて、この発明は、正常細胞例えば遺伝子治療目的のために改変すべき細胞又はトランスジェニック若しくは相同組換え動物を造るために改変した細胞に適用することができる。遺伝子治療目的に関して特に興味深い細胞型の例には、造血幹細胞、筋原細胞、肝細胞、リンパ球、ニューロン細胞並びに皮膚上皮及び気道上皮が含まれる。更に、トランスジェニック又は相同組換え動物に関して、胎児幹細胞及び受精卵母細胞を、トランスアクチベーター融合蛋白質をコードする核酸を含むように改変することができる。更に、植物細胞を改変してトランスジェニック植物を造ることができる。
【0054】
この発明は、広く適用可能であり、昆虫(例えば、Sp.frugiperda)、酵母(例えば、S.cerevisiae,S.pombe,P.pastoris,K.lactis,H.polymorpha;Fleer,R.(1992)Current Opinion in Biotechnology 3(5):486-496)、カビ及び植物細胞を含む非哺乳動物真核細胞を包含する。酵母S.cerevisiaeにおける発現のためのベクターの例には、pYepSecl(Baldari 等(1987)Embo J.6:229-234)、pMFa(Kurjan及びHerskowitz,(1982)Cell 30:933-943)、pJRY88(Schultz 等(1987)Gene 54:113-123)及びpYES2(Invitrogen Corporation,カリフォルニア、San Diego在)が含まれる。バキュロウイルス発現ベクター(例えば、O'Reilly等(1992)Baculovirus Expression Vectors:A Laboratory Manual,Stockton Pressに記載されたもの)を用いて、融合蛋白質を昆虫細胞内で発現させることができる。培養昆虫細胞(例えば、SF9細胞)における蛋白質の発現に利用可能なバキュロウイルスベクターには、pAcシリーズ(Smith 等(1983)Mol.Cell Biol.3:2156-2165)及びpVLシリーズ(Lucklow,V.A.及びSummers,M.D.,(1989)Virology 170:31-39)が含まれる。
【0055】
C.宿主細胞中への核酸の導入:
融合蛋白質をコードする核酸を、真核細胞をトランスフェクトするための標準的技術によって宿主細胞に導入することができる。用語「トランスフェクトする」又は「トランスフェクション」は、リン酸カルシウム共沈、DEAE−デキストラン媒介のトランスフェクション、リポフェクション、エレクトロポレーション及びマイクロインジェクションを含む、核酸を宿主細胞に導入するためのすべての慣用技術を包含することを意図するものである。宿主細胞をトランスフェクトするための適当な方法は、Sambrook等(Molecular Cloning: A Laboratory Manual,第二版、Cold Spring Harbor Laboratory press(1989))及び他の実験室用テキスト中に見出すことができる。
【0056】
この発明の核酸でトランスフォームされる宿主細胞の数は、少なくとも部分的に、用いる組換え発現ベクターの型及び用いるトランスフェクション技術の型に依存する。核酸を、一時的に宿主細胞に導入することができ、又は一層典型的には、遺伝子発現の長期の調節のために、核酸を宿主細胞のゲノムに安定にインテグレートし又は宿主細胞中に安定なエピソームとして維持する。哺乳動物細胞に導入したプラスミドベクターは、典型的には、低い頻度でしか宿主細胞DNAにインテグレートされない。これらのインテグラントを同定するためには、選択可能マーカー(例えば、薬剤耐性)を含む遺伝子を、一般に、標的とする核酸と共に宿主細胞に導入する。好適な選択可能マーカーには、好適な選択可能マーカーには、ある種の薬物例えばG418及びハイグロマイシンに対する耐性を与えるものが含まれる。選択可能マーカーは、標的とする核酸と別のプラスミドにて導入することができ、又は同じプラスミドで導入する。この発明の核酸(例えば、組換え発現ベクター)及び選択可能マーカーの遺伝子でトランスフェクトした宿主細胞を、その選択可能マーカーを用いて、細胞を選択することにより同定することができる。例えば、もしネオマイシン耐性を与える遺伝子を選択可能マーカーがコードするならば、核酸を取り込んだ宿主細胞は、G418で選択され得る。選択可能マーカー遺伝子を取り込んだ細胞は、生存し、他方、他の細胞は、死滅する。
【0057】
この発明の融合蛋白質をコードする核酸でトランスフェクトした宿主細胞を、更に、この融合蛋白質の標的として働く1つ以上の核酸でトランスフェクトすることができる。この標的核酸は、少なくとも1つのtetオペレーター配列(後記の第III節にて一層詳細に説明)に機能的に結合された転写されるべきヌクレオチド配列を含む。
【0058】
この発明の融合蛋白質をコードする核酸を、培養にて生育している真核細胞に、慣用のトランスフェクション技術(例えば、リン酸カルシウム沈澱、DEAE−デキストラントランスフェクション、エレクトロポレーション)によってイン・ビトロで導入することができる。核酸は又、例えば、イン・ビボでの細胞への核酸の導入に適した送達システム例えばレトロウイルスベクター(例えば、Ferry,N等(1991)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:8377-8381;及びKay,M.A.等(1992)Human Gene Therapy 3:641-647参照)、アデノウイルスベクター(例えば、Rosenfeld,M.A.(1992)Cell 68:143-155;及びHerz,J.及びGerard,R.D.(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:2812-2816参照)、レセプター媒介のDNAの取り込み(例えば、Wu,G.及びWu,C.H.(1988)J.Biol.Chem.263:14621; Wilson等(1992)J.Biol.Chem.267:963-967;及び米国特許第5,166,320号参照)、DNAの直接注入(例えば、Acsadi等(1991)Nature 332:815-818; 及びWolff 等(1990)Science 247:1465-1468参照)又は粒子ボンバードメント(例えば、Cheng,L.等(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:4455-4459;及びZelenin,A.V.等(1993)FEBS Letters 315:29-32参照)の適用により、イン・ビボで、細胞中にトランスファーすることができる。従って、遺伝子治療目的のために、細胞をイン・ビトロで改変して患者に投与することができ、或は、細胞を直接イン・ビボで改変することができる。
【0059】
D.トランスジェニック生物:
核酸トランスアクチベーター融合蛋白質を非ヒト動物の受精卵母細胞にトランスファーして、1種以上の細胞型においてこの発明の融合蛋白質を発現するトランスジェニック動物を造ることができる。トランスジェニック動物は、トランスジーンを含む細胞を有する動物であり、トランスジーンは、その動物又はその動物の先祖に出生前例えば胎児期に導入されたものである。トランスジーンは、トランスジェニック動物が発生する細胞のゲノム中にインテグレートされ、成熟動物のゲノム中に保持され、それにより、そのトランスジェニック動物の1種以上の細胞型又は組織においてコードされた遺伝子産物の発現を指示するDNAである。一具体例において、非ヒト動物はマウスであるが、この発明はそれに限定されない。他の具体例において、トランスジェニック動物は、ヤギ、ヒツジ、ブタ、ウシ又は他の家畜である。かかるトランスジェニック動物は、蛋白質の大規模生産に有用である(いわゆる「ジーンファーミング」)。
【0060】
トランスジェニック動物は、例えば、融合蛋白質をコードする核酸(典型的には、適当な調節要素例えば構成的又は組織特異的エンハンサーに結合されたもの)を例えばマイクロインジェクションにより受精卵母細胞の雄性前核に導入し、その卵母細胞を擬妊娠雌養育動物中で発生させることにより造ることができる。イントロン及びポリアデニル化シグナルをトランスジーンに含ませてそのトランスジーンの発現の効率を増大させることもできる。トランスジェニック動物特にマウス等の動物を生成する方法は、当分野では慣用的となり、例えば、米国特許第4,736,866号及び4,870,009号並びにHogan,B.等(1986)A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,ニューヨーク、Cold Spring Harbor在に記載されている。トランスジェニック創出動物を用いて、トランスジーンを有する更なる動物を繁殖させることができる。この発明の融合蛋白質をコードするトランスジーンを有するトランスジェニック動物を、更に、他のトランスジーンを有する他のトランスジェニック動物例えばtetオペレーター配列に機能的に結合された遺伝子を含むトランスジェニック動物と交配させることができる(後記の第III節にて一層詳細に検討)。
【0061】
トランスジェニック動物に加えて、ここに記載の調節系を他のトランスジェニック生物例えばトランスジェニック植物に適用することができるということは認められよう。トランスジェニック植物は、当分野で公知の慣用技術によって作ることができる。従って、この発明は、動物及び植物を含む非ヒトトランスジェニック生物を包含し、該生物はこの発明のトランスアクチベーター融合蛋白質を発現する細胞を含有する(即ち、トランスアクチベーターをコードする核酸は、トランスジェニック生物の細胞中の1つ以上の染色体中に取り込まれる)。
【0062】
E.相同組換え生物:
この発明は又、この発明の融合蛋白質を発現する相同組換え非ヒト生物をも提供する。用語「相同組換え生物」は、ここで用いる場合、遺伝子と動物の細胞例えば動物の胚細胞に導入されたDNA分子との間の相同組換えにより改変された遺伝子を含む生物例えば動物又は植物を記述することを意図している。一具体例において、非ヒト動物は、マウスであるが、この発明はそれに限定されない。融合蛋白質をコードする核酸がゲノムの特定の部位に導入された(即ち、その核酸が内因性遺伝子と相同的に組換えられた)動物を造ることができる。
【0063】
かかる相同組換え動物を造るためには、相同組換えが起きる5’及び3’末端で真核生物遺伝子の付加的核酸と隣接する融合蛋白質をコードするDNAを含むベクターを調製する。融合蛋白質をコードする核酸に隣接する付加的核酸は、真核生物遺伝子との上首尾の相同組換えに対して十分な長さのものである。典型的には、フランキングDNA(5’及び3’末端の両方)の数キロベースがベクターに含まれる(相同組換えベクターに関しては、例えば、Thomas,K.R.及びCapecchi,M.R.(1987)Cell 51:503を参照されたい)。このベクターを、胎児幹細胞株に(例えば、エレクトロポレーションにより)導入し、導入したDNAが内因性DNAと相同的に組換えられた細胞を選択する(例えば、Li,E.等(1992)Cell 69:915参照)。選択した細胞を、次いで、動物の胚盤胞中に注入して、凝集キメラを形成する(例えば、Bradley,A.Teratocarcinomas and Embryonic Stem Cells:A Practical Approach,E.J.Robertson編(IRL、Oxford,1987)113-152頁参照)。次いで、キメラ胚を適当な擬妊娠雌養育動物中に移植して、出産まで持って行く。生殖細胞中にこの相同組換えされたDNAを有する子孫を用いて、すべての細胞がその相同組換えされたDNAを含有する動物を繁殖させることができる。これらの「生殖系列伝達」動物を、更に、少なくとも1つのtetオペレーター配列(後記の第III節にて一層詳細に検討)に機能的に結合された遺伝子を有する動物と交配させることができる。
【0064】
上記の相同組換えアプローチに加えて、酵素補助された部位特異的インテグレーション系が当分野で公知であり、この発明の調節系の成分に適用してDNA分子を予め決めた位置で第2の標的DNA分子にインテグレートすることができる。かかる酵素補助されたインテグレーション系の例には、Creレコンビナーゼ−lox標的系(例えば、Baubonis,W.及びSauer,B.(1993)Nucl.Acids Res.21:2025-2029;及びFukushige,S.及びSauer,B.(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:7905-7909に記載されているもの)及びFLPレコンビナーゼ−FRT標的系(例えば、Dang,D.T.及びPerrimon,N.(1992)Dev.Genet.13:367-375;及びFiering,S.等(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:8496-8473に記載されているもの)が含まれる。
【0065】
III.テトラサイクリン誘導可能なトランスアクチベーターにより調節される標的転写ユニット:
この発明の融合蛋白質を用いて、標的ヌクレオチド配列の転写を調節することができる。この標的ヌクレオチド配列は、融合蛋白質が結合する調節配列に機能的に結合される。特に、この融合蛋白質は、少なくとも1つのtetオペレーター配列に機能的に結合したヌクレオチド配列の発現を調節する。従って、この発明の他の面は、少なくとも1つのtetオペレーター配列に機能的に結合された転写されるべきヌクレオチド配列を含む標的核酸(例えば、DNA分子)に関するものである。かかる核酸は又、ここでは、tet調節される転写ユニット(又は単に転写ユニット)とも呼ぶ。
【0066】
転写ユニット内において、「転写されるべきヌクレオチド配列」は、典型的には、それ自身は転写されないが(少なくとも部分的に)転写装置を転写のための正しい位置に置く働きをする最小プロモーター配列を含む。この最小プロモーター配列を、転写される配列に、5’から3’の向きで、ホスホジエステラーゼ結合により結合して(即ち、プロモーターは、転写される配列の上流に位置する)連続したヌクレオチド配列を形成する。従って、ここで用いる場合、用語「転写されるべきヌクレオチド配列」又は「標的ヌクレオチド配列」は、mRNAに転写されるヌクレオチド配列及び機能的に結合された上流の最小プロモーター配列の両方を含むことを意図するものである。用語「最小プロモーター」は、転写されるべき結合した配列の転写開始部位を規定するが、それ自身は転写を効率的に開始することができない部分的プロモーター配列を記述することを意図するものである。従って、かかる最小プロモーターの活性は、転写アクチベーター(この発明のテトラサイクリン誘導可能な融合蛋白質等)の機能的に結合した調節配列(1つ以上のtetオペレーター配列等)への結合に依存する。一具体例において、最小プロモーターは、ヒトサイトメガロウイルス(Boshart等(1985)Cell 41:521-530に記載)に由来する。好ましくは、約+75〜−53及び+75〜−31の間のヌクレオチド位置を用いる。他の適当な最小プロモーターは当分野で公知であり、標準的技術によって同定することができる。例えば、連続的に結合されたレポーター遺伝子(例えば、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、β−ガラクトシダーゼ又はルシフェラーゼ)の転写を活性化する機能的プロモーターを、もはや単独ではそのレポーター遺伝子の発現を活性化せずに更なる調節配列の存在を必要とするまで前進的に削除することができる。
【0067】
転写ユニット内において、標的ヌクレオチド配列(転写されるヌクレオチド配列及びその上流の最小プロモーター配列)は、少なくとも1つのtetオペレーター配列に機能的に結合する。典型的構成において、tetオペレーター配列は、最小プロモーター配列の上流(即ち、5’側)に、tetオペレーター配列への調節蛋白質(例えば、トランスアクチベーター融合蛋白質)の結合に際して標的ヌクレオチド配列の転写を与えるのに適当な距離で、ホスホジエステル結合によって機能的に結合する。即ち、転写ユニットは、tetオペレーター配列−最小プロモーター−転写されるヌクレオチド配列よりなる(5’から3’の向き)。典型的にはtetオペレーター配列は、最小プロモーターの約200〜400塩基対上流に位置するが、tetオペレーター配列と最小プロモーターとの間の許容される距離には幾らかの融通性があるということは、当業者には認められよう。
【0068】
この発明において用いることのできる最小プロモーターに結合されたtetオペレーター配列を含むtet調節されるプロモーターの例のヌクレオチド配列をSEQ ID NO:8〜10に示す。SEQ ID NO:8及び9のヌクレオチド配列は、10個のtetオペレーター配列に結合されたサイトメガロウイルス最小プロモーターを含み;これらの2つのヌクレオチド配列は、オペレーターと最初の転写されるヌクレオチドとの間の距離が異なっている。SEQ ID NO:10のヌクレオチド配列は、10個のtetオペレーター配列に結合された単純ヘルペスウイルス最小tkプロモーターを含む。SEQ ID NO:8のプロモーターは、Gossen,M.及びBujard,H.(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:5547-5551に記載されたPhCMV*-1に対応する。SEQ ID NO:9のプロモーターは、やはり、Gossen,M.及びBujard,H.(前出)に記載されたPhCMV*-2に対応する。
【0069】
或は、調節要素は転写される配列の下流で機能することが当分野では認められているので、tetオペレーター配列を転写されるヌクレオチド配列の下流(即ち、3’側)に機能的に結合し得ることはありそうなことである。従って、この構成においては、転写ユニットは、最小プロモーター−転写されるヌクレオチド配列−tetオペレーター配列(5’から3’の向き)からなる。tetオペレーター配列が結合される下流の許容される距離に幾らかの融通性があることはありそうであることも、やはり認められよう。
【0070】
用語「tetオペレーター配列」は、すべてのクラスのtetオペレーター(例えば、A、B、C、D及びE)を包含することを意図している。転写されるべきヌクレオチド配列は、単一のtetオペレーター配列に機能的に結合することができ、又は、増大された範囲の調節のためには、それを、複数のtetオペレーター配列(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10以上のオペレーター配列)に機能的に結合することができる。好適具体例において、転写されるべき配列は、7個のtetオペレーター配列に機能的に結合される。
【0071】
tet調節される転写ユニットを、更に、標準的組換えDNA技術によって、組換えベクター(例えば、プラスミド又はウイルスベクター)に取り込むことができる。この転写ユニット又はそれを含む組換えベクターを、上述のような標準的トランスフェクション技術によって宿主細胞に導入することができる。転写ユニットの宿主細胞集団への導入後に、tetオペレーター結合されたヌクレオチド配列の低い基礎的発現を示す宿主細胞クローンを選択すること(即ち、tetオペレーター結合したヌクレオチド配列の低い基礎的発現を生じる部位に転写ユニットがインテグレートされた宿主細胞の選択)が必要であり得るということは認められるべきである。更に、tet調節される転写ユニットを、上記の手順により、非ヒト動物のゲノム中に胎児期に導入し又は植物細胞に導入して、幾つかの又はすべての細胞中に転写ユニットを有するトランスジェニック又は相同組換え生物を造ることができる。標的細胞中でのtetオペレーター結合したヌクレオチド配列の基礎的発現が低いトランスジェニック又は相同生物を選択することが必要であることもやはり認められるべきである。
【0072】
一具体例において、tet調節される転写ユニットの標的ヌクレオチド配列は、標的蛋白質をコードするものである。従って、この発明のトランスアクチベーターによるこのヌクレオチド配列の転写の誘導及びその結果生じたmRNAの翻訳により、標的蛋白質を宿主細胞又は動物にて生成することができる。或は、転写されるべきヌクレオチド配列は、活性なRNA分子例えばアンチセンスRNA分子又はリボザイムをコードすることができる。宿主細胞又は動物における活性なRNA分子の発現を用いて、その宿主内の機能を調節することができる(例えば、標的蛋白質の産生を、その蛋白質をコードするmRNAの翻訳を阻止することにより妨げることができる)。
【0073】
この発明のトランスアクチベーターを用いて、宿主細胞又は動物に導入された外因性ヌクレオチド配列の転写を調節することができる。「外因性」ヌクレオチド配列は、宿主細胞に導入され、典型的には、宿主のゲノム中に挿入されたヌクレオチド配列である。この外因性ヌクレオチド配列は、宿主のゲノム中の何処にも存在してはならず(例えば、外因性ヌクレオチド配列)、又は宿主のゲノム中に存在するがゲノムの異なる部位にインテグレートされている配列の更なるコピーであってよい。転写されるべき外因性ヌクレオチド配列及び機能的に結合したtetオペレーター配列は、宿主細胞又は動物に導入される単一の核酸分子中に含まれ得る。
【0074】
或は、この発明のトランスアクチベーターを用いて、tetオペレーター配列が結合した内因性ヌクレオチド配列の転写を調節することができる。「内因性」ヌクレオチド配列は、宿主のゲノム中に存在するヌクレオチド配列である。内因性遺伝子を、tetO含有組換えベクターと内因性遺伝子の配列との間の相同組換えによって、tetオペレーター配列に機能的に結合することができる。例えば、少なくとも1つのtetオペレーター配列及び、内因性遺伝子の現実のプロモーター領域を排除することにより3’末端で内因性遺伝子のコード領域を表す配列と隣接し且つ5’末端で内因性遺伝子の上流領域に由来する配列と隣接する最小プロモーター配列を含む相同組換えベクターを調製することができる。これらのフランキング配列は、ベクターDNAと内因性遺伝子との上首尾の相同組換えのために十分な長さである。好ましくは、数キロベースのフランキングDNAが、相同組換えベクター中に含まれる。ベクターDNAと宿主細胞中の内因性遺伝子との相同組換えにより、内因性プロモーター領域は、最小プロモーターに機能的に結合された1つ以上のtetオペレーター配列を含むベクターDNAにより置き換えられる。従って、この内因性遺伝子の発現は、もはや、その内因性プロモーターの制御下になく、tetオペレーター配列及び最小プロモーターの制御下に置かれる。
【0075】
他の具体例においては、tetオペレーター配列を、内因性遺伝子内の何処かに、好ましくは5’又は3’調節領域内に、相同組換えにより挿入して、ここに記載のテトラサイクリン調節される融合蛋白質により発現を調節し得る内因性遺伝子を造ることができる。例えば、1つ以上のtetO配列を、プロモーター又はエンハンサー機能が維持されるように、内因性遺伝子のプロモーター又はエンハンサー領域内に挿入する(即ち、tetO配列を、プロモーター/エンハンサー機能に関して決定的に重要ではないプロモーター/エンハンサー領域の部位に導入する)ことができる。プロモーター/エンハンサー機能の喪失を伴わずに変えることのできるプロモーター又はエンハンサー内の領域は、多くの遺伝子について、当業者に公知であり、決定的に重要な調節領域を分析するための標準的技術により決定することができる。決定的に重要ではない調節領域中に挿入されたtetO配列を有する内因性遺伝子は、正常の構成的及び/又は組織特異的な様式で発現される能力を保持するが、加えて、テトラサイクリン制御される転写インヒビター蛋白質により、制御された様式で、ダウンレギュレートされ得る。例えば、かかる改変された内因性遺伝子の構成的発現は、テトラサイクリン(又はアナログ)の存在下でtetO配列に結合するインヒビター融合蛋白質を用いて、テトラサイクリン(又はアナログ)の存在により阻止され得る(後記の第IV及びVI節にて更に詳細に説明する)。
【0076】
A.tetオペレーター結合したヌクレオチド配列の発現の調節:
tetオペレーター結合したヌクレオチド配列の発現を、この発明のトランスアクチベーター融合蛋白質により調節する。従って、この融合蛋白質及び標的核酸は、両者とも宿主細胞又は生物中に存在する。同じ宿主細胞又は生物中のトランスアクチベーター融合蛋白質及び標的転写ユニットの両者の存在は、幾つかの異なる方法により達成することができる。例えば、宿主細胞に(例えば、トランスアクチベーター融合蛋白質をコードする)発現系の1つの核酸をトランスフェクトすることができ、安定にトランスフェクトされた細胞を選択することができ、次いで、それらのトランスフェクトされた細胞を、その発現系の他の核酸(例えば、転写されるべき標的核酸)に対応する核酸で再トランスフェクトすることができる(「スーパートランスフェクトする」とも言う)。2つの明確な選択可能マーカーを、選択用に用いることができる。例えば、第1の核酸の取り込みをG418を用いて選択し、第2の核酸の取り込みをハイグロマイシンを用いて選択することができる。或は、細胞の単一集団を、この系の両成分に対応する核酸でトランスフェクトすることができる。従って、この発明は、下記を含む核酸成分を提供する:
・転写を活性化する融合蛋白質をコードする第1の核酸(この融合蛋白質は、真核細胞中での転写を活性化する第2のポリペプチドに機能的に結合されたテトラサイクリン又はテトラサイクリンアナログの存在下でtetオペレーター配列に結合する第1のポリペプチドを含む);及び
・少なくとも1つのtetオペレーター配列に機能的に結合された転写されるべきヌクレオチド配列を含む第2の核酸。
【0077】
一具体例において、これらの2つの核酸は2つの別々の分子(例えば、2つの異なるベクター)である。この場合には、宿主細胞を、これらの2つの核酸分子で同時トランスフェクトするか又は最初に一方の核酸分子でトランスフェクトし、続いて他方の核酸分子でトランスフェクトする。他の具体例においては、これらの2つの核酸を同じ分子(例えば、単一のベクター)中に結合する(即ち、コリニアーにする)。この場合には、宿主細胞を単一核酸分子でトランスフェクトする。
【0078】
この宿主細胞は、イン・ビトロで培養された細胞又はイン・ビボで存在する細胞であってよい(例えば、遺伝子治療の標的とされる細胞)。この宿主細胞は、更に、受精卵母細胞、胎児幹細胞又は非ヒトトランスジェニック又は相同組換え動物の創造に用いられる任意の他の胚細胞であってよい。この発現系の両核酸成分を含むトランスジェニック又は相同組換え動物を、両核酸を胎児期に同じ細胞に導入することにより造ることができ、一層好ましくは、ゲノム中にこの系の一方の核酸成分を有する動物を、ゲノム中にこの系の他方の核酸成分を有する動物と交配させる。次いで、両核酸成分を受け継いだ子孫を、標準的技術によって同定することができる。
【0079】
B.2つのヌクレオチド配列の発現の統合的調節:
単一の転写されるヌクレオチド配列の調節された発現のための系を提供することに加えて、この発明は、更に、同じtetオペレーター配列に機能的に結合された2つのヌクレオチド配列の発現の統合された調節を可能にする。従って、この発明の他の面は、2つの遺伝子の統合的調節のための新規なtet調節された転写ユニットに関係する。この転写ユニットにおいては、同じtetオペレーター配列が、共通のtetオペレーター配列から反対方向に転写される2つの機能的に結合されたヌクレオチド配列の転写を調節する。従って、一方のヌクレオチド配列をtetオペレーター配列の片側(例えば、DNAの先頭鎖の5’末端)に機能的に結合し、他方のヌクレオチド配列はそのtetオペレーター配列の反対側(例えば、DNAの先頭鎖の3’末端)に機能的に結合する。更に、転写されるべき各ヌクレオチド配列が、転写されるべきヌクレオチド配列とtetオペレーター配列との間に位置する機能的に結合した最小プロモーター配列を含むということは、理解されるべきである。
【0080】
かかる転写ユニットの代表例を、図6に図式ダイヤグラムで示す。このベクターにおいては、同じtetオペレーター配列に機能的に結合した2つのヌクレオチド配列が、tetオペレーター配列に関して反対方向に転写される(即ち、これらの配列は、この発明のトランスアクチベーター融合蛋白質による活性化に際して、発散的様式で転写される)。「tetオペレーター配列に関して反対方向に転写される」とは、第1のヌクレオチド配列が、DNAの一方の鎖(例えば、ボトム鎖)から、5’から3’の向きで転写され且つ第2のヌクレオチド配列が、DNAの他方の鎖(例えば、トップ鎖)から、5’から3’の向きで転写されて、tetオペレーター配列から離れていく二方向性転写を生じることを意味する。
【0081】
従って、この発明は、2つのヌクレオチド配列の統合的に調節される二方向性転写のための組換えベクターを提供する。一具体例において、このベクターは、5’から3’の向きで下記を含むホスホジエステル結合により結合されたヌクレオチド配列を含む:
・少なくとも1つのtetオペレーター配列に機能的に結合され、
・転写されるべき第2のヌクレオチド配列に機能的に結合された
・転写されるべき第1のヌクレオチド配列
ここに、第1及び第2のヌクレオチド配列の転写は、少なくとも1つのtetオペレーター配列から、反対方向に進行する(即ち、第1及び第2のヌクレオチド配列が、発散的様式で転写される)。
【0082】
他の具体例においては、このベクターは、転写されるべき第1及び第2のヌクレオチド配列を含まず、代わりに、標的ヌクレオチド配列のベクター中への導入を可能にするクローニング部位を含む。従って、この具体例においては、ベクターは、5’から3’の向きで下記を含むヌクレオチド配列を含む:
・少なくとも1つのtetオペレーター配列に機能的に結合され、
・転写されるべき第2のヌクレオチド配列の導入のための第2のクローニング部位に機能的に結合された
・転写されるべき第1のヌクレオチド配列の導入のための第1のクローニング部位
ここに、ベクターに導入した第1及び第2のヌクレオチド配列の転写は、少なくとも1つのtetオペレーター配列から、反対方向に進行する。この型の「クローニングベクター」は、第1のクローニング部位に導入された第1のヌクレオチド配列が第1の最小プロモーターに機能的に結合され且つ第2のクローニング部位に導入された第2のヌクレオチド配列が第2の最小プロモーターに機能的に結合されるように最小プロモーター配列をも含む形態であってよいということは、当業者には認められよう。或は、この「クローニングベクター」は、最小プロモーター配列を含まず、代わりに、結合した最小プロモーター配列を含むヌクレオチド配列がベクターのクローニング部位に導入される形態であってよい。
【0083】
この用語「クローニング部位」は、少なくとも1つの制限エンドヌクレアーゼ部位を含むことを意図している。典型的には、多数の異なる制限エンドヌクレアーゼ部位(例えば、ポリリンカー)が、この核酸中に含まれる。
【0084】
更に別の具体例においては、2つのヌクレオチド配列の統合的、二方向性転写のためのベクターは、転写されるべき第1のヌクレオチド例えば検出可能マーカー(例えば、ルシフェラーゼ又はβ−ガラクトシダーゼ)をコードするもの及び標的とする第2のヌクレオチド配列の導入のためのクローニング部位を含むことができる。
【0085】
ここに記載したような転写されるべき2つのヌクレオチド配列の統合的調節のためのベクター中で用いるための2つの異なる適当な二方向性プロモーター領域のヌクレオチド配列を、図7A及び7B(それぞれ、SEQ ID NO:6及び7)に示す。図7Aの構築物においては、この構築物中に存在する両方の最小プロモーターは、CMVプロモーターに由来する。図7Bの構築物において、この構築物中に存在する1つの最小プロモーターはCMVプロモーターに由来し、他方、第2の最小プロモーターはTKプロモーターに由来する。この発明の二方向性プロモーターを含むプラスミドpUHDG1316−8を、1994年7月8日に、ブダペスト条約の規定により、ドイツ国、Braunschweigの Deutsche SammlungVon Mikroorganismen und ZellKulturen GmbH(DSM)に寄託し、寄託番号DSM9281が与えられた。
【0086】
tetオペレーター配列に機能的に結合した2つのヌクレオチド配列の二方向性転写のためのこの発明の転写ユニットは、標的とする2つのヌクレオチド配列の発現を統合するのに有用である。好ましくは、転写すべきヌクレオチド配列の少なくとも1つは、真核生物のヌクレオチド配列である。一つの応用において、同じ細胞内でヘテロ二量体分子の2つのサブユニットの化学量論的量を生成するためにこのベクターを用いる。例えば、このベクターを用いて、同じ細胞内で抗体の重鎖と軽鎖を生成し、又は同じ細胞内で成長因子レセプターサブユニットを生成することができる。他の応用においては、このベクターを用いて、特定の細胞の表現型の確立において協力する2つの遺伝子産物を発現させる。更に別の応用においては、このベクターを用いて、指標機能及び標的遺伝子を同時発現させる(ここに、指標は、標的遺伝子の発現を監視するために用いられる)。従って、2つの統合的に発現される配列の一方は、標的遺伝子をコードし且つ他方は、標的遺伝子を発現させる細胞の選択において用いられる検出可能なマーカー例えば表面マーカー又は酵素(例えば、β−ガラクトシダーゼ又はルシフェラーゼ)をコードすることができる。
【0087】
2つの統合的に調節されるヌクレオチド配列の転写を、この発明のTc誘導可能なアクチベーターの利用により、テトラサイクリン(又はそのアナログ)により誘導して、2つのヌクレオチド配列の発現を調節することができる。従って、この系において、両ヌクレオチド配列の発現は、Tc(又はアナログ)の不在時に「オフ」であり、Tc(又はアナログ)の存在により「オン」となる。或は、2つのヌクレオチド配列の統合的調節のためのベクターを、当分野で公知の他のテトラサイクリン調節される転写因子と共に用いることができる。例えば、Tc(又はアナログ)の不在時に遺伝子発現を活性化する転写活性化ドメインに融合された野生型Tetリプレッサーのトランスアクチベーター融合蛋白質例えばGossen,M.及びBujard,H.(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:5547-5551に記載されたtTAも、統合的調節のためにこの標的転写ユニットと共に用いることができる。
【0088】
C.多数のヌクレオチド配列の発現の独立的調節:
この発明は、更に、転写すべき2つ以上のヌクレオチド配列の独立的及び逆の調節を可能にする。従って、この発明の他の面は、2つ以上の遺伝子の独立的調節のための新規なtet調節される転写ユニットに関係する。転写すべき2つのヌクレオチド配列の発現を独立に調節するためには、一方のヌクレオチド配列を1つのクラスの型のtetオペレーター配列に機能的に結合し、他方のヌクレオチド配列を他のクラス型のtetオペレーター配列に機能的に結合する。従って、この発明は、2つのヌクレオチド配列の転写の独立的調節のための少なくとも1つの組換えベクターを提供する。一具体例において、この(これらの)ベクターは、下記を含む:
・少なくとも1つの第1のクラスの型のtetオペレーター配列に機能的に結合された転写されるべき第1のヌクレオチド配列;及び
・少なくとも1つの第2のクラスの型のtetオペレーター配列に機能的に結合された転写されるべき第2のヌクレオチド配列。
【0089】
(転写されるべき各ヌクレオチド配列が、機能的に結合された上流の最小プロモーター配列をも含むことは、理解されるべきである。)これらの2つの独立に調節される転写ユニットは、単一のベクターに含ませることができ、或は、2つの別々のベクターに含ませることができる。これらの転写されるべきヌクレオチド配列を含む組換えベクターは、前述のように、宿主細胞又は動物に導入することができる。
【0090】
他の具体例においては、この(これらの)ベクターは、転写されるべき第1及び第2のヌクレオチド配列を含まず、代わりに、標的ヌクレオチド配列のこのベクターへの導入を可能にするクローニング部位を含む。従って、この具体例においては、この(これらの)ベクターは、下記を含む:
・少なくとも1つの第1のクラスの型のtetオペレーター配列に機能的に結合された転写されるべき第1のヌクレオチド配列の導入のための第1のクローニング部位;及び
・少なくとも1つの第2のクラスの型のtetオペレーター列に機能的に結合された転写されるべき第2のヌクレオチド配列の導入のための第2のクローニング部位。
【0091】
この(これらの)クローニングベクターは、それぞれ第1及び第2のクローニング部位に機能的に結合された第1及び第2の最小プロモーターを既に含有する形態であってよい。或は、機能的に結合された最小プロモーターを含む転写されるべきヌクレオチド配列をクローニングベクター中に導入することができる。
【0092】
更に別の具体例においては、2つのヌクレオチド配列の独立的調節のためのベクターは、転写されるべき第1のヌクレオチド例えば、少なくとも1つの第1のクラスの型のtetオペレーター配列に機能的に結合された検出可能マーカー遺伝子若しくは自殺遺伝子及び第2の標的とするヌクレオチド配列の導入のためのクローニング部位を、それが少なくとも1つの第2のクラスの型のtetオペレーター配列に機能的に結合されるように含むことができる。
【0093】
2つのヌクレオチド配列の独立的調節のために、tetオペレーター配列の種々の組合せを用いることができるということは、当業者には認められよう。例えば、第1のtetオペレーター配列がクラスA型であり且つ第2のものがクラスB型であってよく又は、第1のtetオペレーター配列がクラスB型であり且つ第2のものがクラスC型であってよい等。好ましくは、用いる2つのtetオペレーターに対する1つは、クラスB型オペレーターである。
【0094】
第1及び第2のヌクレオチド配列の独立的転写を、宿主細胞において、種々のクラスの型のtetオペレーター配列に独立的に結合する2つの異なるトランスアクチベーター融合蛋白質をコードする1つ以上の核酸を更に宿主細胞に導入することによって調節する。第1の融合蛋白質は、真核細胞における転写を活性化するポリペプチド(例えば、この発明のトランスアクチベーター融合蛋白質、例えば、VP16活性化領域に結合された変異したTn10由来のTetリプレッサー)に機能的に結合されたテトラサイクリン又はテトラサイクリンアナログの存在下でtetオペレーター配列に結合するポリペプチドを含む。第2の融合蛋白質は、真核細胞における転写を活性化するポリペプチド(例えば、VP16活性化領域に結合された野生型Tn10由来のTetリプレッサー、例えばGossen,M.及びBujard,H.(1992)Proc.Nat1.Acad.Sci.USA 89:5547-5551に記載されたtTA)に機能的に結合されたテトラサイクリン又はテトラサイクリンアナログの不在時にtetオペレーター配列に結合するポリペプチドを含む。一具体例において、第1の融合蛋白質は、転写ユニットにおいて用いられる第1のクラスの型のtetオペレーター配列に結合し、第2の融合蛋白質は、転写ユニットにおいて用いられる第2のクラスの型のtetオペレーター配列に結合する。或は、他の具体例において、第1の融合蛋白質は、第2のクラスの型のtetオペレーターに結合し、第2の融合蛋白質は、第1のクラスの型のtetオペレーターに結合する。
【0095】
例えば、転写されるべき第1のヌクレオチド配列はクラスAのtetオペレーターに結合することができ、第1の融合蛋白質はクラスAのオペレーターに結合することができるが、他方、転写されるべき第2のヌクレオチド配列はクラスBのtetオペレーターに結合することができ、第2の融合蛋白質はクラスBのオペレーターに結合することができる。従って、この具体例においては、第1のヌクレオチド配列の転写は、Tc(又はそのアナログ)の存在下で活性化されるが、第2のヌクレオチド配列の転写は、Tc(又はそのアナログ)の不在時に活性化される。或は、他の具体例においては、第1の融合蛋白質は、クラスBのオペレーターに結合し、第2の融合蛋白質は、クラスAのオペレーターに結合する。この場合、第2のヌクレオチド配列の転写は、Tc(又はそのアナログ)の存在下で活性化されるが、他方、第1のヌクレオチド配列の転写は、Tc(又はそのアナログ)の不在時に活性化される。この系における使用のための適当なトランスアクチベーター蛋白質を、第I節及びGossen及びBujard(1992)前出に記載されたようにデザインすることができる。同じ細胞中に存在する2つの異なる型のTetリプレッサー融合蛋白質の間のヘテロ二量体化を阻止するためには、トランスアクチベーター融合蛋白質の一方又は両方の二量体化領域を変異させることが必要であり得る。変異は、二量体化に関与することが知られているTetRのC末端領域を標的とすることができる。この二量体化領域は、TetRの結晶構造に基づいて詳細に説明されている(Hinrichs,W.等(1994)Science 264:418-240 を参照されたい)。
【0096】
この系は、2つの遺伝子の発現のTc及びそのアナログによる独立の及び反対の調節を可能にする。誘導剤としての種々のTcアナログの使用は、更に、種々の配列の高い、低い又は中位のレベルの発現を可能にし得る(後記の第V節にて一層詳細に検討する)。上記の2つの遺伝子の発現を独立に調節するためのこの発明の新規な転写ユニットは、2つの遺伝子産物を同じ細胞中で発現させるべきであるが、一方の遺伝子産物を他方の遺伝子産物の発現を「オフ」にしておいて発現させることが望ましい状況(及び逆の場合)に用いることができる。例えば、この系は、同じ宿主細胞内で治療用遺伝子又は自殺遺伝子(即ち、細胞を破壊するために使用し得る産物例えばリシン又は単純ヘルペスウイルスチミジンキナーセをコードする遺伝子)を発現させるために特に有用である。多くの遺伝子治療状況において、治療目的のために宿主細胞内で遺伝子を発現させることができるが、一度治療が完了したならばその宿主細胞を破壊する能力を有することが望ましい。これは、治療用遺伝子を1つのクラスのtetオペレーターに結合し且つ自殺遺伝子を他のクラスのtetオペレーターに結合することにより、上記の系を用いて達成することができる。従って、治療用遺伝子の宿主細胞における発現をTcにより刺激することができる(この場合には、自殺遺伝子の発現はない)。次いで、一度治療が完了したならば、Tcを除去し、それは、この細胞における治療用遺伝子の発現をオフにし且つ自殺遺伝子の発現をオンにする。
【0097】
D.多数のヌクレオチド配列の組み合わせた統合的及び独立的調節:
更に、第III節Bに記載した系を第III節Cに記載した系と、配列の2つの対が統合的に調節されるが、1つの対は他の対とは独立に調節されるように組み合わせることによって4つのヌクレオチド配列の発現を調節することが可能である。従って、下記を含む2つの標的転写ユニットをデザインすることができる:
・転写されるべき第1のヌクレオチド配列、第1のクラスの型のtetオペレーター配列、及び転写されるべき第2のヌクレオチド配列を、5’から3’の向きで含む第1の核酸
・転写されるべき第3のヌクレオチド配列、第2のクラスの型のtetオペレーター配列、及び転写されるべき第4のヌクレオチド配列を、5’から3’の向きで含む第2の核酸。
【0098】
第1の核酸中の第1及び第2のヌクレオチド配列の転写は、発散的様式で、第1のクラスのtetオペレーター配列から進行する。同様に、第2の核酸中の第3及び第4のヌクレオチド配列の転写は、発散的様式で、第2のクラスのtetオペレーター配列から進行する。従って、第1と第2のヌクレオチド配列の発現は統合的に調節され、第3と第4のヌクレオチド配列の転写は統合的に調節される。しかしながら、第1と第2の配列の発現は、上記のように、2つの異なるトランスアクチベーター融合蛋白質{その一方は、Tc(又はそのアナログ)の存在下で転写を活性化し、他方は、Tc(又はそのアナログ)の不在時に転写を活性化する}の使用により、第3と第4の配列と比べて独立的に(及び反対に)調節される。一方のトランスアクチベーターを第1のクラスの型のtetオペレーターに結合するようにデザインし、他方を第2のクラスの型のtetオペレーターに結合するようにデザインする。他の具体例においては、これらの転写ユニットは、転写されるべき第1、第2、第3及び/又は第4のヌクレオチド配列を既に含んでいるのではなく、転写されるべき第1、第2、第3及び/又は第4のヌクレオチド配列の導入を可能にするクローニング部位を含むことができる。
【0099】
IV.テトラサイクリン調節される転写インヒビター:
この発明の他の面は、転写インヒビター融合蛋白質に関係する。この発明のインヒビター融合蛋白質を、この発明のトランスアクチベーター融合蛋白質と同様に構築する(第I節参照)が、真核細胞における転写を刺激するポリペプチドドメインの代わりに、これらのインヒビター融合蛋白質は、真核細胞における転写を阻止するポリペプチドドメインを含む。このインヒビター融合蛋白質を用いて、tetO配列に機能的に結合された遺伝子の発現を下方制御する。例えば、tetO結合された遺伝子を宿主細胞又は動物に導入する場合には、その遺伝子の基礎的、構成的発現のレベルは、その遺伝子を導入する細胞又は組織の型により及びその遺伝子のインテグレーション部位によって変化し得る。或は、tetO配列を導入した内因性遺伝子の構成的発現は、近くの更なる内因性調節配列の強度によって変化し得る。ここに記載したこれらのインヒビター融合蛋白質は、制御された様式で、かかるtetO結合された遺伝子の発現を阻止するために用いることのできる組成物を提供する。
【0100】
一具体例において、この発明のインヒビター融合蛋白質は、真核細胞における転写を阻止する異種の第2のポリペプチドに機能的に結合されたテトラサイクリン(Tc)又はそのアナログの不在時にtetオペレーター配列に結合するが存在時には結合しない第1のポリペプチドを含む。他の具体例においては、このインヒビター融合蛋白質は、真核細胞における転写を阻止する異種の第2のポリペプチドに機能的に結合されたテトラサイクリンの存在下でtetオペレーター配列に結合するが不在時には結合しない第1のポリペプチドを含む。用語「異種の」は、第2のポリペプチドが第1のポリペプチドと異なる蛋白質に由来することを意味することを意図している。トランスアクチベーター融合蛋白質と同様に、転写インヒビター融合蛋白質は、ここに記載の標準的組換えDNA技術を用いて調製することができる。
【0101】
A.転写インヒビター融合蛋白質の第1のポリペプチド:
この発明の転写インヒビター融合蛋白質は、部分的に、(i)テトラサイクリン(Tc)又はそのアナログの不在時にtetオペレーター配列に結合するが、存在時には結合しないか、或は(ii)Tc又はそのアナログの存在時に結合するが不在時には結合しない第1のポリペプチドからなる。
【0102】
好ましくは、前の具体例において、第1のポリペプチドは、野生型Tetリプレッサーである(それは、Tcの不在時にtetオペレーター配列に結合するが、存在時には結合しない)。任意のクラス(例えば、A、B、C、D又はE)の野生型Tetリプレッサーを、第1のポリペプチドとして用いることができる。好ましくは、野生型Tetリプレッサーは、Tn10由来のTetリプレッサーである。野生型Tn10由来のTetリプレッサーのヌクレオチド及びアミノ酸配列を、それぞれ、SEQ ID NO:16及びSEQ ID NO:17に示す。
【0103】
或は、後の具体例において、第1のポリペプチドは、上記の第I節パートAに記載した変異したTetリプレッサーである(それは、Tcの存在下でtetオペレーター配列に結合するが、不在時には結合しない)。任意のクラス(例えば、A、B、C、D又はE)の変異したTetリプレッサーを第1のポリペプチドとして用いることができる。好ましくは、変異したTetリプレッサーは、71、95、101及び/又は102位に1つ以上のアミノ酸置換を有するTn10由来のTetリプレッサーである。かかる変異したTn10由来のTetリプレッサーのヌクレオチド及びアミノ酸配列を、それぞれ、SEQ ID NO:18及びSEQ ID NO:19に示す。
【0104】
B.転写インヒビター融合蛋白質の第2のポリペプチド:
転写インヒビター融合蛋白質の第1のポリペプチドを、真核細胞における転写を直接又は間接に阻止する第2のポリペプチドに機能的に結合する。上記の第I節に記載のように、融合蛋白質の第1及び第2のポリペプチドを機能的に結合するためには、典型的には、第1及び第2のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を、互いにイン・フレームでライゲートして融合蛋白質をコードするキメラ遺伝子を造る。しかしながら、これらの第1及び第2のポリペプチドを、各ポリペプチドの機能を保存する他の手段により機能的に結合することができる(例えば、化学的に架橋する)。融合蛋白質が、その融合蛋白質のアミノ末端に第1のポリペプチドを有し且つカルボキシ末端に第2のポリペプチドを有するとしてここに記載されていても、反対の向き(即ち、アミノ末端の第2のポリペプチド及びカルボキシ末端の第1のポリペプチド)もこの発明により企図されるということは、当業者には認められよう。
【0105】
真核細胞における転写を阻止するように機能することのできる蛋白質及び蛋白質内のポリペプチドドメインは、この分野において記載されている(概説としては、例えば、Renkawitz,R.(1990)Trends in Genetics 6:192-197; 及びHerschbach,B.M.及びJohnson,A.D.(1993)Annu.Rev.Cell.Biol.9:479-509を参照されたい)。かかる転写インヒビタードメインは、当分野では、「サイレンシングドメイン」又は「リプレッサードメイン」と呼ばれている。これらのポリペプチドドメインの多くが転写を阻止する正確な機構は知られていない(そして、この発明は、機構によって限定されることを意図していない)が、次を含む、リプレッサードメインが転写を阻止する幾つかの可能な手段がある:1)アクチベーター蛋白質又は一般的転写機構の何れかの結合の競争的阻害、2)DNA結合したアクチベーターの活性の防止及び3)一般的転写機構の機能的なプレイニシエーション複合体のアセンブリの負の干渉。従って、リプレッサードメインは、転写機構に対する直接的阻害効果を有するかもしれないし、アクチベーター蛋白質の活性を阻止することにより間接的に転写を阻止するかもしれない。従って、用語「真核細胞における転写を阻止するポリペプチド」は、ここで用いる場合、転写を直接又は間接に阻止するポリペプチドを含むことを意図している。ここで用いる場合、転写の「阻止」は、標的遺伝子の転写のレベル又は量の、転写インヒビター蛋白質による調節前の転写のレベル又は量と比べての減少を意味することを意図する。転写の阻止は、部分的でも完全でもよい。用語「サイレンサー」、「リプレッサー」及び「インヒビター」は、ここでは、転写を阻止することのできる調節蛋白質又はそのドメインを記述するために交換可能に用いる。
【0106】
ここに記載した転写の「リプレッサー」又は「サイレンサー」ドメインは、異種蛋白質にトランスファーされたときにその転写リプレッサー機能を保持するポリペプチドドメインである。異種蛋白質にトランスファーされたときに機能し得るリプレッサードメインを有することが示された蛋白質には、v−erbAオンコジーン産物(Baniahmad,A.等(1992)EMBO J.11:1015-1023)、甲状腺ホルモンレセプター(Baniahmad,前出)、レチノイン酸レセプター(Baniahmad,前出)及びキイロショウジョウバエのKruppel(Kr)蛋白質(Licht,J.D.等(1990)Nature 346:76-79; Saer,F.及びJackle,H.(1991)Nature 353:563-566; Licht,J.D.等(1994)Mol.Cell.Biol.14:4057-4066)が含まれる。真核細胞における転写リプレッサー活性を有する他の蛋白質の非制限的例には、キイロショウジョウバエのホメオドメイン蛋白質イーブン・スキップト(eve)、S.cerevisiaeのSsn/Tup1蛋白質複合体(Herschbach及びJohnson、前出参照)、酵母SIR1蛋白質(Chien,等(1993)Cell 75:531-541参照)、NeP1(Kohne,等(1993)J.Mol.Biol.232:747-755参照)、キイロショウジョウバエのドーサル蛋白質(Kirov,等(1994)Mol.Cell.Biol.14:713-722;Jiang,等(1993)EMBO J.12:3201-3209参照)、TSF3(Chen,等(1993)Mol.Cell.Biol.13:831-8409照)、SFI(Targa,等(1992)Biochem.Biophys.Res.Comm.188:416-4239照)、キイロショウジョウバエのハンチバック蛋白質(Zhang,等(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:7511-7515参照)、キイロショウジョウバエのknirps蛋白質(Gerwin,等(1994)Mol.Cell.Biol.14:7899-7908参照)、WT1蛋白質(Wilm's腫瘍遺伝子産物)(Anant,等(1994)Oncgene 9:3113-3126; Madden 等(1993)Oncogene 8:1713-1720参照)、Oct−2.1(Lillycrop,等(1994)Mol.Cell.Biol.14:7633-7642 参照)、キイロショウジョウバエのengrailed 蛋白質(Badiani,等(1994)Genes Dev.8:770-782; Han及びManley,(1993)EMBO J.12:2723-2733参照)、E4BP4(Cowell及びHurst,(1994)Nucleic Acids Res.22:59-65参照)及びZF5(Numoto,等(1993)Nucleic Acids Res.21:3767-3775参照)が含まれる。
【0107】
好適具体例において、この発明の転写インヒビター融合蛋白質の第2のポリペプチドはキイロショウジョウバエのKrueppel蛋白質の転写サイレンサードメインである。リプレッサー活性を有するC末端、例えばその天然の蛋白質のアミノ酸403〜466を用いることができる(Sauer,F.及びJack1e,H.、前出参照)。この領域は、C64KRとして言及される。C64KRのヌクレオチド及びアミノ酸配列を、それぞれ、SEQ ID NO:20及びSEQ ID NO:21に示す。TetR−C64KR融合蛋白質をコードする発現ベクターの構築を実施例4に記載する。或は、やはりリプレッサー活性を有するKrのアラニンリッチなアミノ末端領域を、融合蛋白質の第2のポリペプチドとして用いることができる。例えば、Krのアミノ酸26〜110(Licht,J.D.等(1990)、前出参照)を第2のポリペプチドとして用いることができる。或は、全又は部分的阻止活性を未だ保持しているKrサイレンサードメインの何れかを包含するもっと長い又は短いポリペプチド断片も意図される(例えば、N末端サイレンサードメインのアミノ酸62〜92;Licht,等(1994)、前出参照)。
【0108】
他の好適具体例において、この発明の転写インヒビター融合蛋白質の第2のポリペプチドは、v−erbAオンコジーン産物の転写サイレンサードメインである。v−erbAのサイレンサーは、天然のv−erbAオンコジーン産物の約362〜632アミノ酸残基にマップされた(Baniahmad,等、前出参照)。従って、この領域を包含する断片をサイレンサードメインの第2のポリペプチドとして使用する。一具体例において、天然のv−erbA蛋白質の364〜635アミノ酸残基を用いる。v−erbAのこの領域のヌクレオチド及びアミノ酸配列を、それぞれ、SEQ ID NO:22及びSEQ ID NO:23に示す。TetR−v−erbA融合蛋白質をコードする発現ベクターの構築を、実施例5に記載する。或は、未だ全又は部分的阻止活性を保持しているv−erbAサイレンサー領域を包含するもっと長い又は短いポリペプチド断片も企図される。例えば、v−erbAのアミノ酸残基346〜639、362〜639、346〜632、346〜616及び362〜616を用いることができる。更に、内部欠失を有し未だ全又は部分的阻止活性を保持しているこれらの領域を包含するポリペプチド断片例えばv−erbAのアミノ酸残基362〜468/508〜639は、この発明に包含される。更に、サイレンサードメインの2つ以上のコピー例えばv−erbAの362〜616アミノ酸残基の2コピーを融合蛋白質に含めることができる。v−erbAの適当なサイレンサーポリペプチドドメインが、更にBaniahmad,A.等(前出)に記載されている。
【0109】
他の具体例においては、他のサイレンサードメインを用いる。用いることのできるポリペプチドドメインの非制限的例には、次が含まれる:甲状腺ホルモンレセプターα(THRα)の120〜410アミノ酸残基、レチノイン酸レセプターα(RARα)の143〜403アミノ酸残基、knirpsの186〜232アミノ酸残基、WT1のN末端領域(Anant、前出参照)、Oct−2.1のN末端領域(Lillycrop、前出参照)、E4BP4の65アミノ酸ドメイン(Cowell及びHurst、前出参照)及びZF5のN末端ジンクフィンガードメイン(Numoto、前出参照)。更に、未だ全又は部分的阻止活性を保持しているこれらの領域を包含するもっと短い又は長いポリペプチド断片も企図される。
【0110】
前に記載された転写インヒビタードメインに加えて、標準的技術により同定することのできる新規な転写インヒビタードメインが、この発明の範囲内にある。ポリペプチドの転写インヒビター活性は:1)DNA結合活性を有する他のポリペプチドに結合した試験用サイレンサーポリペプチド(即ち、DNA結合ドメイン−サイレンサードメイン融合蛋白質)をコードする発現ベクターを構築し、2)この発現ベクターを、通常宿主細胞内で構成的に発現され且つDNA結合ドメインに対する結合部位をも含むレポーター遺伝子構築物と共に宿主細胞に同時トランスフェクトし、そして3)宿主細胞内での融合蛋白質の発現により阻止されたレポーター遺伝子構築物の転写の量を測定することによりアッセイすることができる。例えば、当分野で用いられる標準的アッセイは、GAL4DNA結合ドメイン(例えば、1〜147アミノ酸残基)と試験用サイレンサードメインとの融合蛋白質を利用する。次いで、この融合蛋白質を用いて、正の調節配列(通常構成的転写を刺激する)及びGAL4結合部位(例えば、Baniahmad、前出を参照)を含むレポーター遺伝子構築物の発現を阻止する。
【0111】
C.転写インヒビター融合蛋白質の第3のポリペプチド:
Tetリプレッサー及び転写サイレンサードメインに加えて、この発明の転写インヒビター融合蛋白質は、この融合蛋白質の細胞核への輸送を促進する機能的に結合された第3のポリペプチドを含むことができる。トランスアクチベーター融合蛋白質について記載したように(上記の第I節、パートC参照)、各局在化シグナルを、転写インヒビター融合蛋白質中に取り込むことができる。
【0112】
D.転写インヒビター融合蛋白質の発現:
この発明の転写インヒビター融合蛋白質をコードする核酸分子を、組換え発現ベクターに取り込んで宿主細胞に導入し、上記の第II節、パートA、B及びCに記載したように、宿主細胞中で融合蛋白質を発現させることができる。好ましくは、この発明の転写インヒビター融合蛋白質を発現する宿主細胞は、標的とするtetオペレーター結合された遺伝子(即ち、転写されるべき標的ヌクレオチド配列)をも有する。
【0113】
転写インヒビター融合蛋白質をその細胞中で発現しているトランスジェニック生物を、上記の第II節、パートDに記載したように調製することができる。更に、転写インヒビター融合蛋白質をその細胞中で発現している相同組換え生物もこの発明に包含され、上記の第II節、パートEに記載したように調製することができる。この発明は、相同組換えに適した組換え発現ベクターを提供する。一具体例において、かかる発現ベクターは、この発明の転写インヒビター融合蛋白質をコードし、真核生物遺伝子の付加的核酸と5’及び3’末端にて隣接する核酸分子を含み、その付加的核酸は、その真核生物遺伝子との上首尾の相同組換えに十分な長さのものである。この発明の調節系の成分を発現する相同組換え生物を造るベクター及び方法並びにその利用は、米国特許出願第08/260,452に更に詳細に記載されている。好ましくは、転写インヒビター融合蛋白質をその細胞内で発現しているこの発明のトランスジェニック又は相同組換え生物は又、標的とするtetオペレーター結合された遺伝子(即ち、転写されるべき標的ヌクレオチド配列)をもその細胞内に有する。
【0114】
V.この発明のキット:
この発明の他の面は、この発明の誘導可能な調節系の成分を含むキットに関係する。かかるキットを用いて、標的転写ユニット中にクローン化し得る標的遺伝子(即ち、転写されるべき標的ヌクレオチド配列)の発現を調節することができる。このキットは、転写アクチベーター融合蛋白質又は転写インヒビター融合蛋白質或は両方をコードする核酸を含んでよい。或は、このキットにおいて、真核細胞中で発現されるように安定に取り込まれたトランスアクチベーター及び/又はインヒビター融合蛋白質をコードする核酸を有する真核細胞を提供することができる。
【0115】
一具体例において、このキットは、その中の近い範囲内に少なくとも次の2つの容器手段を有するキャリアー手段を含む:この発明のトランスアクチベーター融合蛋白質をコードする第1の核酸(例えば、DNA)(例えば、真核細胞における転写を活性化する第2のポリペプチドに機能的に結合されたテトラサイクリンの存在下でtetオペレーター配列に結合する第1のポリペプチドをコードする組換え発現ベクター)を含む第1の容器手段、及び標的ヌクレオチド配列をクローン化することのできるトランスアクチベーターの第2の標的核酸(例えば、DNA)。第2の核酸は、典型的には、転写されるべきヌクレオチド配列(適宜、機能的に結合された最小プロモーター配列を含む)の導入のためのクローニング部位及び少なくとも1つの機能的に結合されたtetオペレーター配列を含む。用語「クローニング部位」は、少なくとも1つの制限エンドヌクレアーゼ部位を含むことを意図している。典型的には、多数の異なる制限エンドヌクレアーゼ部位(例えば、ポリリンカー)が、この核酸中に含まれる。
【0116】
このキットの成分を用いて標的とするヌクレオチド配列の発現を調節するためには、そのヌクレオチド配列を、慣用の組換えDNA技術によってこのキットの標的ベクターのクローニング部位にクローン化し、次いで、第1及び第2の核酸を宿主細胞又は動物に導入する。宿主細胞又は動物中で発現されたトランスアクチベーター融合蛋白質は、次いで、誘導剤(Tc又はそのアナログ)の存在下で、標的とするヌクレオチド配列の転写を調節する。
【0117】
或は、他の具体例においては、このキットは、この発明のトランスアクチベーター融合蛋白質をコードする核酸で、そのトランスアクチベーターが細胞内で発現されるように安定にトランスフェクトされた真核細胞を含む。従って、核酸を単独で含むのではなく、上記の第1の容器手段は、トランスアクチベーターをコードする第1の核酸を(例えば、慣用の方法例えばリン酸カルシウム沈澱又はエレクトロポレーション等による安定なトランスフェクションにより)安定に導入した真核細胞株を含むことができる。この具体例においては、標的とするヌクレオチド配列をこのキットの標的ベクターのクローニング部位にクローン化し、次いで、その標的ベクターをトランスアクチベーター融合蛋白質を発現している真核細胞内に導入する。
【0118】
或は、又は更に、2つのヌクレオチド配列の発現の統合的調節のためのこの発明の組換えベクターを、この発明のキットに取り込むこともできる。そのベクターは、標的とする2つのヌクレオチド配列のベクターへの導入を可能にする形態でこのキットに含めることができる。従って、他の具体例において、この発明のキットは、1)この発明のトランスアクチベーター融合蛋白質をコードする核酸(又は、その核酸を安定に導入した真核細胞)及び2)標的とする第2のヌクレオチド配列の導入のための第2のクローニング部位に機能的に結合された少なくとも1つのtetオペレーター配列に機能的に結合された標的とする第1のヌクレオチド配列の導入のための第1のクローニング部位を5’から3’の向きで含むヌクレオチド配列を含む第2の核酸(ここに、第1及び第2のヌクレオチド配列の転写は、少なくとも1つのtetオペレーター配列から反対方向に進行する)。適宜、このベクターは、機能的に結合した最小プロモーター配列を含むことができる。他の具体例においては、このベクターは、転写されるべき1つのヌクレオチド配列(例えば、検出可能なマーカー例えばルシフェラーゼ、β−ガラクトシダーゼ又はCATをコードするもの)及び転写されるべき標的とする第2のヌクレオチド配列の導入のためのクローニング部位を既に含む形態であってよい。
【0119】
転写されるべき2つのヌクレオチド配列の発現の独立的調節のためのこの発明の転写ユニット及びトランスアクチベーターも又、この発明のキットに取り込むことができる。標的転写ユニットは、転写されるべき標的とするヌクレオチド配列の転写ユニットへの導入を可能にする形態であってよい。従って、他の具体例においては、この発明のキットは、1)Tc又はそのアナログの存在下で第1のクラスの型のtetオペレーターに結合するトランスアクチベーターをコードする第1の核酸、2)少なくとも1つの第1のクラスの型のtetオペレーターに機能的に結合された転写されるべき第1のヌクレオチド配列の導入のための第1のクローニング部位を含む第2の核酸、3)Tc又はそのアナログの不在時に第2のクラスの型のtetオペレーターに結合するトランスアクチベーターをコードする第3の核酸、及び4)少なくとも1つの第2のクラスの型のtetオペレーターに機能的に結合された転写されるべき第2のヌクレオチド配列の導入のための第2のクローニング部位を含む第4の核酸を含む。(適宜、最小プロモーター配列を第2及び第4の核酸に含める。)他の具体例においては、転写されるべき1つのヌクレオチド配列(例えば、自殺遺伝子をコードするもの)が、既に、第2又は第4の核酸のいずれかに含まれている。更に別の具体例においては、トランスアクチベーターをコードする核酸(例えば、上記の第1及び第3の核酸)を、このキットにおいて提供される真核細胞株に安定に導入することができる。
【0120】
更に別の具体例においては、この発明のキットは、この発明の転写インヒビター融合蛋白質(例えば、Tcの存在下でのみ又はTcの不在時にのみ真核細胞中の転写を阻止する融合蛋白質)をコードする第1の核酸を含む第1の容器手段、及び少なくとも1つのtetオペレーター配列に機能的に結合された転写されるべきヌクレオチド配列の導入のためのクローニング部位を含む第2の核酸を含む第2の容器手段を含む。このキットは、更に、Tcの存在下でのみ又はTcの不在時にのみtetO配列に結合するトランスアクチベーター融合蛋白質をコードする第3の核酸を含むことができる。或は、第1及び/第3の核酸(即ち、インヒビター又はトランスアクチベーター融合蛋白質をコードするもの)を、このキットにおいて提供される真核宿主細胞に安定に取り込ませることができる。
【0121】
更に他の具体例において、この発明のキットは、少なくとも1つのテトラサイクリン又はテトラサイクリンアナログを含むことができる。例えば、このキットは、ここに記載のテトラサイクリン、アンヒドロテトラサイクリン、ドキシサイクリン、エピオキシテトラサイクリン又は他のテトラサイクリンアナログを含む容器手段を含むことができる。
【0122】
VI.テトラサイクリン又はそのアナログによる遺伝子発現の調節:
A.トランスアクチベーター融合蛋白質による遺伝子発現の刺激:
この発明のトランスアクチベーター融合蛋白質をコードする核酸及びtetオペレーター配列に機能的に結合されたヌクレオチド配列(即ち、転写されるべき標的遺伝子)を有する宿主細胞において、tetオペレーター配列に機能的に結合されたヌクレオチド配列の高レベルの転写は、誘導剤、テトラサイクリン又はそのアナログの不在時には生じない。ヌクレオチド配列の基礎的転写のレベルは、宿主細胞及び配列のインテグレーション部位によって変化し得るが、一般に、Tcの不在時には、きわめて低いか又は検出できない程である。宿主細胞における転写を誘導するためには、宿主細胞をテトラサイクリン又はテトラサイクリンアナログに接触させる。従って、この発明の他の面は、この発明のトランスアクチベーター融合蛋白質を発現する宿主細胞又は動物におけるtetオペレーター配列に機能的に結合されたヌクレオチド配列の転写を刺激するための方法に関係する。これらの方法は、細胞をテトラサイクリン若しくはテトラサイクリンアナログに接触させること又はテトラサイクリン若しくはテトラサイクリンアナログをその細胞を含む患者に投与することを含む。
【0123】
用語「テトラサイクリンアナログ」は、構造的にテトラサイクリンに関連し且つ少なくとも約106-1のKaでTetリプレッサーに結合する化合物を包含することを意図している。好ましくは、テトラサイクリンアナログは、約109-1以上のアフィニティーで結合する。かかるテトラサイクリンアナログの例には、Hlavka及びBoothe,「The Tetracyclines」(R.K.Blackwood 等編、Handbook of Experimental Pharmacology 78,Springer-Verlag,Berlin-New York,1985中);L.A.Mitscher,「The Chemistry of the Tetracycline Antibiotics」,Medicinal Research 9,Dekker,New York,1978; Noyee Development Corporation,「Tetracycline Manufacturing Process」Chemical Process Reviews(ニュージャージー、Park Ridge在),第2巻、1969; R.C.Evans,「The Technology of the Tetracyclines」,Biochemical References Series 1,Quadrangle Press(New York在),1968; 及び H.F.Dowling,「Tetracycline」,Antibiotic Monographs,no.3,Medical Encyclopedia(New York)1955により記載されたアンヒドロテトラサイクリン、ドキシサイクリン、クロロテトラサイクリン、オキシテトラサイクリン及びその他が含まれるが、これらに限られない。高レベルの転写の刺激に好適なTcアナログは、アンヒドロテトラサイクリン及びドキシサイクリンである。Tcアナログは、Tcと比べて減じた抗生物質活性を有するものを選択することができる。かかるTcアナログの例は、アンヒドロテトラサイクリン、エピオキシテトラサイクリン及びシアノテトラサイクリンである。
【0124】
イン・ビトロで細胞における遺伝子の発現を誘導するためには、その細胞を、Tc又はTcアナログを含む培地中で培養することによりこの物質に接触させる。細胞をTc又はTcアナログの存在下でイン・ビトロで培養する場合は、誘導剤の好適濃度範囲は、約10〜1000ng/mlである。Tc及びTcアナログは、細胞を既に培養している培地に直接加えることができ、或は、一層好ましくは、高レベルの遺伝子誘導のためには、細胞をTcを含まない培地から集めてTc又はそのアナログを含む新鮮な培地にて培養する。
【0125】
イン・ビボでの遺伝子発現を誘導するには、患者内の細胞を、Tc又はTcアナログをその患者に投与することにより、この化合物と接触させる。用語「患者」は、ヒト及び他の非ヒト哺乳動物(サル、ウシ、ヤギ、ヒツジ、イヌ、ネコ、ラット、ウサギ、マウスを含む)、並びにこれらのトランスジェニック及び相同組換え種を含むことを意図している。更に、用語「患者」は、植物例えばトランスジェニック植物を含むことを意図している。誘導剤をヒト又は動物の患者に投与する場合には、投薬量は、好ましくは、約0.05〜1.0μg/mlの血清濃度を達成するように調節する。Tc又はTcアナログは、イン・ビボでの遺伝子誘導のために十分な濃度を達成するのに有効な任意の手段によって患者に投与することができる。投与の適当な方法の例には、経口投与(例えば、誘導剤を飲料水に溶かす)、ゆっくりと放出するペレット及び拡散ポンプの移植が含まれる。Tc又はTcアナログをトランスジェニック植物に投与するには、誘導剤を、その植物に与える水に溶解させることができる。
【0126】
この系において誘導剤として種々のTcアナログを用いる能力は、tetオペレーター結合されたヌクレオチド配列の発現のレベルを調節することを可能にする。実施例2で示すように、アンヒドロテトラサイクリン及びドキシサイクリンは、強力な誘導剤であることが見出されている。標的配列の転写の増大は、典型的には、高くても1000〜2000倍であり、誘導因子は、20,000倍まで達成し得る。テトラサイクリン、クロロテトラサイクリン及びオキシテトラサイクリンは、一層弱い誘導剤であることが見出されている。即ち、標的配列の転写の増大は、約10倍の範囲である。従って、遺伝子発現の誘導の所望のレベルに基づいて、適当なテトラサイクリンアナログを誘導剤として選択する。誘導剤として用いるTcアナログを変えることによって、宿主細胞又は動物における長時間の遺伝子発現のレベルを変えることも可能である。例えば、最初は遺伝子発現の強いバーストを有し、次いで、持続的な低レベルの遺伝子発現が望ましいという状況はありえよう。従って、高レベルの転写を刺激するアナログを最初に誘導剤として用い、次いで、誘導剤を、低レベルの転写を刺激するアナログに交換することができる。更に、多数のヌクレオチド配列の転写を調節する場合(例えば、上記の第III節、パートCに記載のように、一方の配列を1つのクラスのtetオペレーター配列により調節し、他方を他のクラスのtetオペレーター配列により調節する場合)には、各配列の発現のレベルを、どのトランスアクチベーター融合蛋白質を用いて転写を調節するか及びどのTcアナログを誘導剤として用いるかによって独立的に変えることが可能であり得る。種々のトランスアクチベーター融合蛋白質が、Tcアナログに対する種々のレベルの応答性を示すことはありそうなことである。トランスアクチベーター融合蛋白質及び誘導剤(Tc又はTcアナログ)の特定の組合せによる遺伝子発現の誘導のレベルを、ここに記載の技術によって測定することができる(例えば、実施例2参照)。更に、遺伝子発現のレベルは、誘導剤の濃度を変えることによって調節することができる。従って、この発明の発現系は、遺伝子発現をオン・オフするだけでなく、用いる誘導剤の型及び濃度によって、中間レベルにおいて、遺伝子発現のレベルを「微細調整(fine tuning)」もする機構を提供する。
【0127】
B.転写インヒビター融合蛋白質による遺伝子発現の阻止:
この発明は又、この発明の転写インヒビター融合蛋白質を用いて遺伝子発現を阻止するための方法をも提供する。これらの方法を用いて、標的とするtetO結合された遺伝子の基礎的、構成的又は組織特異的な転写をダウンレギュレートすることができる。例えば、tetO配列に機能的に結合された標的遺伝子及び更なる正の調節要素(例えば、構成的又は組織特異的なエンハンサー配列)を、宿主細胞内で、宿主細胞内での正の調節要素の強さにより最初に決定したレベルで転写することができる。更に、tetO配列に機能的に結合された標的遺伝子及び最小プロモーター配列のみは、宿主細胞若しくは組織及び/又は配列のインテグレーション部位に基づいて基礎レベル転写の変化する程度を示し得る。かかる標的配列を含み且つこの発明のインヒビター融合蛋白質を発現している宿主細胞において、標的配列の転写は、その宿主細胞と接触しているTc(又はアナログ)の濃度を変えることにより、制御された様式で、ダウンレギュレートすることができる。例えば、Tcの不在時にインヒビター融合蛋白質がtetOに結合するときは、宿主細胞に接触しているTcの濃度を減じて標的遺伝子の発現を阻止する。好ましくは、宿主細胞を、Tcの不在にて培養して、標的遺伝子発現を抑制しておく。同様に、Tcを、宿主生物に投与しないで、標的遺伝子発現を抑制しておく。或は、インヒビター融合蛋白質がTcの存在下でtetOに結合する場合には、宿主細胞と接触しているTcの濃度を増して標的遺伝子の発現を阻止する。例えば、Tcを、宿主細胞の培養培地に加え又は、Tcを宿主生物に投与して、標的遺伝子の発現を抑制する。
【0128】
ここに記載のインヒビター融合蛋白質は、最小プロモーター配列の5’側にtetO配列が位置する標的とするtetO結合された遺伝子を阻止する(例えば、上記の第III節に記載したテトラサイクリン調節される転写ユニット)。更に、インヒビター融合蛋白質を用いて、tetO結合された配列がプロモーターの3’側で転写開始部位の5’側に置かれた標的遺伝子の発現を阻止することができる。更に、インヒビター融合蛋白質を用いて、tetO結合された配列が転写開始部位の3’側に置かれた標的遺伝子の発現を阻止することができる。
【0129】
トランスアクチベーター融合蛋白質に関して、同様に、上記の第VI節、パートAに記載の様々なTcアナログを用いて、インヒビター融合蛋白質の活性を調節することができる。更に、第VI節、パートAに記載のTc(又はアナログ)を用いるイン・ビトロ培養及びTc(又はアナログ)のイン・ビボ投与の方法は、転写インヒビター融合蛋白質に等しく適用可能である。
【0130】
C.遺伝子発現の組み合わせた正及び負の調節:
転写アクチベーター又はインヒビター融合蛋白質を単独で用いる遺伝子発現の調節に加えて、2つの型の融合蛋白質を組み合わせて用いて、宿主細胞における1つ以上の標的遺伝子の発現の正及び負の調節の両方を可能にすることができる。従って、tetOに(i)Tcの不在時に結合するが存在時には結合しない転写インヒビター蛋白質又は(ii)Tcの存在時に結合するが不在時には結合しない同インヒビター蛋白質を、tetOと(i)Tcの不在時に結合するが存在時には結合しないトランスアクチベーター蛋白質又は(ii)Tcの存在時に結合するが不在時には結合しない同アクチベーター蛋白質との組合せにおいて用いることができる。tetOにTcの不在時に結合するが存在時には結合しないトランスアクチベーター蛋白質(例えば、野生型TetR−アクチベーター融合蛋白質)は、米国特許出願第08/076,726号、第08/076,327号及び第08/260,452号に、更に詳細に記載されている。Tcの存在時にtetOに結合するが不在時には結合しない転写融合蛋白質(例えば、変異したTetR−アクチベーター融合蛋白質)は、本明細書(上記の第I節参照)及び米国特許出願第08/270,637号及び第08/275,876号に記載されている。転写インヒビター融合蛋白質は、本明細書の第IV節に記載されている。
【0131】
第III節、パートCに記載のように、1つ以上のTetR融合蛋白質を宿主細胞又は生物にて発現させる場合には、更なるステップを取って種々のTetR融合蛋白質間のヘテロ二量体化を阻止することができる。例えば、1つのクラスのTetRよりなるトランスアクチベーターを、第1のクラスのTetRとヘテロ二量体化しない第2の異なるクラスのTetRよりなる転写インヒビターと組み合わせて用いることができる。或は、二量体化に関係するTetRのアミノ酸残基を突然変異させてヘテロ二量体化を阻止することができる。しかしながら、たとえ宿主細胞においてトランスアクチベーター及びインヒビター融合蛋白質間で幾つかのヘテロ二量体化がおきても、ここに記載のような効率的な正及び負の調節を可能にするだけ十分量のホモダイマーが生成するはずである。
【0132】
アクチベーター及びインヒビター蛋白質の種々の組合せを用いて、標的とする単一のtetO結合された遺伝子を正及び負の様式の両方で調節し又は、標的とする多数のtetO結合された遺伝子を、ここに記載の教示を用いて、統合的様式若しくは独立的様式で調節することができるということは、当業者には認められよう。用いる正確な調節用成分は、調節される遺伝子及び所望の調節の型に依存する。トランスアクチベーター及びインヒビター融合蛋白質をどのように組み合わせて用いるかという幾つかの非制限的例を、更に、以下に記載する。しかしながら、本明細書の教示を考慮するならば、多くの他の可能な組合せが当業者には明らかであり、それらは、この発明に包含されるものである。
【0133】
図10に図式的に示した好適具体例において、宿主細胞におけるtetO結合された標的遺伝子の発現は、負及び正の様式で、テトラサイクリン又はそのアナログの不在時にtetOに結合するが存在時には結合しないインヒビター融合蛋白質(テトラサイクリン制御されるサイレンシングドメイン又はtSDと呼ぶ)及びテトラサイクリン又はそのアナログの存在時にtetOに結合するが不在時には結合しないアクチベーター融合蛋白質(リバーステトラサイクリン制御されるトランスアクチベーター又はrtTAと呼ぶ)の組合せにより調節される。tetO配列に加えて、標的遺伝子をプロモーターに結合し、そして宿主細胞における遺伝子の基礎レベルの構成的転写に寄与する他の正の調節要素(例えば、エンハンサー配列)を含むことができる。テトラサイクリン又はアナログ(例えば、ドキシサイクリン)の不在時におけるtSDのtetO配列への結合は、標的遺伝子の基礎的構成的転写を阻止し、それ故に、その標的遺伝子を遺伝子発現が望まれるまで抑制状態に維持する。遺伝子発現を所望するときは、宿主細胞と接触しているテトラサイクリン又はアナログ(例えば、ドキシサイクリン)の濃度を増加させる。薬物の添加に際して、tSDは、tetO配列に結合する能力を失い、他方、それ以前に結合してなかったrtTAがtetO配列に結合する能力を得る。その結果生じたrtTAの、標的遺伝子に結合されたtetO配列への結合は、標的遺伝子の転写を刺激する。発現のレベルは、前述したように、テトラサイクリン若しくはアナログの濃度、用いるTcアナログの型、誘導の遅延等により制御され得る。融合蛋白質の逆の組合せ(即ち、インヒビターが薬物の存在時に結合するが不在時には結合せず且つアクチベーターが薬物の不在時に結合するが存在時には結合しない)も用い得るということは、認められよう。この場合には、標的遺伝子の発現を、宿主細胞を薬物に接触させる(例えば、Tc又はアナログと共に培養する)ことにより抑制させておき、その薬物の除去により遺伝子発現を活性化する。
【0134】
他の具体例においては、前段落に記載のように、アクチベーター及びインヒビター融合蛋白質を組み合わせて用いて、正及び負の様式の両方で、標的とする2つの遺伝子を、上記の第111節、パートBに記載の二方向性tetO結合された転写ユニットを用いて統合的に調節する。この場合には、遺伝子1及び遺伝子2を同じtetO配列に、逆向きに結合する。インヒビター融合蛋白質を用いて、遺伝子1及び遺伝子2の両方の転写の基礎レベルを統合的様式で抑制するが、他方、トランスアクチベーター融合蛋白質を用いて、遺伝子1及び遺伝子2の発現を統合的様式で刺激する。
【0135】
更に別の具体例においては、アクチベーター及びインヒビター融合蛋白質を用いて標的とする2つ以上の遺伝子を、上記の第III節、パートCに記載のtetO結合された転写ユニットを用いて独立に調節する。例えば、一具体例において、Tc又はアナログの存在時に1つのクラス(例えばクラスA)のtetO配列に結合するが不在時には結合しないトランスアクチベーター融合蛋白質を、やはりTc又はアナログの存在時に第2の異なるクラス(例えばクラスB)のtetO配列に結合するが不在時には結合しないインヒビター融合蛋白質と組み合わせて用いる。クラスAtetO配列に結合された遺伝子1及びクラスBtetO配列に結合された遺伝子2を含む宿主細胞において、両遺伝子は、この薬物の不在時に基礎レベルで発現されるが、遺伝子1の発現はこの薬物の添加により刺激され且つ遺伝子2の発現はこの薬物の添加により抑制される。
【0136】
或は、他の具体例において、トランスアクチベーターは、Tc又はアナログの存在時に1つのクラス(例えばクラスA)のtetO配列に結合するが不在時には結合せず、インヒビター融合蛋白質は、Tc又はアナログの不在時に第2の異なるクラス(例えばクラスB)のtetO配列に結合するが存在時には結合しない。前段落に記載のように宿主細胞においては、遺伝子1は、薬物の不在時に基礎レベルで発現され、薬物の添加に際して刺激されるが、遺伝子2は、薬物の不在時には抑制され、薬物の添加に際して基礎レベルの発現を有する。種々の他の可能な組合せは、当業者には明らかであろう。種々のクラスのtetO配列に結合するトランスアクチベーター及びインヒビター融合蛋白質を、第I節、パートAに記載のように調製することができる。種々のクラスのtetO配列を含む標的転写ユニットを、第III節、パートCに記載のようにして調製することができる。
【0137】
VII.この発明の応用:
この発明は、多面発現性又は細胞毒性を引き起こすことなく、迅速に、効率的且つ制御された様式で、遺伝子発現をオン・オフし又は遺伝子発現のレベルを調節することができることが望ましい種々の状況に対して広く応用可能である。従って、この発明の系は、真核細胞、植物及び動物における細胞の発生及び分化の研究に対して広い応用可能性を有している。例えば、オンコジーンの発現を、細胞中で制御された様式で調節して、それらの機能を研究することができる。更に、この系を用いて、部位特異的レコンビナーゼ例えばCRE又はFLPの発現を調節し、それにより、トランスジェニック生物の遺伝子型を発生の特定のステージで制御された条件下で不可逆的に改変することを可能にすることができる。例えば、トランスジェニック植物のゲノムに挿入された、特定のトランスジェニック植物の選択を可能にする薬剤耐性マーカーを、Tc調節される部位特異的レコンビナーゼにより不可逆的に除去することができるであろう。この発明の調節系の他の応用は、下記を含む:
【0138】
A.遺伝子治療:
この発明は、遺伝的又は後天的疾患の治療における遺伝子治療目的に特に有用である。遺伝子治療の一般的アプローチは、核酸を細胞へ導入して、その導入した遺伝物質によりコードされる1つ以上の遺伝子産物がそれらの細胞中で生成されて機能的活性を回復し又は増大させることを含む。遺伝子治療アプローチについての概説は、Anderson,W.F.(1992)Science 256:808-813; Miller,A.D.(1992)Nature 357:455-460; Friedmann,T.(1989)Science 244:1275-1281; 及びCournoyer,D.等(1990)Curr.Opin.Biotech.1:196-208 を参照されたい。しかしながら、現在の遺伝子治療用ベクターは、典型的には、内因性転写因子に応答性の構成的な調節要素を利用する。これらのベクター系は、患者における遺伝子発現のレベルを調節する能力を可能にしない。対照的に、この発明の誘導可能な調節系は、この能力を提供する。
【0139】
この発明の系を遺伝子治療目的に用いるために、一具体例においては、遺伝子治療の必要な患者の細胞を、1)この発明のトランスアクチベーター融合蛋白質を宿主細胞におけるそのトランスアクチベーターの発現に適した形態でコードする核酸及び2)tetオペレーター配列に機能的に結合された標的遺伝子(例えば、治療目的のためのもの)を含むように改変する。この患者の細胞を、エキソ・ビボで改変し、次いで、その患者に導入することができ、又は、それらの細胞をイン・ビボで直接改変することができる(これらの細胞の改変方法は、上記の第II節に記載してある)。患者の細胞の標的遺伝子の発現を、次いで、Tc又はTcアナログをその患者に投与することにより刺激する。遺伝子発現のレベルは、どの特定のTcアナログを誘導剤として用いるかによって変わり得る。遺伝子発現のレベルは又、患者に投与するテトラサイクリン又はそのアナログの量を調節して、それにより循環中及び標的とする組織において達成される濃度を調節することによっても調節することができる。
【0140】
更に、他の具体例においては、転写インヒビター融合蛋白質を用いて、標的遺伝子の発現のレベルを更に制御する。例えば、患者の細胞を改変して、Tcの不在時にtetOに結合する転写インヒビター融合蛋白質をコードする核酸をも含むようにすることができる。この核酸は、宿主細胞におけるインヒビター融合蛋白質の発現に適した形態である。従って、患者へのTc(又はアナログ)の投与前に、標的遺伝子の転写の基礎レベルを、インヒビター融合蛋白質によりサイレントに維持する。Tcの投与に際して、インヒビター融合蛋白質のtetOへの結合は、阻止されるが、トランスアクチベーター融合蛋白質の結合が誘導され、それにより、標的遺伝子の転写が刺激される。この発明のトランスアクチベーター融合蛋白質及び転写インヒビター融合蛋白質の両方を用いる、遺伝子発現のかかる組み合わせた正及び負の調節を、図10に図式的に示す。
【0141】
当分野で公知の慣用の検出方法例えば酵素結合免疫吸着剤アッセイを用いて、宿主細胞における調節された標的とする蛋白質の発現をモニターし、標的とする蛋白質の発現の所望のレベルが達成されるまで、Tc又はTcアナログの濃度を変化させることができる。従って、標的とする蛋白質の発現を、個人の生涯を通じて変化し得るその個人の医療的ニーズに応じて調節することができる。患者の細胞における標的遺伝子の発現を停止するためには、誘導剤の投与を停止する。従って、この発明の調節系は、治療状況の必要に応じて遺伝子発現のレベルを調節することを可能にする構成的調節系を超える利点を提供する。
【0142】
遺伝的又は後天的疾患の治療のために患者の細胞中で発現させるべき特に標的とする遺伝子には、アデノシンデアミナーゼ、VIII因子、IX因子、ジストロフィン、β−グロビン、LDLレセプター、CFTR、インシュリン、エリスロポエチン、抗血管形成因子、成長ホルモン、グルコセレブロシダーゼ、β−グルクロニダーゼ、α1−アンチトリプシン、フェニルアラニンヒドロキシラーゼ、チロシンヒドロキシラーゼ、オルニチントランスカルバミラーゼ、アルギノスクシネートシンテターゼ、UDP−グルクロニシルトランスフェラーゼ、アポA1、TNF、可溶性TNFレセプター、インターロイキン(例えば、IL−2)、インターフェロン(例えば、α−又はγ−IFN)、並びに他のサイトカイン及び成長因子をコードするものが含まれる。遺伝子治療目的のために改変し得る細胞型には、造血幹細胞、筋原細胞、肝細胞、リンパ球、皮膚上皮及び気道上皮が含まれる。遺伝子治療のための細胞型、遺伝子及び方法の更なる記載は、例えば、Wilson,J.M等(1988)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:3014-3018; Armentano,D.等(1990)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:6141-6145; Wolff,J.A.等(1990)Science247:1465-1468; Chowdhury,J.R.等(1991)Science 254:1802-1805; Ferry,N.等(1991)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:8377-8381; Wilson,J.M.等(1992)J.Biol.Chem.267:963-967; Quantin,B.等(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:2581-2584; Dai,Y.等(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:10892-10895; van Beusechem,V.W.等(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:7640-7644; Rosenfeld,M.A.等(1992)Cell 68:143-155; Kay,M.A.等(1992)Human Gene Therapy 3:641-647; Cristiano,R.J.(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:2122-2126; Hwu,P.等(1993)J.Immunol.150:4104-4115;並びにHerz,J.及びGerard,R.D.(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:2812-2816を参照されたい。
【0143】
癌治療において特に興味深い遺伝子治療応用には、リンパ球を浸潤させる腫瘍におけるサイトカイン遺伝子(例えば、TNF−α)の過剰発現又は腫瘍部位における抗腫瘍免疫応答を誘導する腫瘍細胞におけるサイトカインの異所的発現、無毒性因子を毒性因子に変換し得る腫瘍細胞における酵素の発現、抗腫瘍免疫応答を誘導する腫瘍特異的抗原の発現、腫瘍細胞における腫瘍サプレッサー遺伝子(例えば、p53又はRb)の発現、骨髄細胞を化学療法の毒性から保護するためのそれらの細胞における多剤耐性遺伝子(例えば、MDR1及び/又はMRP)の発現が含まれる。
【0144】
ウイルス性疾患の治療において特に興味深い遺伝子治療応用には、トランス優性負のウイルス性トランスアクチベーション蛋白質例えばHIVについてのトランス優性負のtat及びrev変異体又はHSVについてのトランス優性ICp4変異体の発現(例えば、Balboni,P.G.等(1993)J.Med.Virol.41:289-295; Liem,S.E.等(1993)Hum.Gene Ther.4:625-634; Malim,M.H.等(1992)J.Exp.Med.176:1197-1201;Daly,T.J.等(1993)Biochemistry 32:8945-8954;及びSmith,C.A.等(1992)Virology 191:581-588を参照)、トランス優性負のエンベロープ蛋白質例えばHIVについてのenv変異体(例えば、Steffy,K.R.等(1993)J.Virol.67:1854-1859参照)、ウイルス性産物に対する抗体又はその断片の細胞内発現(「内部免疫化」、例えば、Marasco,W.A.等(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:7889-7893参照)及び可溶性ウイルスレセプター例えば可溶性CD4の発現が含まれる。更に、この発明の系を用いて、条件付きで自殺遺伝子を細胞内で発現させ、それにより、細胞が意図された機能を果たした後にそれらを除去することを可能にする。例えば、予防接種に用いられた細胞を、患者に免疫応答が生じた後に、Tc又はTcアナログをその患者に投与することにより、それらの細胞内の自殺遺伝子の発現を誘導することによって、その患者内から排除することができる。
【0145】
この発明のTc制御される調節系は、遺伝子治療への応用に特に適している多くの有利な特性を有している。例えば、この系は、患者における遺伝子産物の調節された投与を可能にする遺伝子発現のための「オン」/「オフ」スイッチを提供する。単に設定されたレベルで遺伝子産物を構成的に発現するのではなく、調節された様式で、特定のレベル及び/又は時間で遺伝子産物を供給することができることが望ましい幾つかの状況がある。例えば、標的遺伝子を、固定した間隔で(例えば、毎日、隔日、毎週)スイッチ「オン」して、標的遺伝子産物の最も効果的なレベルを最も効果的な時間で与えることができる。患者中で産生された遺伝子産物のレベルを、標準的方法(例えば、免疫学的アッセイ例えばELISA若しくはRIAを用いる直接的モニタリング又は標的遺伝子産物の機能に依存する実験室パラメーター例えば血中グルコースレベル等による間接的モニタリング)によってモニターすることができる。別々の時間間隔で患者内で遺伝子の発現を「オン」させる一方、他の時間においてその遺伝子を「オフ」に維持することも可能にするこの能力は、断続的間隔で標的遺伝子産物を連続的に投与する必要性を回避する。このアプローチは、痛く且つ/又は副作用を生じ得るし、継続して医者に通うことが必要となるであろう遺伝子産物の反復的注射を回避する。対照的に、この発明の系は、これらの欠点を回避する。更に、別々の時間間隔で患者内で遺伝子の発現を「オン」にする能力は、活性の「再発」を含む病気(例えば、多くの自己免疫疾患)の、痛み及び症状の明らかな急性フェーズの間の治療が必要なときだけの集中的治療を可能にする。かかる病気が鎮静しているときには、この発現系を「オフ」状態に維持することができる。
【0146】
別々の時間間隔で遺伝子発現を調節するこの能力から特に有益であり得る遺伝子治療応用は、下記の非制限的例を含む:
【0147】
リウマチ様関節炎
−炎症性サイトカイン(例えば、TNF、IL−1及びIL−12)の産物を阻止する遺伝子産物をコードする遺伝子を、患者にて発現させることができる。かかるインヒビターの例には、サイトカインのレセプターの可溶性型が含まれる。更に又は或は、サイトカインIL−10及び/又はIL−4(防護的Th2型応答を刺激する)を発現させることができる。更に、擬似糖質コルチコイドレセプター(GCMR)を発現することができる。
【0148】
下垂体低下症
−ヒト成長ホルモンの遺伝子を、かかる患者にて、早い子供の時期に、遺伝子発現が必要であるならば、正常の伸長が達成されるまで発現させ、その時点で遺伝子発現をダウンレギュレートすることができる。
【0149】
傷の治癒/組織の再生
−治癒のプロセスに必要な因子(例えば、成長因子、血管形成因子等)を、必要なときにだけ発現させ、次いで、ダウンレギュレートすることができる。
【0150】
抗癌治療
−抗癌治療において有用な遺伝子産物の発現を、腫瘍の成長の遅延が達成されるまでの治療フェーズに限ることができ、その時点でその遺伝子産物の発現をダウンレギュレートすることができる。可能な全身性抗癌治療には、免疫刺激性分子(例えば、IL−1、IL−12等)を発現する腫瘍浸潤性リンパ球、血管形成インヒビター(PF4、IL−12等)、ヘレグリン、ロイコレグリン(PCT公開No.WO85/04662参照)、及び骨髄サポート治療のための成長因子例えばG−CSF、GM−CSF及びM−CSFの利用が含まれる。後者に関して、骨髄サポート治療用の因子を発現するこの発明の調節系の利用は、化学療法から骨髄サポート治療への規則的間隔での簡単な治療の切り替えを可能にする(同様に、かかるアプローチは又、AIDS治療にも適用可能である。例えば、抗ウイルス治療から骨髄サポート治療への簡単な切り替え)。更に、抗癌治療剤の制御された局所的ターゲティングも可能である。例えば、この発明のレギュレーターによる自殺遺伝子の発現(ここに、レギュレーター自身は例えば腫瘍特異的プロモーター又は放射誘導されたプロモーターにより制御される)。
【0151】
他の具体例において、この発明の調節系を用いて、腫瘍中から、この発明の系により調節されたトランスジーンにより血管形成インヒビターを発現させる。この様式での血管形成インヒビターの発現は、そのインヒビターの全身投与より効率がよく、全身投与に伴い得る如何なる有害な副作用をも回避するであろう。特に、血管形成インヒビターの発現を腫瘍内に限定することは、未だ正常細胞成長と関連する血管形成を受けている子供における癌治療に特に有用であり得よう。
【0152】
他の具体例において、高レベルに調節されたサイトカインの発現は、腫瘍細胞に対する患者自身の免疫応答を集中させる方法を代表する。腫瘍細胞を変換して、個人における自然の免疫応答の増大において重要な化学誘引性及び成長促進性サイトカインを発現させることができる。腫瘍の近くではサイトカインが最高濃度となるので、腫瘍抗原に対する免疫学的応答の誘出の見込が増大する。この型の治療に伴う潜在的問題は、サイトカインを産生する腫瘍細胞が免疫応答の標的でもあり、それ故、すべての腫瘍細胞の根絶が確実になり得る前にサイトカインの源が排除されるであろうということである。これと戦うためには、感染細胞を免疫系からマスクすることが知られているウイルス蛋白質の発現を、サイトカイン遺伝子と共に、同じ細胞内で、調節下に置くことができる。かかる蛋白質の1つは、アデノウイルス由来のE19蛋白質である(例えば、Cox,Science 247:715を参照)。この蛋白質は、クラスIのHLA抗原の細胞表面への輸送を阻止し、それ故、宿主の細胞毒性T細胞による細胞の認識と溶解を阻止する。従って、腫瘍細胞中でのE19の調節された発現は、サイトカイン産生細胞を、サイトカインの発現により刺激された免疫応答の攻撃の間、細胞毒性T細胞から遮蔽することができるであろう。E19を発現するもの以外のすべての腫瘍細胞を根絶させるのに十分な時間の経過後、E19の発現をオフにし、次いで、これらの細胞を刺激された抗腫瘍免疫応答の餌食にする。
【0153】
良性前立腺肥大
−上記と同様に、自殺遺伝子をこの発明のレギュレーターにより調節することができ、レギュレーター自身は、例えば、前立腺特異的プロモーターにより制御される。
【0154】
この発明の調節系を用いて、制御された様式で、自殺遺伝子(例えば、アポトーシス遺伝子、TK遺伝子等)を発現させる能力は、この系の一般的安全性及び有用性を増す。例えば、所望の治療の終りに、自殺遺伝子の発現は、遺伝子治療用ベクターを有する細胞例えば生物学的に不活性な移植片、最初に意図した位置から散り広まった細胞等を排除することができる。更に、もし移植片が腫瘍性になったり副作用を有する場合には、自殺遺伝子の誘導によって、それらの細胞を迅速に除去することができる。1つの細胞中での1つより多くのTc制御される「オン」/「オフ」スイッチの利用は、治療上標的とする遺伝子(本明細書中に詳述)の調節と完全に独立に自殺遺伝子を調節することを可能にする。
【0155】
この発明の調節系は、更に、達成され得る遺伝子産物の発現のレベルに何らの融通性も提供しない制御されない構成的発現と対照的に、患者における遺伝子産物の治療上適当な発現レベルを確立する能力を提供する。遺伝子産物発現の生理学的に適当なレベルは、患者の特定の医療上の必要性に基づいて、例えば(上記の方法を用いて)関連遺伝子産物レベルをモニターする実験室試験に基づいて確立することができる。既に上述した医療上の例並びに遺伝子産物及びその遺伝子産物の投与のための遺伝子に加えて、所望の時間に所望のレベルで発現させることのできる他の治療上適当な遺伝子産物には:血友病患者におけるXIII及びIX因子(例えば、傷害の危険のある時間中例えばスポーツ中に、発現を高めることができる);糖尿病患者におけるインシュリン又はアミリン(患者の病気の状態、食事療法等によって必要ならとき);赤血球減少症を治療するためのエリスロポエチン(末期腎不全等で必要なとき);アテローム性動脈硬化症又は肝臓における遺伝子治療のための低密度リポ蛋白質レセプター(LDLr)又は超低密度リポ蛋白質(VLDLr)(例えば、エキソ・ビボ移植片を使用)が含まれる。中枢神経系の病気の治療への応用も含まれる。例えば、アルツハイマー病において、アセチルコリンレベルを回復するコリンアセチルトランスフェラーゼ(ChAT)、向神経性因子(例えば、NGF、BDNGF等)及び/又は補体インヒビター(例えば、sCR1、sMCP、sDAF、sCD59等)の「微細に切り替わる」発現は、達成され得る。かかる遺伝子産物は、例えば、その遺伝子産物を、この発明の系を用いて調節された様式で発現している移植された細胞により提供され得る。更に、パーキンソン病を、レボドーパ及びドーパミンレベルを上昇させるチロシンヒドロキシラーセ(TH)の「微細に切り替わる」発現により治療することができる。
【0156】
上記の蛋白質様遺伝子産物に加えて、機能的RNA分子(例えば、アンチセンスRNA及びリボザイム)である遺伝子産物を、制御された様式で、患者において、治療目的で発現させることができる。例えば、遺伝子の変異型と野生型とを識別するリボザイムをデザインすることができる。従って、「正しい」遺伝子(例えば、野生型p53遺伝子)を、その遺伝子の変異型(例えば、変異した内因性p53遺伝子)に特異的に調節されたリボザイムの導入と並行して細胞に導入して、その内因性遺伝子から発現された欠陥のあるmRNAを除去することができる。このアプローチは、この欠陥遺伝子からの遺伝子産物が外因性の野生型遺伝子の作用を邪魔する状況において特に有利である。
【0157】
この発明の調節系を用いる患者における遺伝子産物の発現は、テトラサイクリン又はそのアナログを用いて調節される。所望の作用部位への薬物の送達(例えば、発現を制御すべき遺伝子を含む細胞への送達)に適した任意の経路によって、かかる薬物を投与することができる。関係する特定の細胞型に依存して、投与の好適経路には、経口投与、静脈投与及び局所投与(全身投与の如何なる可能な副作用をも回避して、皮下の局所的移植片の細胞例えばケラチノサイトに達するための経皮的パッチを用いる)が含まれる。
【0158】
ある種の遺伝子治療状況においては、治療を受ける患者における望ましくない免疫反応を回避し又は阻止するためのステップを取ることが必要又は望ましいことがあり得る。治療用遺伝子産物を発現している細胞に対する反応を回避するためには、可能ならば、一般に、患者自身の細胞を用いて、治療用遺伝子産物を発現させる(患者の細胞のイン・ビボでの改変によるか又は患者から細胞を得、それらをエキソ・ビボで改変してその患者に戻すことによる)。同種又は異種細胞を用いて標的遺伝子産物を発現させる状況においては、この発明の調節系を、治療用遺伝子の調節に加えて用いて、細胞の免疫認識に関与する1つ以上の遺伝子を調節して外来細胞に対する免疫反応を阻止することができる。例えば、Tリンパ球による外来細胞の認識に関係する細胞表面分子を、例えば、その細胞表面分子をコードするmRNAを開裂させるリボザイムの外来細胞における調節された発現によって、治療用遺伝子産物の送達に用いる外来細胞の表面にてダウンレギュレートすることができる。この様式でダウンレギュレートされて望ましくない免疫応答を阻止し得る特に好適な細胞表面分子には、クラスI及び/又はクラスIIの主要組織適合性複合体(MHC)分子、補助刺激用分子(例えば、B7−1及び/又はB7−2)、CD40及び種々の「接着」分子例えばICAM−1又はICAM−2が含まれる。多数の遺伝子の独立的で統合的でない調節のためのここに記載のアプローチを用いて、宿主細胞内での細胞表面分子の発現のダウンレギュレートを、治療用遺伝子の発現のアップレギュレートと統合することができる。従って、治療が完了して、治療用遺伝子の発現を停止した後に、内因性の細胞表面分子の発現を正常に回復することができる。
【0159】
更に、上記のように、抗癌治療に関して、MHC抗原の発現をダウンレギュレートするウイルス性蛋白質(例えば、アデノウイルスE19蛋白質)を、宿主細胞において、この発明の系を望ましくない免疫学的反応を回避する手段として用いて調節することができる。
【0160】
治療用遺伝子産物を送達する外来細胞に対する免疫応答を回避し又は阻止することに加えて、ある種の状況においては、患者内で発現されたこの発明の調節系のある種の成分(例えば、ここに記載のレギュレーター融合蛋白質)に対する免疫応答を回避し又は阻止することも、これらの融合蛋白質は望ましくない免疫反応を刺激し得る非哺乳動物ポリペプチドを含んでいるので、必要であり得る。これに関して、レギュレーター融合蛋白質を、宿主において免疫応答を刺激する能力の減じたものをデザインし及び/又は選択することができる。例えば、このレギュレーター融合蛋白質において使用するための転写アクチベータードメインは、最小免疫原性を有するものを選択することができる。これに関して、単純ヘルペスウイルス蛋白質VP16の野生型転写活性化ドメインは、哺乳動物において免疫応答を刺激し得るので、イン・ビボで用いるための好適な転写活性化ドメインではありえない。或は、転写活性化ドメインを、ここに記載のように、患者におけるそれらの減じた免疫原性に基づいて用いることができる。例えば、宿主と同じ種の蛋白質の転写活性化ドメインは、好適である(例えば、ヒトにおける調節融合蛋白質の利用のためのヒト蛋白質由来の転写活性化ドメイン)。或は、この発明の調節融合蛋白質を改変して、患者におけるその免疫原性を、例えば、融合蛋白質のポリペプチド(例えば、Tetリプレッサー部分又は転写モジュレーター部分例えばVP16ポリペプチド)の内の1つ以上の優性のT細胞エピトープを同定し且つ改変するによって減じることができる。かかるT細胞エピトープは、標準的方法によって同定することができ、やはり標準的方法によって突然変異誘発により変えることができる。次いで、未改変の融合蛋白質と比較して患者における減少した免疫原性を示し、その元の転写調節能力を未だ保持している改変された形態のレギュレーター融合蛋白質を選択することができる。
【0161】
上記に加えて、患者における免疫応答を一般的又は特異的にダウンレギュレートするためのすべての慣用の方法を、免疫応答の阻止が望ましい状況において、この発明の調節系の利用と組み合わせることができる。一般的な免疫抑制剤例えばシクロスポリンA及び/又はFK506を、患者に投与することができる。或は、一層特異的な免疫抑制を可能にし得る免疫調節剤を用いることができる。かかる薬剤は、補助刺激用分子のインヒビター(例えば、CTLA4Ig融合蛋白質、可溶性CD4、抗CD4抗体、抗B7−1及び/又は抗B7−2抗体又は抗gp39抗体)を含み得る。
【0162】
最後に、ある種の状況においては、治療用遺伝子を発現する細胞のための送達用ビヒクルは、移植した細胞の免疫系への露出を最小にするものを選択することができる。例えば、細胞を、蛋白質(例えば、標的とする治療用遺伝子産物)の移植片からの拡散及びその移植片への栄養素及び酸素の拡散を可能にするが、免疫細胞の浸入を阻止し、それにより、移植された細胞が免疫系にさらされるのを阻止する細孔を有する生物学的に不活性のカプセル/生体適合性膜に移植することができる(隔絶された細胞移植に適用可能)。
【0163】
B.イン・ビトロでの蛋白質の生成:
標的とする蛋白質の大規模生産を、1)細胞中での発現に適した形態のこの発明のトランスアクチベーター融合蛋白質及び2)tetオペレーター配列に機能的に結合された標的蛋白質をコードする遺伝子を含むように改変したイン・ビトロで培養した細胞を用いて達成することができる。例えば、哺乳動物、酵母又はカビ細胞を、ここに記載のように、これらの核酸成分を含むように改変することができる。それらの改変した哺乳動物、酵母又はカビ細胞を、次いで、Tc又はそのアナログの存在下で標準的発酵技術によって培養して、遺伝子の発現を誘導し、標的蛋白質を生成することができる。従って、この発明は、標的蛋白質を単離するための製造方法を提供する。この方法においては、この発明のトランスアクチベーター融合蛋白質をコードする核酸及び少なくとも1つのtetオペレーター配列に機能的に結合された標的蛋白質をコードする核酸の両方を導入した宿主細胞(例えば、酵母又はカビ)を、標的蛋白質をコードするヌクレオチド配列の転写を刺激するテトラサイクリン又はテトラサイクリンアナログの存在下で、培養培地中で、生産的規模で生育させ、標的蛋白質を集めた宿主細胞から又は培養培地から単離する。標準的蛋白質精製技術を用いて、標的蛋白質を培地から又は集めた細胞から単離することができる。
【0164】
C.イン・ビボでの蛋白質の生成:
この発明は、動物例えばトランスジェニック家畜における標的蛋白質の大規模生産をも提供する。トランスジェニック技術の進歩は、トランスジェニック家畜例えばウシ、ヤギ、ブタ及びヒツジを作成することを可能にした(Wall,R.J.等(1992)J.Cell.Biochem.49:113-120;及びClark,A.J.等(1987)Trends in Biotechnology 5:20-24)。従って、この発明の誘導可能な調節系の成分をゲノム中に有するトランスジェニック家畜を作ることができ、ここに、標的蛋白質をコードする遺伝子は、少なくとも1つのtetオペレーター配列に機能的に結合する。遺伝子発現(従って、蛋白質の産生)を、Tc(又はそのアナログ)をトランスジェニック動物に投与することにより誘導する。蛋白質生成は、トランスアクチベーター融合蛋白質をコードする核酸を、そのトランスアクチベーターの発現をある種の細胞に限定する適当な組織特異的な調節要素に結合することによって特定の組織を標的とすることができる。例えば、乳腺特異的な調節要素例えばミルクホエープロモーター(米国特許第4,873,316号及び欧州出願公開第264,166号)をトランスアクチベータートランスジーンに結合して、そのトランスアクチベーターの発現を乳腺組織に限定することができる。従って、Tc(又はアナログ)の存在時には、標的蛋白質が、トランスジェニック動物の乳腺組織で産生される。この蛋白質は、このトランスジェニック動物の乳中に分泌されるようにデザインすることができ、所望であれば、次いで、その蛋白質をその乳から単離することができる。
【0165】
D.ヒトの病気のモデル動物:
この発明の転写アクチベーター及びインヒビター蛋白質を、単独又は組み合わせて用いて、動物の特定の遺伝子の発現を剌激し又は阻止して、ヒトの病気の病態生理を真似し、それにより、ヒトの病気のモデル動物を造ることができる。例えば、宿主動物において、ある病気に関係があると考えられる標的遺伝子を、1つ以上のtetオペレーター配列の転写制御下に置くことができる(例えば、本明細書に記載のように、相同組換えによって)。かかる動物を、トランスアクチベーター融合蛋白質及び/又はインヒビター融合蛋白質の1つ以上のトランスジーンを有する第2の動物と交配させて、テトラサイクリン調節される融合蛋白質遺伝子及びtet調節される標的配列の両方を有する子孫を造ることができる。これらの子孫中の標的遺伝子の発現を、テトラサイクリン(又はアナログ)を用いて調節することができる。例えば、標的遺伝子の発現を、転写インヒビター融合蛋白質を用いてダウンレギュレートして、遺伝子発現と病気との関係を調べることができる。かかるアプローチは、ここに記載のtet調節される系は、標的遺伝子の発現のレベル及びいつ遺伝子発現を下方又はアップレギュレートするかのタイミングの両方を制御することを可能にするので、病気の動物モデルを造るのに、相同組換えによる遺伝子「ノックアウト」を超えて有利であり得る。
【0166】
E.遺伝子クローニング及び他の利用のための安定な細胞系統の生成:
ここに記載の転写インヒビター系を用いて、遺伝子発現を「オフ」に維持し、それにより、さもなければ生成され得ない安定な細胞系統を作ることができる。例えば、自身に対して細胞毒性である遺伝子を有する安定な細胞系統は、その毒性遺伝子の発現の「漏れやすさ」のために、造るのが困難又は不可能であり得る。この発明の転写インヒビター融合蛋白質を用いてかかる毒性遺伝子の遺伝子発現を抑制することにより、毒性遺伝子を有する安定な細胞系統を造ることができる。次いで、かかる安定な細胞系統を用いて、かかる毒性遺伝子をクローン化することができる(例えば、Tc又はアナログを用いる制御された条件下での毒性遺伝子の発現を誘導する)。この発明の転写インヒビター系を適用することのできる遺伝子の発現、クローニングの一般的方法は、当分野で公知である(例えば、Edwards,C.P.及びAruffo,A.(1993)Curr.Opin.Biotech.4:558-563を参照)。その上、この転写インヒビター系を適用して、他の細胞における遺伝子の基礎発現を阻止して、安定な細胞系統例えば胎児幹細胞(ES)における該細胞系統を造ることができる。ES幹細胞に導入されたある種の遺伝子の残留の発現は、安定なトランスフェクトされたクローンの単離をできなくし得る。ここに記載の転写インヒビター系を用いるかかる遺伝子の転写の阻止は、この問題を克服するのに有用であり得る。
【0167】
利点:
この発明のトランスアクチベーター融合蛋白質を利用する誘導可能な調節系は、当分野の他の誘導可能な調節系の限界の多くを扱って克服する。例えば、この発明の転写アクチベーター融合蛋白質の非常に高い細胞内濃度は、遺伝子発現の効率的な調節に必要でない。更に、遺伝子発現は、誘導剤を除去するよりも加えることにより誘導されるので、この発明の系における誘導の動力学は、誘導剤の除去速度によって制限されず、それ故、典型的に一層早い。更に、誘導剤は、遺伝子転写が誘導されるときに存在するだけであり、それにより、遺伝子発現をオフに維持するための薬剤の連続的存在の必要性が回避される。
【0168】
真核細胞における転写を阻止するためのこの発明の転写インヒビター融合蛋白質の利用は、真核細胞における転写を阻止する原核生物のリプレッサー(例えば、TetR、lacR)の単独での利用を超える利点をも提供する。この発明のインヒビター融合蛋白質は真核生物の転写サイレンサードメインを含んでいるので、これらの融合蛋白質は、真核細胞における転写の抑制において一層効率的であり、従って、潜在的に、効率的な抑制のために一層低い細胞内濃度しか必要とせず、「漏れ」の可能性は一層低い。更に、tetO配列の内因性遺伝子の調節領域への挿入により、この発明の転写インヒビター融合蛋白質を用いて、内因性遺伝子の構成的及び/又は組織特異的発現を下方制御することができる。
【0169】
更に、lac系(例えば、Labow 等(1990)Mol.Cell.Biol.10:3343-3356; Baim等(1991)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:5072-5076)の種々のバージョン{それらは、誘導剤(IPTG)の負の特性により制限され及び/又は遺伝子発現を誘導するために温度を上げる必要があること(これは、多面発現性効果を誘出し得る)により制限される}と対照的に、この発明の系において用いる誘導剤(Tc又はそのアナログ)は、多くの有利な特性を有する:1)Tc及びそのアナログはTetRに対する高いアフィニティー及び真核細胞に対する低い毒性を示し、従って、細胞成長又は形態に影響しない濃度で遺伝子誘導に用いることができる;2)RetR結合を保持するが抗生物質活性の減じたTcアナログは、存在し且つ誘導剤として用いることができ、それにより、Tcの抗生物質特性に由来する可能な副作用を回避する;3)Tc及びTcアナログの薬物動力学特性は、迅速且つ効率的な取り込み及び生理学的バリヤー例えば胎盤又は血液−脳関門の透過を可能にする;及び4)種々の誘導能力を有するTcアナログは、遺伝子発現のレベルの調節を可能にする。
【0170】
従って、この発明は、細胞毒性及び誘導指数の限度を伴わない遺伝子転写の迅速な活性化を可能にする誘導可能な調節系を提供する。誘導による遺伝子発現の増加は、典型的には、1000〜2000倍であり、約20,000倍の高さまで可能である。或は、低レベルの遺伝子誘導(例えば10倍)は、どの誘導剤を用いるかに依存して達成することができる。この系は、広い範囲の応用において利用することができる。これらの応用には、遺伝子治療、培養細胞又はトランスジェニック家畜における蛋白質の大規模生産、及び例えば細胞の発生と分化に関する遺伝子機能の研究が含まれる。更に、この発明の新規な転写ユニットは、この発明の調節成分を用いる多数の遺伝子の発現の統合的又は独立的調節を可能にする。
【0171】
この発明を、更に、下記の実施例により説明するが、これらは制限するものと解釈すべきではない。この出願中で引用されているすべての参考文献、特許及び公開された特許出願の内容を、参考として本明細書中に援用する。
【実施例】
【0172】
実施例1:変異したTetリプレッサーの選択及びテトラサイクリン誘導可能な転写アクチベーターの構築:
テトラサイクリンの不在時ではなく存在時に標的DNAと結合する「リバース」Tetリプレッサーを、本質的にHecht,B.等(1993)J.Bacteriology 175:1206-1210により記載されたように化学的突然変異誘発及び選択により生成した。野生型のTn10由来のTetリプレッサーをコードする一本鎖DNA(コード鎖及び非コード鎖)を、亜硝酸ナトリウムを用いて化学的に突然変異誘発した。一本鎖DNA(40μlトリスEDTA緩衝液中の40μg)を、10μlの2.5M 酢酸ナトリウム(pH4.3)及び50μlの0.25〜2M硝酸ナトリウムと共に45〜60分間室温で混合した。突然変異誘発後、逆転写酵素を用いて又は、TaqDNAポリメラーゼを用いるポリメラーゼ連鎖反応を用いる増幅により相補鎖を合成した。この突然変異誘発手順は、DNA中に多くの突然変異を生ずるので、各々約200塩基対の遺伝子の3つの断片を、別々に、組換え発現ベクター中のwtTetリプレッサー遺伝子中にサブクローン化して、野生型遺伝子の対応する部分を置き換えた。これは、変異したTetリプレッサー遺伝子のプールを造った(ここに、各遺伝子は、殆ど、この遺伝子の200塩基対の変異断片中に単一の突然変異を有した)。
【0173】
この変異したTetリプレッサーのプールを、Tetリプレッサーと大腸菌WH207(λWH25)株(この株の構築は、Wissmann,A.等(1991)Genetics 128:225-232 に詳細に記載されている)を用いる同種のオペレーターとの間の機能的相互作用について正に選択する遺伝学的アッセイにてスクリーニングした。この大腸菌株において、tetオペレーターは、発散的に配置されたβ−ガラクトシド(lacZ)及びLacリプレッサー(lacI)遺伝子の発現を指示し且つlac調節領域は、ガラクトキナーゼ(galK)遺伝子の発現を指示する。Tetリプレッサーのtetオペレーターへの結合は、lacI及びlacZ遺伝子の転写をオフにする。Lacリプレッサーの不在は、galK遺伝子の発現を可能にし、それは、この大腸菌株がガラクトースを唯一の炭素源として利用することを可能にし、それは1つのマーカーとして働く。lacZ-の表現型は、第2のマーカーとして働く。従って、tetオペレーターに結合するTetリプレッサーを含む細菌は、Gal+、lacZ-の表現型を有する。野生型Tetリプレッサーを含む細菌は、テトラサイクリンの不在時にGal+,lacZ-の表現型を有する。変異した「リバース」Tetリプレッサー(rTetR)を、テトラサイクリンの存在下でのGal+、lacZ-の表現型に基づいて選択した。
【0174】
rTetR変異体のヌクレオチド及びアミノ酸配列を、それぞれ、SEQ ID NO:1(ヌクレオチド1〜621位)及び2(アミノ酸1〜207位)に示す。このrTetR変異体の配列分析は、下記表1のアミノ酸及びヌクレオチドの変化を示した:
【0175】
【表1】

2つの更なる突然変異は、アミノ酸の交換を生じなかった:
【0176】
【表2】

【0177】
rTetR変異体を転写アクチベーターに変換するためには、rTetRのアミノ酸3〜135をコードする399塩基対のXbaI/Eco47III断片(即ち、変異した領域を包含する)を発現ベクターpUHD15−1の対応する制限断片と交換してpUHD17−1を造った。pUHD15−1において、野生型TetRをコードするヌクレオチド配列を、単純ヘルペスウイルスVP16のC末端の130アミノ酸をコードするヌクレオチド配列にイン・フレームで結合する。これらのトランスアクチベーター配列は、上流側で、CMVプロモーター/エンハンサーと隣接し、下流側で、SV40ポリ(A)部位と隣接する(pUHD15−1の構築は、米国特許出願第08/076,726号及びGossen,M.及びBujard,H.(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:5547-5551に一層詳細に記載されている)。従って、pUHD17−1において、リバースTetR変異体をコードするヌクレオチド配列を、イン・フレームで、VP16配列に結合して、リバースTc制御されるトランスアクチベーター(ここでは、tTARと呼ぶ)を造る。このrTetRの変異した領域の、TetRの野生型領域との類似の交換を、プラスミドpUHD152−1を用いて実施したが、それは、Tetリプレッサーをコードするヌクレオチド配列の5’末端にイン・フレームで結合された核局在化シグナルをコードするヌクレオチド配列を更に含むことを除いては、pUHD15−1と同じである。核局在化シグナルのアミノ酸配列はMPKRPRP(SEQ ID NO:5)であり、それは、TetRの第2位アミノ酸セリンに結合する。その結果生成した、核局在化シグナルを含むリバースTc制御されるトランスアクチベーター(ここでは、ntTARと呼ぶ)をコードする発現ベクターをpUHD172−1と命名した。
【0178】
実施例2:tTARにより転写のテトラサイクリン誘導される転写:
一時的トランスフェクション:
これらのpUHD17−1及びpUHD172−1発現ベクターを、最小hCMVプロモーター及びルシフェラーゼ遺伝子の上流に8量体のtetオペレーターを融合したレポータープラスミドpUHC13−3と共に、標準的リン酸カルシウム法により一時的にHeLa細胞中にトランスフェクトした(このレポータープラスミドは、米国特許出願第08/076,726号及びGossen,M.及びBujard,H.(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:5547-5551に詳細に記載されている)。これらのトランスフェクトされた細胞のテトラサイクリン(又はそのアナログ)の存在時又は不在時における37℃で20時間に及ぶインキュベーションの後に、ルシフェラーゼ活性を次のように測定した:イーグル最小必須培地にて、35mm皿中で約80%集密に成長した細胞を2mlのリン酸緩衝塩溶液で洗ってから、それらを、25mMトリスホスフェート(pH7.8)/2mMジチオスレイトール/2mMジアミノシクロヘキサン四酢酸/10%グリセロール/1%トリトンX−100にて、室温で10分間、溶解させた。この溶解物を、培養皿からかき取ってエッペンドルフ遠心機にて10秒間遠心分離した。次に、上清のアリコート(10μl)を、250μlの25mMグリシルグリシン/15mMMgSO4/5mM ATPと混合して、ルシフェラーゼ活性を、LumatLB9501(Berthold,Wildbad,F.R.G.)を積分モード(10秒)で用いてアッセイした。D−ルシフェリン(L6882、Sigma)を0.5mMで用いた。ルシフェラーゼ遺伝子を含まないHeLa細胞の抽出物にて測定したバックグラウンドシグナルは、機器のバックグラウンド(80〜120相対的光単位(rlu)/10秒)と区別できなかった。この溶解物の蛋白質含量を、Bradford(Bradford,M.M.(1976)Anal.Biochem.72:248-254)に従って測定した。tTAR又はntTARの何れかをコードするプラスミドでトランスフェクトした細胞は、テトラサイクリンの存在下で増大したレベルのルシフェラーゼ活性を示した。この効果は、アンヒドロテトラサイクリン(ATc)をテトラサイクリンの代わりに用いたときに、一貫して明白であった。
【0179】
安定なトランスフェクション:
この一時的トランスフェクション分析の後に、細胞の安定なトランスフェクションのための発現ベクターを調製した。pSV2neo由来のネオマイシン耐性カセット(Southern,P.J.及びBerg.P.(1982)J.Mol.Appl.Genet.1:327-341に記載)を、トランスアクチベーター発現ベクターpUHD17−1及びpUHD172−1にインテグレートして、それぞれ、pUHD17−1neo及びpUHD172−1neoを生成した。ntTARをコードしているpUHD172−1neoは、標準的技術によって、HeLa細胞中に安定にインテグレートされた。10個のG418耐性細胞のコロニーを、最小CMVプロモーター及びtetオペレーターの制御下のルシフェラーゼ遺伝子を有するpUHD13−3での一時的スーパートランスフェクションにより、それらの表現型について分析した。3つのクローンHR4、HR5及びHR10が、ATcの存在時に、ルシフェラーゼ活性の強い増加を示した。これらのクローンの内から、HR5を、更なる実験用に選択した。
【0180】
ntTAR及びtetオペレーター結合されたルシフェラーゼレポーター遺伝子の両方についての安定なトランスフェクタントを造るために、HR5細胞を、pUH13−3及びハイグロマイシン耐性をコードするpHMR272(Bernhard,H-U.等(1985)Exp.Cell Res.158:237-243参照)で同時トランスフェクトし、ハイグロマイシン耐性クローンを選択した。類似の実験において、HR5細胞を、pUH13−7及びpHMR272で同時トランスフェクトした。pUH13−7は、最小CMVプロモーターではなくて8量体のtetO配列と隣接したHSVtkプロモーターの+19〜−37位に及ぶ最小プロモーター配列を含む。21個のハイグロマイシン耐性クローンの内の10個が、Tc又はドキシサイクリン(Dc)の培養培地への添加に際して、誘導可能なルシフェラーゼ活性を示した。最小CMVプロモーターに結合されたルシフェラーゼレポーター遺伝子を含むクローンは、HR5−Cと呼び、最小tkプロモーターに結合されたルシフェラーゼレポーター遺伝子を含むものはHR5−Tと呼ぶ。
【0181】
ntTAR依存性レポーターユニットで安定にトランスフェクトされ且つ以前にテトラサイクリンに応答することが示されたHR5クローン6個を、1μg/mlのドキシサイクリンの不在又は存在下で、並行して、生育させた。約3×104細胞を、各35mm皿(各クローンにつき4皿)中にプレートした。60時間生育させた後に、細胞を集め、その抽出物のルシフェラーゼ活性を(抽出蛋白質1μg当りの相対的光単位(rlu)にて)測定した。表3に示したように、6個のクローンの絶対発現レベルは、等級の3オーダーを超えるルシフェラーゼ遺伝子発現の活性化を、ntTAR調節系を含む二重の安定な細胞系統の幾つかにおいて達成していることを示している。
【0182】
一層高い誘導率(例えば、発現の20,000倍増)でさえ、もし誘導剤を単に培養培地に加えるのではなく、誘導前にそれらの細胞を洗ってから、誘導剤を含む新鮮な培養培地に再プレートするならば、達成し得るであろうということに注意すべきである。
【0183】
【表3】

【0184】
種々のテトラサイクリンによるルシフェラーゼ活性の誘導
テトラサイクリン及び幾つかの異なるテトラサイクリンアナログの、HR5−C11細胞においてルシフェラーゼ活性を誘導する能力を試験した。HR5−C11細胞を約3×104細胞/35mm皿(約80%集密度)でプレートした。細胞の完全な接着の後に、次のテトラサイクリン類を、1μg/mlの濃度で、培地に加えた:テトラサイクリン−HCl(Tc)、オキシテトラサイクリン−HCl(OTc)、クロロテトラサイクリン(CTc)、アンヒドロテトラサイクリン−HCl(ATc)及びドキシサイクリン(Doxy)。これらの化合物は、ミズーリ、St.Louis在、Sigma Chemical Co.から市販されているものであり、1μg/mlの濃度の水溶液にて維持した。抗生物質の不在(−)にて生育させた細胞は、対照として働いた。3日後、細胞を集め、その抽出物のルシフェラーゼ活性及び蛋白質含量を測定した。その結果を、図1に棒グラフで示す。この図中の各棒(箱型及び平行線をひいたもの)は、単一の培養皿の相対的ルシフェラーゼ活性(抽出した蛋白質の量に対して標準化したもの)を表している。テトラサイクリンなしで生育させた2つのプレートから得たルシフェラーゼ活性の平均を1として定義した。Tc、CTc及びOTcは、ルシフェラーゼ活性の控え目な刺激を示した。対照的に、ATcとDoxyは、ルシフェラーゼ活性を、それぞれ、約1000及び1500倍刺激した。
【0185】
HR5−C11細胞におけるドキシサイクリンに対するルシフェラーゼ活性の用量−応答
種々のテトラサイクリンの誘導能力を試験する上記の実験は、ドキシサイクリンが調べたテトラサイクリン類の最も強力なエフェクターであることを示した。それ故、ドキシサイクリンを、用量−応答を定量的に分析するために選択した。HR5−C11細胞を、種々の濃度のドキシサイクリンとインキュベートして、ルシフェラーゼ活性を測定した。3つの独立の実験のデータを、図2に示す。培養培地中で10ng/mlより低濃度では、ドキシサイクリンは、ルシフェラーゼ活性の誘導において効果がない。しかしながら、その濃度が10ng/mlより高くなると、ルシフェラーゼの発現において殆ど直線的増加が認められる。最大の活性化は、1μg/mlにて達成された。3μg/mlより高濃度では、ドキシサイクリンは、MTTアッセイで測定して、HeLa細胞に対する僅かな成長阻害効果を示した。
【0186】
ntTAR系の誘導の動力学
ドキシサイクリン誘導のntTAR媒介の遺伝子発現の誘導の動力学を調べるために、HR5−C11細胞におけるルシフェラーゼ活性の誘導のタイムコースを、培地へのドキシサイクリンの添加(終濃度1μg/ml)の後にモニターした。細胞を、ドキシサイクリンの存在下で培養し、様々な時間間隔の後に、それらの細胞を集めて、上記のようにルシフェラーゼ活性を測定した。図3に示すように、Doxyとの5.5時間のインキュベーションの後に、ルシフェラーゼ活性の100倍の誘導が認められた。完全に誘導したレベルは、Doxyとの24時間未満のインキュベーションにて達成された。従って、これらの結果は、遺伝子発現の誘導は、細胞を誘導剤にさらした後に、迅速に生じるということを示す。
【0187】
実施例3:Tc制御される転写アクチベーターによる2つのヌクレオチド配列の発現の統合的調節:
2つのヌクレオチド配列の統合的、二方向性転写のための組換え発現ベクターを構築した(それは、次のものを5’から3’の方向で含む:ルシフェラーゼ遺伝子、第1の最小プロモーター、7つのtetオペレーター配列、第2の最小プロモーター及びLacZ遺伝子)。この構築物を、図6に図解する。この構築物においては、ルシフェラーゼ及びLacZ遺伝子は、それらがtetオペレーター配列に関して反対方向に転写されるように向けられている(即ち、このルシフェラーゼ遺伝子は、5’から3’の向きで、DNAの下側の鎖から転写され、LacZ遺伝子は、5’から3’の向きで、DNAの上側の鎖から転写される)。このルシフェラーゼ遺伝子の後ろには、SV40ポリアデニル化シグナルが続き、LacZ遺伝子の後ろには、β−グロビンポリアデニル化シグナルが続く。
【0188】
この構築物を、野生型Tetリプレッサー−VP16融合蛋白質を発現するHeLa細胞株HtTA−1細胞中にトランスフェクトした(tTAと呼ぶ。Gossen,M.及びBujard,H.(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:5547-5551に記載されている)。このtTA融合蛋白質は、Tc(又はアナログ)の不在時にtetオペレーター配列に結合するが、Tc(又はアナログ)の存在時には結合しない。この構築物を、ハイグロマイシン耐性を与えるプラスミドと共に、HtTA−1細胞に同時トランスフェクトし、安定にトランスフェクトされたクローンをそれらのハイグロマイシン耐性の表現型に基づいて選択した。選択したハイグロマイシン耐性(Hygrr)クローンを、ルシフェラーゼ及びβ−ガラクトシダーゼ活性について試験した。3つのすべてのマーカー(Hygrr、luc+、β−gal+)が陽性のクローンを、次いで、ルシフェラーゼ及びβ−ガラクトシダーゼ活性のテトラサイクリン依存性の同時調節について、それらのクローンをテトラサイクリン量を増しながら培養してルシフェラーゼ及びβ−ガラクトシダーゼ活性を測定することによって試験した。クローンHt1316−8/50を用いてのかかる実験の結果を、図8に示す。テトラサイクリンの不在時には(この場合は、tTAはtetオペレーターに結合して遺伝子発現を活性化することができる)、ルシフェラーゼ及びβ−ガラクトシダーゼ活性が検出される。増大する量のテトラサイクリンの存在下で、ルシフェラーゼ及びβ−ガラクトシダーゼ活性は、統合的且つ同等にダウンレギュレートされる。このデータは、2つの遺伝子の発現は、テトラサイクリン制御されるトランスアクチベーターにより、2つの遺伝子を同じtetオペレーター配列に機能的に結合することにより、統合的に調節され得ることを示している。
【0189】
実施例4:TetR及びKrueppelサイレンサードメインを含むテトラサイクリン調節される転写インヒビター融合蛋白質の構築:
この発明のテトラサイクリン調節される転写インヒビター(テトラサイクリン制御されるサイレンサードメイン又はtSDとも呼ぶ)をコードする発現ベクターを構築するために、転写サイレンサードメインをコードする核酸断片を、野生型又は改変(即ち、変異)TetRをコードするヌクレオチド配列を含む発現ベクター中に、そのサイレンサードメインをコードする配列がTetRコード配列とイン・フレームでライゲートされるようにライゲートする。プラスミドpUHD141sma−1は、野生型Tn10由来のTetリプレッサーをコードするヌクレオチド配列を含む(このヌクレオチド及びアミノ酸配列を、それぞれ、SEQ ID NO:16及び17に示す)。pUHD141sma−1において、TetRコード配列は、その5’末端においてCMVプロモーターと、その直ぐ3’側で、更なる核酸断片を導入することのできるポリリンカーを造るヌクレオチド配列に結合される。このポリリンカー領域のヌクレオチド配列は:TCC CCG GGT AAC TAA GTA AGG ATC C(SEQ ID NO:24)(ここに、TCC CCG GGT ACCは、Tetの205〜208アミノ酸残基即ちSer−Gly−Ser−Asnをコードする)である。このポリリンカー領域は、PspAI(CCC GGG)及びBamHI(GGA TCC)用の制限エンドヌクレアーゼ部位を含んでいる。ポリリンカー領域の下流において、このプラスミドは、SV40由来のポリアデニル化シグナルを含む。pUHD141sma−1ベクターを、図11に図式的に図解する。
【0190】
TetRとキイロショウジョウバエKrueppel(Kr)蛋白質由来の転写サイレンサードメインとの間の融合蛋白質をコードする発現ベクターを構築するには、Kr由来のサイレンサードメインをコードする核酸断片を、KrのcDNAをテンプレートとして用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅する。KrのC末端の64アミノ酸をコードする核酸断片を増幅するオリゴヌクレオチドプライマーをデザインする(C64KRと呼ぶ)。この領域は、天然の蛋白質の403〜466位のアミノ酸に対応する。C64KRのヌクレオチド及びアミノ酸配列を、それぞれ、SEQ ID NO:20及びSEQ ID NO:21に示す。PCRプライマーを、増幅された断片がその5’及び3’末端に制限エンドヌクレアーゼ部位を含むように制限エンドヌクレアーゼ部位を含むようにデザインする。増幅された断片のポリリンカー中へのイン・フレームの直接的ライゲーションを与えるpUHD141sma−1のポリリンカー内に含まれる制限エンドヌクレアーゼ部位を選択する。例えば、PspAI部位(CCC GGG)をC64KRをコードする断片の5’末端に組み込み且つBamHI部位をその断片の3’末端に組み込むPCRプライマーをデザインする。標準的PCR反応の後に、増幅した断片及びpUHD141−sma1を、PspAI及びBamHIで消化する。この増幅した断片を、次いで、標準的ライゲーション条件を用いて、pUHD141−sma1のポリリンカー部位に直接ライゲートして発現ベクタ−pUHD141kr−1を造る。標準的技術を用いて、所望のプラスミドを単離してその構築を確認する。pUHD141kr−1の構築を、図11に、図式的に解説する。
【0191】
この生成したpUHD141kr−1発現ベクターは、Krのアミノ酸の(C64KR)403〜466位にイン・フレームで結合された野生型TetRのアミノ酸1〜207位を含む融合蛋白質をコードするヌクレオチド配列を含む。この融合蛋白質の接合点を横切るヌクレオチド及びアミノ酸配列は:AGT GGG TCC CCG GGT GAC ATG GAA(SEQ ID NO:25)及びSer−Gly−Ser−Pro−Gly−Asp−Met−Glu(SEQ ID NO:26)である。Ser−Gly−Serは、TetRのアミノ酸205〜207に対応し、Pro−Glyは、ポリリンカーによりコードされ、そしてAsp−Met−Gluは、C64KRのアミノ酸403〜405に対応する。
【0192】
同様に、変異したTetR(Tcの存在時にのみtetOに結合する)とC64KRとの融合蛋白質をコードする発現ベクターを、変異したTetRをコードするヌクレオチド配列(このヌクレオチド配列及びアミノ酸配列を、それぞれ、SEQ ID N0:18及び19に示す)をpUHD141−sma1中の野生型TetR配列の代わりに用いて、上記のように構築することができる。
【0193】
TetR−Kr融合蛋白質をコードする発現ベクター(例えば、pUHD141kr−1)を、実施例2に記載の宿主細胞に一時的に又は安定にトランスフェクトして、その宿主細胞においてTetR−Kr融合蛋白質を発現させる。1つ以上のtetO配列、最小プロモーター及びレポーター遺伝子例えばルシフェラーゼを含むレポーター遺伝子構築物も又、実施例2に記載の細胞にトランスフェクトする。(レポーター遺伝子構築物は、米国特許出願第08/076,726号及びGossen,M.及びBujard,H.(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:5547-5551)。Tc又はアナログ例えばドキシサイクリンの増加する濃度の存在時又は不在時におけるルシフェラーゼ活性を、実施例2に記載のように測定する。上記の野生型TetR−Kr融合蛋白質について、この融合蛋白質の転写阻止活性を、ドキシサイクリンの存在時(抑制なし)におけるルシフェラーゼ活性の量をドキシサイクリンの不在時(抑制あり)のルシフェラーゼ活性の量と比較することにより測定する。この融合蛋白質の転写阻止活性は又、更なる正の調節要素(例えば、エンハンサー配列)を含むレポーター遺伝子構築物を用いることにより発現の一層高い基礎レベル(即ち、ドキシサイクリンの存在時における一層高レベルの発現)を示すレポーター遺伝子構築物を用いて試験することもできる。
【0194】
実施例5:TetR及びv−erbAサイレンサードメインを含むテトラサイクリン調節される転写インヒビター融合蛋白質の構築:
TetRとv−erbAオンコジーン産物由来の転写サイレンサードメインとの間の融合蛋白質をコードする発現ベクターを構築するために、v−erbA由来のサイレンサードメインをコードする核酸断片を、実施例4に記載のように、イン・フレームで、pUHD141sma−1中にライゲートする。pUHD141sma−1中へのライゲーションに適したv−erbAサイレンサードメインをコードする核酸断片を、v−erbAのcDNAをテンプレートとして用いるポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅する。天然のv−erbA蛋白質のアミノ酸364〜635をコードする核酸断片を増幅するオリゴヌクレオチドプライマーをデザインする。v−erbAのこの領域のヌクレオチド及びアミノ酸配列を、それぞれ、SEQ ID NO:22及びSEQ ID NO:23に示す。実施例4に記載したように、PCRプライマーを、増幅されたv−erbA断片が5’及び3’末端に制限エンドヌクレアーゼ部位を含む(例えば、5’末端にPspAI及び3’末端にBamHI)ようにデザインする。標準的PCR反応の後に、増幅した断片及びpUHD141−sma1を、PspAI及びBamHIで消化する。この増幅した断片を、次いで、標準的ライゲーション条件を用いて、pUHD141−sma1のポリリンカー部位に直接ライゲートして、発現ベクターpUHD141kr−1を造る。標準的技術を用いて、所望のプラスミドを単離してその構築を確認することができる。pUHD141erb−1の構築を、図11に、図式的に図解する。
【0195】
その結果生成したpUHD141erb−1発現ベクターは、v−erbAのアミノ酸364〜635にイン・フレームで結合された野生型TetRを含む融合蛋白質をコードするヌクレオチド配列を含む。この融合蛋白質の接合点を横切るヌクレオチド及びアミノ酸配列は:AGT GGG TCC CCG GGT CTG GAC GAC(SEQID NO:27)及びSer−Gly−Ser−Pro−Gly−Leu−Asp−Asp(SEQ ID NO:28)である。Ser−Gly−Serは、TetRのアミノ酸205〜207、Pro−Glyは、ポリリンカーによりコードされ、そしてLeu−Asp−Aspは、v−erbAサイレントドメインのアミノ酸364〜366に対応する。
【0196】
実施例4に記載のように、変異したTetR(Tcの存在時にのみtetOに結合する)及びv−erbAサイレンサードメインの融合蛋白質をコードする発現ベクターを、pUHD141−sma1中の野生型TetR配列の代わりに変異したTetRをコードするヌクレオチド配列(このヌクレオチド及びアミノ酸配列を、それぞれ、SEQ ID NO:18及び19に示す)を用いて、上記のように構築することができる。
【0197】
TetR−v−erbA融合蛋白質の宿主細胞における発現及びその融合蛋白質の転写阻止活性のアッセイは、TetR−Kr融合蛋白質について実施例4に記載した通りである。
【0198】
実施例6:tTARによるトランスジェニック動物中での遺伝子発現の調節:
イン・ビボで遺伝子発現を調節するtTARの能力を試験するため、tTAR発現構築物又は機能的にtetオペレーターに結合されたレポーター遺伝子の異種染色体挿入を含むマウスのトランスジェニック系統を構築した。tTAR発現構築物又はtetO結合されたレポーター遺伝子を含む単一トランスジェニック系統を、次いで、交雑させて、二重トランスジェニック子孫を同定した。この二重トランスジェニック動物を、次いで、レポーター遺伝子の発現をテトラサイクリン依存様式で調節するtTARの能力について特性決定した。この例は、tTARが、動物の組織において、tetオペレーターに機能的に結合された遺伝子の発現を、その動物へのテトラサイクリン(又はアナログ)の投与に際して、イン・ビボで、効果的に刺激するが、テトラサイクリン又はアナログの不在時には、tetO結合された遺伝子の発現は、バックグラウンドレベルのままであることを示す。これらの結果は、ここに記載のテトラサイクリン制御される転写調節系が、イン・ビトロの細胞株に加えて、動物において効果的に機能することを示す。
【0199】
hCMV−tTAR発現ユニットについてのトランスジェニックマウスの生成:
tTA蛋白質を発現するマウスを、プラスミドpUHG17−1から切り出した2.7kbのXhoI−PfmI断片の受精卵母細胞への前核注入により得た。このDNA断片は、tTAR遺伝子(SEQ ID NO:1)を、ヒトCMV IEプロモーター(+75〜−675位)及びイントロンを含むウサギβ−グロビンポリアデニル化部位の転写制御下で含んだ。このヒトCMV IEプロモーターは、tTARをコードするDNA配列の染色体インテグレーションが起きたすべての細胞における変異したtetR−VP16融合蛋白質の発現を与える構成的プロモーターである。DNAを、標準的技術により、約5ng/μlの濃度で、受精卵母細胞に注入した。これらの注入した受精卵母細胞から、標準的手順に従って、トランスジェニックマウスを生成した。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)及びサザーンハイブリダイゼーションを用いてトランスジェニック創出マウスを分析して、これらのマウスの染色体DNA中のtTARトランスジーンの存在を検出した。2つのトランスジェニックマウス系統CR3及びCR4を同定し、tetO配列の制御下のルシフェラーゼレポーター遺伝子を有する別のトランスジェニックマウス系統と交雑させた(以下で詳述)。
【0200】
hCMV*-1ルシフェラーゼレポーターユニットについてのトランスジェニックマウスの生成:
hCMV*-1lucレポーター遺伝子発現ユニットを有するマウスを、プラスミドpUHC13−3から切り出した3.1kbのXhoI−EaeI断片の受精卵母細胞への前核注入により生成した。このDNA断片は、テトラサイクリン応答性PhCMV*-1プロモーター(SEQ ID NO:8)及びイントロンを含むSV40t初期ポリアデニル化部位の転写制御下のルシフェラーゼ遺伝子を含む。約5ng/μlの濃度でDNAを卵母細胞に注入し、標準的手順に従って、トランスジェニックマウスを生成した。サザーンハイブリダイゼーションを用いて、トランスジェニック創出マウスを分析して、これらのマウスの染色体DNA中にPhCMV*-1lucトランスジーンの存在を検出した。tetO結合されたルシフェラーゼレポーター遺伝子L7についてのトランスジェニックマウス系統を、tTARトランスジェニック系統CR3及びCR4と交雑させた(以下で、詳述)。
【0201】
hCMV*-1luc及びPhCMVtTARについてのトランスジェニックマウスの生成:
tTARを発現するか又はPhCMV*-1lucを有する単一トランスジェニックマウスを構築したので、tTA発現ベクター及びルシフェラーゼレポーターユニットの両方を有する二重トランスジェニックマウスを、これら2つのトランスジーンの一方についてのヘテロ接合トランスジェニックマウスの交雑により得た。標準的スクリーニング(例えば、PCR及び/又はサザーンハイブリダイゼーション)により二重トランスジェニック動物を同定し、それらのマウスの染色体DNA中にtTARトランスジーン及びPhCMV*-1lucトランスジーンの存在を検出した。
【0202】
マウス由来の組織試料におけるルシフェラーゼ活性の誘導及び分析:
経口投与のために、テトラサイクリン又はその誘導体ドキシサイクリンを、これらの抗生物質の苦味を隠すための5%シュークロースを加えた200μg/mlの濃度の飲料水にて与えた。泌乳マウスについては、乳を介して幼若動物に十分取り込まれることを確実にするために、濃度を、10%シュークロースを加えた2mg/mlとした。
【0203】
ルシフェラーゼ活性を分析するために、マウスを頚椎脱臼により殺し、組織試料を、500μlの溶解緩衝液(25mMトリスホスフェート(pH7.8)/2mM DTT/2mM EDTA/10%グリセロール/1%トリトンX100)を含む2mlチューブにて、Ultra−Turraxを用いてホモジェナイズした。このホモジェネートを液体窒素にて凍結させ、解凍後に、5分間15,000gにて遠心分離した。その上清2〜20μlを、250μlのルシフェラーゼアッセイ用緩衝液(25mMグリシルグリシン(pH7.5)/15mM MgSO4/5mM ATP)と混合し、Berthold LumatLB9501を用いて、100μlの125μMルシフェリン溶液を注入した後にルシフェラーゼ活性を10秒間測定した。このホモジェネートの蛋白質含量をBertholdアッセイを用いて測定し、ルシフェラーゼ活性を、蛋白質総量(μg)当りの相対的光単位(rlu)として計算した。
【0204】
結果:
hCMV−tTARトランスジーンを有する2系統(CR3及びCR4)からのマウスを、PhCMV*-1lucについてのトランスジェニック系統L7からのマウスと交配させた。L7系統は、種々の器官において、非常に低いが検出可能なルシフェラーゼ活性のバックグラウンドを示し、これは、おそらく、インテグレーション部位の位置効果によるものである。このL7単一トランスジェニックマウスの種々の組織におけるバックグラウンドのルシフェラーゼ活性を、図12にグラフ表示し、試験した各組織について、右側のチェックのカラムにより示した(各カラムは、一匹の動物からの結果を示している)。テトラサイクリンアナログのドキシサイクリンの不在時(即ち、非誘導状態)におけるC3/L7二重トランスジェニックマウスの種々の組織におけるルシフェラーゼ活性を、図12にグラフ表示し、試験した各組織について、中央の暗いカラムにより示した。ドキシサイクリンの存在時(即ち、誘導状態)におけるC3/L7二重トランスジェニックマウスの種々の組織におけるルシフェラーゼ活性を、図12にグラフ表示し、試験した各組織について、左側の明るいカラムにより示した。
【0205】
ルシフェラーゼ活性は、試験した二重トランスジェニックマウスの7つの組織(膵臓、腎臓、胃、筋肉、胸腺、心臓及び舌)において検出可能であった。これらの二重トランスジェニックマウスにおける活性化された(即ち、ドキシサイクリンの存在時の)ルシフェラーゼレベルの組織パターンは、文献に報告されたhCMV IEプロモーターの発現パターンと類似していた。これは、tTARにより調節されるルシフェラーゼレポーター遺伝子の発現と一致する(それは、マウスにおいて、hCMV IEプロモーターの制御下で発現される)。レポーター遺伝子の誘導のレベルは、試験した異なる組織間で変化した。最大で100,000倍の調節率(即ち、等級の5オーダー)が、例えば膵臓において達成された。
【0206】
同等物:
当業者は、ここに記載したこの発明の特定の具体例に対する多くの同等物を認識し又は、常例的実験を用いて確認することができよう。かかる同等物は、後述の請求の範囲に包含されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0207】
【図1】テトラサイクリン及び種々のテトラサイクリンアナログによる、HR5−C11細胞におけるルシフェラーセ活性の刺激を示す棒グラフである。
【図2】種々の濃度のドキシサイクリンとインキュベートしたときのHR5−C11細胞における相対的ルシフェラーゼ活性を示すグラフである。
【図3】ドキシサイクリンによる、HR5−C11細胞におけるルシフェラーゼ活性の誘導の動力学を示すグラフである。
【図4】種々のクラスのTetリプレッサーのアミノ酸配列を示しており、クラスBの(例えば、Tn10誘導の)Tetリプレッサーと比較した種々のクラスのTetリプレッサーのアミノ酸配列間の相同性を示している。
【図5】種々のクラスのtetオペレーターのヌクレオチド配列を示している。
【図6】テトラサイクリン調節される転写アクチベーターによる調節のためのものと同じtetオペレーターに機能的に結合された標的とする2つの遺伝子の統合的調節のための二方向性プロモーター構築物の図式ダイヤグラムである。
【図7A】テトラサイクリン調節される転写アクチベーターによる標的とする2つの遺伝子の統合的調節のための二方向性プロモーター領域のヌクレオチド配列(SEQ ID NO:6)を示している。
【図7B】テトラサイクリン調節される転写アクチベーターによる標的とする2つの遺伝子の統合的調節のための二方向性プロモーター領域のヌクレオチド配列(SEQ ID NO:7)を示している。
【図8】テトラサイクリン調節される転写アクチベーターによるルシフェラーゼ及びβ−ガラクトシダーゼ活性の統合的発現を示すグラフである。
【図9】テトラサイクリン調節される転写アクチベーター(tTA)の発現に対する自己調節的プロモーターの図式ダイヤグラムである。パネルAは、Tcの不在時にtetオペレーターに結合する野生型Tetリプレッサー含有トランスアクチベーター融合蛋白質の発現の自己調節を示している。パネルBは、Tcの存在下でtetオペレーターに結合する変異したTetリプレッサー含有トランスアクチベーター融合蛋白質の発現の自己調節を示している。
【図10】増大する濃度のテトラサイクリンアナログ、ドキシサイクリンの存在下における、それぞれ、テトラサイクリン調節される転写インヒビター蛋白質(tSD)及びテトラサイクリン誘導可能な転写アクチベーター融合蛋白質(rtTA)による、標的とするtetオペレーター(tetOwt)結合した遺伝子の負の及び正の調節の図式ダイヤグラムである。
【図11】Krueppel又はv−erbAサイレンサードメインの何れかをコードする核酸のTetリプレッサーをコードする核酸(tetR遺伝子)の3’末端へのイン・フレーム融合による、TetR−サイレンサードメイン融合構築物の構築の図式ダイヤグラムである。
【図12】ルシフェラーゼレポーター遺伝子だけについてのトランスジェニックマウス(右のチェックのカラム)又はルシフェラーゼレポーター遺伝子とtTARトランスジーンを有する二重トランスジェニック動物におけるルシフェラーゼ活性の、ドキシサイクリンの不在(中央の暗いカラム)又は存在下(左の明るいカラム)での発現のグラフ表示である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真核細胞における転写を阻止する融合蛋白質をコードする核酸であって、その融合蛋白質が、
(a)tetオペレーター配列へテトラサイクリン又はテトラサイクリンアナログの非存在下で結合するが存在下では結合しないtetリプレッサーである第1のポリペプチドであり、下記(b)に機能的に結合されたポリペプチド、及び
(b)真核細胞における転写を阻止する異種の第2のポリペプチド
を含む、上記の核酸。
【請求項2】
tetリプレッサーが、
(i)SEQ ID NO:17に示したアミノ酸配列、又は
(ii)tetリプレッサーをコードし、かつSEQ ID NO:17と少なくとも40%の相同性を有するアミノ酸配列
を含む、請求項1に記載の核酸。
【請求項3】
第2のポリペプチドが、レチノイン酸レセプターα、甲状腺ホルモンレセプターα、酵母Ssn6/Tup1蛋白質複合体、キイロショウジョウバエ蛋白質イーブン・スキップト、SIR1、NeP1、キイロショウジョウバエのドーサル蛋白質、TSF3、SFI、キイロショウジョウバエのハンチバック蛋白質、キイロショウジョウバエのknirps蛋白質、WT1、Oct−2.1、キイロショウジョウバエのengrailed蛋白質、E4BP4及びZF5よりなる群から選択する蛋白質の転写サイレンサードメインを含む請求項1又は2に記載の核酸。
【請求項4】
第2のポリペプチドが、v−erbAオンコジーン産物の転写サイレンサードメインを含む請求項1又は2に記載の核酸。
【請求項5】
v−erbAオンコジーン産物の転写サイレンサードメインがSEQ ID NO:23に示したアミノ酸配列を含む請求項4に記載の核酸。
【請求項6】
第2のポリペプチドが、キイロショウジョウバエKrueppel蛋白質の転写サイレンサードメインを含む、請求項1又は2に記載の核酸。
【請求項7】
キイロショウジョウバエKrueppel蛋白質の転写サイレンサードメインが、SEQ ID NO:21に示したアミノ酸配列を含む、請求項6に記載の核酸。
【請求項8】
融合蛋白質が、更に、この融合蛋白質の細胞核への輸送を促進する機能的に結合された第3のポリペプチドを含む、請求項1〜7いずれか1項に記載の核酸。
【請求項9】
宿主細胞中での融合蛋白質の発現に適した形態で請求項1〜8いずれか1項に記載の核酸を含む組換えベクター。
【請求項10】
請求項1〜8いずれか1項に記載の核酸又は請求項9に記載の組換えベクターを含む宿主細胞。
【請求項11】
少なくとも1つのtetオペレーター配列に機能的に結合された転写されるべきヌクレオチド配列を更に含む、請求項10に記載の宿主細胞。
【請求項12】
(i)転写されるべきヌクレオチド配列が、宿主細胞中に導入された外因性ヌクレオチド配列である、又は、(ii)転写されるべきヌクレオチド配列が、少なくとも1つのtetオペレーター配列が機能的に結合された内因性ヌクレオチド配列である、請求項11に記載の宿主細胞。
【請求項13】
哺乳動物細胞、酵母、又は昆虫、植物若しくはカビ細胞である、請求項10〜12いずれか1項に記載の宿主細胞。
【請求項14】
請求項1〜8いずれか1項に記載の核酸によりコードされる蛋白質。
【請求項15】
tetオペレーター配列に機能的に結合された標的遺伝子を含む宿主細胞中の遺伝子発現を阻止する方法であって、
(a)その宿主細胞中で請求項1〜8いずれか1項に記載の核酸を発現させ、
(b)その宿主細胞に接触しているテトラサイクリン又はテトラサイクリンアナログの濃度を調節することを含む、上記の方法。
【請求項16】
請求項1〜8いずれか1項に記載の核酸を含むトランスジーンを含む、非ヒトトランスジェニック生物。
【請求項17】
少なくとも1つのtetオペレーター配列に機能的に結合された転写されるべきヌクレオチド配列を更に含む、請求項16に記載の非ヒトトランスジェニック生物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−11862(P2008−11862A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−213749(P2007−213749)
【出願日】平成19年8月20日(2007.8.20)
【分割の表示】特願平8−503915の分割
【原出願日】平成7年6月29日(1995.6.29)
【出願人】(505156329)テット・システムズ・ホールディング・ゲーエムベーハー・ウント・カンパニー・カーゲー (3)
【Fターム(参考)】