テトラチアフルバレン誘導体、及びその誘導体からなるナノファイバー
【課題】キラル分子を有し、自己組織化制御を可能とする新規化合物であるテトラチアフルバレン誘導体、及びその誘導体を電荷移動錯体とすることで組織体の安定化と機能化に優れた電気伝導性ナノファイバーの提供。
【解決手段】下記化学式(I)
で表わされるD体または/およびS体のテトラチアフルバレン誘導体。
【解決手段】下記化学式(I)
で表わされるD体または/およびS体のテトラチアフルバレン誘導体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規化合物であってキラル分子が導入され、相互作用によって自己組織化し形成されたテトラチアフルバレン誘導体、該テトラチアフルバレン誘導体にアクセプター分子の配位した電荷移動錯体、および電荷移動錯体からなる電気伝導性ナノファイバーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
発達したπ共役系を有するディスク状分子は、π電子系により非局在化した電子が豊富であり、そのπ電子に由来する優れた電気的・光学的特性を有し、π−π相互作用を通じて多様な組織体に自己組織化する。
【0003】
このπ−π相互作用は、芳香環の間に働く分散力であり、いろいろな分子の立体配座や分子構造形成に影響を与えており、例えば生体を構成するDNAの二重らせん高次構造の安定化において、核酸塩基間で作用している。同様に、左右のどちらか一方向巻きのヘリカルな構造を有する。核酸やタンパク質などの分子においても、この分子構造とそれらの物質がもつ特有で高度な機能の発現とが深く関わると知られている。
【0004】
そこで、π−π相互作用を通じて自己組織化をするディスク状分子は、その自己組織化過程において分子間相互作用をデザインすることで形成され、組織構造及び機能性の制御が可能であるため、分子設計に基づく自己組織化制御による高機能マテリアルとして注目されている。
【0005】
特許文献1に、分子の自己組織化を利用してアミノ酸から形成したペプチドナノファイバーに導電性物質を付加した導電性ペプチドナノファイバーが開示されている。生体分子であるアミノ酸を材料とすることで生分解性が可能であり、環境に悪影響を及ぼすことがないが、導電性を機能付加する際に、導電性物質となる金属粒子を付加する必要を有する。
【0006】
【特許文献1】特開2006−117602号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、テトラチアフルバレンに光学活性水素結合鎖、すなわちキラル分子を導入することで、キラル化され自己組織化制御を可能とする新規化合物であるテトラチアフルバレン誘導体、およびその誘導体を電荷移動錯体とすることで組織体の安定化と機能化に優れた電気伝導性ナノファイバーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するためになされた、特許請求の範囲の請求項1に記載されたD体または/およびS体のテトラチアフルバレン誘導体は、
下記化学式(I)
【0009】
【化1】
(式(I)中、n=1〜19、*はキラル中心)で表わされる。
【0010】
請求項2に記載されたテトラチアフルバレン誘導体は、請求項1に記載のものであって、前記D体テトラチアフルバレン誘導体の分子中の少なくとも1つの−NH−基と、同じくD体テトラチアフルバレン誘導体の別な分子中の=O基とが、水素結合して自己組織化したことを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載されたテトラチアフルバレン誘導体は、請求項1に記載のものであって、前記S体テトラチアフルバレン誘導体の分子中の少なくとも1つの−NH−基と、同じくS体テトラチアフルバレン誘導体の別な分子中の=O基とが、水素結合して自己組織化したことを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載された電荷移動錯体は、請求項1に記載されたD体または/およびS体のテトラチアフルバレン誘導体にアクセプター分子が配位してなることを特徴とする。
【0013】
請求項5に記載された電荷移動錯体は、請求項4に記載のものであって、該アクセプター分子がフッ素化テトラシアノキノジメタンであることを特徴とする。
【0014】
請求項6に記載された電気伝導性ナノファイバーは、請求項4に記載されたD体テトラチアフルバレン誘導体にアクセプター分子の配位した電荷移動錯体が、右旋捩れで相互に絡み合ったことを特徴とする。
【0015】
請求項7に記載された電気伝導性ナノファイバーは、請求項4に記載されたS体テトラチアフルバレン誘導体にアクセプター分子の配位した電荷移動錯体が、左旋捩れで相互に絡み合ったことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
D(Dextro:右旋性)体または/およびS(Sinistro:左旋性)体のテトラチアフルバレン誘導体は、高い導電性をもつテトラチアフルバレンに光学活性水素結合鎖、すなわちキラル分子を導入することで、自己組織化を制御可能な新規化合物である。
【0017】
このため、前記テトラチアフルバレン誘導体とアクセプター分子とで、錯体化することにより、電荷移動体を形成することができ、前記電荷移動体中におけるキラル分子によって、D体あるいはS体の立体構造をした組織体であり高い電気伝導性を有したナノファイバーを提供することができる。
【0018】
前記電気伝導性ナノファイバーは、帯電防止や電極膜等に使用することが可能である。
【発明を実施するための好ましい形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための好ましい形態について、詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの形態に限定されるものではない。
【0020】
本発明の新規化合物であるテトラチアフルバレン誘導体(TTF誘導体)は、高い導電性をもつテトラチアフルバレンに光学活性水素結合鎖すなわちキラル分子を導入し、キラル化することでD体とS体をそれぞれ有する構造を形成する。
【0021】
S体テトラチアフルバレン誘導体の反応スキームを以下に示す。
【0022】
下記反応式(a)に示すように、ハロゲン置換脂肪酸ハロゲン化物とアミノ基をもつキラル分子を反応させて、テトラチアフルバレンに導入する光学活性水素結合鎖すなわちキラル分子とする。S(−)−フェニルエチルアミンを用いた際に化合物1−Sを合成することができる。
【0023】
【化2】
【0024】
アミノ基をもつキラル分子と反応させる化合物は、ハロゲン置換脂肪酸ハロゲン化物を好適とし、具体的には、6−ブロモヘキサン酸クロリド、12−ブロモラウリン酸クロリド、4−ブロモプロパン酸クロリド、1−ブロモ酢酸クロリド等が挙げられる。
【0025】
この化合物の脂肪酸の長さの違いによって、得られるS体テトラチアフルバレン誘導体の大きさ、分子量は異なる。この脂肪酸は炭素数6であると好ましく、この炭素数は多過ぎるとアルキル鎖が長くなり、合成反応に時間がかかるなど合成効率の低下を招くために適切でない場合を有する。
【0026】
アミノ基をもつキラル分子としては、S体を有するキラル分子であって、具体的には、S(−)−フェニルエチルアミン、S(−)−1−(p−トリル)エチルアミン等が挙げられる。
【0027】
下記反応式(b)、(c)、(d)の順に、合成を行い、前記反応式(a)で得られた化合物1−Sと反応させる化合物3を得る。
【0028】
【化3】
【0029】
下記反応式(e)、(f)、(g)の順に反応を行い、テトラチアフルバレンにキラル分子を導入した化合物6−SであるS体テトラチアフルバレン誘導体を合成することができる。
【0030】
【化4】
【0031】
【化5】
【0032】
前記反応スキームで示されるように、反応(a)においてS(−)フェニルエチルアミンを用いた場合には、S体のテトラチアフルバレン誘導体を得ることができる。
【0033】
S体テトラチアフルバレン誘導体に対して、同様な反応スキームに基づき、段落番号0026に記載のアミノ基をもつキラル分子をD体の物質とすることで、D体のテトラチアフルバレン誘導体を合成することができ、ここでは、D(+)フェニルエチルアミンを用いることで、D体のテトラチアフルバレン誘導体が合成される。
【0034】
図1のテトラチアフルバレン誘導体2に図示されるように、その構造は、前記化学式(I)中の−CnH2n−においてn=3の場合、36Å×27Åのディスク状分子となる。
【0035】
S体テトラチアフルバレン誘導体はキラル化されており、そのキラル分子中の−NH−基の少なくとも1つの基と、同テトラチアフルバレン誘導体であって他の分子である=O基とが水素結合を形成し、この水素結合によって自己組織化された相互作用物質となる。自己組織力が安定することで、温度変化に対し可逆的に高い秩序性をもつ組織体となる。この相互作用物質である組織体は、温度に対して高い依存性をもつ水素結合により自己組織化されているため、熱により組織体の崩壊を生じ、冷却により組織体の再構築を成す。
【0036】
S体テトラチアフルバレン誘導体にアクセプター分子を配位させることで、電荷移動錯体とすることが可能である。
【0037】
電子供与性の分子であるテトラチアフルバレンは、電子受容体の分子と反応して電荷移動錯体や導電性の混合原子価錯体になると知られており、同様に、テトラチアフルバレン誘導体は電子供与性分子として、電子受容体であるアクセプター分子と反応して電荷移動錯体の形成を可能とする。
【0038】
形成された電荷移動錯体を図1に示す。
【0039】
図1に示されるように、電荷移動錯体においてS体のテトラチアフルバレン誘導体中に存在しているキラル分子はそのまま存在しており、S体のテトラチアフルバレン誘導体と同様に電荷移動錯体もキラル化されている。
【0040】
電荷移動錯体は、キラル分子を有することで自己組織化を制御し、組織体を構築することができ、この組織体は電荷移動相互作用によって、強度強化され、安定化したものとなる。
【0041】
1分子のテトラチアフルバレン誘導体に対し、2分子のアクセプター分子であるフッ素化テトラシアノキノジメタン(F4TCQ)が配位されており、縦横へと結合をなしている。それぞれ重なる部位の記載については、省略している。
【0042】
また、この組織体は、電荷移動相互作用によって電気伝導性を有する。
【0043】
このアクセプター分子は、導電性有機化合物であることが好ましく、具体的にはフッ素化テトラシアノキノジメタン、2,3−ジヨード−5,6−ジシアノベンゾキノン、テトラニトロビフェノール、2,4,7−トリニトロフルオレノン等が挙げられる。
【0044】
アクセプター分子は、S体テトラチアフルバレン誘導体が1molであるのに対し1molであることが好ましい。
【0045】
さらに、この構築された組織体は、キラル分子における空間的相互作用によって規律性が与えられ、キラル化によりヘリシティーが付加されることで捩れた状態となり、互いにバンドルを形成することで、ヘリシティーに依存した捩れを有する電気伝導性ナノファイバーとして組織化される。
【0046】
この電気伝導性ナノファイバーの捩れた状態は、S体のテトラチアフルバレン誘導体にアクセプター分子を配位させた電荷移動錯体の場合に、左旋捩れで互いに絡み合った形態となる。
【0047】
この電気伝導性ナノファイバーの直径は長径80nm、短径20nmであることが好ましく、長さは10μm以上であることが好ましい。
【0048】
自己組織化を制御して形成された電気伝導性ナノファイバーである組織体は、導電性を有するテトラチアフルバレン誘導体の電荷移動錯体であり、電荷移動相互作用によって、半導体的な挙動を示し高い電気伝導性を示す。この電気伝導度は1×10−3S/cm〜1×10−4S/cmであることが好ましい。
【0049】
このため、強度強化され安定であり、機能性を付加された電気伝導性ナノファイバーは様々な用途で汎用性を有する。例えば、繊維担持、帯電防止、電極膜の使用、導電線などが挙げられる。
【0050】
D体テトラチアフルバレン誘導体についても同様な性質をもっており、これにアクセプター分子を配位することで得られる電荷移動錯体・電気伝導性ナノファイバーも同様の性質をもつ。しかし、キラル分子によって構造が異なるため、電気伝導性ナノファイバーの捩れた状態については、D体のテトラチアフルバレン誘導体にアクセプター分子を配位させた電荷移動錯体の場合、右旋捩れで互いに絡み合った形態となり、キラル分子に依存して変化する。
【実施例】
【0051】
(実施例1):S体テトラチアフルバレン誘導体の合成
6−ブロモヘキサン酸クロリド6.7mmolに対し、S(−)フェニルエチルアミン4.47mmolを混合し、溶媒としてテトラヒドロフラン8ml、ベースとしてトリエチルアミン13.4mmolを添加して反応させ、化合物1−Sを得た。この化合物1−Sの収量は0.95g、収率は97%であった。下記にフーリエ変換型赤外分光(FT−IR)、核磁気共鳴分光法(1H−NMR、13C−NMR)の分析結果を示す。
【0052】
N,N−ジメチルホルムアミド200ml中に、二硫化炭素3molに対し、ナトリウム1molを加え、4,5−ビス(ソジオチオ)−1,3−ジチオール−2−4オンとトリチオ炭酸ジナトリウムの混合溶液を得た。ここに、塩化亜鉛0.15molを添加し、メタノール−水の混合溶液中で反応させ、さらにテトラエチルアンモニウムブロミド0.25molを添加して反応させ、化合物2を得た。化合物2の収量は77.0g、収率は86%であった。
【0053】
また、アセトニトリル中に化合物2を20.9mmolと3−ブロモプロピオニトリル100.8mmolを添加し、化合物3を得た。化合物3の収量は9.78g、収率は77%であった。
【0054】
続いて、乾燥アセトニトリル−メタノール混合溶液中に化合物3を0.385mmolに対し3.09mmolの化合物1−Sを混合し、水酸化セシウム水和物0.85mmolを添加し化合物4−Sを得た。化合物4−Sの収量は0.15g、収率は63%であった。下記にFT−IR、1H,13C−NMR、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法−飛行時間型−質量分析計(MALDI−TOF−Mass)の分析結果を示す。
【0055】
さらに、酢酸−クロロホルム混合溶液中で化合物4−S0.38mmolと酢酸水銀1.95mmolを反応させ、化合物5−Sを得た。化合物5−Sの収量は0.23g、収率は99%であった。下記にMALDI−TOF−Massの分析結果を示す。
【0056】
最後に、化合物5−S0.376mmolに亜リン酸トリエチル3mlを添加し、120℃で一晩、加熱拡拌し反応させて化合物6−Sを得た。化合物6−Sの収量は1128mg、収率は57%であった。この化合物がS体のテトラチアフルバレン誘導体である。下記にFT−IR、1H,13C−NMR、MALDI−TOF−Massの分析結果を示す。
【0057】
S体テトラチアフルバレン誘導体の透過型電子顕微鏡での観察結果を図2に示す。
【0058】
(実施例1における化合物の各分析結果)
化合物1−S
FT−IR(ATR,cm−1):
ν=3285(−NH−),2932(−CH2−),1638(−C=O)
1H−NMR(400.13MHz Chloroform−D):
δ=7.32(m,5H,Ar−H),5.14(q,J=7,20,1H,ArCH(CH3)NH−),3.39(t,J=6.6Hz,2H,BrCH2CH2−),2.18(t,J=8.0Hz,2H,−CH2CH2CO−),1.64(m,3H,-CHCH3),1.48(m,6H,−CH2−)
【0059】
化合物4−S
FT−IR(ATR,cm−1):
ν=3304(−NH−),2972(−CH2−),1643(−C=O)
1H−NMR(400.13MHz Chloroform−D):
δ=7.29(m,10H,Ar−H),5.11(q,J=7.2Hz,2H,NH(CH3)CH−Ar),2.85(t,J=7.2Hz,4H,−SCH2CH2−),2.16(t,J=7.6Hz,4H,−CH2CH2CO−),1.68(m,6H,−CHCH3),1.47(m,12H,−CH2−)
13C−NMR(100.61MHz Chloroform−D):
δ=21.81,25.11,28.09,29.42,36.49,36.66,48.77,126.23,127.39,128.71,143.44,171.59,207.9
MALDI−TOF−Mass(Dithranol):
m/z=634.20[M+H]+,calc for C31H40N2O2S5:632.99
【0060】
化合物5−S
MALDI−TOF−Mass(Dithranol):
m/z=617.5[M+H]+,calc for C31H40N2O3S4:616.92
【0061】
化合物6−S
FT−IR(ATR,cm−1):
ν=3305(−NH−),2929(−CH2−),1643(−C=O)
1H−NMR(400.13MHz Chloroform−D):
δ=7.25(m,20H,Ar−H),5.09(q,J=7.20Hz,4H,NH(CH3)CH−Ar),2.78(t,J=7.20Hz,8H,−SCH2CH2−),2.14(t,J=7.20Hz,8H,−CH2CH2CO−),1.64(m,12H,−CHCH3),1.44(m,24H,−CH2−)
13C−NMR(100.61MHz Chloroform−D):
δ=21.85,25.22,28.07,29.19,29.47,36.51,48.65,126.20,127.29,127.75,128.64,143.44,171.87
MALDI−TOF−Mass(Dithranol):
m/z=1201.12[M+H]+,calc for C52H90O4:1201.85
【0062】
(実施例2):D体テトラチアフルバレン誘導体の合成
6−ブロモヘキサン酸クロリド6.7mmolに対し、D(+)フェニルエチルアミン14.3mmolを混合し、溶媒としてテトラヒドロフラン8ml、ベースとしてトリエチルアミン13.4mmolを添加して反応させ、化合物1−Dを得た。化合物1−Dの収量は0.5g、収率は7%であった。下記にFT−IRの分析結果を示す。
【0063】
実施例1と同様に化合物2と3を合成し、乾燥アセトニトリル−メタノール混合溶液中に化合物3を0.385mmolに対し3.09mmolの化合物1−Dを混合し、水酸化セシウム水和物0.85mmolを添加して化合物4−Dを得た。化合物4−Dの収量は50mg、収率は36%であった。下記にMALDI−TOF−Massの分析結果を示す。
【0064】
また、酢酸−クロロホルム混合溶液中で化合物4−Dを0.38mmolと酢酸水銀1.95mmolを反応させ、化合物5−Dを得た。化合物5−Dの収量は40mg、収率は82%であった。
さらに、化合物5−D0.376mmolに亜リン酸トリエチル3mlを添加し、120℃で一晩、加熱拡拌し反応させて化合物6−Dを得た。化合物6−Dの収量は6mg、収率は15%であった。この化合物がD体のテトラチアフルバレン誘導体である。下記にMALDI−TOF−Massの分析結果を示す。
【0065】
(実施例2における化合物の各分析結果)
化合物1−D
FT−IR(ATR,cm−1):
ν=3285(−NH−),2932(−CH2−),1639(−C=O)
【0066】
化合物4−D
MALDI−TOF−Mass(Dithranol):
m/z=632.6[M+H]+,calc for C31H40N2O2S5:632.99
【0067】
化合物6−D
MALDI−TOF−Mass(Dithranol):
m/z=1202.0[M+H]+,calc for C62H80N4O4S8:1201.85
【0068】
(実施例3):電荷移動錯体の形成
トルエン1mlに、S体のテトラチアフルバレン誘導体0.23mMを溶解させて、その後フッ素化テトラシアノキノジメタン11.4mMを添加した。その結果、黒緑色の沈澱物が得られた。
【0069】
この沈澱物について紫外可視分光光度(UV−Vis)スペクトル測定、FT−IR測定を行った。UV−Visスペクトルを図3に示す。700〜900nmにフッ素化テトラシアノキノジメタンの分子内遷移、396nmにテトラチアフルバレンカチオンラジカルの分子内遷移が観察された。また、FT−IRスペクトルを図4に示す。ここで、電荷移動体に特有のブロードな吸収が高波数域で観察された。
【0070】
また、得られた電荷移動錯体の透過型電子顕微鏡及び走査型電子顕微鏡の観察を行った。透過型電子顕微鏡の観察結果を図5に示し、その拡大したものとして原子間力顕微鏡での観察結果を図6に示す。また、走査型電子顕微鏡の観察結果を図7に示す。
【0071】
図5は、図2で示されたS体のテトラチアフルバレン誘導体が円状に凝集しているのに比べて、ナノファイバーを形成しており、図5の拡大図である図6をみると、左巻きに捩れたナノファイバーであることが分かる。
【0072】
さらに、S体テトラチアフルバレン誘導体とD体テトラチアフルバレン誘導体の円二色性スペクトル測定を行った。これより、テトラチアフルバレンの吸収領域において正と負のコットン効果が観察され、ヘリカルな組織体であることを確認した。この円二色性スペクトルを図8に示す。
【0073】
この電荷移動体の組織体において伝導度測定を行った。この結果を図9に示す。さらに、触電流像原子間力顕微鏡(PCI−AFM)測定法により、1本のナノファイバー電気伝導度を測定した。その測定値のグラフを図10、測定箇所の写真を図11に示す。
【産業上の利用可能性】
【0074】
キラル分子を有する新規化合物であるテトラチアフルバレン誘導体は、アクセプター分子と錯体化することで、自己組織化制御を可能とする優れた電気伝導性をもったナノファイバーを形成する。
【0075】
この電気伝導性ナノファイバーはヘリカルな構造を有しており、帯電防止材料、電極、導電線等の様々な用途で使用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明を適用するテトラチアフルバレン誘導体にフッ素化テトラシアノキノジメタンが配位した電化移動錯体の模式図である。
【図2】本発明を適用するS体であるテトラチアフルバレン誘導体の透過型電子顕微鏡による写真である。
【図3】本発明を適用する電荷移動錯体の紫外可視分光光度スペクトルを示す図である。
【図4】本発明を適用する電荷移動錯体のフーリエ変換型赤外分光スペクトルを示す図である。
【図5】本発明を適用する電荷移動錯体の透過型電子顕微鏡による写真である。
【図6】本発明を適用する電荷移動錯体の原子間力顕微鏡による写真である。
【図7】本発明を適用する電荷移動錯体の走査型電子顕微鏡による写真である。
【図8】本発明を適用する電荷移動錯体の円二色性スペクトルを示す図である。
【図9】本発明を適用する電荷移動錯体の伝導度測定結果である。
【図10】本発明を適用する電荷移動錯体の触電流像原子間力顕微鏡の測定値を示す図である。
【図11】本発明を適用する電荷移動錯体の触電流像原子間力顕微鏡の写真である。
【符号の説明】
【0077】
1は電荷移動錯体、2はテトラチアフルバレン誘導体、3はフッ素化テトラシアノキノジメタンである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規化合物であってキラル分子が導入され、相互作用によって自己組織化し形成されたテトラチアフルバレン誘導体、該テトラチアフルバレン誘導体にアクセプター分子の配位した電荷移動錯体、および電荷移動錯体からなる電気伝導性ナノファイバーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
発達したπ共役系を有するディスク状分子は、π電子系により非局在化した電子が豊富であり、そのπ電子に由来する優れた電気的・光学的特性を有し、π−π相互作用を通じて多様な組織体に自己組織化する。
【0003】
このπ−π相互作用は、芳香環の間に働く分散力であり、いろいろな分子の立体配座や分子構造形成に影響を与えており、例えば生体を構成するDNAの二重らせん高次構造の安定化において、核酸塩基間で作用している。同様に、左右のどちらか一方向巻きのヘリカルな構造を有する。核酸やタンパク質などの分子においても、この分子構造とそれらの物質がもつ特有で高度な機能の発現とが深く関わると知られている。
【0004】
そこで、π−π相互作用を通じて自己組織化をするディスク状分子は、その自己組織化過程において分子間相互作用をデザインすることで形成され、組織構造及び機能性の制御が可能であるため、分子設計に基づく自己組織化制御による高機能マテリアルとして注目されている。
【0005】
特許文献1に、分子の自己組織化を利用してアミノ酸から形成したペプチドナノファイバーに導電性物質を付加した導電性ペプチドナノファイバーが開示されている。生体分子であるアミノ酸を材料とすることで生分解性が可能であり、環境に悪影響を及ぼすことがないが、導電性を機能付加する際に、導電性物質となる金属粒子を付加する必要を有する。
【0006】
【特許文献1】特開2006−117602号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、テトラチアフルバレンに光学活性水素結合鎖、すなわちキラル分子を導入することで、キラル化され自己組織化制御を可能とする新規化合物であるテトラチアフルバレン誘導体、およびその誘導体を電荷移動錯体とすることで組織体の安定化と機能化に優れた電気伝導性ナノファイバーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するためになされた、特許請求の範囲の請求項1に記載されたD体または/およびS体のテトラチアフルバレン誘導体は、
下記化学式(I)
【0009】
【化1】
(式(I)中、n=1〜19、*はキラル中心)で表わされる。
【0010】
請求項2に記載されたテトラチアフルバレン誘導体は、請求項1に記載のものであって、前記D体テトラチアフルバレン誘導体の分子中の少なくとも1つの−NH−基と、同じくD体テトラチアフルバレン誘導体の別な分子中の=O基とが、水素結合して自己組織化したことを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載されたテトラチアフルバレン誘導体は、請求項1に記載のものであって、前記S体テトラチアフルバレン誘導体の分子中の少なくとも1つの−NH−基と、同じくS体テトラチアフルバレン誘導体の別な分子中の=O基とが、水素結合して自己組織化したことを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載された電荷移動錯体は、請求項1に記載されたD体または/およびS体のテトラチアフルバレン誘導体にアクセプター分子が配位してなることを特徴とする。
【0013】
請求項5に記載された電荷移動錯体は、請求項4に記載のものであって、該アクセプター分子がフッ素化テトラシアノキノジメタンであることを特徴とする。
【0014】
請求項6に記載された電気伝導性ナノファイバーは、請求項4に記載されたD体テトラチアフルバレン誘導体にアクセプター分子の配位した電荷移動錯体が、右旋捩れで相互に絡み合ったことを特徴とする。
【0015】
請求項7に記載された電気伝導性ナノファイバーは、請求項4に記載されたS体テトラチアフルバレン誘導体にアクセプター分子の配位した電荷移動錯体が、左旋捩れで相互に絡み合ったことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
D(Dextro:右旋性)体または/およびS(Sinistro:左旋性)体のテトラチアフルバレン誘導体は、高い導電性をもつテトラチアフルバレンに光学活性水素結合鎖、すなわちキラル分子を導入することで、自己組織化を制御可能な新規化合物である。
【0017】
このため、前記テトラチアフルバレン誘導体とアクセプター分子とで、錯体化することにより、電荷移動体を形成することができ、前記電荷移動体中におけるキラル分子によって、D体あるいはS体の立体構造をした組織体であり高い電気伝導性を有したナノファイバーを提供することができる。
【0018】
前記電気伝導性ナノファイバーは、帯電防止や電極膜等に使用することが可能である。
【発明を実施するための好ましい形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための好ましい形態について、詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの形態に限定されるものではない。
【0020】
本発明の新規化合物であるテトラチアフルバレン誘導体(TTF誘導体)は、高い導電性をもつテトラチアフルバレンに光学活性水素結合鎖すなわちキラル分子を導入し、キラル化することでD体とS体をそれぞれ有する構造を形成する。
【0021】
S体テトラチアフルバレン誘導体の反応スキームを以下に示す。
【0022】
下記反応式(a)に示すように、ハロゲン置換脂肪酸ハロゲン化物とアミノ基をもつキラル分子を反応させて、テトラチアフルバレンに導入する光学活性水素結合鎖すなわちキラル分子とする。S(−)−フェニルエチルアミンを用いた際に化合物1−Sを合成することができる。
【0023】
【化2】
【0024】
アミノ基をもつキラル分子と反応させる化合物は、ハロゲン置換脂肪酸ハロゲン化物を好適とし、具体的には、6−ブロモヘキサン酸クロリド、12−ブロモラウリン酸クロリド、4−ブロモプロパン酸クロリド、1−ブロモ酢酸クロリド等が挙げられる。
【0025】
この化合物の脂肪酸の長さの違いによって、得られるS体テトラチアフルバレン誘導体の大きさ、分子量は異なる。この脂肪酸は炭素数6であると好ましく、この炭素数は多過ぎるとアルキル鎖が長くなり、合成反応に時間がかかるなど合成効率の低下を招くために適切でない場合を有する。
【0026】
アミノ基をもつキラル分子としては、S体を有するキラル分子であって、具体的には、S(−)−フェニルエチルアミン、S(−)−1−(p−トリル)エチルアミン等が挙げられる。
【0027】
下記反応式(b)、(c)、(d)の順に、合成を行い、前記反応式(a)で得られた化合物1−Sと反応させる化合物3を得る。
【0028】
【化3】
【0029】
下記反応式(e)、(f)、(g)の順に反応を行い、テトラチアフルバレンにキラル分子を導入した化合物6−SであるS体テトラチアフルバレン誘導体を合成することができる。
【0030】
【化4】
【0031】
【化5】
【0032】
前記反応スキームで示されるように、反応(a)においてS(−)フェニルエチルアミンを用いた場合には、S体のテトラチアフルバレン誘導体を得ることができる。
【0033】
S体テトラチアフルバレン誘導体に対して、同様な反応スキームに基づき、段落番号0026に記載のアミノ基をもつキラル分子をD体の物質とすることで、D体のテトラチアフルバレン誘導体を合成することができ、ここでは、D(+)フェニルエチルアミンを用いることで、D体のテトラチアフルバレン誘導体が合成される。
【0034】
図1のテトラチアフルバレン誘導体2に図示されるように、その構造は、前記化学式(I)中の−CnH2n−においてn=3の場合、36Å×27Åのディスク状分子となる。
【0035】
S体テトラチアフルバレン誘導体はキラル化されており、そのキラル分子中の−NH−基の少なくとも1つの基と、同テトラチアフルバレン誘導体であって他の分子である=O基とが水素結合を形成し、この水素結合によって自己組織化された相互作用物質となる。自己組織力が安定することで、温度変化に対し可逆的に高い秩序性をもつ組織体となる。この相互作用物質である組織体は、温度に対して高い依存性をもつ水素結合により自己組織化されているため、熱により組織体の崩壊を生じ、冷却により組織体の再構築を成す。
【0036】
S体テトラチアフルバレン誘導体にアクセプター分子を配位させることで、電荷移動錯体とすることが可能である。
【0037】
電子供与性の分子であるテトラチアフルバレンは、電子受容体の分子と反応して電荷移動錯体や導電性の混合原子価錯体になると知られており、同様に、テトラチアフルバレン誘導体は電子供与性分子として、電子受容体であるアクセプター分子と反応して電荷移動錯体の形成を可能とする。
【0038】
形成された電荷移動錯体を図1に示す。
【0039】
図1に示されるように、電荷移動錯体においてS体のテトラチアフルバレン誘導体中に存在しているキラル分子はそのまま存在しており、S体のテトラチアフルバレン誘導体と同様に電荷移動錯体もキラル化されている。
【0040】
電荷移動錯体は、キラル分子を有することで自己組織化を制御し、組織体を構築することができ、この組織体は電荷移動相互作用によって、強度強化され、安定化したものとなる。
【0041】
1分子のテトラチアフルバレン誘導体に対し、2分子のアクセプター分子であるフッ素化テトラシアノキノジメタン(F4TCQ)が配位されており、縦横へと結合をなしている。それぞれ重なる部位の記載については、省略している。
【0042】
また、この組織体は、電荷移動相互作用によって電気伝導性を有する。
【0043】
このアクセプター分子は、導電性有機化合物であることが好ましく、具体的にはフッ素化テトラシアノキノジメタン、2,3−ジヨード−5,6−ジシアノベンゾキノン、テトラニトロビフェノール、2,4,7−トリニトロフルオレノン等が挙げられる。
【0044】
アクセプター分子は、S体テトラチアフルバレン誘導体が1molであるのに対し1molであることが好ましい。
【0045】
さらに、この構築された組織体は、キラル分子における空間的相互作用によって規律性が与えられ、キラル化によりヘリシティーが付加されることで捩れた状態となり、互いにバンドルを形成することで、ヘリシティーに依存した捩れを有する電気伝導性ナノファイバーとして組織化される。
【0046】
この電気伝導性ナノファイバーの捩れた状態は、S体のテトラチアフルバレン誘導体にアクセプター分子を配位させた電荷移動錯体の場合に、左旋捩れで互いに絡み合った形態となる。
【0047】
この電気伝導性ナノファイバーの直径は長径80nm、短径20nmであることが好ましく、長さは10μm以上であることが好ましい。
【0048】
自己組織化を制御して形成された電気伝導性ナノファイバーである組織体は、導電性を有するテトラチアフルバレン誘導体の電荷移動錯体であり、電荷移動相互作用によって、半導体的な挙動を示し高い電気伝導性を示す。この電気伝導度は1×10−3S/cm〜1×10−4S/cmであることが好ましい。
【0049】
このため、強度強化され安定であり、機能性を付加された電気伝導性ナノファイバーは様々な用途で汎用性を有する。例えば、繊維担持、帯電防止、電極膜の使用、導電線などが挙げられる。
【0050】
D体テトラチアフルバレン誘導体についても同様な性質をもっており、これにアクセプター分子を配位することで得られる電荷移動錯体・電気伝導性ナノファイバーも同様の性質をもつ。しかし、キラル分子によって構造が異なるため、電気伝導性ナノファイバーの捩れた状態については、D体のテトラチアフルバレン誘導体にアクセプター分子を配位させた電荷移動錯体の場合、右旋捩れで互いに絡み合った形態となり、キラル分子に依存して変化する。
【実施例】
【0051】
(実施例1):S体テトラチアフルバレン誘導体の合成
6−ブロモヘキサン酸クロリド6.7mmolに対し、S(−)フェニルエチルアミン4.47mmolを混合し、溶媒としてテトラヒドロフラン8ml、ベースとしてトリエチルアミン13.4mmolを添加して反応させ、化合物1−Sを得た。この化合物1−Sの収量は0.95g、収率は97%であった。下記にフーリエ変換型赤外分光(FT−IR)、核磁気共鳴分光法(1H−NMR、13C−NMR)の分析結果を示す。
【0052】
N,N−ジメチルホルムアミド200ml中に、二硫化炭素3molに対し、ナトリウム1molを加え、4,5−ビス(ソジオチオ)−1,3−ジチオール−2−4オンとトリチオ炭酸ジナトリウムの混合溶液を得た。ここに、塩化亜鉛0.15molを添加し、メタノール−水の混合溶液中で反応させ、さらにテトラエチルアンモニウムブロミド0.25molを添加して反応させ、化合物2を得た。化合物2の収量は77.0g、収率は86%であった。
【0053】
また、アセトニトリル中に化合物2を20.9mmolと3−ブロモプロピオニトリル100.8mmolを添加し、化合物3を得た。化合物3の収量は9.78g、収率は77%であった。
【0054】
続いて、乾燥アセトニトリル−メタノール混合溶液中に化合物3を0.385mmolに対し3.09mmolの化合物1−Sを混合し、水酸化セシウム水和物0.85mmolを添加し化合物4−Sを得た。化合物4−Sの収量は0.15g、収率は63%であった。下記にFT−IR、1H,13C−NMR、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法−飛行時間型−質量分析計(MALDI−TOF−Mass)の分析結果を示す。
【0055】
さらに、酢酸−クロロホルム混合溶液中で化合物4−S0.38mmolと酢酸水銀1.95mmolを反応させ、化合物5−Sを得た。化合物5−Sの収量は0.23g、収率は99%であった。下記にMALDI−TOF−Massの分析結果を示す。
【0056】
最後に、化合物5−S0.376mmolに亜リン酸トリエチル3mlを添加し、120℃で一晩、加熱拡拌し反応させて化合物6−Sを得た。化合物6−Sの収量は1128mg、収率は57%であった。この化合物がS体のテトラチアフルバレン誘導体である。下記にFT−IR、1H,13C−NMR、MALDI−TOF−Massの分析結果を示す。
【0057】
S体テトラチアフルバレン誘導体の透過型電子顕微鏡での観察結果を図2に示す。
【0058】
(実施例1における化合物の各分析結果)
化合物1−S
FT−IR(ATR,cm−1):
ν=3285(−NH−),2932(−CH2−),1638(−C=O)
1H−NMR(400.13MHz Chloroform−D):
δ=7.32(m,5H,Ar−H),5.14(q,J=7,20,1H,ArCH(CH3)NH−),3.39(t,J=6.6Hz,2H,BrCH2CH2−),2.18(t,J=8.0Hz,2H,−CH2CH2CO−),1.64(m,3H,-CHCH3),1.48(m,6H,−CH2−)
【0059】
化合物4−S
FT−IR(ATR,cm−1):
ν=3304(−NH−),2972(−CH2−),1643(−C=O)
1H−NMR(400.13MHz Chloroform−D):
δ=7.29(m,10H,Ar−H),5.11(q,J=7.2Hz,2H,NH(CH3)CH−Ar),2.85(t,J=7.2Hz,4H,−SCH2CH2−),2.16(t,J=7.6Hz,4H,−CH2CH2CO−),1.68(m,6H,−CHCH3),1.47(m,12H,−CH2−)
13C−NMR(100.61MHz Chloroform−D):
δ=21.81,25.11,28.09,29.42,36.49,36.66,48.77,126.23,127.39,128.71,143.44,171.59,207.9
MALDI−TOF−Mass(Dithranol):
m/z=634.20[M+H]+,calc for C31H40N2O2S5:632.99
【0060】
化合物5−S
MALDI−TOF−Mass(Dithranol):
m/z=617.5[M+H]+,calc for C31H40N2O3S4:616.92
【0061】
化合物6−S
FT−IR(ATR,cm−1):
ν=3305(−NH−),2929(−CH2−),1643(−C=O)
1H−NMR(400.13MHz Chloroform−D):
δ=7.25(m,20H,Ar−H),5.09(q,J=7.20Hz,4H,NH(CH3)CH−Ar),2.78(t,J=7.20Hz,8H,−SCH2CH2−),2.14(t,J=7.20Hz,8H,−CH2CH2CO−),1.64(m,12H,−CHCH3),1.44(m,24H,−CH2−)
13C−NMR(100.61MHz Chloroform−D):
δ=21.85,25.22,28.07,29.19,29.47,36.51,48.65,126.20,127.29,127.75,128.64,143.44,171.87
MALDI−TOF−Mass(Dithranol):
m/z=1201.12[M+H]+,calc for C52H90O4:1201.85
【0062】
(実施例2):D体テトラチアフルバレン誘導体の合成
6−ブロモヘキサン酸クロリド6.7mmolに対し、D(+)フェニルエチルアミン14.3mmolを混合し、溶媒としてテトラヒドロフラン8ml、ベースとしてトリエチルアミン13.4mmolを添加して反応させ、化合物1−Dを得た。化合物1−Dの収量は0.5g、収率は7%であった。下記にFT−IRの分析結果を示す。
【0063】
実施例1と同様に化合物2と3を合成し、乾燥アセトニトリル−メタノール混合溶液中に化合物3を0.385mmolに対し3.09mmolの化合物1−Dを混合し、水酸化セシウム水和物0.85mmolを添加して化合物4−Dを得た。化合物4−Dの収量は50mg、収率は36%であった。下記にMALDI−TOF−Massの分析結果を示す。
【0064】
また、酢酸−クロロホルム混合溶液中で化合物4−Dを0.38mmolと酢酸水銀1.95mmolを反応させ、化合物5−Dを得た。化合物5−Dの収量は40mg、収率は82%であった。
さらに、化合物5−D0.376mmolに亜リン酸トリエチル3mlを添加し、120℃で一晩、加熱拡拌し反応させて化合物6−Dを得た。化合物6−Dの収量は6mg、収率は15%であった。この化合物がD体のテトラチアフルバレン誘導体である。下記にMALDI−TOF−Massの分析結果を示す。
【0065】
(実施例2における化合物の各分析結果)
化合物1−D
FT−IR(ATR,cm−1):
ν=3285(−NH−),2932(−CH2−),1639(−C=O)
【0066】
化合物4−D
MALDI−TOF−Mass(Dithranol):
m/z=632.6[M+H]+,calc for C31H40N2O2S5:632.99
【0067】
化合物6−D
MALDI−TOF−Mass(Dithranol):
m/z=1202.0[M+H]+,calc for C62H80N4O4S8:1201.85
【0068】
(実施例3):電荷移動錯体の形成
トルエン1mlに、S体のテトラチアフルバレン誘導体0.23mMを溶解させて、その後フッ素化テトラシアノキノジメタン11.4mMを添加した。その結果、黒緑色の沈澱物が得られた。
【0069】
この沈澱物について紫外可視分光光度(UV−Vis)スペクトル測定、FT−IR測定を行った。UV−Visスペクトルを図3に示す。700〜900nmにフッ素化テトラシアノキノジメタンの分子内遷移、396nmにテトラチアフルバレンカチオンラジカルの分子内遷移が観察された。また、FT−IRスペクトルを図4に示す。ここで、電荷移動体に特有のブロードな吸収が高波数域で観察された。
【0070】
また、得られた電荷移動錯体の透過型電子顕微鏡及び走査型電子顕微鏡の観察を行った。透過型電子顕微鏡の観察結果を図5に示し、その拡大したものとして原子間力顕微鏡での観察結果を図6に示す。また、走査型電子顕微鏡の観察結果を図7に示す。
【0071】
図5は、図2で示されたS体のテトラチアフルバレン誘導体が円状に凝集しているのに比べて、ナノファイバーを形成しており、図5の拡大図である図6をみると、左巻きに捩れたナノファイバーであることが分かる。
【0072】
さらに、S体テトラチアフルバレン誘導体とD体テトラチアフルバレン誘導体の円二色性スペクトル測定を行った。これより、テトラチアフルバレンの吸収領域において正と負のコットン効果が観察され、ヘリカルな組織体であることを確認した。この円二色性スペクトルを図8に示す。
【0073】
この電荷移動体の組織体において伝導度測定を行った。この結果を図9に示す。さらに、触電流像原子間力顕微鏡(PCI−AFM)測定法により、1本のナノファイバー電気伝導度を測定した。その測定値のグラフを図10、測定箇所の写真を図11に示す。
【産業上の利用可能性】
【0074】
キラル分子を有する新規化合物であるテトラチアフルバレン誘導体は、アクセプター分子と錯体化することで、自己組織化制御を可能とする優れた電気伝導性をもったナノファイバーを形成する。
【0075】
この電気伝導性ナノファイバーはヘリカルな構造を有しており、帯電防止材料、電極、導電線等の様々な用途で使用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明を適用するテトラチアフルバレン誘導体にフッ素化テトラシアノキノジメタンが配位した電化移動錯体の模式図である。
【図2】本発明を適用するS体であるテトラチアフルバレン誘導体の透過型電子顕微鏡による写真である。
【図3】本発明を適用する電荷移動錯体の紫外可視分光光度スペクトルを示す図である。
【図4】本発明を適用する電荷移動錯体のフーリエ変換型赤外分光スペクトルを示す図である。
【図5】本発明を適用する電荷移動錯体の透過型電子顕微鏡による写真である。
【図6】本発明を適用する電荷移動錯体の原子間力顕微鏡による写真である。
【図7】本発明を適用する電荷移動錯体の走査型電子顕微鏡による写真である。
【図8】本発明を適用する電荷移動錯体の円二色性スペクトルを示す図である。
【図9】本発明を適用する電荷移動錯体の伝導度測定結果である。
【図10】本発明を適用する電荷移動錯体の触電流像原子間力顕微鏡の測定値を示す図である。
【図11】本発明を適用する電荷移動錯体の触電流像原子間力顕微鏡の写真である。
【符号の説明】
【0077】
1は電荷移動錯体、2はテトラチアフルバレン誘導体、3はフッ素化テトラシアノキノジメタンである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式(I)
【化1】
(式(I)中、n=1〜19、*はキラル中心)で表わされるD体または/およびS体のテトラチアフルバレン誘導体。
【請求項2】
前記D体テトラチアフルバレン誘導体の分子中の少なくとも1つの−NH−基と、同じくD体テトラチアフルバレン誘導体の別な分子中の=O基とが、水素結合して自己組織化したことを特徴とする請求項1に記載されたテトラチアフルバレン誘導体。
【請求項3】
前記S体テトラチアフルバレン誘導体の分子中の少なくとも1つの−NH−基と、同じくS体テトラチアフルバレン誘導体の別な分子中の=O基とが、水素結合して自己組織化したことを特徴とする請求項1に記載されたテトラチアフルバレン誘導体。
【請求項4】
請求項1に記載されたD体または/およびS体のテトラチアフルバレン誘導体にアクセプター分子が配位してなることを特徴とする電荷移動錯体。
【請求項5】
該アクセプター分子がフッ素化テトラシアノキノジメタンであることを特徴とする請求項4に記載した電荷移動錯体。
【請求項6】
請求項4に記載されたD体テトラチアフルバレン誘導体にアクセプター分子の配位した電荷移動錯体が、右旋捩れで相互に絡み合ったことを特徴とする電気伝導性ナノファイバー。
【請求項7】
請求項4に記載されたS体テトラチアフルバレン誘導体にアクセプター分子の配位した電荷移動錯体が、左旋捩れで相互に絡み合ったことを特徴とする電気伝導性ナノファイバー。
【請求項1】
下記化学式(I)
【化1】
(式(I)中、n=1〜19、*はキラル中心)で表わされるD体または/およびS体のテトラチアフルバレン誘導体。
【請求項2】
前記D体テトラチアフルバレン誘導体の分子中の少なくとも1つの−NH−基と、同じくD体テトラチアフルバレン誘導体の別な分子中の=O基とが、水素結合して自己組織化したことを特徴とする請求項1に記載されたテトラチアフルバレン誘導体。
【請求項3】
前記S体テトラチアフルバレン誘導体の分子中の少なくとも1つの−NH−基と、同じくS体テトラチアフルバレン誘導体の別な分子中の=O基とが、水素結合して自己組織化したことを特徴とする請求項1に記載されたテトラチアフルバレン誘導体。
【請求項4】
請求項1に記載されたD体または/およびS体のテトラチアフルバレン誘導体にアクセプター分子が配位してなることを特徴とする電荷移動錯体。
【請求項5】
該アクセプター分子がフッ素化テトラシアノキノジメタンであることを特徴とする請求項4に記載した電荷移動錯体。
【請求項6】
請求項4に記載されたD体テトラチアフルバレン誘導体にアクセプター分子の配位した電荷移動錯体が、右旋捩れで相互に絡み合ったことを特徴とする電気伝導性ナノファイバー。
【請求項7】
請求項4に記載されたS体テトラチアフルバレン誘導体にアクセプター分子の配位した電荷移動錯体が、左旋捩れで相互に絡み合ったことを特徴とする電気伝導性ナノファイバー。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−105945(P2010−105945A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−278534(P2008−278534)
【出願日】平成20年10月29日(2008.10.29)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年5月8日 社団法人高分子学会発行の「高分子学会予稿集 57巻1号(2008)」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年5月29日 社団法人高分子学会主催の「第57回高分子学会年次大会」において文書をもって発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、文部科学省科学技術総合研究委託事業、産業技術強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年10月29日(2008.10.29)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年5月8日 社団法人高分子学会発行の「高分子学会予稿集 57巻1号(2008)」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年5月29日 社団法人高分子学会主催の「第57回高分子学会年次大会」において文書をもって発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、文部科学省科学技術総合研究委託事業、産業技術強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【Fターム(参考)】
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