説明

テトラヒドロ−β−カルボリン誘導体及びその製造方法

【課題】テトラヒドロ−β−カルボリン誘導体を合成する手法を確立すること。
【解決手段】
下記式(2)で示されるテトラヒドロ−β−カルボリン誘導体。


(ここでR、Rは、アリ−ル基、アルキル基、Rはアリ−ル基である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テトラヒドロ−β−カルボリン誘導体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来にない分子の供給技術は、特異な生物活性を有する化合物の探索に必要であり、開発に成功した新規生物活性物質は医薬品や農薬などへの利用が期待される。高度に官能基化されたテトラヒドロ−β−カルボリンはしばしば高い生物活性を有し、種々の医薬品や天然物中に存在する有用な化合物である。したがって多置換テトラヒドロ−β−カルボリン化合物の効率的な合成法の開発は極めて重要である。
【0003】
現在、テトラヒドロ−β−カルボリン誘導体の合成は様々な手法で達成されているが、特に4位炭素に置換基を有するβ−カルボリン誘導体の合成例が下記文献に記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】C.A.Busacca,M.C.Eriksson,Y.Dong,A.S.Prokopowicz,A.M.Salvagno,M.A.Tschantz,J.Org.Chem.1999,64.4564−4568.
【非特許文献2】M.Bandini,A.Melloni,F.Piccinelli,R.Sinisi,S.Tommasi,A.Umani−Ronchi,J.Am.Chem.Soc.2006,128.1424−1425.
【非特許文献3】C.Rannoux,F.Roussi,P.Retailleau,F.Gueritte,Org.Lett.2010,12,1240−1243.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、その重要性にもかかわらず4位炭素に置換基を有するテトラヒドロ−β−カルボリン誘導体の合成例はいまだ少なく、4位炭素への置換基の導入は煩雑な多段階反応を必要とする。また上記文献に記載の合成法では特定の立体化学を有するβ−カルボリン誘導体のみが得られ、新規生物活性物質の探索のためには新たなβ−カルボリン誘導体合成法の開発が望まれる。
【0006】
そこで、本発明は、上記課題を鑑み、(1)で示されるインドール誘導体を用いたテトラヒドロ−β‐カルボリン誘導体合成を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を行なっていたところ、(1)で示されるインドール誘導体に対してニトロ基の還元およびヒドロキシ基の保護、続くアルデヒドとのピクテット・スペングラー反応を行うことで(2)で示されるテトラヒドロ−β−カルボリン誘導体を得ることができる点を発見し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
即ち、本発明の一手段に係るテトラヒドロ−β−カルボリンを製造する方法は、下記式(1)で示されるインドール誘導体に対しニトロ基の還元およびヒドロキシ基の保護、続くアルデヒドとのピクテット・スペングラー反応を行う。
【化1】

【0009】
ここで上記式中R、R、Rは、アリ−ル基、アルキル基、もしくはアシル基である。また、インドール骨格上に、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン基、ニトロ基などの置換基を有していても良い。
【0010】
なおこの結果、下記式(2)で示されるテトラヒドロ−β−カルボリン誘導体を得ることができる。
【化2】

【0011】
ここで上記式中R、R、R、Rは、アリ−ル基、アルキル基、もしくはアシル基である。また、インドール骨格上に、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン基、ニトロ基などの置換基を有していても良い。
【発明の効果】
【0012】
以上、本発明により、従来報告のない新規なテトラヒドロ−β−カルボリン化合物を短工程で効果的に得ることができ、多様な化合物の合成・供給が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。ただし、本発明は多くの異なる態様で実施することが可能であり、以下に示す実施形態に限定されるものではない。
【0014】
(実施形態1)
本実施形態に係るテトラヒドロ−β−カルボリンを製造する方法は、下記式(1)で示されるインドール誘導体に対しニトロ基の還元およびヒドロキシ基の保護、続くアルデヒドとのピクテット・スペングラー反応を行う。なおインドール誘導体(1)の合成法に関しては、合成できる限りにおいて限定されるわけではないが、例えば、特開2008−117919公報に記載されている方法を用いることができる。
【化3】

【0015】
ここで上記式中R、R、Rは、アリ−ル基、アルキル基、もしくはアシル基である。また、インドール骨格上に、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン基、ニトロ基などの置換基を有していても良い。
【0016】
まず上記式(1)で示されるインドール誘導体に対しメタノール溶媒中、酢酸および塩酸を加え、酸性条件下Zn粉末を用いてニトロ基を還元することで下記式(3)で示されるβ−アミノアルコールを得ることができる。
【化4】

【0017】
ここで上記式中R、R、Rは、アリ−ル基、アルキル基、もしくはアシル基である。また、インドール骨格上に、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン基、ニトロ基などの置換基を有していても良い。
【0018】
上記反応は、RまたはRがアルキル基である場合、より粒子の細かいZnナノ粉末を用いることが望ましい。
【0019】
次に上記式(3)で示されるβ−アミノアルコールは、アルキル基もしくはアリール基で置換されたハロゲン化ケイ素試薬を用い、水酸基を保護することができる。例えば、ジメチルホルムアミド中、イミダゾール存在下トリエチルクロライドを反応させることで下記式(4)で示される化合物を得ることができる。
【化5】

【0020】
ここで上記式中R、R、Rは、アリ−ル基、アルキル基、もしくはアシル基である。また、インドール骨格上に、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン基、ニトロ基などの置換基を有していても良い。
【0021】
次に上記式(4)で示される化合物に対しクロロホルム中硫酸マグネシウム存在下でトリフルオロ酢酸を酸触媒としてアルデヒドとのピクテット・スペングラー反応を行うことで下記式(2)で示されるテトラヒドロ−β−カルボリン誘導体を得ることができる。
【化6】

【0022】
ここで上記式中R、R、R、Rは、アリ−ル基、アルキル基、もしくはアシル基である。また、インドール骨格上に、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン基、ニトロ基などの置換基を有していても良い。
【0023】
上記反応は、酸触媒を加える前にアミンとアルデヒドを反応させ十分にイミンの形成を行うことが望ましい。
【0024】
上記反応において、反応基質として用いられるアルデヒドは下記式(5)で示される。ここにおいてRはアリール基、アルキル基、もしくはアシル基を用いることができる。
【化7】

【0025】
以上本実施形態に係る方法によると、テトラヒドロ−β−カルボリン誘導体を短工程で効果的に得ることが可能である。
【実施例】
【0026】
ここで、上記実施形態に係る方法により、実際にテトラヒドロ−β−カルボリン誘導を合成し、その結果を確認した。以下に具体的に説明する。なおもちろん、上記実施形態に係る反応も多くの異なる実施が可能であり、以下に示す実施例に限定されるわけではない。
【0027】
まず、(1)で示されるインドール誘導体のニトロ基の還元反応を行った。
【0028】
(実施例1)
本実施例は、メタノール2.50ml中に下記式(1−1)で示されるインドール誘導体0.104gを溶解させ、これに酢酸0.834ml、1規定塩酸1.67mlおよびZn粉末0.364gを加え、室温、15時間反応させることで行なった。この結果、下記に示す化合物(3−1)を0.0942g得ることができた。また(3−1)の収率は99%であった。
【化8】

【化9】

【0029】
H NMR(400MHz,CDCl)δ8.10(br,1H),7.74(d, J=8.2Hz,1H),7.45(m,2H),7.15−7.36(m,11H),7.11(m,1H),4.69(d,J=1.4Hz,1H),4.43(d,J=9.9Hz,1H),3.90(dd,J=2.3,10.0Hz,1H),1.28(br,2H);
13C NMR(125MHz,CDCl3)δ144.0,142.4,136.3,128.7,128.6,128.3,127.0,126.6,125.6,122.2,121.5,119.6,119.5,117.8,111.1,71.8,60.1,46.0;
HRMS calcd for C2323O(M+H):343.1805, found:m/z 343.1800;
[α]25.0=+2.0(c=0.71,CHCl);
IR(neat)3416,3059,3028,1453,908,737,701cm−1
【0030】
(実施例2)
本実施例2は、メタノール1.18ml中に下記式(1−2)で示されるインドール誘導体0.0496gを溶解させ、これに酢酸0.393ml、1規定塩酸0.786mlおよびZnナノ粉末0.171gを加え、室温、3時間反応させることで行なった。この結果、下記に示す化合物(3−2)を0.0452g得ることができた。また(3−2)の収率は99%であった。
【化10】

【化11】

【0031】
NMR(500MHz,CDCl)δ8.04(br,1H),7.64(d,J=8.0Hz,1H),7.42(m,2H),7.25−7.33(m,3H),7.12−7.19(m,2H),7.10(d,J=2.3Hz,1H),7.06,(m,1H),4.36(d,J=10.3Hz,1H),3.80(dd,J=1.1,10.3Hz,1H),3.23(dd,J=1.1,8.0Hz,1H)1.92(br,1H),0.98−1.82(m,8H),0.80−0.96(m,2H);
13 NMR(125MHz,CDCl)δ143.0,136.2,128.7,128.6,127.1,126.5,122.1,121.0,119.4,117.9,111.0,74.4,54.0,46.6,41.5,29.4,29.3,26.4,26.2,26.0;
HRMS calcd for C2329O(M+H):349.2274,found:m/z 349.2264;
[α]24.2=−4.5(c=0.41,CHCl);
IR(neat)3413,3297,3059,2924,2851,1452,741cm−1
【0032】
得られた化合物(3)に対しヒドロキシ基の保護を行った。
【0033】
(実施例1)
本実施例1は無水ジメチルホルムアミド1.39ml中に化合物(3−1)を0.0949g溶解させ、トリエチルシリルクロライド0.0930ml、イミダゾール0.0943gと0℃で1時間反応させることで行なった。この結果、下記に示す化合物(4−1)を0.104g得ることができた。また(4−1)の収率は82%であった。
【化12】

【0034】
NMR(400MHz,CDCl)δ8.10(br,1H),7.52(d,J=8.0Hz,1H),7.41(m,2H),7.19−7.35(m,9H),7.11−7.18(m,2H),7.05(m,1H),4.84(d,J=3.6Hz,1H),4.22(d,J=8.4Hz,1H),3.65(dd,J=3.8,8.6Hz,1H),0.76(t,J=7.9Hz,9H),0.30−0.42(m,6H);
13 NMR(100MHz,CDCl)δ143.9,142.8,136.3,129.1,128.3,128.0,127.2,126.9,126.6,126.2,122.0,121.3,119.4,119.2,118.3,111.0,75.3,61.0,46.6,6.7,4.8;
HRMS calcd for C2937OSi(M+H):457.2670 found:m/z 457.2661;
[α]24.6=−2.0(c=0.33,CHCl);
IR(neat)3421,3166,3060,3027,2953,2911,2875,1454,1060,738,700cm−1
【0035】
(実施例2)
本実施例は、無水ジメチルホルムアミド0.685ml中に化合物(3−1)を0.0477g溶解させ、トリエチルシリルクロライド0.0460ml、イミダゾール0.0466gと室温、1時間反応させることで行なった。この結果、下記化合物(4−2)を0.0507g得ることができた。また(4−2)の収率は80%であった。
【化13】

【0036】
NMR(500MHz,CDCl)δ8.03(br,1H),7.53(d,J=7.7Hz,1H),7.29−7.35(m,3H),7.22−7.27(m,2H),7.10−7.15(m,3H),7.02(m,1H),4.19(d,J=10.0Hz,1H),3.70(dd,J=1.4,7.2Hz,1H),3.58(dd,J=1.5,10.0Hz,1H),1.88(br,1H),1.62−1.84(m,5H),0.90−1.33(m,5H),0.86(t,J=8.0Hz,9H),0.51(q,J=8.0Hz,6H);
13 NMR(125MHz,CDCl)δ143.4,136.1,128.9,128.4,127.3,126.2,122.0,120.4,119.4,119.2,118.3,110.9,54.9,48.0,42.3,30.1,30.0,26.6,26.5,26.4,7.0,5.6;
HRMS calcd for C2943OSi(M+H):463.3139,found:m/z 463.3127;
[α]23.0=−63.1(c=1.0,CHCl3);
IR(neat)3418,3166,3060,2925,2875,2852,1455,1011,738,702cm−1
【0037】
得られた化合物(4)に対しピクテット・スペングラー反応を行った。
【0038】
(実施例1)
本実施例1は無水クロロホルム0.805ml中に化合物(4−1)を0.0388g溶解させ、硫酸マグネシウム0.0805gおよびベンズアルデヒド0.0245mlと室温、5時間反応させた。その後トリフルオロ酢酸0.00658mlを加え、室温、19時間反応させることで行った。この結果、下記に示す化合物(2−1)を0.0232g得ることができた。また(2−1)の収率は67%であった。
【化14】

【0039】
NMR(400MHz,CDCl)δ7.53−7.62(m,3H),7.35−7.50(m,6H),7.18−7.30(m,7H),7.06−7.16(m, 2H),7.02(m,1H),6.87(m,1H),5.35(d,J=1.6Hz,1H),4.02(d,J=9.7Hz,1H),3.95(dd,J=1.8,4.1Hz,1H),3.83(dd,J=4.1,9.7Hz,1H),3.40(br,1H),2.37(br,1H);
13C NMR(100MHz,CDCl)δ140.9,140.4,140.0,136.2,135.2,129.9,129.2,128.7,128.6,128.5,127.9,126.7,126.5,121.9,119.5,118.5,114.4,110.8,74.5,64.0,59.5,39.9;
HRMS calcd for C3026ONa(M+Na):453.1937,found:m/z 453.1920;
[α]25.7=−6.4(c=1.0,CHCl);
IR(neat)3412,3332,3060,3030,2919,1493,1454,909,737,701cm−1
【0040】
(実施例2)
本実施例2は無水クロロホルム1.10ml中に化合物(4−2)を0.0509g溶解させ、硫酸マグネシウム0.110gおよび4−ニトロベンズアルデヒド0.0499gと室温、5時間反応させた。その後トリフルオロ酢酸0.00899mlを加え、室温、24時間反応させることで行った。この結果、下記に示す化合物(2−2)を0.0275g得ることができた。また(2−2)の収率は52%であった。
【化15】

【0041】
NMR(500MHz,CDCl)δ8.32(m,2H),7.74(m,2H),7.44−7.52(m,3H),7.19−7.33(m,5H),7.11(m,1H),6.99(m,1H),5.39(d,J=1.5Hz,1H),4.28(dd,J=1.7,4.0Hz,1H),3.50(dd,J=4.3,9.1Hz,1H),3.05(d,J=8.9Hz,1H),2.25(br,2H),1.66−1.92(m,5H),1.10−1.40(m,6H);
13C NMR(125MHz,CDCl)δ148.4,148.0,140.5,136.5,133.8,129.5,129.4,128.3,126.9,126.5,124.3,122.4,119.9,118.6,114.7,110.9,75.0,60.2,58.8,40.4,38.7,30.8,26.9,26.5,26.4,25.3;
HRMS calcd for C3032(M+H):482.2438, found:m/z 482.2429;
[α]21.4=−30.6(c=1.0,CHCl);
IR(neat)3401,3059,2925,2851,1521,1452,1347,744,710cm−1
【0042】
以上の通り、本実施例によると、多置換テトラヒドロ−β−カルボリン化合物を合成できることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、高度に官能基化されたテトラヒドロ−β−カルボリン化合物を高い立体選択性で供給できることから、医薬・農薬の開発と生産に有用であり、産業上の利用可能性がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で示されるインドール誘導体を用いて下記式(2)で示されるテトラヒドロ−β−カルボリン誘導体を合成する方法。
【化1】

(ここでR、R、Rは、アリ−ル基、アルキル基、もしくはアシル基である。また、インドール骨格上に、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン基、ニトロ基などの置換基を有していても良い。)
【化2】

(ここでR、R、R、Rは、アリ−ル基、アルキル基、もしくはアシル基である。また、インドール骨格上に、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン基、ニトロ基などの置換基を有していても良い。)
【請求項2】
下記式(2)で示されるテトラヒドロ−β−カルボリン誘導体。
【化3】

(ここでR、R、R、Rは、アリ−ル基、アルキル基、もしくはアシル基である。また、インドール骨格上に、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン基、ニトロ基などの置換基を有していても良い。)



【公開番号】特開2012−111724(P2012−111724A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−263276(P2010−263276)
【出願日】平成22年11月26日(2010.11.26)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 有機合成化学協会、第97回有機合成シンポジウム講演要旨集、2010年5月31日発行
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【Fターム(参考)】