説明

テトラヒドロホウ酸塩の製造方法

【課題】 ホウ酸塩を含むアルカリ水溶液を原料としてテトラヒドロホウ酸塩を製造するに当って、高い収率でテトラヒドロホウ酸塩を製造する方法を提供することにある。
【解決手段】 ホウ酸塩を含むアルカリ水溶液をホウ酸により中和し、当該溶液を乾燥して固形のホウ酸塩を得る。このホウ酸塩にはアルカリ成分が殆ど含有されていない。そしてこの固形のホウ酸塩をアルカリ土類金属例えばマグネシウムと混合し、当該混合物を水素雰囲気下において加熱して水素化反応させることでテトラヒドロホウ酸塩を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホウ酸塩を水素化してテトラヒドロホウ酸塩を製造する方法に関し、詳しくはホウ酸塩を含むアルカリ水溶液からテトラヒドロホウ酸塩を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
テトラヒドロホウ酸塩、例えば水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)が還元剤あるいは水素化剤として広く用いられるが、近年これらを燃料電池の燃料あるいは水素発生器の水素発生剤として用いることが検討されている。
【0003】
例えば水素化ホウ素ナトリウムは、水酸化ナトリウム(NaOH)などのアルカリ水溶液に溶解させることで、ボロハイドライド燃料電池(以下、燃料電池という。)に供給する燃料液として、あるいは触媒体に接触させて水素を発生させる液体の水素発生剤として検討されており、クリーンなエネルギーの原料として重要な薬剤である。
【0004】
このようなテトラヒドロホウ酸塩のアルカリ水溶液を燃料として用いる燃料電池から排出されるアルカリ水溶液の廃液及びテトラヒドロホウ酸塩のアルカリ水溶液を触媒体に接触させて加水分解反応により水素を発生させた後の水素発生器から排出されるアルカリ水溶液の廃液には、反応生成物としてメタホウ酸ナトリウム(NaBO2)が多く含有されており、この廃液を原料としてテトラヒドロホウ酸塩を再生することができれば廃液を有効に利用することができ、上述した燃料電池や水素発生器の低コスト化を図ることができる。
【0005】
一方、メタホウ酸塩などのホウ酸塩を原料としてテトラヒドロホウ酸を製造する方法としては種々の方法が知られている。例えば特許文献1には、メタホウ酸ナトリウム(NaBO2)とアルカリ土類金属例えばマグネシウム(Mg)との混合物を水素加圧下において所定の温度で加熱し、先行して生成するアルカリ土類金属の水素化物(MgH2)を反応前駆体として、メタホウ酸ナトリウムを水素化せしめて水素化ホウ素ナトリウムを製造する方法が記載されている。
【0006】
また特許文献2には、1MPa以上の水素ガスの雰囲気中で、メタホウ酸ナトリウムとアルカリ土類金属例えばマグネシウムとこのMgと合金化し得る金属であるシリコン(Si)とを500℃以上の温度で反応せしめて水素化ホウ素ナトリウムを製造する方法が記載されている。
【0007】
本発明者らも、ホウ酸塩とアルカリ土類金属との混合物を、水素雰囲気下に前記アルカリ土類金属の水素化物が安定して存在する反応平衡圧よりも低い圧力で加熱して反応させることにより、製造コストを抑え且つ高い収率でテトラヒドロホウ酸塩を製造する方法(例えば、特許文献3参照。)として提供している。
【0008】
このようなホウ酸塩とアルカリ土類金属との混合物を水素加圧下で加熱することによりテトラヒドロホウ酸塩を製造する方法において、原料として乾燥した固体のホウ酸塩が必要であり、上述したようにホウ酸塩のアルカリ水溶液をそのまま用いることができない。そのためホウ酸塩が溶解したアルカリ水溶液から水分を完全に除去し、得られるアルカリを含有するホウ酸塩の固形物(結晶)を原料として用いることになる。
【0009】
しかしながら、このアルカリを含有するホウ酸塩の原料をアルカリ土類金属と混合して水素加圧下で加熱により反応させる方法においては、アルカリ成分の存在によりアルカリ土類金属とアルカリ成分との還元反応が起るためホウ酸塩の水素化反応が十分に達成されず、高い収率でテトラヒドロホウ酸塩を得ることができない。
【0010】
なお、ホウ酸塩のアルカリ水溶液からアルカリを選択的に分離する方法として、例えばアルコールによるアルカリの抽出分離あるいはイオン交換膜による透析・拡散分離などが検討されたが、いずれの場合もホウ酸塩とアルカリとを完全に分離・回収する操作が煩雑であり、再利用に高いコストを要することになる。
【0011】
【特許文献1】特開昭33−10788号公報(3頁下段)
【特許文献2】特開2002−241109号公報(請求項1、請求項4、段落0026)
【特許文献3】特開2004−224684号公報(請求項1、段落0013、段落0018)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、ホウ酸塩を含むアルカリ水溶液を原料としてテトラヒドロホウ酸塩を製造するに当って、高い収率でテトラヒドロホウ酸塩を製造する方法を提供することにある。また本発明の他の目的は、テトラヒドロホウ酸塩のアルカリ水溶液を燃料液として用いる燃料電池から排出されるメタホウ酸塩を含む廃液、あるいはテトラヒドロホウ酸塩のアルカリ水溶液から水素を発生させた後のメタホウ酸塩を含む廃液を有効に利用してテトラヒドロホウ酸塩を再生する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係るテトラヒドロホウ酸塩の製造方法は、ホウ酸塩を含むアルカリ水溶液をホウ酸により中和する工程と、この工程で得られた溶液を乾燥して固形のホウ酸塩を得る工程と、この固形のホウ酸塩をアルカリ土類金属と混合する工程と、この工程で得られた混合物を水素雰囲気下において加熱して水素化反応させることによりテトラヒドロホウ酸塩を得る工程と、を含むことを特徴とする。なお「ホウ酸塩を含むアルカリ水溶液」とは、ホウ酸塩がアルカリ水溶液に溶解されている状態の溶液をいう。
【0014】
上述の製造方法において、前記ホウ酸塩を含むアルカリ水溶液は、例えばテトラヒドロホウ酸塩のアルカリ水溶液を燃料として用いた燃料電池から排出されたアルカリ性廃液であってもよいし、例えばテトラヒドロホウ酸塩のアルカリ水溶液から水素を発生させた後のアルカリ性廃液であってもよい。また前記アルカリ土類金属としては、例えばマグネシウムを用いることが好ましい。
【0015】
また上述の製造方法において、前記水素化反応させる工程は、前記アルカリ土類金属の水素化物が安定して存在する反応平衡圧よりも低い圧力で加熱して反応させるようにすることが好ましい。具体的には例えば450℃以下の温度で水素ガスを供給した後、加熱により例えば500℃〜650℃に昇温して反応させるようにするとよい。さらに前記テトラヒドロホウ酸塩は、例えば水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)、水素化ホウ素リチウム(LiBH4)又は水素化ホウ素カリウム(KBH4)である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ホウ酸塩を含むアルカリ水溶液にホウ酸を添加して中和し当該水溶液をホウ酸塩の水溶液としているので、この水溶液を乾燥して水分を蒸発させた結晶のホウ酸塩にはアルカリ成分が殆ど含有されていない。そのため、このホウ酸塩とアルカリ土類金属例えばマグネシウムとの混合物を水素雰囲気下において加熱して水素化反応させた場合、後述の参考例に示すようにアルカリ成分であるNa2OとMgとの反応が全く起らないかあるいは殆ど起らないので、MgとH2との反応が活発に起り、その結果、MgH2とホウ酸塩との反応が進行することから、高い収率でテトラヒドロホウ酸塩例えば水酸化ホウ素ナトリウムを得ることができる。
【0017】
また本発明によれば、上記のホウ酸塩を含むアルカリ水溶液として、テトラヒドロホウ酸塩のアルカリ水溶液を燃料液として用いる燃料電池から排出されるメタホウ酸塩を含む廃液、あるいはテトラヒドロホウ酸塩のアルカリ水溶液から水素を発生させた後のメタホウ酸塩を含む廃液を原料としてテトラヒドロホウ酸塩の再生を行っているので、当該廃液を有効利用することができて資源のリサイクル化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
〔第1の実施の形態〕
本発明に係るテトラヒドロホウ酸塩の製造方法の一実施の形態について説明する。ここで説明する実施の形態は、ボロハイドライド燃料電池(以下、燃料電池という。)において、この燃料電池の燃料として用いられた使用済みの水素化ホウ素錯化合物のアルカリ水溶液の廃液(メタホウ酸塩を含んだ廃液)を原料(この例では原料液である。)としてテトラヒドロホウ酸塩の製造に関するものである。
【0019】
先ず、図1を参照しながら燃料電池について簡単に述べておく。図1中のケース体2内は高分子電解質膜からなる透過膜21により酸化剤(正極)室30と燃料極(負極)室40とに区画されている。前記酸化剤室30は酸化剤極31と流路部32とから構成されており、前記燃料極室40は燃料極41と流路部42とから構成されている。
【0020】
燃料極室40に供給される(前記流路部42を通流する)燃料としては、水素化ホウ素錯化合物のアルカリ水溶液が用いられ、水素化ホウ素錯化合物として具体的には、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)、水素化ホウ素カリウム(KBH4)、または水素化ホウ素リチウム(LiBH4)などを挙げることができる。またアルカリ水溶液としては、例えば水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物を用いることができる。アルカリ水溶液の濃度は、あまり高濃度にすると水素化ホウ素錯化合物が溶解し難くなるので、例えば20重量%に調整される。水素化ホウ素錯化合物は、目的とする発電容量及びアルカリ水溶液に対する溶解性を考慮して例えば0.1〜50重量%の濃度で用いられる。
【0021】
上記の燃料電池においては、加温且つ加湿された空気を酸化剤極室30に供給すると共に、例えば水素化ホウ素ナトリウムを水酸化ナトリウム水溶液に溶解させてなる燃料を燃料極室40の流路部42に循環供給する。そして流路部42から排出された使用済みの水素化ホウ素ナトリウムのアルカリ水溶液は例えば燃料貯槽43に戻され、当該アルカリ水溶液が燃料電池の燃料として使用できなくなるまで循環される。こうして燃料極41側では下記の(1)式に示される8電子反応が主として起こり、また(2)式で示される4電子反応も起こっていると考えられる。
【0022】
NaBH4+8NaOH→NaBO2+6H2O+8Na+8e……(1)
NaBH4+4NaOH→NaBO2+2H2O+2H2+4Na+4e……(2)
また酸化剤極31側では下記の(3)式に示す反応が起っている。
【0023】
2O2+4H2O+8Na+8e→8NaOH……(3)
このようにして得られた使用済みの水素化ホウ素ナトリウムのアルカリ水溶液の廃液(メタホウ酸ナトリウムを含んだ廃液)を原料(この例では原料液)として水素化ホウ素ナトリウムを製造する。ここからは図2に示すフロー図を参照しながら説明する。先ず、前記廃液には不純物例えば剥落した電極触媒などが含有されていることから、当該廃液を濾過することで廃液中の不純物を取り除く(ステップS1)。続いて、前記廃液にホウ酸(H3BO3)又は無水ホウ酸(B2O3)を添加して、下記の反応式(4)及び反応式(5)に示すように前記廃液を中和する(ステップ2)。ここで前記廃液に対してホウ酸及び無水ホウ酸を添加する量は、メタホウ酸ナトリウム(NaBO2)が化学量論的に生成する量のみ添加すればよく、必ずしも多過剰に存在させる必要はない。
【0024】
NaBO2+NaOH+H3BO3→2NaBO2+2H2O……(4)
NaBO2+NaOH+B2O3→2NaBO2+1/2H2O……(5)
次にこの廃液を例えば400℃以上の温度で加熱して水分を完全に蒸発させ、固形(結晶)のメタホウ酸ナトリウムを得る(ステップ3)。なお、廃液を乾燥させる手法としては、必ずしも加熱させることが要件ではなく、減圧乾燥を行う場合でも本発明の範囲に含まれる。
【0025】
そして固形のメタホウ酸ナトリウムとアルカリ土類金属である例えば平均粒径20〜40μmの粉末状のマグネシウム(Mg)とを、十分に攪拌及び混合した後、当該混合物を例えばステンレス製の管式の反応器に充填する(ステップ4)。固形のメタホウ酸ナトリウムと混合させるマグネシウムの量は、メタホウ酸1モルに対して1/4モル以上であればよく、特に3/4〜2モル程度の範囲内にあることがより好ましい。なお、メタホウ酸塩と混合するアルカリ土類金属はマグネシウムに限られるものではなく、例えばカルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)などを用いてもよい。これらの金属は純度に係わり無く、例えば酸化マグネシウム(MgO)から再生したマグネシウム、水素化マグネシウム(MgH2)などの不純物を含むマグネシウムであってもよい。
【0026】
しかる後、反応器内の水分濃度を低減させるために反応器内を真空排気(減圧排気)して真空雰囲気にすると共にマグネシウムが溶融しない温度例えば400℃の温度で1時間加熱することでメタホウ酸ナトリウムの結晶水を1以下、好ましくは無水物にする(ステップ5)。なお、真空雰囲気において450℃以下の温度で加熱することが好ましく、それ以上の温度で加熱した場合、マグネシウムが溶融してしまい、Mgの量が減少してしまうおそれがある。
【0027】
そして反応器内の混合物に対して所定量の水素ガスを供給すると共に例えば5℃/分の速度で750℃以下の温度例えば500℃〜650℃の温度まで昇温させる。なお、反応温度を750℃以下にする理由は、この温度よりも高過ぎると生成した水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)が熱分解してしまうからである。また、反応器内の温度が所定の温度まで上昇している間は、反応器内の反応圧力は下記の反応式(6)に示すようにマグネシウムと水素(H2)との反応により生成する水素化マグネシウム(MgH2)が安定して存在できる反応平衡圧よりも低い圧力、換言すると水素化マグネシウムが安定して存在できない圧力に設定される。具体的には、例えば400℃の温度状態では1.9MPa以下に、600℃の温度状態では40MPa以下に反応器内の反応圧力が設定される(ステップ6)。
【0028】
2Mg+2H2→2MgH2……(6)
ここで前記した水素化マグネシウムが安定して存在できる反応平衡圧について簡単に述べておくと、図3に示すように反応平衡圧P(logP)と温度T(1/T)は概ね直線関係にあると考えられる。一例を挙げると、500℃の平衡圧は11MPaであり、550℃の平衡圧は21MPaである。従って理論上は平衡圧線Qよりも上の領域Aに反応条件を設定すると前記反応式(6)の反応が促進されて安定した水素化マグネシウムが生成され、平衡圧線Qよりも下の領域Bに反応条件を設定すると下記の反応式(7)の反応によりマグネシウムの表面にのみプロダイド(H)あるいは−1価をとる活性な水素種が生成する。しかしながら実際には、例えば不純物の影響や、例えば放熱により反応器内の温度がばらつくなどの種々の外乱を受けることから予め試験を行って実際の平衡圧線Qを把握しておくのが好ましい。一方、領域Cは生成した水素化ホウ素ナトリウムが分解する領域である。
【0029】
Mg+H2⇔Mg2+・2H……(7)
このような水素化マグネシウムが安定して存在できる反応平衡圧よりも低い圧力に反応器内の反応圧力を設定することにより、先ずマグネシウムと水素とが接触した際に安定した水素化マグネシウムが生成するには至らず、前記反応式(7)に示すようなマグネシウムの表面にプロタイドが生成する。続いてこのプロダイドとその近傍にあるメタホウ酸ナトリウム中の酸化物イオン(O2−)との交換反応が起ることにより、つまり下記の反応式(8)に示す反応によりメタホウ酸ナトリウムが水素化して水素化ホウ素ナトリウムが生成する。
【0030】
2〔Mg2+・2H(表面)〕+NaBO2→NaBH4+2MgO……(8)
上述の反応について詳述すると、前記反応式(7)及び反応式(8)の反応が進行するにつれてマグネシウム粉末の表面が酸化マグネシウム(MgO)からなる酸化被膜で覆われてくる。このとき水素ガス(水素分子)は水素圧により酸化被膜の空隙を通って内部に侵入し、この酸化被膜の内側にあるマグネシウムと反応してその表面にプロダイドが生成する。一方、マグネシウム粉末の表面(酸化被膜の表面)にメタホウ酸ナトリウムが接触すると、下記の反応式(9a)〜(9d)に示すような反応が進行すると考えられる。即ち、先ず2個の酸化物イオンを有するメタホウ酸ナトリウムと、1個の酸化物イオンを有する酸化マグネシウムとの酸化物イオンの濃度差により、このメタホウ酸ナトリウム中の酸化物イオンが酸化被膜側に向かって押し込むといった、玉突き移動のごとき挙動を呈して順次既存の酸化物イオンを内部へ向かって押し込み、酸化被膜をマグネシウム粒子の内部に向けて形成させる。他方、マイナス2価の酸化物イオンがマグネシウム側に拡散移動することでメタホウ酸ナトリウムと、マグネシウム粉末との間には電気的なアンバランスが生じるので、電気的に平衡な状態になるために前記酸化物イオンと入れ替わるようにして2個のプロダイドが外側に向かって移動し、このプロダイドがメタホウ酸ナトリウムの酸化物イオンが抜けた空間に入り込むようにして結合することにより、水素化ホウ素ナトリウムが生成すると推測する。
【0031】
NaBO+Mg⇔[NaBO]2++MgO……(9a)
[NaBO]2++2H→NaBOH……(9b)
NaBOH+Mg→[NaBH2++MgO……(9c)
[NaBH2++2H→NaBH+MgO……(9d)
そして、例えば予定とする反応時間が経過すると、加熱を停止し、反応器内の水素雰囲気を例えば窒素で置換した後、反応生成物(NaBH4、MgO)を取り出して抽出工程が行われる(ステップS7)。この抽出工程の一例を挙げると、先ず一般に苛性ソーダなどのアルカリ水溶液に再結晶法により水素化ホウ素ナトリウムを結晶化させることで水素化ホウ素ナトリウムの結晶体を得る。また再結晶法に代えて、例えば無水のエチレンジアミン、液体アンモニアなどを用いる溶媒抽出法を用いるようにしてもよい。
【0032】
上述の実施の形態によれば、水素化ホウ素ナトリウムの水酸化ナトリウム水溶液を燃料液として用いる燃料電池から排出されたメタホウ酸ナトリウムを含む廃液にホウ酸を添加して中和し当該廃液をメタホウ酸ナトリウムの水溶液としているので、この水溶液を加熱により水分を蒸発させた結晶のメタホウ酸ナトリウムには、酸化ナトリウム(Na2O)等のアルカリ成分が殆ど含有されていない。そのため、このメタホウ酸ナトリウムとマグネシウムとの混合物を水素雰囲気加圧下において反応させた場合、後述の参考例に示すようにアルカリ成分であるNa2OとMgとの反応が全く起らないかあるいは殆ど起らないので、既述の(6)式に示すMgとH2との反応が活発に起り、その結果、既述の(8)式に示すMgH2とNaBO2との反応が進行することから、高い収率で水素化ホウ素ナトリウムを得ることができる。またメタホウ酸ナトリウムを含むアルカリ水溶液の廃液を原料として水素化ホウ素ナトリウムを製造しているので、廃液を有効利用することができて資源のリサイクル化を図ることができる。
【0033】
また水素化マグネシウム(MgH2)が安定して存在する反応平衡圧よりも低い圧力で加熱して反応させた場合、マグネシウムを高い利用効率で反応に寄与させることができるので、結果として運転コストを低く抑えることができる。さらに、反応圧力(水素圧)を低く設定できるため、加圧に要する動力を少なくでき、加圧装置も小型化できるので低コスト化を図ることができる。なお、反応圧力(水素圧)は、これに限定されるものではない。
【0034】
なお、本例のおいてはマグネシウムを用いた例を説明したが、既述の別のアルカリ土類金属を用いた場合であっても、水素圧によりそのアルカリ土類金属の水素化物が安定して存在する反応平衡圧よりも低い圧力に設定することで本発明の作用・効果を得られることは言うまでもなく、どのような平衡圧線となるかは上述したように予め実験を行って把握するのが好ましい。その一例を挙げておくと、例えばカルシウムの場合には、1000℃において0.03MPa、1100℃において0.1MPaの概ね直線関係となる。
【0035】
さらに、本発明においては、アルカリ土類金属に対して、例えば亜鉛(Zn)、鉄(Fe)、ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)から選択されるアルカリ土類金属以外の金属を例えば50%以下で共存させることもできる。これらの金属は、アルカリ土類金属と比較するとその性質は酸素を受け取り難いものであるため、単独ではメタホウ酸塩の水素化に寄与しないが、前記アルカリ土類金属と共存、例えば亜鉛とマグネシウムとを1:1で混合することにより、反応系の化学的なポテンシャルが高められ、上述のアルカリ土類金属と同じように酸素受容体として作用し、メタホウ酸塩の水素化反応に寄与する。
【0036】
本発明においては、より確実に高い収率を得るために原料の混合物に水素化触媒を添加してもよい。この水素化触媒としては水素を吸着・解離し得る金属であればよく、例えばNi、Co、Pt、Cu、Pd、Ru、Rhなどの金属が用いられ、特にNiが好ましい。また水素化触媒の添加量は、アルカリ土類金属に対して30重量%以下、一般に10〜20重量%であればよい。このような構成によれば、下記の反応式(10)に示すようにニッケルの表面に水素が化学的に吸着し、この吸着した水素とマグネシウムとが下記の反応式(11)に示すように反応してプロタイドが生成する。
【0037】
2Ni(表面)+H⇔2Ni・H(表面)……(10)
2Ni・H(表面)+Mg(表面)→2Ni(表面)+Mg2+・2H(表面)……(11)
本発明において、反応管内に供給する水素は純水水素に限られず、例えば一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO2)などの炭素酸化物、メタン(CH4)などの炭素水素化物などを含む水素ガスを用いてもよい。このような水素ガスの一例としては例えば天然ガスの改質ガス、バイオガス、コークス炉ガスなどが具体例として挙げられる。特に概ねメタン30体積%、一酸化炭素を6体積%を含むコークス炉の排ガスは、そのまま用いることにより、その熱を利用できると共に、含有する一酸化炭素及びメタンの成分がメタホウ酸塩の酸化物イオンに対して酸素受容体として作用するため水素化が促進されるので得策である。なお、水素は上記のものに限られず例えば水力発電機などを利用して水電解あるいは食塩電解などで得られる水素であってもよい。
〔第2の実施の形態〕
本発明に係るテトラヒドロホウ酸塩の製造方法の他の実施の形態について説明する。この実施の形態では、水素化ホウ素錯化合物例えば水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)をアルカリ水溶液である例えば水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液に溶解し、この水溶液を、例えば基材であるニッケルの表面に白金を被覆させた触媒体に接触させて水素ガスを発生させた後のメタホウ酸ナトリウムを含む廃液を出発物としている他は、上述の実施の形態と同様の方法で水素化ホウ素ナトリウムを製造する。なお、前記触媒体に接触すると下記の反応式(12)式に示すような化学反応が起こる。この場合、前記廃液には不純物がほとんど含有されていないので、前記廃液の濾過を必ずしも行わなくてもよい。
【0038】
NaBH4+2H2O→NaBO2+4H2……(12)
また本発明に用いる原料であるホウ酸塩を含むアルカリ水溶液としては、上述の廃液に限られるものではない。
【実施例】
【0039】
次に本発明の効果を確認するために行った実験について述べる。
A.実施例1
フッ化カリウムとフッ化水素とからなるフッ化処理の水溶液に浸漬してフッ化処理をしたNiFe合金を、ナフィオン(商品名、デュポン株式会社製)の液状樹脂と共にNi発泡体(縦80mm、横84.6mm、厚さ1.2mm、空隙率97%)の両面に塗布して触媒層を形成し、二つのNi−メッシュ板でこのNi発泡体を挟んで、圧力を加えて、これらを圧着することで作製した燃料極と、カーボンペーパにPt含有のカーボンブラックを塗布させた酸化剤極と、を用い、この二つの電極の間に透過膜として陽イオン交換膜であるナフィオン膜を介在させて図1に示す燃料電池を構成した。そしてこの燃料電池を用い、30重量%の水酸化ナトリウム水溶液に水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)を5重量%溶解させた燃料を温度60℃に調節し、0.135リットル/分の流量で燃料極に供給すると共に酸化剤である空気を加湿器で60℃にまで加湿し、5リットル/分の流量で酸化剤極に供給した。このときの燃料電池は、0.5V(定電圧)で燃料電池の発電時間は10時間である。
【0040】
次いでこの燃料電池の燃料として用いられた使用済みの燃料である16重量%のメタホウ酸ナトリウム(NaBO2)が溶解した8.6重量%の水酸化ナトリウム水溶液にホウ酸(H3BO3)を72.0g添加して完全に溶解させた後、この水溶液を400℃の温度で加熱して水分を完全に蒸発させ、結晶のメタホウ酸ナトリウムを161g得た。この結晶についてX線回折装置(XRD)による定性分析の結果、完全に無水メタホウ酸ナトリウムであることを確認した。
【0041】
続いて得られた結晶のメタホウ酸ナトリウム87.0gと平均粒径20〜40μmのマグネシウム粉末65.0gとを十分に攪拌及び混合し、その混合物をステンレス製の管状反応器に充填した。先ず、反応器内を0.001MPa以下の真空状態にし、そして400℃の温度で2時間加熱して反応器内の水分を低減させた。次いで、反応器内の温度を600℃とするために5℃/分の昇温速度で昇温させると共に600℃の温度状態において反応器内の圧力が3.0MPaとなるように水素ガスを供給した。このように反応容器内を所定の温度及び所定の圧力にしてから3時間経過した後、常温まで冷却して反応生成物を取り出し水素化ホウ素ナトリウムを無水エチレンジアミンにより抽出した。ヨウ素滴定法及び加水分解による水素発生法の分析の結果、水素化ホウ素ナトリウムの生成量は40.5gであり、水素化ホウ素ナトリウムの収率は81%であった。なお、収率は(実際の生成モル量/理論モル量)×100により求めた。
B.実施例2
10重量%の水酸化ナトリウム水溶液283gに水素化ホウ素ナトリウム50.0gを溶解した水溶液に、触媒として表面をラネー化したNi板(縦20mm、横40mm、厚さ0.2mm)を2枚浸漬して反応させた。このときの水素発生量は117.9リットルであり、理論水素発生量の99.5%であった。
【0042】
次いで水素を発生させた後の水溶液である27重量%のメタホウ酸ナトリウム(NaBO2)を含む8.8重量%の水酸化ナトリウム水溶液にホウ酸(H3BO3)を43.8g添加して完全に溶解させた後、この水溶液を400℃の温度で加熱して水分を完全に蒸発させ、結晶のメタホウ酸ナトリウムを130.5g得た。この結晶についてX線回折装置(XRD)による定性分析の結果、完全に無水メタホウ酸ナトリウムであることを確認した。
【0043】
続いて得られた結晶のメタホウ酸ナトリウム87.0gと平均粒径20〜40μmのマグネシウム粉末64.5gとを十分に攪拌及び混合して、その後実施例1と同様にして水素化ホウ素ナトリウムを得た。ヨウ素滴定法及び加水分解による水素発生法の分析の結果、水素化ホウ素ナトリウムの生成量は41.0gであり、水素化ホウ素ナトリウムの収率は82%であった。なお、収率は(実際の生成モル量/理論モル量)×100により求めた。
C.参考例
(参考例1)
メタホウ酸ナトリウム(NaBO2)0.34gを用いて、このメタホウ酸ナトリウム1モルに対して水酸化ナトリウム(NaOH)の粉末を0.5モルの添加割合で水に溶解して水溶液とした。次いで、この水溶液を400℃の温度で加熱して水分を完全に蒸発させ、NaBO2、Na2Oなどの結晶を得た。
【0044】
続いて得られた結晶と平均粒径100μmのマグネシウム粉末0.258gとを十分に攪拌及び混合して、その後実施例1と同様にして水素化ホウ素ナトリウムを得た。
(参考例2)
メタホウ酸ナトリウム1モルに対して水酸化ナトリウム(NaOH)の粉末を1モルの添加割合で水に溶解して水溶液とした他は、参考例1と同様にして水素化ホウ素ナトリウムを生成した。
(参考例3)
メタホウ酸ナトリウム1モルに対して水酸化ナトリウム(NaOH)の粉末を1.7モルの添加割合で水に溶解して水溶液とした他は、参考例1と同様にして水素化ホウ素ナトリウムを生成した。
(参考例4)
メタホウ酸ナトリウム1モルに対して水酸化ナトリウム(NaOH)の粉末を2モルの添加割合で水に溶解して水溶液とした他は、参考例1と同様にして水素化ホウ素ナトリウムを生成した。
(参考例5)
メタホウ酸ナトリウム1モルに対して水酸化ナトリウム(NaOH)の粉末を4モルの添加割合で水に溶解して水溶液とした他は、参考例1と同様にして水素化ホウ素ナトリウムを生成した。
(結果及び考察)
ヨウ素滴定法及び加水分解による水素発生法の分析により、参考例1〜参考例5の水素化ホウ素ナトリウムの収率を調べた。なお、収率は(実際の生成モル量/理論モル量)×100により求めた。その結果を図4に示す。図4中の横軸はNaOHの添加量(モル)であり、縦軸はNaBH4の収率(%)である。図4に示すように、NaOHの添加量が増えるとNaBH4の収率が低下することが分かる。これは、反応器内の反応において既述の(6)式に示す反応よりも下記の反応式(13)及び反応式(14)に示すように、MgによるNaの還元反応と、還元反応により生成したNaとH2との反応が優先的に起っていると思われる。
【0045】
2Mg+2Na2O→2MgO+4Na……(13)
4Na+2H2→4NaH……(14)
この反応ではNa若しくはNaHが生成するが、Na及びNaHによるNaBO2の還元反応は下記の反応式(15)に示すように、発熱反応であるため熱力学的には自発的には進行しない。
【0046】
4Na+NaBO2+2H2→NaBH4+2Na2O+455kJ……(15)
このようなことからNaOHの添加量が多い程、水素化ホウ素ナトリウムの生成量が低下することが理解できる。従ってメタホウ酸ナトリウムを含む水酸化ナトリウム水溶液にホウ酸を添加して当該水溶液を中和しメタホウ酸ナトリウムの水溶液とすることが有効であることが上述の実施例1及び実施例2から分かる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の一実施の形態に係る燃料電池を示す概略断面図である。
【図2】上記燃料電池から排出されたメタホウ酸塩を含む廃液からテトラヒドロホウ酸塩を製造する工程を示すフロー図である。
【図3】マグネシウム及び水素と、水素化マグネシウムの平衡圧線を示す説明図である。
【図4】水酸化ナトリウムの添加量と水素化ホウ素ナトリウムの生成量との関係を示した説明図である。
【符号の説明】
【0048】
A 水素化マグネシウムが安定して存在する反応領域
B マグネシウムの表面にのみプロダイドの生成する領域
C 水素化ホウ素ナトリウムが分解する領域
Q 水素化マグネシウムの平衡圧線
2 ケース体
21 透過膜
30 酸化剤極室
31 酸化剤極
32 流路部
40 燃料極室
41 燃料極
42 流路部
43 燃料貯槽


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホウ酸塩を含むアルカリ水溶液をホウ酸により中和する工程と、
この工程で得られた溶液を乾燥して固形のホウ酸塩を得る工程と、
この固形のホウ酸塩をアルカリ土類金属と混合する工程と、
この工程で得られた混合物を水素雰囲気下において加熱して水素化反応させることによりテトラヒドロホウ酸塩を得る工程と、を含むことを特徴とするテトラヒドロホウ酸塩の製造方法。
【請求項2】
前記ホウ酸塩を含むアルカリ水溶液は、テトラヒドロホウ酸塩のアルカリ水溶液を燃料として用いた燃料電池から排出されたアルカリ性廃液であることを特徴とする請求項1記載のテトラヒドロホウ酸塩の製造方法。
【請求項3】
前記ホウ酸塩を含むアルカリ水溶液は、テトラヒドロホウ酸塩のアルカリ水溶液から水素を発生させた後のアルカリ性廃液であることを特徴とする請求項1記載のテトラヒドロホウ酸塩の製造方法。
【請求項4】
前記アルカリ土類金属は、マグネシウムであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一に記載のテトラヒドロホウ酸塩の製造方法。
【請求項5】
前記水素化反応させる工程は、前記アルカリ土類金属の水素化物が安定して存在する反応平衡圧よりも低い圧力で加熱して反応させることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一に記載のテトラヒドロホウ酸塩の製造方法。
【請求項6】
前記水素化反応させる工程は、450℃以下の温度で水素ガスを供給した後、加熱により500℃〜650℃に昇温して反応させることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一に記載のテトラヒドロホウ酸塩の製造方法。
【請求項7】
前記テトラヒドロホウ酸塩が、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)、水素化ホウ素リチウム(LiBH4)又は水素化ホウ素カリウム(KBH4)であることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか一に記載のテトラヒドロホウ酸塩の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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