説明

テルミット反応組成物

【課題】従来のテルミット反応のような瞬時の激しい反応を制御でき、反応組成物の着火性を損なうことなく、燃焼持続性に優れたテルミット反応組成物を提供すること。
【解決手段】成分(a)及び(b);
(a)金属酸化物
(b)マグナリウム合金
を含有することを特徴とするテルミット反応組成物。好ましくはさらに成分(c)単体金属還元剤も加えた3成分系のテルミット反応組成物である。上記反応組成物を所定の充填密度にプレス成形した成形体は反応性が制御され、例えば金属蒸気放出装置の薬剤として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はテルミット反応組成物に関するものであり、詳しくは、従来知られているテルミット反応組成物に比べ、着火性、燃焼持続性に優れ、燃速抑制効果が大きいテルミット反応組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
テルミット反応とは、一般にアルミニウムによる金属酸化物の高温還元反応である。アルミニウムの粉末と金属酸化物とを混合しこれに点火すると激しい発熱反応が生じる。瞬時に高温が取り出せることから、溶接や冶金の分野においてこのテルミット反応が工業的に利用されている。
【0003】
特許文献1にはこのテルミット反応の溶接分野における応用例が開示されている。発熱反応によって多量の熱が得られるため、従来の電気溶接やガス溶接の方法と比べ大電流用電源装置やアセチレン、酸素といった大がかりなガス設備を簡素化できるという利点がある。
【0004】
また、特許文献2にはこのテルミット反応によって金属酸化物を還元し、遊離した金属を回収する冶金分野への応用例が開示されている。具体的には亜鉛酸化物及び鉄酸化物を含む鉄系廃棄物と金属アルミニウム及び窒化アルミニウムを含むアルミニウム系廃棄物との混合物からなる処理原料をテルミット反応に供し、亜鉛酸化物の還元により生じる亜鉛蒸気を窒化アルミニウムの分解により生じる窒素ガスと共に排出した後、還元雰囲気を維持しつつ亜鉛蒸気を冷却して亜鉛を固化させることにより、従来法では困難であった、純度の高い金属亜鉛の回収と、副生成物として得られる還元鉄を製鉄・製鋼原料として用いることが可能となっている。
【0005】
このようにテルミット反応によれば大規模な設備を必要とせず、少量で瞬時に大量の熱を取り出すことが可能であり上記した通り工業的に広く利用されている一方、その反応性の激しさから反応制御が困難であるため、ひとたび制御を失えば深刻な事故を引き起こす危険がある。従って、その反応を制御しようとする試みがなされている。
【0006】
特許文献3には、アルミニウム粉末及び酸化鉄粉末からなるテルミット剤をシリカセメントにより結合して所望の形状に成形してなるテルミット反応組成物が開示されている。しかし、テルミット反応に直接関与しない不活性な充填剤を添加し、見かけの反応を制御させた場合、反応熱を効率的に利用できない、あるいは、反応組成物の着火性、反応の持続性に悪影響を及ぼすといった問題点があり、その点を解決できるテルミット反応組成物が求められている。
【0007】
【特許文献1】特開平4−17985号公報
【特許文献2】特開2002−363660号公報
【特許文献3】特開2003−048796号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、従来のテルミット反応のような瞬時の激しい反応を制御でき、反応組成物の着火性を損なうことなく、燃焼持続性に優れたテルミット反応組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は上記課題を解決するため鋭意検討した結果、金属酸化物及び金属還元剤に新たに燃焼制御剤としてマグナリウム合金を添加したテルミット反応組成物が、低温で還元反応が開始されることを見出した。
また、該テルミット反応組成物を所定の充填密度にプレス成形した成形体を燃焼剤としたところ、着火性、発熱性を損なうことなく所望の燃焼反応となるよう制御することができ、持続的な燃焼反応を生じさせ得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下(1)〜(9)に示すものである。
【0011】
(1)次の成分(a)、(b);
(a)金属酸化物
(b)マグナリウム合金
を含有することを特徴とするテルミット反応組成物であり、
【0012】
(2)さらに成分(c);
(c)単体金属還元剤
を含有することを特徴とする前記(1)に記載のテルミット反応組成物であり、
【0013】
(3)成分(a)の金属酸化物が、SiO、Cr、MnO、Fe、Fe、CuO、Pbからなる群から選ばれた1種又は2種以上の化合物であることを特徴とする前記(1)又は(2)に記載のテルミット反応組成物であり、
【0014】
(4)成分(b)のマグナリウム合金が、アルミニウム:マグネシウム質量比が、40:60乃至60:40の範囲のアルミニウム−マグネシウム合金粉末であることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載のテルミット反応組成物であり、
【0015】
(5)成分(c)の単体金属還元剤が、平均粒径1〜20μmのアルミニウム粉末であることを特徴とする前記(2)〜(4)のいずれかに記載のテルミット反応組成物であり、
【0016】
(6)成分(a)の金属酸化物の含有量が、50〜98質量%である前記(1)〜(5)のいずれかに記載のテルミット反応組成物であり、
【0017】
(7)成分(b)のマグナリウム合金の含有量が、1〜49質量%である前記(1)〜(6)のいずれかに記載のテルミット反応組成物であり、
【0018】
(8)成分(c)の単体金属還元剤の含有量が、1〜49質量%である前記(2)〜(7)のいずれかに記載のテルミット反応組成物であり、
【0019】
(9)前記(1)〜(8)のいずれかに記載のテルミット反応組成物を、充填密度が0.5〜3.0g/cmとなるようプレス成形してなるテルミット反応組成物成形体である。
【発明の効果】
【0020】
本発明のテルミット反応組成物によれば、従来の一般的な組成のテルミット組成物に燃焼速度調整剤としてマグナリウム合金を配合することにより反応及び燃焼速度を低下させ、定常的な燃焼を継続させることができ、反応制御が可能になる。すなわち、本発明のテルミット反応組成物の各成分を所定の含有量にし、また、使用する各成分の粒径を特定することにより、所望の反応速度及び/又は燃焼速度とせしめることができる。
【0021】
また、上記の効果に加え、自らも積極的に反応に関わるマグナリウム合金を添加配合することにより、例えばテルミット反応に関与せず不活性な充填剤を添加して、見かけの反応速度を低下させた等の場合に比較して、高い反応熱が得られ、より高効率で熱を取り出すことが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下本発明について、実施の形態に基づき、詳細に説明する。
【0023】
本発明のテルミット反応組成物は、次の成分(a)、(b);
(a)金属酸化物
(b)マグナリウム合金
を含有することを特徴とするものである。
【0024】
また、前記テルミット反応組成物に、さらに成分(c)単体金属還元剤を含有することが好ましい。該成分(c)を添加することで、着火性を損なうことなく、充分な反応熱が得られ、高効率で反応熱を利用することができる。
【0025】
成分(a)の金属酸化物としては、二酸化ケイ素(SiO)、三酸化クロム(Cr)、二酸化マンガン(MnO)、三二酸化鉄(Fe)、四三酸化鉄(Fe)、酸化銅(II)(CuO)、鉛丹(Pb)からなる群から選ばれた1種又は2種以上の化合物であることが好ましく、さらに好ましくは反応の安全性、価格、ハンドリングの面から、三二酸化鉄(Fe)、四三酸化鉄(Fe)、酸化銅(II)(CuO)を用いることが好ましい。
金属酸化物の粒径としては平均粒径が0.01〜10μmの範囲、好ましくは0.05〜1μmである。
【0026】
成分(b)のマグナリウム合金としては、アルミニウム:マグネシウム質量比が40:60乃至60:40の範囲のアルミニウム−マグネシウム合金粉末であることが好ましい。マグナリウム合金の粒径としては平均粒径が0.1〜250μmの範囲、好ましくは0.1〜100μm、さらに好ましくは1〜50μmの範囲のものが望ましい。粒径が250μmを超えると、成分の一部が燃焼しながら飛散し易くなり、また、着火性が乏しくなる。また、粒径が0.1μmに満たないものは、反応性が高まり、危険性が高くなる。
【0027】
成分(c)の単体金属還元剤としては、還元剤として作用する単体金属が挙げられ特に限定されないが、入手の容易さ、適用例の豊富さの観点から好ましくはアルミニウム粉末が好ましい。そのような単体金属還元剤の粒径としては、平均粒径が1〜20μmの範囲であることが好ましく、より好ましくは、5〜10μmの範囲である。1μmより粒径が小さくなると、燃焼が激しくなり制御が難しく、また危険度が増す。また20μmより大きいと燃焼中断が生じるおそれがある。
【0028】
本発明のテルミット反応組成物の各成分の含有量としては、(a)の金属成分の含有量が50〜98質量%であることが好ましい。また、(b)のマグナリウム合金の含有量は1〜49質量%であることが好ましい。また、(c)の単体金属還元剤の含有量は1〜49質量%であることが好ましい。
成分(c)の単体金属還元剤を配合する場合には、着火性、燃焼性の面から成分(b)のマグナリウム合金の含有量と同程度にすることが好ましい。
これら成分(a)、(b)及び(c)の3成分のより好ましい組成は、反応性の面から(a)60〜85質量%、(b)7.5〜20質量%、(c)7.5〜20質量%である。
【0029】
本発明のテルミット反応組成物は、好ましくは所定の形状に成形してテルミット剤として用いる。すなわち上記(a)〜(c)の各成分粉末を所定量計量後混合し、好ましくは所定の容器内に充填後、プレスすることによって成形体を準備する。
その際、成形体の充填密度を0.5〜3.0g/cmとすることが反応制御性、安全性、燃焼持続性、サイズ等の面から好ましい。
その際、上記3成分以外にも、着火性能、燃焼性能、発熱性能を損なわない範囲で、成形体の耐振動性、耐衝撃性、成形性を高める目的でバインダー剤、コーティング剤等を適宜配合してもよい。
【0030】
上記成形体を反応容器に投入し、電熱線、点火玉等の着火装置によって該テルミット反応成形体に着火し、反応を開始させ、制御された反応によって得られる発熱を利用する。
【0031】
例えば、金属蒸気放出のための薬剤として用いた場合、本発明のテルミット反応成形体に混合又は隣接して固体状金属を配置し反応させることで、得られる反応熱を利用して金属を蒸気化しながら放出することができる。本発明のテルミット反応組成物によれば、制御された定常的な反応となるため、持続的に金属蒸気を放出することができるようになる。
【実施例】
【0032】
以下、本発明を、実施例に基づいて説明する。尚、本発明は、実施例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0033】
[テルミット反応組成物の熱分析試験]
実施例1
テルミット反応組成物におけるマグナリウム合金添加効果を比較するため、熱分析を行った。SII社製:DSC6200を使用し、Alをリファレンスとし、30〜750℃の範囲で10℃/minの昇温速度、Nガス50ml/min下で測定を行った。試験品種及び組成とともに得られた吸熱及び発熱ピークの結果を下表1に示す。
【0034】
【表1】

Fe:トダカラー100ED、戸田ピグメント(株)製、平均粒径0.1μm
Al:VA−2000、山石金属(株)製、平均粒径5〜10μm
MgAl:丸中金属(有)製、Al/Mg(50:50質量%)、平均粒径45μm
Mg+Al:(VA−2000、山石金属(株)製、平均粒径5〜10μm)/(Mg−100、山石金属(株)製)(50:50質量%)
【0035】
熱分析の結果、上表に示した通り、金属酸化物にMgAl合金(マグナリウム合金)を添加した試験品4は540℃付近に酸化(テルミット反応)によるものと考えられる発熱ピークが観測され、試験品1〜3ではこの測定温度範囲内において発熱ピークが観測されなかった。
一方試験品5では、658℃付近にアルミニウムまたはマグネシウムに起因すると考えられる吸熱ピークの他に、637℃付近に発熱ピークが観測された。
MgAl合金を用いた試験品4の方が約100℃低温側で反応が開始されており、反応制御の面からMgAl合金の添加がより効果的で有利であることが示唆された。
【0036】
[テルミット反応組成物の燃焼性評価]
実施例2
金属酸化物として三二酸化鉄(戸田ピグメント(株)製、トダカラー100ED、平均粒径0.1μm)を10部と、単体金属としてアルミニウム(山石金属(株)製、VA−2000、平均粒径5〜10μm)を1部、さらにマグナリウム合金(丸中金属(有)製、Al−Mg(50:50質量%)、平均粒径45μm)1部を良く混和して、テルミット反応組成物とした。
【0037】
次に、得られたテルミット反応組成物をアクリルパイプ(外径30mm、内径20mm、長さ150mm)に充填密度1.50〜1.70g/cmとなるよう(約75g)になるようにプレス充填し、供試体とした。
【0038】
得られた供試体の上端に電熱線を押しつけた状態で固定し、電熱線に20Vの電圧を印加することにより点火し、燃焼の様子を観察した。
【0039】
さらに、火薬学会規格に定められているイオンギャップ爆速測定法に基づく燃焼速度計測を行った。具体的には、エナメル被覆銅線を撚り合わせて先端を切断して作製した微小電極を予め供試体に挿入しておき、燃焼面が通過する際に短絡されることにより、接続したパルス発生回路から発生したパルス信号を利用して微小電極間のパルス信号の時間間隔から燃焼速度を算出した。
【0040】
同様に、テルミット反応組成物の各組成を変え試験を行い、燃焼速度とともに、着火性及び反応熱の評価を行った。なお、発熱性については反応物に金属リチウム線を接触させ、完全にリチウムが燃焼するか否かで判断した。下表に、着火性、燃焼速度、燃焼持続性及び発熱性の評価結果を示す。
【0041】
【表2】

[◎、○、×、△の意味(判断基準)]
着火性 : ○/× = 10秒以内に着火/60秒以上必要
燃焼持続性 : ◎/○/× = 非常に安定/安定/反応激しく高速度
発熱性 : ◎/○/△ = 反応激しく高温/安定して高温/若干低温
【0042】
表2に示した通り、マグナリウム若しくはマグネシウムを添加した系では、著しく着火性が向上した。これは従来のテルミット組成物の欠点を十分に補い得るものである。また、マグナリウムを添加した系では従来のアルミニウム単体の系と比較して、安定した燃焼が持続する結果が得られた。燃焼速度が低下した一方で、マグナリウムも積極的に燃焼に参加した結果、燃焼熱を失うことなく安定した燃焼を実現した。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明のテルミット反応組成物によれば、従来の瞬間的な激しい燃焼ではなく、任意に反応性及び燃焼速度が選べることから、溶接や冶金をはじめ、金属蒸気放出装置等に広く利用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の成分(a)及び(b);
(a)金属酸化物
(b)マグナリウム合金
を含有することを特徴とするテルミット反応組成物。
【請求項2】
さらに成分(c);
(c)単体金属還元剤
を含有することを特徴とする請求項1に記載のテルミット反応組成物。
【請求項3】
成分(a)の金属酸化物が、SiO、Cr、MnO、Fe、Fe、CuO、Pbからなる群から選ばれた1種又は2種以上の化合物であることを特徴とする請求項1又は2に記載のテルミット反応組成物。
【請求項4】
成分(b)のマグナリウム合金が、アルミニウム:マグネシウム質量比40:60乃至60:40の範囲のアルミニウム−マグネシウム合金粉末であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のテルミット反応組成物。
【請求項5】
成分(c)の単体金属還元剤が、平均粒径1〜20μmのアルミニウム粉末であることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載のテルミット反応組成物
【請求項6】
成分(a)の金属酸化物の含有量が、50〜98質量%である請求項1〜5のいずれかに記載のテルミット反応組成物。
【請求項7】
成分(b)のマグナリウム合金の含有量が、1〜49質量%である請求項1〜6のいずれかに記載のテルミット反応組成物。
【請求項8】
成分(c)の単体金属還元剤の含有量が、1〜49質量%である請求項2〜7のいずれかに記載のテルミット反応組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載のテルミット反応組成物を、充填密度が0.5〜3.0g/cmとなるようプレス成形してなるテルミット反応組成物成形体。

【公開番号】特開2009−29661(P2009−29661A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−195481(P2007−195481)
【出願日】平成19年7月27日(2007.7.27)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 社団法人火薬学会2007年度年会 社団法人火薬学会 平成19年5月10日
【出願人】(000228349)日本カーリット株式会社 (269)