説明

テルミット溶接用端子付ケーブル

本発明は、テルミット溶接における溶接面積の増大と溶接端子の強度を向上させることを目的とする。本発明によるテルミット溶接用端子付ケーブルは、前記流入された溶材が固化してなる溶着金属を介して母材にテルミット溶接される。当該テルミット溶接用端子付ケーブルは、内部に導線が挿入され、前記凹部の少なくとも一部の長さ方向において、該凹部の表面に密着し第2開口部の開口面と面一となる形状を有する第1部分と、前記第1開口部の開口面と所定距離を隔てて前記第1部分の一端部から前記空洞部内まで延びる第2部分と、を有して構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テルミット溶接用端子付ケーブルに関し、具体的には、従来のテルミット溶接具を用いて、母材と溶接用端子付ケーブルとの溶接面積を従来に比して拡大させることができるテルミット溶接用端子付ケーブルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
テルミット溶接は、母材の表面近傍でアルミニウムと酸化銅(または酸化鉄)の混合粉に点火してそれを燃焼させ、その化学反応によって生じた熱で銅(または鉄)と母材の一部を溶融して溶着を行うというものである。テルミット溶接の用途は、主として、鉄道分野において2つのレール母材同士でボンド線と称する銅等のケーブルを用いて電気的に接続したり、地中に埋没された導管を接続したりする場合に用いられる。図5に鉄道用レール上にテルミット溶接を行った態様を示す。
テルミット溶接を行うためには特殊な器具を用いる必要があり、以下、当該特殊器具を坩堝と称し、当該坩堝を構成する部分で、銅線等のケーブルを接続した溶接端子と母材との溶着を行う部分を溶接具と称する。
【0003】
以下、図6(a)を参照して一般的な坩堝の構成を説明する。坩堝61は、その内部にテルミット材62と点火材63とを収容し、点火材に点火してそれらを燃焼させるための燃焼室65と、燃焼後に溶融したテルミット材62を流動させるための通路67と、ケーブルを接続した溶接端子を挿入するための挿入部69と、溶融したテルミット材62を通路67から流入させて母材と溶接端子とを溶着するための凹部68とからなる。凹部68及び挿入部69は面70に開口部を有する。
燃焼前の状態において、燃焼室の底はスチールディスク64で塞がれており、その下方には通路67が延びている。
【0004】
テルミット溶接を行う前の準備作業としては、図6(b)に示したように、テルミット材62及びそれを覆うように点火材63を充填し、続いて、少なくとも先端部が凹部68内に位置し、挿入部69の形状に適合するように、ケーブルが接続された溶接端子71を挿入部69に配置し、さらに、母材表面(図示せず)と溶接端子71の面及び面70とを当接して凹部68を封止する。なお、溶接端子71の面と面70とは面一となっている。
【0005】
続いて、テルミット溶接を行うために、点火剤63に点火することによって、テルミット材62に以下に示すような燃焼反応が起き(銅テルミット溶接の例を示す)、このときの発熱によって、テルミット材62を構成する金属成分を溶融する。
2Al+3CuO → 3Cu+Al+ΔQ(発熱)
その際、同時にスチールディスク64も溶融し、溶融金属は通路67を通って下方に流出する。通路67から凹部68内に向けて溶融金属が流れ込む。このようにして、溶融金属は、凹部68内において、その熱で母材と溶接端子の一部(ケーブルの先端部も含む)も溶融して、冷却後に、溶接端子(内部にケーブルを含む)の一部を内部に含んだ状態で母材表面上に溶着部(図6(c)の符号72参照)を形成し、溶着部72を介して母材73と溶接端子71とを固着する。テルミット溶接後における母材表面、溶着部及び溶接端子を側面からみた態様を図6(c)に示す。実際のテルミット溶接時には、母材研磨、予熱、テルミット溶接後の坩堝の取り外し、スラグ除去、整形等の作業が必要になるが、これらは当業者にとっては既知であるので詳細な説明は省略する。
【0006】
【特許文献1】特開2005−7461号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した一般的な溶接具を用いたテルミット溶接では、図6(c)に示したように、溶融金属が溶着する部分は、溶接端子については凹部68内に位置していた溶接端子の表面部に相当しおおよそ点線で示す領域部分Zであり、母材73の表面については坩堝61の面70における凹部68の開口部内であって、溶接端子以外の領域部分Vである。母材と溶接端子との溶接面積は、領域Vと領域Zの和であるため、テルミット溶接前に溶接端子71を凹部68内に配置する位置によって決定される。したがって、溶接端子71の凹部68内に配置される領域部分が多くなれば、母材73の表面における溶着面積は小さくなり、溶接端子の凹部68内に配置される領域部分が小さくなれば、溶接端子における溶着面積は小さくなり、何れの場合を採用しても溶接端子と母材表面との当接領域Wは溶接されないので、溶接強度の面で不安がある。
また、従来の溶接端子付ケーブルの溶接端子は、通常、銅で製造され内部に挿入したケーブルと圧着工程によって接続されることが一般的であり、例えば、離間した鉄道用レール同士を電気的に接続するために、銅製端子付ケーブルを用いて鉄道用レール上にテルミット溶接を行った場合、銅はその特性において展性・延性に富む反面、強度がさほど高くないので、外力の影響を受けて端子が破損する可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した問題を解決するために鋭意検討した結果、出願人は、テルミット溶接時に溶接具の所定位置に、ケーブルが接続された溶接用端子を配置すると、挿入部69内の少なくとも長手方向の一部分において溶接具の面70と面一となり、凹部68への貫通路を封止する封止部を形成する第1部分と、前記第1部分の末端部から面70と所定距離を隔てながら凹部68内に延びる第2部分とを有して一体形成され、テルミット溶接を行うと、母材表面と第2部分との間(W領域)、あるいは、母材表面と挿入部69との離隔する空間内も溶接することができるテルミット溶接用端子付ケーブルを発明した。
また、銅製端子を使用した場合における上述の問題を解決するために、溶接端子を鉄製とし、内部に挿入したケーブルが溶接端子全体に渡って密着するように圧着・加工して一体的に接続し、外力による影響に耐えうる溶接端子付ケーブルを提供する。
【0009】
(1)上述の目的を達成するために、本発明のテルミット溶接用端子付ケーブルは、溶材を流入し、母材表面と当接する面に第1開口部を有する空洞部と、前記母材表面との当接面に第2開口部を有して、前記空洞部に連通する凹部と、を具備した溶接具を用いて、前記流入された溶材が固化してなる溶着金属を介して母材にテルミット溶接され、内部に導線が挿入され、前記凹部の少なくとも一部の長さ方向において、該凹部の表面に密着し第2開口部の開口面と面一となる形状を有する第1部分と、前記第1開口部の開口面と所定距離を隔てて前記第1部分の一端部から前記空洞部内まで延びる第2部分と、を有して構成される。
(2)また、本発明のテルミット溶接用端子付ケーブルは、第2開口部の開口面と面一になる第1部分の面と、第1開口部の開口面と対向する第2部分の面とが、段差部を形成することができる。
(3)さらに、本発明のテルミット溶接用端子付ケーブルは、テルミット溶接において、前記第2部分の面と母材表面との間に前記溶着金属が充填されることができる。
(4)さらに、本発明のテルミット溶接用端子付ケーブルの溶接用端子は鉄製とすることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の第1実施形態では、テルミット溶接用鉄製端子付ケーブルが、上記溶接具の凹部の少なくとも一部の長さ方向において、該凹部の表面に密着し第2開口部の開口面と面一となる形状を有する第1部分と、前記第1開口部の開口面と所定距離を隔てて前記第1部分の一端部から前記空洞部内まで延びる第2部分とを有して構成されるので、テルミット溶接を行うと、互いに対向して所定間隔を有する母材表面と第2部分との空間内にテルミット溶材が流入して溶着部が形成され、その結果、母材とテルミット溶接用鉄製端子付ケーブルとの溶接面積の拡大を図ることができる。
本発明の第2実施形態では、第1部分と第2部分とが段差部を形成する。これは、例えば、ケーブルを端子内部に挿入し、端子の所定の位置から内部のケーブルと共に圧着を開始して、厚みの大きい部分と小さい部分とを形成するように加工すれば、テルミット溶接用端子付ケーブルを容易に製造することができる。
本発明の第3実施形態では、少なくとも前記第2部分の面と母材表面との間に前記溶着金属が充填されるので、従来の溶接端子付ケーブルに比較して溶接面積を増大させて、溶接強度を向上させることができる。
本発明の第4実施形態では、溶接端子が鉄製なので、溶接端子の強度が向上し、圧着等により一部分を塑性変形させても外力によって溶接端子に破損等が生じ難いという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の好ましい実施形態について実施例を挙げ、図面を参照して説明する。なお、各図において、同じ構成要素には同じ符号を用い、適宜その説明を省略する場合がある。
【実施例1】
【0012】
図1は、本発明による溶接端子付ケーブル1の斜視図を示している。当該溶接端子付ケーブル1は、貫通孔を有する端子に銅等のケーブル5を挿入し、端子及びケーブルを圧着する等、塑性変形させた端子の外表面が、段差部6を介して連接される2つの略長方形状の面3及び面4と、丸屋根状の面2とからなるように形成される。ケーブルは端子の内部面で密着している。
【0013】
図2は、図6で示した従来の坩堝61を用いてテルミット溶接を行うために、ケーブル挿入部69に本発明による溶接端子付ケーブル1を配置した図を示している。
当該坩堝61を構成する溶接具には、溶材を流入し、母材表面(図示せず)と当接する面70に開口部を有する空洞部68と、前記母材表面(図示せず)との当接面70に開口部を有して、空洞部68に連通する挿入部69とが具備されている。
本発明の溶接端子付ケーブルの溶接端子は、挿入部69内の長さ方向の一部において、丸屋根上の表面2が挿入部69の内表面に密着し、略長方形状の表面3が面70と面一になっている。また、本発明の溶接端子付ケーブルの溶接端子は、挿入部69の残りの部分及び空洞部68においては、挿入部69の内表面を密着しながら、表面4を含む部分が空洞部68内まで延び、面4と面70との間に段差部6による段差距離が隔てられている。
【0014】
続いて、図2に図示されていない母材表面を面70に当接させることにより、空洞部68及び挿入部69を封止してテルミット溶接を行う。空洞部に流入された溶融金属は、面3と母材表面との当接、及び、面70と母材表面との当接によって封止されているので、溶接具外に漏れ出ることはない。
【0015】
テルミット溶接における溶着部を介して溶接された母材表面と溶接端子表面との状態を示した側面図を図3に示す。
図3では、溶接端子の段差部6によって形成された母材33の表面と溶接端子の面4との間の隙間30に、テルミット溶接時に溶融金属が流入して溶着部を形成している。これにより、点線で示した溶接端子の外表面における溶接領域Z’及び母材33の表面の溶接領域V’が、従来技術による図6(c)の各溶接領域Z及びVと比較して増大していることがわかる。
【0016】
次に、本発明による溶接端子付ケーブルの別の実施形態を図4に示す。図4(a)は、略長方形状の面3と丸屋根状の面2を有する第1部分と、第1部分の端面から圧着され略直方体形状に形成され、面4を有する第2部分とで構成された溶接端子付ケーブルの斜視図を示している。当該溶接端子付ケーブルは、溶接具に配置されると、第1部分の丸屋根状の面2が挿入部69の内表面に密着配置され、第2部分が空洞部内に配置される。図4(a)に係る実施形態は、第1部分の丸屋根状の面2のみが挿入部の内表面に適合して位置合わせできるように形成されている。したがって、テルミット溶接の準備工程において、当該溶接端子付ケーブルの面4を含む第2部分が挿入部69に配置された場合、挿入部69内においてガタツキが生じて誤配置であると認識できる。そして、面3及び面70に母材の表面を当接させてテルミット溶接を行うと、第2部分が溶融金属に覆われるとともに、母材の表面と第2部分の面4との間の空隙にも溶融金属が流入して溶着部を形成し、その結果、溶接面積の増大が図られることとなるので、溶接強度が向上する。
【0017】
図4(b)は、溶接端子にケーブルを挿入し、圧着等によって溶接端子及びケーブルを略直方体形状に塑性変形させて加工し、さらにその一面において段差部6を形成して、それを介して面3と面4とを連接させた溶接端子付ケーブルの斜視図を示している。当該溶接端子付ケーブルは、溶接端子とケーブルとを直方体形状に加工してから、その一面に段差を形成する工程のみなので、容易に製造することができる利点がある。ただし、溶接具の挿入部の内表面が、面3及び面4以外の外表面と適合するように形成される必要がある。そして、溶接具の挿入部に配置後、面3及び面70を母材表面と当接させてテルミット溶接を行うと、母材の表面と面4との間の空隙にも溶融金属が流入して溶着部を形成し、その結果、溶接面積の増大が図られることとなるので、溶接強度が向上する。
【実施例2】
【0018】
本発明による別の実施形態では、ケーブルとともに圧着加工される溶接端子を鉄製とする。鉄製の端子とケーブルを接続するために、内部に貫通孔を有する鉄製端子にケーブルを挿入し、母材表面に対向する面に段差部を形成し鉄製端子とケーブルとを内部で密着するように同時に圧着加工する。溶接端子を鉄製にした場合、その強度が高いので、外力を受けても端子が損傷を受けることはなく、鉄又は銅テルミット溶接のいずれにおいても良好な溶接を確保することができる。
【0019】
本発明による溶接端子付ケーブルは、従来の溶接端子を用いた場合と比較して、溶接面積を増大するとともに、テルミット溶接後の溶接端子の損傷の発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明による溶接端子付ケーブルの斜視図。
【図2】従来の坩堝のケーブル挿入部に本発明による溶接端子付ケーブルを配置した図。
【図3】本発明によるテルミット溶接後における溶着部を介して接続された母材表面と溶接端子表面との状態を示した側面図。
【図4】本発明による溶接端子付ケーブルの別の実施形態。
【図5】鉄道用レール上にテルミット溶接を行った態様図。
【図6】(a)従来技術における坩堝。(b)従来技術による溶接端子付ケーブルの配置図、(c)従来技術によるテルミット溶接後の側面図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶材を流入し、母材表面と当接する面に第1開口部を有する空洞部と、
前記母材表面との当接面に第2開口部を有して、前記空洞部に連通する凹部と、
を具備した溶接具を用いて、前記流入された溶材が固化してなる溶着金属を介して母材にテルミット溶接され、
内部に導線が挿入され、
前記凹部の少なくとも一部の長さ方向において、該凹部の表面に密着し第2開口部の開口面と面一となる形状を有する第1部分と、
前記第1開口部の開口面と所定距離を隔てて前記第1部分の一端部から前記空洞部内まで延びる第2部分と、
を有して構成されるテルミット溶接用端子付ケーブル。
【請求項2】
第2開口部の開口面と面一になる第1部分の面と、第1開口部の開口面と対向する第2部分の面とが、段差部を形成することを特徴とする請求項1に記載のテルミット溶接用端子付ケーブル。
【請求項3】
少なくとも前記第2部分の面と母材表面との間に前記溶着金属が充填されることを特徴とする請求項1又は2に記載のテルミット溶接用端子付ケーブル。
【請求項4】
前記溶接用端子は鉄製であることを特徴とする請求項1ないし3の何れかに記載のテルミット溶接用端子付ケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2010−504217(P2010−504217A)
【公表日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−528742(P2009−528742)
【出願日】平成19年9月25日(2007.9.25)
【国際出願番号】PCT/EP2007/060163
【国際公開番号】WO2008/037714
【国際公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)