説明

テルルを含む土壌等からテルルを回収する方法

【課題】テルル汚染土壌から植物採掘または植物抽出によりテルルを回収し、除染する。
【解決手段】テルルを含む土壌から、テルルを回収する方法であって、乾燥重量ベースで地上組織1kgあたり4mgを超える、通常は約4mgから20mgの範囲でテルルを蓄積する、少なくとも一種類のMedicago sativa植物、もしくは少なくとも一種類のAbelmoschus esculentus植物がこのような量のテルルを蓄積することを可能にするのに十分な条件下で、栽培する工程、ならびに該蓄積されたテルルを回収する工程を含むテルルを含む土壌から、テルルを回収する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テルルを高濃度に蓄積する植物を用いてテルルを回収する方法、特にテルルを含む土壌からテルルを回収するためのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
採掘、精錬および製造廃棄物の処理などの工業的手法や、使用済み製品の廃棄は、自然環境における有毒金属の濃度を増加させてきた。テルル(Te)も熱電変換素子、書き変え可能光ディスク、太陽電池素子、その他の半導体素子に使用しこれらが廃棄されることで土壌等に蓄積される。
【0003】
例えば、多くの精錬の用地では、土壌中のテルルのレベルが非常に高くなったので、わずかな植物しか残存せず、局所的な生態系の深刻な崩壊を生じた。汚染された土壌で生産された作物や植物は、たとえ濃度が低くても、ヒトや動物体内に蓄積し、健康を害し得る。近年使用が盛んになってきたテルル含有製品の廃棄物からのテルル流出もまた、生態系の崩壊を生じさせる可能性が想定できる。(非特許文献1、非特許文献2)。
【非特許文献1】Cunningham et al., “Phytoremediation to Contaminated Soils”, Trends Biotechnol. 13:393−397(1995)
【非特許文献2】浅見輝男, 〜データで示す〜 日本土壌の有害金属汚染,2001,288−297)
【0004】
従来、特定の植物種の、特定の元素を含有する土壌において生長する能力、およびその組織中に特定の元素を活発に蓄積する能力を用いて、測定の元素を回収し、または土壌を除染するために、土壌から特定の元素を抽出するという試みがなされてきた。
【0005】
一方、従来技術として、植物採掘または植物抽出することによって土壌からニッケル、コバルト、マンガン、亜鉛、銅などの金属を回収する方法が下記特許文献1に記載されている。
【0006】
さらに、従来技術として、Thalaspi caerulescens由来の亜種を生育させ、植物採掘または植物抽出することによって土壌からカドミウムおよび亜鉛を回収するための方法が下記特許文献2に記載されている。
【特許文献1】特開2002−529234号公報
【特許文献2】特開2002−530533号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、テルルに関しては情報や研究が乏しく、テルルを土壌から回収し、土壌を除染する技術は確立されておらず、テルルに対する超蓄積体(hyperaccumulator)植物は、これまで発見されていない。テルルの場合、一旦、土壌に入ると、それらは比較的不動であり、かつ無機化合物であるが故により毒性の少ない物質へと分解しにくいので、それらの除去は難しい。一方、汚染土壌に対して、土の除去および入れ替え等の土壌改善の工学的方法は高価すぎて実施することができない。また上記いずれの公知の技術によっても植物によるテルルの回収をなし得ない。そこで、本発明では、テルルを高濃度に蓄積する植物を用いてテルルを回収する方法、特にテルルを含む土壌からテルルを回収するためのその使用に関する。特にテルル汚染土壌等から植物採掘または植物抽出によりテルルを回収し、除染することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意研究を重ねた結果、Medicago sativa植物およびAbelmoschus esculentus植物が、本発明者らが調べた植物の中でよりテルルの蓄積性が高いことを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち超蓄積体(hyperaccumulator)植物は、工業廃棄物から堆積する土壌におけるテルル濃度を減少させるために用いられ得る。汚染された土壌で、汚染物質を抽出するために植物(作物を含む)を栽培することは、植物抽出といわれる。この方法は、土壌の肥沃性および景観を保ちながら、崩壊および分散をほとんど引き起こさないので、特に、汚染された耕作に適した土壌において有効である。
【0009】
(蓄積機能)
なお、Medicago sativa植物およびAbelmoschus esculentus植物がテルルの超蓄積体として最適であることは、根で吸収されたテルルが葉へと移行しやすく、バイオマスの大きい地上部において高濃度で蓄積され、テルルの回収が効率的であるためと推測される。
即ち、本発明は、以下の事項に関する。
【0010】
アオイ科トロロアオイ属(Medicago sativa)植物および/またはマメ科ウマゴヤシ属(Abelmoschus esculentus)植物を、テルルを含む媒体上で栽培し、テルルを吸収、蓄積させた後に、植物を収穫し、収穫した植物よりテルルを回収する方法である。
【0011】
また、乾燥重量ベースで地上組織1kgあたり4mgを超える、通常は約4mgから20mgの範囲でテルルを蓄積する、少なくとも一種類のMedicago sativa植物、もしくは少なくとも一種類のAbelmoschus esculentus植物がこのような量のテルルを蓄積することを可能にするのに十分な条件下で、栽培する工程、ならびに蓄積されたテルルを回収する工程を包含するテルルを含む土壌からテルルを回収する方法である。
【0012】
さらに、テルル含有土壌で栽培された、単離されたMedicago sativa植物、もしくはAbelmoschus esculentus植物であって、Medicago sativa植物、もしくはAbelmoschus esculentus植物は、地上組織にテルルを、組織の乾燥重量1kgあたり4mgを超える、通常は約4mgから20mgの範囲でテルルを蓄積する、Medicago sativa植物、およびAbelmoschus esculentus植物である。
【0013】
加えて、テルルを含む土壌を除染する方法であって、乾燥重量ベースで地上組織1kgあたり4mgを超える、通常は約4mgから20mgの範囲でテルルを蓄積する、少なくとも一種類のMedicago sativa植物、もしくはAbelmoschus esculentus植物を、該少なくとも一種類のMedicago sativa植物、もしくはAbelmoschus esculentus植物がこのような量のテルルを蓄積することを可能にするのに十分な条件下で、栽培する工程を包含するテルルを含む土壌を除染する方法である。
【0014】
したがって、本発明は、金属、特にテルルに富んだ土壌を植物採鉱または植物抽出することによって金属の回収を行う新しいシステムに関する。
【0015】
さらにまた、本発明は、少なくとも一種類の超蓄積植物を金属含有土壌で栽培して、少なくとも一種の超蓄積植物の地上組織における金属濃度が土壌における金属濃度を越えることを特徴とする、金属含有土壌の浄化方法に関する。
【発明の効果】
【0016】
以上、本発明は、テルル含有土壌を、少なくとも一種類のMedicago sativa植物、もしくは少なくとも一種類のAbelmoschus esculentus植物で植物採掘もしくは植物抽出することで、土壌を除染し、テルルを回収することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本研究においては、さまざまな科の、各種広範な植物を選別することにより、有益量のテルルを蓄積し、かつテルルの超蓄積体である植物をFabaceae科Medicago属中、およびMalvaceae科Abelmoschus属で確認した。金属を含有している土壌で選択された植物を栽培することによって、根から吸収された植物を茎、葉、花などの地上組織並びに他の葉および茎組織に移動させることができる。この特徴によって、土壌から抽出された金属を回収するのが容易になる。
【0018】
定義によれば、超蓄積体植物は、それらが進化した土壌における金属濃度より高い濃度の金属を植物体内に蓄積し、かつ葉における濃度が根における濃度を上回っている。葉も含めると、地上組織における金属濃度は約0.001%であるが、存在量の少ないテルルにおいては、0.001%程度回収できれば、汚染された土壌を浄化するのには十分効果的であるといえる。
【0019】
(バイオマス材料からのテルルの回収)
栽培の後、超蓄積植物を従来のやり方で、即ち、地面のところで切って収穫する。次いで、収穫材を、干し草を乾燥するように、畑に放置して乾燥させる。または、植物組織中の大部分を強制加熱した空気で乾燥することによって除去するようにして、収穫材を乾燥する。あるいは、収穫材を冷凍し、その後低温低圧下において凍結乾燥によって乾燥させる。乾燥の後、植物組織を集め、エネルギー回収を伴うか伴うことなく灰にまでする。
【0020】
約260〜1000℃の従来の溶融、焙焼および焼結温度であれば、乾燥植物材を燃焼して存在する有機金属を酸化および気化し、焼成の間にダイオキシンが蓄積するのを防ぐのに十分である。好ましい温度は、灰から有機炭素を除去するのに十分な程度の温度である。最も好ましい温度は約1000℃である。この工程によって、金属精製の障害となるとして知られている汚染物質を殆ど含むことなく、蓄積された金属の残さが得られる。さらに、灰中の他の成分の濃度は、従来法で採鉱された鉱石の場合よりもはるかに低いことが期待される。
【0021】
地上部組織に自然にテルルを濃縮する植物としては、アルファルファとして知られているウマゴヤシ属のサティバ(Sativa)、およびオクラとして知られているトロロアオイ属のエスキュレンタス(Esculentus)を挙げることができる。当該植物を汚染された土壌で栽培すると、前記金属がテルル超蓄積ウマゴヤシ植物種中およびトロロアオイ植物種中に蓄積する。
【0022】
以下の例は本発明の方法を説明するものであるが、かかる実地例は、本発明を何ら限定しない。当業者に自明であるさまざまな条件を適切に変更したり改めたりすることは、通常、行われることであり、それらは本発明の精神および範囲内である。
【実施例】
【0023】
(アルファルファおよびオクラの収穫)
まず、オクラ、ベニバナ、アルファルファ、コマツナ、シュンギク、マスタード、ニラの種子を適当な数、0.5%次亜塩素酸ナトリウム溶液中で10分間滅菌し、精製水を含ませたペーパータオル上において発芽させ、約2〜4cm程度の大きさになるまで育てた。その後、縦横約4.5cm、高さ約4cmのプラスチックポットに、バーミキュライトをプラスチックポット容量の80〜90%入れたものに発芽させた苗を植えかえた。オクラ、ベニバナ、コマツナ、シュンギクは1ポットにつき1株植えかえ、アルファルファ、マスタードは1ポットにつき4株植えかえ、ニラは1ポットにつき3株植えかえた。各ポットは、3つずつ作製した。
【0024】
このプラスチックポットを6ポットずつ、1/2 Hoagland−Arnon溶液を200mL入れた容器に入れて水耕栽培をおこなった。さらにこれらを適当な大きさまで生育し、テルル濃度が1.27mg/Lとなるようにテルル酸溶液を加え、1週間生育した。オクラ、ベニバナ、アルファルファは播種から12日目でテルル曝露を開始し、18日目に収穫した。コマツナは播種から19日目にテルル曝露を開始し、25日目に収穫した。シュンギクは播種から41日目にテルル曝露を開始し、47日目に収穫した。ニラは播種から36日目にテルル曝露を開始し、42日目に収穫した。
【0025】
(テルルを蓄積することを可能にするのに十分な条件)
なお、アルファルファおよびオクラの栽培において、曝露するテルル濃度は、アルファルファおよびオクラの発芽を阻害しない4.0g/L以下であることが望ましい。
【0026】
(テルル濃度の確認)
収穫した植物体のテルル濃度を測定するため、各植物体の根および葉を適量秤量し、濃硝酸を適量加えて、約130℃に加熱して灰化を行った。その後精製水で希釈して5mlもしくは2ml溶液に調整した。これらの試料について誘導結合プラズマ質量分析法によりテルル濃度を確認したところ、植物体地上部1gあたりに蓄積していたテルルの質量は、オクラで約4μg、ベニバナで約1.5μg、アルファルファで約10μg、コマツナ・マスタード・ニラで約1μg、シュンギクで約2μgであった。
【0027】
また、植物体地上部でのテルル濃度を根部でのテルル濃度で割った値は、オクラとアルファルファでのみ1以上となり、それ以外の植物は約0.1〜0.4程度であった。オクラおよびアルファルファでは、根から葉への移行が容易であり、よりバイオマスの大きい葉へ移行することから、テルルを回収する植物として好ましいと言える。
【0028】
図1および図2は水耕栽培での試験の結果を示している。図1は植物内に蓄積されたテルルの濃度を示している。また、図2は葉でのテルルの濃度を、根でのテルル濃度で割った値を示している。
【0029】
図1に示されているように、アルファルファ(M.Sativa)およびオクラ(A.Esculentus)は、その他の植物種よりもはるかに多量のテルルを蓄積する。さらに、根に比べて茎や葉で多く蓄積され、地上部を収穫することによって土壌中からテルルを回収できる。
【0030】
(テルルの回収量)
実験終了時に、土壌中から回収されたテルルの重量を表1に示す。
【表1】

【0031】
これによりアルファルファ(M.Sativa)およびオクラ(A.Esculentus)が、他の被検植物に比べテルルの回収に有効であることが実証された。
【0032】
(テルルの回収方法)
上記植物に吸収・蓄積したテルルを回収する方法は、上記以外にも、様々な凍結乾燥、粉砕し、燃焼、乾式灰化もしくは濃硝酸による湿式灰化による分解処理が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、これまで確立されていなかった、テルルを高濃度に蓄積する植物を用いて土壌からテルルを回収することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】植物内に蓄積されたテルルの濃度
【図2】葉でのテルルの濃度を、根でのテルル濃度で割った値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アオイ科トロロアオイ属(Medicago sativa)植物および/またはマメ科ウマゴヤシ属(Abelmoschus esculentus)植物を、テルルを含む媒体上で栽培し、該テルルを吸収、蓄積させた後に、該植物を収穫し、収穫した該植物より該テルルを回収するテルルを回収する方法。
【請求項2】
テルルを含む土壌から、テルルを回収する方法であって、以下:
(a)乾燥重量ベースで地上組織1kgあたり4mgを超える、通常は約4mgから20mgの範囲でテルルを蓄積する、少なくとも一種類のMedicago sativa植物、もしくは少なくとも一種類のAbelmoschus esculentus植物がこのような量のテルルを蓄積することを可能にするのに十分な条件下で、栽培する工程
;ならびに
(b)該蓄積されたテルルを回収する工程、
を包含する請求項1記載の方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法であって、ここで前記蓄積されたテルルは、前記少なくとも一種類のMedicago sativa植物、もしくは少なくとも一種類のAbelmoschus esculentus植物を、テルルの蓄積後のバイオマス材料として収穫する工程、ならびに該テルルを該バイオマス材料から回収する工程によって、テルルを回収する方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法であって、ここで前記テルルは、存在する有機材料を酸化しそして気化させるために前記収穫されたバイオマス材料を乾燥および燃焼する工程によって、前記バイオマス材料から回収する、テルルを回収する方法。
【請求項5】
請求項3に記載の方法であって、ここで前記テルルは、エネルギー回収とともに焼却および灰にし、テルル含有塩及びその化合物を生じる工程によって、前記バイオマス材料から回収する、テルルを回収する方法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法によって生成される、テルル含有塩及びその化合物。
【請求項7】
テルル含有土壌で栽培された、単離されたMedicago sativa植物、もしくはAbelmoschus esculentus植物であって、該Medicago sativa植物、もしくはAbelmoschus esculentus植物は、地上組織にテルルを、該組織の乾燥重量1kgあたり4mgを超える、通常は約4mgから20mgの範囲でテルルを蓄積する、Medicago sativa植物、およびAbelmoschus esculentus植物。
【請求項8】
請求項7に記載の植物の花粉。
【請求項9】
請求項7に記載の植物の生理学的および形態学的特徴のすべてを有する植物。
【請求項10】
請求項7に記載の植物の増殖材料。
【請求項11】
請求項7に記載の植物の種子。
【請求項12】
テルルを含む土壌を除染する方法であって、乾燥重量ベースで地上組織1kgあたり4mgを超える、通常は約4mgから20mgの範囲でテルルを蓄積する、少なくとも一種類のMedicago sativa植物、もしくはAbelmoschus esculentus植物を、該少なくとも一種類のMedicago sativa植物、もしくはAbelmoschus esculentus植物がこのような量のテルルを蓄積することを可能にするのに十分な条件下で、栽培する工程を包含するテルルを含む土壌を除染する方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−162453(P2010−162453A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−5528(P2009−5528)
【出願日】平成21年1月14日(2009.1.14)
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【Fターム(参考)】