説明

テーパー状座面測定装置およびその測定方法

【課題】テーパー状座面の精度を測定することができるテーパー状座面測定装置を提供する。
【解決手段】テーパー面を有する座面101内に挿入されるヘッド部12と、ヘッド部表面に座面の深さ方向に少なくとも2つ以上設けられており、あらかじめ決められた基準点(ヘッド部表面)から座面101までのギャップ量を測定するギャップセンサー50と、を有することを特徴とするテーパー状座面測定装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テーパー状座面測定装置およびその測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
テーパー状の座面を有する製品(部品)における、その座面を検査する方法として、テーパー状の座面に当接する球体の測定子を用いた方法がある。この方法は、球体の測定子をテーパー状座面に押し付けて接触させた際の測定子と座面との接触線の長さを計測することで、座面のテーパー角を求めている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−71910号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記方法では、測定子の球体と座面との接触線長さから座面のテーパー角を測定しているため、球体表面と座面とが接触した部分でのテーパー角度しか測定できない。このため、テーパー面である座面の面全体としての精度を判定することができない。
【0005】
そこで本発明の目的は、テーパー状座面の精度を判定することができるテーパー状座面測定装置およびその測定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のテーパー状座面測定装置は、テーパー面を有する座面内に挿入されるヘッド部の表面に座面の深さ方向に少なくとも2つ以上設けられたギャップセンサーを有している。そしてこのギャップセンサーがあらかじめ決められた基準点から座面までのギャップ量を測定する。
【0007】
本発明のテーパー状座面測定方法は、テーパー面を有する座面内に測定子のヘッド部を挿入する。そしてヘッド部表面に座面の深さ方向に少なくとも2つ以上設けられているギャップセンサーによって基準点から座面表面までのギャップ量を測定する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、テーパーを有する座面の深さ方向に少なくとも2つのギャップセンサーを設けて、このギャップセンサーにより基準点からのギャップ量を測定することとした。これにより座面のテーパー面に対して深さ方向に複数の位置で座面表面の変化を捕らえることができる。したがって、テーパー面の精度を面全体として判定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】テーパー状座面測定装置の概略構成を示す図である。
【図2】測定子の例を示す斜視図である。
【図3】テーパー状座面の測定手順を示すフローチャートである。
【図4】ギャップ量の最大値を説明するための説明図である。
【図5】図4に示した断面に対して垂直な方向をZ軸(座面の深さ方向)として、Z−X面を示す図である。
【図6】実際に測定した残存軸力と、重回帰計算式によって得られた残存軸力との相関を示すグラフである。
【図7】光明丹を用いた当たり面積方法で測定したテーパー面の面積と実際に測定した残存軸力との相関を示すグラフである。
【図8】座面内の深さ方向におけるギャップ量の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。なお、図面において同一の機能を有する要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面はあくまでも本発明の実施形態を説明するためのものであるので、各部材の寸法や比率は説明の都合上誇張または簡略化しており、実際の寸法や比率とは異なる。
【0011】
図1はテーパー状座面測定装置(以下単に測定装置と称する)の概略構成を示す図である。図2は測定子の例を示す斜視図であり、(a)は第1の例、(b)は第2の例である。
【0012】
測定装置1は、測定子10、基台20、および測定器本体30を有する。
【0013】
測定子10は、製品100のテーパー状座面101に挿入されるヘッド部12と、ヘッド部12を支持する柱状の柱部13とを含む。
【0014】
ここで、テーパー状座面101を有する製品100(部品)は、製品100に凹部が形成されており、その凹部内壁面(座面)にテーパーが付いていて、内壁面全体が円錐柱の表面と同等の形状となっているものである。
【0015】
ヘッド部12は、製品100のテーパー状座面101の理想形状に合致する形状よりわずかに小さな形状をしている。そしてヘッド部12の表面には、複数のギャップセンサー50が配置されている。ヘッド部12を理想形状に合致する形状よりわずかに小さな形状としたのは、少なくとも座面101が製品100としての許容最低値を満たしている状態では、ヘッド部12を確実に座面101内に挿入できるようにするためである。したがって、ヘッド部12の大きさは、少なくともギャップセンサー50が取り付けられた状態で座面101内に挿入できる大きさとする必要がある。なお、ヘッド部12の理想形状としては、たとえば、製品100として許容される座面101の大きさの最小値などである。そのようにすれば、仮に座面101の開口の大きさが製品100として許容される最小値より小さければヘッド部12を挿入することができず、テーパー面の精度を測定するまでもなく、不良と判断することができる。もちろんさらに小さく作って、そのような不良品も含めてギャップ量測定できるようにしておいてもよい。
【0016】
ギャップセンサー50は、ヘッド部12を製品100のテーパー状座面101に挿入したときにヘッド部表面(基準点)からテーパー形状の座面101表面までの距離(ギャップ量)を測定する。ギャップセンサー50は、ヘッド部12の表面に座面101の深さ方向に少なくとも2つ以上設けている(本実施形態では3つ)。
【0017】
このギャップセンサー50は、たとえば、歪ゲージが用いられる。ヘッド部12を製品100のテーパー状座面101に入れ込んだときに、ギャップセンサー50がテーパー状座面101の表面に当接したときの歪値がギャップ量をあらわすことになる。
【0018】
また、このギャップセンサー50は、たとえば渦電流式変位センサを用いることができる。渦電流式変位センサ自体が座面と接触していなくでも、渦電流式変位センサから座面12の表面まで距離(ギャップ量)を計測することができる。
【0019】
ギャップセンサー50としては、歪ゲージや渦電流式変位センサ以外にも、ヘッド部12表面と座面101の表面までの距離を測定できるものであればどのようなものでもよい。
【0020】
得られたギャップ量は、測定器本体30から出力される電気信号の値である。このため、製品管理に用いる場合には、その電気信号の値(たとえば抵抗値や電圧値)をそのまま用いることができる(詳細後述)。もちろん、測定器本体30から出力される電気信号の値を分かりやすいようにSI単位系などの値に変換するようにしてもよい。変換する場合にはあらかじめ電気信号の値を対応したSI単位系の値に変換するため検量線(または変換式)を作成して用いる。
【0021】
ギャップセンサー50の配置は、たとえば、第1例として図2(a)に示すように、ヘッド部12の周方向に4箇所、座面101内深さ方向に3点の計12個である。4箇所は図示するように互いに座面101内で対面した2箇所と、それに対して90°ずれた2箇所の合計4箇所である。また、第2例として図2(b)に示すように、ヘッド部12の周方向に1箇所(座面101の深さ方向に1列)に、高さ(座面101の深さ)方向に3点の計3個などである。
【0022】
ギャップセンサー50の高さ(座面101の深さ)方向の配置位置(ギャップセンサー50同士の間隔)は、第1例および第2例ともにたとえば等間隔でよい。しかし、後述するように測定対象である製品100の変形に偏りがあるような場合には、そのような製品100の座面101形状の偏り方に合わせて配置することが好ましい。このような座面101形状の偏りに合わせた配置については後述する。
【0023】
第1例と第2例の違いは、測定する際に、第1例であれば、最大45°回転させれば、座面101内全周の計測が可能となるので測定効率が上がる。一方、第2例は、ヘッドを360°回転させることで座面101内全周の計測が可能となり、しかもギャップセンサー50の数が少なくてすむので装置コストを抑えることができる。なお、本実施形態では、後述するように、座面101内全周をくまなく測定するのではなく、製品形状の偏りに合わせて特定部位の計測だけで、座面101の精度を見極めることができるようにしている。
【0024】
なお、図2においては、ヘッド部12全体を円錐柱形状としているが、ギャップセンサー50が座面101内のテーパー面に沿って当接し、基準点となる位置から座面101表面までの距離を測定できればどのような形状でもよい。また、基準点はどこに設定してもよい。本実施形態では、円錐柱形状をしたヘッド部表面、すなわちギャップセンサー50の設置面を基準点としたが、これに代えてたとえば、ヘッド部12の中心など任意の位置であってもよい。これは特に座面101の精度管理を行う際にギャップセンサー50(測定器本体30)から出力される電気信号(詳細後述)の値を直接用いる場合には、ギャップセンサー50の信号の変化をギャップ量として読み取っているため、どこを基準点としているかは問題とならないからである。
【0025】
測定器本体30は、複数のギャップセンサー50のそれぞれと接続されていて、ヘッド面と座面101との距離に対応した信号を出力する。測定器本体30は、ギャップセンサー50が歪ゲージの場合にはいわゆるストレインアンプが使用される。ストレインアンプは内部にブリッジ回路と電流増幅器とを含み、歪ゲージの微小な抵抗変化を検出する。
【0026】
一方、ギャップセンサー50として電気抵抗体を用いた場合は、抵抗測定器が使用される。この場合、抵抗測定器は、各電気抵抗体と製品100(実際には基台20)との間の抵抗値を計測する。抵抗値の測定は、各電気抵抗体と基台20との間に電流を流し、そのときの電流値および電圧値から求める。この場合電圧を一定に保ち、電気抵抗体が座面101に当接する面積によって変化する電流値を出力とするようにしてもよい。
【0027】
また、この測定器本体30は算出手段としても機能する。このため測定器本体30は算出手段となるコンピュータを内蔵していて、座面101の出来上がり精度の判定や精度管理を行うための各データを算出している。各データは、軸センターずれ量、同軸度、真円度、テーパー角度、および輪郭度である。これらのデータについては後述する。なお、これらのデータを算出する算出手段は、測定器本体30とは別に設けたコンピュータによって行うようにしてもよい。
【0028】
柱部13は、上下動および柱部13を回転させることができる支持部14に取り付けられていて、ヘッド部12を上下されると共に任意の角度で回転させることができる機構を備えている。
【0029】
基台20は、製品100を載置させて固定するもので、たとえば平面方向に移動自在な、いわゆるX−Yステージを用いることができる。X−Yステージを用いることで製品100の座面101内部にヘッド部12を入れやすい位置に移動することができる。また、さらに回転も自在なX−Yステージを用いれば、柱部13は支持部14に対して回転自在にさせる必要はなく、支持部14は上下動だけが可能なものであってもよい。
【0030】
また、たとえば支持部14はロボットハンドを用いることができる。ロボットハンドを用いることで、ヘッド部12の位置をX−Y方向はもとより回転も自在に行うことができる。この場合、基台20は製品100を載置させて固定するだけでよく、X−Y方向や回転する必要はない。
【0031】
以上説明した測定装置を用いたテーパー状座面の測定手順を説明する。
【0032】
図3は、テーパー状座面101の測定手順を示すフローチャートである。
【0033】
ここでは、まず図3に示したフローチャートを参照して全体の流れを説明する。
【0034】
座面101測定のために、測定子10のヘッド部12を座面101内に挿入する(S1)。
【0035】
次に、測定子10を回転させながら、その表面に設けられているギャップセンサー50からの信号を検出し、ギャップ量が最大になる位置でのギャップセンサー50の信号値をギャップ量として取得する(S2)。ギャップ量が最大になる位置については後述する。
【0036】
次に、得られたギャップ量(最大値)から、軸センターずれ量を算出して(S3)、軸センター直線を求める(S4)。
【0037】
次に、得られた軸センター直線を中心とする座面101を周方向に沿って切断するギャップセンサー50配置位置における断面のセンターずれ量を算出する(S5)。そして、得られた断面のセンターずれ量から同軸度を算出する(S11)
一方、軸センターのずれ量から、そのずれ分を補正したギャップ量を算出する(S6)。そして、補正後のギャップ量から、真円度およびテーパー角度をそれぞれ算出する(S12およびS13)。さらに、補正後のギャップ量の最大値から最小値を引いた値から輪郭度を算出する(S14)。
【0038】
その後、得られた同軸度、真円度、テーパー角度、および輪郭度から、製品100におけるテーパー状座面101の精度を判定する(S15)。
【0039】
以下各ステップの詳細を説明する。
【0040】
まず、測定子10のヘッド部12を座面101内に挿入するステップ(S1)は、製品位置を座面101内にヘッド部12が入るように位置決めした後、測定子10を下降させてヘッド部12を座面101内に挿入することにより行われる(図1参照)。
【0041】
この工程は、測定作業員により行われてもよいし、ロボットハンドを用いている場合には、あらかじめ教示されたデータにしたがってロボット動作させることにより行うことになる。このとき、ヘッド部12を、それ以上下降しなくなるまで位置まで下降させて座面101内に確実に入れるようにする。
【0042】
ヘッド部12を挿入するときは、X−YステージまたはロボットハンドのX−Y方向をいったんフリーの状態にしておいてもよい。これにより座面101内のテーパー面に沿ってヘッド部12が下降することで製品100がX−Y方向に動いてまたはロボットハンドのX−Y方向が動いて、確実に座面101内部にヘッド部12を入れることができる。ただし、一度座面101内部にヘッド部12を入れた後は、X−YステージまたはロボットハンドのX−Y方向は固定する。これは、その後のステップ2においてギャップ量の最大値を探す際にヘッド部12を回転させたときに、フリー状態のままだと回転させるたびに製品位置がずれてしまうおそれがあり、座面101とギャップセンサー50との距離を正確に測定できなくなるからである。特にギャップセンサー50がヘッド部周囲方向に1つの場合(図2(b)の場合)は固定しなければならない。ただし、ギャップセンサー50のヘッド部周囲方向の数を多くして、ギャップ量の最大値を探す際にヘッド部12を回転させる必要がなければ、X−YステージまたはロボットハンドのX−Y方向は常にフリー状態でもよい。
【0043】
次に、ギャップ量の最大値を探すステップ(S2)は、座面101内に入れたヘッド部12を所定角度回転させて、各位置で座面101とギャップセンサー50との距離を測定する。図4は、ギャップ量の最大値を説明するための説明図であり、図1におけるL1線に沿う断面を示している。
【0044】
図示するように、ギャップ量は、座面101の円周方向において均等に存在するのではなく座面変形の偏りに応じて大きい部分や小さい部分がある。図では、ギャップ量の最大位置Ga1およびGc1と最小位置Gb1およびGd1が90°ごとに繰り返している。すなわち座面101を上から見ると楕円DDの形状をしている。なお図において円SDは比較のために示した真円である。このステップ(S2)は、このような偏りのあるギャップ量から最大となる位置を探して、そのときの値をギャップ量として測定するものである。
【0045】
このためには、たとえば、図2(a)に示した周方向に4箇所ギャップセンサー50を配置しているものにあっては少なくとも45°になるまで少しずつ測定子10を回転させてギャップ量を測定する。たとえば1°刻み、3°刻み、5°刻み、10°刻みなどで回転させて各回転ごとに測定する。もちろん刻み角度は任意でよく、細かくした方が精度が向上するが、あまり細かくすると測定に時間がかかるようになる。このため、好ましくは5°刻み、10°刻み程度がよい。たとえば5°刻みであれば、最初に挿入したときに1回、5°移動して1回、さらに5°移動して1回の合計3回の測定ですむ。
【0046】
一方、図2(b)に示した周方向に1箇所ギャップセンサー50を配置しているものにあっては360°になるまで少しずつ測定子10を回転させてギャップ量を測定することになる。回転する刻みは、この場合も前記同様に、たとえば1°刻み、3°刻み、5°刻み、10°刻みなど、測定効率と精度との兼ね合いで任意の刻み角度で回転させればよい。
【0047】
なお、ヘッド部12を回転させる際には、ヘッド部12を座面101内に入れたまま回転させてもよいし、座面101から少しだけ引き上げて回転させ、再度ヘッド部12を座面101表面に押し当ててギャップ量を測定するようにしてもよい。
【0048】
次に、軸センターずれ量を算出するステップ(S3)は、ステップ(S2)において求めた最大ギャップ量が得られた位置で各周方向断面L1〜L3におけるセンターずれ量を求める。L1〜L3断面は、ギャップセンサー50を設けた位置における断面である。
【0049】
なお、図4では、L1断面のみ示したがL2およびL3断面いついても同様であるので図示省略する。
【0050】
L1断面におけるギャップ量をGa1、Gb1、Gc1、Gd1とする。これらの値は対応する位置の各ギャップセンサー50から得られる。
【0051】
ここではヘッド部12の中心を仮の軸センター位置(仮想中心)としたときのズレ量を図4におけるX−Y座標(仮想中心を原点とする)としてあらわすと、X方向のずれ量をZL1x、Y方向のずれ量をZL1yとして下記(1)および(2)式により求める。
【0052】
ZL1x=(Ga1−Gc1)/2 …(1)
ZL1y=(Gb1−Gd1)/2 …(2)
同様にL2およびL3断面の軸センターズレ量をZL2x、ZL2y、ZL3x、ZL3yとして求める。
【0053】
次にS3で求めた各断面におけるずれ量から軸センター直線を計算するステップ(S4)となる。
【0054】
このステップ(S4)において、軸センター直線は図4に示した断面に対して垂直な方向をZ軸(座面の深さ方向、すなわちヘッド部を挿入する方向)として、Z−X面とZ−Y面のそれぞれについて求める。
【0055】
図5は、Z−X面を示す図である。図5において縦軸がX方向、横軸がZ方向である。図において符号STはヘッド部外形線、DD測定されるテーパー面、Zxは下記(3)式により求められる軸センター直線、ZL1x、ZL2x、ZL3xは各断面におけるセンターずれ位置を示す。
【0056】
なお、Z−Y面については図5と同様であり横軸がY方向に変わるだけであるので図示省略する。
【0057】
Z−X面における直線は下記(3)式、Z−Y面における直線は下記(4)式のとおりである。
【0058】
Zx=Ax(X)+Bx …(3)、Zy=Ay(Y)+By …(4)
(3)式における傾きAxは、ZL1x、ZL2x、ZL3xから最小二乗法により近似して求める。具体的な式は下記(5)式のとおりである。
【0059】
Ax=(3Σ(ZLix・Li)−(ΣZLix)(ΣLi)/(3Σ(Zlix)−(ΣZLix)) …(5)
式中、iは1〜3の自然数である。したがってここでは、ZlixはZL1x、ZL2x、ZL3xを示すこととなる。またLiは、L1乃至L3断面のZ方向の座標値である。
【0060】
(3)式における切片Bxは、下記(6)式による求める。
【0061】
Bx=(ZL1x+ZL2x+ZL3x)/3−Ax・(L1+L2+L3)/3 …(6)
Z−Y面についても同様に求めることができる。
【0062】
次に、ギャップセンサー50配置位置における断面のセンターずれ量を算出するステップ(S5)は、S4で求めた軸センター直線からL1,L2,L3それぞれの断面のセンターのズレ量を求めるものである。
【0063】
Li(i=1〜3)断面のX方向のずれ量は先ほど求めた(3)式において、(X)にLiの位置、すなわち、原点からLiまでのZ軸方向の座標値を代入することで求められる。すなわちLi(i=1〜3)断面のX方向のずれ量=Ax・Li+Bxとなる。同様にY方向ずれ量は、(4)式に原点からLiまでのZ軸方向の座標値を代入することで求められる。
【0064】
次に、得られた各断面におけるセンターずれ量から同軸度を算出する(S11)。
【0065】
同軸度を求めるには各断面の軸センターのズレ量から、軸センターからの距離を求めて、その距離のL1,L2,L3各断面での最大値と最小値の差を同軸度とする。軸センターからの距離は、L1断面では、軸センターからの距離=√((Ax・L1+Bx)+(Ay・L1+By))となる。L2断面およびL3断面についても同様である。
【0066】
S5の後、軸センターのずれ量を補正したギャップ量を算出するステップ(S6)となる。このステップ(S6)では、S2で求めた各断面のギャップ量を、S5で求めた軸センターからのズレ量で引くことで求める。この軸センターズレ補正後のギャップ量をHGa、HGb、HGc、HGdとすると、下記(5)乃至(8)式のとおりである。
【0067】
HGai=Gai−Ax・Li+Bx …(5)
HGbi=Gbi−Ay・Li+By …(6)
HGci=Gci+Ax・Li+Bx …(7)
HGdi=Gdi+Ay・Li+By …(8)
式中i=1〜3である。
【0068】
次に、補正後のギャップ量から真円度を算出する(S12)。このステップ(S12)は、補正後のギャップ量HGaと、このHGaに対して180°の位置にあるHGcのギャップ量を加えた値をHGabとする。また、HGaに対し90°の位置にあるHGbとHGbに対して180°の位置にあるHGdのギャップ量を加えた値HGbdとする。そして、HGabとHGbdの差を真円度として求める。
【0069】
次に、補正後のギャップ量からテーパー角度の算出する(S13)。テーパー角度の算出は、各断面の基準円直径の差から算出する。まず、L1断面からL2断面の距離をL12、L2断面からL3断面までの距離をL23とし、L12間のテーパー角度をθabとする。ヘッド部12のギャップセンサー50が設けられている位置における各断面寸法をSha,Shb,Shcとすると、各断面間のテーパー角度θab,θbcは、下記(9)および(10)式となる。
【0070】
テーパー角度θab=TAN−1((((Sha+((HGa1+HGc1)+(HGb1+HGd1))/2−(Shb+((HGa2+HGc2)+(HGb2+HGd2))/2))/L12)/2)×180/π …(9)
同様にテーパー角度θbc=TAN−1((((Shb+((HGa2+HGc2)+(HGb2+HGd2))/2−(Shc+((HGa3+HGc3)+(HGb3+HGd3))/2))/L12)/2)×180/π …(10)
また、ダイレクトに、それぞれの断面のギャップ量を上下の断面の位置差で、ギャップ量の差と、ギャップセンサー50配置位置の距離から角度に換算しても良い。
【0071】
次に、S5で求めた補正後のギャップ量から輪郭度を算出する(S14)。これには、補正後のギャップ量から、まずギャップ量最大値(MAX)、ギャップ量最小値(MIN)を求める。そして、ギャップ量最大値(MAX)からギャップ量最小値(MIN)を引くことでそれらの差を求めて、これを輪郭度としている。
【0072】
最後に、同軸度、真円度、テーパー角度、輪郭度のデータから座面101の出来上がり制度を判定することになる(S15)。この判定のステップは、さまざまな方法がある。たとえば、同軸度、真円度、テーパー角度、および輪郭度の各データごとに、その許容範囲を設定して、許容範囲内であるか否かを判定するようにしてもよい。
【0073】
また、重回帰計算による良否判定を行うようにしてもよい。これにはたとえば、あらかじめ複数の良品および不良品を用いて各データを取得して、各データの値を説明変数、良否判定に用いる値を目的変数とする重回帰計算式を作成する。そして作成した重回帰計算式に品質検査を行う製品100から取得した各データの値を入れることで判定する。
【0074】
このとき目的変数とする良否判定に用いる値は、製品100によって異なる。一例を挙げると、自動車のサスペンション部品の締結に使用されるボールジョイントは、テーパーピース部品が有するテーパー状座面101に当接するように圧入されている。テーパーピース部品のテーパー状座面101の出来上がり精度が悪いと、そこに圧入されて支持されるボールジョイントとの間でガタツキが生じる原因となる。このようなテーパーピース部品に対してボールジョイントが確実に取り付けられているか否かを示す指標として残存軸力ある。
【0075】
そこで、この残存軸力を目的変数、同軸度、真円度、テーパー角度、輪郭度の各データの値を説明変数とする重回帰計算式をあらかじめ作成しておく。後は、製品100(ここではテーパーピース部品)のテーパー状座面101を既に説明した手順で測定して、得られた各データを重回帰計算式に当てはめて残存軸力を求めることで、求めた残存軸力によりその部品の良否を判定することができる。
【0076】
図6は実際に測定した残存軸力と、重回帰計算式によって得られた残存軸力との相関を示すグラフである。図6において縦軸が実際に測定した残存軸力、横軸が重回帰計算式によって得られた残存軸力である。また、図7は比較のために、光明丹を用いた当たり面積方法で測定したテーパー面の面積と実際に測定した残存軸力との相関を示すグラフである。図7において縦軸が実際に測定した残存軸力、横軸が光明丹を用いて測定したテーパー面の面積である。光明丹を用いたテーパー面の面積の測定は、テーパープラグゲージに光明丹を塗り、それを座面101内へ挿入して、テーパー状座面101内に付着した光明丹部分の面積を測定するものである。この方法は昔から行われている方法であり詳細な説明は省略する。
【0077】
なお、図6および7におけるテーパー状座面101は上述したボールジョイントを締結するテーパーピース部品のテーパー状座面101である。
【0078】
図6からわかるとおり、本実施形態を用いて測定した同軸度、真円度、テーパー角度、輪郭度の各データから得たれた重回帰計算による残存軸力は、相関を示す直線近く近傍に集まってきている。一方、図7から、光明丹を用いた当たり面積方法で測定したテーパー面の面積と残存軸力は、一部が相関を示す直線から遠くなっている。両者の相関係数Rは、重回帰計算による場合がR=0.88(図6のもの)、光明丹を用いた場合がR=0.58(図7のもの)となった。
【0079】
このことから、本実施形態によるテーパー状座面101の測定法と、その測定値を用いた重回帰計算による残存軸力は、テーパー状座面101を有する部品においてその部品を使用したときの軸力管理の指標として利用できることがわかる。
【0080】
なお、重回帰計算を用いる場合には、このような残存軸力に限定されるものではない。たとえば、テーパー状座面101の精度そのもの良否(0か1)を目的変数とする重回帰計算式を作成して精度判定するようにしてもよい。
【0081】
このように重回帰計算を用いる場合に説明変数とする値は、SI単位系を用いる必要はなく、ギャップセンサー50から得られた抵抗値や電圧値などを直接用いることができる。この場合、もちろん測定結果である抵抗値や電圧値などの値を直接用いて重回帰計算式を作成しておく必要がある。これにより、被測定製品を測定する際にはいちいち抵抗値や電圧値などの測定結果の値をSI単位系に変換する必要がなくなる。
【0082】
次に、ヘッド部12におけるギャップセンサー50の配置について説明する。
【0083】
まず、座面101深さ方向に対するギャップセンサー50の配置について説明する。
【0084】
図8は、座面101内の深さ方向におけるギャップ量の変化を示すグラフである。横軸が座面101内の深さでL0が底部である。縦軸がギャップ量であり、ギャップなしを0とする。
【0085】
テーパー状座面101の測定および精度管理のためには、ギャップセンサー50の位置が重要となる。より高精度を求めるとギャップセンサー50の数は多い方が良いと考えられる。しかし無限にギャップセンサー50を取り付けることはできないため、効率的にかつ製品管理上必要十分な精度を得るためには適当な位置にギャップセンサー50を配置することが重要である。
【0086】
テーパー面における変形は、テーパーピースが埋め込まれるアクスル部品の剛性と、テーパーピースの座面101に当接するジョイントの剛性によってほぼ決まる。
【0087】
図8の例は、上述した自動車のサスペンションにおけるテーパーピースの座面101にボールジョイントを圧入した後、ジョイントを取り出して3次元測定機でテーパーピースの座面101を測定した結果である。
【0088】
このようなテーパー面においては、テーパー面の角度が変化する部分にのみギャップセンサー50を配置することで、テーパー面全体の角度を知ることができる。
【0089】
つまりギャップセンサー50の配置位置を、測定ポイントA、測定ポイントB、測定ポイントCに置くことで、L12断面での角度、L23断面での角度としてテーパー面全体の角度を精度よく求めることができる。
【0090】
なお、ギャップ量が不明な新規のテーパーにおいても、一度ギャップ量を3次元測定機で測定して、その変化の偏りを求めてFEM解析等を行えば、ギャップ量を捕らえるために効果的な位置を容易に求めることができる。
【0091】
このようにそれぞれのギャップ量の偏り方お違いに合わせた深さ方向に3つの測定ポイントで測定することによって、ギャップセンサー50の数を増やさずに、かつ高精度に測定ができるようになる。
【0092】
このようにすることで、テーパーピースにボールジョイントを差し込んで、いったん変形が加わった後のテーパー面であっても高精度で計測することができる。
【0093】
そして、既に説明したように重回帰計算によって残存軸力を指標とすることでテーパー面の精度管理としてテーパーピースにボールジョイントを差し込んだ状態でどれだけ軸力があるかを求めることができる。
【0094】
また、テーパーピースにボールジョイントを差し込んで変形が加わった後に、テーパー面にさらに加工を追加して使用する場合もある。このような場合でも、本装置を用いて測定することで、従来の当たり面積を管理する方法に比べて高精度に軸力を管理できることに変わりはない。
【0095】
このような深さ方向の3ポイントとすることで、変形が加わる前の状態、すなわち図におけるL1〜L3までが直線的なテーパー面となっている状態においても正確にテーパー面全体を測定することができる。
【0096】
一方、円周方向の測定ポイントは、図4を用いて既に説明したとおり、座面101内で対面する2点が直交する合計4ポイントで計測することが好ましい。これについてもテーパーピースにボールジョイントを差し込んで加わった変形が楕円になるためである。したがって、その楕円の最大長さと最小長さのところで4点を測定するだけで、精度よく測定し、その結果から残存軸力を知ることが可能となる。
【0097】
このようにテーパーピースにボールジョイントを差し込んで変形が加わった後の形状の偏りに合わせてギャップセンサーを配置することで、製品の出来上がり形状の精度判定はもとより、製品使用後に今後さらにどの程度使用できるかを判定することも可能となる。
【0098】
なお、このようなギャップセンサーの配置は、テーパーピースにボールジョイントを差し込んで加わった変形に合わせるばかりでなく、たとえば、設計形状としてテーパー面に変形がある場合はそのような変形(形状の偏り)に合わせて配置すればよい。また、変形がなく、設計上直線的なテーパー面のみ測定するのであれば、ギャップセンサーは最低2つで測定すれば、その結果をテーパー面全体の形状とすることができる。
【0099】
以上説明した本発明の実施形態によれば以下のような効果を奏する。
【0100】
テーパーを有する座面101の深さ方向に少なくとも2つのギャップセンサー50を設けて、基準点からのギャップ量を測定することとしたので、座面101内のテーパー面に対して深さ方向に複数の位置で座面101表面の変化を捕らえることができる。したがって、テーパー面の精度を面全体として判定することが可能となる。
【0101】
しかも、測定子10の構造が非常に簡単であるため、たとえば、、昔ながらの光明丹を用いた面積法や複雑な装置構成となる3次元測定機を使用する場合に比べて、測定時間を短縮でき、かつ装置コストも安くすることができる。
【0102】
ギャップセンサー50によって座面101の周方向に4箇所の位置でギャップ量を測定し、その結果から座面101の真円度、テーパー角度、同軸度、輪郭度を求めることとしたので座面101の周方向における形状の違いも判別することができる。
【0103】
テーパーを有する座面101の製品100(部品)の形状偏りに応じて周方向に4箇所で測定する際に、測定位置としてギャップ量が最大となる位置とした。これは、たとえば製品100のベースとなる鋳物(鉄やアルミ等)部品や鍛造部品の形状偏りや、アクスル部品を圧入したことで起こる形状の偏りが楕円形状であることに合わせたものである。したがって、これらの形状の周方向の偏りに合わせた最小限のギャップセンサー50の数で、テーパー面を確実に捕らえることができる。
【0104】
座面101の深さ方向のテーパー面の変形の偏りに合わせてギャップセンサー50を配置することとしたので、最小限のギャップセンサー50の数でテーパー面の深さ方向についても確実に捕らえることができる。
【0105】
ギャップセンサー50を、座面101の深さ方向に少なくとも2点、かつ円周方向に互いに90°離れた4箇所に配置したので、座面101の周方向全体を測定する際にヘッド部12の回転角度を少なくすることができる。したがって測定時間を短縮することができる。
【0106】
またギャップセンサー50を、座面101の深さ方向に少なくとも2点、かつ円周方向に1箇所配置したので、ギャップセンサー50を周方向の4箇所に配置した場合と比較して装置コストを削減できる。
【0107】
またギャップセンサー50を設けたヘッド部12を回転させて、ギャップ量の最大値を検出することとしたので、簡単な操作で座面101全体の面精度を測定して判定することができる。
【0108】
以上本発明を適用した実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明は特許請求の範囲に記載された技術思想に基づいてさまざまな形態として実施可能である。
【符号の説明】
【0109】
1 測定装置、
10 測定子、
12 ヘッド部、
13 柱部、
14 支持部、
20 基台、
30 測定器本体、
50 ギャップ計測器、
100 製品、
101 座面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テーパー面を有する座面内に挿入されるヘッド部と、
前記ヘッド部表面に前記座面の深さ方向に少なくとも2つ以上設けられており、あらかじめ決められた基準点から前記座面までのギャップ量を測定するギャップセンサーと、
を有することを特徴とするテーパー状座面測定装置。
【請求項2】
前記ギャップセンサーによって、前記ギャップ量が前記座面の周方向に4箇所の位置で測定されることを特徴とする請求項1記載のテーパー状座面測定装置。
【請求項3】
前記座面の周方向の4箇所は、前記ギャップ量が最大になる位置であって前記座面内で対面した位置と、当該最大位置に対して90°ずれた前記ギャップ量が最小になる位置であって前記座面内で対面した位置であることを特徴とする請求項2記載のテーパー状座面測定装置。
【請求項4】
前記少なくとも2つの前記ギャップセンサーは、前記座面の深さ方向のテーパー面の変形の偏りに合わせて配置されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載のテーパー状座面測定装置。
【請求項5】
前記ギャップセンサーは、前記座面の深さ方向に少なくとも2点、かつ円周方向に互いに90°離れた4箇所に配置されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載のテーパー状座面測定装置。
【請求項6】
前記ギャップセンサーは、前記座面の深さ方向に少なくとも2点、かつ円周方向に1箇所配置されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載のテーパー状座面測定装置。
【請求項7】
前記ギャップ量から前記座面の真円度、テーパー角度、同軸度、輪郭度を算出する算出手段をさらに有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一つに記載のテーパー状座面測定装置。
【請求項8】
テーパー面を有する座面内に、ヘッド部を備えた測定子の当該ヘッド部を挿入し、
前記ヘッド部表面に前記座面の深さ方向に少なくとも2つ以上設けられたギャップセンサーによって、基準点から座面表面までのギャップ量を測定することを特徴とするテーパー状座面測定方法。
【請求項9】
前記ギャップ量は、前記座面の周方向に4箇所の位置で測定し、測定した前記ギャップ量から前記座面の真円度、テーパー角度、同軸度、輪郭度を算出することを特徴とする請求項8記載のテーパー状座面測定方法。
【請求項10】
前記ギャップ量を測定する前記座面の周方向の4箇所は、前記ギャップ量が最大になる位置であって前記座面内で対面した位置と、当該最大位置に対して90°ずれた前記ギャップ量が最小になる位置であって前記座面内で対面した位置で測定することを特徴とする請求項9記載のテーパー状座面測定方法。
【請求項11】
前記最大位置は、前記座面の深さ方向のテーパー面の変形の偏りに合わせて前記ギャップセンサーが配置された前記ヘッド部を回転させて前記ギャップ量を測定して見つけ出すことを特徴とする請求項8〜10のいずれか一つに記載のテーパー状座面測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−43475(P2011−43475A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−193416(P2009−193416)
【出願日】平成21年8月24日(2009.8.24)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】