説明

テーパ杭の支持力計算装置

【課題】テーパ杭の極限鉛直支持力を計算によって求めるための装置の開発
【解決手段】テーパ杭14の側面に接した地盤12の種類に応じて杭の全長を区分して、各区分毎に、側面に対する地盤12の支持力の垂直成分と側面と地盤との間の摩擦力の垂直成分とを合成したものを部分支持力とする。この杭14に支持耐力を越える荷重を加えて、各区分毎の垂直方向の歪み量を測定して、区分に加わる部分支持力を求める。この部分支持力を区分の表面積で除した地盤毎単位支持力を求め、該当する地盤の種類に応じた換算値で除して得た値を、当該杭の該当する種類の地盤に対する地盤毎支持力係数とする。これを使用して、任意の地盤におけるテーパ杭の極限鉛直支持力を自動的に計算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の基礎に使用するテーパ杭の支持力を自動的に計算することができるテーパ杭の支持力係数計算装置と、支持力計算装置と、テーパ杭の支持力計算方法と、テーパ杭の支持力計算プログラムと記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
テーパ杭は、上端から下端に向かうほど外径が縮小するように構成された建物の支持杭である。テーパ杭は、全体が均一な太さの杭に比べて、地面に打ち込む楔と同様の効果がある。従って、地中に打ち込み易いとともに、単なる摩擦杭とは異なる支持力を備える。全長にわたって均一な外径の杭の側面には、周辺の土の重力による土圧が加わる。従って、若干の摩擦力による支持力を有するが、杭先端の硬い地盤の支持力を主眼に設計される。一方、テーパ杭は地中に押し込まれるときに、側面で周辺の土を押さえる機能を持つからその反力の垂直成分が杭に加わり、杭に高い支持力が生じる。従って、先端が硬い地盤に達しなくても建物の支持杭として有効に機能する(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−190116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
既知の従来の技術には、次のような解決すべき課題があった。
一般に、杭の極限鉛直支持力は、杭先端の抵抗力と杭周面の摩擦抵抗力との和からなり、次式で表すことができる。
Ru=Rp+Rf ・・・ (1) (単位はkN(キロニュートン))
Ru:杭極限支持力、Rp:杭先端極限抵抗力、Rf:杭周面極限摩擦力
上記の杭の極限鉛直支持力計算は、杭頭から先端まで均一な太さの杭を前提としたもので、建物の基礎設計に広く採用されている。
【0005】
一方、テーパー杭は上記のように、全体が均一な太さの杭とは異なる作用に基づく支持力を有するから、既存の設計計算法では対応できない。テーパ杭を広く実用化するためには、建物の基礎設計において、テーパー杭の極限鉛直支持力を自動的に計算する一定の基準が必要になる。さらに、杭は全長に渡って均一な土と接することは希で、複雑な地層を貫通することも考慮しなければならない。
【0006】
本発明は以上の点に着目してなされたもので、テーパー杭について、実用的な極限鉛直支持力を自動的に計算することができる、テーパ杭の支持力係数計算装置と、テーパ杭の支持力計算装置と、テーパ杭の支持力計算方法と、テーパ杭の支持力計算プログラムと記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下の構成はそれぞれ上記の課題を解決するための手段である。
〈構成1〉
地盤にほぼ垂直に貫入され、杭頭から杭先端に向かうほど外径が縮小するテーパ杭の特性を求めるためのものであって、前記杭の側面に接した地盤の種類に応じて杭の全長を区分して、各区分毎に、前記側面に対する地盤の支持力の垂直成分と前記側面と地盤との間の摩擦力の垂直成分とを合成したものを部分支持力というとき、前記地盤に貫入した前記杭に対して、前記杭頭から前記杭先端に向って、支持耐力を越える荷重を加えて、前記各区分毎の垂直方向の歪み量を測定し、この歪み量から各区分に加わる前記部分支持力を求め、前記部分支持力を、該当する区分の表面積で除した地盤毎単位支持力を求め、この地盤毎単位支持力を該当する地盤の種類に応じた換算値で除して得た値を、当該杭の該当する種類の地盤に対する地盤毎支持力係数とし、前記杭を任意の地盤に貫入するものとしたときに、予め測定した地盤構造から、杭の側面に接する地盤の種類に応じて杭の全長を区分し、同種の地盤に接する区分の表面積の総和と、該当する地盤の種類に応じた換算値と、前記該当する種類の地盤に対する地盤毎支持力係数との積を、全ての種類の地盤について求めてから合計することで、当該杭の当該地盤における極限鉛直支持力を得ることを特徴とするテーパ杭の支持力計算方法。
【0008】
〈構成2〉
構成1に記載のテーパ杭の支持力計算方法において、杭頭から杭先端まで一定の割合で外径が縮小するテーパ杭、もしくは、杭頭から杭先端まで外径が縮小する割合を部分的に変化させるテーパ杭の特性を求めるためのものであることを特徴とするテーパ杭の支持力計算方法。
【0009】
〈構成3〉
構成1または2に記載のテーパ杭の支持力計算方法において、杭頭から杭先端まで全長に渡って一種類の地盤に側面を接する場合もしくは、杭頭から杭先端まで2種以上の地盤に接する場合に、そのテーパ杭の特性を求めるためのものであることを特徴とするテーパ杭の支持力計算方法。
【0010】
〈構成4〉
構成1乃至3のいずれかに記載のテーパ杭の支持力計算方法において、前記杭の前記地盤における極限鉛直支持力には、一定の安全率が積算されていることを特徴とするテーパ杭の支持力計算方法。
【0011】
〈構成5〉
地盤にほぼ垂直に貫入され、杭頭から杭先端に向かうほど外径が縮小するテーパ杭の特性を求めるためのものであって、前記杭の側面に接した地盤の種類に応じて杭の全長を区分して、各区分毎に、前記側面に対する地盤の支持力の垂直成分と前記側面と地盤との間の摩擦力の垂直成分とを合成したものを部分支持力というとき、前記地盤に貫入した前記杭に対して、前記杭頭から前記杭先端に向って、支持耐力を越える荷重を加える加圧装置と、前記各区分毎の垂直方向の歪み量を測定する歪み検出装置と、この歪み量から各区分に加わる前記部分支持力を求める部分支持力算出手段と、前記部分支持力を、該当する区分の表面積で除した地盤毎単位支持力を求める、地盤毎単位支持力算出手段と、この地盤毎単位支持力を該当する地盤の種類に応じた換算値で除して得た値を、当該杭の該当する種類の地盤に対する地盤毎支持力係数とする、地盤毎支持力係数算出手段と、を備えたことを特徴とするテーパ杭の支持力係数計算装置。
【0012】
〈構成6〉
地盤にほぼ垂直に貫入され、地盤の種類毎に、杭頭から杭先端に向かうほど外径が縮小するテーパ杭の特性を求めるためのものであって、構成2に記載のテーパ杭の支持力係数計算装置により求めた地盤毎支持力係数と、地盤の種類に応じた換算値とを記憶する記憶手段と、前記杭を貫入する地盤の構造を示す情報のうち、杭の全長に渡って杭の側面の各部に接する地盤の種類を示すデータを入力する地盤データ入力手段と、前記杭の側面に接する地盤の種類に応じて杭の全長を区分し、同種の地盤に接する区分の表面積の総和と、該当する地盤の前記種類に応じた換算値と、前記該当する種類の地盤に対する前記地盤毎支持力係数との積を、全ての種類の地盤について求めてから合計することで、当該杭の当該地盤における極限鉛直支持力を得る極限鉛直支持力算出手段とを備えたことを特徴とするテーパ杭の支持力計算装置。
【0013】
〈構成7〉
コンピュータを、構成6に記載の各手段として機能させるテーパ杭の支持力計算プログラム。
【0014】
〈構成8〉
コンピュータを、構成6に記載の各手段として機能させるテーパ杭の支持力計算プログラムを記録したコンピュータで読み取り可能な記録媒体。
【発明の効果】
【0015】
〈構成1の効果〉
テーパ杭の支持力は、杭の側面に対する地盤の支持力と側面と地盤との間の摩擦力とを合成したものになる。これを直接計算するには複雑な演算が必要になる。実際にテーパ杭の各部の支持力を測定し、地盤の種類との関係を考慮して地盤毎支持力係数を求めておけば、任意の構造の地盤に対してテーパ杭を貫入したときの極限鉛直支持力を、既知の換算値を使用して計算できる。
〈構成2の効果〉
杭頭から杭先端まで様々な割合で外径を順次縮小させるテーパ杭についてこの装置が適用できる。
〈構成3の効果〉
全体に均一な地盤に貫入する場合でも、複雑な地層に分かれた地盤に貫入する場合でもこの装置が適用できる。
〈構成4の効果〉
地盤の種類に応じた換算値と、前記該当する種類の地盤に対する地盤毎支持力係数と安全率との積を求めることにより、信頼性の高い極限鉛直支持力の計算ができる。
〈構成5の効果〉
任意のテーパ杭について、任意の地盤に対する極限鉛直支持力を得るための地盤毎支持力係数を、所定の試験結果を入力することにより自動的に算出できる。
〈構成6の効果〉
各テーパ杭について地盤毎支持力係数が求められていれば、任意の構造の地盤について、そのテーパ杭の極限鉛直支持力を自動的に計算できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例1のテーパ杭の支持力計算装置を示すブロック図である。
【図2】地盤構造と杭の関係を説明する説明図である。
【図3】テーパ杭の支持力の説明図である。
【図4】本発明の装置の計算原理の説明図である。
【図5】杭データの内容例説明図である。
【図6】地盤データの内容例説明図である。
【図7】(a)は地盤毎支持力係数の計算操作画面の説明図、(b)は極限鉛直支持力の計算操作画面の説明図である。
【図8】地盤毎支持力係数を計算プログラム動作フローチャートである。
【図9】地盤毎支持力係数を使用した極限鉛直支持力の計算プログラムフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を実施例毎に詳細に説明する。
【実施例1】
【0018】
図1は実施例1のテーパ杭の支持力計算装置を示すブロック図である。
図に示したテーパ杭の支持力計算装置10は、地盤毎支持力係数の計算と極限鉛直支持力の計算の両方の機能を持つ装置である。はじめに、この装置を用いて、図の右上に示したような、地盤12にほぼ垂直に貫入され、杭頭から杭先端に向かうほど外径が縮小するテーパ杭14の地盤毎支持力係数を求める。その後、このテーパ杭14を任意の地盤に打ち込んだ場合の極限鉛直支持力を、計算によって自動的に算出する。この実施例では、いずれの計算も、図のコンピュータ11により実行する。もちろん、それぞれ別々のコンピュータで計算をしても構わない。
【0019】
図の右上に示した加圧装置13は、例えば、地面に固定した油圧式のプレスである。この加圧装置13は、図のような状態まで地盤12に貫入したテーパ杭14に対して、杭頭から杭先端に向って、支持耐力を越える荷重を加える。テーパ杭14を貫入した地盤12は、図の例では4層の地層に分かれている。この杭14の側面に接した地盤の種類に応じて杭の全長を4個に区分する。そして、後で説明するように、区分毎に支持力の計算をする。
【0020】
杭14は、加圧装置13による荷重で圧縮力を受けて歪む。各区分の側面には、各区分毎の垂直方向の歪み量を測定する歪み検出装置15を取り付けている。支持耐力を越える荷重が加わったとき、即ち、テーパ杭14がわずかに動きだすまで加圧して、動き出した直後に、各区分の歪み量を検出する。各歪み検出装置15の出力をコンピュータ11に入力する。コンピュータ11と歪み検出装置15とを直接接続してデータを入力してもよいし、測定終了後に、データをまとめて転送して入力しても構わない。
【0021】
図のコンピュータ11は、演算処理装置40と記憶装置20を備える。コンピュータ11は、コンピュータプログラムを実行することにより、所定のタイミングで、演算処理装置40の部分に列挙した手段として機能する。コンピュータ11は、このコンピュータプログラムの実行中に、記憶装置20を使用して、予め記憶された必要なデータを読み取る。またあるいは、演算処理中に得られたデータを記憶装置20に書き込んで記憶させる。
【0022】
記憶装置20には、図のように、杭データ21、地盤データ22、歪み検出値23、部分支持力24、地盤毎単位支持力25、地盤毎支持力係数26、換算値27、極限鉛直支持力28、安全率29等のデータが記憶される。また、演算処理装置40には、加圧制御手段41、歪み検出値取得手段42、部分支持力算出手段43、地盤毎単位支持力算出手段44、地盤毎支持力係数算出手段45、地盤データ入力手段46、極限鉛直支持力算出手段47等のコンピュータプログラムがインストールされている。地盤データ入力手段46と極限鉛直支持力算出手段47とは、極限鉛直支持力28の計算を実行する。それ以外の手段は地盤毎支持力係数26の計算を実行する。
【0023】
次に、上記の演算処理装置40における各手段の各機能を説明する。
加圧制御手段41は、例えば、コンピュータ11で加圧装置13の加圧動作を制御するときに、圧力の設定や加圧の開始と終了動作を制御する機能を持つ。歪み検出値取得手段42は、支持耐力を越える荷重が加わったタイミングで歪み検出装置15の測定した歪み検出値23を読み取って、記憶装置20に記憶させる機能を持つ。加圧制御手段41と歪み検出値取得手段42は、テーパ杭の支持力計算装置10とは別体のコンピュータに設けて、測定用の現場に持ち込むことができる。
【0024】
部分支持力算出手段43は、歪み検出装置15の測定した歪み検出値23から各区分に加わる部分支持力24を求める演算を実行する機能を持つ。地盤毎単位支持力算出手段44は、部分支持力24を、該当する区分の表面積で除した地盤毎単位支持力25を求める演算を実行する機能を持つ。地盤毎支持力係数算出手段45は、この地盤毎単位支持力25を該当する地盤の種類に応じた換算値27で除して、地盤毎支持力係数26を求める演算を実行する機能を持つ。
【0025】
地盤データ入力手段46は、テーパ杭を使用する建物の建設予定地の地盤調査結果から得られた地盤データ22の入力を受け付ける機能を持つ。極限鉛直支持力算出手段47は、杭の側面に接する地盤の種類に応じて杭の全長を区分し、同種の地盤に接する区分の表面積の総和と、該当する地盤の種類に応じた換算値と、前記該当する種類の地盤に対する地盤毎支持力係数との積を、全ての種類の地盤について求める機能を持つ。極限鉛直支持力算出手段47は、これらを合計することで、当該杭の当該地盤における極限鉛直支持力を得る。
【0026】
図2は地盤構造と杭の関係を説明する説明図である。
図のテーパ杭14は、4層の種類の異なる地盤12にその側面を接している。杭頭16から杭先端17に向かって順に、砂質土、粘性土、砂質土、粘性土というように地層が重なり合っている。従来では、地盤の支持力計算をする上で、地盤の質を大きく二種類に分類している。従って、ここでも、テーパ杭14の側面18が2種類の層に交互に接しているものを例に挙げた。しかしながら、地盤の側面に加わる支持力を重視するテーパ杭については、地盤をその性質に応じてより多くの種類に分類して取り扱って構わない。
【0027】
図3は、テーパ杭の支持力と本発明で定義した支持力係数との関係の説明図である。
図の(a)と(b)はいずれも、テーパ杭の側面の一部に接する地盤がテーパ杭に作用する力を示している。図の(a)に示すように、杭の側面18にはその面に垂直に地盤による側圧48が加わっている。その水平成分49はテーパ杭の軸に向かって全周について均等に加わる力だから相殺される。
【0028】
一方、側圧48の垂直成分54は、テーパ杭の支持力として作用する。これは、既存の全長にわたって均一な外径の杭では生じない力である。しかも、杭を地盤12に打ち込むと、その楔効果によって地盤12を硬く締め付ける作用があり、側圧48が高まる。さらに、杭頭16から杭先端17に向かって荷重が加わると、反力として垂直成分54が増大する。従って、この地盤の側圧48の垂直成分54は、テーパ杭の性能に大きく寄与する。
【0029】
一方、図の(b)は、テーパ杭と地盤12との間の摩擦力に起因する支持力を示す。テーパ杭と地盤12との間の摩擦力52は、杭の側面18に沿って上方に働く。その水平成分55はテーパ杭の軸に向かって全周について均等に加わる力だから相殺される。垂直成分56はテーパ杭の支持力として作用する。全長にわたって均一な外径の杭では、杭頭16から杭先端17に向かって荷重が加わると、杭の側面に接している地盤を壊すから、側圧が弱まる場合もある。同時に摩擦力も弱まる場合がある。しかしながら、テーパ杭では、上記のように側圧48を高める作用があるから、摩擦力52も側圧48の増大に伴って増大する。
【0030】
以上のことから、全長にわたって均一な外径の杭は、その先端が地盤に支えられる反力が支持力として重視され、側面の摩擦力による支持力は重視されていない。全長にわたって均一な外径の杭の摩擦杭としての支持力計算には、既知の下記の式が用いられている。
Ru=Rp+Rf
Ru:杭極限支持力、Rp:杭先端極限抵抗力、Rf:杭周面極限摩擦力
ここで、Rpは、杭先端直下の地盤の硬さと杭先端の面積により計算される。また、Rfは既に説明したように、杭の側圧と杭の側面の面積により計算される。全長にわたって均一な外径の杭はRpに依存する割合が高い。先端付近の地盤が硬ければ十分な支持力が期待できる。
【0031】
一方テーパ杭では、例えば、杭頭外径が200mm、杭先端外径が100mmとすると、杭頭の断面積が杭先端の断面積の4倍ある。杭の真下から見上げたときに、杭先端とは別に、杭先端の3倍の面積の側面が地盤に下から支えられていることになる。このようなテーパ杭の側面と地盤との関係で生じる支持力を、テーパ杭の構造から簡単に計算できるようにしておくことが、テーパ杭の設計を容易にし、かつ、テーパ杭を使用した建物の基礎設計を容易にする。もちろん、テーパ杭で、杭の先端が地盤に支えられる力が大きければRpを単純加算すればよい。
【0032】
図4は、本発明の装置の計算原理の説明図である。
この発明では、既に説明したように、杭の側面に接した地盤の種類に応じて、杭の全長を区分する。図1で示した例では、杭を4個に区分している。図4の左側には、その各区分に対して、上方から加わる荷重と支持力の関係を示した。図1に示したようにテーパ杭14に、杭頭から杭先端に向って、荷重を加えたとき、各区分にはそれぞれ歪みが生じる。上方から加える荷重を増加していったとき、支持耐力を越える荷重を越えたときに、杭が動いて荷重の上昇カーブが緩やかになり横ばいになる。そのタイミングで歪み値を測定するとよい。
【0033】
一番上の一番外径の大きな区分には、加圧装置13(図1)による荷重が全て加わる。その荷重の大きさを、図4中の太い矢印で図示した。この一番上の区分で、地盤によりf1の荷重を支えるので、上から2番目の区分には、f1を差し引いた荷重が加わる。上から2番目の区分もf2の荷重を支えるので、上から3番目の区分には、さらにf2だけ小さい荷重が加わる。上から3番目の区分もf3の荷重を支えるので、上から4番目の区分には、f3だけ小さい荷重が加わる。上から4番目の区分はf4の荷重を支える。上から順番に、各区分に加わる荷重を表すと、図のように、f4+f3+f2+f1、f4+f3+f2、f4+f3、f4となる。いずれも単位はkN(キロニュートン)で表す。
【0034】
以上の関係から、区分毎の部分支持力f1、f2、f3、f4を算出することができる。ここで、これらの部分支持力は、各区分の表面積に強く依存している。従って、例えば、f1はk1とs1の積で表しても、実際とよく一致する。このk1を、地盤毎単位支持力と呼ぶことにする。区分毎の単位面積あたりの支持力である。摩擦のみでこの支持力が生じているならば、k1は土圧と摩擦係数の積に相当する。しかし、テーパ杭の部分支持力は、図3で説明したとおり、各区分毎に、側面に対する地盤の支持力の垂直成分と側面と地盤との間の摩擦力の垂直成分とを合成したものである。
【0035】
地盤毎単位支持力は、テーパ杭の構造と地盤の性質の双方に大きく依存する。従って、図4の下部に示したように、上記の地盤毎単位支持力k(k1〜k4)を、テーパ杭の構造により定まる地盤毎支持力係数Aと地盤の種類によって定まる換算値Mとに分解した。即ち、k=A・Mという関係になる。なお、Aは、テーパ杭の構造だけでなく、地盤との接触面の摩擦係数も関係するので、同じ構造の杭であっても、接触する地盤毎に異なる値になる。
【0036】
従来、小規模住宅の建設地の地盤支持力(硬さ)を求めるためにスウェーデン式サウンディング試験という方法が採用されている。その結果は基礎の設計計算に使用される。本発明では、地盤の種類によって定まる換算値を、このスウェーデン式サウンディング試験により求めることにする。そして、地盤毎支持力係数Aはテーパ杭毎の固有のパラメータとして、杭データに追加しておく。
【0037】
図5は杭データの内容説明図である。
上記の原理に基づいて、図1に示した加圧装置13による試験をして、テーパ杭について、図のようなデータを得る。図5に示すように、テーパ杭14は、その杭長と杭頭外径と杭先端外径により、その外形が特定される。
【0038】
この杭について、本発明のテーパ杭の支持力計算装置10により算出した地盤毎支持力係数を、杭の特性データに含める。例えば、図のように、地盤毎支持力係数は、砂質土と接している場合と粘性土と接している場合とで異なる。従って、新たに設計される杭毎に、想定される地盤の種類毎に、それぞれ地盤毎支持力係数を求めて特性データに加えておく。これにより、その杭を様々な構成の地盤に使用したときの極限鉛直支持力を、自動的に算出して予測することができる。
【0039】
なお、本発明のテーパ杭の支持力計算装置10を利用するのに適するテーパ杭は、全長が10m未満、好ましくは2〜8m、杭頭外径は200mm程度、好ましくは100mm〜300mm、杭先端外径は100mm程度、好ましくは50mm〜200mmの鋼管を使用した小規模建物用のものである。鋼管の肉厚は4〜8mm程度のもので、プレス加工や温間スピニング加工によりテーパ形状を実現するとよい。鋼管の表面状態は均一だから、地盤との接触面で作用する力にもばらつきが少なく、上記のような近似的な計算で、良く実情にあった設計が可能である。
【0040】
なお、上記の例では、杭頭から杭先端に至るまで、一定の割合で外径が縮小する構造のテーパ杭を例示した。しかしながら、外径が縮小する割合が、長手方向に見て各部で相違するようなものでも構わない。図4のテーパ杭の一番上の区分と上から3番目の区分の接する地盤の性質が同じであれば、k1とk3とはほぼ同じ値になる。誤差が大きいのでばらつきが激しいが、理論的には一致する。従って、例えば、k1とk3の平均値をとってから、地盤毎支持力係数を求めるようにするとよい。また、外径が縮小する割合が異なる部分については、それぞれ個別に地盤毎支持力係数を求めるようにするとよい。
【0041】
図6は地盤データの内容説明図である。
地盤データは、上記の計算に必要な、地盤の種類に応じた換算値を含む。もちろん,建設地のボーリングにより得た地層構造もこのデータに含めるとよい。これにより、テーパ杭の全長を区分して、上記のような地盤毎支持力係数を求める計算ができる。
【0042】
次に、地盤毎支持力係数を加えた図5に示した杭データと、図6に示した地盤データを使用して、極限鉛直支持力計算をすることができる。即ち、地盤毎支持力係数を求めておいたテーパ杭を、地盤構造を確認した所定の地盤に貫入するものとする。その場合の極限鉛直支持力を計算により推定して、設計に役立てることができる。はじめに、図4で説明した要領で、杭の側面に接する地盤の種類に応じて杭の全長を区分する。次に、同種の地盤に接する区分の表面積の総和を求める。例えば、図4で言えば、テーパ杭の一番上の区分と上から3番目の区分の接する地盤の性質が同じであれば、s1とs2を加算する。そして、杭データからその地盤に対する地盤毎支持力係数を読み出し、地盤データから該当する地盤の種類に応じた換算値を読み出す。
【0043】
こうして、区分の表面積の総和と地盤の種類に応じた換算値と該当する種類の地盤に対する地盤毎支持力係数との積を求める。そうすれば、一番上の区分と上から3番目の区分による合算支持力が算出できる。別の地盤と接する区分についても同様の計算をする。そして、これらの支持力を全ての種類の地盤について求めてから合計する。これで、当該杭の当該地盤における極限鉛直支持力を得る。
【0044】
図7(a)は地盤毎支持力係数の計算画面の説明図、(b)は極限鉛直支持力計算画面の説明図である。
例えば、図1に示したコンピュータ11に図の(a)の制御画面60を表示する。この制御画面60に、加圧装置13による加圧荷重57と、歪み検出装置15による歪み検出値23とが表示されている。加圧試験が終わって、その結果得られたデータが表示されているものとする。これらのデータの下に、加圧試験での地盤データ22が表示されている。これらのデータが入力されると、自動的に地盤毎支持力係数26が算出されて表示される。一番下には、加圧試験をした杭データ21が表示されている。
【0045】
利用者はこの制御画面60に表示された結果を確認する。問題なしと判断すれば、登録ボタン62をクリックする。これにより、該当するテーパ杭の杭データ21に地盤毎支持力係数26が追加される。即ち、このように簡単に、任意のテーパ杭14について、任意の地盤についての極限鉛直支持力を得るための地盤毎支持力係数を、所定の試験により自動的に求めることができる。
【0046】
その後は、図7(b)に示すような制御画面61を使用する。杭データ21には、既にコンピュータに地盤毎支持力係数を含めて登録済みのデータを使用する。地盤データ22は、そのテーパ杭を打ち込む地盤の地質調査の結果に基づいて作成され入力される。これらのデータ入力作業は手作業でも構わない。この準備をした状態で計算ボタン63をクリックすると、極限鉛直支持力28が計算されてその結果が表示される。
【実施例2】
【0047】
図8は、地盤支持力係数を求めるための装置のプログラム動作フローチャートである。
このプログラムを開始する前に、図1に示した加圧制御手段41により加圧装置13を制御して、テーパ杭14に荷重を加え、歪み検出装置15を用いて歪み量の測定をしておくものとする。その結果は、記憶装置20に記憶されている。それから、図1に示したコンピュータ11で地盤毎支持力係数26を求める。まず、ステップS11で、図5で説明した杭データ21を記憶装置20から読み取る。地盤毎支持力係数26がまだ登録されていないテーパ杭の構造データである。ステップS12では、図6で説明した地盤データを記憶装置20から読み取る。これらの処理は部分支持力算出手段43が実行する。
【0048】
さらに、部分支持力算出手段43は、ステップS13で、杭の区分データを算出する。どこからどこまでが、どの種類の地盤に接しているかを対応付ける。部分支持力算出手段43は、続いて、ステップS14で、記憶装置20の歪み検出値23を読み取り、測定済みの区分毎の歪み量を取得する。そして、ステップS15で、区分毎の部分支持力24を算出する。これは図4を用いて説明したとおりの手順である。
【0049】
今度は地盤毎単位支持力算出手段44が、ステップS16で、区分毎の表面積を算出する。ステップS17では、地盤毎単位支持力25の算出をする。これも図4で説明した手順である。次に、地盤毎支持力係数算出手段45が、ステップS18で、記憶装置20から地盤の換算値27を読み取る。そして、地盤毎支持力係数算出手段45は、ステップS19で、地盤毎支持力係数26の算出をする。ステップS20では、地盤毎支持力係数算出手段45が図7に示した制御画面60を利用して、算出結果の表示をする。地盤毎支持力係数算出手段45が、ステップS21で、制御画面60の登録ボタン62がクリックされたことを認識して、登録指示の受付をする。その結果、地盤毎支持力係数算出手段45は、ステップS22で、地盤毎支持力係数26を杭データ21に追加する登録処理を実行する。
【0050】
図9は、地盤毎支持力係数を使用した極限鉛直支持力の計算プログラムフローチャートである。
この処理も、図1に示したコンピュータ11で実行する例を説明する。ステップS31では、極限鉛直支持力算出手段47が、既に地盤毎支持力係数26を登録した杭データ21を記憶装置20から読み取って取得する。次に、地盤データ入力手段46が、ステップS32で、地盤データ22を記憶装置20から読み取って取得する。その後、極限鉛直支持力算出手段47は、ステップS33で、杭の区分データの算出をする。これは、図8ステップS13と同様の処理である。さらに、ステップS34で、区分毎の表面積の算出と集計をする。同一の種類の地盤に接する区分の計算をまとめるためである。もちろん区分毎に別々に計算しても構わない。
【0051】
極限鉛直支持力算出手段47は、ステップS35で、地盤の換算値27を取得する。さらに、ステップS36で、杭データ21に含まれた地盤毎支持力係数の取得をする。いずれも、記憶装置20から読み取ればよい。そして、既に説明した要領で、ステップS37で、地盤毎支持力の算出をし、全ての区分についてこれを集計する。ステップS38では、記憶装置20から安全率29を読み出して取得する。そして、ステップS39で、ステップS37の集計結果との積を求める。安全率は例えば、85%とする。こうして極限鉛直支持力の算出をする。なお、測定精度が十分に高ければ安全率を考慮する必要はない。
【0052】
以上のように、各テーパ杭14について、地盤毎支持力係数26が求められていれば、任意の構造の地盤について、そのテーパ杭14の極限鉛直支持力28を自動的に計算できる。なお、上記の計算は、テーパ杭を全体に均一な地盤に貫入する場合でも、複雑な地層に分かれた地盤に貫入する場合でも適用できることはいうまでもない。
【0053】
なお、上記の演算処理装置で実行されるコンピュータプログラムは、機能ブロックで図示した単位でモジュール化されてもよいし、複数の機能ブロックを組み合わせて一体化されてもよい。また、上記のコンピュータプログラムは、既存のアプリケーションプログラムに組み込んで使用してもよい。本発明を実現するためのコンピュータプログラムは、例えばCD−ROMのようなコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録して、任意の情報処理装置にインストールして利用することができる。
【符号の説明】
【0054】
10 テーパ杭の支持力計算装置
11 コンピュータ
12 地盤
13 加圧装置
14 テーパ杭
15 歪み検出装置
16 杭頭
17 杭先端
18 杭の側面
20 記憶装置
21 杭データ
22 地盤データ
23 歪み検出値
24 部分支持力
25 地盤毎単位支持力
26 地盤毎支持力係数
27 換算値
28 極限鉛直支持力
29 安全率
40 演算処理装置
41 加圧制御手段
42 歪み検出値取得手段
43 部分支持力算出手段
44 地盤毎単位支持力算出手段
45 地盤毎支持力係数算出手段
46 地盤データ入力手段
47 極限鉛直支持力算出手段
48 側圧
49 水平成分
52 地盤との摩擦力
54 垂直成分
56 摩擦力の垂直成分
57 加圧荷重
60 制御画面
61 制御画面
62 登録ボタン
63 計算ボタン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤にほぼ垂直に貫入され、杭頭から杭先端に向かうほど外径が縮小するテーパ杭の特性を求めるためのものであって、
前記杭の側面に接した地盤の種類に応じて杭の全長を区分して、各区分毎に、前記側面に対する地盤の支持力の垂直成分と前記側面と地盤との間の摩擦力の垂直成分とを合成したものを部分支持力というとき、
前記地盤に貫入した前記杭に対して、前記杭頭から前記杭先端に向って、支持耐力を越える荷重を加えて、前記各区分毎の垂直方向の歪み量を測定し、この歪み量から各区分に加わる前記部分支持力を求め、
前記部分支持力を、該当する区分の表面積で除した地盤毎単位支持力を求め、
この地盤毎単位支持力を該当する地盤の種類に応じた換算値で除して得た値を、当該杭の該当する種類の地盤に対する地盤毎支持力係数とし、
前記杭を任意の地盤に貫入するものとしたときに、
予め測定した地盤構造から、
杭の側面に接する地盤の種類に応じて杭の全長を区分し、
同種の地盤に接する区分の表面積の総和と、該当する地盤の種類に応じた換算値と、前記該当する種類の地盤に対する地盤毎支持力係数との積を、全ての種類の地盤について求めてから合計することで、当該杭の当該地盤における極限鉛直支持力を得ることを特徴とするテーパ杭の支持力計算方法。
【請求項2】
請求項1に記載のテーパ杭の支持力計算方法において、
杭頭から杭先端まで一定の割合で外径が縮小するテーパ杭、もしくは、杭頭から杭先端まで外径が縮小する割合を部分的に変化させるテーパ杭の特性を求めるためのものであることを特徴とするテーパ杭の支持力計算方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のテーパ杭の支持力計算方法において、
杭頭から杭先端まで全長に渡って一種類の地盤に側面を接する場合もしくは、杭頭から杭先端まで2種以上の地盤に接する場合に、そのテーパ杭の特性を求めるためのものであることを特徴とするテーパ杭の支持力計算方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載のテーパ杭の支持力計算方法において、
前記杭の前記地盤における極限鉛直支持力には、一定の安全率が積算されていることを特徴とするテーパ杭の支持力計算方法。
【請求項5】
地盤にほぼ垂直に貫入され、杭頭から杭先端に向かうほど外径が縮小するテーパ杭の特性を求めるためのものであって、
前記杭の側面に接した地盤の種類に応じて杭の全長を区分して、各区分毎に、前記側面に対する地盤の支持力の垂直成分と前記側面と地盤との間の摩擦力の垂直成分とを合成したものを部分支持力というとき、
前記地盤に貫入した前記杭に対して、前記杭頭から前記杭先端に向って、支持耐力を越える荷重を加える加圧装置と、
前記各区分毎の垂直方向の歪み量を測定する歪み検出装置と、
この歪み量から各区分に加わる前記部分支持力を求める部分支持力算出手段と、
前記部分支持力を、該当する区分の表面積で除した地盤毎単位支持力を求める、地盤毎単位支持力算出手段と、
この地盤毎単位支持力を該当する地盤の種類に応じた換算値で除して得た値を、当該杭の該当する種類の地盤に対する地盤毎支持力係数とする、地盤毎支持力係数算出手段と、
を備えたことを特徴とするテーパ杭の支持力係数計算装置。
【請求項6】
地盤にほぼ垂直に貫入され、地盤の種類毎に、杭頭から杭先端に向かうほど外径が縮小するテーパ杭の特性を求めるためのものであって、
請求項2に記載のテーパ杭の支持力係数計算装置により求めた地盤毎支持力係数と、地盤の種類に応じた換算値とを記憶する記憶手段と、
前記杭を貫入する地盤の構造を示す情報のうち、杭の全長に渡って杭の側面の各部に接する地盤の種類を示すデータを入力する地盤データ入力手段と、
前記杭の側面に接する地盤の種類に応じて杭の全長を区分し、同種の地盤に接する区分の表面積の総和と、該当する地盤の前記種類に応じた換算値と、前記該当する種類の地盤に対する前記地盤毎支持力係数との積を、全ての種類の地盤について求めてから合計することで、当該杭の当該地盤における極限鉛直支持力を得る極限鉛直支持力算出手段とを備えたことを特徴とするテーパ杭の支持力計算装置。
【請求項7】
コンピュータを、請求項6に記載の各手段として機能させるテーパ杭の支持力計算プログラム。
【請求項8】
コンピュータを、請求項6に記載の各手段として機能させるテーパ杭の支持力計算プログラムを記録したコンピュータで読み取り可能な記録媒体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2011−111861(P2011−111861A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−271817(P2009−271817)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【出願人】(000183428)住友林業株式会社 (540)
【Fターム(参考)】